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( ^ω^)ヴィップワースのようです 幕間 「壁を越えて(1)」

196名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 05:34:32 ID:i4cbEstM0

夕暮れ頃のその街は、どこまでも暁色に染まっていた。
その周辺を歩くのは、ほとんど毎日が死と隣り合わせの境遇の者たち。

─────ここは城壁都市、バルグミュラー。

この街を拠点とする彼らは、日々を戦いに明け暮れ、来る日も来る日も同じことを繰り返す。
武具の手入れをして、酒をあおり、やる事が無くなれば、眠る。
そうして目が覚めれば、また自分の戦場へと赴くのだ。

今日のような夕暮れ時には、都市の外周部を囲う赤レンガの城壁と相まって、
まるで血が染み付いたかのように街中を一色に染め上げる。

未だにオーガなどが群生する北の地────ブルムシュタイン地方。
その未開の地との国境沿いに位置する城壁都市の門を、今日も一人潜り抜ける男。

返り血で染まった身体のそこかしこには、多数の裂傷を負っている。
だが、巨躯を誇るこの男にとってはかすり傷程度なのか、気に留める様子もない。

大きな鉄柵の城門の前に立ち、一度だけ城壁の上に立つ門番の方を見やる。

/ ゚、。 /「………」

197名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 05:35:16 ID:i4cbEstM0

門番はいつものように彼の見慣れた姿を見るや、ゆっくりと城壁の上から開門した。
その流れは、いつからかこの街の常として繰り返されてきた。

一昨日は8人、昨日は5人。
そして今日は──────6人、だったか。

国境沿いの妖魔退治、それに繰り出した傭兵たちの人数だ。

彼と共に戦いへと赴く者達が数あれど、彼が請け負う依頼は全て困難を極めるものばかり。
それゆえに、帰って来るのは彼だけ────これは、いつもと同じ光景なのだ。

腕が立つというのは動かしがたい事実だが、彼と肩を並べて戦地へ赴いた者で、
彼と共に帰って来た事のある者は、これまででも指折り数える程しかいない。

その武勇を実際に目の当たりにした者は、口々にその強さを称えると共に、
冷たい鉄仮面が覆う瞳の奥のさらなる冷たい眼光に、不吉さを禁じえないという。

今日、国境にもっとも近い場所に位置するオーガの住む洞窟へと彼含む6人の傭兵が出立した。

その中で、名を上げる事ばかりに躍起になっていた一人の
若者が居たのを、城壁の上に立つ門番は思い出していた。

「死んだか───あの若造」

しかし、城壁をくぐる彼の姿がそこに無いのを確認するや、
守衛は兜の緒を締めなおしながら、すぐにその回想を頭の中から振り払うようにした。

198名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 05:36:11 ID:i4cbEstM0

城壁の守衛連中に視線を送る事も無く、目と口だけが露出した鉄仮面を被る男は、
いつものようにただ一人無言で城門を通り抜け、バルグミュラーへと帰還する。

「あいつですか……」

「あぁ、どれだけ凶暴な妖魔退治に出てもな、いつもあいつだけは帰って来るんだ」

「あんな両手斧を片手で振るうんですか……ゴブリンどもの首なんか、一狩りでしょうね」

「ま、外部の人間に頼らざるを得ない俺達にとっちゃ、頼りになる奴だがな」

/ ゚、。 /

”ダイオード=バランサック”

その武勇は散発的なものではあるが、10年以上も前から大陸のあちらこちらで
各地の傭兵たちの間に知れ渡っているという。

彼の噂には、いつも死の匂いが付き纏う。

ふらと立ち寄ったある村に山賊の一味が居た時には、たった一人で皆殺しにした。
またある時には、領主同士の小競り合いが巻き起こした小規模な戦争に傭兵として参加し、
30人以上もの武装した騎士達と渡り合い、圧倒的不利な状況を彼一人の力で跳ね除けたという。

199名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 05:37:16 ID:i4cbEstM0

彼が相手どる敵には、妖魔や人間という分別など無い。
ただ、日常の殆ど全てを戦いに身を置き代えながら、常に危険な依頼内容を請け負っては、
今日のようにたとえ最後に残ったたった一人でも、必ず生還を果たすという。

彼を外から見ている者達は、彼の事をいつしか、”死神のような存在”と呼んだ。
だが、彼に助けられた村の者達や、共に仕事をする仲間内では”英雄”と称える者もいる。

────それらの雑言も、彼の耳に届く事はないのだろうが。

目の前で散る命を目の当たりにし続けて尚、彼は戦いに身を置く。
まるで”自らの死を”望んでいるかのように、命を懸け続ける。

その理由が寡黙な彼本人の口から語られる事は、生涯無いのだろう。

/ ゚、。 /「……………」

今日も、彼は生きて再び城壁都市へと足を踏み入れる。
沈み行く夕日へ一度振り返ると、それが見えなくなるまで眺めていた。

決して忘れる事の出来ない、己の胸で燻る過ぎし日のかがり火が───
また明日の戦場に立とうとするダイオード自身の身体を、突き動かすのだ。

200名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 05:38:44 ID:i4cbEstM0


   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

             幕間

          「壁を越えて(1)」

201名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 05:39:50 ID:i4cbEstM0

18年前

─── 山林の村 【オーカム】───


/ ゚、。 /「もう、行ってしまうのか」

逞しい二の腕に子供一人を軽々とぶら下げながら、ダイオードは
引き止めるようにして尋ねた。

「そうよ、最近は忙しいの」

人の三倍も五倍も働く木こりとして、仲間内では頼もしい存在だ。

幼い頃から見よう見まねで斧を振るっている内に、このオーカムの村の労働組合の
親方に見込まれ、子供ながらに恵まれた体格を生かして働かせてもらっていた。

大人顔負けの怪力だった彼がそうして毎日斧を振るっている内、15の時にはすでに
組合の親方も目を剥く程の逞しさで、名実ともに村一番の木こりとなっていた。

やがて18の時には村一番の美女であったミリアと恋に落ち、今ではこうして子宝にも恵まれた。

仕事を終えて疲れた彼に、いつも太陽のような笑顔を向けてくれるのが、息子のシリウスだ。
力強い男に育って欲しいとの希望を込めた名だが、ミリアは「貴方の息子だというだけで十分よ」笑った。

202名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 05:40:41 ID:i4cbEstM0

ここ最近になってオーカムは村の拡大を目標に掲げ、親方達は村長と相談した上で、
一番優秀な木こりのダイオードを、作業の最前線に立てられた山奥の掘建て小屋へと送り出した。

いつも一人で寝泊りをして、毎日朝から夕方までは村の木こり達が助けに来るという訳だ。
だから、こうして村から歩いて一刻程もある場所へ、妻と息子が毎日遊びに来る。
ダイオード自身も、それを毎日の楽しみとしていた。

/ ゚、。 /「たまには、ゆっくりと泊まっていったらいい」

その夫の言葉に、ミリアは少しだけ困ったような笑みを浮かべる。

彼女自身も夫と息子三人での時を共に過ごしたかったが、器量が良く働き者の彼女は、
村の寝たきりの老人達の面倒などを任されて、日々見て回っているのだ。

彼女の帰りが遅くなれば、村ではちょっとした騒ぎになってしまうだろう。

また、この山小屋はまだ立ち上がる事も出来ない幼いシリウスの面倒を見るには、
あまりに何も無かった。子供を寝かせるには、少しばかり程遠い環境だ。

「ごめんなさい……でも、今度は見回りのお休みをもらってくるわ」

/ ゚、。 /「……そうか。残念だが、仕方ない」

203名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 05:41:26 ID:i4cbEstM0

帰り際、最後に息子と妻へと腕を伸ばして抱擁を交わすと、彼女達の帰り道を途中まで見送る。
───この仕事が終われば村へと戻って、妻子と過ごしながらのんびりと仕事が出来るのだ。

/ ゚、。 /(もうひとふん張り……しなければな)


今日も彼女達から元気をもらった。
こうしてまた明日からも仕事に励む活力が、沸いてくるのだ。


仕事は大変なものだったが、ミリア達のおかげで満ち足りた日々を得た。
力仕事しか能のない自分が今のような幸せを掴めた事に、ダイオードは喜びを噛み締めていた。


しかしある日─────悲劇は起こる。

204名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 05:42:22 ID:i4cbEstM0

「ダイオード、急いで村に戻ってこいっ!……せがれが……大変だ!」

/ ゚、。 /「………っ!」

息を呑む知らせは、息子の危篤を知らせるものだった。

村から彼へそれを伝える為にやってきた木こり仲間をすぐに追い越すと、
10里を一晩で駆け抜けるほどの鬼気迫る勢いで、彼はオーカム村への帰路を急いだ。

聞けば、昨日の晩を境に顔や身体に斑点が浮かび、高熱に生死の境を彷徨っているという。
力強い子に育ってくれという願いは込めたが、自分のように身体が強い子ではなかった。

流行病に、あてられてしまったのだ。

/;゚、。 /(─────シリウスッ!)

更に不幸な事に、この小さな村には人の病を見れるような人間はいない。
もしいたとしても、それはここから一晩もかかる場所にある、山ふもとの街医者ぐらいなものだ。

いざとなれば息子を抱えて、その道程を3刻で駆け抜けてみせる。
たとえ自分の心臓が破裂してでも────どうか、それまで。

────────────

────────


────

205名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 05:43:13 ID:i4cbEstM0

身体にじっとりと汗を滲ませながら自分の家へとたどり着くと、何に構うこともなしに
ミリア達村人と、息子の眠る寝室の扉を勢いよく開いた。

/;゚、。 /「ミリアッ!………シリウスは────」

「────あなた」

彼の必死の祈りと覚悟は───届かなかった。

泣き晴らした表情のミリアの様子に、悟ってしまう。
よろめくようにして歩きながら、病床に苦しむ小さな彼のベッドへと向かい、その顔を覗き込んだ。

「シリウスが……私達の子が……あぁ────!」

ダイオードの大きな手が、青白いシリウスの小さな頬をなぞる。
まだ、息子の身体は少しだけ暖かいのだ───けれどその目に、生気は宿っていなかった。

これまで保ってきたミリアの気丈は、直面した息子の死の前に崩れた。
床へと倒れ込みながら咽び泣く彼女の姿は、目を背けたい程に残酷な現実を実感させる。

/ 、  /「許してくれ……シリウス……」

目の前が、真っ暗になってしまっている。
走ってきた直後だというのに、身体を流れ落ちる汗が冷水のように冷たい。

それでもどうにか震える手で抱きかかえた息子の身体。

──────やはりまだ、ほのかに暖かかった。

206名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 05:44:10 ID:i4cbEstM0

─────────

──────


───


それから、しばらくの日が経った。

シリウスの葬儀を終えてから数日は、食事が喉を通らなかったミリア同様に、
ダイオードが自慢の怪力で大木を切り倒す光景は、一度も見られなかった。

「ずっと、ミリアの傍に居たい」そう親方へと告げたダイオードだったが、どうやら
今自分のしている仕事はとても重要なもので、苦い顔をしながらも「まだ斧を握ってくれ」と返された。

辛い出来事の後だというのに一緒に居られない歯痒さ、そして死にたくなるような悲しみが、
夜分になると居ても立っても居られなくなる程にあふれ出し、すぐさま飛び出して行きたかった。

「あなた、お疲れ様」

/ ゚、。 /「───ミリア」

だが、どうやら辛い現実を乗り越えていち早く日常へと戻ろうとしたのは、ミリアが先だった。

207名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 05:44:52 ID:i4cbEstM0

自らの腹を痛めて産んだ息子がこの世を去った現実は、どれほどに深いのだろうか。
だが、気丈な彼女の事だ。自分に気をつかわせまいとしてか笑顔を作る彼女の姿が愛しくも、悲しすぎる。

出迎えて一番に彼女を強く抱きとめると、そのまま二人言葉も交わさず長い時間を過ごした。


/ ゚、。 /「無理をしないでくれ……この大きな悲しみは、二人で分け合うんだ」

「ええ……今は辛いけど───あの子の残してくれた思い出は、ずっと私達の中で───」


─────────


──────


───


ミリアが訪れた翌日から、ダイオードは再び斧を手に取るようになった。

208名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 05:45:56 ID:i4cbEstM0

ミリアが訪れた翌日から、ダイオードは再び斧を手に取るようになった。

小気味よい音を立てて木を切り倒すと、それを縛り、たった一人の力で引っ張ってゆく。
そこで余分な枝を切り倒し全体を切り整えると、さらに細かく断ち割り、資材の山を築く。

そうして一本分の作業を終えると、また次の木を切り倒し、日が暮れるまでの間を黙々と明け暮れる。

だけど─────それからまた、しばらくミリアが訪れる事がなかった。

だが、それはお互いが再び日常を取り戻す為の時間だ、と自分に言い聞かせた。
今は何も考えずに仕事へと打ち込むことで、少しでも早く悲しみが過ぎ去るのを待っていた。

今日も、切り株へと腰掛けて流れる汗を拭っていた時だ。

「あなた。今日も、ご精が出ますね」

/ ゚、。 /「来てくれたか!―――いち早く、君の元へ帰れるようにとな」

大きめのバスケットに手作りの食事を持って現れたミリアの肩へ、すぐに腕を回そうとした。

「────あっ」

/ ゚、。 /「…………?」

209名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 05:46:48 ID:i4cbEstM0

彼女の肩へと伸ばそうとしたダイオードの手は、少しだけ強い力で払われた。
いつもは自分が抱きとめようとしても、微塵も返される素振りは無かった。

嫌がって、いる?

伸ばした手を宙にぶらさげたまま、伏し目がちに彼女の表情を伺った。
そこへ取り繕うようにしてひねり出された言葉に、少しだけ違和感を覚える。

「───ご、ごめんなさい!私、今日は汗ばんでいるから……恥ずかしくって……」

/ ゚、。 /「……そう、なのか」

「そんな事は、気にしない」
そう言って、構わず彼女を腕の中に抱き寄せるのは簡単な事だったが、少しだけ
拒んでいるような様子が雰囲気から伺え、無理強いをする事はしなかった。

そして、小屋の中で彼女の村での話や、ダイオードの仕事の状況などをあらかた話し終えると、
これまでより少しだけ素っ気無い様子で、ミリアは村へと戻っていった。


───その晩、寝床にて天井を眺めていたダイオードは、ふとある事を思いつく。

210名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 05:47:33 ID:i4cbEstM0

/ ゚、。 /(自分が辛い状況だというのに……日がな周囲を気遣ってばかりいるミリアも大変だ───)

/ ゚、。 /(───これまで、ずっと休み無しで働いてきた)

/ ゚、。 /(一日ぐらい仕事を放り出して、ミリアの傍に居てやろうか───)

/ 、  /(そうだな……それが、いい。突然帰ってビックリさせて───きっと、驚くぞ)

/ 、  /(───もう、眠ろうか)


─────────

──────


───



その数日後。

211名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 05:48:20 ID:i4cbEstM0

結局根が真面目なダイオードはその日の分の仕事を投げ出す事なく、朝早くに起きてから
全力で仕事を前倒して一仕事を終えると、夕暮れ過ぎになってから久方ぶりの自分の家の帰路へと着いた。

オーカムの村へと帰り着く頃には、すでにあたりは暗く、出歩く人の影は無かった。
自宅の明かりも、窓から灯されてはいなかった。

/ ゚、。 /(きっと、彼女も疲れているんだろう)

そう気遣い、突然驚かせる作戦はやめにした。
しずかに部屋へと入り、翌朝ベッドで彼女が目を覚ますのを待つ事としよう─────

そう思って、そうっと家の扉を開けて彼が部屋に入ろうとした時、何かが聞こえた。

扉越しに寝室から聞こえる声は───ミリアの。

(────あっ、いや………)

(……へへッ、今日も綺麗だぜぇ?ミリアぁ)

/ ゚、。 /(─────ッ)

────思わず、言葉を失った。

寝室から聞こえてくる声はミリアと────別の男のものだった。

212名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 05:49:11 ID:i4cbEstM0

自分が居ぬ間に寂しさを紛らわす為に、彼女は別の男に抱かれていたというのか?

確かに夫婦だというのに、我が子を失った悲しみの傷を、二人で慰めあう事も出来ぬ距離にあった。
そればかりか、本来彼女を支える立場にあった自分が、仕事ばかりに感けて彼女に目を向けてやらなかったのだ。

それが、彼女をそうさせてしまったのか────

頭の中が白むような現実に立ちすくみ、そして戸惑う。
しかして己の罪悪感が弱気の虫を誘い込み、このドアの先へ踏み込む勇気が出せずにいた。

だが、ドアの奥からかすかに聞こえてくる声を聞いている内、まるで身体の中心は
火が灯されたかのように熱くなり、扉の取っ手を掴む手には、握りつぶしてしまいそうに力が篭る。

(あ──や、止めて!)

(ふっ、本当はっ、寂しいんだろっ?……自分の旦那はっ……ずぅ~っとっ、家を空けてるしな)

(くっ───あぁぁぁぁ───)

213名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 05:49:55 ID:i4cbEstM0

(うっく……大人しく良い子にしてりゃあ、あいつもすぐに戻してやるさ───)

(いやぁッ───あなたッ!)

/ 、  /「──────ッッ!!」


”バァンッ”

彼女は、拒んでいる。

それが瞬時に理解出来る程の、その泣き声交じりの悲鳴を聞いた時、ダイオードの体中の血流は
ふつふつと沸き立ち、怒りに任せて反射的に寝室の中へと飛び込んだ。

/# 、  /「………ミリアァッ!!」

「!?」

その戸を破る程の音に、二人共がびくりと身を震わせてこちらへと振り返った。

そこには、あんぐりと口を空けて驚愕の表情を浮かべる、男の姿。
窓の外から漏れる明かりに照らされたその顔は、良く見知ったものだった。

「だ、ダイオード………」

214名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 05:50:43 ID:i4cbEstM0

自分を信頼し───これまで仕事を任せて皆を束ねていた、親方。
その男は今、だらしない腹を丸出しにしながら、衣服の乱れたミリアの上に跨っているのだ。

全てを理解した。

その光景を目にした時、何を口にするよりも先に、怒りを露にするでもなしに。
ただ─────「殺したい」という思いが自分の頭の中全てを支配していた。

「あ、あなた………いやぁッ!見ないでッ!」

/ ゚、。 /「ミリア────」

「ち、違うんだダイオード!こ……これには、ワケがあってよぅ」

可哀想に、ミリア。

この親方は、私達の最愛の息子の死で悲しみに暮れるミリアの弱った心に、漬け込んだのだ。
その夫である自分に悟られぬよう、この身を村へと戻そうとしなかったのも、この為か。

今までの彼への信頼は瞬く間に音を立てると、その全てが崩れ落ちた。

後に残ったのは、こんな男の近くにミリアを置いていた自分の愚かさへの怒り。
そして、嫌がる彼女に乱暴をしていたこの醜悪な豚への─────殺意だけだった。

215名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 05:51:48 ID:i4cbEstM0

”豚の股間”には、すぐさま踏み潰したくなるような嫌悪を醸す汚物がぶら下っている。

/ 、  /「済まない………ミリア」

助けてやれなくて、そして、気付いてやれなくて。
声を押し殺した悲痛な呻きを、掌の奥から漏らす彼女の肩を、そっと抱き寄せようと思った。

「聞いてくれ、ダイ────」

/ ゚、。 /「………オオォォォッ!!」

「…ひっぐッ!?」

その最中に言葉を発した”豚”の喉首を片手で締め上げると、そのまま持ち上げる。
「これが己の部を弁えない、しつけのなっちゃいない豚の面か」と、侮蔑の眼差しで表情を覗き込む。
今まで自分に仕事を教えてくれた、面倒見の良い親方は死んだのだ。

今ここに居るのは、殺してしまっても何の差し支えも無い、家畜同然の存在。

「ぐっおッ……ぶぐぅっ、ゆ、ゆるじでぐで……ダイオード……!」

おかしいことに、どうやらこの”豚”は人様の言葉を理解しているらしい。
自分の恩人と同じ声で喋られるその不快さが耐えられずに、すぐに殺す事にした。

216名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 05:52:45 ID:i4cbEstM0

”バゴンッ”

喉首を締め上げたまま、勢い良く手近な本棚へと叩き付けた。
一度などでは当然足らない、二度、三度、四度──────何度も。

「あぐぁッ!?……あ、まッ」

/ ゚、。 /「─────殺してやる」

「あ、あなたぁ……止めて……私はいいからッ!」

あぁ────明るく清楚で、純粋な、ひた向きな彼女の心を。
今なお、自分の身を弄んだこの醜い豚をも庇おうとする彼女の優しさを。

亭主の居ない隙を突いて、土足で踏みにじったのは────この男だ。

数日前に訪れた際のミリアが、自分の手を振り払った理由がようやく分かった。
この男に辱められ、貶められた彼女は、この自分に対して負い目を感じてしまっていたのだ。

恥じるべき、身の程を弁えるべきなのは────この”豚”の方だというのに。

「だ、だずげ────で」

217名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 05:53:33 ID:i4cbEstM0

「……あなたぁぁぁッ!だめッ!」

ミリアが自分を殺人者にすまいと、制止してくれる────しかし、もう自分自身を止められなかった。

彼女の気持ちを考えれば考えるほどに、こいつの鬼畜にも劣る所業を許す事など出来ない。
こんなに仕事ばかりに明け暮れて、家庭を放っぽりだしている自分などに申し訳なさを感じては、
毎晩辛い日々を過ごしてきた事が、容易に想像出来る。

「ぐぎ……ぎ」

どうした、振り払ってみろ。
生まれてからの人生の殆どを山で過ごし、逞しく作り上げてきた肉体ではなかったのか。
それならば、この若輩の腕を跳ね除けてみろ─────でなければ、死ぬだけだ。

こいつの身体をバラバラにしてやろうか。いや、生温い。

頭骨を粉微塵にして、脳みそを握りつぶした後で、抉り出した腸を刻んで、
身体を一文字に裂いて、汚らしいいちもつを口の中へ詰め込み、何十回とそこへ斧を振るってやる。

だが、だめだ────この怒りには、それでも物足りない。
粉々に、出来る限り残忍な方法は無いものかと、男の首を更に強く締め上げながら考えていた。

218名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 05:54:52 ID:i4cbEstM0

身体の内から湧き上がって来るこの赤黒い塊のような憎悪が、自分を悪鬼へと変貌させている。
感情という物はとうの昔に彼方へと消え失せ、ただ目の前の男を惨殺したい欲求だけが─────

「……やめてえぇぇぇぇーーーッ!!」

/ ゚、。 /「………ッ」

悲鳴にも近い叫びは、喉から血を吐き出すようにして紡ぎだされた、心からの懇願だった。

そのミリアの叫びは、殺意が彩ったような自分の視界を、正常な場所へと引き戻す。
どうやらまだ、人としての心は残っていたらしい。

この男の顔しか目に入ってなかったが、ふと気がつけば、騒ぎを聞きつけた村の青年数人が、
5人がかりで自分を止めようと身体を押さえつけていたようだった。

振りほどく事は容易だったが、無関係の彼らにまで危害を加えるだけ事は、
涙ながらにこちらを見つめていたミリアの瞳が阻止してくれた。

「ダイオード………こりゃあ……」

/ ゚、。 /「見ての通りだ………殺そうとした」

「ッ!……そりゃあ、そりゃあいけねぇよ!」

/ ゚、。 /「そう、なのか?」

219名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 05:55:45 ID:i4cbEstM0

状況から見て事情を察した様子の青年達が、少しずつ言葉を選ぶようにして問いかける。
暴力を振るったダイオードは咎められるべき立場にあるが、その心情を酌んでくれてはいるのだ。

「あんた……見損なったぜ!」

一人の青年が、頭から血を流して失神している男の顔に、唾を吐きかけながら言う。

「───すまねぇ。あんたが悪いんじゃあ、ないんだが」

/ ゚、。 /「───分かってるさ」

村の掟だ、どんな理由があろうとも、無抵抗の相手に対して暴力を振るったのだ。
妻の身を守るためだったとはいえ、自分は確かに育ての親を殺そうとした。

3日か5日は、村の土牢に押し込められる事になるだろう。

「……ごめんなさい、う……ひっぐ……」

青年達に引かれて行く前に、ダイオードは妻の身を優しく抱き寄せた。
小さく震えながらか細くすすり泣く彼女の声を、髪を撫でながら優しく自分の胸へと押し込めた。

/ 、  /「いいんだ……」

220名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 05:56:31 ID:i4cbEstM0

悪いのは彼女を近くに置いていなかった自分のせいだと、ダイオードは己を咎める。
それ以上の言葉は掛けず、胸の中の彼女が泣きやむまでの間を、ずっとそうしていた。

この時、もっと違う言葉を掛けていれば。
あるいは、もっと沢山の愛情を伝えていれば─────

──────あのような事には、ならなかったのかも知れない。



───────────────


──────────


─────


その後、ダイオードは村長と対面した。
そうして顔によりいっそう深いしわを刻みながら考え込んだ後、やはり三日を拘留される事となった。

同じように木こりの親方も牢へと入れられているが、相当に重い裁量が下されたらしい。
掟というしがらみの手前、村長自身にとってもダイオードを拘束するのは苦渋の決断だったようだが。

221名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 05:57:24 ID:i4cbEstM0

/ ゚、。 /(ミリアに……会いたい)

土牢に入れられている間中、ダイオードは気の抜けたような表情で空想に耽りながら過ごした。

次に彼女に会った時、なんと言葉をかけよう。
謝るべきは、こちらの方なのだ、なのに彼女はこんな自分に申し訳なく思ってしまっている。
あんな現場に自分が居合わせてしまったのだ。

彼女にしてみれば、絶対に見られたくない状況を、絶対に見せたくない相手に見せてしまった。
その自分に対する負い目から、あの明るい彼女が塞ぎ込んでしまう様子など、見たくない。

あと二日、あと一日────とても長く感じる、拘置。
ここから出て彼女に出会ったら、とにかく思いの丈をぶつけよう。

仕事など放り出して、この村を抜け出してしまえばいい。
これからは、ずっと君の傍に居ると告げよう─────


─────しかして、その想いが叶う事はなかったのだ。



─────

──────────


───────────────

222名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 05:58:33 ID:i4cbEstM0

拘留帰還を終え、すぐさま自宅へと舞い戻ったダイオードの前には、信じようもない現実が待ち受けていた。

/ ゚、。 /「ミリ─────あ…………?」

「………」

彼女が、夫の帰りを出迎えてくれる事はなかった。
それは、今後もう二度と────無くなってしまった。

我が子を失い、最愛の男性に最悪の痴態を目撃された彼女は、自ら命を絶っていた。
────思えば、ただでさえシリウスを失って日も浅い彼女の心はずたずただったのだろう。

そこへあの豚に漬け込まれた恥辱によって傷を押し広げられ、この愚かな亭主は、最悪の場面に居合わせた。
長らく一緒の時間を満足に過ごす事の出来なかった夫婦の間に出来た溝を埋める時は、もう与えられないのだ。

/ ;、; /「────ア  ア  ァ  ァ ァ ァ ァァッ─────」

天井に括りつけられた縄にぶら下げられた彼女の身を、すぐに抱き寄せた。
線の細い彼女の身が折れてしまいそうな程強く、力を込めて彼女の亡骸を抱きしめる。

声にならない声が、そして涙が溢れ出し────堰を切った感情が怒涛のように自分の頭を打ち付ける。
どうしてこんな事になってしまったのか、なぜ彼女が命を絶たなければならなかったのか。

223名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 05:59:55 ID:i4cbEstM0

/ ;、; /「ッ……ミリアッ!ミリアぁ……愛してる……愛してるんだ……」

数百回もお互いの間で交わした、愛の言葉。
二人で共に生きていこうと決めたあの日にも、彼女へと投げかけた台詞だ。

だが、冷たくなってしまった彼女の耳に、もはやこの言葉が届く事はないのだ。

傍らにあった遺書の存在に気付くと、涙や鼻水をぼたぼたと雨雫のように垂らしながら、
ぶるぶると震える手でその羊皮紙の端を掴んだ。

「 いつまでも、純粋で素朴な貴方の傍に居たかった。
  けれど、私は汚れてしまった───もう、貴方の妻で居る資格はありません。

  私の身勝手で先立つ不幸を、どうかお許し下さい。
  シリウスと一緒に、貴方をいつまでも見守っています。

  ……どうか、私たちの分まで幸せになって下さい────
                             ―ミリア─   」

/ ;、; /「お前が……お前達が居なくて……私一人で生きる意味なんて……ッ!!」


──────(……ぅうわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッーーー!!)──────


一人の男の吼え声が、天高らかに響き渡ったこの日。
それは───オーカム村を血みどろに染めた、一人の人鬼が産声を上げた日であった。

224名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 06:00:59 ID:i4cbEstM0

───────────────


──────────

─────


/;゚、。;/「ミリアぁ………シリ……ウス………はぁ、はぁ」


オーカム村を後にしたダイオードの全身は、至る所が返り血の紅に彩られていた。
─────村の土牢にあと1年は拘留される予定だった木こりの親方の頭は、この血染めの斧で断ち割った。

幾度も幾度も脳漿を飛び散らせ、後から駆けつけてきた若者達はその光景に小便を漏らし、
反吐を吐いてすぐに逃げ出していったようだった。

何人かが自分の前に立ちふさがり、止めに入った記憶がおぼろげにある。
だが、自分が今こうしているという事は、恐らくその彼らには気の毒な事をしてしまっただろう。

自分の前に立ちふさがり、何やかやと咎め立てて向かって来ていた内の、何人を殺したのかも曖昧だ。
誰も自分を追ってはこない今、ミリアを両腕で抱えながら、ただただ当て所なく歩いていた。

道中、腕の中のミリアに何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も声を掛けた。
だけど、やっぱり自分の言葉は彼女には届いていないのだ。

いつの間にか日はとっぷりと暮れ、夜の帳が下りた山の中を、ただ彷徨っていた。

225名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 06:01:48 ID:i4cbEstM0

/;゚、。;/「彼女の───墓を………掘らなくては……な……」

そうだ、村の共同墓地へと埋葬されているシリウスも、後から掘り起こして連れてこなくては。
この場所に、この名も無き場所に二人の墓を作らなくては。

─────そして、自分もこの場所で死ぬのだ。

そうすればまた、今度はずっとミリアとシリウスと共に居られる事が出来るではないか。
もはや生きる意味を見失い、彼の頭の中には、死ぬ事だけが植えつけられていた。

/; 、 ;/(そうだ……ここで、この場所でミリア達と一緒に死ねれば……)

傍らの樹木にミリアの亡骸を座らせて、手斧を返して土を掘り出していく。
丹精を込めて、顔に掛かった返り血が目に入るのも気にせず、木を軽々と伐採出来る腕力をもって、
ミリアとシリウス─────そして自分のための墓穴を掘り出していく。

その彼の背後で、唐突に───気持ちの悪い風が吹いた気がした。

「……Grrrrrrrrr……」

/;゚、。;/「………」

226名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 06:02:33 ID:i4cbEstM0

そこにいたのは、並の男どもの体躯より遥かに勝る自分の目線の高さでも、その胸元までしか映らぬ巨大さ。
馬鹿げた腕脚の太さは、人間の胴体程もありそうな化け物だった。

見上げた先に、そいつと眼が合う。

「Grhaaaaaaaaaaaaッッ!!」

/;゚、。;/「はぐれ鬼、か」

彼らは人を喰らい、その皮や頭骨を自らの装飾にあしらうという。
非常に高い身体能力持ち、多少の武装を帯びた人間など、軽がると縊り殺してしまう。

討伐には騎士団が派遣される程のレベルの脅威を振りまく存在───鬼(オーガ)がそこに居た。
ダイオードが全身に纏う血の芳しさを、嗅ぎ付けて。

並の冒険者ならば、相対してしまえば即座に逃走を図るのが普通だ。
だが、今のダイオードにとっては都合の良い相手だったのだ。

────自分に、死を与えてくれる相手ならば。

227名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 06:03:50 ID:i4cbEstM0

だが、捕食の相手を見下ろし見定めるオーガに対して、驚く程に心の中は平静だった。

/;゚、。;/「………殺してくれるのか?お前が」

「Grrrr………Guhooooooooooooッ!!」

/; 、 ;/「………ッ!」

言葉を発した瞬間、ダイオードよりも更なる巨体を誇るオーガの手が、即座に首へと伸びる。
自分がミリアを辱めた豚の首を締め上げた時と、同じだ。

鋭く太い爪が、首筋へと赤い筋を伝わらせてゆく。

/;゚、。;/(死ねるのか………これ、で)

「Grrrrr………?」

無抵抗のまま死にゆこうとしている男が、よほど珍しいか。
ダイオードの顔をじろじろと眺めては、徐々に首へ爪を食い込ませる力を、強めていく。

/; 、 ;/(ミリア………シリウス……今、傍に……)

───────────────


──────────


─────

228名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 06:05:05 ID:i4cbEstM0

─────次第に遠ざかっていく意識の中で、声が聞こえた気がした─────


(……あなた……ッ)

/; 、 ;/「………あ、ミ、リ……」

その声は、最愛の女性、ミリアのもの。


(……だぁ、だ……)

/; 、 ;/「シ……リウ………?」

その声は、まだ満足に言葉も喋れなかった、シリウスのものだ。


「どうか、私達の分まで────幸せになって」

最後に聞こえたその声は、ミリアが遺書へと書きとめた言葉だった。


─────

──────────


───────────────

229名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 06:06:16 ID:i4cbEstM0

/ ;、; /「……ぬ─────うおぉぉぉぉぉぉーッ!!」

「Grrッ!!?」

一体、どこから出てきた力なのかは分からない。
ただ、その声に応ずるようにしたのだ─────

ダイオードは、自分の倍以上も太いオーガの腕を、無我夢中の内に両手で全力で締め上げた。
突然の抵抗に意表を突かれたオーガは、その予想外に秘められた力に驚き、手を離したのだろう。

地面に降り立った次の瞬間、ダイオードは傍らに転がる手斧を手に取ると、オーガに飛び掛る。
斧に対して腕を振り上げて敢行したその防御姿勢を、肘から先の片腕ごと切り裂いた。

「……Gyhaaaaaaaaaaaaッ!?」

/ ;、; /「───があぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

次いで、絶叫するオーガの脇腹を目掛けて斧を振るうと、臓物の一部ごと肉をごっそりと抉り取る。
激痛に身をよじりながら絶叫するオーガが、血の滴る斧を手にしたダイオードの前に、かしづくようにひざまづく。

オーガにとってみれば、本来ならば食い物でしかない矮小な存在、ただ一人の人間に対して。

230名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 06:07:01 ID:i4cbEstM0

/; 、 ;/「────どうした、私を殺してみろ………お前は"鬼"なんだろう!?」

腹と腕から多量の血を流すオーガは、そのたった二撃の斧を受けて、たちどころに戦意を喪失した。
だが、頭の中で確かに響いた声の前に感情が高ぶったダイオードは、止まらない。

/; 、 ;/「なぁ……オーガ……。お前は、私に死に場所を与えてくれるんじゃないのか!?」

「Gyo、AGHaaaaaaaッ……!」

最後の力を振り絞ったのか、倒れ込むようにしながら伸ばしたのは、残った左腕。

その指先に生える鋭利な爪が、ダイオードの顔の肉を深く切り裂いた。
当のダイオード本人は、仁王立ちのままにそれを受けながらも。

地面に大きな血溜まりを作りながら、徐々にオーガは息絶えていった。
温い返り血の暖かみと、自分の顔への深い爪痕を残して──────

/;w、 #;/「………お前が鬼なら、私も────鬼、か」

求めていた死に場所は────ここではなかったのか。

231名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 06:08:00 ID:i4cbEstM0

冷たい風が火照った傷口を撫でつけると、高ぶっていた感情は少しずつ過ぎ去り、
周囲にはオーガの死体が増えた意外、何ら変わらぬ景色に戻っていた。

後に訪れた感情は。落胆。
それも、ひどく様々な感情が暴力的なまでに入り混じったものだった。

死を覚悟していた自分の元に聞こえてきたのは、やはり彼女の声だったのだろうか。

振り向くと、自然にミリアの亡骸が視界に入る。
その唇は、死して今となっても艶やかなものだった。
まるで、今にも自分へ語り掛けてくれそうな程に。

/;w、 #;/「……………っ」

静かに横たわるミリアの口元へ、ダイオードはそっと口付けた。

それは、今生の別れの。
そして、いつかの再会を誓って。

/;w、 #;/(君は、残酷な言葉を私に残した……)

232名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 06:09:01 ID:i4cbEstM0

「────生きて。私達の分まで────」

一瞬、撫で付ける風の音に紛れ、物言わぬはずの彼女がそう言った気がした。

だが、最愛の妻と息子を失った自分は、もはや心も空っぽの、歩く死人。
この世に生きる意味も、未練も、微塵も感じていなかった。

だが彼にそう決意をさせたのは、やはり愛した女性が残した言葉────

/;w、 #;/(だから、今はまだ二人の元へ行くのは、止めておくよ)

「けれど、いつかかならず─────」

風の声にかき消されたその言葉は、彼女達に届いていたのだろうか。
その肩に手斧だけを担ぐと、そのままダイオードは何処かへと消えていった。





 ───その5年後。巷の傭兵達の間では、どこからかやってきた

         ”鉄面の死神”の名が噂されるようになったという───

233名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 06:11:38 ID:i4cbEstM0


   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

              幕間

          「壁を越えて(1)」

234名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 06:13:08 ID:i4cbEstM0

────────────

────────

仕事を終え、いつもの安宿の貸部屋で眠りにつこうとしていたダイオードに声が掛けられる。
確か城壁都市の守衛の一人───名前までは、覚えていないが。

「ダイオード。あんたの腕を見込んで、良い話を持ってきたぜ」

/ ゚、。 /「………敵は?」

「あ、あぁ……まぁ妖魔さ、妖魔……その、オーガだ」

オーガがダイオードに死に場所を与えてくれない事など、もはや十分過ぎる程に知っている。
わざわざ自分あてというぐらいだから、もっと素晴らしい相手をあてがってくれるかと思ったのだ。

期待を裏切られた彼は内心、またいつものように落胆していた。
話を紡ごうとする守衛に背を向け、行こうとした時だった。

「あー、待った!確かに次の依頼はオーガなんだが、数が未知数なんだよ」

/ ゚、。 /「………で?」

235名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 06:14:52 ID:i4cbEstM0

「その……なんだ、恐らくは10匹以上のオーガが居てだな。相当危険なんだが……」

/ ゚、。 /「………」

「ま、こう言っちゃなんだが、こいつぁあんた達の実力を見る為の前哨戦さ。
 実はこっちのボスと水面下で、どえれぇデカイ話を進めてる野郎がヴィップにいてな……」

男の話に、もはや興味を失い掛けていたダイオードだが、一応は聞いておく事にした。
最後まで聞いて、またも落胆してしまう事は────目に見えているようなものだが。

「で、そいつがめっぽう剣の腕が立つってぇ巷の噂でよ、まぁウチのボスとしてはそいつが持ってきた話に
 結構乗り気みたいだ……まぁ、実際にそいつが口だけ野郎じゃないとこを見たいんだろうな」

/ ゚、。 /「………名は」

「あー、確か、ジョルジョだか……ジョルジュ……だっけな」

───風の噂に、一度ぐらいは聞いた事はあったか。
剣技の腕に優れながらも、自分のように傭兵などではなく、自由気ままに冒険者をしている男だと。

期待もせずに聞いていた話だが、その男の名を聞いて、ふと興味が沸いた。

236名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 06:15:45 ID:i4cbEstM0

/ ゚、。 /「そのオーガ退治とやらを済ませた後は………どうなる?」

「………あぁ、こいつぁあんまり周囲に言いふらさねぇでくれよ……皆、出兵前に戦意喪失しちまうからな」

勿体をつけたような守衛の様子に焦れて、再度ダイオードが質問を切り出す。

/ ゚、。 /「………敵は?」

守衛はあたりをキョロキョロと見渡して、自分達の会話を聞いている人間が居ないか確認した。
そうして生唾を飲み込むと、ようやくダイオードに耳打ちするようにして伝えてきた。

「それがな……………"龍"ってぇハナシだ─────」

/ ゚、。 /「…………」


それを聞いたダイオードが、口元を大きく歪ませたのは────鉄仮面の奥。
この時、彼の心に歓喜が訪れていた事など、守衛は知る由も無いだろう。

237名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 06:17:03 ID:i4cbEstM0


   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

              幕間

           「壁を越えて(1)」


             ―続―


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