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( ^ω^)ヴィップワースのようです 第6話 「溢れ出す悪」

245名も無きAAのようです:2012/01/21(土) 22:44:25 ID:Q0OPmeZ60

街の灯りが落ち、もう人一人も通らない街頭の中央で、夜風を肩で切りながら靴音を響かせる。

身に纏う外套がはためく音だけが耳へと届く。
ふと彼が寂しげな夜空を見上げれば、丁度月明かりを、黒雲が覆いつくしている所だ。

彼の足音が止まったと同時。
頬を撫で付けていた風もまた、止んだ。

そうしてその場に立ち止まると、背中越しに告げるようにぼそりと呟いた。

('A`)「……面倒くせぇ、出てこいよ」

闇に紛れるような濃紺の外套、羽織っていたそのフードをずり下ろしながら。

(………)

隠せていたつもりかは知らないが、先ほどから感じていた気配に向けた、その言葉。
自分の一挙手一投足を物陰に隠れながら尾行し、監視していたのだろう。

246名も無きAAのようです:2012/01/21(土) 22:45:06 ID:Q0OPmeZ60

だが、殺気には敏感な自分の事だ。
敵意を持った視線には、酒場を出た時からずっと気付いていた。

そして後方、左右それぞれの暗い路地奥から、4人の男達が姿を現す。
少し間を置いて、前方に詰まれた木箱の陰からも、さらに一人の男が音も無く姿を現した。

( ∵)「……」

('A`)「あちゃ……読み違えたな。4人だけだと思ったが」

現れた5人は、皆同じ質素な仮面を身に着けた細身の男達だ。
その表情は決して伺い知る事が出来ないが、目的自体は想像に易い。

暗殺者達は己を殺し、心を殺し、そしてただ指令のままに他者を殺す存在だ。
その仮面の奥同様、操り人形のように動く彼らの顔には、一様に無表情が張り付いているだけだろう。

247名も無きAAのようです:2012/01/21(土) 22:45:49 ID:Q0OPmeZ60

そんな自分はというと、己が身を置く暗殺者ギルドの長に牙を剥いた事実が明るみとなり、
早速こうして追っ手としての彼らを差し向けられているという訳だが。

( ∵)「手筈通りにやれば問題ない」

( ∵)「……囲む」

静かに命令伝達を交わしながら散開すると、仮面達はそれぞれどこかからナイフを取り出した。

逆手に持ち、喉首を狙いに来ている者。
順手に持ち、刺突の機を伺っている者。

5本の銀刃が照り返す光が、時折輝きを放つ。
首を捻り見渡せば、自分は男達の殺気をこの一身に浴びていた。

('A`)「準備は出来たのか?」

ただ数の暴力に任せているという訳でないのはよく理解している。
より隙なく、効率的に刃を振るいながら、連携して対象の殺害に当たるのが常なのだ。

248名も無きAAのようです:2012/01/21(土) 22:46:29 ID:Q0OPmeZ60

だが、たとえ数を繰り出しても、自分にそれが通用する見込みは薄いという自負がある。

( ∵)「この人数を前にしても物怖じしない度量は認めるさ……」

( ∵)「だがドクオ、アンタはここで死ぬんだ」

('A`)「その声、デヴィッドか」

( ∵)「………」

('A`)「お前さん、俺とは歳も近かったよな。正直気が進まねぇよ」

('A`)「でも、まぁ……やるってんならしゃあねぇか」

( ∵)「……それが遺言でいいんだな」

( ∵)「───やれ」

('A`)「きな……」

全神経を、鋭敏に研ぎ澄ます。
感覚を、致命打を避ける為だけに集中させる。

249名も無きAAのようです:2012/01/21(土) 22:47:14 ID:Q0OPmeZ60

正面の奥で指示した仮面の号令と共に、前から一人、後方から一人が同時に飛び込んで来た。
それを眼と耳、そして焼け付くようにヒリついた肌から感じ取ると、素早く外套を放り投げる。

前方へ向けて、勢い良く。

('A`)「そら、やるよ」

( ∵)「ちっ!」

正面の一人にばさりと被せられ、一瞬の目くらましとしては十分な効果が得られた。
すぐに踵を返すと背後から迫るナイフへと向き合い、伸ばしてくる腕に対し、半身に軸を逸らした。

その腕を無造作にがしりと手のひらで掴み取ると、そのままの勢いに逆らわず、
受け流すように全身ごとを引き寄せる。

手首を固定して刃を向けさせた方向には、投げつけた外套を払いのけて
再び立ち直ってこちらへと突っ込んで来ていた仮面の一人が居た。

( ∵)「…なっ、あが!」

250名も無きAAのようです:2012/01/21(土) 22:48:00 ID:Q0OPmeZ60

('A`)「一人を囲む時、同士討ちには十分な注意を払った方がいいぜ?」

( ∵)「くそッ………う!?」

引き寄せた一人のナイフに味方の鎖骨下を突かせると、引き戻そうとした男の腹には、
逆の手で掴んでいた大振りのククリナイフの柄が、しかと根元まで刺し込まれていた。

更に強く力を込めて湾曲した凶器が押し込まれると、ナイフを落とし、腹を押さえて地面へと崩れ落ちる。
血の付着したククリを引き抜く動作を、そのまま前方の一人に対しての肘鉄とした。

胸元を抉ったダメージは浅かった。
またすぐに立ち上がるだろうが、一対多ではシビアな優先順位を守らなければ、死に直結する。

( ∵)「ふッ」

左翼からのナイフが空を切り裂く。

上半身の加重だけでそれをかわした返り際に、ククリでその腕をそぎ落とそうとするも、
わずかに肉を裂くか裂かないか程度に、小さく腕を畳んで細かく繰り出された攻撃だった。
そのため、即手痛い反撃を食らわせてやる事は出来なかった。

251名も無きAAのようです:2012/01/21(土) 22:48:45 ID:Q0OPmeZ60

('A`)「慎重なのは結構だがな……」

だが、それでは駄目だ。
そんな薄皮一枚剥げるかも分からない攻撃では、一撃で確実に死を与える事など叶わない。

( ∵)「うっ、わぁ!」

('A`)「時に大胆に攻めるのも、重要だぜ」

大きくその男の元へと踏み込む。
近すぎる、という程の距離までを、一息に。

途端に構えを崩してがむしゃらな大振りを見舞ってくるあたりは、まだ染まりきっていない。
恐らくはまだ、人を殺める事に対して良心の呵責に苛まれているであろうレベルの素人、という印象だ。

振るわれるナイフの軌道を冷静に見切り、首を沈めながら更に飛び込んだ。

( ∵)「ぅぼご……ぶッ」

252名も無きAAのようです:2012/01/21(土) 22:49:34 ID:Q0OPmeZ60

踏み込みを終えると同時に、ククリナイフの刃を喉首に沿って斜めに振り上げる動作も、完了していた。
何が起こったのか、と少し上に視線を傾けていた仮面の口から、つぅ、と血の雫が伝い落ちる。

粘り気のある血のあぶくの音を、より耳の近くで取り感じながら、
その男の衣服を引き掴んで回り込むようにして、素早く立ち位置を入れ替える。

( ∵)「……ッ」

('A`)「……よッっと!」

( ∵)「くそッ!?」

('A`)「ったく……忠告してやったろ?」

両腕を後ろ手に押さえつけて張られた胸に、すぐ背後まで迫っていた二本のナイフが同時に突き立つ。
実にすんでの所で、たたらを踏みながら血泡を噴出す男の身体を盾として、逃れた。

その追撃に即死だった仮面の背中をとん、と押し出してやると、一人は左へと身をかわした。
だが、もう一人はその身を抱きかかえるようにして両腕の自由を自ら投げ出してしまったのだ。

253名も無きAAのようです:2012/01/21(土) 22:50:21 ID:Q0OPmeZ60

仲間の重みを抱きとめさせながら、同時に前に出ていた。
ククリナイフの握りを空中で逆手持ち替えると、腕を大きく振るい、遠心力を持たせる。
死体の壁越しに、そのまま向こう側に居る男の首辺りの空間を、を横側から刺し貫いた。

短く呻いた悲鳴を聞いている最中、最初に外套を投げつけた一人が脇腹を狙っていた。
ククリナイフを首から抜く動作をしてしまえば、その刺突を避けるタイミングは失われる。

だから、未だ首に刺し込まれたままの自分の獲物を、そのまま破棄した。

( ∵)「──うあぁぁぁッ!!」

('A`)「……気を付けろ」

予備のナイフはあるにはあるが、胸元から取り出しているのでは遅い。
だが、素手の状態になってしまった今でも、幾分か余裕を感じていた。

絶叫しながら突っ込んでくる男の仮面の裏側は、必死の形相に歪んでいる事だろう。
何の捻りも無く、ただ片腕だけを大きく前方へと突き出した、腹部への一撃。

───駄目なのだ、そんな正直な攻撃では。

254名も無きAAのようです:2012/01/21(土) 22:51:27 ID:Q0OPmeZ60

('A`)「気を付けろよ、お前」

そうだ、精々気を付けてくれ。

この身体に浴びた血の量と同じだけ、殺しに使う体捌きもまた染み込んでいるのだ。
故に自分の周りでだけはこんな今でも何故だか、ゆっくりと時が流れているようにすら感じられる。

( ∵)「死───」

ナイフの刃先が腹を刺し貫く瞬間に、左手で手首を払いのける。
足を一歩前に踏み出すと、それからは勝手に身体が動き、後の動作を円滑にこなしてゆく。

('A`)「こいつは俺の……」

相手の肘関節に左手を潜り込ませて、くの字に折り込ませる。
そうして後は、ぶらりと浮いた柄を握る手の底面を、右手で相手の胸元へと押し込んでやるだけだ。

極々自然に、その一連の動作は相手の刃物の先端を、相手自身の心臓へと向かわせた。

( ∵)「───ねぇぇぇッ!」

('A`)「得意技なんだ」

そう言って自分の胸元へと視線を落としたであろう男は、理解出来ていたであろうか。
自分が相手を殺すために振るった刃が、そのまま自分へと跳ね返されたという現実が。

255名も無きAAのようです:2012/01/21(土) 22:52:22 ID:Q0OPmeZ60

('A`)「ガキの頃からのな」

( ∵)「………………ぁ、え?」

('A`)「……さてと」

未だ現実を認識しきれていない男の意識はすぐにぷっつりと切れ、静かに前のめりに崩れ落ちた。

男の最期を確認するでもなく、同じように地べたを舐める死体の首からククリを引き抜くと、
緩慢な歩調で最後に残された一人の前まで歩き出し、血を吸ったククリを彼の前にちらつかせる。

その凶暴な刃の先端を指で弄ぶその横顔は、どこか昔を愛しむように。

('A`)「逃げても、いいんだぜ」

最後に一人残された仮面は、どこか彼の事を知っていた風でもある。

ドクオという男が、闇の中でこそ輝く牙を持つ捕食者だという事を。
他より図抜けた殺しの術を己が身に宿す、夜の狩人であった過去を。

率いてきた4人の部下の屍を背に佇むドクオに相対し、それらを今になって再認識した。

256名も無きAAのようです:2012/01/21(土) 22:53:09 ID:Q0OPmeZ60

( ∵)「………ッ」

見逃してやる───ドクオはそう言った。
だが、故あって情をかけられた最後の仮面は、その言葉を受けながらも刃を構える。

彼ら暗殺者をどの道待ち受けているのは、死。

安寧な日々など訪れない。
あるのは唐突な死か、裁きによる死か。

組織の飼い犬としての身分から開放される時が来るとすれば、その時だけだ。

('A`)「ま──同じ事だろうけどよ……」

組織によって粛清されるか、目の前の男に挑んで散るか。
生まれも育ちもずっぷりとドブ沼に肩を沈めて来た者達に、今更選べる道など無いのだ。

ドクオにデヴィッドと呼ばれた暗殺者は、それでも気迫を高め、挑んでいった。
かつて名を教えた相手が───決して自らが及ばぬ力の持ち主だと知りながらも。

('A`)「せめて、楽に逝かせてやるさ」

257名も無きAAのようです:2012/01/21(土) 22:54:24 ID:Q0OPmeZ60


   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

             第6話

          「溢れ出す悪」

262名も無きAAのようです:2012/01/25(水) 05:44:17 ID:ggfTaHMo0
── 交易都市ヴィップ 円卓騎士団兵舎内──


ヴィップ市内の北部、艶やかな花の装飾があしらわれた門を抜けると、すぐにその建物は見える。

どっしりと構える正方形の建物の中央部分には、高所から見ると穏やかな緑の中庭が広がる。
急な任務にも即座に対応できるよう、東西南北に四箇所の出入り口が備え付けられていた。

昼下がりの休憩時間前になると、いつもこの場所の中庭へ姿を見せる者がいる。
団長である、フィレンクトだ。

(‘_L’)「ふっ、はっ!」

ヴィップのみならず、その周辺の領土の治安を堅持する為に日夜活動する、円卓騎士団。
聖ラウンジ教の信望者達の中から組織された彼らは、その十字架の名に恥じぬ活躍を日夜こなしている。

前団長であった父───”セシル=エルメネジルド”

彼は2年ほど前に、体力的な衰えを理由に一線を退いた。
長年に渡りヴィップの繁栄に功績をもたらして来た彼は、息子を後継にと抜擢する。

263名も無きAAのようです:2012/01/25(水) 05:45:11 ID:ggfTaHMo0

親子2代での叙勲とはなったが、その当時、親の七光りだなどと揶揄する輩は一人としていなかった。

正義感の強い人柄であるフィレンクトの重きは、この発展を続けるヴィップの街にも決して少ないとは
いえない貧困層、または、中流階級の層への尊重にある事から、彼への支持者も多いのだ。

誉れ高い父、そして周囲からの重圧をも跳ね除けて。
今では歴史ある円卓騎士団中で、決してその名に恥じぬ働きをしていた。

人の身の丈を遥かに超える長尺の槍、”剛槍クーゲル・シュライバー”をいとも容易く扱えるのは、
書類業務の傍らでも日々の鍛錬を決して怠る事が無いから、というだけでもない。

槍術においての自己の非凡な才覚を、熱心な努力によって叩き上げて来たのだ。

(‘_L’)「せぇいッ!」

エルメネジルド代々からの家宝であるクーゲル・シュライバーを訓練に使う事は稀だが、
代わりにその負荷へと耐えうる力をつけるため、鍛冶職人に鉄を鋳造して作らせた特別な道具を使っている。

264名も無きAAのようです:2012/01/25(水) 05:45:56 ID:ggfTaHMo0

芯となる鉄棒の先端に大きな鉄球がくっついているが、その芯はしなる事も無いほどに太い。

その為重量は青年男性が辛うじて両手で持ち上げられるかどうかといったものだが、
フィレンクトはいとも容易く片手で背中へと回し、軽々と取り回すのだ。

そうして、仮想敵を相手にも気勢を上げて、ただ一点の虚空を突く。
突き出し終えた後にその場所でぴたりと静止した槍の先端は、軸がぶれる様子など微塵も無い。

(‘_L’)「……と、この辺にしておきましょう」

彼の”演舞”が行われる昼下がり、時には後学の為にと遠巻きから眺める騎士見習いも居る。
しかしそんな者達も、彼の槍さばきに見惚れている間に気付くのだ。

このフィレンクトの域に達する事など、果たして、自らに出来るのだろうかと。

他地方の武芸者などからは”神槍”と字される事もあるのだが、本人はそれを迷惑がっていた。
それというのも、過去に一度余所で開かれた武術大会の祭典において、優勝を掻っ攫ってしまった事があるからだ。

だが───人より優れた名誉や、数多の武勲よりも彼が欲するものはただ一つ。

265名も無きAAのようです:2012/01/25(水) 05:46:40 ID:ggfTaHMo0

(‘_L’)(またも、陰惨な光景でしたね……)

フィレンクトがこよなく愛するものは”平和”だった。

だから彼にとって、住民や街の治安を守るという今のこの職務は、天職のようなものだ。
この交易都市ヴィップという、環境に恵まれているという要因こそあれど───

大陸のどこかでは、今も領主による圧制に苦しみ、多大な税を搾取されている民もある。
ただ生まれが人と違うというだけで、他者を省みない非道な行いをする領主も多いのだ。
一部の貴族達の薄汚れたそんな部分を知りながら、それに対して自分が何かしてやれる訳でもない。

だからこそせめて、この”目に見える平和”だけでも守りたいという意思が、彼には備わっている。

(‘_L’)(暗殺者同士の仲違い?……しかし、単独犯とも考え難い)

(‘_L’)(全く、最近は物騒になって来ましたね。この街も……)

(‘_L’)(望みは薄いですが、ひとまずは情報収集を続けなければ)

今日のように何か考え事をしながら振る槍は、どうにも重かった。
だから訓練を早々に切り上げると、顔に薄ら滲んだ汗を拭き取りながら中庭を後にする。

266名も無きAAのようです:2012/01/25(水) 05:47:39 ID:ggfTaHMo0

この頃、ヴィップ領の内外での事件が目に余る。

今朝も住民からの知らせを聞き付けて市場へと駆けつけると、無残に横たわる5人の死体が転がっていた。
傍らに顔を隠す仮面がそれぞれ落ちていた事から、ある標的を追っていた暗殺者達だと推察出来たが、
そこから先はいつも迷宮入りだ。

暗殺者ギルドの息は、この街にも確実にかかっている。

それなのに、常に末端を使って情報伝達を行う彼らを束ねる長は、いつも特定する事が出来ない。
騎士団による捜索が自らに及んでいるという事実に僅かでも触れられれば、途端にその後の道筋は途絶える。

だが───別件で追っている死霊術師の件もある。
この街に足跡を残している暗殺者ギルドの連中だけを追っている訳にも行かないのだ。

町へと放った部下達の報告を待つため、まずは自室にて書類を片付ける事にした。
雑念に駆られながら槍を振るうよりかは、無心でこなしていける仕事の方が、今日は楽に感じる。

(‘_L’)「やれやれ……」

267名も無きAAのようです:2012/01/25(水) 05:48:47 ID:ggfTaHMo0

領主御自らの指名と言えど、ただでさえ100人以上もの直属の部下を抱える自分に対して、
一部内政にも加わって欲しいと、仕事を預けられている身分なのだ。

無下に断る訳にもいかず引き受けた結果が、自室の机上に積み重ねられた承認待ちの書類の束だ。
体よく仕事を押し付けられてしまった、と思った。

(‘_L’)(そういえば……)

何気なく、陽が差し込む窓際に立てかけられた額縁が目に入った。
少しだけキャンバスは日に焼け、当時描かれた時の色彩は、鮮やかさのいくつかを失ってしまっているが。

7年ほど前に聖都ラウンジを訪れた際に、ツンからもらった自分の肖像画だ。

型に囚われない斬新な手法と色使いには、天才と呼ばれる画家連中も舌を巻くだろう。
子供の落書きなどと断じてしまえばそれまでだが、フィレンクトの心は当時この一枚に揺り動かされた。

268名も無きAAのようです:2012/01/25(水) 05:50:02 ID:ggfTaHMo0

ある時、任務により窃盗団のアジトに踏み込んだ時、
予想以上に抵抗を見せた男の一人を、不可抗力で殺してしまった。

初めての人殺しを味わい塞ぎ込んでいた当時の自分には、父や仲間の励ましも届かなかった。
定期報告としてラウンジに帰った時、必ずといっていいほどお話をせがむツンの純真さが辛く、
何故だか罪を咎められそうで避けようと思った。

だが、いつもより覇気の無い顔を覗きこんで、彼女は後ろ手に隠していたこの肖像画を渡してくれたのだ。
───その時、止め処なく頬を伝った熱いものの感触は、確かに覚えている。

「 (^ _く^) 」







(‘_L’)(良くやっているようですね、彼らとは)

269名も無きAAのようです:2012/01/25(水) 05:50:46 ID:ggfTaHMo0

優秀な冒険者をこれまでも多数排出している老舗の冒険者宿、失われた楽園亭。
そのマスターが見込んだあのブーン一行というのは、なかなかに優秀なようだ。

つい先日は、死霊術者によって屍鬼の災厄に見舞われた村を解放した。
本来ならば自分達騎士団が出張らなければいけなかった案件だが、彼らはそれ以後の犠牲者を留めた。
手放しに喜んでやりたい所だが、ツンを危険な目に巻き込んだのもある為、評価は相殺しておく事にした。

今の心配事は、あのお調子者連中と常日頃を一緒に行動し、彼女がその毒気に染まってしまわないかだけだ。
肩首をほぐしながら、少しばかりそんな物思いに耽っていた時だった。

「団長、ご報告が」

扉を二度叩く音。
フィレンクトが声を掛けるよりも先に、急く様子で部下の一人が部屋へと入ってきた。

「件の、火災の起きたカタンの森から7名の生存者が発見されたという事です!」

(‘_L’)「そうですか……して、その身元は」

「はっ、薬草売りの少女が1名と、冒険者が6名……で、ですね……なんとその中には───」

270名も無きAAのようです:2012/01/25(水) 05:51:37 ID:ggfTaHMo0

(;‘_L’)「───間違い、無いのですね?」

「……はっ!」







「失礼致します」

報告の兵が部屋から去った後、フィレンクトはどさりと背中を椅子にもたれかけた。
天井を見上げながら、事件の連続で少しばかり頭痛が苛んできた眉間を、揉み解す。

(;‘_L’)(ツン様……今度は一体何をやってらっしゃるんです……)

ヴィップから4日程の道程にある、カタンの森。
突然の大規模な火事は、おおよそ火災から一日足らずで森を焼き尽くしたそうだ。

その森の中から発見された冒険者の中に、ツンが居たという報告。
無事ではあるようだが、またしてもあのにやけ顔の冒険者を絞ってやりたい衝動に駆られた。
しかし、今は仕事を幾つも抱えている手前、そうしてやる事は出来ないのだが。

271名も無きAAのようです:2012/01/25(水) 05:52:22 ID:ggfTaHMo0

(‘_L’)(………)

またしても、廊下の向こうで靴音が聞こえた。

「団長、事件です!」

(#‘_L’)「───えぇい!やってられますか、こんなもの!」

それを聞いた瞬間、書類の束を放り捨てて椅子から立ち上がった。
突如見せられたフィレンクトの只ならぬ剣幕に、部下は戸惑いを見せる。

「……ど、どうかされたので?」

(#‘_L’)「………いえ、報告の詳細は歩きながら聞きましょう。行きますよ」

「は……はっ!」

人々を、そしてその彼らが住み暮らす街の平和を預かる身分として。
円卓騎士団長、フィレンクトの日常は───かくも忙しい。

272名も無きAAのようです:2012/01/25(水) 05:54:18 ID:ggfTaHMo0

─── 【旧ラウンジ聖教】大聖堂───


東の地、ロアリアで生まれた彼らの種は、自らを弾圧しようとする各地での強い風にさらされて、
いつしかこの北西の土地”グラシーク”へと移り住むようになった。

ヴィップからおよそ10日間ほどもある険しい山肌と断崖に囲まれたこの場所には、
日頃行商人でさえも訪れる者はほとんど居ないほどの生活観の希薄さが漂う。

荒れ果てた荒野に岸壁を積み上げたような、険しく緑に乏しい山の中腹に、彼ら信者達の聖堂が奉られた。
その聖堂の最奥で、薄布の向こうで影が形作る人影と、膝まづく一人の騎士の姿があった。

(贄が必要なのだ、もっと、沢山の)

(=[::|::|::]=)

(今は影に溶け込むような日々を暮らす我々だが……日の目を見る日は近い)

(=[::|::|::]=)「………はっ」

(それも、そなた達の働き───ひいては、聖教への信仰が試されるものだが)

(よもや迷いは……無いであろうな?)

273名も無きAAのようです:2012/01/25(水) 05:55:44 ID:ggfTaHMo0

(=[::|::|::]=)「この剣に、誓って」

旧ラウンジ聖教の剣───”御堂聖騎士団”
その団長である彼が誓いを立てている相手が、現在までの旧ラウンジ聖教を打ち立てた者だ。
彼ら旧ラウンジ聖教が信望する神、その神と唯一対話出来るのが、この薄布一枚向こうに居る司教。

かつてロアリアを舞台に発展するかと思われた、宗教戦争の激化があった。

その種火をもたらしたのが、当時聖ラウンジに属したイスト=シェラザール審問官だった。
過激な彼のやり口は、聖ラウンジを離れ無数に分派してゆく、その種を生み出す事になった。
今こうして御堂の騎士と対話している司教もまた、その一人なのである。

”救いをもたらすのは、人ではない”
”救いをもたらすのは神だが、ただ求めるばかりでは、決して救われない”

”人が家畜を殺して食すのは、業”
”だが、人が人を殺めるのは、悪”

274名も無きAAのようです:2012/01/25(水) 05:57:05 ID:ggfTaHMo0

”悪たる人間には、救いの手など差し伸べられるべきではない”
”寧ろ選ばれたる我ら以外の者達など、滅びの道を辿るべきなのだ─────”

終末的な思想が、彼ら信徒達の頭を支配していた。
それらが崇高だと、心底疑いの欠片も残さぬ程に心酔させる程に。

なぜならば、彼らにとっての”神”は───

(=[::|::|::]=)「………」







部屋を出た後、御堂の騎士は己の兜を脱いでその脇に抱えた。
視線を床へと落としながら廊下を渡る彼の表情には、少し陰りが見られる。

団長であるその彼の姿を目に留めた一人の若者が、向こう側から駆け寄ってきた。

「団長、いかがされました?」

275名も無きAAのようです:2012/01/25(水) 05:58:07 ID:ggfTaHMo0

「………」

曇った表情に、心配そうな面持ちで覗き込む部下。
こうした司教との対話は、月に三度はある。

それ以外は聖堂を抜け出し、聖教の活動資金を稼ぐ一環として傭兵まがいの事をやっていられる。
その方が部下達も、そして自分もまた───一抹の充足感を得られるのだ。

だが、司教直々に彼らに下される勅命に対してだけは、その限りではない。
しばし押し黙っていた御堂の団長は、少しだけ申し訳無さそうに口を開いた。

(´・_ゝ・`)「今度、お前達の手を汚してもらう事になるかも知れん」

「団長、司教と一体どんな話を」

(´・_ゝ・`)「………詳細は以後、追って伝える。良く身体を休めておくんだな」

部下の言葉を遮るようにしてそれだけ言うと、困惑した表情の部下をその場に残し、また歩き出した。
自らの手だけならば、いい───汚れ仕事に手を染めるのが、この自分だけならば。

こんな仕事が騎士としての本分であるはずがないのだ。
”民間人を数人攫って来い”

276名も無きAAのようです:2012/01/25(水) 06:00:12 ID:ggfTaHMo0

遠まわしではあるが、司教はそう自分へと伝えたのだ。
その後の人々がどうなるかなど、考えるまでも無い事だった。
”生贄”とされた人々は、死ぬ事になるだろう。

(´・_ゝ・`)(まだ若いあいつらには……駄目だ)

頬や目元辺りには、彼が数多の戦地を渡り歩いてきた、歴戦の傷を感じさせる。
彼ら自身もそう思っているように、主に仕える騎士というよりは、手練の傭兵そのものの風格だった。

”デミタス=エンポリオ”

数年前までは、確かに彼は傭兵だった。

十名足らずの仲間を率いて各地を渡り歩いてきた彼らは、負け知らずの兵だったはずだ。
だがある日の戦場、正騎士団を相手に大敗した戦いで殿を任された彼の傭兵団は、彼を残して壊滅したという。

そのデミタスは今、旧ラウンジ聖教の敵に仇名す剣として存在していた。
本当に心の底から聖教を信望している者は、彼ら御堂聖騎士団の中にはいない。

277名も無きAAのようです:2012/01/25(水) 06:01:26 ID:ggfTaHMo0

ある者は団長であるデミタスの強さや、そして彼の部下思いの人柄に憧れて。
またある者は騎士の身分でありながら、傭兵同様粗雑に振舞える環境に満足している者達が多い。
皆、どこへ行ってもつまはじき者とされてしまう、俗世間には馴染めない男達ばかりだった。

(´・_ゝ・`)(信頼の置ける部下を数名だけ率いて───だな)

(´・_ゝ・`)(………こんなのが正しいとは、思わん)

一度は失い、再び手に入れたものがある。
それを手放すのが、それが壊れてしまうのが怖かった。

多数の部下を預かる人間となってからは、ふと、何かの拍子で傭兵時代の事が思い出される。
戦勝の晩に、大きな松明を囲んで皆で酒を酌み交わした、あの日常。

そして、それら全てを失い、自分だけがおめおめと雨の降りしきる泥沼を這いずった、あの日。

(´・_ゝ・`)(今はまだ……飼い慣らされる犬で居てやる)

278名も無きAAのようです:2012/01/25(水) 06:04:13 ID:ggfTaHMo0

生贄を捧げているなどと他教の人間に知られれば、即座に旧ラウンジ聖教は糾弾されるだろう。
しかし、司教の思惑や他の聖教の事など、自分達にとってはどうでも良かった。

今は自分達の住み暮らす生き場所を守る為、甘んじて手を汚す。
血で真っ赤に染まった泥に、顔まで埋まって敵軍が去るのを待っていた自分だ、汚れ仕事は慣れている。

だから、進んで手を血に染めてやろう。

(´・_ゝ・`)(精々手際よくやってやるさ。悪趣味な貴様らの崇める、神様とやらの為にな)

御堂聖騎士団の中でも、この事実はデミタスだけにしか知らされていなかった。

司教の話に寄れば、幹部連中にだけ話しているこの事実を知ると、皆が口々に謁見を賜りたがるという。
他の信仰を捨ててまで、熱狂的に崇める信徒達が多いという理由の一つが、恐らくこれなのだろう。

事実は事実として───

今、旧ラウンジ聖教にとっての”神”は、この大陸に実存しているのだ。

287名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 06:47:00 ID:Z7R9XywM0
─大陸東部 ロアリアより中東─


この場所は、ヴィップを行き交う商人達が手にする地図にすら、おぼろげにしか載っていない。

かつて気の触れてしまった一人の若者により多数が犠牲となった、今では打ち捨てられた村だ。
表向きにはただの廃村でしかないが、事情を知る一部の者達はその場所に近づく事さえしなかった。

なぜならばこの場所は、日陰に身を潜めて決して社会の表舞台に立つ事は無い者達が、根城とする場所だからだ。

その存在を知る大体の者は、政において自らの地位を保持するための道具として彼らに仕事を依頼する。
”標的とする人物をこの世から抹消して欲しい”という旨のそれを。

組織に対して大きな富をもたらす相手にならば、彼らはするすると蛇のように首元へと寄り添ってくる。
その相互関係には絶対の緘口令が敷かれ、禁を破れば依頼者とて命を奪われるのだ。

だが、その存在を捨て置かない正騎士団達が捜査の手を伸ばせば、瞬く間にその足跡を絶つ。
その為存在自体は多くの者達に薄々は周知されながらも、未だ組織としての全貌は未知だった。

288名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 06:48:29 ID:Z7R9XywM0
( ∵)「………」

狭苦しい廃屋と化した家屋の中で、仮面を着けた数人の男達は一言も交わさず刃を砥石へと滑らせる。
静かな空間の中で断続的に聞こえる金研ぎ音と相まって、その光景は異様とも言える。

どこか鈍色に思わせる煌きのナイフは、彼らに取っての命であった。
実際に有事の際には生命に直結する商売道具でもある為、その手入れは欠かすことの出来ない日課だ。

毎日、毎晩を人を殺める鍛錬や、実践の為に費やす。

そうした”夜”の中で自らは己が衣服や身体を血で染め、いずれは人間らしさの一切を捨て去る。
そうしなければ、この場所で生きていく事は出来ないからだ。

人は、自分一人の人生の重みを背負うのですら精一杯だ。
ましてやそこへ、自らが殺した人間に対して哀れみや情を差し挟んでしまっていては、
いずれは自分の背に次々と降り積もってゆく人の人生が、罪の重みが心を壊してゆく。

だからこそ彼らは、組織から逃れられぬ運命を悟ったある時から、自分という精神の存在を殺すのだ。
それは誰に言われるでもなく、自己防衛の本能として。

”暗殺者ギルド”という名───いつからか俗称として、そう呼ばれるようになった。

289名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 06:49:33 ID:Z7R9XywM0

一定の地位を持つもの達からは政治的、宗教的戦略の道具として。
またある時は、購い切れない憎悪を晴らすために彼ら暗殺者ギルドは利用される。

ただ下される使命の元に人を殺す彼らは、もはや彼ら自身も、生ける屍と言えるかも知れない。

「よぉ」

表情を仮面に覆い隠して黙々と刃を研ぎ続ける彼らの背に、能天気とも思える
ぐらいに軽い声色で、挨拶が投げかけられた。

「相変わらずカビくせぇ部屋だぜ……っとぉ、この壁とか、腐ってんじゃねぇかぁ?」

壁をこつこつと拳で叩くその男は、派手な髪型が特徴的だ。
前髪を後ろでまとめ、前へとはみ出たもみあげ。

老朽化した家屋の壁を拳でこつこつと叩くこの男こそが、彼ら暗殺者にとっての、長。

( ∵)「………っ」

男が現れた事に気付くと、ナイフの刃を研いでいた全員が手を止め、彼の方へ向け膝をついた。
皆が一様に頭を垂れて、ただ静かに次の彼の言葉を待った。

290名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 06:50:20 ID:Z7R9XywM0

<_プー゚)フ

”エクスト=プラズマン”

脈々と受け継がれて来たその呼び名を、今この時代は彼が持っていた。
死の執行者としての頂点に立つ者に対しては、畏敬を込めてこう呼ばれるのだ。

”黒き手”と。

<_プー゚)フ「さて………報告はどうなってる?」

手近な椅子の一脚を手繰り寄せて、どっかとそれに腰掛けてから言った。
少し震えたような口調で、エクストの眼前に膝まづく仮面の一人が答える。

事実、このエクストという男に対して恐怖の念があるのだろう。

( ∵)「……標的ドクオとは、ヴィップにて5人が接近。その後、連絡は途絶えています」

<_プー゚)フ「なーるほどなぁ」

ふんふんと腕組みをしてから立ち上がると、何か考え込むようにして室内に舞う塵を見上げる。

291名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 06:51:09 ID:Z7R9XywM0

だが、それも数秒の事だったろう。
再び部下達の方へ向き直った時、目が合った部下の一人は体を強張らせた。

赤色に殺気の込められた、瞳。

<_プー゚)フ「あぁ、そうか───」

( ∵)「………!」

ふるふると首を横に振る者も居るが、口答えなど許される訳もないのだ。
ただ彼の怒りが収まるまで、ひたすらになされるがままに堪えなければならない。

( ∵)「あヴぉッ!」

突然硬いブーツの爪先で顔面を蹴り飛ばされた一人が、壁際まで吹き飛ぶ。
痛みに身悶える暇もなく、床を踏みならしながらすぐに近づいて来たエクストのかかとが、
仮面越しに口へと突っ込まれた。

<_プー゚)フ「───よぉ~く、出来ましたって!褒めてッ、やらねぇとなぁッ!」

( ∵)「ぶ……うっごッ!」

292名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 06:52:51 ID:Z7R9XywM0

一発だけでは飽き足らず、壁に背をもたれてうな垂れる部下の顔へ、何度も踏みつける。
二度目の蹴りで男の仮面は割れ落ち、三度目の蹴りでみしりと鈍い骨の音が響いた。
既に気絶している男の顔面へさらに三発ほどの蹴りを見舞うと、かしづく他の部下達へと向き直った。

<_プー゚)フ「俺の道具共が、聞いて呆れるぜ」

あまりに理不尽で、暴力的な振る舞い。
更にはどんなに口汚い罵りの言葉を浴びせかけられても、ただ耐える事しか出来なかった。
エクスト本人が言うように、部下である彼らはもはや道具として扱われ、絶対の忠誠を誓う存在。

皆が幼少の頃より天涯孤独となってしまった孤児や、攫われ、あるいは拾われてこれまでを生きてきた。
そうして組織の輪の中で過ごす以上、逆らうという考えが生まれる事すら無いだけの、”教育”も受けている。

<_プー゚)フ「……ったくよぉ。全員で刺し違えるぐらいの気概を見せてみやがれ」

足裏に付着した鼻血を床に擦りつけて拭いながら、そう言った。

彼の暴力が向けられる時には、そこに感情を押し出した前兆のようなものはまるで無い。
あるいは怒ってすらいないつもりなのかもしれないが、どこにもつかみ所の無い性分は、余計に畏怖を振りまく。

彼自身も多くの人間の命を奪う内に頭のネジが外れ、人格が破綻したのだと囁く者もあった。

293名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 06:53:51 ID:Z7R9XywM0

だが、今のように暴力だけで済んだならば、まだ幸運な方かも知れない。
以前に目を潰されて帰ってきた部下は、言伝を言い終えた直後に殺されたのだから。

<_プー゚)フ「で、あの馬鹿野郎はどこに向かった?」

( ∵)「……交戦の後、奴がどこへ行方を眩ましたかは……」

<_プー゚)フ「使えねぇなぁ。どいつもこいつも」

肩をすくませ、深いため息を苦笑交じりの表情に滲ませながら、部下達へ言葉を吐き捨てる。
そのまま背を向け、家屋を出て行こうとした時、ドアの前に足を止めた。

<_プー゚)フ「───そうだな。あの馬鹿への追手は今まで通り、各街に二人ずつでいい」

( ∵)「と、言いますと?」

<_プー゚)フ「いつだっけなぁ……ドクオの野郎に目ぇ潰されて、わざわざ伝言しに来た馬鹿が言ってたろ」

( ∵)「確か……”借りを返す”と」

<_プー゚)フ「どうせ、また顔見せやがるさ……何しろ、この俺の首狙ってんだろうからよ」

294名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 06:55:08 ID:Z7R9XywM0

そう言って振り向いたエクストの口元には、ぞくりとするような笑みが伺えた。
彼からしてみれば、道具でしかない自分の飼い犬に手を噛まれている状況。

しかし、それは屈辱と共に、長らく組織の長として君臨してきたエクストに対し、ある感情をもたらしたのだ。

それは、”歓喜”。

人を殺めるという禁忌を犯す事に対してすら退屈するまでに、麻痺していた日常。
だが、彼にとってはあまりに新鮮な事だった。

自らの”道具”が長たる自分に歯向かい、この命を狙いに来ているという事が。

( ∵)「わざわざ、向こうから殺されに戻ってくる……と?」

<_プー゚)フ「───ハンッ……」

自分の心中を把握し切れていないであろう部下達に一瞥くれると、
大した興味も無い、といった様子で背を向け、その場を立ち去る。

295名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 06:56:58 ID:Z7R9XywM0







<_プー゚)フ(ま、解る訳ねぇか───そんなタマ、お前らの中にゃあいねぇだろうからな)

これまで、自分の寝首を掻こうとする者が一人も居なかった訳でもない。
しかし、夜襲を察知して一度自分が刃を取ると、どれも命乞いするか逃亡を図る者ばかりだった。

だが、既に組織の目が届く範囲から逃げ仰せつつあるにも関わらず、今度の逃亡者は違ったのだ。

<_プー゚)フ(だが、感じるぜ……確実にドクオの野郎は、隙を伺っていやがる)

<_プー゚)フ(生意気にも、この俺を殺す機をな───)

再びドクオは自分の元に姿を現すだろう。
そして、自分にはその確信に至る根拠があった。

296名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 06:58:34 ID:Z7R9XywM0

ドクオか、はたまたもう一人───どちらを暗殺者として拾うか選択を迫った時の出来事だろう。
今になってドクオがその時の復讐を遂げようという思いに駆られたのか、経緯は定かではない。

ただ、長らく”黒き手”の名を掴もうという者が現れなかった昨今、理由はどうあれ”親殺し”を
体現しようという存在が現れた事は、久方ぶりに己の血が沸き立つ思いだったのだ。

自分の存在に最も近しい男であったドクオには、幼き頃のエクスト自身の面影が重なる節も見られた。
だからこそ、この二人が組織の頂点を巡って争う殺し合いは、本来必然であるべきはずなのだ。

この自分が二十手前でかつての”親”を殺し、長となり得たように。

「ちったぁ、楽しめそうだ」

”黒き手”のエクストは、一人上機嫌に鼻歌を口ずさむ。
互いに殺意を持って臨む、いつかの邂逅を待ち望みながら───

─――

─――――

ー─―――――――

297名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 06:59:45 ID:Z7R9XywM0

───大陸 某所───


( <●><●>)「地図は、もう頼りになりませんね」

街道を外れてもう随分と歩いた場所、広大な緑が覆い隠すその場所の更に奥───
そのまた先に、恐らくは男の目的地とする場所はあった。

爛々と輝く丸く大きな瞳だけをフードから覗かせていた。
彼の黒い外套の端には、昼であっても闇を引きつれそぞろ歩いているような異質さを覚える。
単に人を殺めるだけでは飽き足らず、その亡骸や魂を弄ぶ”死霊術師”は、皆そうなのかも知れないが。

”ベルベット=ミラーズ”は、交易都市ヴィップでは第一級のお尋ね者だった。

幼き頃より勤勉で負けず嫌いの面も強かった彼は、魔術師学校へ主席での入学を果たす。
学連も一目を置く存在であった事は確かで、賢者の塔に招きいれられる将来も、あるにはあったはずだ。
だが彼は、それまで積み上げてきた名声を全て捨てて、ある一つの分野へとのめり込んだのだ。

死者の存在を弄ぶ絶対の禁忌、”死霊術”の道へと。

( <●><●>)「フフ、臭いますね……わかっています。この道、なのでしょう?」

298名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 07:01:05 ID:Z7R9XywM0

死者を従えるという事には、彼にとっては何物にも代え難い征服感を得られた。
その者がこれまで築いてきた全て、その存在自体を死して尚も、自分だけの為に服従させる事が出来る。

最高に昂ぶるような絶世の美女も、数々の戦争で武勲を挙げた猛々しい英雄でさえも。

ネクロマンシーの術をある程度身につけた頃には、彼には周囲の全てが下らない存在に感じられた。
所詮は血と肉の詰まった袋───人間を見る目は、全て”研究材料”と捉えるようになっていったのだ。

そして、倒錯した欲望は彼の中で、性質の悪い誇大妄想と共に膨らんでいった。
全ての死者を従える事が出来るのならば、思うさまの理想郷を創り上げる事が可能なのだと。
”王”たる自分は玉座へ、そして決して逆らう事の無い兵を従え、”死者の王国”を造り上げる。

これから向かっている場所は、その生誕の地にこれ以上無いという程、打ってつけだった。

( <●><●>)「それにしても……本当にこんな山深くにまだ村があるとは、驚きです」

299名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 07:03:18 ID:Z7R9XywM0

───オッサム───

今の大陸暦が数えられるよりも、遥か以前の事と言われている。

魔術という概念が今現在大陸に住み暮らす人々に周知されるよりも以前から、魔法国家は存在した。
時の王は古代より魔法を持ちて戦って他国の侵攻を退け、絶対的な力とカリスマを誇示していたという。

その古代魔法国家はやがて王の死と共にその存在を闇へと葬られ、今では都市自体が広大な墓石となり、
冷たい石壁に囲われた地下迷宮としてその痕跡を残しているという。

当時から王の名を冠した付近の村も、極少数の村人を残して未だ存在しているのだ。
現に、彼の眼前にはクワを手に畑を耕す中年の姿が映っていた。

自分の存在に気付いていない村人への対応をどうしようか、ベルベットははた、と考える。

( <●><●>)(ふむ……全て材料としてしまいたい所ですが、情報も必要ですね)

300名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 07:04:04 ID:Z7R9XywM0

幸いにして、小ぢんまりとした酒場もあるようだった。
盛り場は好きではないが、無理を言えば部屋の一つも借りられるだろう。
手持ちの銀貨を渡しても、どうせ後からどうとでもする事が出来る。

だからまずは、冒険者風を装って情報を仕入れておく事に決めた。

( <●><●>)「ご精が出ますねご主人。実は、お聞きしたい事があるのですが───」

自分の風貌を足元まで眺め、なにやら訝しむ様子だった。
存在自体が何の取り柄も無い農民風情が、自分にそんな視線を向けるのは恐れ多い事だ。

だが、これも”王の墓”へ繋がる第一歩。
まずは面を取り繕い、足がかりが出来ればこんな村人達はばらばらの玩具にしてしまえばいい。

301名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 07:05:31 ID:Z7R9XywM0

古代魔法国家オッサムを導いたという、”王の霊魂”を現世にて従える事が出来たなら、
このベルベット=ミラーズに土を舐めさせたあの口の減らない魔術師も、自分を恐れる他ないだろう。

命乞いをさせた上で惨殺し、その身も魂も陵辱し尽くしてやらねば収まらない。
だがこの憎悪は、自らの理想を為した後でのお楽しみとして取っておくのだ。

その時が、楽しみでならない。

( <●><●>)(クク……フードを被っていて正解でした。にやつきが、収まりません)

( <●><●>)(古代国家を魔法で導いた、王を従える)

(───そんな事を考え付くのは、きっと私ぐらいです。神をも恐れぬ、とでも言いましょうか───)

302名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 07:06:41 ID:Z7R9XywM0







己を賞賛しながら、内心悦に浸るばかりのベルベットは最後まで気付かなかっただろう。
足音が聞こえない程度の距離から、ずっと背後を着いていた人間が居た事など。

( …… …… …… )

以前ショボン=アーリータイムズに揶揄されたように、彼の知覚が閉ざされていた訳ではない。

その存在が彼の目からは見えぬように、巧みな魔術により隠匿されていたのだ。
光を屈曲させて存在を秘匿する───高度な隠蔽魔法は、この男を初めとしてもたらされたもの。

(ふぅん)

303名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 07:08:18 ID:Z7R9XywM0

最初、彼の姿を道端で見かけたのは偶然だったのだ。
何とは無しに目で追っていた彼は、自分の目指す道程と全く同じ道順を歩んでいた。

だが、彼がこの場所まで辿りつく運びとなった今、確信を得た。
恐らくは自分と同類の男であろうという念は抱いていたが、まさか求める物まで同じとは思わなかった。

しかし、その使い方まで自分と同じとは限らないのだが─────

村の中へと消えたベルベットの背を見届けると、彼は自らの隠匿魔法を解いた。
人目に着く事を避け、村の全貌が見渡せる位置にまで移動してから、木陰に紛れて。

( ・∀・)(正直、疲れたね)

”モララー=マクベイン”は、交易都市ヴィップにおいて、今や超一級のお尋ね者だった。

304名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 07:09:37 ID:Z7R9XywM0

賢者の塔から放たれた暗部の刺客三人をも殺害し、今なお逃亡者の身分。
それまでは将来的に、魔術師としての頂点であるアークメイジの地位の芽もあっただろう。
だが、今は死霊術師としての側面が明るみとなり、余罪も多分に見られているはずだ。

ただ、それらがまるで”下界”で繰り広げられている出来事のように錯覚する程に興味が無い為か、
自分の首に懸けられている1000spという現在の賞金の額面すら、彼自身も知らなかった。

ショボン=アーリータイムズによって発覚した、死霊術師としての自分。
自らも追われる身となった今は、最初のように彼を嘲笑う事など出来ない。

勘の良い老害が放った監視の目を始末した事により、今頃は彼の冤罪が明らかとなっているかも知れない。
しかし、あの老いぼれの考えそうな事だ。

そう簡単には彼への疑いを晴らすつもりも無いだろう。
寧ろ、ショボン=アーリータイムズが自分を追っているのなら、それはそれで面白いと思えた。

( ・∀・)「好敵手という存在には───為り得ないだろうけどね」

305名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 07:11:48 ID:Z7R9XywM0

自分の研究の発覚を許したのは、そろそろ頃合だとも思っていたからだ。

今では、死神と同一視される存在───レイスですらをも従える自信がある。
だが、常に高みを目指し続ける自分には、それでもまだ物足りないのだ。

更なる高位の存在こそが、この自分には相応しい。
かつて、オッサムという名を冠した古代魔法国家の王────その魔導死霊(リッチ)こそが。

戦乱の波に呑まれて消えていった国の墓ならば、さぞ強大なる怨嗟が渦巻く力場に巡り会えるだろう。
既に読破したが、一人の著者が残した”死をくぐる門”は、嘘偽りもなく感銘を受けるだけの内容だった。

数多の血肉の犠牲を払った上で、肉体を媒介として死神を降霊させる。
そんなもの、今の世では到底受け入れられるようなものではない。

だが、もしその実験が成功を収めていたのならば───果たしてどういう結果になったのか。
その行き着く先に、極めて興味を惹かれたのがきっかけだった。

306名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 07:14:21 ID:Z7R9XywM0

こと魔術的分野において不得意な物など何一つ無い自分にならば、恐らくは可能なのだ。
自らの力量が足りずに散っていった、かの死霊術師の崇高なる理想を遂げる事が。

志を同じくする先客の魔術師には、死ぬまでの間を道中の道案内を頼むとしよう。
彼の力量など、背後を着けるの自分の存在にも気付けぬ愚鈍さの時点で知れているのだから。
後々の扱いは、手駒の一つ程度としては丁度良さそうだった。

より高次の存在を己が身に宿したその時、果たして人は─────

( ・∀・)(どうなってしまうの、だろうね)

手のひらには、久しく震える事の無かった胸の鼓動が、少しだけ早まる感触を感じる。
─────答えには、もう確実に近い所まで来ていた。

─――――

─――――─――――


─――――─――――─――――

307名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 07:16:25 ID:Z7R9XywM0





   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

             第6話

           「溢れ出す悪」


             ―了―


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