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( ^ω^)優しい衛兵と冷たい王女のようですζ(゚ー゚*ζ 第二十話

217 ◆MgfCBKfMmo:2016/07/02(土) 20:02:07 ID:qmaQ7Tl.0
(´・_ゝ・`)「いらっしゃい」

(´・_ゝ・`)「見ない顔だね。遠くからのお客様かな?」

(´^_ゝ^`)「お好きな席へどうぞ。見ての通り、どの席も空いていますから」

(´・_ゝ・`)「ご注文がお決まりになりましたら及びくださいね」

(´・_ゝ・`)φ「あ、もう選びました?」

(´・_ゝ・`)φ「違う?」

(´^_ゝ^`)「ああ、この音楽ですか。オルゴールですよ」

(´^_ゝ^`)σ「カウンターの一番端、柊の葉のリースの傍に置いてありますでしょう?」

(´・_ゝ・`)「卵型のオルゴール。ほんの少し前までこのお店で働いていた、元店員のものだったんです」

218 ◆MgfCBKfMmo:2016/07/02(土) 20:03:12 ID:qmaQ7Tl.0
(´・_ゝ・`)「要らないなんて言うものだから、僕がもらっちゃいました」

(´・_ゝ・`)「しんみりとし過ぎな気もしますけど、鳴らしてみると様になるものなんですよね」

(´^_ゝ^`)「気に入っていただけました? それは良かった。あの子もきっと喜びます」

(´・_ゝ・`)「ところでご注文は……まだいい? ああ、そうですか。どうぞごゆっくりお選びください」

(´・_ゝ・`)そ「はい? 探し物ですか? え、人」

(´・_ゝ・`)□「写真があるんですね。このあたりじゃ珍しい。魔人製? ひょっとしてテーベ製の機械ですか? お高いんでしょう、あれ」

(´・_ゝ・`)□「……ん?」

(´・_ゝ・`)□ ・・・

(´・_ゝ・`)□「この人、いったい何をしたんですか?」

219 ◆MgfCBKfMmo:2016/07/02(土) 20:04:09 ID:qmaQ7Tl.0
(´・_ゝ・`)□「教えられないですか。そうですか」

(´・_ゝ・`)□「いえ、見たことは、ええと、ありますよ。はい」

(´・_ゝ・`)□「ただ特別悪い人には見えませんでしたからね」

(´・_ゝ・`)つ□「とりあえずお返しします」

(´・_ゝ・`)「そもそもあなた方はいったいどうしてあの人を探しているんですか」

(´・_ゝ・`)「答えられない? ふむ……」

(´・_ゝ・`)「正直なところ、その人のことを売るような真似はしたくありませんので、ええ」

(´-_ゝ-`)「いえいえ、こちらのわがままです。謝られることはありません」

(´・_ゝ・`)「お帰りですか」

(´・_ゝ・`)「注文、しないんですね」

220 ◆MgfCBKfMmo:2016/07/02(土) 20:05:08 ID:qmaQ7Tl.0
(´・_ゝ・`)「こんなこという空気じゃないのかもしれませんが、もしもよかったらまた来てください」

(´^_ゝ^`)「一緒にオルゴールを聞きながら一服つきましょうよ」

(´・_ゝ・`)「え? 歌の意味ですか? いえ、あまり詳しくは……」

(´・_ゝ・`)「なんですか? 掌なんて」

バシュンッ

(´ _ゝ `) フッ

「あーあ、またやったな」

「そんなにむやみに消しちゃって大丈夫かよ?」

コクコク

「まったくもう」

221 ◆MgfCBKfMmo:2016/07/02(土) 20:06:12 ID:qmaQ7Tl.0
「で、どうするんだ、これから」

「手がかりないじゃねえか。もう半月経つっていうのに」

「この町に来たのは確か、か。まあそうか」

「気軽に跡を追うっていうけどな、あんたには仕事があるだろ」

「酋長」

「探偵ごっこもここまでにして、そろそろ馬車に乗るぞ」

「今からなら、年末の訓示に間に合うはずだ」

「大司教も待ってるから」

「コーヒーが飲みたい? 自分で眠らせておいて何言ってんだよ」

「はいはい、ダダこねない。とっとと行く。ほら」

キイー

…バタンッ

222 ◆MgfCBKfMmo:2016/07/02(土) 20:07:07 ID:qmaQ7Tl.0
(´ _ゝ `)「ん」

(´+_ゝ-`)「うーん」

(´・_ゝ・`) パチリ

(´・_ゝ・`)「……はて、どうしてテーブルに寝てなんか」

(´・_ゝ・`) ・・・

(´・_ゝ・`)そ「あ! 開店時間過ぎてる!」

(;´+_ゝ+`)「弱ったなあ。寝ぼけていたかな」

(;´・_ゝ・`)「お客さんが来る前に掃除しないと」

アーイソガシイ、イソガシイ



     ☆     ☆     ☆

223 ◆MgfCBKfMmo:2016/07/02(土) 20:08:16 ID:qmaQ7Tl.0
( ^ν^)そ「ん」

 街道を歩いている途中、ふっと背筋を伸ばして振り返った。
 鬱蒼とした森もすでに遠くなりつつある。
 その向こうはニュッ君の目になじみのある、ヘルセ付近の山の影だ。

( ^ω^)「どうしたんだい」

( ^ν^)「いや、なんだろう。虫でも飛んできたかな」

 歩みを止めて頬をかいた。
 これといったものは何も思い浮かばない。

( ^ν^)「なあ、ブーンさん。そういえば、向こうに見えてるあれは何なんだ」

 話題を探して、ニュッ君は東を指さした。

 これまで山に隠れていた方向に、すらりと伸びる高いものが見えている。
 普通の山よりもずっと細長く、棘のような形をしている。

( ^ω^)「イオの峰だね。僕の故郷からもよく見えたよ」

224 ◆MgfCBKfMmo:2016/07/02(土) 20:09:07 ID:qmaQ7Tl.0
( ^ν^)「山なのか?」

( ^ω^)「そのはず。といっても、北のマルティア国の領土内だから詳しくは知らないけれど。
      こんな昔話があったろう。『魔人は昔、イオの峰から降りてきた』って」

( ^ν^)「ああ、そんな話もあったかな」

 ニュッ君がその昔話を聞いたのは、教会で暮らしていた頃だ。
 身寄りのない子供たちを育てていた教会の教父の一人が、彼の寝床で毎晩お話を読んでいた。

 ずっと昔のお伽噺。
 一番初めは北西に浮かぶ島の高い峰から。
 それから後に続いて世界各地の峰から彼らが降りてきたという話。

 実際に彼らが山で生まれて降りてきたのか、それとも何かの比喩なのか。
 それは今、少なくとも庶民には誰にもわかっていない。

 わかっているのは、少なくとも300年前から、彼らが人間社会に溶け込んでいたという事実。

225 ◆MgfCBKfMmo:2016/07/02(土) 20:10:14 ID:qmaQ7Tl.0
( ^ν^)「実物を見たのは初めてでしたよ」

 目を眇めて山を見つめて、首が痛いなとぼやいた。

( ^ν^)「次の町までどれくらい」

( ^ω^)「あと少しだよ。ほら、前の方、何か見えるよね」

( ^ν^)「おー、あれか。あれは……なんだ?」

 イオの峰に見下ろされながら、彼らは街道をまた歩き始めた。




     ☆     ☆     ☆

226 ◆MgfCBKfMmo:2016/07/02(土) 20:11:19 ID:qmaQ7Tl.0





第二十話

猪と栗鼠の町、あるいはひとつの観測地(冬月逍遥編⑤)





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227 ◆MgfCBKfMmo:2016/07/02(土) 20:14:13 ID:qmaQ7Tl.0
 どぉん、と強い音がした。

( ^ν^)「ん?」

(;^ω^)「うっわ」

 ロビーで二人、ブーンとニュッ君は衝撃に体を揺さぶられる。

 薄暗いロビー。
 地震のような衝撃だったのに、声を出したのは二人だけだ。

( ^ν^)「なんかみんな白けてるな」

 あたりの人たちを眺めまわしてニュッ君がつぶやいた。
 ロビーにいるほかの人たちは騒がずに、審査が進むたびに番号が更新される掲示板を見つめている。

 ここは審査庁。
 エウリドメの入り口に建てられている、入町手続きをするための施設だった。

228 ◆MgfCBKfMmo:2016/07/02(土) 20:15:14 ID:qmaQ7Tl.0
( ^ω^)「結構揺れた気がしたんだけどなあ」

( ^ν^)「地震が多い町なんですかね」

( ^ω^)「ふうん、これも慣れか」

 などと納得しかけていると、「地震じゃないわよ」と、横から声が割って入ってきた。
 見れば恰幅のいい中年の女性がにこにこしながら立っていた。

「町の中の猪が壁に体当たりしてるのよ」

( ^ω^)「壁?」

「来るときに見たでしょ。エウリドメを囲んでいるあの壁」

 来た時のことを思い出す。
 人を十人縦に並べてようやくつり合いがとれそうな、大きな壁が、審査庁の周りに聳えていた。
 街道から見えていて、十分に二人を驚かせたのだが、それはほんの一面でしかなかったらしい。

( ^ν^)「確かに壁は見えたな。あれ、町を覆っているのか」

229 ◆MgfCBKfMmo:2016/07/02(土) 20:16:09 ID:qmaQ7Tl.0
( ^ω^)「猪とは、森から紛れ込んできたんですか?」

 ブーンは歩いてきたときを思い出していた。
 サナ雨林を抜けてしばらく歩くと、森ほどではないにしろ、たくさんの樹木が出迎えてくれていた。
 冬だからこそ葉のない木が目立つのだが、春先から夏頃にはさぞ豊かに生い茂るようだった。

「ううん、違う。ずっと昔に森から連れてきた猪たちよ。
 猪ってほら、どこでも体当たりしちゃうでしょう?
 外の森のどこからでも走ってこれちゃうと対策が立てられないからって
 どこでどう体当たりされたかすぐに把握できるようにしてあるのよ」

( ^ν^)「管理しているんだな」

「そうともいえるかも」

 気のいいその人はまだまだ話したがっていたが、審査室から名前を呼ばれて、名残惜しそうに立ち上がった。

「じゃあね、旅人さん。少し変わっているけれど、いい町だからゆっくりね」

 話し好きなおばさんもいなくなり、また二人きりに戻った。

230 ◆MgfCBKfMmo:2016/07/02(土) 20:17:07 ID:qmaQ7Tl.0
( ^ω^)「体当たり、か。町の人たちもそれに慣れっこで、だから驚かないと」

( ^ν^)「名物みたいなものなんかね。それにしては煩そうだけど」

( ^ω^)「猪の数そのものは多くないのかもしれないね」

 せっかくだし一回くらいはみたいかも。
 なんてことを呟いていたら、名前を呼ばれた。

( ^ν^)「観光、でいいっすよね」

( ^ω^)「いいと思うよ。たぶんあんまり長く滞在できないと思うけど」

 そして二人は審査を受けて、三日間という滞在期間を得た。



     ☆     ☆     ☆

231 ◆MgfCBKfMmo:2016/07/02(土) 20:18:06 ID:qmaQ7Tl.0
 審査庁を出たら、そこはもう壁の内側だった。

 目につくのは、いくつもの建物だ。
 枯れ木の枝が巻き付いている石造りの建物がそこら中に寄せ集められている。

 細い道が横へも前へも、斜め向こうへも、好きなように伸びていた。
 チョコレート菓子のような家々の屋根が折り重なって空をより狭くしている。
 その屋根のずっと奥に、壁の反対側が高く聳えていた。

 建物には高さが合った。しかしどの建物も、壁と比較すればごくごく小さい。

 新しい町の景色をたびたび二人は目にした。
 その中でも、これほど人の手に寄る物の存在を傍に感じた町並みも珍しかった。
 隙間が狭いせいだろうか、何もかもがミニチュアになってしまったかのように感じられた。

 その目新しい街道が、今はどうにも騒がしい。
 道行く人々の足取りが速く、どうも一方へと向かっているようであった。

232 ◆MgfCBKfMmo:2016/07/02(土) 20:19:08 ID:qmaQ7Tl.0
「逃げたぞ!」

 まずそう聞こえた。
 身構える二人の脇を何かが猛烈なスピードで駆け抜けていく。

「どけどけー!」

 という声が耳に残った。

( ^ω^)「な、なんだ?」

( ^ν^)「風?」

 きょとんとする二人が振り向いた先に、もうその姿は遠ざかっている。
 茶色い堅そうな毛を靡かせて。

( ^ν^)「猪だ」

 呟いた言葉の向こう側で、どしん、とまた大きな音がし、土煙が立ち上った。

 ざわめきながら、人々が街道を走っていく。二人を追い越して、土煙の方角へ。
 怒っている人もいれば、笑っている人もいる。どちらかといえば気楽そうな顔をした人が多かった。

233 ◆MgfCBKfMmo:2016/07/02(土) 20:21:08 ID:qmaQ7Tl.0
 首を伸ばして眺めてみれば、猪の横たわっているのが見えた。

「離せ!」

 誰かが叫んでいる。
 警備員といった風情の男が石畳の床に膝をついてごそごそと手を動かしている。
 目を凝らしてみて、初めてその手に小さな人が握られているjのがわかった。

(=゚д゚)「ちくしょう、離しやがれ。こんなところで捕まえやがって」

 冬だというのに赤い布一枚をカーディガンのように羽織った小さな人が罵声の主だった。
 背は低く、顔だちも幼く、体毛の毛深いのを除くと人間と変わりない。

 あれは誰かと尋ねたら、「栗鼠の魔人だよ」と誰かが答えてくれた。

(;゚д゚)「やめろよ、町から出さないでくれよ。頼むよ」

 栗鼠の声は次第に小さくなっていく。
 警備員はそれを無視して、男をわしづかみにして背中で抱え、審査庁へと進んでいった。

 そのようにして、扉の向こうに栗鼠と猪は連れて行かれた。

234 ◆MgfCBKfMmo:2016/07/02(土) 20:22:17 ID:qmaQ7Tl.0
「今日も行っちゃったね」

 誰かが言い、みんなが笑って、それで野次馬はお開きになった。
 あっけないほどにみんな、顔を背けて狭い街道へと消えていく。
 絡みつく枝たちの描くアーチに埋もれていくように。

( ^ν^)「なんだったんだろ」

( ^ω^)「さあねえ。魔人だけど、子どもだからかな。あんまり怖がられてもいないみたいだ」

 宿へと向かう道すがら、往来の人々にそれとなく質問をした。
 猪について、栗鼠について。
 帰ってくる言葉はだいたい同じ。

 昔、ここに猪の村があった。
 人間はあとからその村におじゃましたが、猪の力に怯えて壁の中に閉じ込めた。
 そのうち壁に絡みついた蔦に栗鼠が登ってきて、二種族目の魔人になった。
 だが、栗鼠たちは壁からすぐに出て行った。いかに小さかろうと、壁の中は窮屈だったのだ。

 栗鼠の魔人は町を出て、今はサナ雨林の森の中に潜んでいるという。

235 ◆MgfCBKfMmo:2016/07/02(土) 20:26:06 ID:qmaQ7Tl.0
「でも、さっきの栗鼠は特殊だよ」

 たまたま声を掛けた露天商が、話が好きならしく、付随することをいろいろと教えてくれた。

「あの栗鼠、もう何年も前からいるんだ。で、猪をけしかけて外へと出そうとしているんだよ」

( ^ν^)「壁を壊すつもりなんですか」

「そうみたいだよ。よくやるよね。もう何百年と一度も崩れたこともないのに」

 露天の品を売り込まれる前に、早口で別れを告げ、
 聳える壁に一瞥をあげながら、二人は宿へと道を急いだ。



     ☆     ☆     ☆

236 ◆MgfCBKfMmo:2016/07/02(土) 20:26:59 ID:qmaQ7Tl.0
 空には星が輝いている。
 冬の大三角形が見下ろしてきている中、壁の一部が少し動いた。

 猪が向かいに立っていて、鼻でその端を押している。

(=゚д゚)「よしよし」

 と、言いながら顔を出したのは、昼間壁にぶつかっていたあの栗鼠だ。

「もうやめようよ」

 栗鼠の体が半分穴から出てきたところで、猪はか細い声を出した。
 栗鼠は聞く耳持たず自分の身体を揺らしている。

「やめようよ、こんなこと。注目を集めるだけだよ」

先ほどより幾分か大きな声で猪が声を震わせた。

237 ◆MgfCBKfMmo:2016/07/02(土) 20:28:00 ID:qmaQ7Tl.0
(=゚д゚)「そんなこというな」

 栗鼠がとうとう腕を出す。

(=゚д゚)「いいか、お前はずっと壁の中にいたんだ。だから知らないんだ。壁の外の世界を。
 お前らはみんな、もっと自由に走っていいってことを知らないんだよ」

「そんなの知ってるよ」

(=゚д゚)「いいや、知らない。知らないから満足していられるんだ」

「満足しちゃいけないのかい」

(=゚д゚)「いけなくないけど! でもこんな――」

 足跡がして、声がやむ。
 猪の後ろに立っていた人影が、ゆらりと揺れて猪と栗鼠に近づいた。

「大丈夫」

 と、人影が言い、月明かりの元で微笑みを見せた。

( ^ω^)「獲って焼いたりはしないし、君らのことも黙っているから」

238 ◆MgfCBKfMmo:2016/07/02(土) 20:29:51 ID:qmaQ7Tl.0
 宿へと向かっていたときに、その穴に気が付いた。
 日雇いでの警備員時代に培った勘である。

 穴の奥に帰ってしまった栗鼠は、顔の体毛をわずかに覗かせた。

(=゚д゚)「本当だろうな」

( ^ω^)「うん」

(=゚д゚)「だったら証拠を見せろ」

( ^ω^)「証拠と言ってもなあ……外からきた旅人だってことくらいしかわからないよ」

 首から下げた、入町管理証を指でつまんで持ち上げる。
 審査庁から授かったプレートで、何が起きても必ず身に着けるように言われていた。
 わずらわしい管理システムとも思ったが、こんなところで役立つのは予想外だった。

 栗鼠がとうとう穴から顔を出して、管理証を鼻を寄せて嗅いだ。
 しばらくして重々しくうなずくと、栗鼠はブーンの前に姿を見せた。

(=゚д゚)「審査庁の人間じゃないことはわかったけど、何の用」

( ^ω^)「ちょっとお話しでもどうでしょう」

(=゚д゚)「なら、別の場所にしよう。この穴をばらしたくはない」

 手招きする栗鼠の背中を追って、ブーンも夜の町をひっそり歩いた。



     ☆     ☆     ☆

239 ◆MgfCBKfMmo:2016/07/02(土) 20:30:55 ID:qmaQ7Tl.0
( ^ω^)「なるほど、静かでいいところだ」

 町の真ん中、丸い敷地の広場には、昼間だけ稼働する噴泉がある。
 雑踏はすでになく、ひっそり沈んだ空気の中に、花壇の傍の草原でブーンたちは寝ころんだ。

(=゚д゚)「旅人なの?」

 となりに座った栗鼠が尋ねた。

( ^ω^)「うん」

「うわあ、すごいなあ」

 とは、猪の言葉だ。

(=゚д゚)「お前は何感心しているんだよ!」

 のんびりとした猪に、栗鼠の早口の叱咤が飛んだ。
 肩をすくめる猪の背中を何度もその小さな掌が叩いた。

240 ◆MgfCBKfMmo:2016/07/02(土) 20:31:53 ID:qmaQ7Tl.0
(=゚д゚)「お前もそうなるんだよ。いずれ外に出て、あてもなくふらつくんだ」

「ええ、できるかな」

(=゚д゚)「できる」

(;^ω^)「まあまあ、僕だってただふらついているわけじゃないよ」

 微笑みながら、ブーンが上半身を起こした。

( ^ω^)「目的はあるんだ。首都を目指している。僕の過去を知る人がいるんじゃないかと思ってね」

 記憶が無いんだよ。

 そう、ブーンは付け足した。

241 ◆MgfCBKfMmo:2016/07/02(土) 20:32:52 ID:qmaQ7Tl.0
(=゚д゚)「どういうこと?」

 素直な疑問が二人の口から出てくる。
 いがみあっていたとしても、このときばかりは目を輝かせている。
 年のころは、ブーンやニュッ君よりももっと若い。十代かそこらでしかないようだ。

( ^ω^)「そうだねえ、話すと長いんだけど。
      目が覚めたらエウロパの森の南の入り口で寝ていたんだ。
      何も持っていない状態から始まって、嫌でも生きていかなきゃならなくて、日雇いの仕事で食いつないだ」

( ^ω^)「ようやく生活になったのは鴉の町に行ってからだ。
      それから自分の記憶を求めて、道をたどって町を渡り歩いた。
      蛇の町、虎の村、そして猪と栗鼠の町。
      思えば旅したものだね。もう一か月近くなるよ」

 もう何日もしたら、新しい年が始まる。
 310年。魔人が来てから始まった新暦も、大きな節目が始まりつつある。
 年の瀬迫るこの時期に旅に出るなんて、やはり珍しいことらしく、栗鼠は不可解気に首を傾げた。

 でもすぐにその相好は崩れた。

(=゚д゚)「もっと話を聞かせてよ」

 声はすっかり少年の声だ。

242 ◆MgfCBKfMmo:2016/07/02(土) 20:33:51 ID:qmaQ7Tl.0
(=゚д゚)「俺、外の世界をみたいんだ。こんな壁なんかにしばられるのはもうたくさんなんだよ」

( ^ω^)「でも、閉じ込められているのは猪だけなんだろう。
      君たち栗鼠はもともと外で暮らしているって聞いたけど」

(=゚д゚)「うん。でも、俺はこいつと一緒に行きたいから」

 栗鼠はそう言って、猪の頭を手でたたいた。
 小さな手の指がごわごわの毛に絡まって、猪が気持ちよさそうに鳴いた。

 なるほど、とつぶやいて、ブーンの口の端がめくれる。

( ^ω^)「仲がいいんだね」

(=゚д゚)「うん。俺が初めてこの町に入ったときに知り合ったんだ。
     こいつがずっと閉じ込められているのが、俺すっごく嫌なんだよ」

( ^ω^)「……優しいな」

 ぽつりと、小さく口からこぼすと、ブーンの指が栗鼠の頭に向かった。
 掌を置くには小さすぎる頭を、指の腹でちょっとなぜる。
 短い薄い茶色の体毛が、月明かりの下でブーンにゆすられた。

243 ◆MgfCBKfMmo:2016/07/02(土) 20:34:51 ID:qmaQ7Tl.0
( ^ω^)「大切にするんだよ。
      一緒にいたい人がいるのは、きっといいことだから」

 うん、と栗鼠が元気よく答える。

 今日のことは不問に伏す、だから黙っているように。
 そう宣言して、喜ぶ彼らを背にブーンは離れた。
 寒々とした冬の風が寝具に上着を羽織っただけの彼の着た物を揺らす。

( ^ω^)「優しい、か」

 もう少しだけ散策して、ブーンは宿へと帰っていった。



     ☆     ☆     ☆

244 ◆MgfCBKfMmo:2016/07/02(土) 20:35:55 ID:qmaQ7Tl.0
( ^ω^)「おや」

( ^ν^)「おう、お帰りっす」

 オレンジ色のカーペットが敷かれた部屋で、ニュッ君は窓辺に座っていた。

( ^ω^)「寝ないのかい? もう夜更けだけど」

( ^ν^)「眠れなくてな。あんた、今日はどうして外に出たんだ」

( ^ω^)「警備員時代の癖、かな。やましいことはしてないよ」

 上着をハンガーにかけて、鞄を床の籠に入れて、ベッドに腰かけた。
 年代物なのか、あまり柔らかさは感じないが、掃除は行き届いていて、シーツも綺麗に角に収まっていた。

( ^ν^)「結構遅くに帰るものなんですね」

 話が続いていた。

245 ◆MgfCBKfMmo:2016/07/02(土) 20:36:55 ID:qmaQ7Tl.0
( ^ω^)「だいたい明け方に帰ってきて、午前中は眠っていた。
      目覚めて身支度を整えて、それからロッシュへ向かってパスタを食べていた」

( ^ν^)「日雇いにしてはハードっすね」

( ^ω^)「思い返せばね。でもほかにやることもなかったし、お金も十分に溜まったし」

( ^ν^)「今更っすけど、喫茶店、通い詰めてくださってありがとうございました」

( ^ω^)「いえいえ」

( ^ν^) ・・・

( ^ν^)「あの」

( ^ω^)「うん?」

( ^ν^)「あのころの俺、旅することなんて考えもしなかったっす」

 ニュッ君がブーンの方を向いた。
 月明かりの逆行でブーンからは見えにくかったが、その顔は真剣だった。

246 ◆MgfCBKfMmo:2016/07/02(土) 20:37:51 ID:qmaQ7Tl.0
( ^ν^)「外の世界のことも何も知らないで、ずっと喫茶店を手伝って生きていく気でいました。
      それでいいんだって思っていたんです」

( ^ν^)「でも、それをデミタスは良くないと思った。だからあんたと一緒に、俺は旅に出た」

( ^ν^)「それはそれで、いいことだったんだろうなって、今では思います。
      世間を知るって意味で」

 聞いていたブーンはゆっくりと頷いた。
 それから口を開こうとしたが、その前に「待って」とニュッ君が制した。

( ^ν^)「待ってください。まだ話は終わりじゃない」

( ^ω^)「そうなの?」

( ^ν^)「はい。ちょっと待ってください」

247 ◆MgfCBKfMmo:2016/07/02(土) 20:38:50 ID:qmaQ7Tl.0
 時間を置いた。
 ニュッ君は眉根を寄せて、じっくりと考えていた。
 口を小さく動かして、言葉が微かに聞き取れるくらい呟いていて。

 やがて言葉を紡いでいった。

( ^ν^)「人って、みんな何かしらのしがらみがあると思うんです。
      それはいろんな形をしています。恩義だったり、しきたりだったり、ここみたいにはっきりとした壁だったり。
      現状に閉じ込める何かに囚われている人たちを、旅している中でいろいろと目にしたように思います」

( ^ν^)「俺のしがらみも、恩義でした。デミタスへの恩があって、世間に出ることを無意識のうちに度外視していた。
      そのことをデミタス本人が俺に教えてくれた。こういうのは、きっとすごく珍しいことなんすよね。
      しがらみから抜け出す後押しをしてくれるなんて」

( ^ν^)「だから俺は、今気楽です。何の気なしに旅をして、ブーンさんにしたがって歩いています。
      とりあえず首都までは行こうって、それだけを決めていたものだから、ほかのこと何にもしていなくて」

248 ◆MgfCBKfMmo:2016/07/02(土) 20:39:53 ID:qmaQ7Tl.0
 ニュッ君が頭をかいた。
 うまく思いつかねえけど、と言葉を添えて、それでもブーンの方を向いていた。

( ^ν^)「もしも首都についたら、俺、仕事を探したいです」

( ^ω^)「一人で生きる、と」

( ^ν^)「そうっすね。ブーンさんとはお別れになると思うんですけど」

( ^ω^)「気にすることはないよ」

 朗らかに言うと、ブーンは顔を崩して、手を後ろに伸ばして天井を向いた。

( ^ω^)「あー、どんなことを言われるかと思ったら、なるほどそういう話か」

( ^ν^)「……変でした?」

249 ◆MgfCBKfMmo:2016/07/02(土) 20:40:50 ID:qmaQ7Tl.0
( ^ω^)「いやいや、そうじゃない。むしろなんだか安心したよ。
      ここまで長々歩いてきたけれど、初めて君からちゃんと、自分についての意見を聞いた気がする」

( ^ν^)「そうっすかね」

 ぽりぽりと頬をかいて、そうしているうちに、ニュッ君の口元が緩んでいった。

( ^ν^)「今まで、自分のことを話すってのがそもそもあまりなかったんだと思います。
      だからちょっと、なんかこう、言いにくかった」

( ^ω^)「そりゃあ、言えてよかった」

( ^ν^)「……はい」

 そういって、ニュッ君は鼻で笑った。
 今まで彼がしてきたどれよりも柔らかい笑い方だった。

 ブーンは天井から顔を戻した。

250 ◆MgfCBKfMmo:2016/07/02(土) 20:41:48 ID:qmaQ7Tl.0
( ^ω^)「まあ、この旅の資金は今回の僕の仕事でだいぶ稼ぐから。
      年が明けるころまでは仕事して、それから首都に行こう。それまではまだ職探しはいいよ」

( ^ν^)「大丈夫ですか?」

( ^ω^)「平気だよ。それに僕がいない間に家事をしてくれるから助かってもいるんだ。
      あとは図書館にでも行って、調べておきなよ。首都がどんなところだとか、どんな仕事があるかとか」

( ^ω^)ゝ「まあ、僕が知りたいところなんだけどね」

( ^ν^)「なんなら教えてあげますよ、調べて」

( ^ω^)「おお、それはいい! まとめてくれるとありがたい。僕の記憶が――」

 そこで。


 言葉は途切れた。

251 ◆MgfCBKfMmo:2016/07/02(土) 20:44:16 ID:qmaQ7Tl.0
 原因は、外にあった。

 衝突音でも、風の音でもない。


( ^ν^)「なんすか、これ――」


 それは低く轟く、悲鳴のような音。




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私の記憶が正しければ


その音が初めて観測されたのは、309年12月17日。


人々の寝静まっていた、夜中のことだ。

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252 ◆MgfCBKfMmo:2016/07/02(土) 20:45:07 ID:qmaQ7Tl.0
「どうしたんだよ、おい」

 壁の前で、栗鼠が叫んでいた。

 乗っている猪は、鼻息が荒くなっている。
 瞳には赤い光が宿り、壁を目にして、地面を蹴り続けている。

「もう一度やるか? 壁を壊すってんなら、応援するけど、こんな夜中じゃ、おい!」

 栗鼠の叫びを置き去りにするかのように、猪は駆けた。
 まっすぐ、石造りの壁に向かって。




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後に“サイレン”と呼ばれるその音を耳にした魔人の数は、


彼の地域においておよそ10万人とも20万人ともいわれている。


発症したのは、そのうちの三割に及んだそうだ。


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253 ◆MgfCBKfMmo:2016/07/02(土) 20:46:36 ID:qmaQ7Tl.0
(=゚д゚)「は、はは」

 壊れた人形のような笑い声が栗鼠の口元から洩れた。

 猪の牙がいつもよりも数段鋭く、突進の威力も増していた。
 壁の砕けたときの感触が、栗鼠の全身をいまだに痺れさせている。

 壁の向こう側には草原があった。
 背の高い草の向こうに、高く昇った冬の月。


(=゚д゚)「やったんじゃんか、なあ、おい!」

 猪の頭を叩いて栗鼠が喜ぶ。

 その下で、猪がまだ鼻息荒くたたずんでいる。

 と、その身をひるがえした。

(=゚д゚)「え?」

 栗鼠の顔が一気に青ざめる。

254 ◆MgfCBKfMmo:2016/07/02(土) 20:48:01 ID:qmaQ7Tl.0
(=゚д゚)「おいどうした。そっちは元いた町だぞ。エウリドメの」

 疑問の声はすぐに消える。
 再び猪がかけていた。

 赤い瞳を光らせて。







     ☆     ☆     ☆

255 ◆MgfCBKfMmo:2016/07/02(土) 20:49:15 ID:qmaQ7Tl.0
( ^ν^)「……なんなんだよ」

 いてもたってもいられなかった。

 窓の外が赤く燃えるのをみて、慌てて宿屋から飛び出していった。

 狭い街道には人々がたたずんでいる。
 何をすることもできず、所在なさげに町の空を見つめていた。

 赤い炎が空を食んでいる。
 濛々と立ち込める黒い煙に、瓦礫が混じって輝いている。

 何かの崩れる音。
 遠くで鳴り響く悲鳴。
 肌をちりちりと焼く熱気。

 魔人が暴れている、という噂が耳に飛んできた。

 エウリドメで囲っていた猪が暴れて、壁や町のあちこちを壊して回っているのだという噂だ。

256 ◆MgfCBKfMmo:2016/07/02(土) 20:50:11 ID:qmaQ7Tl.0
( ^ω^)「わからない」

 ブーンは頭を抱えていた。
 さっきまで平和な寝静まった町が、今は業火に焼かれている。
 この状況に至った答えを出せる者は、彼らのそばに誰もいなかった。

( ^ν^)「ほかの町は?」

 ニュッ君が誰に対してというわけでもなく、疑問を口にした。
 声が明らかに震えていた。

( ^ν^)「猪が暴れているんだ。栗鼠は? 鴉や、蛇は、虎は? みんな――」

 大きな看板が飛んできて、二人の脇で落ちて砕けた。
 破片が飛び散り、ニュッ君の頬をかすめる。
 傍にいた人の誰かが叫んだ。

 その声も、ニュッ君の耳には遠かった。

( ^ν^)「みんな、どうなったっていうんですか」

 答えの見つからない問いが、熱に溶かされ埋もれていった。

257 ◆MgfCBKfMmo:2016/07/02(土) 20:52:58 ID:qmaQ7Tl.0



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理性を失った彼らによって。


彼の地域のほとんどの町が何らかのダメージを負った。


被害の総計はいまだに計算しつくされていない。


                                  (ある逍遥の記録より)
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258 ◆MgfCBKfMmo:2016/07/02(土) 20:54:05 ID:qmaQ7Tl.0





第二十話 猪と栗鼠の町、あるいはひとつの観測地(冬月逍遥編⑤) 終わり

第二十一話 へ続く





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