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( ^ω^)優しい衛兵と冷たい王女のようですζ(゚ー゚*ζ 第十八話

115 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/19(日) 00:04:17 ID:29LFM3/20
「栄枯盛衰、でございます」

 喧噪の中なのに、その老人の言葉は不思議とよくニュッ君の耳に留まった。

 ここは道半ばにぽつんと佇むこの宿屋の宴会場だ。
 広間の中央には樽酒が詰まれており、自身のある者たちが次々と蓋を開けている。
 町と町の間で日暮れを迎えた旅人たちが大勢集まっていた。
 
( ^ν^)「いきなりなんだよ、じいさん。俺、あんたと話してた覚えないけど」

「これは失礼。外の城が気になっていらっしゃるようでしたから、つい」

 木枠で囲まれた硝子の向こうには夜の森が広がっている。
 さらにその奥の山沿いに、月明かりに照らされた城が見えていた。

 高い塀の奥に、二、三の塔。
 その塔に囲まれるようにして、四角いパーツを組み合わせた積み木のような城が建っている。

「メティス城。かつてのこの町の中心地でございます」

 語る老人の後ろから、一人の影が近づいてきた。

116 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/19(日) 00:05:03 ID:29LFM3/20
(*)^ω^)「くぁふて?」
( っ皿o)

( ^ν^)「ブーンさん、喋るのは食べてからにしましょうよ」

(*)^ω^)「ふぉお」
( っ皿o)

 片手に山盛り詰まれていたこま切れ肉をを吸い込むように片付けると、ブーンは満足げに息をついた。

(*)^ω^)「いやあ、並べられているとつい手が伸びちゃうね。で、かつてというと、メティス城は昔の首都だったのですか」

「数年前の話でございますよ」

 黄色い歯をニッと見せると、老人は窓枠に寄りかかった。若干軋む音がする。
 代わりにニュッ君は窓枠から離れ、ブーンの横に立った。
 皿にこびりついた切れ端に手を伸ばしてブーンに即座に手を叩かれた。

117 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/19(日) 00:06:02 ID:29LFM3/20
「数年前、ラスティア城の城主ショボンと、その王女デレ、および側近を招いて宴会を開いたそうな。
 その折りに王女が魔人に襲われる事件が起きた。王女は何とか一名を取り留め、激昂したショボン王はメティス城に賠償を請求した。
 事件の原因を解明出来なかったメティス城は、国内の有力者に頭を下げてお金を工面した。
 その中で一番の有力だったのがメティス国教会でございます。
 以来この国では教会と国王の地位が反転し、首都も教会の本部があるエウリドメへと移り変わったわけでございます」

( ^ν^)「事件よりも前から、俺が物心ついたときから力関係は出来上がっていたよ。
      古い権力が健在であることを示そうとしたパーティが原因で責められたんだ。
      それ以来、城なんざ誰も見向きもしなくなってたね」

 ニュッ君はそう付け加えた。

 窓の外に聳える城からはわずかに光が漏れている。
 それでも月明かりの方がいくらか強く、霞んでしまっていた。

( ^ν^)「ところで、ブーンはラスティア出身なんだろう。この話は聞き覚えないのか?」

 ラスティア国王とその王女。その側近。
 確かに実際に起きた事件であれば、断片くらいは国民に知れ渡っていそうなものだ。

 ブーンは申し訳なさそうに目を伏せた。

118 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/19(日) 00:07:02 ID:29LFM3/20
( 'ω`)「残念だけど、やっぱり何にも覚えていないよ」

( ^ν^)「そっか」

 記憶の無いブーンに向けて、ニュッ君の顔が暗くなる。

( ^ω^)「まあ、今ここで知れたんだからいいってことにしようよ」

 ニュッ君の肩を軽く叩くと、ブーンは宴会の中央へ足を向けた。

( ^ν^)「まだ食べるのか」

(*^ω^)「そりゃもう、そこに食べ物があるんだから」

 大股で向かって行くブーンの背中がぐいぐい遠ざかっていく。

119 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/19(日) 00:08:02 ID:29LFM3/20
「かつての首都が衰えて、新しい首都が栄える。世はこの繰り返しなのです」

( ^ν^)「じいさん、せっかくの聞き手は行っちゃったけど」

「独り言ですよ。世の移ろいを見つめるのはまことに楽しいものなので」

( ^ν^)「はあ」

「時に旅人さん、この栄枯盛衰の世の中で、衰えを知らない者のあることをご存じかな?」

 老人の目がきらりと光り、ニュッ君へと視線が注がれた。

( ^ν^)「衰えを知らない……自然とか?」

「いやいや、れっきとした生き物で、ですよ」

( ^ν^)ゞ「さあて、なんだろ。わかんねえ」

120 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/19(日) 00:09:02 ID:29LFM3/20
 頭を掻いたニュッ君を老人は目を弧にして見つめていた。

「その生き物の象徴を私は持っているのです」

 ああ、とニュッ君は口から零した。

( ^ν^)「売ろうってんなら、止めておきな。無駄な金を使う気はねえから」

「とんでもございません。ただ、見せたくなっただけですよ」

 老人は手を大きく横に振り、それから自分の鞄に手をかけた。
 極端に少ない荷物の中から、するするとそれが出てくる。

「ただの自慢でございます」

( ^ν^)「ほう、これは」

 月明かりが差込むわけでもないのに、それは青みを帯びた綺麗な白に際立っていた。





     ☆     ☆     ☆

121 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/19(日) 00:10:02 ID:29LFM3/20





第十八話

蛇の町 (冬月逍遙篇③)





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122 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/19(日) 00:11:03 ID:29LFM3/20
 宿屋から歩いて小一時間の距離に、次の町パシテーはあった。
 川沿いに広がる湿原の町だ。

( ^ω^)「やれやれ、君には失望したよ」

 門を潜ってすぐの場所にある広場にて、周りの景色をしっかり見つめて、ブーンは溜息交じりに言った。

( ^ω^)「レアものだかなんだか知らないけれど、酒の席にいた客につられて意気揚々と買っちゃうんだから、おめでたい話だね」

( ^ν^)「何度もうるせえよ。朝から同じこと言いやがって」

 苛立つニュッ君は、腕に巻いた白い布を振りかざした。
 下半分が蛇の体、上半分が人の体という、風変わりな生き物の皮だ。
 ブーンはそれを丁重に払いのけた。

( ^ν^)「蛇型の魔人なんて、俺は見たこと無かった。だから珍しいと思ったんだ」

( ^ω^)「そうはいっても、途中でも怪しいと思っただろう? パシテーからやってくる人たちがみんなそれを持っていたんだから」

( ^ν^)「そうだな……この町にいる人からすれば、ありふれたものだったみたいだな」

123 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/19(日) 00:12:08 ID:29LFM3/20
 見渡す限り、ざっと何十人もの人が街道を歩いている。
 そのうちほとんど全員が皮を携えていた。
 鞄の持っている人、首や腰に巻いている人、手の甲に巻いている人、扱い方は様々だ。

「見ろよ、これ。昨日買ったんだぜ」

「おお、レアものですな」

「そうだろう、そうだろう」

 道行く人の会話から耳に入ってきた。

 ニュッ君が本当に苦痛そうに顔を顰める。

( ^ω^)「蛇の魔人、か」

 見かねたブーンが上を向いて呟いた。
 門の真上にとぐろを巻く蛇のモニュメント。
 下半身が蛇であり、上半身が人の姿をしている。

124 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/19(日) 00:13:05 ID:29LFM3/20
( ^ω^)「この町には古くから続く魔人の名家が住んでいるらしいんだ。
      この人たちが作り出す皮は、その神からもたらされる恩恵とされているんだとさ」

( ^ν^)「皮が恩恵?」

( ^ω^)「御利益があるとか、そういうことかな」

( ^ν^)「ほう。というか、どこでその話聞いたんだ」

( ^ω^)「昨日の宴会で」

( ^ν^)「おい」

(*^ω^)「いやあ、飲み過ぎちゃってめんどくさくて。でもそれは置いといてだよ」

 にっと笑っていたと思ったら、急に真顔になってニュッ君を見つめた。

( ^ω^)「君はその皮をどうやって買ったのかな」

( ^ν^)「え? そりゃ、もちろんお金を出して……」

125 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/19(日) 00:14:03 ID:29LFM3/20
 言葉の途中で、ニュッ君は口元を手で押さえた。

( ^ω^)「僕らの所持金は旅のための合資とする。旅に出た最初に日にお互いで決めたことだよね」

(;^ν^)「待って」

 ブーンの話を遮る形でニュッ君は咄嗟に手を突き出した。
 顔には珍しく焦りの色が浮かんでいた。

(;^ν^)「俺の金の範囲内で十分買えたはずだ。なにも旅行資金を着服したわけじゃない」

「いや、グレーだよ。合資したんだから、そのお金をどう使うかは話し合って決めるべきだ」

(;^ν^)「そこをなんとか」

( ^ω^)「いやいや、お金のことだからね。ここはきっちりさせないと」

 ニュッ君に乾いた一瞥をくれると、ブーンは広場を進んでいった。

(;^ν^)「待ってって」

 ニュッ君はその後をついていく。

126 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/19(日) 00:15:11 ID:29LFM3/20
(;^ν^)「悪かったよ。相談せずにお金を遣ったことは謝る。で、俺はいったいどうすればいいんだ」

( ^ω^)「一番手っ取り早いのは同じ額を稼ぐことだね。日雇いでもいいから仕事をするか、あるいはお金が手に入るような交渉をするか」

(;^ν^)「俺は構わないけど、時間がかかるかもしれないぜ」

( ^ω^)「急いでないから、気長に待つよ」

 肩を竦めて微笑んで、それからブーンはまたニュッ君を見つめた。

( ^ω^)?「で、いったいいくら遣ったんだい」

(;^ν^)「それは」

 ニュッ君の目が宙を泳いでいく。

 ブーンの視線はなかなか離れてくれない。

 どうしようかと困り顔になった矢先に、その声は聞こえてきた。

127 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/19(日) 00:16:43 ID:29LFM3/20
「離してください」

 女性の声だ。

 人混みの奥の奥、広場に高くそびえる時計塔の側で、フード付きのコートを着た人々が集まっていた。
 赤い外套を着たものが三名。黒い外套が一名。状況からして、声を出したのは黒い外套の方だ。

「警察を呼びますよ」

「そんなのもの、無駄だ」

 赤い外套のうちの一人がせせら笑いながら言った。

 黒い外套の裾を掴んだ腕はなかなか離れそうにない。

「無駄な抵抗はやめて大人しくこちらに」

 と、言いかけたところで赤い外套の肩が叩かれた。

( ^ω^)b「もしもーし」

「え?」

128 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/19(日) 00:17:41 ID:29LFM3/20
(#^ω^)「おりゃ」

 事前に掬っておいた砂を顔面に勢いよく振りまいた。

 赤い外套たちが途端に目を閉じ悶絶する。

( ^ω^)σ「君」

 ブーン君は黒い外套に呼びかけた。

「え?」

( ^ω^)「足止め、手伝いますよ」

 黒い外套は狼狽えている。

 迷っているうちにも、赤い外套からまた腕が伸びてくるのをブーンが遮った。

129 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/19(日) 00:18:44 ID:29LFM3/20
「なんだお前」

「邪魔だ、どけ!」

 口々に喚いている赤い外套たちをブーンが笑顔で払いのける。

( ^ω^)「まあまあ、焦らず」

 その後ろで、黒い外套は別の腕に裾を掴まれた。

 ニュッ君である。

( ^ν^)「とりあえずこっちへ」

 有無を言わさず走り出した。

 街道を曲がって別の道へ、人を掻き分け進んでいく。

「どちらに行かれるんですか」

130 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/19(日) 00:19:40 ID:29LFM3/20
( ^ν^)「知らん。とりあえず走っている」

「ええ?」

( ^ν^)「もしも希望があれば調べてみるからよ、好きなように言ってくれよ」

 直感を入り混ぜながらなるべく人に紛れるように道を選んでいった。

「あの、すいません」

 脇道へはいったところで黒い外套が呼びかけてきた。

「どうして助けてくださるんですか」

( ^ν^)「なんだかな、ブーンが勝手に助けるって血相変えて飛び出したからさ」

「さっきの人?」

( ^ν^)「そう。旅人だ。ちょっと変わってる」

 でもまあ信じていいよ、とニュッ君は苦笑いした。

131 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/19(日) 00:20:32 ID:29LFM3/20
「では、あなたはどうして」

( ^ν^)「俺? 俺は……なりゆきで」

 頭を掻いて、一旦前を向いたニュッ君は、「そうだ」と呟いて黒い外套を振り向いた。

( ^ν^)「謝礼がほしい」

「率直ね?」

( ^ν^)「実際お金に困っているんですよ。つい無駄な買い物しちゃって」

 手に巻いた皮をニュッ君は指し示す。

 黒い外套の女性の顔がサッと真顔になった。

132 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/19(日) 00:21:42 ID:29LFM3/20
( ^ν^)「ん、あれ?」

 ニュッ君の目が、皮へと流れる。

 一度だけ開いて確認したそれは、蛇の魔人の女性の形をしていた。

 黒い外套の女性はフードを心持ちおし上げた。

('、`*川「ありがとうございます、買って頂いて」

 笑ってお礼を述べたその顔は、皮の女性とほとんど同じだった。




     ☆     ☆     ☆

133 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/19(日) 00:22:41 ID:29LFM3/20
 道案内は最終的には女性がした。
 風車が三基並んでいる、川辺の薄野に二人は辿り着いた。
 今日みたいなことが起こるとよく逃げ込んでくるのだという。

 近くにぽつんと置かれてあった木製のベンチに腰掛けて、黒いフードを払った。

 長い髪が自由になって広がって、薄い色合いの肌があらわになった。

('、`*川「汗っかきなんです、私」

 鱗の筋がうっすらと見えている。
 彼女の名前はペニサスと言った。

 パシテーの名家であるペニサスの家は、代々続く神官の家系なのだという。
 三百年前、その家系に魔人の血が混じり、直系の親族に蛇の魔人が生まれ始めた。
 以来、魔人を拝する国教会の協力を得て、神官は司祭となり、儀式は教会公認の宗教活動とみなされるようになった。

 蛇の能力を宿した者は家督を相続し、月に一度、町の人々に訓示を言い渡す。
 その際に、家族の中の誰かの抜け殻が選ばれ、広場にある高台から側にいた人々に賜れる。

134 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/19(日) 00:23:41 ID:29LFM3/20
( ^ν^)「なんでそんな伝統ができたんだ」

('、`*川「さあ。生まれたときから続いていました。聖なるものだと扱われているんです」

( ^ν^)「蛇は不老不死だから」

 宿屋で商人に言われた言葉を思い出して、呟いた。

('、`*川「普通に病気にもなるし、死にますけどね」

 ペニサスが微笑みながら言葉を返した。

 家督を継いでいた彼女の母が亡くなったのはつい半月ほど前のことなのだという。

('、`*川「代わりに選ばれたのが私の姉でした。
     姉は母に気に入られていましたし、皮も前々から彼女のものがよく使われていましたから。
     でも、姉も病気持ちで、小屋に籠もったまま滅多に出てこないんです。それで教会の方々も焦ってしまっているみたいで」

135 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/19(日) 00:24:41 ID:29LFM3/20
 ペニサスの視線が遠いところへと向けられる。
 あまり話したくない話題なのかもしれない。
 そう思ったニュッ君は、黙って横に座っていた。

 薄野の向こう側には幅の広い川がゆったりと流れている。
 湿地帯の上に広がるパシテーの町。
 乾いた冬の風も、ここでは湿り気を帯びている。
 夕暮れの滲んだ赤い川面に、気の早い月が浮かんで見えていた。

('、`*川「逃亡も、ここまでみたいですね」

 あくまでも冷静な口調でペニサスが言い、立ち上がった。

 風車のそばに人影が見えた。
 艶やかな赤いローブ。
 国教会聖職者の共通衣服だ。

136 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/19(日) 00:26:11 ID:29LFM3/20
( ^ν^)「あいつらは君の皮を剥ごうとしているんだな」

 合点がいったニュッ君はベンチから離れようとする。

 ペニサスはその肩に触れて抑えた。
 人のものとは違う、冷たい鱗の感触だ。

('、`*川「あなたはそのまま座っていてください。迷惑はかけたくありません」

( ^ν^)「でも」

('、`*川「謝礼なら、明日以降にお支払いします。約束しましょう。私のところへいつでも取り立てに来てください」

 お願いします、とペニサスは言い添えた。
 しばらく間をおいて、迫ってくる足音に急き立てられて、ニュッ君は小さく頷いた。

 ペニサスが頬を緩め、歩んでいく。ニュッ君の背後、風車の方角へ。
 ニュッ君は振り返らなかった。それがペニサスとの約束だった。

 薄野を踏みしめる音が遠くなる。

 耳をそばだてて、彼女がいなくなったと気づいてからも、日が沈み、空に宵の明星の輝く頃まで、ニュッ君は座り続けていた。




     ☆     ☆     ☆

137 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/19(日) 00:27:10 ID:29LFM3/20
 ニュッ君は少しだけ、ブーンの身を案じていた。
 街道に入ってすぐの広場で、ぴんぴんしている彼と再会して、その不安は消し飛んだ。

 国教会聖職者を追い払ったブーンは宿屋に戻り、仮眠さえとって、リラックスした心地でニュッ君を探していたのだという。

 心配するようなことは何も無かった。

( ^ω^)「で、あの子は?」

( ^ν^)「……帰っちまったよ、自分から」

( ^ω^)「あらら」

( ^ν^)「明日また会う。謝礼はそのとき渡すって」

( ^ω^)「結局助けてないけどね」

( ^ν^)「ああ」

 会話はそれで打ち切った。
 食事を取り、風呂に入り、二人同じ部屋に寝た。

 ごくごく普通の、宿での一泊だった。

138 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/19(日) 00:28:11 ID:29LFM3/20
 翌日の朝早く、喧噪によって二人はすぐに目が覚めた。

( -ω-)「外から聞こえる」

 眠たげな目を擦りながら、ブーンが窓の外を眺めた。
 部屋からちょうど道行く人々が見下ろせたのだ。

 町の広場、時計塔の側に人混みのできているのがうかがえた。

( -ω-)「行ってみようか」

( -ν-)「……ん」

 ふらついているニュッ君の腕を引いて、ブーンは身支度を調え外へと出た。

 時計塔の人混みはすさまじく、近づくのも厄介だった。
 喧噪は耳に響いた。怖がっている者、憤っている者、様々だ。

 時計塔の足下に、皮があった。
 司祭の賜る聖なる皮は、顔の一点をナイフで刺されて磔にされていた。




     ☆     ☆     ☆

139 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/19(日) 00:29:11 ID:29LFM3/20
 白亜の教会は丘の上にあった。
 高い尖り屋根が青空を穿ち、そのまたさらに上には、十字を二重の円で囲んだ石像が飾られていた。
 メティス国教会のシンボルだ。

 教会の真正面に行かずとも、住居へは教会の脇の入り口から入ることが出来た。
 呼び鈴を押し、名前を告げると、しばらく待たされてから彼女が現れた。

('、`*川「お早いんですね」

 皮肉めいた響きはなく、本心からペニサスは驚き、そして喜んでいるようだった。

( ^ν^)「長居する旅でもないので、早めに来たんです」

 と、ニュッ君が答える。

('、`*川「そちらの方は昨日の」

( ^ν^)「連れです」

( ^ω^)「ブーンと言います」

140 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/19(日) 00:30:11 ID:29LFM3/20
 軽く会釈を交わした後、ペニサスは二人を中へと案内した。

 赤いカーペットが敷かれた廊下をゆっくりと歩く。
 ベージュの壁が暖色のランプに照らされて優しく光る。
 教会が見えずとも、荘厳な雰囲気が粛々と染みついている。

 ここで暮らしているのはペニサスとその家族だけ。
 他の聖職者たちは町で暮らし、儀式やお祈りのときだけやってくるのだという。

('、`*川「どうぞ」

 辿り着いた部屋は応接室だった。

 黒い革張りのソファにオーク材の長テーブル。
 花瓶がひとつ、真ん中に置かれているが、花は入っていなかった。

( ^ω^)「大変な騒ぎになっていますね」

 席についてブーンが言うと、ペニサスは深く頷いた。
 明日の儀式についてはひとまず中止が確実となったらしい。

141 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/19(日) 00:31:10 ID:29LFM3/20
('、`*川「命の危険があるから、って警察に釘を刺されてしまったんです。
     定例儀式だから、国教会の人たちも最初は押し通そうとしていたんですけど、無理でしたね。
     おかげで昨夜は家の方もぴりぴりしていましたよ」

 教会に通う信者を導くのが聖職者。
 その神父を町単位でとりまとめるのが司祭。地域単位でとりまとめるのが司教。そしてその上が首都にいる大司教。
 ピンと来ていない様子だったニュッ君たちに丁寧に説明すると、ペニサスは苦笑いした。

('、`*川「といっても、私たち姉妹は傍観しているだけですけどね。
     私なんかは、皮を剥がれずに済んでほっとしているくらいです。これ、他の人には言っちゃダメですからね」

 というか、とペニサスは手を叩いた。

('、`*川「今日は謝礼のためにお越しいただいたんですよね。
     無駄話で時間を潰すのもほどほどにして、今お金を持ってきます。おいくらですか」

( ^ω^)「いや、その前に聞いて欲しいんです」

 立ち上がろうとするペニサスを制して、ブーンが声を挟んだ。

142 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/19(日) 00:32:11 ID:29LFM3/20
( ^ω^)「ニュッ君」

( ^ν^)「ああ」

 ニュッ君は手にしていた鞄からするすると白絹のような皮を取り出した。
 無論、蛇の魔人の聖なる皮だ。

( ^ν^)「ペニサスさん。あんたナイフがどこに刺さっていたか知ってるか」

('、`*川「確か、顔のあたりだと伺いましたけど」

( ^ν^)φ「そう。顔のここ」

 皮を手繰り寄せて、顔の内側を引き延ばす。
 瞳の無い目の周りの皺を伸ばし、ニュッ君は一点を指差した。

( ^ν^)φ「目尻だ。少し下がった穏やかそうな目。あんたに良く似ていた」

('、`*川「何を言っているのかしら、当然じゃないの」

 緩ませた口元を手で押さえて、ペニサスが微笑んだ。
 ニュッ君はにこりともせず、一呼吸置いてから話を続けた。

143 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/19(日) 00:33:26 ID:29LFM3/20
( ^ν^)φ「あのナイフで刺された皮もこれと同じような垂れ目だった。
       でも、周りにいた野次馬たちの皮を見て回ったら、もっと横に伸びていたんだ」

('、`*川「横?」

( ^ν^)φ「確かに垂れてはいた。でも、もっと横長に弧を描いていた。
       俺の持っている皮や磔になっていた皮と、町に広く浸透している皮は少し顔つきが違っていたんだ」

 似ているなんてものじゃなく、あんたと全く同じように。

 ニュッ君は最後に言い添えた。

 ペニサスの手が静かにテーブルへと移った。
 口はすでに真っ直ぐに閉じられている。

('、`*川「もっとはっきり言ってほしいわ。何が言いたいの」

144 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/19(日) 00:34:20 ID:29LFM3/20
( ^ν^)「聖なる皮を作っていたのは主としてあんただったんだろ、ペニサス」

 皮を丸めてテーブルに置くと、ニュッ君は肘をついて背筋を伸ばし、きつく視線をペニサスに投げかけた。

( ^ν^)「あんたはたびたび聖なる皮を作らされていたんだ。おそらくは病弱な姉の代わりとして。
      姿形が似ていたからごまかせたんだ。そうだろ?」

('、`*川「そんなこと答えられないわ」

 ペニサスはかすかに声を荒げて言った。

('、`*川「聖なる皮は姉さんが作っているものよ。
     目元の形なんて、そんなの引き延ばし方次第でいくらでも変わるわ。
     町の人全員の皮を見て回ったわけでもあるまいし、情報量不足よ」

145 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/19(日) 00:35:11 ID:29LFM3/20
( ^ν^)「じゃあ、あんたは昨日どうして時計塔の付近にいたんだ」

 赤い外套を羽織った聖職者に腕を掴まれ、叫んでいるペニサス。
 時計塔はそのすぐ側に聳えていた。

('、`*川「逃げている途中に捕まっただけよ」

( ^ν^)「本当にそうか? 教会へと続く丘を登る広場から始まっているんだぞ。逃げ出して捕まったにしては距離が近すぎないか」

('、`*川「目をつけられていたのよ、きっと。それで出てきた途端に捕まってしまったの」

( ^ν^)「そんなわけねえよ。だったら教会から外に出る前に止められるじゃねえか」

('、`;*川「そう言われても……わからないわよ。どうしてあそこで捕まってしまったのかなんて」

 頭を抱て、ペニサスは口を閉じてしまった。

146 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/19(日) 00:36:15 ID:29LFM3/20
 前のめりになるニュッ君の肩が軽く叩かれた。
 振り向けばブーンがいて、ゆっくり首を横に振っていた。

( ^ω^)「ペニサスさん、仮に逃げたのだとして、本当に逃げおおせるとは思っていなかったんでしょう?
      現に最終的にはあっさり教会の人たちに身を差しだしたんですよね。
      ということは、逃げることはあなたの主目的ではなかった。違いますか」

 うつむけていたペニサス顔が若干横に揺れた。
 それを見て取ったブーンは、ニュッ君にちらっと視線を向けた。

 ニュッ君は喉の奥で咳払いをした。

( ^ν^)「時計塔は広場の中央にある。あそこに聖なる皮が貼りつけられていたら、目につく。
      そう、あんたは思ったんだ。そして町のみんなに大騒ぎしてもらいたかった。
      命の危険があるからといって、頑強な教会の人たちも抑えつけて、皮を剥がされずにすむように仕向けた。俺は、そう推測したんだ」

147 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/19(日) 00:37:16 ID:29LFM3/20
 どうだ、とニュッ君は最後に問いかけを添えた。

 ペニサスは顔を上げた。視線がかろうじて、ニュッ君と交わる。

('、`*川「警察には言わないのね」

( ^ν^)「言わねえよ。証拠がねえもの」

('、`*川「そう」

 少しだけ間を置いて、「なら、どうして言いに来たの」とペニサスが訊いた。

( ^ν^)「言ってやりたくなったからだ」

('、`*川「率直ね」

148 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/19(日) 00:38:13 ID:29LFM3/20
( ^ν^)「だいたいあんた、誰かに言うつもりもないんだろ」

('、`*川「ええ、司教の娘だもの。国教会に逆らうなんてこと私にはできない。
     教会の庇護を離れて野良の魔人になって、森の中で生きていけるとも思えない」

( ^ω^)「森?」

 ブーンが首を傾げた。

( ^ν^)「人の世から離れた魔人は森に還るんだ。今度ちゃんと説明してやるよ」

 ニュッ君は力強くそういうと、ペニサスと向き合った。

( ^ν^)「ペニサスさん。俺はあんたに強制はしない。俺としてはそこを本気で逃げて自由になってほしいけど、それはあんたが決めることだ」

 どうする、と問いかけが続いた。

149 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/19(日) 00:39:11 ID:29LFM3/20
 応接室を埋め尽くす緊張が舞い降りてくる。

('、`*川「考えてくれて、ありがとう」

 そう言ってすぐに、ペニサスは否んだ。

('、`*川「でも私は、姉さんを置いてはいけないから」

 引っ込みがちなのを無理に絞り出すような声で、ペニサスははっきりと告げた。

( ^ν^)「そうか」

('、`*川「うん。ごめんね。がっかりさせて」

( ^ν^)「いや」

 ニュッ君は言い淀んだ。

 張り詰めていた空気がそのまま解けることなく低く沈殿してしまっていた。

150 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/19(日) 00:40:10 ID:29LFM3/20
 言葉のない時間が少し続く。

( ^ω^)「ペニサスさん」

 ブーンの言葉がよく響いた。

( ^ω^)「無理にとは言わないけれど、ひとつアドバイスがしたいんだ。いいかな」

 ペニサスが頷くのを見て取ると、ブーンは口を開いた。

( ^ω^)「あなたを代役に立てて、教会はそれを誤魔化している。
      たとえ儀式といえど、欺いていることに変わりはない。だからあなたは憤りを感じている。
      ここまでは確かなんですよね」

「……そう思うだけなら、構わないですよ。教会に言わないなら」

( ^ω^)「結構。そしてそれなら、知ってほしい。あなたの味方は、教会以外にもこの町に大勢いるんです」

 ブーンが掌を窓の外に向けた。
 喧騒は遠くにまだ聞こえている。

151 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/19(日) 00:41:05 ID:29LFM3/20
( ^ω^)「今回の大騒ぎからわかりますよね。
      聖なる皮を持って大切に扱っている人々、ナイフで刺された姿に怒りを露わにしている人々、全員、あなたの味方のはずです」

('、`*川「そう、ですか」

( ^ω^)「はい。なので、ここからが提案なのですが」

 ブーンは思わせぶりに言葉を切った。
 隣のニュッ君がちらりと見ると、これまで見たこともないほど口の端をつりあげているのがわかった。

( ^ω^)打ち明けちゃいましょうよ、全部」

 ペニサスが息をのむ。

('、`;*川「そんなこと、とても……」

( ^ω^)b「大丈夫、きっと上手くいきます。私が保証しますから」

152 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/19(日) 00:42:04 ID:29LFM3/20
 突き上げられた親指を、ペニサスはまじまじと両目で見つめた。

 ニュッ君とブーンは、それから数分後には玄関の扉から外へ出た。

 青空はまだ高い。しばらく良い天気が続いている。
 教会の白亜の尖り屋根は変わること無く天を指していた。





     ☆     ☆     ☆

153 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/19(日) 00:43:08 ID:29LFM3/20
 広場に建てられた簡素な高台は、時計台と同じ程度の高さだった。
 明日の儀式のために形だけはできていた。
 ペニサスはその天辺に立っていた。

 大勢の人が集まってきている。
 その顔の一つ一つを眺め降ろしていると、次第に目がくらくらしてきた。

('、`;*川「高いなあ」

 見下ろしながら呟いて、震える声が漏れていた。

 いつもの儀式は司祭が行う。

 天の神が残した言葉とともに、ペニサスかその姉から剥いだ皮を宙へと投げる。
 なるべく高いところに立てば、その分いろんな人に賜りのチャンスが舞い込む。
 だから高台は、広場全体を見渡せるほどの高さになっている。

 蛇の身体になれなければ、うまく脚部を登れたかどうかも怪しい。

154 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/19(日) 00:44:25 ID:29LFM3/20
 今日、ペニサスは、教会の人にも、警察の人にも、誰にも言わずに上っていた。
 誰かに言ったらすぐに止められると思ったのだ。

 現に広場の隅の方ではすでに警官隊が集まり話し合いをしている。
 人ごみの中にはいくつもの心配そうな顔が並んでいる。
 邪魔が入るのも時間の問題だろう。

 脇に携えた拡声器を口の前に持ってくる。
 深呼吸をいくつかする。

 警官隊の呼び声がする。
 ペニサスを見て集まってきた野次馬のざわめきも聞こえてくる。

 それら全てを押し潰すように、ペニサスは叫んだ。

('、`;*川「みなさんに、お話しがあります」

 一度初めてしまえば、他の声は遠くなる。
 口を動かした。
 大丈夫だから、と言われたことがその鱗の背中を押していた。





     ☆     ☆     ☆

155 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/19(日) 00:47:14 ID:29LFM3/20
( ^ω^)b「レアもの、という言い方がポイントだよ」

 荷造りを終えたロバの背中をさすりながら、ブーンが指を一本立てた。

( ^ω^)b「わかる人にはわかる違いがある、だから希少な方に価値が生まれる。
       その価値が共有されて、町の外にまで広まっていたんだ」

( ^ν^)「つまり、みんなペニサスと姉との皮が混じっているとみんな気づいている?」

( ^ω^)「そうだと思うよ。だから、教会を非難する彼女の言葉は絶対に人々の耳に届く」

 街道を行く二人のもとに、遠くから聞こえてきた歓声が届いた。
 広場の方だ。町の人々は粗方そちらへと駆けていた。
 二人の歩んでいる狭い街道はがらんとしてしまっている。

( ^ω^)「ね?」

 得意げに笑うブーンに、ニュッ君は鼻を鳴らして答えた。

156 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/19(日) 00:48:09 ID:29LFM3/20
 朝起きてすぐに「出発する」とブーンが言い出した。
 ニュッ君もとくに異論はなかった。
 パシテーの町に長居する理由も無い。旅はまだまだ続いている。

( ^ν^)「金、返せなかったけど、いいのか」

( ^ω^)「ああ、いいよいいよ。考えてみると皮も良い物のような気がしてきたし」

 聖なる皮はロバの首元に巻いてある。
 心なしか、出発したときよりもロバの様子が生き生きとして見えた。

( ^ν^)「ずっと寒かったんだな、お前」

 ニュッ君が背中をさすると、ロバが気持ちよさそうに声を鳴らした。

( ^ω^)「行こうか」

157 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/19(日) 00:50:13 ID:29LFM3/20
( ^ν^)「次はどんな町?」

( ^ω^)「さあ。そこまで詳しく地図を読み込んでいないからなあ」

( ^ν^)「頼りないな」

( ^ω^)「なに、道は続いているんだ。僕はそれをなるべく南へ進むだけだよ」

 肩を竦めてそう言うと、ブーンはロバの手綱を引く。

 後ろから聞こえてくる歓声も、次第に遠く引いていった。



     ☆     ☆     ☆

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158 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/19(日) 00:51:41 ID:29LFM3/20





第十八話 蛇の町 (冬月逍遥編③) 終わり

第十九話へ続く





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