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( ^ω^)ヴィップワースのようです 幕間 「月を抱く獣」

749以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/17(水) 09:32:15 ID:3VDthKcU0




   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

             幕間

          「月を抱く獣」

750以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/17(水) 09:33:29 ID:3VDthKcU0
─────大陸のとある場所、ある森にて─────


(;゚д゚ )「ハァッ……ハァッ……」

男は両の拳を血で染め上げ、眼下に横たわる巨大な狼に視線を奪われていた。

一撃で致命傷に及ぶでであろうその狼の牙や爪から繰り出される脅威を、幾度となく回避した。
そして幾度となく己の持ち得る最高の技を叩きつけ、ついにはこの狼を倒す事が出来たのだ。

手に何も武器を持つ事なく、徒手空拳のみだ。

並の人間が知れば、驚嘆を露にする出来事であろうが、ただ一点を己の肉体のみに絞り、
たゆまぬ鍛錬によって磨き上げられてきた彼の肉体と精神、技こそがそれを可能にした。

山から山へと旅歩き、ある日その山中深くで彼と狼は対峙したのだ。

─────今宵は、満月だった。

月には魔が潜むと言われてはいるが、その魔がもっとも活発となるとされるのが、今日の月だ。

751以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/17(水) 09:34:00 ID:3VDthKcU0

いつか、誰かが言った”山の守神”と呼ばれた、大いなる獣。
それは今日という日にだけ山へと現れ、いつものように夜空に浮かぶこの月へと遠吠えするはずだった。

それが彼という男を見つけ、獲物として見定めてしまったばかりに、今、息絶えようとしている。

獣の名は”ムーンロア”

20年以上を生きながらえ、山のふもとの村人にも恐れられていた狼だった。
これまで討伐に向かってきた誰しもが生きて戻る事は適わず、そのあまりの強さに、
もはや魔力すら秘めた獣なのではないかと噂されていた。

そして────確かに獣の眼は、魔的な魅力を秘めた瞳をしていた。
どこか吸い込まれそうになるような、そんな恐ろしい力を感じる。

(;゚д゚ )「よく……勝った……俺は、よく生き残った……」

肩で息をしながら、後から後から溢れ出て来る冷や汗をせき止めようと、自分を鼓舞する。

正しく本心だった。

752以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/17(水) 09:34:46 ID:3VDthKcU0

一撃で意識を断絶され、そして恐らくは一撃で四肢を持っていかれていたであろう、獣の爪牙。
それらから実にかすり傷程度で勝利を収める事が出来たのは、神に祈っても足らないぐらいの奇跡だと思えた。

だが────そんな事を考えながらも、なぜか獣の瞳から眼を逸らせずにいた。

もうすぐ閉じられようとしている、その虚ろな瞳。
その中には自分の姿と重なって、その背後に浮かぶ満月が映っているのが見て取れた。

─────不意に、この獣に対して哀れみを覚える。

誰に頼るでもなく、たった一匹で今まで生きてきた”獣”

とても強く、とても気高く。
とても孤高な存在だった。

その姿が何かに似ていると思い、それが自分自身なのだという事にすぐに思い至ると、
何故だか少しだけ笑みが零れた。

(;゚д゚ )「ふふ……俺も、同じかも知れんな」

753以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/17(水) 09:35:12 ID:3VDthKcU0

孤高に生き、そして孤高に果ててゆく。
それが、今歩む自分自身の生き方なのだ。

─────自分とこの狼は、似た物同志。

それゆえ哀れみを覚えて、瞳を逸らす事が出来ないのかも知れない。
尚も血が滴る両手を左右に、じっとその場で立ち尽くしていた。


(;゚д゚ )「いつの間にか、俺も人としての道から外れ───お前と似たような道を歩んできた」

(ドクン)

その時、胸が大きく高鳴った気がした。
思わず手で確かめてから視線を戻すと、狼の瞳は、大きく見開かれていた。

それに────心なしか先ほどよりも近くに自分を映し出しているかのように感じた。

754以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/17(水) 09:35:52 ID:3VDthKcU0

(;゚д゚ )「俺もいつか、獣のようになってしまうのかもな」

そう言って、自嘲気味に笑みを零す。
だが、仮にそうであっても悔いなどないだけの人生を送ってはずだ。

いや─────一つだけあったか。

(;゚д゚ )(あるいは自分でも気付かない内に、他人から映る自分はもはや獣と同じなのかも知れん)

それでもまだ、人としての悔いは残っている。
あの時の選択が、彼女を突き放した事への後悔が。

そんな気持ちがまだ自分の中にあった事に安心し、ふっと笑みを漏らした。
先ほど大きく見開かれようとしていた獣の瞳は、最後に満月を焼き付けておきたかったのだろうか。

今ではもう完全に閉じられようと、薄く閉じたり、開いたりされている。

そこでようやく血で染め上げられた両手をだらりと投げ出し、彼もまた背後の月を仰ぎ見た。
やはり、これには魔力が秘められているのではないか。

狼の瞳同様に吸い込まれそうになった景色に、そんな事を思い浮かべる。

755以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/17(水) 09:36:23 ID:3VDthKcU0


(ドクン)


( ゚д゚ )「………?」


再び、大きく自分の心臓が高鳴った。
解せない、とばかりに自分の胸を触りながら、感触を確かめる。

だが、やはり何の変化も感じられないのだ。

自分の身に起きている異変に関して何も答えを掴み取る事が出来ないまま、
この静かな山中深くでは、彼と、獣と、月だけの────ただただ不思議に時間が流れていた。

「獣はもう息絶えただろうか」
ふと、そんな事を考えながら何気なく振り向いた時、再び心臓が高鳴った。

先ほど閉じかけられていた獣の瞳が─────自分に向けて、また大きく見開かれているのだ。

756以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/17(水) 09:37:05 ID:3VDthKcU0

( ゚д゚ )「………」

その瞳が映し出すのは、この自分自身の姿。

いや─────違う。

よくよく見てみればそこに映っていた顔は、先ほどから倒れているはずの狼のものだったかも知れない。

定かではないが、そんなような気もする。
違ったような気もするが、やはり解せない。

また月を見る。

(ドクン)



心臓が高鳴った。

(ドクン)

757以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/17(水) 09:37:39 ID:3VDthKcU0


また獣の瞳を見た。そこには自分が?映っている。

(ドクン)




解せない。

( д )(これは……錯覚か?)


その時頭をよぎったのは、あの言葉。


”満月─────今宵の月には、魔力が秘められている”

758以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/17(水) 09:38:17 ID:3VDthKcU0

( д )(山を………下りよう)


もう、獣の瞳を見ている事は出来なかった。
最後に見たその瞳が、閉じていたかも開いていたかも解らない。


ただ、そこに映し出されていたのが狼だった事は覚えている────いや、違う。自分自身の筈だ。


月はやはり、吸い込まれそうなほどに丸く、綺麗だった。

759以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/17(水) 09:40:44 ID:3VDthKcU0


   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

             幕間

          「月を抱く獣」


            ―了―


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