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( ^ω^)ヴィップワースのようです 第5話 「静寂の深緑」 その2

89名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 06:55:54 ID:zkfwVdHY0

───────────────


──────────

─────

从;'ー'从「な、何なの……何なのよ……これぇッ」

森に隠されていた脅威、これだったのだ。
顔のある木の化け物達は、笑い声ともつかぬ気色の悪い音色の協奏曲を奏でる。

周囲の木はばきばきと音を鳴らせながら、次々にその異形を顕にしてゆく。
足元に伸びる背後の影では身を捩じらせながら、歓喜に踊っているように思えた。

まるで、彼女達の必死と恐怖を嘲り笑うかのように。

ξ;゚⊿゚)ξ(───ブーン……皆っ!)

ブーン達の消えて行った方向を遠くに眺めて一瞬躊躇したツンの肩を、クーが強引に手繰り寄せる。
この状況でまごまごしていれば、たちまちあの木々に行く手を遮られてしまう。

分断されたこの状況では、やはりクーに言われた通りだ。
ツン一人ではこんな危機から身を守る術を持たぬ、一人の女性だという事を痛感させられる。

90名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 06:57:16 ID:zkfwVdHY0

从;'ー'从「ど、どうすればっ」

ξ;゚⊿゚)ξ「………ッ」

ツンの道衣の袖をつかみ、うろたえる少女。
二人で顔を見合わせる中、彼女の恐怖はやがてツンにまで伝染しかけていた。

だが、この混沌の中にありながらも、しかとまだ強い意思を瞳に宿して道標となったのは、彼女。

川;゚ -゚)「……走るんだ。幸いにして動きは鈍い、脇を抜けて出口を目指す」

クーが二人に目配せを送ると、三人は同時にゆっくりと頷いた。
そして彼女の合図を機に、全員ともがその場からはじき出されるようにして走り出す。

… ギチギチ …

  … ギギ、ウェハ…ウェハハ …

川;゚ -゚)「離れずについてこい!」

一定の距離を保ってとり囲んでいた木達もまた、それに気付いて動き始めた。
器用に根を地面で這わせて伝い歩く光景だが、背後を確認してそれを目にする余裕もない。

91名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 06:58:30 ID:zkfwVdHY0

ξ;゚⊿゚)ξ「はっ、はぁっ……!」

自分達の置かれた状況をまるで把握できぬままに、悪夢で彩られた森の中を走り続ける。
目的地は森の外────だが、行く先々には顔を持つ木の化け物達が姿を潜めているのだ。

从;>ー<从「!? きゃぁッ」

川 ゚ -゚)「!!」

後方を走るワタナベの横合いから、突然目の前に向かって何かが振るわれた。
恐怖に思わず頭をかばいながらかがむ事で、偶然にもそれをかわす事が出来た。

ξ;゚⊿゚)ξ「ワタナベちゃん!」

だが頭のすぐ上を通過した、木の急襲が刻んだ恐怖は、計り知れなかった。
体つきの華奢な女でなくとも、今のを受ければただでは済まなかっただろう。

運良くそれを避けられたものの、恐怖からかワタナベはしゃがみ込んだまま動けずにいた。

膝が笑っている彼女では立ち上がる事もままならず、さらに悪いことに顔を上げた先では、
そのワタナベを見下ろしていた人面樹と、眼が合ってしまったのだ。

从;'ー'从「あ─────」

92名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 06:59:32 ID:zkfwVdHY0

眼窩の奥に自分を見下ろす光、そして幹が上下に引き裂かれて現れた、笑みを浮かべる口。
その異形と対峙してしまった少女には、恐怖に抗う術もなかった。

「ギギギ……ウェハ、ウェハ!!」

ぽつりと声を上げて、がちがちと歯が震える。
────────このままではただ喰われるのを待つばかり。

ξ;゚⊿゚)ξ「────早く、起き上がって!」

だが、そこへすぐさま引き返したツンが彼女の手を掴むと、再び立ち上がらせる。
その助けが、今を取り巻く悪夢のような現実へとワタナベを立ち返らせた。

从;'ー'从「ツンさ……ありが──」

ξ;゚⊿゚)ξ「いいから!走るのよッ」

ワタナベの背中を強く押し出して、その走りを促した。
二人へと振り返っていたクーが一瞬だけ安堵の表情を浮かべ、また先頭を走りながら叫ぶ。

川;゚ -゚)「気をつけろ!すぐ傍にまで近寄らないと、本物の木かそうでないか見極められん!」

93名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:00:25 ID:zkfwVdHY0

どうやら、このカタンの森の全ての木々が人面樹たちではない。
恐らくはクーの見立て通りであろう、中には一見して普通の樹木もある。
だが、それらの中には近づいた瞬間に、捕食者としての顔を浮かび上がらせるものもある。

森の出口まではそう遠くない場所にまで来たはずだ、森に入った時に過ぎた湖畔が左手に広がる。
だがここに来て、クーは歯噛みをしながら表情を歪めた。

川;゚ -゚)「ちぃッ!」

从;'ー'从「ど、どうしたんですか?」

道が、二手に枝分かれしているのだ。

片方は恐らく森の出口へと通ずる道。かなり地形が変わっているが、自分達が入ってきた方だ。
そしてもう片方は道を外れた、樹木の茂った森深くへと続くであろう道。

川;゚ -゚)(罠……だろうな)

歩いた記憶の中にある湖沿いの道には、今びっしりとその先を覆い隠す木々がひしめいている。
これまで以上に多くの木に妨げられている事から、恐らく"木々たち"は自分達を外へと逃がしたくないのだ。

遠目からには一見すると普通の樹木だが、踏み入れば瞬く間に全ての木々が化け物へと豹変するだろう。

94名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:01:48 ID:zkfwVdHY0

そして────もう一方は不自然なほどに開け放たれた、山林への道。
その中へ入って人里へと通じる道へと出られるかは、大きな賭けになるだろう。

この地の土地勘も持ち合わせていない上に、森の中では方向感覚を見失いやすい。
加えて、"動く木"にかかって本来あるべきはずの道を塞がれてしまっては、人の感覚など完全に狂わされる。

それでも、人里へと確実に繋がる出口の近くからであれば、森を抜けられる可能性もゼロではない。

ξ;゚⊿゚)ξ「確かにこの道だったと思ったけど……あれって」

川 ゚ -゚)「恐らくな、全てが木の化け物だろう」

从;'ー'从「道が、塞がれて……」

川 ゚ -゚)「あぁ、白々しいまでに堂々と森の出口を塞いでいる……近づけば、すぐさま叩き殺されるかもな」

从;'ー'从「それじゃどうしたら!?」

一介の町娘であるワタナベという少女にとっては、今がきっとこれまでで初めて味わう程の恐怖。
理不尽にもこの"非日常"へと落とし込まれた彼女の精神は、半狂乱で喚く一歩手前にまで追い込んでいた。

その姿は、呼吸を落ち着けながらも淡々と目の前の状況を分析するクーとはまるで対照的なものだ。

川 ゚ -゚)(───ふむ)

95名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:04:34 ID:zkfwVdHY0

ξ;゚⊿゚)ξ(私の聖術が役に立ちそうな相手でも……ない)

攻略の糸口は見つからない。しかし、同時にクーと共にこの場に居られて良かったと思う。
あの場でツンとワタナベの二人きりであれば、混乱のままに化け物たちの餌食となっていただろう。

先ほどまで口げんかしていた時の態度とは打って変わって、今では頼もしくも生還への道を
必死に探りあてようとするクーの瞳が、まだ二人に希望を与えてくれているのだ。

そして、その彼女が指で一つの方向を指し示した。

川 ゚ -゚)「────右だ、山林へと入り、そこから人里に抜ける道を探す」

ξ゚⊿゚)ξ「……本気?さっきの木の怪物がうようよいるわよ?」

川 ゚ -゚)「どの道退路は絶たれている。だからこれは、一つの賭けになるだろう」

从;'ー'从「もし……道が見つからなかったら?」

川 ゚ -゚)「その時は……三人仲良く、この森の養分になるだろうさ」

ξ;-⊿-)ξ「………ふぅ」

96名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:05:43 ID:zkfwVdHY0

クーの言葉に頭を垂れて大きくため息をついたツンだったが、再び顔を上げた時、
その少しばかりあきれたといった表情の中には、僅かな笑みを浮かべる余力も残っていた。

ξ;゚⊿゚)ξ「大したタマだわねあんたも……」

川 ゚ー゚)「ふっ、昔から言うだろう?女は度胸……だとな」

ξ゚⊿゚)ξ「────いいわ。乗ってやろうじゃない、その賭け」

从;'ー'从「ほ、本当にこの中を行くんですか?」

川 ゚ -゚)「あぁ。お前も依頼人なら、覚悟を決めろ」

ξ゚⊿゚)ξ「ワタナベちゃん───あなたも女なら、ここは腹を括るわよ!」

从;'ー'从「そっ……そんな理屈は無茶苦茶ですよぉ!」

ここに来て、初めて芽生えつつあった共通意識は"生還する事"
同じ苦難を共闘を経て乗り越えれば、それまでいがみ合っていた間柄にも何らかの仲間意識は芽生えるものだ。

今この場にいるツン達3人の団結力。
それがこの危機に瀕した今、ようやく高まりつつあった。

97名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:06:31 ID:zkfwVdHY0

川 ゚ -゚)「それじゃあ……行くぞッ!」

再びのクーの合図を機に、三人ともが走り出した。

逃げるため、ワタナベは両手一杯に抱えていた薬草は投げ捨てて、今では各人の鞄の中にあるのみだ。
ツンも、走る際に邪魔となるという事が実体験を通してよく理解できたために、修道服の裾を詰めている。

これは、仲間であるブーン達に置いていかれぬために。
そして、その彼らの足でまといにならぬ為にと、わざわざ自ら裁縫したものだった。

未だ動きにくい衣服ではあるが、その心がけが早速役に立っている。
両手を大きく振って全力で走る事に集中できているのも、この為だ。


  … ギ、ギギギィィ …

 … キチキチ キチキチキチキチキチ …

从;'ー'从「こっちにも!」

「やはり」といった感想しか出てこないが、走り去るうち次々と移ろい行く景色。
その視界の端々には、次々と妖魔化してゆく人面樹達の姿があった。

98名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:08:04 ID:zkfwVdHY0

川;゚ -゚)「だが……数はそれほどでもないぞ!」

クーの言う通り、緑が辺り一面中を包む場所にあって、想像していたよりもはるかに化け物の数は少ない。

人面樹は当然の事ながらいるが、ひっそりと佇む普段の姿の樹木も同じぐらいだ。
森の出口を塞いでいた中には、本来はこちらに群生していた樹木達も数多くあったのだろう。

この現状こそが、クーが勝算を見出して賭けに臨んだ理由でもあった。
ブーン達やショボンもこの異変に気付いているのなら、恐らく彼らも襲われているだろう。

その彼らや自分達を狙った人面樹達が、生い茂った獣道から逆に中央の湖畔沿いへと移動してきていると踏んだのだ。

ξ;゚⊿゚)ξ「これなら、行けるかも!」

小枝や身の丈ほどの葉っぱを手で払いのけながら、山林を奥へと進む。

ざわざわと木の葉を揺らしながら追走してくる気配は、すでに幾つもある。
それでも恐怖を押し殺しながら、ただ見えかけた光明を手繰り寄せるべく、前へ、前へと進む。

从;'ー'从「はぁっ……ふぅっ……!」

ξ;-⊿-)ξ「振り返りたくないわね……」

99名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:09:27 ID:zkfwVdHY0

段々と足場が悪く、木や葉に邪魔されて道が険しくなってきた。
自分達を追う人面樹達との距離も、次第に狭まりつつある。

思うように身動きが取れない険しい道を、じたばたと身を捩じらせながらどうにか進んでいく。
そのワタナベとツンの焦燥が、限界近くにまで達した時だった。

川;゚ -゚)「────先に、行け」

一度立ち止まったクーが、ツンとワタナベに告げる。
その彼女へ振り返った方には、ぎょろりとした人の目玉のような眼が窪みに収まった人面樹が、すぐ背後にまで迫る。

ξ;゚⊿゚)ξ「クー!?どうする気よっ」

川;゚ -゚)「少しだけ時間を稼ぐ。お前達は気にせず先へ進め!」

「ギチギチギチ」

威嚇するようなその怪音を意に解する事もなく、腰元の小剣をすら、と抜き出した。
そのまま人面樹へと立ちふさがり、力強く言い放った。

从;'ー'从「クーさん!?」

川;゚ -゚)「人里へと降りられる道を探すんだ!私も……すぐに行くさ!」

100名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:11:35 ID:zkfwVdHY0

クーがその言葉を最後まで言い終えるよりも早く、人面樹が無造作に伸ばしてきた腕。
それを掻い潜ると同時に、指の役割を果たしているであろう先端から枝分かれした小枝の数本へと剣を振るった。

「… ギアァァァッ …」

川#゚ -゚)「…・…せぇぇぇッ!」

切り落とされた小枝からは、血のように赤黒い樹液が噴き出させた。
その痛みと怒りに任せてか、人面樹が反射的に逆の太い腕を振るうも、すでにその場にクーの姿は無い。

果敢に化け物の懐へと踏み込みながら、胴体である幹へと勢いのままに剣を突きたてた。
その一連の動きは、まるで流水のようにしなやかでそれでいて、無駄の無い洗練された剣技だった。

「… !?ブギイィィィィ …」

从;'ー'从「……クーさん、すごい!」

そうして勇猛な彼女の姿をぼうっと見ていたワタナベの腕が、ツンによって引っつかまれた。
一瞬呆気に取られていた彼女だが、クーの背中に一瞥してから、また走りだす。

ξ;゚⊿゚)ξ「行くわよ、クーが時間を稼いでくれてる間に、アタシ達が突破口を見つけなくちゃ!」

从;'ー'从「は、はいッ!」

101名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:12:26 ID:zkfwVdHY0

「… ヴァアァァァァァッ! …」

川;゚ -゚)(チッ……もう限界か)

やはりこの剣だけで、そう簡単に倒せるような相手ではないらしい。

幾度か剣で斬り浴びせた後、怒りを露にする人面樹の後ろに、更に2~3体の姿が見えた。
クーは小さく舌打ちしてから剣を素早く鞘へと収めると、殿を務めながらすぐにツン達を追う。

すると先頭で、何かに気付いたワタナベが悲痛な面持ちを浮かべ、精一杯の声量を搾り出しているのが映った。

从;ー 从「────だめ!」

ξ;゚⊿゚)ξ「何かあったの!?」

川 ゚ -゚)「………?」

頭を抱えながら、ワタナベはとうとうその場にしゃがみこんでしまった。
ツンが声を掛けると、おずおずと腕を上げて、その方向を指差した。

木々を掻き分けて、ツンが覗き見た先──────

ξ;゚⊿゚)ξ「────そんな」

102名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:13:16 ID:zkfwVdHY0

視界を沢山の樹木や緑葉に遮られて、これまで気付くことが出来なかった。
彼女達の眼前には、切り立った断崖が憎らしいほど高くそびえ立っていたのだという事に。

この道から人里へと出るのは────不可能だという事だ。

川;゚ -゚)「くっ………待て!壁沿いを伝っていけば、まだ……」

事態に気付いたクーだったが、まだ諦めてはいなかった。
別の進路をたどればあるいは可能性も残っているはずだ、と。

生存への諦めに絶望した様子のワタナベの傍で、その彼女を奮い立たせようとするツン。
すぐ後ろには数体の人面樹達が迫っており、もはや一秒たりともまごまごしてなどいられぬ状況だ。

遅れてその場へたどり着いたクーが、二人へ声を掛けようとしたその時だった。

川; - )「なんッ─────」

103名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:14:41 ID:zkfwVdHY0

突如としてクーの脛から下の自由は奪われ、そのまま地面へと倒れ伏してしまった。
少しだけ遅れて、その箇所へは鋭い痛みが訪れた。

"がちゃん"

がっしりとかみ合わさったような金属音。
それが聞こえた足元へと、直ぐに視線を向けた。

川;゚ -゚)(な……トラバサミ……だとッ!?)

クーの足首へと錆びかけた歯をめり込ませ、完全に歩行の自由を奪っている。

それは、かつて狩猟などを生業とする者達にこの森で使われていたであろう、鉄のトラバサミ。
本来ならば肉食の獣へと仕掛ける罠であるそれが、運悪くこの場に取り残されてしまっていた。

それがクーの足首へと力強く噛みついたのだ。
目の前には断崖、背後からは化け物が迫ってきているという最悪の状況下で。

川;゚ -゚)「あ……くそッ、くそぉッ!」

大型の肉食獣用の罠なのか。
膝を畳んで引き寄せ、両手で口をこじ開けようと全力を込めるも、僅かに緩むばかりだ。
一刻を争う状況で、致命的なトラップに引っかかってしまったクーの顔が、苦痛や焦燥に歪む。

104名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:15:44 ID:zkfwVdHY0

──── …ギギィ… ――――

奇怪な影は、地を舐めるクーのすぐ傍にまで伸びて来ていた。
いくら力を込めようとも、女性の柔腕では到底こじ開けられるような物にないらしい。

ξ;゚⊿゚)ξ「クーッ!」

川; - )「あ……あぁ……」

うつ伏せで地面を殴りつけた後、力なく仰向けに寝転がるクー。

泡を食って自由を奪われたクーの元へとたどり着いたツンだが、彼女の足に食い込む罠を見て、血の気が引く。
食い込んだ場所からは衣服に薄ら血が滲んでおり、立ち上がるのさえ困難な状況なのだと、解ってしまった。

川; - )「まさか……こんな所で、とはな」

これまで道を指し示してくれていたクーが、初めて諦めにも似た言葉を口にした。

ξ;゚⊿゚)ξ「大丈夫よ!背負ってあげるから、早くこの場所から───」

川; - )「私がこの足ではもう───無理だ」

ξ;゚⊿゚)ξ「何言ってんの!肩を貸すだけでも、まだ───」

川; - )「……お前達だけでも、逃げろ」

105名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:16:28 ID:zkfwVdHY0

そのクーを必死に鼓舞するツンの言葉も、届かない。
この一刻一秒を争う事態の中で歩行不能に陥った事実は、既に彼女に絶望を認識させていた。

川; - )「いい、戻れ……どうにか、さっきの場所まで」

ξ;゚⊿゚)ξ「ブーン達だってまだ無事かも知れないんだから、皆と合流すればなんとか───」

川#゚ -゚)「───うるさいッ!!解れ!」

ξ゚⊿゚)ξ「……ッ」

問答をしている余裕など無いのだ。
この一言で、クーの言わんとしている事をツンは理解しただろう。

『仲間を危険に晒すぐらいならば、時としてそういった切り捨ての判断も必要なのさ』

先ほどツンに告げた言葉、その状況こそが、"今"なのだ。
このまま全滅するくらいならば、一人だけでも逃げ延びる事が出来れば、きっとそれこそが上策だ。

まさか、自分がこんな立場になってみるなどとは思いもしなかったが────

川 - )「………行け、あいつらと」

106名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:19:46 ID:zkfwVdHY0

自分はこの身動きのままならぬ状況で、生きたままあの人面樹達に食われるのであろうか。
身体全体に微かな震えが来たが、それが大きくなってツンに悟られる前にと自分を見捨てるよう促した。

ξ ⊿ )ξ「――――解ったわ」

川 - )「………」

すっくと静かに立ち上がったツンの姿は、すぐにクーの視界から消えた。

そう、それでいい。

己の生死が懸かった状況だというにも関わらず、あまりにも冷静な指示を下せた自分に、少しばかり驚きだ。

思い返してみれば、自分の人生はいつも誰かに置いてけぼりにされてばかりだった。
たとえそんな事ばかりでも、女だてらに周囲の男に負けないぐらい一人でも強く生きてやろうと思った。

父や母の死───あれからが自分の不運の始まりだったのだろうか。
悲哀に打ちひしがれていた自分に手を差し伸べ、再び生きる力を与えてくれた"彼"も、いつか自分の元を去った。

いつもたった一人。孤独という名の暗い牢獄へと、囲繞されていたのだ。
この不運はもしかすると、自分がこの世に生まれ落ちた時から、既に約束されていたのだろうか。

107名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:20:57 ID:zkfwVdHY0

──── … ギギッ ギィィッ … ────

化け物の声が、さらに近くに聞こえる。
それと同時に、これまで強い自分を保ってきたクーの心の外殻は、剥がれ落ちようとしていた。

川; - )「……はぁッ、はぁ……」

呼吸は上ずり、次第に周囲の音もぼぅ、と遠くに聞こえる。
これから訪れる死の恐怖を遮断する為に、五感が鈍くなってでもいるのだろうか。

もう目も開けていたくなかったから、思わず顔を塞ごうとした時だった。
ふと─────足元でもぞもぞと違和感を覚え、飛び上がるように身を起こす。


川;゚ -゚)(────なんッ)


「動かないでッ!!」

108名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:21:40 ID:zkfwVdHY0

川;゚ -゚)「………お前、どうして………」

クーの脚にがっしりと食い込んだトラバサミ。
その口をこじ開けようと、真っ赤な顔で立ち膝しているツンの姿が、そこにはあった。

小鼻を膨らせながら一心に全力を込めているその指先からは、既に手首を伝う程に血が滲んでいた。
修道服の袖を紅に染めながらも、それでもその手を緩めようとはしない。

ξ;゚⊿゚)ξ「私が神に仕える信徒であろうが、今はそんな事はどうでもいいわ……」

川;゚ -゚)「馬鹿者め、早く逃げるんだ!」

困惑するクーの視界に、いよいよ三体ほどの人面樹の姿が見えた。
だが、ツンはそちらには目もくれず、クーの脚にかかるトラップを解こうとしている。

事の次第に気づいた彼女達の前方に座り込むワタナベも、ようやく正気に立ち返り叫んだ。

从;'ー'从「あ……ツンさん! 後ろ、逃げて下さぁいッ!!」

その言葉にも、ツンが動じる様子はなかった。
ただがむしゃらに、自身の指に食い込む鋭利な鉄の痛みに時折顔をしかめながらも、その場を動こうとしない。

ξ;゚⊿゚)ξ「私の目の前で助けられるかも知れない人をよ……」

川;゚ -゚)「もう……いい」

ξ;゚⊿゚)ξ「ふぅッ……この私が、諦められる訳……ないじゃない!」

109名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:22:23 ID:zkfwVdHY0

川; - )「どうしてッ!」

ξ;゚⊿゚)ξ「………今は聖職者だからとか関係ない。そんなの、"アタシがイヤだから"ッ!」

川;゚ -゚)「────!」

有無を言わさぬツンの剣幕に、さしものクーも一瞬たじろいだ。

伊達や酔狂で出来る事ではないのだ、ましてやこんな場面で。
拾えるかも知れない自分の命を、他人の命を救うために投げ出す事など。

ツンの、決して諦めようとしない姿に。
クーはこの時、心を揺さぶられる何かを感じていた。

川;゚ -゚)「その手……」

ξ;-⊿-)ξ「いっ、つつ……」

痛みに一瞬手を離したツンの手のひらを見て、制止しようとするクーの言葉が詰まった。
尖った部分に構わずに指を掛け力を込めていた為か、手のひらはもはや血だらけだ。

それでも再度、閉じた口を両手でがっしと握り締め、諦めるつもりなどないとばかりに、叫ぶ。

110名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:23:25 ID:zkfwVdHY0

ξ;゚⊿゚)ξ「─────ワタナベちゃん!お願い、手を貸して!」

だが、もはやツン達の背後に迫る人面樹に恐れをなしたワタナベは、その場から尻餅をついたまま動けない。
半開きに開いた口はカラカラに乾き、ワタナベはただただ救いを口にする事しか出来ずにいた。

从;'ー'从「あ………あ……神、様……」

──── … ウェハハ、ギチギチ … ────

ξ#゚⊿゚)ξ「ふんぬッ!ふんっ!」

川;゚ -゚)「もう……いいんだ」

ξ# ⊿ )ξ「くっ……!」

川;゚ -゚)「私を見捨てて──────お前達だけでも、逃げてくれ」

ξ; ⊿ )ξ「………聞こえない、わよ」

川;゚ー゚)「”ありがとう”………な」

ξ;⊿ )ξ「そんな言葉……聞きたくない」

111名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:24:09 ID:zkfwVdHY0

    … グフフフフフフ …
            … ギヒヒ …

       … チキチキチキチキ …

静かな木々のざわめきに入り混じって聞こえる、あざ笑う声。
ツンの背後に、もはや悪夢は覆いかぶさろうとしていた。

ξ;⊿ )ξ「……………なんなのよ、もう」

必死に誰かを救おうとする彼女の心にも、とうとう影が落ちようとしている。
諦めようとしている────心が折れ掛けてしまっていた。

ξ;⊿ )ξ「女の子ほっぽり出して、一体どこをほっつき歩いてるんだっつーの……」

しかし脳裏には、あの能天気な面々の顔が一瞬過ぎる。
これが走馬灯というものだとすれば、憎たらしい事この上の無い最期だ。

だから、こんな形での旅の終わりは絶対に認めない。

諦めを認識しそうになった間際、ツンは半ば無意識に、最後の望みを託してその名を口にした。
喉の奥が震えて、そこから血を吐き出しそうになるほどの大声量で。

ξ; ⊿ )ξ「─────ブウゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーンッ!!」

そのツンの叫びにかぶさって、どこかから声が聞こえた気がした。

112名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:25:07 ID:zkfwVdHY0

───( 我が前に立ち塞がる敵 其はその一切を 業火の元に滅せよ)───

ツンの背後に迫った人面樹の一体が、ギリギリと幹をしならせて腕を大きく振りかぶる。
直後、それを彼女の頭部へと叩きつけようと、狙いを済まして振り下ろそうとした、瞬間だった。

…… ギチギ……ブッグゥ ……

突如、人面樹の胴体部分の幹が、中心部分から丸々と赤みを帯びてゆく。

ξ゚⊿゚)ξ「─────!」

川 ゚ -゚)「………これは!」

─────────「【炎の玉】!」

”どむっ”

瞬間、辺りを赤い閃光が照らした。

胴体部分が紅蓮の赤熱を帯びたのが見えたかと思えば、即座にその身が爆散していた。
遅れて吹き荒れる熱風はツンやクーらの衣服をはためかせ、やがて過ぎ去る。

ξ;-⊿-)ξ「きゃっ!」

川; - )「なっ……!」

113名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:25:49 ID:zkfwVdHY0

気がつけば今度は、上空へと吹き飛ばされた燃え盛る粉々の木片。
それらがぼとぼとと周囲へ飛散し、ツンとクーは腕を頭上に交差させて身を庇う中で─────

悠々とこちらへ向けて歩を進めてくる──────それは、見慣れた男の一人だった。

「どうやら、ご指名は僕ではなかったか……悪い事をしたね」

ξ゚⊿゚)ξ「………あ」

(´・ω・`)「遅くなって、すまない」

今ではただの木っ端と化してしまった人面樹の背後から現れたのは、頼れる魔術師。
かざしていた手を下ろすと、悪戯っぽく口元で微笑んだ彼の姿に、ツンは思わずにやけて言葉を返した。

ξ゚ー゚)ξ「えぇ、随分待たせたものね?」

川;゚ -゚)「油断するな、まだ───!」

(´・ω・`)「解ってるさ。だが、後はお手並み拝見といこうか」

ショボンの左右に居た人面樹が、一斉にそちらへ振り返った瞬間だった。
林の中を素早く疾駆する"何か"が、急速にこの場へと近づいて来る。

それは、獣のような咆哮を上げながら。

114名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:26:53 ID:zkfwVdHY0

「─────おぉぉぉぉぉッ!─────」

… グ、ギギ? …

ショボンへと注意が向いていた人面樹の一体は、砲弾のようなその速力にまるで対処できなかった。
目前まで迫るや否や、既に飛び掛りざまに振り下ろされていた一刀は、右腕を軽々と両断する。

… ギィィィィィッ! …

ξ゚⊿゚)ξ「ブーン!」

(# °ω°)「……はあぁぁぁぁぁーッ!!」

次いで、二の太刀はその悲鳴が耳に入るよりも早く繰り出された。
大振りの横薙ぎは、全力を以ってその幹の中心へと叩きつけられる。

ごつ、と重厚な音が地を揺らす程の重さで打ち鳴らされた。

肉厚の刃は目視困難なほどの速力を得ると、幹を繋ぐ大部分の繊維を一瞬にして削いだのだ。
おおよそ4割ほど奥深くまで差し込まれて止まった長剣の刃を強引に引き抜くと、今度は反転しつつ
それを反対側の幹の表皮へと叩きつける。

初撃の逆位置からの、更なる強烈な打ち込み。

… グギャギャッ! ギギッ …

(;`ω´)「お………おぉぉぉッ!」

115名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:27:37 ID:zkfwVdHY0

柄に力を込めるほどに不気味な呻きを漏らすその人面樹に身体ごと刃を寄せて、そのまま剣を振りぬいた。
掛かっていた負荷が弛緩すると同時に、幹の上体部分はふわりと一瞬中空に舞う。

左右から身を削ぎ取られて両断された人面樹が倒れると同時に、もう一体がブーンに襲い掛かろうとしていた。

「あらよっっと!」

だがそこへ、木々でひしめく林の中を縫うように飛来したのは二振りのナイフ。
"すとっ"と音がしたかと思えば、それはほぼ同時に人面樹の眼の奥へ突き立てられる。

爪'ー`)「熱くなり過ぎだぜ、ブーン」

… グオォッ…ギキ …

眼球を潰された事により、その一体は完全に狙うべき標的を見失った。
右往左往としているそこへ、身体ごとぶちかます強力な刺突が、ブーンにより放たれる。

(#`ω´)「ッらぁ!」

大きく開いた空洞となっている口内に差し込まれた長剣の切っ先は、そのまま反対側へまで突き抜けた。
眼前で響き渡る人面樹のくぐもった断末魔は、剣の柄を押し込むブーンの手におぞましい感触を残したが。

それでも、気にも留めずに顔部分に足をかけると、思い切り蹴飛ばしながら剣を引き抜く事で倒木させた。

116名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:28:36 ID:zkfwVdHY0

(;`ω´)「───ふぅ、いっちょ上がりだお、ね」

川 ゚ -゚)「お前たち……!」

「すげぇ……すげぇな!お前さんがた!」

3人から遅れてやってきていたラッツが、ブーン達の一連の戦闘を目の当たりにし、感嘆を漏らした。
たまたまこの森に居合わせた同業者に、これほどの手練たちが混じっていたなどとは思わなかっただろう。

爪'ー`)「ヒーローは遅れて現れる、ってな……さて、この場は退散と行こうぜ」

川 ゚ -゚)「………」

ツン達二人の前に差し伸べられたフォックスの手は宙ぶらりんのままだ。
その時クーの瞳は、フォックスの手を取る事なく、俯きながら、肩は震わすツンへと向いていた。

ξ ⊿ )ξ「─────のよ」

爪'ー`)「ん?」

顔を覗き込もうとしたフォックスの顎に、拳が突き刺さる。

爪; ー )「へぶしッ!」

ξ#゚⊿゚)ξ「来るのが遅いっつってんのよ!このあほんだらぁッ!」

117名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:29:36 ID:zkfwVdHY0

痛快な一撃をもらってよろめいたフォックスが、理不尽なツンの怒りに対して言い返そうとした。
が、唇をわなわなと震わせながら頬に光るものを伝わせている表情に、ぐっと言葉を飲み込む。

爪#'ー`)「このじゃじゃ馬っ!?いきなり何────」

ξ ⊿ )ξ「本当に……怖かったんだから……」

だが、すぐに袖で顔を拭ったツンの様子を見ながら、フォックスは気付く。
クーのトラップを力づくでこじ開けようとした時の傷で、両手を血に染めていた様子に。

爪;'ー`)「おい、大丈夫かよ?クーも脚……」

川 - )「………すまん。私の注意不足で────」

(; °ω°)「ツン……!怪我、してるのかお!?」

ξ;-⊿-)ξ「あいたた!……まぁいいのよ、かすり傷だし」

すぐに血相を変えて傍らにしゃがみ込む二人をよそに、ツンは気丈に振舞った。
クーのせいで自分が怪我をしたなどと思われては、二人が煩いだろうと思っての事だった。

だが、出会った時から無茶をしてばっかりの自分を、毎度カバーしてくれるだけはある。
仲間以外には冷たい人間などでは、なかったようだ。

川 ゚ -゚)「!」

118名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:30:30 ID:zkfwVdHY0

(;`ω´)「ふんぬぅぅぅぅッ」

いつの間にやらクーの足元に掛かった罠を取り外すべく、ブーンが両腕に力を込めていた。
ツンが必死に解除しようとしたそれは、さすがの力馬鹿にかかっては呆気なく閉じていた口を開く。
そのままトラバサミを草むらへと投げ捨て、ブーンはゆっくりと立ち上がる。

川 ゚ -゚)「あ……」

( ^ω^)「ふぅ……クーも、大事がなくて良かったお」

爪'ー`)「とはいえ、結構な深手だろ?もし嫌じゃなければ、肩でもお貸しするぜ」

川 - )「………仲間を危険に遭わせ、その上怪我まで………」

( ^ω^)

爪'ー`)y-

俯きながら、ぽつりと謝罪の言葉を口にしたクーを前に、二人は一度顔を見合わせた。
やがて、その彼女の顔の前に手を差し出したのは、ブーンだ。

( ^ω^)「違うお」

川 ゚ -゚)「……何が、違うんだ」

119名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:31:18 ID:zkfwVdHY0

( ^ω^)「こういう時には、”ありがとう”の一言でいいんだお」

爪'ー`)y-「そういうこった。ツン達がまだ生きてる事に、こっちこそ礼を言わせてもらわなくちゃな」

川;゚ -゚)「あ………」

屈託無く笑みを浮かべながら、自分に向けて差し出された手のひら。
それを取るのが若干気恥ずかしくて、浮かした肘は宙を一瞬漂っていた。

そのクーを後押ししたのは、ツンの一言だった。

ξ゚⊿゚)ξ「どうしたのさ?」

川;゚ -゚)「私は……大きな口を叩きながら───いざお前の仲間の彼らが来るまで、何も出来なかった」

ξ゚⊿゚)ξ「………」

川; - )「お前まで巻き添えにしようとした私に、そんな助けを受ける義理など───」

ξ゚⊿゚)ξ「やれやれ……」

ため息めかしに肩をすくめたツンだったが、彼女もまたクーに手を差し伸べる。
そして、優しげな笑みを浮かべながら彼女に問いかけるのだ。

120名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:32:48 ID:zkfwVdHY0

ξ゚ー゚)ξ「私達、今は────”仲間”じゃない」

川 ゚ -゚)「!」

ξ゚ー゚)ξ「死ぬ目を押し付けられるのは御免だけれど、それでも、それを分かち合えるなら───」

川 ゚ -゚)「………」

ξ゚ー゚)ξ「クーがいなかったら、私とワタナベちゃんなんてとっくに天に召されてましたー……なんてね」

川 ゚ -゚)「─────ありがとう」

言いながら、差し出されたツンの右手をそっと握りながら、クーは立ち上がった。
その背後では、自身の握手を放置されたショックに固まっていたブーンが、フォックスに笑われていた。

(; ω )「ぐ、ぬぅ……」

爪'ー`)y-「はいフラれました~……残念だったな」

川;゚ -゚)「あ、すまん」

気恥ずかしそうにしながら腕を引っ込め、歯噛みしながらそっぽを向いたブーン。
それを気にかけようとするクーだったが、奥からワタナベを連れて現れたショボンの方へ、全員が振り返った。

121名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:34:04 ID:zkfwVdHY0

(´・ω・`)「取り込み中のところすまないが、彼女も無事だ」

从'ー'从「……ようやく、落ち着きました。皆さん、本当にありがとうございます」

ξ゚ー゚)ξ「ありがと、ショボン。お互い無事で何よりだわ」

「さて」と前置きして、一度周囲を見渡したショボンが咳払いをしてから告げる。

(´・ω・`)「これから、どうしたものかな」

爪'ー`)y-「勿論、脱出するんだろ?」

このカタンの森全体が、妖魔の類と化した人面樹が跋扈する領域。
ボアードが他愛なく葬り去られていたのを見る限り、束になってかかってこられてはひとたまりもない。

だが、そうしない理由について考えた結果、ショボンは所感を述べた。

(´・ω・`)「この森には───野生動物が居ない」

从'ー'从「それ、私も気になってました。鳥の声一つ聞こえないなんて、おかしい……」

( ^ω^)「あいつらに食べられてしまったのかも知れないお」

爪'ー`)y-「あり得なくはねぇ。いつからこの森がこうなっちまったのかは知らねぇけど」

122名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:35:20 ID:zkfwVdHY0

川 ゚ -゚)「────2年前」

ξ゚⊿゚)ξ「?」

从'ー'从「あ………」

ぽつりとクーが漏らした言葉に、ワタナベが思い出したように反応した。
腕組みをしながら話を聞いていたラッツにも、思い当たる事があるようだ。

「────もしかして、あれか」

川 ゚ -゚)「そうだ2年前にこの森で、空から降り注いだ隕石が目撃された」

从'ー'从「確か……大規模な山火事になっちゃったんですよね。その時は実家の薬草屋も大変でした」

川 ゚ -゚)「あぁ、見る影もないほどに焼き尽くされたと噂には聞いている」

(´・ω・`)「それが、2年前だって?」

「馬鹿な」とでも言いたげなショボンが言いたい事には、この顔ぶれの中では勘の鋭いフォックスが気付いた。
ほぼ全焼に近い状態にまで焼け焦げた森が、たった2年そこらで今のような状態にまで復活できるはずがないのだ。

123名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:36:13 ID:zkfwVdHY0

爪'ー`)y-「気持ちの悪ぃ話だぜ───その隕石、化け物の種でも積んでたんじゃねぇか?」

川 ゚ -゚)「疑うべきだったな。この現状を見る限り、この場に居る誰もがその説を信じるだろう」

从'ー'从「木が……化け物になったんですね」

ワタナベが口にしたおとぎ話は、実際にこの森で起こっているのだ。

鳥の歌も、動物の声も聞こえないのは、みんなあの木に喰われてしまったから。
旅人を食らう森は、自分達がやってくるのを口を開けて待っていた。

森全体が化け物────単純にして、寒気がするような事実だ。

川 ゚ -゚)「ここに来る時、森の入り口の前を通ったか?」

爪'ー`)y-「お前も気付いてたか?……あぁ、残念ながら木で埋め尽くされてたぜ」

( ^ω^)「接近しなきゃ通れない……けど、あれ全部を相手にするのは……」

(´・ω・`)「恐らく僕らを閉じ込めて弱らせる───それから喰うのが、奴らの手口だろう」

124名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:37:12 ID:zkfwVdHY0

「おいおい……勘弁してくれよぉ」

黙り込んだ全員の顔を覗き込んで、泣きそうな顔をしたラッツが弱音を漏らす。
皆が考え込む中で、その中には共通の認識を持つものが何人かいるのだが、今ひとつ踏み出せずにいた。

なぜならば、”賭け”の代償は”死”となり得るからだ。
誰でも思いつきそうな案ではあるが、その巨大なリスクが付きまとう故に悩む面々に対し、軽く口に出したのはツン。
浅はかさゆえか、はたまた、それが勇気なのかは分からないが。

ξ゚⊿゚)ξ「……燃やしちゃえば、いいんじゃない?」

(´・ω・`)「………」

(;^ω^)「燃やすって、この森全体を……かお?」

このカタンの森周辺に住み暮らす人々にとっては、命の源泉である森だった。
だが、森に入って帰らぬ者が後を絶たぬ現状、その真相が発覚したこの森を、このままにしておくわけにもいかない。
本来ならば騎士団などに総出で仕事をしてもらうべきだが、外部に出られない以上、自分達でどうにかするしかない。

だが、閉じ込められた現状で森に火を放つという行為は、自分達の首を自分達で絞める事と同義だ。

125名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:37:52 ID:zkfwVdHY0

爪'ー`)y-「……ま、それっきゃねぇかもなぁ。動物がいねぇ、つーことは、ここにゃ食い物もねぇ」

从;'ー'从「それじゃ、早く出なきゃ……!」

(´・ω・`)「あぁ、長期戦になればなるほど疲弊して、脱出の可能性が減る事になる」

川 ゚ -゚)「私も、ここまで来て断崖ぶつかった瞬間に、森を全焼させるしか無いと考えた」

(;^ω^)「でも、もし森に火を放ったら……ブーン達はどうなるお?」

爪'ー`)y-「そうさなぁ……まぁ仲良く、丸焦げだろうさ」

ξ゚⊿゚)ξ「ん~……ダメ、か」

「じょ、冗談じゃねぇやッ!!」

黙って話しを聞いていたラッツが、素っ頓狂な叫び声を上げて一同の意見を明確に拒絶した。
5人の冒険者達の間では、人面樹にやられるよりも焼死による自殺を選ぶ、といった旨の会話がなされているのだ。

126名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:38:43 ID:zkfwVdHY0

地面にどっかと座り込んで、真正面から反対意見をぶつけるラッツだったが、それをたしなめたのはショボン。

(´・ω・`)「そう、悲観したものではないよ。抜け道は必ずどこかにある」

爪'ー`)y-「ま、問題も無くはねぇがな」

「問題は……ありすぎだぜ」

爪'ー`)y-「まず第一に、ショボン。お前さん一人の魔法で、この森丸焼きに出来るか?」

(´・ω・`)「たとえ"爆炎の法"級の威力を放つにしろ、風向きや場所、延焼に最適な条件が揃わなければ不可能だ」

川 ゚ -゚)「そして問題は、火を放った後に我々はどうするか……だ」

(´・ω・`)「そこだね。何の考えも無しに火を放っては、山を丸焼きにされて逃げ惑う小鹿も同じだ」

( ^ω^)「何か、打つ手は?」

(´・ω・`)「そうだね─────だが詳しい話しをする前に、まずは……場所を変えようか」

127名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:39:39 ID:zkfwVdHY0

────ざわ   

    …… キヒヒ ……

        ざわ────

気付けば、随分と長くこの場に立ち止まり話し込んでしまっていた。
その自分達の周辺に、またも風に乗って流れてくる嫌な声と、不愉快な気配が近づきつつあるのを感じる。

( ^ω^)「また……来ようってのかお?」

ξ゚⊿゚)ξ「立てる?クー」

川 ゚ -゚)「あぁ、それほどの傷ではないようだ」

爪'ー`)「大丈夫かい、肩を貸すぜ?」

そう言って手を貸そうとしたフォックスだったが、遠慮がちに軽く首を振ると、細腕をツンの首へと回した。
一瞬どきっとしながらも、ツンもまたクーの腕を自然体のままに受け入れる。

川 ゚ -゚)「いや……こっちでいい」

128名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:40:26 ID:zkfwVdHY0

从*'ー'从「きゃっ、見せ付けてくれますねぇお二人とも~」

ξ*゚⊿゚)ξ「ちょっ、そんなんじゃ無いわよ」

(;`ω´)(ふぅむ………)

合流前の別れ際、最後に見た二人の様子は罵声を激しく交し合う険悪なものだったはずだ。
だが、今の二人からはそんな雰囲気が微塵も感じ取れない事に、板ばさみで胃を痛める想いだったブーンは、
どこか符に落ちないものを禁じえなかった。

(´・ω・`)「さて、それじゃあ────」

川 ゚ -゚)「ちょっと、待ってくれないか」

どさ、と足元に置いた布袋をごそごそと漁り、クーが何かを取り出した。
その手に握られていたのは、包帯と薬草だ。

川 ゚ -゚)「手を出せ」

ξ゚⊿゚)ξ「え?」

129名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:41:11 ID:zkfwVdHY0

川 ゚ -゚)「………少し、痛むぞ」

手のひらを上に向けて差し出させると、クーは手にした薬草をツンの手にすり込み始めた。
手練の動作で両手ともの消毒までも終えると、これまた手馴れた様子で包帯を巻いて行く。
トラップをこじ開けようとして負った負傷部分の治療は、そうして瞬く間に終えられた。

ξ*゚⊿゚)ξ「あっ……ありがと!」

川 ゚ -゚)「お互い様さ」

从*'ー'从(………素敵)

その場に居合わせた少女ワタナベには、二人の真後ろに爛漫と咲き誇る大量の白百合が見えていたようだ。
最も、それは本人の趣味嗜好に伴って都合良く頭の中で形作られた、妄想の類ではあるが。

(;`ω´)(うーん?……うーん)

爪'ー`)「置いてくぜ!ブーン!」

一体この短時間であの険悪だった二者の間に何があったのか。
未だ納得のいかないブーンがいくら頭を悩ませても、女同士の友情というものは理解できなかった。

130名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:42:08 ID:zkfwVdHY0

───────────────

──────────


─────

先導するショボンに続いて、一向は再び森道を奥へ、奥へとひた走る。

川;゚ -゚)(やはり、私の怪我のせいで遅れを取ってしまっているか…)

クーの足の怪我を庇っているために、どうしても速度は出ない。
それゆえに、行く先では人面樹達とは幾度も戦闘を強いられそうになっていた。
極力それを回避しながらここまでやってきたが、一本道となればそういう訳にもいかないだろう。

「どうする、行く手を塞がれちまったぜッ!?」

爪'ー`)「面倒くさそうな奴だな」

そうして、冒険者たちの眼前には今も一体の人面樹が居た。
今まで対峙した奴に比べ、非常に太い幹を有している、単眼の固体だ。

131名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:43:41 ID:zkfwVdHY0

┃#w(;(●);)w#┃「ギギ…ギィ…」

巨体を有するという事は、力も、頑強さも他より優れているという事に他ならない。
様子を伺っているのか、ブーン達の行く手に立ちふさがり、不気味な静けさをたたえて佇んでいた。

(´・ω・`)「だけど、ここは通らなければならない」

先頭に立つショボンが、手を顔の前にかざして詠唱の準備に入る。
やがてその隣に並び立ったブーンが、一言を発した。

( ^ω^)「倒すお」

長剣を手に、ゆっくりと歩み出たブーンの所作は、目まぐるしく瞳を動かす人面樹に凝視されていた。
ぎぎ、と無機質な声を上げているが、そこから動植物としての生気は一切感じられない。
感情も無く、ただ自分達を捕食するという行動原理に従うだけなのだろう。

感情がない分、妖魔以上に性質の悪い存在かも知れない、と思った。

┃#w(;(●);)w#┃「────ギョォッ!」

(;^ω^)「!」

132名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:44:30 ID:zkfwVdHY0

人面樹に対し、ブーンが考えと共に剣を構えた時だった。
その左手を模る枝が消えた────────否、急激にしなった。

そこから頭が全身に命令を行き渡らせるのは、電撃的に早かった。
咄嗟に剣の腹を気配が向かってくる方向へと合わせ、難を逃れる。

”ごぎんッ”

鋭く、重い打撃音は手骨にまで響く。
それが、しっかりと握り締めていた柄から剣全体へ、大きな衝撃を伝わらせた。
音が聞こえるまでの間、自分が攻撃を受けた事にも気付かぬ程の速度。

(;`ω´)「────くッ!?」

して、その威力も並大抵ではない。
打たれた一瞬、面々の中では一番の体格を誇るブーンの身体が、側方へとふわりと浮いた。
腕部である枝を鞭のようにしならせて叩きつける打撃は、その図体とは一見見合わぬ速度だ。
これで頭や胸を打たれれば、先だって命を落としてしまったボアードの二の舞となるであろう。

(´・ω・`)【我────魔────】

ブーンが一合で顔に冷や汗を浮かべた様子に、ショボンは即座に魔法詠唱の態勢に入っていた。
だが、人面樹の更なる一撃が、続けざまにブーンの頭部へと振り下ろされる。

ξ;゚⊿゚)ξ「ブーンッ!?」

133名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:45:28 ID:zkfwVdHY0

┃#w(;(●);)w#┃「ギュオォォーーーッ!!」

(;`ω´)「……く、うッ!」

再び、目の前で火花が散るかのような破裂音。

それと同時に頭上で構えていた剣が、顔のすぐ傍にまで一息で押し込まれた。
膝ががくりと地に着きそうになるほどの膂力────だが、二撃までをどうにか耐えた。

(´・ω・`)「離れろ!ブーン!」

(;^ω^)「───ッ!」

「魔法の矢」、ショボンの口からそう言霊が紡がれると、彼の手先から放たれた光の帯は収束して、人面樹の身を貫いてゆく。
咄嗟の呼びかけで危険を察知し、素早く横手の茂みへと転がり込んでいなければ、ブーン自身も危ない距離だった。

動きを止めたその様子に、「決まった」と、誰もが思い浮かべた事だろう。
だが、次の瞬間には苦虫を噛み潰すような表情で、皆一様に歯を食いしばっていた。

┃#w(;(●);)w#┃「──────ギギ、ギィィィィィイーッ!!」

止まらない────それどころか、ますます凶暴さを増してしまったようだ。

「お、おい、やべぇ!こっち来るぞ!」

(´・ω・`)「…………もう一撃放つには、際どい」

134名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:46:28 ID:zkfwVdHY0

ラッツが叫びを上げる中、再び全員の間には緊張が走る。
向こう側が見える程の穴が幹を射抜いているというのに、怯む様子もない。
逆鱗に触れたか、腕を振り回しながらそのままショボン達の方へと前進してきたのだ。

爪;'ー`)y-「ちっ、ブーンが前衛にいねぇと、こうも脆いもんかね」

そう言って顔をしかめながら、胸元から数本のナイフを手にとり、前へと歩み出る。
このパーティーで人外を倒す力となり得るのは、強度を持つブーンの剣か、ショボンによる強力な魔法ぐらいなもの。

だが、その二人を抜きにすれば、対人殺傷力しか持たないフォックスが前線に出るのは、無謀だった。

(´・ω・`)「少しだけでいい、時間を稼いでくれないか」

爪;'ー`)y-「────ったく!とんだ貧乏くじだ!」

そういい残し、フォックスは人面樹の前へと躍り出る。
そのまま、狂ったように両の腕を縦横無尽に撫で付ける懐へと、素早く入り込んでいった。

フォックスが飛び出していった後、彼らの最後尾に控えるワタナベらは、それを不安げな表情で見守る。

从;'ー'从「あ……だ、大丈夫なんですか?皆さん……」

135名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:47:24 ID:zkfwVdHY0

川;゚ -゚)「ちっ。私も、この脚さえ万全ならばな───」

ξ゚⊿゚)ξ(………)

何気ないそのクーの一言を、ツンは思慮深く聞いていた。

今この場に居る自分は、彼らのように戦える力は持っていない。
だが、不死者を浄化したり、呪いの類を解呪する事が出来る”奇跡の力”があるのだ。
的を絞り、それをもっと小規模な範囲で扱える事は出来ないだろうかと考えている内に、ふと閃いた事があった。

ξ゚⊿゚)ξ(試してみる価値はある……か)

確かに、何もやらないよりは、遥かにいいだろう。
肩を貸していたクーの足元へとしゃがみこみ、彼女が受けた裂傷の部位へと手を伸ばしてみた。

川;゚ -゚)「お、おい。こんな時に、どうした!」

ξ-⊿-)ξ「………」

そして、祈りの力を両の掌へと込めると、そっとまぶたを閉じこんだ。
この力を身につけた時の事、ショボンの身から魔を取り去り、彼の命を救った時の事を思い出しながら。

(癒しの力にも─────なり得るはず)

──────────────────

────────────


──────

136名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:48:28 ID:zkfwVdHY0

┃#w(;(●);)w#┃「ギョオオォォォォォォォォッーーーッ!」

半狂乱に不気味な声を上げている。
どうやら狙い済まして腕を振るっている訳でもないらしい。

それならば、いくらでもかわしようはあった。

爪#'ー`)「このッ……木偶がッ!」

次々と襲い来る攻撃だが、身にかすらせる事さえ無く、その全てを避け続ける。
そして、時折大きく空いた懐へ向けて手元のナイフを投擲するが、やはり効果は薄いようだ。

襲い来る横薙ぎの一撃は大きく身を反らせて、瞬く間に眼前を過ぎ去ってゆく。
それではかわせないものには、瞬時に身を伏して難を逃れた。

当たってこそいないが、顔や頭上を過ぎてゆく攻撃の余波が起こす風圧から、致死の威力だと分かる。
それでも適度な距離を保つ事と、彼の動体視力と身体能力にかかっては、回避不可能なほどではない。

(# `ω´)「おおおぉぉッ!!」

もはや知覚の範疇から外れていたブーンが、斜向かいの背後から満を持して斬りかかる。
全力を込めたはずのそれだが、太く硬い幹の薄皮を砕き、僅かに幹の内側を露出させただけだ。

137名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:49:28 ID:zkfwVdHY0

背後からの奇襲に気付くと、人面樹の荒れ狂う鞭打は後方にまで及び、さらに攻撃範囲が広がった。
反撃を免れるために後方へと飛びのいて、ブーンが再び距離を取る。

(;`ω´)「マジ……かお!?」

爪'ー`)「ブーン、背後からじゃキツいぜ!お前の剣で、こいつの顔面部位を狙うっきゃねぇ!」

体格によって、個体差というものはあるらしい。
弱点と言えるような弱点は、恐らくこの人面樹に限ってはむき出しとなっている一つの瞳ぐらいだろう。
これまで何体か遭遇したそこらの並のものと比べても、ふた回りほどはあろうかという太さ。

当然その体躯が持ち合わせる耐久力や殺傷力という点は、推して知るべきであろう。

爪'ー`)「とは言え……近づけそうにゃあねぇかッ!」

┃#w(;(●);)w#┃「ギュアァォォッ」

爪;'ー`)「っとぉ……」

足元をなぎ払う一撃を、後方へと跳躍。
だが、着地の際に重心を崩し、一瞬よろめいてしまったのだ。

そのフォックスの肩が、詠唱も半ばだったショボンの胸元へとぶつかった。

(;´・ω・`)「魔法の───……くッ」

138名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:50:12 ID:zkfwVdHY0

ショボンはまだ冷静だった。フォックス越しにそのまま指先から魔法を放つ。
それでも、詠唱の終わりで逸れてしまった狙いまでは、修正する事が出来なかったのだ。

フォックスの顔のすぐ近くで放たれた光の矢、今度は的に当たる事すらなかった。
光弾は人面樹という狙いから逸れ、明後日の方向へと突き抜け、消えていった。

爪;'ー`)「わりぃ」

苦い表情で、目の前の敵を見据えたまま、辛うじてショボンにそう告げた。
だが、ミスを省みるような時間は、与えてくれそうにない。

┃#w(;(●);)w#┃「ゴオオォォォアァァァアァッー!」

奇怪な怒号と共に、さらに振り下ろされる一撃。

爪#'ー`)「危……ねぇッ!」

(´・ω・`)「!」

”ずんっ”

フォックスの咄嗟の機転、それがショボンの身を突き飛ばした事が幸いした。
刹那遅れて、二人の立っていた場所の地面は人面樹の打撃が地面を大きく穿つ。

139名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:51:12 ID:zkfwVdHY0

そうして、敵の左右へと分かたれたショボンとフォックス。
三方向から取り囲んでいる状況ではあるが、その位置関係がまるで良くないのだ。
敵を隔てた後方に位置するブーンとの距離が、遥か遠いものに感ぜられる程に。

フォックスと違いショボンの魔法は有効な武器となり得るが、絶対的に”詠唱”という溜めが必要となる。
ブーンがいくら背後から切り込んでも致命打にはならず、気を引いてくれる事もままならないのだ。

かと言って、この化け物にはフォックスの持つ小振りなナイフでは、致命傷にはなり得ない。

(;`ω´)「ふぅッ!」

再度、危険を承知でブーンが後方から表皮へと斬り込むも、わずかばかりの切れ込みを入れるに留まった。

爪;'ー`)「……んなろぉ……」

なおも凶悪な威力の枝を振り乱して猛りながら、じりじりと距離を詰めてくる。
懐にまで接近し、露出している眼球や口内を刺し貫く事が出来れば打倒が可能かも知れなかった。

しかし、一撃入れては素早く回避に回るのがやっとのブーンのように、
フォックスもまた回避に専念するのがやっとなのだ。

それでも、今は手持ちの札で目の前の敵と正面から戦わざるを得ない。
今や大きくひらけてしまった人面樹の前方には、依頼人のワタナベや、負傷しているクーがいるのだ。

从;'ー'从「あ……に、逃げないと!」

140名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:52:03 ID:zkfwVdHY0

(´・ω・`)「3人とも下がれ!大きく距離を保つんだ!」

そう声を荒げた視線の先には、ブーン達の苦戦に息を呑むワタナベの姿。

(´・ω・`)「こんな傍じゃ、流石に詠唱には集中できそうにない」

爪;'ー`)「しゃあねえ………もう一度俺が囮になる。その間にでっかいのを一発頼むぜ」

「きゃあぁぁぁぁーッ!?」

背中に聞こえるのは、助けを懇願するような突然の悲鳴。
後方のワタナベのものだった。考えたくはない、冷や汗がにじみ出る。

最悪の展開、その光景がちらりと三人の脳裏を過ぎった。
焦燥、忘却の彼方へと一瞬飛ばされてしまっていた意識。

だが、それから目を背けてしまっては、どの道状況を打破する事も出来ない。
覚悟を決めて下唇を噛みながら振り返ったブーンらの目に、光景が飛び込んできた。

(;`ω´)「ツン達の……方からも!」

爪;'ー`)「ちくしょう、追ってきてやがったか!」

ワタナベ達の後方から、追いかけてきた一体の人面樹が迫っていたのだ。

141名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:53:10 ID:zkfwVdHY0

この一体に、時間をかけすぎた。
ただでさえてこずっているというのに、この場の戦力を分散させ、
前と後ろを同時に攻略しなければならない状況に陥ってしまった。

それに、後方のツン達の中に、戦えるメンバーは居ないのだ。

(´・ω・`)「一撃で仕留めて、すぐに戻る」

爪;'ー`)「……任した」

ブーンとフォックスの二人で、どうにかこの大木を食い止める。
その間にショボンが背後の一体を始末する────現状、それしかない。

从;'ー'从「いや……来ないでッ!!」

ワタナベの悲鳴が、前衛で戦う二人の焦燥感をさらに煽る。
彼女らに迫っている人面樹は、ショボン一人に任せるしかない。

┃#w(;(●);)w#┃「ギギィ……」

前門の虎、後門の狼。

この巨大な人面樹には、並の打ち込みでは聞かない。
ただでさえ攻めあぐねているという状況にあって、ツン達にまで追いすがる敵がいる。

沈着冷静なショボンですら、内心には緊張の糸が最大にまで張り詰めていた。

だが─────その時。

142名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:54:04 ID:zkfwVdHY0

「ツン達の方は、任せたぞ!」

(´・ω・`)「!」

一陣の風────そう錯覚するほどに疾く、軽やかに。
ショボンがツン達の元にたどり着いた時、そこから一人が入れ違いに駆け出していった。

すれ違いざまに横顔を一瞬目で追う事しかできなかったが、クー以外にいないだろう。

裂傷を追った足の怪我を押して、ブーン達の助勢に入ろうというのか。
頑強さに加えて、一撃で人間の頭部を潰せてしまいそうな剛力を備えた相手だ。
負傷した足を庇いながらでは、簡単に餌食とされてしまいかねない。

そうやってクーの身を案じたショボンが振り向き、彼女の背中を目で追った。
そこには既に、人面樹に斬りかかろうと小剣を腰から抜き出して疾駆する、彼女の姿。

一言かけようとしたが、軽やかな身のこなしは、怪我を押して戦列に加わろうとする者のそれではない。
目の当たりにしたショボンは、クーに向かって掛けようとした制止の言葉それらを、ぐっと飲み下した。

(´・ω・`)(無茶をしている、という風でもなさそうか……ならばここは───)

今は、クーに任せるしかない。

あの頑強さだ、決定打を浴びせられるのは恐らく自分の魔法しかないだろう。
こちらを片付けるまでの間、せめて注意だけでも引いてくれればこの上ない。

143名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:54:55 ID:zkfwVdHY0

一瞬で思考を巡らせ、答えを導き出すと、目の前からはツンとワタナベがそのショボンの元へ、
追いすがる人面樹から逃れるようにして走りよってきた。

从;'ー'从「ショボンさん……クーさんが!」

(´・ω・`)「解っているさ。二人とも、僕の後ろに下がっていてくれ」

ξ;゚⊿゚)ξ「前は、手強い相手のようね」

「ギギギ……ギヒヒィッ!」

二人を背へと庇うと、眼前の人面樹の前に手をかざす。

(´・ω・`)「二人とも僕の外套の端を掴むのはいいが、体当たりだけはしないでくれ」

ξ;゚⊿゚)ξ「何よそれ?」

(´・ω・`)「さっきは邪魔が入ったんでね───」

「はぁぁーッ!」

背に、クーの気迫の篭った叫びが伝わる。
さっさとこちらを片付けて、自分も助太刀に参じなければならない。

だが今は、ただ精神を集中させて目の前の敵に魔力をぶつけるだけだ。

ξ゚⊿゚)ξ「来るわよッ!」

(´・ω・`)「けど、今度は外さないさ」

144名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:56:21 ID:zkfwVdHY0

───────────────

──────────

─────

爪;'ー`)「馬鹿、来るんじゃねぇ!」

気配に気付いたフォックスが振り返ってクーへと叫ぶ。
だが、彼女はただ一点─────目の前にそびえる大木だけを見据えていた。

川 ゚ -゚)(───なめてくれるなよ)

そう、物心ついた時より冒険者として育ってきた自分を、嘗めるな。
生き抜くために身につけた術、手に幾度も血豆を作って独学で励んできた剣技を。

敵は、妖魔化した樹木。
それならば、人に害を為すだけの存在が相手ならば、遠慮はいらない。

(;^ω^)「クーさん!?こいつは手強いお、来ちゃダメだおッ!」

川 ゚ -゚)「大人しく見てなど────」

┃#w(;(●);)w#┃「ッ……ギィィィィーッ!」

自分の元へと掛けてくる気配に気付き、人面樹はクー目掛けて枝を振り下ろしていた。
だが強力なその鞭を、風のあおりを食う木の葉の様に、走りながら軌道修正し、かわす。

川#゚ -゚)「────いられん性質なのでなッ!」

145名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:57:09 ID:zkfwVdHY0

一連の流れのままに、腰元から抜き出した小剣をそのまま人面樹の眼へと突き刺した。
入りは浅かったが、逆手で持った剣の柄の底面を、掌で力強く押し込むと、ずぐんと嫌な音を立てて、
さらに奥深くへと刺し込まれてゆく。

┃#w(;(*);)w#┃「ギャッ………ギョオォォォォォォォォーーーッ!??」

川#゚ -゚)「はぁぁッ!」

突き刺した剣の柄を力強く掴み、眼球の内部を引っ掻き回すように、乱暴に剣を動かす。

そうしてぐりぐりと傷口を押し広げられる苦痛に、自分の懐へは伸ばせず決して届かない攻撃を、
近くの地面へ向けて狂ったように繰り返していた。地面が次々に抉られ、砂埃が舞い上がる。

新たな攻め手、クーの登場によって完全に人面樹の不意を突いた。
劇的に向かった風向きは、もはや勝利へと吹いている。

呆気にとられて一瞬立ち尽くしていたブーンに、状況を理解したフォックスが大声で名を呼ぶ。

爪'ー`)「マジか…………ブーンッ!」

(;^ω^)「今、だおねッ!」

┃#w(;(*);)w#┃「ギャッ、ギギギィィッ!!」

川;゚ -゚)「早くしろッ!」

完全に歩みを止めた今が、絶好の好機だった。

146名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:58:12 ID:zkfwVdHY0

(# °ω°)「んおおぉぉぉ…………」

背後に立ち、首の後ろにまで剣を大きく振りかぶると、低く唸りながら力を溜め込む。
先ほどは意にも介される事のなかった、全力の一撃の構えだ。

だが今度は防御を考えず、ただ一点を攻撃する事のみに全力を傾けられる。

(# °ω°)「おおおぉぉぉぉッ!!」

溜め込んだ力を、一気に解き放つ。
肩から肘、肘から手首、そして手首から腰。
身体中に次々と伝達させて生み出した大きな回転力を、手先の剣へと込め、ぶち込んだ。

┃#w(;(*);)w#┃「────ギョッ!」

軽い音を立てて表皮を砕いた後、剣は幹へと重く切り込んだ。
驚いたようにかん高い奇声を上げた人面樹が、枝全体をばさりと大きく振るわせる。

どうやら、今度はダメージが浸透したようだ。

(#^ω^)「もういっちょうッ!!」

直後、再び力を溜め込んで、同じ箇所を狙い済ました剣の打ち込みを加える。
傷口から外側へ向けて広く外皮が剥がれ落ちると、更に奥深くへと剣が入り込み、幹に亀裂が入った。

147名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:59:14 ID:zkfwVdHY0

爪'ー`)「クー!そいつから離れろッ!」

川;゚ー゚)「ふん、ようやくお役御免か───」

フォックスの呼びかけで即座に剣を引き抜くと、後方へと飛びのいた。
そうしてクーの目に飛び込んできた光景は、まるで木こりが木を伐採する瞬間のような場面。

人の四、五人分も胴回りのある大木は、ブーンの剣によって今まさに倒れようとしていた。

(#^ω^)「効かないなら─────」

どっしりと腰を落として広く歩幅を取ると、腰の後ろで剣を構える。
裂帛の気合をその一撃に込め、溜めた力を爆発させるように、横一文字に大きく剣を薙ぐ。

全力を込めた渾身の────────必殺を念じた、会心の一撃。

(#`ω´)「……効くまでやってやるおぉッ!!」

三撃目となる打ち込み、重い破壊音が足元の地面へまで伝わる。
そしてブーンの気迫があたりの樹木へと跳ね返り木霊すると────やがて再び訪れる、静寂。

次にはびきびきと、亀裂を形作る音が鳴り響いてきた。

148名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 08:00:13 ID:zkfwVdHY0

┃#w(;(○);)w#┃「ガ───ギ──ゴ」

大きく刻み込まれた傷口、太い幹の7割ほどまで抉り穿った剣を引き抜く。
ばさばさと音を立てながら、幹の上半分が大きく傾いた。

剣につけられた裂け目に沿って自重に耐え切れず傾き、ゆっくりと倒木してゆく。

(;`ω´)「………ふぅぅぅっ」

「いっちょう、あがりだお」
そうブーンが呟くと同時、轟音と共に土煙を巻き上げながら、巨木はついに地面へと倒れ伏した。

肩で息をするブーンをよそに、フォックスが右腕を目の前で小さく掲げる。

爪'ー`)「よっしゃ────良くやったぜ!」

川 ゚ -゚)「喜ぶのは早いぞ。すぐにあいつを援護にいってやらないと……!」

(;^ω^)「そ、そうだったお!」

クーの言う”あいつ”というのは、ショボンの事であろう。
勝利を喜ぶ暇などない、この森には、敵は無限のようにそこら中に居るのだ。

三人が再び奮い立ち、勇みショボンへの助太刀に向かおうとした、その時だった。

149名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 08:03:43 ID:zkfwVdHY0

(´・ω・`)「お見事だったね、クーさん、ブーン」

从;'ー'从「ほっ……どうにか、皆無事ですね」

ξ゚⊿゚)ξ「こっちはこっちで、ド派手に片付いたわ」

悠然とこちらへ歩いてきたショボン、その隣にはワタナベとツンの二人も居る。
ひとまずの危機は、どうにか切り抜ける事が出来たらしい。

爪'ー`)「必死こいて注意引いた俺への労いはなしか?」

(´・ω・`)「……気にはしてないんだけど、誰かさんが僕の手元を狂わせなければ、もう少し楽な戦いだったね」

爪;'ー`)「んぐっ」

先ほどのミスを指摘されてたじろぐフォックスに構わず、ブーンがクーへと詰め寄る。

( ^ω^)「クーさんのお陰で、大助かりだったお!」

川 ゚ -゚)「まぁ……これで少しは借りを返せただろう」

(´・ω・`)「足の怪我は大丈夫なのかい?」

川 ゚ -゚)「あぁ、万全だ」

150名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 08:04:52 ID:zkfwVdHY0

ξ゚⊿゚)ξ「あー、こほんっ」

わざとらしい咳払いに気付くと、クーが彼女の方へと振り向き言った。

川 ゚ -゚)「それについては……ツンのお陰でな」

そう言って、怪我をしていた足元の衣服の裾をまくり、露出した足首を皆に見せた。
裾の一部は裂けているものの、その下の素肌には傷など影も形も無かった。

爪'ー`)「へぇ……どういう手品だ?」

ξ゚⊿゚)ξ「”聖ラウンジの奇蹟”の、正しい使い道の一つよ」

川 ゚ -゚)「私自身も驚いたがな……ツンが手をかざすと、傷が”治っていった”んだ」

(;^ω^)「そ、そんな事まで出来るのかお!?ツンってば!」

(´・ω・`)「細胞の再生───修復だって?」

ξ゚⊿゚)ξ「とても小さなものだったけど、ヤルオ神からの言葉が届いたの」

───────────────


──────────

─────

151名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 08:05:38 ID:zkfwVdHY0


       ____
     /      \
   / ─    ─ \
  /   (●)  (●)   \
  |      (__人__)    | ──これは”癒身の法”……そう名付けた、奇蹟の一つ──
  \     ` ⌒´     /



       ____
     /⌒  ⌒\
   /( ●)  (●)\
  /::::::⌒(__人__)⌒::::: \  ──いつも話し相手に不自由してるから、またいつでも祈りを飛ばしてくれお!──
  |     |r┬-|     |
  \      `ー'´     /


───────────────

──────────


─────

152名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 08:07:10 ID:zkfwVdHY0

ξ゚⊿^)ξ「”癒身の法”っていう一言しか届かなかったけど、効果はご覧の通りよ」

(´・ω・`)「毎度驚かされるよ、ツン───大陸の大多数が聖ラウンジ信仰なのも、頷ける」

( ^ω^)「やっぱり、君は大した娘さんだお」

ξ*゚⊿゚)ξ「えっへん」

爪'ー`)「馬鹿、褒めすぎるなブーン」

川 ゚ -゚)「………」

先ほどからある疑念が引っかかり、それがクーの胸中でつかえていた。

今しがたのショボンの言葉の中にもあった────確かに、そうなのだろう。
戦闘で過ぎ去った高揚感の後に、えも言われぬ感情が訪れ、複雑な表情を浮かべる。

ξ゚⊿゚)ξ「?……どうしたの、クー」

胸を張るツンの顔を覗き見ていたクーだが、自分の考えを悟られぬよう紛らわし、俯く。

川 - )「────いや、なんでもない」

心の中で起こるせめぎ合いは、いつの間にか彼女の表情を曇らせていたようだ。
それらをひた隠すため、クーは目線をツンから逸らした。

隠そうとも、決して消せぬ感情ではあるが。

153名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 08:08:41 ID:zkfwVdHY0

(´・ω・`)「─────さて、目的の場所はすぐそこさ」

再び出立を促すショボンの案内の元、冒険者一向は先を急いだ─────


───────────────

──────────


─────

154名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 08:09:24 ID:zkfwVdHY0


怪樹達の群を抜け、湖畔沿いの道にぽっかりと口の開いた洞穴。
そこは、迫る人面樹を凌ぐため、ショボンが一度立ち寄った場所だった。

(´・ω・`)「ここを通っておいて良かった」

じめりとした湿気は、肌にまとわりついてくるようだ。

爪'ー`)「どこに連れてくるのかと来てみりゃあ……何の事はねぇ、緑から逃れる為の休憩所ってか?」

( ^ω^)「なんつーか……ニオうおね」

川 ゚ -゚)「これは……」

爪'ー`)「───ははん、なるほどな」

155名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 08:10:43 ID:zkfwVdHY0

煙草を取り出し口にくわえたフォックスが、足元に転がる樽から地面へと染み込んでいる液体を見て、
火打ち石で着火しようとしていた手を止めた。

「お、おい!お前さんがた……まさか本当に───!」

(´・ω・`)「そう、油さ。こいつをそこらじゅうへと振りまいてから、この森に火を放つ」

ξ゚⊿゚)ξ「!」

冷静に言ってのけるショボンの言葉に、もはや一同から忘れられかけていたラッツが騒ぎ立てる。
どう考えても冷静ではない一言を、さらりと口にした彼に対して。

「はッ!……お笑いだぜ、苦心の末ここまでやってきた挙句、やっぱり森に火を放ちます、だぁ?」

(;^ω^)「心配だという点については、ブーンも同調するお」

「心配どころじゃねぇ、全部燃え尽きた後にゃあ焼死体が7つ発見されるだけだぜ!?」

从;'ー'从「そうですよっ、大体───どこに逃げるんですか!?」

ξ゚⊿゚)ξ「逃げ場のアテはあるの?ショボン」

(´・ω・`)「無いよ」

156名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 08:11:40 ID:zkfwVdHY0

( ^ω^)

爪'ー`)

ξ゚⊿゚)ξ

「………」

その一瞬、洞穴の中に居た面々の表情は一様に冷たく凍りついた。
完全に場の時が止まったのを見計らってから、ショボンは白々しく言い放つ。

(´・ω・`)「冗談。確実な安全性の面では、という意味さ」

爪'ー`)「……次からは止してくれ、本当に心臓が止まる奴だっているかも知れないからな」

(´・ω・`)「───だけど、君たちの誰かも、この一つの可能性に気付いているはずだ」

「どうしろってんだよ!地中に穴ぐらでも掘って、そこに埋まってりゃあいいのか?」

(*^ω^)「おっ!それはいい考えかも知れないおっ!?」

爪'ー`)「お前は黙ってろ」

ξ-⊿-)ξ「う~む……」

川 ゚ -゚)「この場所に居ても、油が染み込んでいるこの地質では引火の可能性が極めて高いな」

(´・ω・`)(……すぐにたどり着く答えだと思ったのは、ひょっとすると僕だけなのか)

腕組みをしながら長考に入った面々の様子に、ショボンはがくりと首を傾げた。
どうにか考えをひねり出そうとしていた彼らの沈黙を破ったのは、ワタナベだった。

157名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 08:12:28 ID:zkfwVdHY0

从'ー'从「みず、湖…………あっ!」

川 ゚ -゚)「!」

(´・ω・`)「………そう、船だ」

ショボンが思い描いていた、そしてワタナベが連想あそびの要領でたどり着いた答えは────”湖上”

幸いにもこのカタンの森には中央部分に大きな丸型の湖が存在している。
そしてこの場にいる冒険者たちの大半が、この森に足を踏み入れた時、湖上に浮かぶ木船を見かけたのだ。

この怪樹ひしめくカタンの森からの唯一の脱出経路は、森の外にあらず。
森の中、すなわち湖の上に浮かべる船の上にあったのだ。

(*^ω^)「そ────その手があったかぁぁーーーッ!」

全く思い当たらなかったその答えに、とても大きく感銘を受けて叫ぶブーン。
だが、それにはどうしても一つだけ問題点が残されてしまうのだ。

爪'ー`)「確かにそりゃあ………安全とは言えねぇな」

(´・ω・`)「………」

ξ゚⊿゚)ξ「名案だと思うけど、どうしてよ?」

爪'ー`)「考えてもみろよ……ひぃ、ふぅ────今この場にゃ、何人居るんだ?」

ξ;゚⊿゚)ξ「あ………」

158名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 08:13:50 ID:zkfwVdHY0

「子供は数に入れねぇでも────大人が、6人も……」

ここで、再び一同は沈黙した。

小さな木船ならば3、4人がせいぜいのはずだ。
チャンスは一度、そこで全員が船に乗っかり岸からある程度の距離を離れなければならない。

明らかに定員を大幅に超えてしまうのだ、すぐに沈没してしまう事もありうる。

(´・ω・`)「森に立ち込める熱風で、気流に引き寄せられる可能性もある。岸からは少しでも離れたい」

爪'ー`)「万が一沈没したとして、俺やクーならなんとかならぁな……けど」

ξ;゚⊿゚)ξ「私やワタナベちゃんは正直……ずっと立ち泳ぎしてる自信なんて欠片も無いわ」

(;^ω^)「ブーンも……具足や胸当て……ごてごて重い装備ばっかりだお」

爪'ー`)「まぁ、沈んだら溺れるわな」

(´・ω・`)「外してもらうしかない、か」

(;^ω^)「だけどだけど!この子たちはもはやブーンの旅の相棒で、ちゃんと名前も────」

ξ゚⊿゚)ξ「何馬鹿な事言ってんの。あんたが一番重いんだから、そこは譲りなさいよ」

159名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 08:15:28 ID:zkfwVdHY0

从;'ー'从「ブーンさん……お願いします」

川 ゚ -゚)「ま、少しでも全員の生存率を上げる上での必須事項だろうな」

(;^ω^)「ぐぬぬぅ……」

女子供の説得に負け、ブーンは泣きそうな表情を顔に貼り付けながら、具足や胸当ての紐を自ら解いていく。
衣服とともに、最後に残ったのは身体に麻糸で巻きつけた、鞘に納まる剣だけだ。

(#^ω^)「べらんめぇ!こいつでどうだおッ!」

(´・ω・`)「すまないね、ブーン」

ξ゚⊿゚)ξ「あ………その背中の剣だって、重いんじゃない?」

( ^ω^)

ξ;゚⊿゚)ξ「あ、ごめん……ダメだった?」

表情は同じだが、その一言に少しだけ雰囲気の変わったブーンに、ツンが少したじろいだ。

( ^ω^)「この剣だけは、譲れんお」

背の剣の柄を一度握りながら言うと、すぐにいつもの雰囲気に戻ったが。

ξ゚⊿゚)ξ(大事なもの、なんだ)

川 ゚ -゚)「で────その作戦、決行はいつだ?」

160名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 08:16:41 ID:zkfwVdHY0

(´・ω・`)「勿論、早いに越した事はない───皆の心の準備は?」

川 ゚ -゚)「私はいつでもいいが……こんな森とは、早いとこおさらばしたいのでな」

爪'ー`)「俺もだ。動くんなら分担だろ。準備は出来てるぜ?」

(´・ω・`)「こき使うようですまないが、これで貸し借り無しにさせてもらうよ───」

「わーったよ」
と、ショボンの台詞にそっぽを向いて一寸子憎たらしい表情を浮かべたフォックスだったが、
どうやら彼は自分の役割を理解しているらしい。

(´・ω・`)「ブーンとフォックスは、この森の東西に分かれてここにある油を撒いてきてくれ」

「なら、俺も手伝わせてもらうぜ!何もしねぇで助かるのは、癪だからな」

(´・ω・`)「ありがとう。ではラッツ、君は北側を頼む」

( ^ω^)「ショボンはツン達とここに残って、この洞窟を見張ってるのがいいおね」

从'ー'从「あ!見張りぐらいなら私だって手伝えます!」

(´・ω・`)「助かる。それじゃあ君は東側の出口を見張って、何かあったらすぐ反対側の僕へと知らせてくれ」

161名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 08:18:05 ID:zkfwVdHY0

良い雰囲気だった。

てきぱきと役割分担が決まっていき、それを担う面々の瞳には、不安を塗りつぶす程の強い光が宿っている。
「畜生、意地でも助かってやるからな」と言いながら、ラッツは自分の頬をぴしゃり張っていたが、
恐らくその心中は、この場にいる誰もがそう頑なに思っている事だろう。

この森に住まう怪樹らを倒して、生き残る。
もちろんそれも─────全員でだ。

(´・ω・`)「よし、十分な休憩時間だったね。始めるとしようか」

ξ;゚⊿゚)ξ「あ、あの~……」

川 ゚ -゚)「私たちは、どうすればいい?」

完全に出遅れたツンが、弱弱しい声を出しながらそろそろと挙手する。
だが、非力なツンに対し”油樽を担いで走り回れ”などとと無茶な事は、当然言える訳もない。

(´・ω・`)「ツンは……クーさんと共に安全なこの場所で待っていてくれ」

ξ-⊿-)ξ「そう、わかったわ(ほっ……)」

(´・ω・`)「クーさんは───」

( ^ω^)「いいんだお、元はと言えばブーンがこの森に行こうと誘ってしまったせいだお」

川 ゚ -゚)「ま……確かに依頼の危険度は大幅に跳ね上がったが」

162名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 08:19:09 ID:zkfwVdHY0

(;^ω^)「随分迷惑もかけたし、道中で危険な目に合わせちゃったおね……」

ξ゚⊿゚)ξ「まぁ、旅のお共は道連れって言うじゃない、確か」

( ^ω^)「───迷惑ついでで申し訳ないんだけどお、どうかここで、ツン達の事を守って欲しいお」

川 ゚ -゚)「ふむ、それは腕を見込まれての事かな?」

( ^ω^)「そういう事ですお、先輩冒険者殿」

川 ゚ー゚)「ふっ……わかった。任せてくれ────無事を祈るぞ」

( ^ω^)「!……ありがとだお」

爪'ー`)(ほぉ……こうしてしおらしくしてれば────なるほど、うぅん……悪くないねぇ……)

ξ゚⊿゚)ξ「何じろじろ見てんのよ、アンタは」

役割を果たす自信が無く名乗り出られなかったツンとは違い、クーは手伝う意思が十分にあった。
が、小気味良く連携して脱出の算段を整えてゆくブーンらの様子をずっと見ていて、機を逃しただけ。

目を奪われていたのだという自覚は、彼女にはなかった。

163名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 08:20:15 ID:zkfwVdHY0

今までクー自身は毛嫌いしていたはずの、”パーティー”という冒険者の集まり。
だがその認識は、今彼女の中で確実にがらりと変わろうとしていた。

いつの時代も同族で殺し合いばかりしているのは、人間の他には妖魔ぐらいなものだ。
だがそれとは逆に互いを助け合い、同じ希望を胸に抱きながら困難へと立ち向かってゆく者もあった。

ブーン達の、真剣みの中におふざけなどを交えつつも、皆の気持ちが一つになるさまは────

( ^ω^)「よっしゃ、どっちが先に帰ってこれるか競争だお!フォックス!」

爪'ー`)「けっ、なめんじゃねぇよ。俺が狐なら、お前さんはどん亀だぜ」

(´・ω・`)「二人共下らない小競り合いはいいから、役割だけは果たして帰ってきてくれよ?」

ξ゚⊿゚)ξ「危なくなったら、すぐに引き返してね……」

川 ゚ -゚)(これが冒険者………”仲間”、か─────)

そうして─────人間不信の一面を持つクーの心を、少しだけ氷解させるに至った。

──────────────

──────────

─────

164名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 08:22:09 ID:zkfwVdHY0

勇み駆け出していった、ブーン、フォックス、ラッツの三名。
残った者のうち、ショボンとワタナベは両の出入り口の見張りへと付いている。

クーと二人、どことなく気まずい空間に取り残されたと思っているのはツンの方だろうか。

川 ゚ -゚)(………)

ξ゚⊿゚)ξ(うぅん……何話せばいいのかしら。さっきはすごく険悪だったし)

何とはなしに、人3人が横に並んでせいぜいといった洞窟内の中央部分で、端と端で対面し腰を下ろす二人。
会話を切り出そうかと思案にあぐねているツンの方を、クーは時折ちらと覗き見る。

川 ゚ -゚)(………尋ねて、いいものか)

ξ゚⊿゚)ξ(あ、何か見てるわ……もしかして、まだ向こうはこっちの事恨んでたりして)

川 ゚ -゚)(いや………やはり、やめておこう)

ξ;-⊿-)ξ(あー、ダメ。お互い押し黙っちゃって気まずい。何か話し振らないと)

気まずさに後押しされるようにして、ツンは質問をクーへと投げかける。

ξ゚⊿゚)ξ「あ、あのっ……クーってさ───どこからヴィップへ来たの?」

川 ゚ -゚)(―────ッ)

165名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 08:23:01 ID:zkfwVdHY0

たまたま思いついた、何気ない質問をツンはぶつける。
しかしそれは、お互いにとって最悪、正しく引き金だったのだ。

顔を伏せ、小さな声でクーはぽつりとだけ返した。

川 - )「私の生まれはな………ロアリアだ」

ξ゚⊿゚)ξ「そっか………ロアリ─────」

言いかけて、その瞬間に気付いた。
脳天から背中にかけてを、雷に打たれたようにしながら、ハッと思い出す。

昔、父が聞かせてくれた話が次々と頭の中へと流れ込んで来ては、鼓動が大きく高鳴った。

ξ;゚⊿゚)ξ(権力に溺れて、罪も無い街の人々の多くを無慈悲な刑に処した、イスト審問官の………!)

川 ゚ -゚)「………その様子だと気付いたか。お前も、聖ラウンジの人間なのだろう?」

ξ;゚⊿゚)ξ「あ────」

川 ゚ -゚)「私の家族も、クソッたれの聖ラウンジの被害者さ。何の負い目も無い父と母は、殺された」

ξ; ⊿ )ξ「そん……な……」

自分の信仰する道の名を貶められても、何も反論する事など出来ない。
ただ、クーの強い瞳から顔を背けて、俯く事しか。

166名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 08:24:03 ID:zkfwVdHY0

だが、何か言葉を返せば、怒気を荒げて剣を突きつけていたかも知れないと、クーは思う。
確かに恩人ではある、が、どうしても心の底では”両親を亡き者にした一味の一人”という印象は、拭えない。

もはや世間一般の人間達からは忘れさられ、当の聖ラウンジ教徒らの頭からも風化してしまっている事実。
だが、事実は事実として、確かにクーの心に大きな深手を残しながら、愛した両親を奪い去ったのだ。

それら全てを踏まえた上でなお、クーは表情の平静を装う。
自身の身体の内側で、何か黒くどろどろとしたものがうごめいているような不快を感じてはいるが。

どうにか言葉を捻りだそうとしているツンの様子が、クーの目にはこの上なくもどかしい様子に映る。
謝罪、憐憫、同情────いずれにしろ、そんな言葉をラウンジ信徒から聞いても不快が増すばかりだ。

ξ;⊿ )ξ「私……」

川 ゚ -゚)(………ふん)

そんなツンの様子に急速に興が醒めたか、クーが会話を切り上げようとしたその時だった。
ようやく言葉が紡がれたツンの口からは、彼女にとっては驚きの言葉が聞かされる。

ξ;⊿ )ξ「私は────その当時司教だったアルト=デ=レインの娘、ツン=デ=レイン……」

川 ゚ -゚)「ッ!」

167名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 08:24:57 ID:zkfwVdHY0

ツンが明かした本性は、恐らくクー自身が最も憎むべき存在の一人でもあるかも知れない。
暴走が過熱し、ロアリアの地に悲劇を振りまいた異端審問団を派遣したのは、当時最も権力を有していた、
司教であるツンの父親に他ならない。

尤も、様々な事象が重なり、全ての責任が父にあったとは言えないが、その一旦は担っているはずだ。
憎むべき相手の娘─────憎まれるべき相手とが、やがて視線を上げて瞳を見つめあう。

ξ゚⊿゚)ξ「………聞かせて欲しい。クーの、ご両親のお名前」

川 ゚ -゚)「………何の義理で」

ここで、クーは腰の剣に手をかけられるような体勢を取りながら、ツンの前に立ち上がった。
彼女の言葉は、出来る事ならばこのまま触れて欲しくなかった部分を逆撫でして、憎悪を滾らせた。

ξ゚⊿゚)ξ「祈らせて欲しいの───クーのご両親の、御霊に」

川#゚ -゚)「言葉に気を付けろよ……私の父と母の名を、汚そうというのか?」

ξ-⊿-)ξ「ダメ………だよね」

川#゚ -゚)「───お断りだッ!お前に、私の何が解るッ!?」

理性は残っているが、今やツンの言葉のどれもが、クーの激情に油を注ぐものでしかない。
とうとう剣を抜いてぴゅんと振るうと、その切っ先をぴたりとツンの鼻先へ突きつけた。

168名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 08:26:05 ID:zkfwVdHY0

川#゚ -゚)「……お前たちラウンジの信徒がしたことを、私は決して忘れる事など出来んのだ」

ξ-⊿-)ξ(……………)

クーに斬る気が無いのを、悟った訳でもない。
しかしながらツンは、怖気づく様子も見せずにその場に膝を着くと、すぅ、と目の前で手を組み、額を合わせた。

川 ゚ -゚)「………何の真似だ」

ξ-⊿-)ξ「いつの日か─────ご両親の名前、教えて」

川#゚ -゚)「ッ……まだ言うか!」

ξ゚⊿゚)ξ「それまでは、祈らせてもらう。毎晩、名も知らないクーのご両親に、様々な想いを届ける為に」

川#゚ -゚)「………」

ξ゚⊿゚)ξ「私は───この先もずっと祈りの旅を続けるから」

自分の想いを、はっきりと口にして伝える。
彼女にとっての旅は、祈りの旅。それを繰り返す中で、彼女が背負うものは確実に重みを増してゆくものだ。

クーの両親のように非業の死を遂げた人間ばかりでもない、他教徒や分派の宗教戦争の犠牲者。
果ては行き倒れのまま死んだ旅人に、蛆のたかる名も無き亡骸まで。

それら全て、自分の目に映る限り。
今にも声に聞こえてきそうな死者の怨嗟に対しても耳を傾け、迷える魂達に慈しみの祈りを届ける。

ツンの中で、クーに言った言葉に偽りは無い。
だからこうして、これからも彼女が旅を続ける理由はひとつひとつ増えてゆくのだろう。

169名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 08:26:46 ID:zkfwVdHY0

ξ゚⊿゚)ξ「私たちの過ちで、クーのご両親のように想いを残してこの世を去ってしまった人々の為に」

川 ゚ -゚)「………想いを残して去ったと、何故わかる?」

一層真剣みを帯びたツンの表情、そして力強い瞳が、彼女の揺ぎ無い信念を物語る。
クーが静かに話を聞く内、いつしか抜き出していた剣も鞘へと収められていた。

ξ゚⊿゚)ξ「それは、クーが今でもご両親の事を想うのと一緒よ───。
     親というのは、自分がいつどんな状況でも、子供である私たちを気に掛けてくれているから」

川 ゚ -゚)「………」

そうして、クーは再び元々座していた場所に腰をすとんと下ろした。
そっぽを向いて頬杖を付くと、また最初の時のように黙り込む。

ξ-⊿-)ξ(……………)

白けた様子のクーを一度だけ見やると、今度は瞳を閉じて、ツンは祈りを捧げ始める。
恐らくは、話しの中にあったクー自身の”名も知らぬ両親”に向けて、であろうが。

川 ゚ - )(ふん────堂に入ってるものだ)

片目を閉じ、横目だけでクーが一度だけ伺ったツンの姿は、心の中でだけ子憎たらしい言葉を吐いたクーの
目に、そう思わせるだけの風格は持ち合わせていたらしい─────

170名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 08:27:34 ID:zkfwVdHY0

そうして訪れたしばらくの沈黙を長く感じたクーが、小さく声をかける。

川 ゚ -゚)「………なぁ」

腹の虫も、何だか方々へと散ってしまったようだ。
今になってツンの境遇、立場を何も考えずに一方的に責め立てた自分に、少しだけ負い目を感じる。
「済まなかった」などと、一言だけでも謝ろうとしたのだが、声が聞こえていない事に気付いた。

ξ-⊿-)ξ(………)

クーの前に居るのは、祈りを形にする事の出来る力を持った娘。奇跡そのものような存在だろう。
そんなものを身につける事が出来たのはどうしてかと、彼女の顔を覗き込みながら考えていた。
他人の声も届かぬほどの集中力、信仰に裏打ちされた強い意志の力なのか。

あるいは──────

川 ゚ -゚)(そんな力があるのなら───本当に私の両親に届けてしまいそうだな。直接の、言葉を)

ξ゚⊿゚)ξ「………」

様々な思案を巡らしている内、どうやらツンが祈りを終えたらしい。
それと同時に、これまで静けさを保っていた洞穴の中に、聞き覚えのある声が反響し、靴音も響いた。

「みんな、とにかく集まってくれおッ!」

171名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 08:28:22 ID:zkfwVdHY0

川 ゚ -゚)「どうやら、終わったようだな」

ξ゚⊿゚)ξ「えぇ……ところで脱出した後、クーはまたヴィップに?」

川 ゚ -゚)「ん?そうだが……それより今は急ぐぞ」

ξ-⊿-)ξ「分かった────いつか、また教えてもらいに行くから」

川 ゚ -゚)「両親の名の話か?」

「ええ」

「ま、教えちゃやらんがな」

そんな言葉を交わしあいながら、ブーンの声がした東側の入り口へと歩いていく。
その彼女らの後ろからは、西側入り口で見張りをしていたとワタナベと共にフォックスも戻って来ていた。

爪'ー`)「よぉ、お二人さん」

ξ゚⊿゚)ξ「フォックス!」

川 ゚ -゚)「戻ったか」

爪'ー`)「今、外はちっとばかしまずい感じになってるぜ───どうやら、ブーンの奴の方もだ」

「おぉい!急がねぇとやべぇんだッ!」

172名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 08:29:22 ID:zkfwVdHY0

どうやら、ラッツもブーン達と一緒だ。
小走りで彼らの元へ向かうと、まず息を切らせたブーンが出迎えてくれた。

(;^ω^)「はひぃ……ぶふぅ……あーしんど。とにかく、聞いてくれお!」

(´・ω・`)「何があったんだい?まさか、船が使用不能に───」

爪'ー`)「いや、違う。連中に”俺たちの動きを感づかれた”……そうだろ?」

(;^ω^)「その通りだお!」

从'ー'从「感づかれた……って、見張ってた私は何も───」

皆が顔を見合わせる内、全員がある異変に気付いた。
「しぃっ」っと言った誰かの合図で全員が黙り、耳を澄ます。

         ──ギギ── 

  ――ギギィ──             
                    ――イギッ グギギッ── 


      ──ギヒヒィ――

173名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 08:30:22 ID:zkfwVdHY0

不快な音色の主は、遠くから徐々にこちらへと近づき、次第にその音量も増して感じられる。
それも、一つや二つではない。妖樹の声が幾重にも重なり合い、それらが奏でる協奏曲。

ブーン達が油を撒き散らして、自分たちを燃やし尽くそうとしている動きに気付いたというのだ。
ここ一番で、最大のチャンスでもあり、最大のピンチが訪れた。

(´・ω・`)「以前ここで、調査団の一人が焼身自殺を遂げたという調査があった」

爪'ー`)「そいつぁ、まぁ普通に考えてあいつらに襲われたからなんだろうなぁ」

(´・ω・`)「油を燃やす道具と知り、知恵を付けた───というべきか。やはり、火を恐れている」

( `ω´)「だったら後はどうにか突っ切って………船まで向かうだけだお!」

恐らく木船のある小屋に行くまで、幾度も妖樹の群れが立ち向かってくるだろう事を覚悟した。
もはや、一刻の猶予もない。森中の人面樹が共鳴し、ブーンたちの退路を絶とうとしている。

もはや脱出などではなく───互いの存亡を賭けた戦闘なのだ。
自分たちが火を放ち、全焼するまでの間を湖上で無事に居られるか否かが本当の勝負となる。


「行くおぉぉぉーッ!!」

ブーンの咆哮が、妖樹たちの協奏曲に負けじと森を木霊し────それが合図となった。

174名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 08:31:08 ID:zkfwVdHY0

───────────────

──────────

────────

─────

―──





爪'ー`)「くれてやるよッ!」

同時に素早く数本のナイフを眼球へと打ち込み、視界の自由を奪って無力化する。
それだけで十分な相手だった。

すぐに全員を導くと、次の障害が立ちふさがる。

爪'ー`)「ショボンの旦那よぉ、こいつは任したぜ!」

だが、走りながらという悪条件の中でも集中を曲げずに詠唱を行っていたショボンがその前に出る。
そして彼が一言、二言を呟くと、次の瞬間には人面樹を木っ端微塵に吹き飛ばしていた。

(´・ω・`)【───炎の玉!】

ξ;>⊿<)ξ「わっ……ぷ!破片飛んで来るんだけど……」

再び視界が拓けた時、その先にいる二体に向かってブーンとクーが同時に斬り込んでいた。

175名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 08:31:52 ID:zkfwVdHY0

(´・ω・`)「二人共!そいつらを切り抜ければ小屋はもう目の前だッ!」

( `ω´)「分かったお………クーさんッ!!」

川 ゚ -゚)「あぁ、来るぞッ!」

「ギシャアァァァァッ!!」

最後の抵抗、と言ったところだろう。
せき止めて二匹の内の右の一体が、奇声と共に枝を横へとなぎ払った。

”がぎっ”

(;`ω´)「お前たちの攻撃は……ブーンにでもまるっとお見通しできる程に単純なんだおッ!」

勢いのあるその攻撃を剣の刃部分で受け止める。
なまじ威力があるばかりに、剣が食い込んだ枝の先端はそのまま寸断され、どこかへと飛んでいった。

その隙を突いて、跳躍。
飛び込みながら大きく身体ごと反らせて溜め込んだ力を、そのまま中空で斬撃へ変えて解き放った。

”バギャァッ”

斬るというよりも、粉砕したというのが正しい表現だった。
顔面を突き抜けた剣の先端は、向こう側へと貫通するほどの威力。

(;`ω´)「……よっしゃぁッ!」

176名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 08:32:36 ID:zkfwVdHY0

一方の、クーが受け持つ左手の固体は、足元を払うようにして枝を地面すれすれを伝わせていた。

「ギギ……ギィィィーッ!!」

川 ゚ -゚)「そんな単調な攻撃、倍は早くても当たらんさッ!」

前方へと宙返り、悠々とその横なぎを避けながら接近する。
さっきの戦いから学習しておいた、至近距離にまで密着すれば攻撃を繰り出す事が出来ないという
身体構造の特徴を、すぐに戦闘へと活かす。

眼球のある位置こそ違うものの、基本は同じだ───その人の頭ほども大きな眼の中心へ向け、剣を穿つ。

「……シャギャァァァァッ!!」

痛みに枝をのた打ち回らせている所を、今度は剣を一度引きぬいてから、もう一度別の場所へと突き刺した。
さらに大きな叫びを上げて暴れるかと思いきや、意外にも奇声は止み、側面の茂みへと自ら倒れてゆく。

川 ゚ -゚)「ニブそうだが……痛覚は一応あるようだな。二度刺しは効いたか」

立ちふさがる障害を取り除きながら走り続け、ようやくたどり着く事ができた。
小屋のすぐ近くに、ぽかりと浮かんでいる木船────あれだ。

(;`ω´)「あった───あれだおッ!!」

何の変哲も無い木を切り出して叩き上げただけのこの船が、この悪夢の幕引きとなる。
凶暴で気色の悪い人面樹たちばかりを相手にしていたせいか、心なしか素材以上に輝く、希望の箱舟に見えた。

177名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 08:33:21 ID:zkfwVdHY0

「お嬢ちゃん達が先だ!さっさと飛びのんな!」

从;'ー'从「……はいッ!」

ξ;゚⊿゚)ξ「ありがとう、ラッツさん!」

(´・ω・`)「よし……いいぞ、ここで火を放つ!」

爪'ー`)y-「任せな、俺もこの貴重な煙草を1本だけ無駄にして、火ぃつけてやるぜ」

(;`ω´)「………フォックス、もうナイフが無いなら下がってるお」

爪'ー`)y-「そういう訳にもいくめぇ。お前さんとショボンだけにオイシイとこはやれねぇのさ」

(´・ω・`)(邪魔だな……)

「さぁ、姉御の番だぜ!」

押し寄せる妖樹の波の前に立ちふさがるのは、たった三人の男。
ラッツに順番を急かされて船へと乗せられるクーだったが、彼らの背中に後ろ髪を引かれる思いがあった。

川 ゚ -゚)(成功………するのか?)

178名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 08:34:05 ID:zkfwVdHY0

ξ-⊿-)ξ「ヤルオ=ダパートよ……これより船旅に出る我らに、どうか主のご加護を賜らん事を────」

不安や恐怖、彼らとてそれは感じているはずだ。
もちろん、それはこれからその策に乗っかかるクー自身にも。

( ^ω^)

爪'ー`)y-

(´・ω・`)

だが、こちらの視線に気付いて大きく頷いた三人の表情には「絶対に上手くいく」
そう思わせんばかりの自信が漲り、なぜだかこちらまでそんな気分にさせられる。

船に乗り込む時にクーが覗き見たツンの表情にも、期待や信頼のようなものが伺える。

ξ゚⊿゚)ξ「大丈夫よ────きっと」

後ろから追いすがる幾つもの人面樹たちの気配を探りながら、ショボンが満を持して詠唱に取り掛かった。
火を放つまでの間を湖上で揺られる4人には、その彼らの背中をただ見ている事しか出来ない。

川 ゚ -゚)「なぜ、そう言える?」

ξ゚⊿゚)ξ「今回みたいな事は初めてじゃないし、それに────」

ξ゚ー゚)ξ「信じられる”仲間”だからかな?」

川 ゚ -゚)(………)

湖上を大きく波立たせ、水面を激しく揺らすほどの揺らす突風が巻き起こった。
ショボンの魔法により、何もかも消し炭にしてしまいそうなほどの紅蓮が顕現した。

179名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 08:34:49 ID:zkfwVdHY0

爪;'ー`)「くっ!こいつぁまた遠慮のねぇ火加減で……」

(;`ω´)「皆、炎を直接視てはいけないおッ!」

(´・ω・`)【 ───────爆炎の法ッ 】

巻き起こる風は炎にさらされた為に次第に熱を帯び、次には吹き荒れる熱風と化した。

教会の時よりも威力を抑えてはあるが、ショボンの”爆炎の法”が徐々に大きな火柱を形作り、
こちらへ迫ってきていた妖樹の群れへと唸りを上げながら、炎でなめ尽くしてゆく。

「や、やべぇぞこりゃあッ!」

从; ー 从「ブーンさんたち……早くッ!」

迫っていた妖樹達の織り成す断末魔は、さながら不気味な森の管弦楽団。
だが、それは次第に轟々と燃え盛る焔の竜巻に巻き込まれては、消えてゆく。

(´-ω-`)「───ちゃんと延焼するかどうか確認しておきたいが……フォックス!!」

爪;ー )「馬鹿野郎ッ、それどこじゃねぇよ!目が焼け爛れるっつの!」

(; ω )「あっづぅ!こりゃあかんお……」

そこらの木が炎と煙に巻き込まれては、ばたばたとゆっくりと倒れてゆく。
腕で顔を庇いながらブーンが一度だけ目にした光景は、もはや見渡す限りを焦土と化していくさまだった。

「もう十分だろう、早く乗れ!」

誰が言ったか聞き取れる余裕はなかった。
すぐに三人は炎が広がってゆく森に背を向け、一目散に船へと飛び込む。

180名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 08:35:32 ID:zkfwVdHY0

(; °ω°)「おっ、おうふッ!?」

爪;'ー`)「ちぃ……やっぱ重すぎる!」

(´・ω・`)「傾いて船に水が入らないよう、皆でバランスを取り合うんだ!」

恨めしく断末魔の協奏曲を響かせる炎の森を離れるべく、船を繋ぎとめていたロープを断ち切る。
船が沈まぬ様に気をつけながらゆっくりとオールで湖畔へと漕ぎ出し、少しずつ景色は遠くなってゆく。

そして湖の中央部分にまで辿りつく時には、首を捻ってどこを見渡しても、火に閉ざされた同じ光景ばかり。
妖樹達の声は次第に黒い煙にまかれながら、その鳴りを潜めていった。

( ^ω^)「終わったお、ね」

川 ゚ -゚)「まさか……本当に上手く行くとはな」

遠目に映る光景を────全員がただ見つめていた。
これほどの数がいたのか、とぞっとしてしまう程の人面樹達の群れが、熱さにもがき苦しみ、
まるで舞い踊るかのようにじたばたと枝をくねらせ身を捩っては、倒れていく姿。

ワタナベが言った。

从'ー'从「森が─────哭いてる」

幻想的でもあり、不気味な光景に皆が目を奪われていた。
人に害なす妖魔の木、それをこうして一網打尽に出来たというのに、何故だか奇妙な感傷も去来する。

181名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 08:36:15 ID:zkfwVdHY0

ξ゚⊿゚)ξ「どうして……こんな森になってしまったんでしょうね」

爪'ー`)y-「森に落ちた隕石が原因だってぇのにしろ……よっぽど人間様に鬱憤でも溜まってたのかね」

从'ー'从「もう、カタンの薬草は取れないのかな」

野生動物の声は、聞こえない。
空へと羽ばたき逃げていく、鳥たちの姿も無い。

そうなってしまった真相を知るのは、今まさに炎に朽ちていくカタンの森自身だけ。
あるいは、これまで人間達に切り倒され、利用され続けてきた木々たちの怒りだったのかも知れないが。

(´・ω・`)「今……誰か漕いでいるか?」

唐突に、ショボンが錯覚のような違和感を覚えた。

(;^ω^)「おっ、何だお!?」

爪'ー`)y-「待てよ、待て待て……まさか、岸に引き寄せられてるのか!?」

ξ;゚⊿゚)ξ「このままあの炎に巻き込まれたら……皆、必死で漕いで!」

从;'ー'从「大変……ど、どうしてっ?」

(;^ω^)「きっとあの森の仕返しだおね!」

皆が混乱する中、クーが黒煙を吸い込んでいく空を見上げて、ある事に気づいた。

川 ゚ -゚)「気流か……!熱風が空へと巻き上げられ、読めぬ風が吹き荒れ始めたぞッ」

182名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 08:36:56 ID:zkfwVdHY0

「まずいぜ、クソッたれぇッ!」

ブーンらが必死にオールを漕ぐも、それに反発かのように強い風が吹き荒れ、船を押し流そうとする。
このまま炎に包まれた岸へと吸い寄せられてしまえば火や煙に撒かれてお仕舞いだ。

(;´・ω・`)「くッ……船が傾く。皆、掴まれ!」

(; °ω°)「ふおぉぉぉッ、全力でも間に合わんおぉぉッ」

必死の形相でオールを漕ぎ続けるブーンとラッツを、鼓舞して、皆が叫ぶ。
てんやわんやの船の上で、しかしツンは静かにただ一人、祈り始めた。

ξ-⊿-)ξ(どうか皆を……無事に───)

爪;ー )「ゴホッ、ガハッ……!煙で───」

「やべ、やべぇ……皆、意識が……」

(; ω )「皆───気を、しっかり……するんだお……」

燃え盛る森から立ち込める煙が、次第に皆の意識を失わせてゆく。
眠るようにして倒れていく皆を激励しながら、過度な運動による呼吸で煙を吸い込んでしまったブーンも、
そのうちぷっつりと意識が途切れて、船上で倒れ伏した。

183名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 08:37:43 ID:zkfwVdHY0

後に残るのは、ツンとクーだけだが、意識があるのはクーだけだ。
ツンの方はというと、恐らく手を組み瞳を閉じ込んだまま、意識を失っている。

ξ ⊿ )ξ

川;゚ -゚)(もう───駄目か?)

岸まであとわずか、このまま下手をすれば全員が船ごと炎に巻き込まれてしまう。
覚悟を決めなければ─────そう、クーが思った時だった。

今まで岸へと押し流されていた風の流れが、ぴたりと止んだ気がした。
すると今度は、再び岸から押し戻されるようにして、船が湖上へ流されてゆく。

川; - )(いや、どうやら……良い風が吹いてきた)

ツイている、と思った。上手くいけば全員が生還できるだろう。

「もしかしたら、神の起こした奇蹟というやつなのかも知れないが」
そう考えたところで、クーの意識もついに白みゆく。

やがては、ぷっつりと目の前の光景が途切れた────


───────────────

──────────


─────

一週間後

184名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 08:38:26 ID:zkfwVdHY0

───【交易都市ヴィップ 失われた楽園亭】───


いつも賑わいを見せる宿の中でも、マスターとの再会への歓喜からか、
周囲のパーティーよりも一層大声で騒ぐ一団の姿が、ブーン一行だ。

思わぬ依頼を、命からがら終えて戻って来たブーンたちだが、
彼らを出迎えてくれたマスターは、やはりいつもと変わらぬ場所でグラスを磨きながら、出迎えてくれた。

帰れる場所があるというのは、やはりいいものだ。

( ^ω^)「なんだか、一年ぐらいもマスターに会ってない気分だったお!」

(’e’)「俺としては平和な日々だったがな……何なら一年ぐらい旅に出てこいよ」

爪'ー`)y-「おっさんの俺たちに対する風当たりも相変わらずで、なんだか安心したぜ」

軽口を叩きながら、マスターの作ってくれたじゃがいものスープを一口、二口と啜っては、また談笑。
カウンター席に腰掛けているのは、ブーン達パーティーの他には、クーの姿もあった。

川 ゚ -゚)「ところで、何か私に言う事はないのかな?」

少し冷ややかなクーの視線は、マスターへと向けられた。
その視線から目を逸らすようにしてそっぽを向くと、今度は皿洗いに逃げた。

クーには気分転換がてら渡した簡単な依頼のつもりだった───

それがまさか、大きな森一つを全焼させるような羽目になるとは思わなかったのだろう。
流石に少しだけ、マスターもばつが悪いらしい。

(’e’)「まぁ、なんだ……良い経験になったんじゃないか?」

185名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 08:39:09 ID:zkfwVdHY0

川 ゚ -゚)「いい事なんて無かったさ、費用対効果が見合わない……とんだ依頼だった」

(’e’)「そう言いなさんな、お詫びに一週間ぐらいの食事はサービスさせてもらうさ」

川 ゚ -゚)「当然の権利として受け取っておく」

それでもまだ不満そうな表情ではあるが、一応の納得はしたようだ。
と、そこへカウンターで思い思いに談笑している彼らの背中へ、嬉しさを滲ませた声が掛けられる。

从'ー'从「皆さん!良かった……すぐに見つかって」

(´・ω・`)「やぁ、久しぶり……でもないか。お互いに災難だったね」

从'ー'从「はい。でも、不幸中の幸いです───まさか、全員が鎮火した後の岸辺にたどり着けるなんて」


───ブーン達が意識を失ったあとの話だ。

焼き尽くされて焦土と化したカタンの森に、ワタナベの叔父ら付近の住民が見回りに来ていた。
そこで、岸に辿りついた船の上でブーンらが発見され、彼らに救出されたという訳だ。

ワタナベは心身の消耗が激しく、手当てが終わった後もいつまでも目が覚めなかった為、
ブーン達は置手紙をしてワタナベの叔父に身柄を託し、一日早くヴィップへの帰路に着いたのだった。

186名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 08:40:00 ID:zkfwVdHY0

从'ー'从「あっ……これ、報酬です!」

( ^ω^)「ありがたく……って、こんなに。いいのかお?」

从'ー'从「皆さんには大変な依頼をさせちゃいましたから……お父さん叩いて、奮発してもらいました」

( ^ω^)「700spも……ありがとうだお、ワタナベちゃん」

从'ー'从「今度カタンの薬草を取りに行く時は、また皆さんにお願いしようと思います」

(´・ω・`)「────森があの状態では、しばらくは難しいだろうね」

爪'ー`)y-「この間みたいな事があるなら、俺は正直ご遠慮願いたいぜ」

ξ゚⊿゚)ξ「いたいけな子供の頼みを無碍に断るなんて、最低ね」

ツンがフォックスの頭を握りこぶしで小突いている最中、ワタナベが麻袋から何かをごそごそと取り出す。
小さな掌にわずかばかりの量盛られたそれは、何かの植物の種のようだった。

( ^ω^)「これは?」

从'ー'从「……カタンの薬草の、種なんです。これを毎年、あの森に植えに行こうと思います」

187名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 08:41:07 ID:zkfwVdHY0

(´・ω・`)「確か、カタンの薬草は育ちづらい品種だ。手間は掛かるはずだよ」

ξ゚⊿゚)ξ「確かに、あの森を燃やしてしまったのは……私たちだからね」

从'ー'从「……でも、今回の件で思ったんです。自然を利用するだけ利用してるばかりで、
     それであのカタンの森の木たちも、怒っていたんじゃないかなって」

( ^ω^)「木は、人の生活に無くてはならない存在だおもね」

从'ー'从「だから、日ごろ切り倒してばかりいる彼らが育つ手伝いを私たちもしてあげる事で、
     もう今回みたいな事は起こらないかも……って、子供みたいですよね、私」

ξ゚ー゚)ξ「いいえ、立派な考え方だと思うわ」

从*'ー'从「そ、そうですかね?」

( ^ω^)「そうだおね。けど……ラッツの事だけは残念でならないお……」

ブーンが山小屋で手当てをされていた時に、そこにラッツの姿は無かった。
誰もその話に触れようとしない点から、無念にも彼だけは命を落としてしまったのだと理解したのだ。

一緒に助かろうとした彼の事を想い────ブーンは俯きがちに、心底残念そうにそう呟く。

从'ー'从「え?」

( ^ω^)「え?」

188名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 08:41:48 ID:zkfwVdHY0

爪'ー`)y-「何言ってんだブーン……って、お前も最後まで昏睡してたから、知らなかったんだな」

(;^ω^)「ど、どういう事だお?」

ξ゚⊿゚)ξ「あの人、私たちより先に山小屋を出て行ったのよ」

(´・ω・`)「そういえば、知らないのはブーンだけだったね。死んだと勘違いを?」

(;^ω^)「だ、だって……誰も教えてくれなかったお……」

爪'ー`)y-「相棒は失っちまったけど、まだ冒険者を続けるんだと───お前にもよろしく伝えて……って」

ξ゚⊿゚)ξ「あんたが忘れてたんじゃない!」

爪'ー`)y-「……ま、細かい事は気にするなよ、とにかく全員助かったんだ」

( ^ω^)「そうかお───でも、良かったお。全員が無事に戻ってこれたんだおね」

川 ゚ -゚)「………」

クーにとっては、こんな大所帯に招かれる経験は少なかった。
仕事仲間以上として踏み込んだ関係───ツンの言った本当の意味での”仲間”というのは、今も居ない。

だが、屈託の無い笑みで喜びを分かち合おうとする彼らブーン達の関係に、少し心が揺れ動くものを感じていた。

189名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 08:42:36 ID:zkfwVdHY0

(’e’)「そういや、クー…。正式に、こいつらとパーティー組むのか?」

( ^ω^)「………!」

どこかにやにやと笑みを浮かべたような、マスターの表情。
なんだかそれに反発したくなった───という訳でもないが、それを否定する。

川 ゚ -゚)「いや……一人が、気楽でな」

爪;ー)y(……パーティーに入ったら口説き放題だったのによ……)

( ´ω`)「……あ、フォックス。煙草落としたお」

(’e’)「なんだ、そうか?こいつらと居ると結構新鮮だとは思うがな」

川 ゚ -゚)「自分の組む相手は、自分で決めるさ」

(’e’)(………まだまだかね)

それだけ聞くと、ため息をつきながらまた踵を返し、皿洗いへと戻った。
マスターの親心から、今回クーとブーン達を組ませたという意図は、誰に知られる事も無い。
彼からしてみれば人間嫌いの荒療治になると思ったが、そう簡単なものではなかった。

カウンターを叩いて何やら悔しがっているような様子のフォックスや、
彼女の加入を心待ちにしていたのを裏切られる結果となり、不服そうな表情のブーンはさておき。

ふと、クーが何気なく視線を上げると、そこでツンと目が合った。

190名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 08:43:19 ID:zkfwVdHY0

ξ゚⊿゚)ξ「………」

川 ゚ -゚)「………」

冒険者としての素質を否定する訳ではないが、ツンとはひと悶着もあった。

彼らのパーティーにクーが加入するとなれば、またいざこざが起こる事だってあるだろう。
互いに微妙な立ち位置ではあるが、過去の遺恨を捨て去る事など出来ない。

ツン自身が直接は無関係だというのが頭の中では整理出来ているにも関わらず、
憎しみの感情というものは、理屈抜きにかなぐり捨てる事など出来ない。

それが、親の仇に近しい存在であったのならば、尚更の事だ。

ξ゚⊿゚)ξ(────いつか)

191名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 08:45:26 ID:zkfwVdHY0

じっと見つめるツンの瞳から先に視線を逸らしたのは、クー。
何か言いたげな彼女の口から、誘い言葉でも飛び出してくるのではないかと思ったが、それはなかった。

自分が彼らと行動を共にすることになったのなら、彼女はどう思うのであろうか。
そんな事を考えている内に、ふと─────

騒がしい彼らの隣に座っているのが、何だか自然な事のような感覚を覚えた。
これまでパーティーに加入し、共に旅をするなどという事を考えた事もない、クーだったが。

川 ゚ -゚)(私は─────)

育ての親となってくれたあの彼がこの場に居たのならば、それについてどう言うであろう。
ツンの言っていた”いつか”という日が訪れる時が来るのかどうかなど、自分自身にも解らない。

だが、クーの心の奥底には確かに────ほのかな葛藤が芽生えた日であった。

192名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 08:47:13 ID:zkfwVdHY0



   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

             第5話

           「静寂の深緑」


             ―了―


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