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( ^ω^)ヴィップワースのようです 幕間 「壁を越えて(2)」

315名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 20:31:20 ID:Z7R9XywM0

( メ,-Д-)「………ん」

ヴィップの街を走るいくつもの路地、その中の細い小道の先の袋小路に、彼は倒れていた。
まだ夜も空けきっていないほどの暗さだというのに、耳障りな鳥の鳴き声で目が覚めた。

( メ,゚Д゚)「もう、朝かよ……ゴルァ」

目を覚ますなり、自分がこれまで謎の集団と交戦し、クーを逃がす囮として街中を
駆けずり回っていた事を、鮮烈に思い出した。

( メ;゚Д゚)「ハッ……クーは、どうなった……?」

あれから自分がどうしたのか、寝ぼけ気味の頭では思い出すのに時間がかかる。
最初から順序立てて思い返し、それを記憶の底から拾い集めようと頭に手を添えて顔をしかめた。


その断片たちを繋ぎ合わせるようにして、思い返してみる───


───────────────

──────────


─────

316名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 20:32:00 ID:Z7R9XywM0







多くの注意が自分に向き、敵の目を引き付けられるかと思ったのは、とんだ誤算だった。
女だてらに剣を上手く扱えていたクーの元に、半数が残ってしまった。

人と剣を合わせた事など、まだ自分が物心つく前の、父親が生きていた時の記憶の中だけ。
それも、木の枝を振るって父がそれを受け止めるだけの、お遊びだ。

ゴブリンなどの妖魔を相手取って倒した事は何度もあるが、人を斬った事などない。
クーの事よりも、自分の心配をするべきだったのかも知れないなどと、少しばかり後悔していた。

( ,;゚Д゚)「……ッハッ………ハァッ!」

(……周り込め……隣の路地から……)

背後で、声がする。
夜に静まった街中を、複数の足音が追いかけてくる。

317名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 20:33:10 ID:Z7R9XywM0

三人に囲い込まれては追いつかれるのも時間の問題────
ならば剣を振り回して応戦と行きたい所であったが、生憎と多数の水脈のように走る
狭い路地に身を潜り込ませたのが災いしてしまった。

こんな場所では前方に振り下ろす事ぐらいしか出来ず、まったく小回りが利かない。

仮にやり合えば、向こうの所持している短刀であっさりと喉首を掻っ切られて終わってしまうだろう。
今は、逃げるしかないのだ─────

歯をぎりりと食いしばりながら、必死に手足を動かし続ける。
重い革鎧が邪魔だ、こんな事ならあの場でクーの力を借りて戦っていれば────

( ,;゚Д゚)(………女に助けてもらうなんざ、情けねぇ事できっか!)

ついぞ漏れそうになるその弱音を、負けん気で発奮させてかき消す。

それは、彼の安い意地だった。

318名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 20:33:52 ID:Z7R9XywM0

冒険者としても、剣士としても中途半端。才能が無いのは感じていた。
だが、窮地においても虚勢を張る事は、自らが憧れを抱き志した、父と同じ道を歩む上で欠かせない事なのだ。

父のように、どれだけ強大な敵にも立ち向かっていけるだけの、
そして他者を助ける為にこそ剣を振るう事の出来る剣士にとっての、美学。

( ,,゚Д゚)「!!」

やがて、目の前には高くそびえる壁。
三方を住居の裏手に囲まれた、袋小路に追い詰められてしまった。

少し視線を落とせば、薄布を被った浮浪者がそこに寝転がっている。

( ,;゚Д゚)「………ちっ」

振り返った先の退路は、当然ながら三人の仮面の男に塞がれている。

( ∵)「終わりだな」

だが、やるだけの事はやってやる。

319名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 20:34:44 ID:Z7R9XywM0

この場所で振るう事の出来ない剣を使う事は、もはや諦めた。
拳を固く握り締めて、力強く顎を貫いてやる。

狭い路地へと追いやられた今のギコに残された手段は、結局の所それしかない。

頬を自ら張り、己を奮い立たせる。
自分の心臓を狙う三人の男の凶刃の恐怖から、片時も目を背けぬ為。

( ,#゚Д゚)「来るなら……来てみやがれゴルァッ!」

( ∵)「………」

その叫びに反応して、仮面の一人が刃を低く構えた時だった。
ギコの足元あたりから、なにやら掛けられた毛布の向こうにくぐもった声が聞こえた。

「んぁ……なんだぁ?」

それはこの状況において、あまりに間の抜けた声だった。
本来ならばその男は、目を覚ますべきではなかった。

そうであったら、ギコのように命を狙われる恐れも無かったのだ。

320名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 20:35:29 ID:Z7R9XywM0

だが、むくりと起き上がった彼もまた、仮面の男達───暗殺者の姿をその目で見てしまったのだ。
  _
( ゚∀゚)「……っるせぇなぁ」

( ,,゚Д゚)「………」

寝床の傍らには剣や麻袋などの装備が置かれている。
一見冒険者風に見えた彼から、すぐに視線を暗殺者へと戻す。

巻き込む訳には行かない───だが、こっちの心労など露知らず、
呑気にも男は声を掛けてくる。
  _
( ゚∀゚)「おー、そこのお前。こいつぁ何の騒ぎだ?」

短刀を構える男が自分の目の前に三人も横に広がっているというのに、彼には
危機感という意識がなかったらしい。

冷や汗を流すギコとは対照的に、その場で欠伸の一つでもしてしまいそうな気の緩みようだ。

( ,;゚Д゚)「だぁ……うっせぇな!黙っててくんねぇか、あんたもやられるかも知んねぇんだぞ!」
  _
( ゚∀゚)「へ?」

321名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 20:36:26 ID:Z7R9XywM0

( ∵)「ご名答」

銀色の刃をちらつかせる男が、三人。
月明かりに薄っすらとだけ照らされた彼らは、皆同じような面を被っていた。
  _
( ゚∀゚)「………なるほど」

状況説明は、一目だけで終わったようだ。
のほほんとしたものだ、こちらは神経をすり減らして冷や汗を垂らしているというのに。

( ,;゚Д゚)「くそがッ───おい!そこの浮浪者のおっさん!」
  _
(;゚∀゚)「あん!?」

( ,;゚Д゚)「あんた、俺がこいつら相手してる間に、どうにかして逃げろ!」

( ∵)「おい、聞いたか?」

( ∵)「……フッ、馬鹿が」

( ,;゚Д゚)(相手が三人ってだけでもキツいのに……人一人庇いながらなんて、余計過ぎるぜ)

322名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 20:37:18 ID:Z7R9XywM0

やはり、窮地においては妙な正義感が顔を覗かせてしまう。
龍にも恐れずに立ち向かっていった傭兵である、父への憧れが故だろう。

だがその息子である自分が、たった三人の賊から浮浪者一人守れなくては父の名を汚す事になる。

活路を───見出さなくては。

頬を伝った汗の一滴が、また地面へとぽたりと落ちた時だった。
  _
( ゚∀゚)「……ったくよぉ、近頃の若造は」

( ,,゚Д゚)「!?………あんた……何のつもりだッ、下がっ───」
  _
( ゚∀゚)「あー、わーったわーった!まぁ見てろっての」

いつの間にやら、のそのそと起き上がってきたその男は、ギコの前へと出た。
男の前には、向けられる銀刃が、三本。

( ∵)「……死にな」

( ,,゚Д゚)「!!」

323名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 20:37:59 ID:Z7R9XywM0

  _
( ゚∀゚)「………」

ギコが庇いに入るよりも早く、仮面の男の一人は突きを繰り出していた。
自分の前に立つ男の胸元へと向けて。

他者が目の前で刺されようとする光景に、思わず大声を上げそうになった。

───だが、そうはならなかったのだ。
  _
( ゚∀゚)「ほっ」

代わりに目の前で繰り広げられた光景は、ギコの想像の遥か斜め上を行くものだった。
実に緩慢にすら思える動きであったが、それは、単に無駄がそぎ落とされたが為なのだろう。

( ∵)「───ッがか!?」

( ,;゚Д゚)「な………」

確かにナイフを突き出してきたはずの仮面の男は、次の瞬間には前方へ吹き飛んでいた。
実に、人一人分程度の高さくらいの中空にて、男の身体は弧を描く。

324名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 20:38:49 ID:Z7R9XywM0

左手で刃物の切っ先の軌道を逸らしたのと同時に、右の手は背中を反らせて顎を拳で突き上げたに過ぎない。

まるで、ゆるやかにさえ感じられる程の時の流れの中で────
たったそれだけの事で、やがて地面へと墜落していった仮面の一人が、
しばらくの間立ち上がる事など出来ないであろうという程の威力を感じさせる。

どしゃり、と地面へ落とされた男は、案の定その一発で昏倒したようだった。
  _
( ゚∀゚)「───そら、どうした。こちとら丸腰だぜ?」

( ∵)「………な」

残る仮面達が、一瞬だけ顔を見合わせた。
それはそうだろう、ただの一瞬で味方の一人が素手で宙を泳がされたのだ。
当のギコですら目の前に立つ男の持つ身体能力は、得体の知れぬものだった。

( ∵)「ちっ……怯むな」
  _
( ゚∀゚)「来ねぇなら────」

( ,,゚Д゚)(───低い!)

ギコだけでなく、一瞬たじろいだ仮面達の視認速度を凌駕していた。
前に突き出した両腕と共に頭を下げると、気がついた時には左の一人の懐へと潜っていた。

325名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 20:39:36 ID:Z7R9XywM0

( ∵)「な……くッ!!」

辛うじて反応してか、もはやその場所にいない虚像に対してナイフを振るった。
だが、そんな反応速度では腹下から聞こえる声の主の打撃を、避ける手立てはない。
  _
( ゚∀゚)「────ほれ、こっちから行くぜ」

”ぱかんっ”

( ∵)「んぬむぐゥッ」

またしても、大の男一人が軽々と宙を舞う。
あまりに間の抜けたような音が同時に聞こえたが、恐らく顎の骨くらいは砕けたはずだ。

片腕に支えられた天を突くような肘打ちが、的確かつ豪快に決まったのだった。

( ∵)「う、嘘────だろ……」
  _
( ゚∀゚)「もうちっと身体鍛えとけ、使いっ端どもめ」

( ,;゚Д゚)(な───なんなんだよ、このオッサン………)

326名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 20:40:32 ID:Z7R9XywM0

素手のギコ自身の3倍、いや、5倍以上は強いのではないかという程に冗談めいた強さだった。
刃物を帯びている敵を相手取りながら、怯むどころか、余裕綽々でぶっ飛ばしている。

身長差で言えばギコの頭一つ分ぐらいも小柄な身長にも関わらず、馬鹿力はその比ではない。
この身体のどこにそんな力が秘められているのか、まるで理解できない。

( ∵)「な……なんなんだ、お前ぇッ!?」
  _
( ゚∀゚)「はは。通りすがりの、冒険者ってなぁ」

そう、あっけらかんと笑う男の実力に、仮面はもはや完全に狼狽している。
双方の力量差は、ギコの瞳からにも明らかなものだ。

だが、元は自分に降りかかった火の粉なのだ。
無関係の他人にばかり任せておく訳にもいかぬだろう。

呆気に取られながらその立ち回りを見ていたギコは、そこでふと正気に立ち返った。

( ,;゚Д゚)(………俺も、こうしちゃいられねぇ!)

327名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 20:41:53 ID:Z7R9XywM0

( ,#゚Д゚)「うぉぉッ……加勢するぜぇッ!」
  _
(;゚∀゚)「お……馬鹿ッ」

最後の一人を叩きのめすため、ギコもまた拳を振り上げて立ち向かった先───
男によって繰り出された裏拳が、既に仮面の刺客を叩きのめしていた場面だった。

( ,, Д )「───うぉッ!?」

男の顎を打ち抜いた後、それでもなお衰えない衝撃は、こちらへ向いていた。
そのまま、絶妙のタイミングで突っ込んでいったギコの顔面を、男の拳が不運にも捉える。

恐らく事故という他ないのだろうが、それにより両膝の力は一瞬にしてがくりと抜け落ちた。
夜だというのに目の前には白い火花がちらつき、そのまま意識は白へと吸い込まれていく。

( ,, Д )(あ────)

鼻血を噴出しながら冷たい地面に倒れ伏したギコの耳には、辛うじて彼の最後の言葉が届いた。

(……あっちゃ~……)

─――――─――――─――――


─――――─――――

─――――

328名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 20:43:21 ID:Z7R9XywM0



   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

             幕間

          「壁を越えて(2)」

329名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 20:59:22 ID:Z7R9XywM0

──────15年以上前──────

陽光の日差しが暖かな、作物の収穫をすぐ直前に控えた、ある春の日だった。
その日、少年が住み暮らしているフランタンの村の広場では、白銀の甲冑に身を包む、
数十人もの騎士達の姿があった。

フランタンの領主、ディクセン=ベルモンドが抱える騎士団だ。

数は50人以上にも登るが、彼らディクセンの従者は生まれも育ちも
良いものばかり。その為、他の領主や町の住民からは、坊ちゃん騎士団と
囃し立てられる事も少なくない。

事実、戦闘の経験が豊富な者などもこの中では僅か半数といった具合だ。

( |::||::|)「村の衆、村の衆!聞くがいい!」

( ゚∀゚)「ねーちゃんねーちゃん、あいつら何なんだ?」

川 ゚∀゚)「この村の領主さんの騎士団さ」

330名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 21:00:04 ID:Z7R9XywM0

幼き日の、”ジョルジュ=ブレストル”少年。
そしてその姉、五つ年上の”ホルス=ブレストル”の二人は、その光景を物珍しげに眺めていた。

( ゚∀゚)「へー?何するんだー?」

二人が住み暮らすこのフランタン村へディクセン騎士団が訪れたのは、早朝の事だった。

しばらくの間広場で滞在していた彼らだったが、やがてディクセンの団長は村長の家を訪れた。
そうして今こうして、昼下がりに村の住民全員を広場へと集めて、何かを伝えようとしているのだ。

日頃人が訪れる事も少ないこの村に現れた騎士の一団に対し、住民達は既に興味深々だ。

( |::||::|)「4日ほど────前の事だったか」

ある時、住民達を前にした騎士の一人が、唐突に切り出した。

331名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 21:01:09 ID:Z7R9XywM0

( |::||::|)「領主ディクセン様の元へ届いた、貴公ら村人の数人からの報せは、
        山頂の洞窟にて、”ドラゴン”の姿を見たというものだった」

おずおずと見物人の中から一人の中年が姿を見せると、
へこへことその騎士に対して受け答えをした。

「へ、へぇ……あっしのとこの悪たれたガキの話なんでさぁ」

「なんでも悪たれの話だと、昔っから村のもんは誰一人
 立ち寄っちゃならねぇって言われてる……山上の洞窟で見たって話です」

( |::||::|)「ふむ、しかし何せ子供の見た事だ。見間違いなどの可能性の方が遥かに大きい…」

大仰な仕草で首を捻る騎士の姿。
だが、その次に放った一言に、どよどよと村中がざわついた。

( |::||::|)「だが、寛大なるディクセン様は、そんな貴公らの不確かな情報にあっても、
        騎士団を総動員して山狩りをせよとの命を我らに授けた!」

332名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 21:01:55 ID:Z7R9XywM0

( |::||::|)「情報によれば、漆黒の表皮に真紅の邪眼。数少ない竜という存在の中で、
        その外見から、かの”邪竜ファフニール”だという事への信憑性は高い!」

その名を聞くやいなや、村人全員がざわめき、動揺は瞬く間に広まった。
自分たちの村のすぐ近くに、伝説的存在である”竜”が存在していると告げられたからだ。

これまで相対した者で、実際にそこから生還した者はほとんど居ない。
歳を重ねる程に、力と共に狡猾さも兼ね備えていくという。

悠久の時を生きる存在─────”ドラゴン”

人間ごとぎでは、逆立ちしても決してその偉大な力には勝てようはずもない。
それゆえ、その存在を知る者からすれば”人は竜に関わってはならない”という
事を触れ回る人間が、大陸中にはそこいらで数多く見られる。

中でも”ファフニール”は、大陸中に一際その名が知れ渡っている存在だ。。
齢にして500年以上もの時を過ごし、既に人語を解しているとも言われている。

333名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 21:03:10 ID:Z7R9XywM0

川;゚∀゚)「竜……ファフニール?冗談でしょ……?」

( ゚∀゚)「はふにーるって、ドラゴンの事かー?」

川;゚∀゚)「……そうさ。とってもおっかなくてね、アンタなんか一口なんだから」

( ゚∀゚)「ホントかよ!見てみたいなー」

曰く、物語の紡ぎ手、ドラゴン。
その存在を称える者の中には、神の使いとして崇める者もいた。

だが、たとえ人語を解する龍と言えども、その存在は人間などよりも高い次元に位置する。
絶対的な力を有するが故に誇り高く、傲慢な生き物なのだ。

人間などに懐柔される事など決して無く、食物連鎖の頂点として君臨し続けるだけ。
だが、それを倒そうという者達はいつの時代にも存在するのだ。

それは龍と同じように驕り昂ぶった、知性を持つ人間という生き物の、性であった。

村人たちのどよめきもひとしきり納まった頃、騎士団のリーダーは
最後にこほんと咳払いをしてから剣を掲げ、叫んだ。

334名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 21:07:39 ID:Z7R9XywM0

( |::||::|)「故に、いざ行かん!我々ディクセン騎士団はこれより、
      ”邪竜ファフニール”討伐の為に出立せり!」

(……オォ──オオォッ!……)

騎士団長のその叫びに呼応して、騎士団の面々は剣を天高く掲げた。

その姿に、民衆の大半には歓声を上げる者も居たが、その一方で
明らかな不満を孕んだ表情で、それを蔑していた者も少なからずあった。

気勢を高める騎士の一団の中にあって、正規としてではない鎧に身を包むのは、恐らく傭兵。
”坊ちゃん騎士団”の中で実際に戦力の中核を為すのは、彼らだろう。

ミ,,゚Д゚彡「………」

安い賃金で、命を自ら危険に晒す彼らもまた、ジョルジュの姉、ホルスと同様に
その騎士団の乱痴気騒ぎを、どこか侮蔑の眼差しで退屈そうに眺めていた。

川;゚∀゚)「はんっ、最初から来なくて結構なのにさ」

( ゚∀゚)「なんでだねーちゃん?なんかあいつらカッコいいじゃん」

川 ゚∀゚)「……あいつらはね、一つでも多く手柄を立てて、他の領主や
    人々から脚光を浴びたい、もっと富と名声が欲しいってだけなのさ」

335名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 21:08:26 ID:Z7R9XywM0

川 ゚∀゚)「古くからしきたりを守って来たあたい達の村に、そんな事の為に
     土足であがり込むっていうんだから……良い気はしないね」

おおむね、それはホルスの言う通りだった。

より多くの名声を、より高い地位を望む力ある貴族達。
大義名分を掲げては、その実狙いは別の所にある。

当然ながら、高名なる龍を討伐したとあっては自分達にとってのその見返りは多大なるものだからだ。

「頑張ってくれー!騎士様たちよー!」

「ドラゴンを倒したら、俺達にも見せてくだせぇよー!」

声援を送る一部の村民達に大手を振って、やがて山頂を目指した騎士団は出立した。

336名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 21:09:32 ID:Z7R9XywM0

川 ゚∀゚)「───もしドラゴンが寝息をかいてたとしてさ。それで、 あいつらが
     討伐にしくじったら、あたしらどうなっちまうんだろうね……?」

村中でこの時それを危惧していたのは、彼女だけだった。

( ゚∀゚)「?」

幼いジョルジュ少年が姉のその様子に気づく事はなかったが。

そして、聡明にして勘の良い彼女のその想いは、やがては現実のものとなる─────

─――――─――――─――――

─――――─――――


─――――

338名も無きAAのようです:2012/02/24(金) 04:15:29 ID:GMHlc/rM0

───月も隠れた、深夜だった。

結局、夕刻になっても、ディクセン騎士団らが麓の村へと戻ってくる事はなかった。

だからだろうか、何故だか胸騒ぎがして寝付けぬホルスは、寝室に
ジョルジュ一人だけを残して、夜風を浴びるために外へと出てきたのだ。

川 ゚∀゚)(────風が)

自分が不安を抱えているからなのか、いつもは清清しい山々を吹き抜ける夜風が、
この日は何故だか生ぬるく、身体に纏わりついてくるような印象を受けたのは。

もう、戻ろう。

そう思って再び家へと入っていこうとした時、僅かに耳に届く音があった。
───がちゃがちゃと金属が触れ合う音、それも行進しているかのように。

川 ゚∀゚)「……何だい、この音……」

339名も無きAAのようです:2012/02/24(金) 04:16:48 ID:GMHlc/rM0

その瞬間、ピンと来た。
もう夜半もとっくに過ぎた今になって、ディクセン騎士団が戻ってきたのだ。

その成果を確認すべく、ホルスは音の聞こえる方へと駆け出した。

やがて────山頂へと続く山道。
その木陰から次々と姿を現したのは、やはり多数の人影のようだった。

その彼らに駆け寄ったホルスだったが、明らかな異変に、すぐに気付いた。

「ウァ…ウゥ…」

そこかしこから、うめき声は風に乗った呪詛のようにして耳へと流れてくる。
皆が、瀕死の重傷を負っている事が理解できた。

村内へと辿りついた騎士達は、着くや否や皆一様にばたばたと地面へと倒れこんでいく。
月を隠していた雲が流され、月光がほのかに照らしたその光景に、ホルスは絶句した。

340名も無きAAのようです:2012/02/24(金) 04:17:50 ID:GMHlc/rM0

川;゚∀゚)「───ッ」

(,,];:',;( #)「……たす……たす、け……」

こちらへと手を伸ばすのは、昼間に広場で皆を炊きつけていた騎士団長。
荘厳な作りの甲冑に守られていたその姿は、今や無残なまでに変わり果てていた。
顔面や体躯を覆う甲冑は所々ひしゃげ、露出した顔面は2倍程に膨れ上がっていた。

身体を頑強に守るはずの甲冑は、前面部だけが根こそぎを欠損している。
剣の打ち込みすらを弾くほどのそれが、まるで乳油のようにめくれ上がり、
胸部が露出していた。それも、脈々と鼓動する臓物が、あばらの隙間から覗く程にだ。

川; ∀ )「───こんな」

川;゚∀゚)「………ダメ、だったのかいアンタら……」

(,,];:',;( #)「………」

341名も無きAAのようです:2012/02/24(金) 04:18:36 ID:GMHlc/rM0

だが、その問いかけに、もはや騎士が返答する事はなかった。
最期の間際にはひゅうひゅうと喉から空気が漏れ、
助けを求める言葉すら、発する事ができなかったようだ。

「ねぇ……答えなよ」

そう呟いてから、暗闇に慣れてきた目を周囲へと凝らしてみる。

そこに広がっていたのは、ほうぼうの体でどうにか村へとたどり着き、
惨たらしい姿で次々と力尽きて行く、騎士団の成れの果ての光景だった。

急速に訪れた自身の震えが、全身へと伝わってゆく。
目の前の光景に加えて、これまで山頂にて沈黙を保って来たであろう”龍”への恐怖。
その現実が露になった今となって、彼女の心はどん底にまで落とし込まれた。

川; ∀ )「ど、どうすれば………いいんだい」

刺激してしまったのだ。
考えるまでも無く分かる事だが、今やディクセン騎士団は敗れた。

342名も無きAAのようです:2012/02/24(金) 04:19:24 ID:GMHlc/rM0

だとすれば、次に逆上した龍は、ふもとに位置する自分達の村をも襲ってくるのではないか?
生きていれば彼女の問いかけに応えてくれたであろう者達は、もはや誰一人として返事をしない。

だが、その彼女に対してうめき声ではなく、突如声が掛けられた。

「逃げ……ろ……」

川;゚∀゚)「!?」

声の方へと振り返った彼女の瞳に映ったのは、満身創痍の状態で腹の傷口を押さえた男。
確か、昼間に村の広場で見た傭兵らしき一人だった。

ミメ;゚Д゚彡「……早く、この村から逃げるんだ、嬢ちゃん───騎士団は……壊滅した」

薄々は理解出来ていた事だが、男の口から改めてそれを聞かされても、まだ実感が沸かない。
そこら中に騎士や傭兵達の無残な成れの果てが転がる光景は、まるで夢の中の出来事のようにも思える。

343名も無きAAのようです:2012/02/24(金) 04:20:17 ID:GMHlc/rM0

胸を締め付ける不安は膨れ上がり、もはや居てもたってもいられなかった。
傭兵に対して、やり場の無い悲痛な思いをぶちまける。

川;゚∀゚)「そんな───あたし達は……この村はどうなるんだい!?」

ミメ;-Д-彡「───すま、ねぇ……俺ともあろう者が……ヤツの片眼一つも……奪えなか───」

川; ∀ )(………酷い、傷)

どさりとその場に崩れ落ちた傭兵の腹部には、深く切り裂かれた痕跡が生々しく刻まれている。
出血量からしても、意識を失って当然の怪我の具合だ。

「……るっせぇなぁ、こんな夜分によぉ」

「おい……こりゃあ一体、何の騒ぎだよ……」

騒ぎを聞きつけたか、ようやく村人達の何人かは起き上がり、外の様子を確認しに出てきた。
そして、この異変に対して眉間に皺を寄せながら、深刻な状況だという事をようやく理解したようだ。

344名も無きAAのようです:2012/02/24(金) 04:21:21 ID:GMHlc/rM0

川;∀ )「見ての通りさ───こいつらは、本物の龍を怒らせちまったんだ」

「ひぃっ……な、なんてこった……こりゃあ!?」



────────ずしん。



その時、夜の闇に黒く染まった山の一つが、地響きを鳴らした。

「ひゃあぁッ、な、なんだいッ!?」

山上の方を見上げれば、それは確かに動いていた。
ゆっくりと、一歩一歩を踏みしめてこちらへ近づいているのだ。

川; ∀ )(どうして……こんな事になっちまったんだい)

ミメ;-Д-彡「……逃げ……ろ……」

345名も無きAAのようです:2012/02/24(金) 04:22:19 ID:GMHlc/rM0

────────ずしん。



騎士達の亡骸にもたれながらうわ言のように呟く傭兵の声は、もはや村人の誰にも届かない。
皆は恐慌状態へと陥り、ただ混乱のままに慌てふためくばかりだ。

だが、錯乱した村人達は、やがて全員が息を呑む。


川;゚∀゚)(─────ッ)

─────見られている。           ・・
即座にそう感じたホルスが山の方を見上げた先に、それと目があった。

346名も無きAAのようです:2012/02/24(金) 04:23:14 ID:GMHlc/rM0



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川; ∀ )(ファ────)

347名も無きAAのようです:2012/02/24(金) 04:24:54 ID:GMHlc/rM0

山上から自分達村人を見下ろすその二つの瞳は、血よりも深い赤色をしていた。

瞬時に全身の筋肉が硬直し、視線を逸らすことすらもかなわない。
口の中はからからに渇き、かすれる喉からは、言葉を捻り出す事も出来ない。

圧倒的な恐怖は、これから自分達に”確実な死”が訪れるのだという諦念を、心の奥深くにまで植えつけた。


あまりにも───

人が龍を倒すなどという事は、あまりにも愚かしい考えだったのだ。



「……あ、ぅ、ぁ………」


誰一人として逃げ出す事も、言葉を発する事も出来ずにいた。

348名も無きAAのようです:2012/02/24(金) 04:26:21 ID:GMHlc/rM0

川; ∀ )(この村は………終わり、だよ)

龍の逆鱗に触れてしまったのだ。
浅ましい人間の思惑が、このような事態を招いてしまった。

こうなる事さえ解っていれば、あの時騎士団に対して、
自分が村の大人たちを説得して、村を上げて反対してさえいれば───正しく、悔恨の極みだ。

近づく地鳴りは、更に大きく感じられていた。
村の広場を見下ろせる位置にまで来ると、どうやらその歩みを止まった。

龍は大きなあぎとを広げると、外気を口の中いっぱいに取り込んでいるようだ。

349名も無きAAのようです:2012/02/24(金) 04:28:04 ID:GMHlc/rM0

川 ∀ )(ジョルジュ────)

今思うのは───これまで慎ましく暮らしてきた自分の血を分けた弟の心配だ。
物心つく前から寄り添って生きてきた、自分の分身であるその子の無事だけ。

ファフニールとやら、この村の中で大暴れするのは構わない。
だが、今もあの子が眠る自分達の小さな平屋だけは狙ってくれるなと、心の中で哀願した。


直後、大きく膨れ上がった龍の口内からは、全てをなめ尽くす紅蓮が吐き出され────


やがて─────若きホルスの命は村人達と共に、熱く燃え盛る業火の中へ囲繞されていった。

─――――─――――─――――

─――――─――――


─――――

355名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 10:28:28 ID:9VaQZ8Gs0

(────ジョルジュ────)


( ゚∀゚)「……ねえ、ちゃん?」

夢の中で、姉が自分を呼ぶ声が聞こえた気がした。
ゆっくりと目を覚ましたジョルジュは、そこでまず家の景観が変わっている事に気づく。

(;゚∀゚)「え……?」

屋根が無くなっていた。
そこから大きく吹き抜けた空は、まだ薄暗い。

家の外壁のそこら中にも穴が開いており、何かが燃えているような焦げ臭さが鼻を突く。

自分を取り巻くいつもの日常とは明らかに違うという事を、子供心に察する。
だが、理解の及ばないジョルジュは”火事か何か”だと思い、飛び起きた。

いつもは隣で眠っているはずの、姉の身を案じて。

356名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 10:29:12 ID:9VaQZ8Gs0

(;゚∀゚)「たいへんだ!」

しかし、幼いジョルジュには気付けるはずもなかった。

天災にも等しい事象は、自分が想い描くような生温いものなどではない事など。
自分一人だけを除いて、今や村人は誰一人として生きていないという事実など。

すぐにベッドから飛び降りたジョルジュは、裸足のままに外へと駆け出した。
 
(;゚∀゚)「ねえちゃん───ねえちゃぁんッ!」

大声で叫びながら、ドアを開ける。
次の瞬間、少年の瞳に飛び込んできたのは、彼の理解の及ばぬ光景だった。

「自分は見知らぬ場所にいるんだろうか?」
幼い彼に、そう思わせてしまうように。

( ゚∀゚)「………え?」

357名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 10:30:39 ID:9VaQZ8Gs0

いつも村の子供達と走り回っていたはずの広場は、無茶苦茶に荒れ果てていた。
あたり一面に、大きな黒い炭のようなモノが転がり、地面は掘り返されたようにして所々が抉られている。

殆どの村人の家屋が大きく崩壊し、火に巻かれて全焼している。
中には、まだ炎がぷすぷすと燻っている家もあった。

自分の故郷が、育ってきた村が───見渡す限りの焦土となっている光景に、ジョルジュは愕然とした。

いつも一緒に遊んでいる悪友のロメオの家も、姉に内緒でよく肩叩きの駄賃をくれたジルおばさんの家も、
長い顎鬚が自慢の村長さんの家も、姉の友達のシエラ姉さんの家も、美味しい葡萄酒を作っているカイト兄さんの商店も。

ジョルジュの見知った日常は、彼の目に映る限りの全てが───在りし日の色彩を失っていた。

( ゚∀゚)「なん……で……」

ふらふらと、よろめく足取りで広場を歩き出す。
そこで何かに足を躓き、前のめりに転んだ。

点在する黒い塊に足が掛かったのだ。

358名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 10:31:26 ID:9VaQZ8Gs0

(;゚∀゚)「───ひぃっ!」

それに良く目を凝らしてみると、人の原型を留めている事に気付いてしまった。
手も、足も、顔にはあんぐりと開いた口もついている。

それが村の人の誰かまでは分からない、ただ、恐ろしくて。
ジョルジュは恐怖に声を震わせながら、その場からすぐに逃げ出した。

そこらに転がる黒い炭のような炭が、全て村人だったものだという事に気付いてからは、
半狂乱になって叫びながら、ジョルジュは村の中を駆けずり回った。

(; ∀ )「───ちゃんッ……はぁっ、ねえちゃあああぁぁぁあんッ!」

視界に映る全ては、骸、廃墟、骸。
自分がどれだけ喚こうが、助けに来てくれる大人は誰一人居なかった。

359名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 10:32:17 ID:9VaQZ8Gs0







走り回る内、村の中を一周はしただろうか。
どこにも生きている人の気配は無く、やがて再び村の広場へとたどり着いた。

(; ∀ )「はぁ……ふぅ……」

諦めが、少年である彼の心を徐々に蝕んでいた。


やがて───目にする。


( ゚∀゚)

360名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 10:33:16 ID:9VaQZ8Gs0

見知った人の面影は、確かに重なったのだ。
広場の中心に膝を突く、その黒い亡骸に。



川#\%&#



それでも、呼びかける。

(ホルスねえちゃん)


だが、声は出なかった。
胸に何かがこみ上げてきては張り裂けそうで、掠れる程の声も出せなかった。

361名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 10:34:12 ID:9VaQZ8Gs0

諦めはより色濃く、絶望へと変わる。
この世でたった一人の肉親の亡骸を抱きとめながら───

( ;∀;)「ひっ……うっぐ……ね、ねぇちゃん……ねえちゃん」

まだ自分の心の奥に根付いていた微かな希望すらを断たれた少年は、崩れ落ちる。
怒涛の如く押し寄せる悲哀、喪失感、孤独───それらの感情に、胸を貫かれて。

信じたくない、信じられない。
血を分けた姉の変わり果てた姿に、ほおずりしながらむせび泣いた。
止め処なく流れる涙は、体中の水分が全て枯れ果ててしまいそうな程に。

嗚咽は、いつまでも止まなかった。

( ;∀;)「はぁ、ねえ──ちゃ、うっぐ」

362名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 10:35:05 ID:9VaQZ8Gs0

その姉の亡骸を抱くジョルジュの頭上に、突如黒い影が覆う。

何かが自分の背後に降り立った、と感じて振り向いたのは、そこへ
ずしん、と大きく何かが地を揺るがす音がしたからだ。

( ;∀;)「!!」

振り返った先に、そびえる大きな黒い壁。
最初はそう錯覚したのだ。

363名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 10:36:24 ID:9VaQZ8Gs0


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364名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 10:37:27 ID:9VaQZ8Gs0

だが、さらに視線を上に上げて見ると、そこで目が合った。
対をなす血の赤────”邪眼”が、ジョルジュを見下ろしていた。

手も、足も、口も、全てが巨大だった。
漆黒の体表には黒光りした金属のような堅牢な鱗が覆う。
大きな口は、人間一人など易々と丸飲みしてしまうであろう。

昨日言っていた、姉の言葉が思い返される。

『そうさ。とってもおっかなくてね、アンタなんか一口なんだから』

そしてようやく察した。

今、自分を見下ろしている奴こそが、この村を滅茶苦茶にしたのだと。
これこそが”ドラゴン”と呼ばれる、恐ろしい生き物なのだという事を。

( ;∀;)(………)

365名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 10:39:43 ID:9VaQZ8Gs0

ただ、無言で見つめあっていた。
声も出なかったのは、恐怖か、諦めか───あるいはその両方。
生物としての本能が、強大過ぎる危機に際してその活動を止めたのだ。

「逃げなければ」という気持ちも湧き上がらない。
この時、ジョルジュは幼心に諦めを自ら選択していたのだ。

だが──────そこへ。

「待ち……やがれ」

どうやら、まだ生きている人間が居たのだ。
ふらふらと、折れた剣を杖代わりにして歩いてきた一人の男は、二人の対角上に現れた。

ミメ#゚Д゚彡「───”ファフニール”ゥッ!!………死に損ないは、まだここにいるぞぉッ!」

( ;∀;)「………?」

366名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 10:41:21 ID:9VaQZ8Gs0

見れば、どうやら昨日広場に居た騎士団に雇われた、傭兵の一人だった。
全身に痛ましい程の重傷を受けた彼が、この窮地を打破出来るなどとは、子供心にも思えないだろう。

だが、それでも彼は、自分よりも遥かに強大な存在である龍へ叫ぶ。

ミメ#゚Д゚彡「どうした、俺はまだ生きてるぜッ!?……貴様に一太刀くれてやった、憎きこの俺がなぁッ!」

彼は、守ろうとしていたのだ。
最後に残った幼い村人の一人である、ジョルジュを。

「もう、いいよ」

そんな彼に対して、心の奥底を抉られたジョルジュはそう言葉を
投げかけようとも思ったが、どうやらたったそれだけの気力すらも残されていなかった。

367名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 10:42:39 ID:9VaQZ8Gs0

だが、尚も彼は”ファフニール”と呼んだ龍に対して語りかける。
ジョルジュの目の前に居るその龍は、彼の方へ首だけ振り向いていた。

たとえ傭兵である彼が怪我人でなくとも、殺そうと思えば一瞬であろう。

ミメ#゚Д゚彡「もう十分だろう、化け物……人の言葉が解るんなら、聞きやがれ」

ミメ#゚Д゚彡「馬鹿なディクセンの騎士団は、俺一人を残してみんな死んじまったさ……
      村一つ滅ぼすのも朝飯前の貴様に、二度と手を出す奴などいないだろう」

ミメ#゚Д゚彡「だから───今日の所は失せろ、最後に俺を殺して、気を晴らせばいい」


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368名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 10:43:52 ID:9VaQZ8Gs0

ミメ#゚Д゚彡「………」


男は、自分を捕らえる黒龍の邪眼にも、たじろぐ事なく睨み返していた。

龍の放つ圧倒的な重圧、威圧感。
それらを真っ向から受けながらも怯まずにいられるのは、彼もまた生存を諦めているからだろう。

そうして、命を懸けた睨み合いはしばらくの間続いた。

(  ∀ )(………)

重苦しい無言の最中、もうすぐ朝日が昇ろうとしている。
来たるべき絶望の時に備えて、ジョルジュは再度姉の亡骸へと寄り添い、抱きしめる。


───(………フン)───


ミメ;゚Д゚彡「………!」

369名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 10:44:41 ID:9VaQZ8Gs0

どこから出した声なのか、確かに龍は一言、人のような語調で短く言葉を漏らした。
悠久の時を生きる古龍ともなれば人の言葉を話す、というのは本当のようだ。

それには流石に、男も驚いたようである。

ミメ;-Д-彡「う……っく」

唐突に、龍は背に生えた大きな黒い羽根を広げた。
ばさりと音を立てたそれだけで、大きな風が生まれる。

剣を杖代わりにする彼が、一歩退いてしまう程に。
ばさばさとはためく翼は浮力を生み、徐々にその巨体を浮き上がらせる。

おとぎ話で聞くのと、それを目の前にするのとでは大きな違いだ。

空を飛び、火を噴く。
強大なる龍の力を象徴する枢軸の一つである”翼”という要素が織り成す迫力に、
さしもの傭兵は息を飲んでその光景を見つめていた。

ミメ;゚Д゚彡(………助かった、のか?)

370名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 10:45:56 ID:9VaQZ8Gs0

既に手の届きようもない程の高さにまで上り詰めた時、
龍は翼を翻したかと思えば瞬く間、どこかの空へと消えていった───

( ゚∀゚)(………)

頬に涙の跡を残したジョルジュもまた同様に、充血した瞳でそれを見送った。
自分の故郷を滅ぼし、全ての日常を大切な人と共に跡形も無い程に壊した、その相手を。

しかして、龍の脅威が去ったあとも、この悪夢から醒める訳ではなかった。
傍らにある姉の亡骸が生き返る訳でも、焼き尽くされ、壊しつくされた村が元通りになる訳でも無い。

深く、心にまで残された傷跡は、少年の心に一つの芽を植えつけた。

(  ∀ )「………なんで」

ミメ;-Д-彡「生きてて、良かっ───たな」

ジョルジュの元にまで歩み寄ろうとした傭兵だったが、恐らくはこれまでが虚勢だったのだ。
気の抜けてしまった今となっては、再び傷の痛みが襲ってか、がくりと彼の膝を崩れさせた。

371名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 10:46:45 ID:9VaQZ8Gs0

ミメ;-Д-彡「坊主……きっと……お前自身も、そう、思える日が──」

彼なりに、哀れな少年の胸中を案じたつもりだったのだろう。
地に倒れ伏した彼は、そのまま意識を失った。

そうしてこの日─────地図上からフランタンの村は消えた。

( ;∀ )「……あ」

( つ∀)「ッくぅ…………」

幼き少年が最後に流す涙と、その叫びと共に。

(  ∀ )「───ぐ、うぅ………うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁァァァーーーッ!!」


─────

──────────


───────────────

372名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 10:48:09 ID:9VaQZ8Gs0

その直ぐに後、遠征中であったヴィップの円卓騎士団が騒ぎを聞きつけ、駆けつけた。
陰惨な状況であった村から生存者を捜索する為の陣頭指揮を執ったのが、当時の団長”セシル=エルメネジルド”

ヴィクセン側ただ一人の生存者であった傭兵、”フッサール=ブレーメン”の証言により、
フランタンの村を壊滅にまで追いやったのがドラゴンだという断定がなされ、それと同時に、
これまで多くの人々から噂されてきた”邪龍ファフニール”の脅威が明らかとなる。

邪龍が長らく住処としていた洞穴の奥には、ヴィクセン騎士団との交戦の痕跡が見られたが、
フッサールが斬って落としたという、邪龍の尾部の僅か先端部分の他に残されていたのは、
喰い散らかされたようにして一面を埋め尽くしていた、惨たらしいヴィクセンの騎士の死体ばかりだった。

元々、これは彼らから仕掛けた戦だった。
その結果もたらされたのが、100人近くにも及ぶ犠牲者を出した、一つの村の滅亡。

その後、多数の権力達はヴィクセンを一斉に糾弾した。
やがて自身でも道義的責任を大変重く見ていたヴィクセンは、自ら地位を退いたという。


───あの出来事から数年を経たジョルジュは、風の噂でその結末までをも耳にしていた。

373名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 10:49:22 ID:9VaQZ8Gs0

───あの出来事から数年を経たジョルジュは、風の噂でその結末までをも耳にしていた。


この時の彼は、冒険者の道を歩み始めてから、既に一線級の活躍を見せていた。

ある日立ち寄った町では、あの時自分を助けてくれた傭兵のフッサールが、
当時の傷が元となり、若くして直ぐにこの世から去っていたという事も知った。

この旅は、その彼の弔いにもなるだろう。

「龍を殺す男の名前にしては、尊大さが足らない」という自己解釈で、
元々の名前に継ぎ足した”ジョルジュ=レーゲンブレストル”を名乗りながら各所を旅していた。

いずれ、かの龍を倒す為の力を蓄えるために。

374名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 10:51:06 ID:9VaQZ8Gs0

喪失感と共に齎された絶望はやがて、少年の心に憎しみの種を産み落とした。
その憎しみが復讐心の芽を発芽させ、彼自身を戦士へと変貌させるだけの、決意を抱かせたのだ。

研鑽を、積むのだ。
ただ一つの、復讐の為に。
  _
( ゚∀゚)(殺してやるぜ、ファフニール)

強くあらねば、ならない。
何者にも、負けない程に。
  _
( ゚∀゚)(他の誰でもねぇ───この、俺が)


─────この生涯を費やして、貴様を葬る為だけに─────

375名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 10:52:33 ID:9VaQZ8Gs0
───────────────

──────────


─────


「おっさん───おい、おっさん!」

  _
( -∀-)「ん……あ」

呼びかける声が、意識を呼び覚まさせた。
どうやら肩を掴んで揺り動かされている。

満足のゆく睡眠を取れなかった事もあり、自分が昏倒させた
男の様子を見ながら寝てしまっていたのだ。

376名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 10:53:16 ID:9VaQZ8Gs0

「しまった」と、思う。
これがもし敵意のある相手であれば、今頃寝ている間に殺されていた。
もしそんな事になったら、悔しくてあの世で歯噛みしてしまうだろう。

瞼を開くと、声の主と目が合った。

( ,,゚Д゚)「お、起きたか……おっさん!俺が気を失ってる間に、何があったんだ?」
  _
( ゚∀゚)「……おっさんおっさんって───うっせぇなぁこのガキめ」

( ,,゚Д゚)「俺より年上なのは確かだろ?それより、聞きたい事がある」
  _
( ゚∀゚)「あぁ───今朝方のお面野郎共の事か」

( ,,゚Д゚)「そうだ!俺と───もう一人の連れがあいつらに追われて……」
  _
( ゚∀゚)「お前さんがおねんねしてる間に治安隊どもに突き出しといたぜ───
     どうやら、向こうも忙しそうだったけどな」

377名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 10:56:09 ID:9VaQZ8Gs0

のそりと動き出したジョルジュは、傍らに置かれた麻袋をあさり始めた。
取り外して置いていた具足や篭手を取り付け、こなれた動作で緒を結んでゆく。

この場から旅立つための身支度だ。
昨晩こんな路地裏で寝ていたのは、いつもは休業などしない楽園亭が閉まっていたせい。
夜分に予期せぬ運動をしてしまったために若干疲労が抜けきらないが、予定は動かせない。

( ,,゚Д゚)「あのお面の奴ら、他にも捕まったのか?」
  _
( ゚∀゚)「ちげぇよ、治安隊の奴らの話からすると、もっと悲惨だ。
     二人ぐらいが死んでたとよ、斬りつけられてな」

( ,;゚Д゚)「な………そ、その中に女は居なかったか!?」
  _
( ゚∀゚)「いんや?お面被った男が二人だとよ。他にも争ったっぽいけどな」

378名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 10:57:34 ID:9VaQZ8Gs0

( ,;-Д-)「───そうか、無事なら良かった……クーの奴」
  _
( ゚∀゚)(あれ、なんか………こいつ)

誰かの名前を出して安堵のため息を漏らした男の顔が、何故だか記憶の端に引っかかる。
どこかで会った事のある男に、よく似た顔であるように思えてならない。

しかし、余計な事で時間は食ってしまったが、これから待ち合わせの予定がある為、
この場でもたもたしている訳には行かなかった。

安堵する男の横で手早く荷物を纏め上げると、引き上げる準備を整えた。
  _
( ゚∀゚)「お前追っかけてたあれ、暗殺者ギルドの奴らだろ?」

( ,;゚Д゚)「ゲッ……あの、蛇のようにしつこくて残忍っていう、あれか!?」
  _
( ゚∀゚)「……そんな事にも気付かなかったのかよ。ま、何があったかは聞かねぇけど、
     精々危ない橋は渡らねーようにしな」

( ,;-Д-)(しばらく大人しくしとくか……)

379名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 10:58:30 ID:9VaQZ8Gs0

( ,,゚Д゚)「あ、そういやまだ昨日の礼を言ってなかったぜ、助かったよ───あんた、名前は?」
  _
( ゚∀゚)「ったく、最近の新参どもは礼儀がなってねぇな。目上には、まず自分から名乗るもんだぜ?」
  _
( ゚∀゚)「これからちっとばかし遠出するってぇのに、無駄な体力使って助けてやったのによぉ、ほんっと────」

( ,,-Д-)(へいへい……)

( ,,゚Д゚)「あ~、”ギコ=ブレーメン”ってんだ。改めて、礼を言うぜ」
  _
( ゚∀゚)「────!」


その名を聞いた時、目の前の若輩の顔に、確かにある人物の面影が重なった。
───ー道理で、どこかで会ったかのように錯覚する訳だと、内心深く納得できた。

380名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 10:59:35 ID:9VaQZ8Gs0

驚いたのは、奇妙な縁にだ。
数奇な運命の巡り合わせというものを、少しだけ信じた。

( ,,゚Д゚)「?」
  _
( ゚∀゚)「………」

思わず動きを止めてギコの顔を覗きこんでいたジョルジュの様子に対して、
一方で目の前のギコは首を捻りながら、それに怪訝な表情を浮かべた。

無理も無い、おぼろげな記憶の1コマに残っている彼と───
やはりというべきか、見れば見るほど瓜二つだったのだから。

( ,,゚Д゚)「どうしたんだよ」
  _
( ゚∀゚)「俺は”ジョルジュ=レーゲンブレストル”だ………ところでお前、親父さんは居るのか?」

381名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 11:00:59 ID:9VaQZ8Gs0

本来、実力の低い駆け出しの冒険者などには自分からは名乗らない主義なのがジョルジュだ。
どうせ季節の移り変わる頃には廃業するか、旅の途中で死んでいたりするだろう、という思いから、
他人に名前を教える事に意味なんて無いと思っていたから。

しかし、この時ばかりは事情が違った─────

( ,,゚Д゚)「ん、俺の親父か?かつて龍に挑んで………って、あぁ」

( ,,-Д-)「そうか、そんな事言われても信じられねぇよな」
  _
( ゚∀゚)「………いや」

”ギコ=ブレーメン”には、自分の名前を教える資格がある。
それはかつて、自分にとっての恩人の息子であるという理由からだ。

382名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 11:01:42 ID:9VaQZ8Gs0

( ,,゚Д゚)「へ?普段は聞く耳持ってくれる奴いないけどよ……信じてくれんのか?」

そのギコからどこか間の抜けた感じを受けたのは否めないが、切り出してみようと思った。
────彼が冒険者をする理由というのが、自分と同じなのかどうかを。
  _
( ゚∀゚)「………あぁ。それより、お前さ───」

”邪龍ファフニール”の喉元に剣を突き立てる資格を持つ男は、この世に自分一人だけではなかった。



「親父の仇───討ちたくねぇか?」

383名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 11:02:56 ID:9VaQZ8Gs0



   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

              幕間

           「壁を越えて(2)」


             ―続―


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