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( ^ω^)優しい衛兵と冷たい王女のようですζ(゚ー゚*ζ 第十九話

161 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/25(土) 21:09:15 ID:XWtDTcAU0
 びょうびょうと風が吹いている。
 生い茂る緑の隙間を音を立てて抜けていく。

( ^ν^)「森は魔人の住処なんだよ。散々言ったのに、ブーンさんめ」

 愚痴をこぼすニュッ君耳に、一際大きな音が届く。
 風とは違う、獣の声。

 ニュッ君は身構えて、何も起きないとわかると緊張を解した。
 先ほどから獣の声が時折鳴り響いている。それなのに、一度もその姿を目にしない。
 宵闇の迫り来る薄紫の森の中、不可思議な声は一向にやまない。

 真冬だというのに、木々が茂る森。
 林立する樹木は細長く、ニュッ君には見るに珍しいものだった。

メティス国にこのような場所があることを、ニュッ君は今日まで知らなかった。
 サナ雨林、と人は呼ぶ。比較的小規模な森だ。
 山を流れる風と高低差の関係で、雲が寄り集まりやすい場所なのだという。
 
(∩^ν^)∩「おーい、どこまで行ったんですかー」

 ニュッ君の声に答える代わりに、風がまた獣の声を運んできた。

162 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/25(土) 21:10:14 ID:XWtDTcAU0





第十九話

虎の村 (冬月逍遙編④)





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163 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/25(土) 21:11:32 ID:XWtDTcAU0
少し前、空がにわかに暗くなり、大雨になった。
ニュッ君とブーンが川を渡ってすぐのことだ。

(;^ω^)「冬だというのにこんなに降るものかね」

 そのうち止むだろうと、戻ることは考えず、傘を差して歩みを進めていた。
 しかし目算は甘く、森に迫るごとに雨はその勢いを増していった。
 溜らず逃げ込んだ崖の横穴で彼らはひとまず夜営をした。
 翌日の朝に目覚めたとき、天気はようやく小雨になった。

 季節外れの大雨は予想以上の爪痕を川沿いに残した。
 二人の歩んできた道が、流水に運ばれてきた土砂ですっかり埋め尽くされていたのである。
 橋までの道に引き返すことも、森の際の道を渡ることも叶わない。
 ちょうど蛇行のピーク、最も堆積物の多くなる場所に籠もってしまったのが二人の運の尽きだった。

 長居するだけの食料も用意はない。
 
(;^ω^)「この崖を超えるしかないね」

 嘆息をこぼしながら崖を登った二人の目の前には、鬱蒼としたサナ雨林が待ち構えていた。

164 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/25(土) 21:12:34 ID:XWtDTcAU0
( ^ω^)「地図によれば、ここから東へまっすぐ進めば森を抜けられるみたいだ」

( ^ν^)「森か……」

( ^ω^)「コンパスや太陽を参考にすればなんとかなると思うけど、不安かい」

( ^ν^)「いや、そもそも森は魔人の住処だから、むやみに入ることは許されていないんですよ」

 逡巡はあったが、悩む時間も惜しくなった。

( ^ω^)「迷ったって言ったらなんとかならない?」

( ^ν^)ゞ「言い方次第ですかねえ」

 二人は森へと足を踏み入れた。

 サナ雨林の緑は絶えない。
 一風変わった植物がその場所に四季を無視して生えている。

165 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/25(土) 21:13:32 ID:XWtDTcAU0
 休んでいるさなかに辞書で調べて、森に聳える木々名は竹だとわかった。
 自生するのは主に大陸の東南部。
 メティスの北方では自然にはほとんど見ない植物だ。

( ^ω^)「この植生はいったいどういう原理なのだろうね」

( ^ν^)「魔人の影響じゃないですかね。エウロパの森も不思議なところだって聞きますよ。
      麓にいたとき気づきませんでした?」

( ^ω^)「あの頃は本当にただ必死だったからなあ」

 森の不思議は見た目だけではなかった。
 入ったそばからびょうびょうと、細く蠢く音が続いていた。

( ^ν^)「なんの音っすかね」

( ^ω^)「木々の隙間を抜ける風が鳴っているんだね。
      竹の堅い幹が垂直に伸びるから、なおよく聞こえるみたい」

( ^ν^)「気味が悪いな」

 ニュッ君の呟きを、甲高い風の音が遮った。

166 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/25(土) 21:14:33 ID:XWtDTcAU0
 風の奥底に別の音があると、後々になって気づいた。

( ^ν^)「これ、風じゃないですよね」

(||i^ω^)「……獣かな」

(||i^ν^)「魔人か」

(||i^ω^)「どうだろう。それにしては獣っぽすぎる気がする」

(||i^ν^)「近づかないようにしましょう」

 歩きながら、気晴らしに、ニュッ君はブーンに魔人についての話をした。
 
 魔人は森に暮らしており、教会に許可を得た魔人だけが人の町の付近まで降りてくる。
 人の世界で暮らしたがる奇特な魔人もいれば、契約を交わす目的で降りてくる者もいる。

( ^ω^)「契約って、ふしぎなちからって奴かい」

( ^ν^)「知ってます?」

( ^ω^)「知識としては」

167 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/25(土) 21:15:17 ID:XWtDTcAU0
 魔人は人と契約を交わし、人の目的を達成するために、ふしぎなちからを行使することができる。
 その力がどのような内容なのか、どのような形で目的を達成するかはその魔人の個性による。

( ^ν^)「あんまり自由になものだから、契約を交わすにはメティスの国だと教会の許可がいります。
      使える範囲も細かい取り決めがあるらしいっすよ」

( ^ω^)「なかなか面倒そうだね」

( ^ν^)「ラスティアはどうでした?」

( ^ω^)「もっと寛容だったよ。荷車を牽かせたり、大工仕事を手伝わせたり。
      でも、少なくとも六年前は、大人しか彼らと関われなかったよ。子どもには危ないからって。
      そして調べてみると、僕の知らない六年間に、魔人への扱いもだいぶ変わっていたみたいなんだ」

 六年間のうちに、ラスティアは魔人への警戒を強め、そのあまりにマルティアから恩恵でもらい受けた魔人を切り伏せてしまう。
 これがマルティアの怒りを買い、ラスティア城に宣戦布告。翌月には落城。
 ラスティアの王侯貴族はみなバラバラになり、ラスティアはマルティアの一領土となった。

( ^ω^)「故郷が滅んだなんて、未だに実感が湧かないんだけどね」

 苦笑いでブーンは言い添えた。

168 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/25(土) 21:16:40 ID:XWtDTcAU0
 サナ雨林の縁を歩く。その目的はなかなか果たせなかった。
 整備された道ではない、土と石と草木の地面を踏みしめながら歩くのは時間がかかり、体力も消耗させられる。
 休みを挟みながら、ニュッ君とブーンは竹の合間を歩き続けた。

 その間、風は吹き、獣の声は絶えない。

( ^ω^)「あれはいったい何の鳴き声なんだろうね」

( ^ν^)「さあ、太い声っすね。あんまり身近には聞かない感じだ」

( ^ω^)「峻厳そう。でもなんだか丸っこい」

( ^ν^)「言われてみると、猫のような」

 二日目の昼の太陽が、徐々に西へと落ちていく。
 竹の細い影がより濃く彼らを包もうとしたとき。

( ´ω`)「思ったんだけど、魔人なら話が通じるんじゃないかな」

 時期に似合わず汗みずくのブーンが疲れ切った顔で提案をした。

169 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/25(土) 21:17:34 ID:XWtDTcAU0
(;^ν^)「会うんですか、この声の主たちに」

( ´ω`)「危ないかな」

(;^ν^)「さあ……魔人と見せかけて実は獣なのかもしれないっすからね」

( ´ω`)「いやでも、会わないとわからない。まずかったら逃げよう」

( ^ν^)「なんでそんなに急いでるんですか」

( ´ω`)「お腹、空いたんです」

 折良くブーンの腹がなり、その理由を訴えていた。

 そうしてブーンは竹の隙間をかいくぐった。
 音の鳴っている方向、森の奥の方へと。

 ニュッ君は岩陰に手頃な隙間を見つけて夜営の準備を進めた。
 二股に分かれた奇妙な竹を目印にして、一人待つことに決めていた。

170 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/25(土) 21:18:45 ID:XWtDTcAU0
 ブーンがいなくなって数分後。

 黄昏時が迫る頃。
 鳴り止まぬ風の音。獣の声。
 それらに入り交じって。

「ひええ」

 と、声が微かにニュッ君に届いた。

(;^ν^)「ブーンさんの声だ……」

 それが、ニュッ君が一人竹の森の中を歩き進めるに至った経緯である。





     ☆     ☆     ☆

171 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/25(土) 21:19:39 ID:XWtDTcAU0
( ^ν^)σ「で、これは何すか」

 ブーンは果たして、見つかった。

 生い茂る竹の隙間に、彼の身体は浮いていた。
 頭を下に、足を上にし、夕陽に煌めく顔は赤くなっている。

( 、m,)「ああ、ニュッ君。助けてくれ」

( ^ν^)「いや、まず何がどうなってるのか言ってくれないとどうしようもないですよ」

( 、m,)「つり下げられているっぽいんだよね」

( ^ν^)ゝ「あー、なんかありますね。糸? 足に巻きついてますよ」

( 、m,)「取れそう?」

( ^ν^)ゝ「ちょっと登ってみますよ。じっとしててください」

( 、m,)「早めに頼む……だんだん辛くなってきた」

172 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/25(土) 21:20:37 ID:XWtDTcAU0
 つるつるとした竹の幹は一見つかみ所がなさそうだったが、等間隔で節目がついており、手足をかけるのに優れていた。
 素足になって幹を捕らえ、手を伸ばして上の節目を掴む。跳ね上がって次の節目を足で捕らえる。その繰り返し。
 ブーンの逆さまの顔から見上げて登り、彼の胴体を超え、足と並ぶ。

 細い糸がブーンの足首に、想像以上にぐるぐるとキツく巻かれている。

( ^ν^)「これは……いったい」

 煌めく糸に手を伸ばそうとした、その指先を何かがかすめた。

( 、m,)そ ムギュッ

 地面に落ちたブーンが呻く。

 糸は途切れていた。

「あたしの罠をめちゃくちゃにしないでよね」

 人の声を久しぶりに聞いた気がした。
 ニュッ君とブーンはほとんど同時に声の方向を振り向いた。

 竹の幹にもたれるようにして、小柄な人が立っていた。
 一見すると幼い出で立ちだが、どこか落ち着いた雰囲気もある人だ。

o川*゚ー゚)o「せっかく安心できるくらいには丈夫になっていたのに、また作り直さなくちゃ」

 残念、と言い加えたが、口調はそこまで暗くない。むしろ嬉しげでもあった。

173 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/25(土) 21:21:34 ID:XWtDTcAU0
o川*゚ー゚)o「アーケの町を出て川を渡ってここまで来たんだ?」

( ^ν^)「そうです。首都を目指していて」

o川*゚ー゚)o「雨林を回ってエウリドメへ出るつもりだね」

( ^ν^)「そのつもりです」

o川*゚ー゚)o「でも、雨で足を食らっていると」

( ^ν^)「はい」

o川*^ー^)o「運が悪かったねー」

( ^ν^)「……」

o川*゚ー゚)o「馬鹿にしてないよ?」

( ^ν^)「何も言ってませんよ。というかここにいるってことはあなたも同類ですよね?」

o川*゚ー゚)o「上手いこと言うね」

 彼女の名前はキュートと言った。

174 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/25(土) 21:22:21 ID:XWtDTcAU0
 糸仕掛けの罠を取り除いたころには、あたりはすっかり薄闇に包まれていた。
 キュートの誘いを受けて茂みに入り、やや開けた場所へと辿り着いた。
 すでに彼女のテントが、竹を支えにして建てられていた。
 小ぶりで使い古された、薄桃色のテントには、方々の観光地のペナントが刺繍で張り付けられている。

o川*゚ー゚)o「長いことテント暮らしをしてきたからね」

 ブーンたちのテント張りを手伝いながら、キュートは軽く身の上を簡単に語ってくれた。
 メティスの片田舎の故郷を出て、方々を旅して回っていたのだという。
 見た目には幼げだったが、聞いてみるとニュッ君やブーンよりも一回り年上だった。

o川*゚ー゚)o「で、今はお世話になった人に会いに行くところなんだ」

 自分の裁縫の師匠なの。
 言い添えるキュートの口元は自然な様子で緩んでいた。

( ^ω^)「あの糸の罠は自分で?」

o川*^ー^)o「うん。お裁縫たくさんしていたら、できるようになってた!」

( ^ω^)「はえー」

(;^ν^)「いやいや、どういうことだよ……」

175 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/25(土) 21:23:16 ID:XWtDTcAU0
 一緒に作業をしていても、工程をこなすのは男たちよりずっと速い。
 手先の器用さを遺憾なく発揮して、あたりが闇に染まる前にテントを張ることが出来た。

( ^ν^)つ「あ、あれ」

 ぼんやりと光るものが竹林の向こう側にあった。
 ニュッ君が気づいて指で示すと、ブーンが興味深そうに唸った。

( ^ω^)「あっちに村があるのかな」

( ^ν^)「案外と近いな。今から急げば間に合うかも」

( *^ω^)「夕ご飯に間に合うかな」

o川*゚ -゚)o「ダメだよ。あそこにあたしたちは入っちゃいけない」

 キュートが強めの口調で言う。

176 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/25(土) 21:24:15 ID:XWtDTcAU0
( ^ω^)「どうしてですか?」

o川*゚ -゚)o「あそこは、虎たちの住処だから」

 あの鳴き声を発する獣の名前を、このとき初めてブーンとニュッ君は知った。

 その日の料理はキュートがシチューを振る舞ってくれた。
 ざっくり切って煮込んだだけ、とキュートは謙遜したが、蕩けた見た目も暖かみのある味わいも十分すぎるほどだった。

o川*゚ー゚)o「人間が暮らす村までは明日の昼にはつくよ。そこまで案内してあげる」

(;^ω^)「何から何まですいません」

o川*゚ー゚)o「いいえ、あたしの罠でご迷惑をお掛けしたんだし、当然」

( ^ν^)「あれはやっぱり、虎対策なんですか」

o川*゚ー゚)o「うん。一応ね。人は襲わないって話だけど」

 こうしている間にも、虎の鳴き声は時折聞こえる。
 昨日の夜から続き、昼間はいくらかおさまっていたが、日が暮れるとともにまた活発に鳴き出した。

177 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/25(土) 21:25:34 ID:XWtDTcAU0
( ^ν^)「この森には昔からあの声が聞こえていたんですか」

o川*゚ -゚)o「いや……」

 キュートは言い淀んで、目を泳がせて、それから意を決した様子でニュッ君を見た。

o川*゚ー゚)o「あたしがこの村に出入りしていたのは七、八年前かな。そのあと村で抗争が起きたんだ」

 あたしも手紙で後から知ったんだけど、と言い添えて、キュートは話を始めた。

 パシテーとアーケを結ぶ街道に通じているその村は、サナ雨林に割り込む形で作られており、かねてより森にいる虎の魔人と親交が深かった。
 虎の魔人は自分たちの獲った食料を与え、村人は自分の畑で採れた野菜を与える。
 やがて虎たちは人に紛れて暮らすようになった。
 そんな素朴な関係が、およそ300年前に魔人が現れてからずっと続けられていたという。

o川*゚ -゚)o「村を離れてすぐの頃に事件が起った」

 虎の魔人の中にも有力者が二人いた。そのどちらの味方をするかで、グループわけがなされていた。
 そのグループ同士が、ある日衝突した。原因は人間のあずかり知らぬことだったという。
 キュートが知っているのは、勝ったグループは人型になって村に溶け込み、負けたグループは虎となって森に籠もった、ということ。

178 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/25(土) 21:28:57 ID:XWtDTcAU0
( ^ν^)「理不尽な話ですね」

 苛立ちを曝け出して、ニュッ君は言った。

( ^ν^)「そういうの、誰も止められなかったんですか」

o川*゚ -゚)o「詳しいことはわからないよ。
       あたしはこのお話しを、村の知り合いからの手紙で知ったから。
       でも、古い村だし、そういう決まりってなかなか覆せるものじゃないんだよ」

( ^ν^)「嫌な話だ」

o川*゚ -゚)o ・・・

o川*゚ー゚)o「ありがと」

( ^ν^)「え?」

o川*゚ー゚)o「そうはっきり言ってくれるとこっちもスカッとするよ」

179 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/25(土) 21:29:54 ID:XWtDTcAU0
キュートは神妙な面持を緩めて話を切り替えた。

o川*゚ー゚)o「あたし、師匠とは直接はやりとりをしていないの。
       だからまずは、師匠がどっちの側にいたのか確かめなきゃ」

( ^ν^)「町にいるか、森にいるか、っすね」

o川*゚ー゚)o「うん。村にいるならいいんだけどね」

( ^ω^)「もし、森にいたら?」

o川*゚ー゚)o「そしたら、あたしはもう近づけないかもしれない」

 食べ終えたシチューの皿を足下の石の上に置いて、キュートは眠そうに欠伸をした。
 満足げに星空を見上げる。厚い雲の隙間から星は何度か顔を覗かせていた。

o川*゚ー゚)o「確かめるのは怖いけど、最近ようやく踏ん切りがついたんだ。
       でも誰かと一緒に向かえればもっと心強い。そういうこと」

 巻き込んでごめん、とキュートはニュッ君とブーンの目を交互に見て言った。

180 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/25(土) 21:30:54 ID:XWtDTcAU0
( ^ω^)「どうせ通り道ですし、問題ないですよ、ね、ニュッ君」

( ^ν^)「そうっすね。こっちも心強い」

o川*゚ー゚)o「ありがとうです。そう言っていただけて嬉しい」

 会話が途切れて、黙々と食事が終わり、食器を重ねた。
 腹が膨れるのは幾日ぶりだろうと、腹をさすりながらニュッ君はふと思い、満足そうに腹を摩った。

o川*゚ー゚)o「でもきっと大丈夫。師匠は虎になんてならないよ。
       もしも帰れたら、一度師匠のところに寄ってみてよ。あの人の作品、見せてあげるから」

 キュートの師匠は小物作りの職人として暮らし、人と交わって生きていたのだという。

o川*゚ー゚)o「たとえばこれとか」

 そう言ってキュートは自分の赤くて丸い髪留めを指差した。

 ニュッ君とブーンは頷き返した。

181 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/25(土) 21:32:00 ID:XWtDTcAU0
( ^ω^)「楽しみにしてますよ」

 キュートは微笑んで、自分の薄桃色のテントへと入っていった。
 ニュッ君とブーンも自分のテントへと入った。

 火を消した薪の束が、静かに炭の香りをあたりに漂わせている。
 虎の町の光がひとつひとつ薄らぐのを見つめながら、ニュッ君とブーンは微睡に沈んでいった。










     ☆     ☆     ☆

182 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/25(土) 21:32:57 ID:XWtDTcAU0
 約束は果たされなかった。

 日が昇って歩き出すと、すぐに村へは辿り着いた。
 林業を主産業としたその村の、住宅がまばらに建てられた区域を進むと、ぽっかりと空いたスペースがいくつか見られた。
 そのうちのひとつの荒れ地の前で、キュートは立ち尽くした。

o川*゚ -゚)o「ここに、工房があったんだよ」

 力の抜けた声でキュートは言った。

 詳細を知ろうと村役場にまで足を運んだ。
 そして、キュートの家族は全員、虎となったことを知らされた。

o川*゚ -゚)o「そんなはずはないです」

 木製のカウンターに腕をついて、身を乗り出すようにして、キュートは言った。
 これまでの穏やかな口調が初めて鋭く崩れて荒れた。

o川*゚ -゚)o「あの人が魔人になろうとするはずがないんです。
      なりたくないって、ずっと言っていたんです。
      虎の手だと、何も作れないからって」

「そう言われましても、記録としてそうなっておりますから」

o川*゚ -゚)o「記録が間違っているかもしれないじゃないですか」

183 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/25(土) 21:33:58 ID:XWtDTcAU0
 大声が役場に響き、視線がキュートに寄せられた。
 激しく震え出すのを察して、ニュッ君がその手を引いた。

( ^ν^)「出よう」

 物言いたげなキュートをその一言で制すると、強引に入り口から外へと出た。
 役場の人たちの、哀れみ混じりの痛い視線が背中について離れなかった。

 行商人が出店をちらほら開いている、村の道の真ん中をニュッ君たちは進んでいった。
 やがて道沿いに簡素なベンチを見つけると、そこにキュートを座らせた。

 物も言わず、暴れもせずに、その代わりただ目を押さえて、キュートはしんしんと涙を流していた。
 やがてキュートはおもむろに目を拭いた。

o川* - )o「行ってくれて良かったのに」

( ^ν^)「離れにくかったので」

o川* - )o「ごめんね」

( ^ν^)「いや」

184 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/25(土) 21:34:55 ID:XWtDTcAU0
 キュートは息を大きく吸って、長く吐いて、それから、ニッと笑った。

o川*゚ー゚)o「仕方ないもん。宿、探さなきゃね。二人はどこに泊まるの」

 泣いていたなんて嘘だとでもいうように、キュートは強く頬をつり上げていた。



 宿の数は少なく、村唯一の宿が通りにぽつんと並んでいた。
 今の時期、旅人や泊まりがけの商人も少ないらしく、客室は十分に空いていた。
 ブーンとニュッ君は相部屋をとった。

o川*゚ー゚)o「あたしは知り合いの家に行くから」

 ロビーで自分の荷物を掲げながら、キュートは先にそう告げた。

o川*^ー^)o「ここでお別れ。ほんのちょっとだけど、いろいろお話しできて楽しかったよ」

185 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/25(土) 21:35:54 ID:XWtDTcAU0
 手紙を書くよ、と笑って言って、キュートは握手を求めた。
 ニュッ君とブーンは顔を見合わせ、おずおずと手を伸ばした。
 キュートの掌は案外冷え込んでいた。

「じゃ」と、短く行ってキュートは入り口を出て行った。
 あとに取り残された二人を振り向くことはなかった。

( ^ω^)「あれは相当無理しているね」

 静かな声でそういうと、ブーンは部屋へと続く階段を昇っていった。
 ニュッ君だけは一人残って、しばらく入り口を見つめていた。





     ☆     ☆     ☆

186 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/25(土) 21:36:49 ID:XWtDTcAU0
 幼い日に、目を引いた小物があった。
 メティスの城下町の街道で露店販売されていた、町そのものを象ったミニチュア細工。

「気に入ってくれたかい」

 声を掛けてくれた店主のこともまた、キュートの心に強く残った。
 やがてその作者が住んでいる場所を知り、いてもたってもいられず単身森の村へと移り住んだ。

 師匠の暮らす敷地には、農作物を育てる畑も無く、広い工房とこぢんまりとした母屋があった。
 師匠はほとんど工房にいて、日がな一日、何かを切ったり、叩いたり、組み合わせたりしていた。

 作る物の幅をキュートの師匠は設けていなかった。
 主にアーケの町から、たまにはもっと遠く、今の首都や城下町からも依頼が来て、そのとおりに師匠は作品を作り上げた。

 一番得意にしていたのは、人や動物、馬車や家のような類いのもののミニチュアだ。
 実用性は無いに等しい。だから大して根も張らない。
 でもだからこそいいのだと、師匠は顔を綻ばせながらそれらを積み重ねて行っていた。

187 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/25(土) 21:37:54 ID:XWtDTcAU0
o川*  )o「あたし、まだ覚えているからね」

 呟くように口にした。
 あたりには誰もいない。
 竹が鬱蒼と茂っているだけだ。

 まだ太陽が高いうちに、キュートは竹林へと足を踏み入れた。
 強かった冬の風がますます厳しくなり、音が鳴る。
 そしてそれ以上に虎の声が奥底から響き渡ってくる。

 村の中とはまるでちがう。
 人の姿をまるっきり寄せ付けない竹林の中を、キュートはゆっくり歩いていた。

o川*  )o「師匠はずっと、虎になるのすごく嫌がっていたんだよ。
 虎の手だと何も作れないからって。木を切ったり、組み合わせたりすることができないからって。
 だから、本当は嫌がっていたはずだよ。今も、嫌なんでしょ?」

 答えは当然のごとく聞こえてこない。
 虎の声が波打っているだけだ。

 昼間だというのに、竹の葉が空を覆い、あたりに濃く影を残している。

188 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/25(土) 21:38:52 ID:XWtDTcAU0
o川*  )o「ねえ、師匠。いるならここに来てよ。
       見せてあげたいんだ。あたし、裁縫がだいぶ上手くなったんだよ。
      師匠と同じように何かを作りたくて、たくさん練習したんだから」

 ほら、と自分のポーチや、取り出したハンカチ、布製の小物入れ、服の裾なども持ち上げる。
 街並みや人を象った刺繍がそこには綿密に刻まれていた。
 隣国の港町、北の国の雪原、遠い砂漠で目にしたオアシス。
 誰に見せるわけでもなく、あっちこっちに動かして高々と掲げてみせる。

 虎の声が、若干強くなった気がした。
 大きくなって、波打って、キュートを取り囲む。

 ゆっくりポーチを降ろして、俯いて、それからキュートは息を吐いた。

o川*  )o「来ないなら、あたしからそっちに行くから、待ってて」

 途端に、空気が変わった。
 虎の声のボリュームが一層高くなり、彼女を明らかに威圧してきている。

o川* o )o「……なによ」

 キッ、とあたりを睨んで、キュートは歯噛みした。

189 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/25(土) 21:39:54 ID:XWtDTcAU0
o川* o )o「入っちゃダメっての? やめてよ。あたしはただ会ってお礼を言いたいだけなんだよ!」

 土を蹴って、駆けだして、茂みの向こうへと進んでいく。
 あたりはまた一段と暗くなり、虎の声も高くなる。
 風が吹き荒び、キュートを包み、切り裂かんばかりに呻いてくる。

 竹の撓る音。
 擦れる葉がざわめき、影を濁らせる。

 キュートは前を見つめていた。
 竹ばかりが聳える前の、暗がり。サナ雨林の奥の奥まで続いている闇の向こう側。

 どこまでも行ける気になって、足を進めようとしていた。

「待てよ」

 と、後ろから呼びかけられた。

190 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/25(土) 21:40:53 ID:XWtDTcAU0
o川*゚ -゚)o「え」

 振り向けば、つい最近別れたばかりの顔があった。

( ^ν^)「こういう自然だけの場所に一人で

いるもんじゃねえよ」

 顰め面を解しもせずに、ニュッ君はキュートの前へと進んだ。

( ^ν^)「ほら」

o川;゚ -゚)o「え、あ、うん」

 差し出された手を弱々しく握って、キュートは前へと歩き進んだ。





     ☆     ☆     ☆

191 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/25(土) 21:41:54 ID:XWtDTcAU0
o川;゚ -゚)o「なんでここにあたしがいるってわかったの」

( ^ν^)「勘っすよ」

o川;゚ -゚)o「ええ」

( ^ν^)「なんすか」

o川;゚ -゚)o「もうちょっと、理屈はないの?」

( ^ν^)「虎のやかましい方を目指したんです」

o川*゚ -゚)o「そうなんだ……ところでお連れさんは」

「昼に食べた川魚にあたったらしい」

o川;゚ -゚)o「大丈夫!?」

( ^ν^)「宿で寝てるうちに直るよ。あの人、身体頑丈だから」

192 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/25(土) 21:42:57 ID:XWtDTcAU0
o川*゚ー゚)o「そういえば二人はどういう関係なの?」

( ^ν^)「俺とブーンさん? どういうというか、まあ、成り行きで」

o川*^ー^)o「そこをもっと聞きたい」

( ^ν^)ゞ「面倒なんすよ」

o川*゚ー゚)o「じゃあ、旅の目的は?」

( ^ν^)「俺は将来なりたいものを探している。あの人は、自分の記憶を探している」

o川;゚ー゚)o「記憶!?」

(;^ν^)「ああ、ほらもう、めんどい。説明しなきゃわからねえっすよね」

 かいつまんでの説明をニュッ君は早口でした。
 ざっくばらんな調子ではいたが、キュートは何度も頷いてくれていた。

193 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/25(土) 21:43:55 ID:XWtDTcAU0
 竹林の道は相変わらず続いている。
 日が傾いてきたせいか、暗がりもますます濃くなっている。

 話は途切れることなく穏やかに進んだ。

( ^ν^)「とまあ、こんな具合であの人には記憶が無いらしい」

o川*゚ー゚)o「ラスティアかあ、懐かしいな。昔、いたよ。まだ滅ぶ前」

( ^ν^)「じゃあ、あとでブーンさんと話してくださいよ。話聞きたがってるから」

o川*゚ー゚)o「話になるようないい思い出もあまり無いけどね」

( ^ν^)「大丈夫。なんでもいいから。きっと嬉しがります」

o川*゚ -゚)o「……」

( ^ν^)「なんすか」

194 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/25(土) 21:44:54 ID:XWtDTcAU0
o川*゚ー゚)o「いや、なんか面白いなって思って」

( ^ν^)「けっ」

 口をすぼめるニュッ君に、キュートはそっと微笑んだ。
 いつの間にかその足は力強く地面を踏みしめていた。



 竹林を進む途中、虎に向かってキュートは頼んでみた。
 師匠のところへ案内してほしい、と。

 言葉は通じるはずだ、とはニュッ君のアドバイスだ。
 たとえ人の姿を捨てたとしても、わかってくれれば導いてくれるだろう。
 そんな期待が、虎の声の強まり方によって後押しされた。

 進むとき、ある方向に進めば声が大きくなり、別の道へ進めば小さく鳴るか途絶えてしまう。
 大きくなる方ばかりをえらんで、前へ前へと進んでいった。
 鬱蒼と茂っていた道だが、声を頼りに進むと不思議と足はもつれることなかった。

 キュートは師匠のことをニュッ君に話さなかった。
 ニュッ君も特別に詮索しようとはしなかった。

 会話はだいたいニュッ君の昔話や、ブーンとの旅の話で、それも大して続かずに黙っている時間が多くなった。
 気まずい沈黙ではなく、ただ足を進めることだけに集中したくなったからとでもいうような、意識的な沈黙だ。

195 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/25(土) 21:45:54 ID:XWtDTcAU0
 竹林は唐突に開けた。

 夕暮れになった太陽の橙色の光が草原を照らしている。
 竹に囲まれたその広い場所に、石がぽつんと置かれていた。
 ちょうどキュートのあごくらいの高さまである、大きな石だ。

( ^ν^)「……冗談だろ?」

 と、ニュッ君が呟いた。
 思わず口から零れてしまった。

( ^ν^)「趣味が悪いな、これは」

 ニュッ君が振り向いて、あたりを睨め回す。
 虎の姿を捕らえようと目を凝らしていた。

 キュートがその裾を掴み、首を横に振った。

o川*゚ー゚)o「いいよ」

( ^ν^)「え? でも……」

o川*゚ー゚)o「なんとなく、気づいてたから」

 何が、というニュッ君の問いかけに答えは返ってこなかった。

196 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/25(土) 21:46:57 ID:XWtDTcAU0
 一歩ずつ、これまでの歩みとほとんど変わらない速度で彼女は歩いた。
 ニュッ君は数歩後ろからついていった。

 石には何も書かれていない。
 人間の手では決してなく、かといって自然にしては不思議な形。

o川*゚ー゚)o「お墓、だね」

 キュートはそう断言した。

 石の前に受け皿のようなものがあった。
 木の実や、枝葉が置かれている真ん中で、一際大きく凝ったものがあった。

 目を凝らさなくてもわかる。
 それはキュートが髪につけているものと同じ髪留めだった。

( ^ν^)「おそろいだったんすね」

o川*^ー^)o「うん。師匠、髪長かったから、作業中とかに留めていたんだ」

197 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/25(土) 21:47:53 ID:XWtDTcAU0
 キュートは腰をかがめ、墓の前に頭を下げた。
 首を持ち上げると、すぐに頭の髪留めに手を伸ばした。

( ^ν^)「置いていくんですか?」

 目を少し見開いてニュッ君が尋ねた。

o川*゚ー゚)o「うん」

( ^ν^)「なんで?」

o川*゚ー゚)o「うーんとね」

 髪留めを外した。

o川*゚ー゚)o ・・・

o川*-ー-)o「内緒」

198 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/25(土) 21:48:55 ID:XWtDTcAU0
 皿の上にことりと髪留めが置かれる。
 揺れがすぐにおさまって、安定すると、二つの髪留めがまるで初めからそこに会ったかのように並んでいた。

( ^ν^)「これから、どうするんすか」

 ふと思いついた疑問を、ニュッ君はキュートに投げかけた。
 後ろ姿ではあったものの、キュートが口の端をつり上げるのがわかった。

o川*゚ー゚)b「まだ何にも決めてない」

 振り向いた彼女はやはり笑っていた。
 何かを押し隠している。
 それはわかったが、ニュッ君には何も問うことができなかった。





     ☆     ☆     ☆

199 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/25(土) 21:49:58 ID:XWtDTcAU0
(ヽ^ω^)「やれやれ、昨日は散々な目に遭ったな」

 ニュッ君が竹林から宿屋に帰り、一泊した次の日の朝、部屋の中で二人は旅支度を整えていた。
 今日の昼間には道沿いの次の宿へ泊まる予定でいる。

( ^ν^)「調子はどうです?」

(ヽ^ω^)b「やっと落ち着いてきたみたいだよ」

 窶れた顔で腹を摩りながらブーンは力なく答えた。

( ^ν^)「無理をしないようにもう一泊することもできますけど」

(ヽ^ω^)「いや、違うんだ。そういう心配じゃ無くてね」

 言葉の途中でブーンの腹が音を立てて鳴った。

200 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/25(土) 21:50:54 ID:XWtDTcAU0
(ヽ^ω^)「夜ご飯がおかゆだったでしょ。だからね、お腹減った」

(;^ν^)「逆に元気すぎっすよ、そりゃ」

 リュックに物を敷き詰め終わり、階下に降りて受付にて手続きを済ませる。
 外に出てロバの留め具を外した。荷物を載せている最中に、草を踏み分ける音が聞こえた。

( ^ν^)「ああ」

o川*゚ー゚)o「おはよ」

 旅の時の服装とはまた違う、ニット編みの暖かそうな出で立ちだった。

o川*゚ー゚)o「世話になったし見送ってあげるよ」

( ^ν^)「ああ、それは、どうもっす」

201 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/25(土) 21:51:57 ID:XWtDTcAU0
(ヽ^ω^)「一昨日のシチュー、美味しかったです」

o川*゚ー゚)o「あ、ありがとうです」

(ヽ´ω`)「思い出したらなんだか涙が」

o川;゚ー゚)o「そんなに! また作ってあげますから」

(ヽ´ω`)「ああ……ありがたや」

(ヽ´ω`)「おや」

 頭を下げたそのときに、ブーンはふと口にした。

(ヽ´ω`)「これは、なんです」

 キュートの服の裾に、それはひっそりと飾られていた。

202 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/25(土) 21:53:01 ID:XWtDTcAU0
o川*゚ー゚)o「ああ、コースターですよ。いいデザインのおみつけるとすぐ留めたくなるんです」

 縫い止めされたのは、カエルたちが頭を寄せ合っているマーク。

(ヽ´ω`)「どこのお店ですか」

o川*゚ー゚)o「ラスティアの城下町。
       昔、ちょっとした慈善団体みたいなものに所属してて、そこが開いていたお店で使われていたものなんです」

 カエルの数はちょうど三匹。

o川*゚ー゚)o「このマークに見覚えが?」

(ヽ^ω^)ゞ「ええと、なんとなく、引っかかるような」

o川*゚ー゚)o「なら、寄ってみるといいかも」

203 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/25(土) 21:53:47 ID:XWtDTcAU0
(ヽ^ω^)「でも、ラスティアはもうないのでは」

o川*゚ー゚)o「あたしも最近知ったのだけど、当時の団体のメンバーが隣国に同じようなお店を作ったらしいんです。
       風の便りに聞いただけで、まだあたしも寄れていないんですけどね」

(ヽ^ω^)「なるほど。ちょっと遠いけど、いいかもしれないですね」

( ^ν^)「荷造り終わりましたよ」

 ニュッ君が手を叩いて知らせてくれた。



 村の入り口まで歩いて向かった。
 キュートを交えて、他愛ないことを話し合った。

204 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/25(土) 21:54:54 ID:XWtDTcAU0
( ^ν^)「さて、と」

 村の門の前で一時、止まる。
 風と、虎の声は相変わらず、竹林から村の方へと流れてきていた。

( ^ν^)ノシ「それじゃあ」

o川*゚ー゚)ノシ「うん」

 キュートは長いこと、遠ざかるニュッ君たちを見つめてくれていた。






     ☆     ☆     ☆

205 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/25(土) 21:56:05 ID:XWtDTcAU0
 竹林の道を歩き始めてしばらくした頃。

(ヽ^ω^)「あ」

 と、ブーンが言った。

(ヽ^ν^)「忘れ物ですか?」

(ヽ^ω^)「いや、違う。この虎の声」

思いついたことでもあったらしく、ブーンは目を見開いていた。

(ヽ^ω^)「もしかして歌なんじゃないかな」

( ^ν^)「歌?」

( ^ω^)「うん。森に入ってようやく気づいたけど、同じようなフレーズが繰り返されているみたい」

206 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/25(土) 21:57:11 ID:XWtDTcAU0
 耳に届いている虎の音が、言われてみると、微かにつながりを帯びているように聞こえてくる。

( ^ν^)「本当だ。でも、なんで歌なんか」

 そう呟いたニュッ君が、小さく、息をのんだ。


「虎の手だと、何も作れないから」

「ん、なんだっけ。それ」

「キュートが言ってたんです。師匠について、そう」

 そのたった一言が、急に心に浮かんだ。

 虎の手ではミニチュア細工は作れない。
 それでも何かを作りたいと思ったら、歌うことくらいしかできないのではないか。
 だとしたら、この歌はキュートの師匠が歌っているのだろうか。

 最初のうち、声はキュートを遠ざけていた。

207 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/25(土) 21:58:49 ID:XWtDTcAU0
(;^ν^)「物を作れない自分を見せたくなかった……?」

 推測が口をついて出てしまう。
 仮定を踏まえて思考だけが先に走っていく。

 一度は退けたものの、声は最後にはキュートを墓へと導いた。
 それが墓だと、断定したのはキュートだ。

 薄々気づいていた、と彼女は言った。
 キュートが髪留めを置いた理由を、彼女はついに語らなかった。

( ^ν^) ・・・

( ^ν^)「ねえ、ブーンさん」

( ^ω^)「うん?」

208 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/25(土) 21:59:46 ID:XWtDTcAU0
( ^ν^)「キュートと師匠さんって、どういう関係だったんですかね。
      そもそも何で旅をしていたのかも、話されませんでしたよね、俺ら」

( ^ω^)「……僕は聞いてないし、あの人も話さなかったからなあ」

 だから、想像でしかないけど、と言い添えてから。

( ^ω^)「何年も旅をしたあとにも、ふっと会いたくなるような、仲のいい二人だったんだよ。きっと」

 眺め回した竹林に、ニュッ君は虎の影を探そうとした。
 細い幹と幹の隙間を縫うように。
 しかしどれだけ目を凝らしても、ついぞその影は見つけられなかった。

 悲しい調べの虎の歌はやがて風の音に薄らぎ途切れた。



     ☆     ☆     ☆

     ☆     ☆

     ☆

210 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/25(土) 22:01:52 ID:XWtDTcAU0





第十九話 虎の村 (冬月逍遥編④) 終わり

第二十話へ続く





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211 ◆MgfCBKfMmo:2016/06/25(土) 22:02:50 ID:XWtDTcAU0
おまけ


最近町中を彩っている工芸品をご存じだろうか。
一遍100×100サイズで売られているパッチワークパッチワーク(→写真①)である。

まるで町の一風景を切り取ったかのようなその絵柄は学舎に通う女学生を中心に話題となり
今や老若男女を問わず、日常生活を飾るちょっとしたアクセントとして人気を博している。

作者はサナ雨林の某村在住の工芸師、キュート・スプリング氏(2*歳)。

「自分の作品が大勢の人々の手に取られるようになるなんて夢にも思わなかったですよ」
素直に驚きを表しつつも、我々取材班のインタビューに快く応じてくれるスプリング氏。(↓写真②)


(中略)


「……私の作品は、実はほとんどモデルがあるんですよ。昔憧れていた工芸師さんの、ええそう、さっき話した師匠です。
 いつまでたっても師匠の作品のすばらしさが忘れられなくて、再現したくて、ガムシャラに編んでいるんです。

 師匠が工芸作品を作ることはもう無いけど、いつまでもそれを悲しんでいるんじゃなくて、師匠に並べるように私が頑張ろう、って。
 本格的にパッチワークに取り組み始めた今でも、いいえ、今だからこそ、その思いを強くしながら取り組んでいます。

 あ、もちろん、買ってくださった方々は私のことを気にせずご自分の好きなように使ってほしいですよ。
 他の誰かに見てもらって、その人の魅力を上げる一助になってくだされば、私はとても嬉しいんです」

――本日は貴重なお話ありがとうございました。

次回は、最近澄んだ歌声が聞こえると評判のサナ雨林遊歩道についてご紹介します。

~~アーケ町報 31*年冬号『しんみり流行案内』より抜粋~~


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