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( ^ω^)ヴィップワースのようです 第7話 「魂の価値」

398名も無きAAのようです:2012/03/13(火) 21:46:47 ID:ofOAqzgE0

人間は───”心”という不確かな概念を抱く、唯一の生き物である。

尤も、確かにそこらの虫や鼠に感情があるとも思い難いが、人間と同格以上の存在であれば持ち合わせているだろう。
皆が皆それを尊重しているという訳ではないが、宗教など、思想家達にとっては核と言える部分だ。

決して目では見ることの出来ないそれは、非常に抽象的かつ、多義に渡る性質を持つ───
そんな曖昧な存在である心とは、この人体のどこに存在しているのかと、ふと考える時がある。

腕や足、ましてや指や目玉などにはあり得ないだろう。
心臓。物語の話であれば悪くないが、所詮は人体を形作る器官の一つに過ぎない。

ヒトに様々な感情をもたらす心とは、脳髄こそが司っているのだ。

この世に生を受けてから、住み暮らす環境によって各々の人格が形成されてゆく。
その人格ごとの当人の感受、受け取り方の違いや脳へと渡される情報いかんによっては、
ヒトは喜び、怒り、哀しみ、楽しむ────反射のようなもの。

それらが時に爆発したりするのは、”ひずみ”のようなものに過ぎない。
私自身は心というものをそうやって割り切り、そんな漠然としたものには流されないようにしている。

だが、人を形成する要素の一つに────もう一つだけ理解に苦しむものがある。
これは、その在り処をはっきりと解明するには至っていない。

心と似通った性質の”魂”というものだ。

399名も無きAAのようです:2012/03/13(火) 21:48:32 ID:ofOAqzgE0

志、信念、はたまた決してぶれぬその人間自身の、”芯”のようなものとして扱われる時がある。
私個人としては、”心”などという抽象的なものに比べ、よほどその存在を信じる事が出来る。

なぜならこちらは人間一人一人が持つとされる精神力や、生命力が関わってくる力と考えられる。
そうでなければ、”死後”に人が無意識下で発現、実体化させ得る精神的存在。

目に見えぬのは心と同じだが、魔術によっての統制、制御が可能でもある霊的なものだ。

この世に過去、拭い去れぬ怨嗟や憎悪を残して死んだ者達は、不死者として彷徨い歩く事がある。
戦争や虐殺などが行われた事のある不浄の土地では、とりわけその可能性も高いという。
この事から言えるのは、死後、魂はこの世から消滅するのが道理であり、常である。

だが、時としてその魂は何らかの理由でこの世から消え去る事が出来ず、時に死者の肉体へと入り込む。
”霊魂”と呼ばれるそれ自体が、実体として人々の前に姿を見せる場合もあるのだ。

それならば────魔術を以ってして死者や生者を御す事も可能なのではないか?

というのは、この大陸を蝕むように住み暮らしている我々人間の思い上がりであろうか。
結局の所、今の世の中ではまだ、人間ごときでは知り得ない事実ばかりなのだが。

400名も無きAAのようです:2012/03/13(火) 21:50:37 ID:ofOAqzgE0


それでも、私はいずれ識りたいと思う。

日々膨らんで止まない、疑問の先々にある答えの全てを。
この好奇心を押さえつけながら知識の探求を続ける事で、いつかそれらの殆どを
この目に、耳にしてやがて自らの肉として───必ずや報われる日が来るだろう。

私の理想とするその日が来るまで、私はきっと止まらない。


大陸暦 876年
───”モララー=マクベイン、当時6歳の手記より───



   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

             第7話

           「魂の価値」

401名も無きAAのようです:2012/03/13(火) 21:51:51 ID:ofOAqzgE0


爪'ー`)y-「お休みだぁ?」

休日というもの────

冒険に明け暮れて疲れた身体を、じっくりと癒せる時間。
それはそれは、素晴らしいものだ。

次の依頼に向けて相談したり、結束を深める為に談笑したりという時間が多く、
パーティーを組んで行動している冒険者達ほど、個人でのその時間は限られている。

それでも、余暇に気分転換を図るという事は重要だ。
心にゆとりが無い状態で団体行動をすれば、チームワークに支障が生じたりもする。

それを案じての今度の休日は、ショボンの提案によるものだった。

(´・ω・`)「僕の調べごとには、個人の方が動きやすい事もあってね」

爪'ー`)y-「んなもん……大賛成だぜ」

ζ(゚ー゚*ζ「皆さん、どこかへ行かれるんですか?」

そのデレの問いかけに、フォックスは姿勢を正して応える。

爪' -`)y-「俺はどこにもいかねぇよ、デレちゃん。今夜も部屋の鍵は開けとく……だから」

402名も無きAAのようです:2012/03/13(火) 21:53:21 ID:ofOAqzgE0


(’e’#)(あの野郎……またデレに下らねぇ事を……)

いつものようにマスターがカウンターから飛ばす抑止力である視線を無視し、
デレを口説く体勢に入っていたフォックスだったが、呆れ顔で言い放ったツンの一言が、
フォックスの意識的に締めていた表情を、まただらりと弛緩させた。

ξ-⊿-)ξ「ふ~……馬鹿ねぇ。デレはこの後、私とお買い物に行くんだから」

ζ(゚ー^*ζ「そういう事なんです。ごめんなさい……フォックスさん?」

爪;'ー`)y-「何だよ!結局俺とブーンは、いつも通りにここで呑むしかねぇじゃねぇか!」

(;^ω^)「見慣れた光景だお……全然休日って感じがしないおね」

「酒だ酒だ!酒持ってこい!」
楽園亭の看板娘であるデレに受け流され、かわされ続ける事もゆうに数十を数えるフォックスが
管を巻いてはマスターにまた厳しい視線を向けられる中、ショボンは皆が座す元から席を立った。

ξ゚⊿゚)ξ「例の、ショボンを嵌めたっていう魔術師を探しに行くの?」

どうやら既に出立の準備を終えていたらしい。
腰に小さな麻袋を結び、外套を羽織っただけのショボンにツンが声をかけた。

403名も無きAAのようです:2012/03/13(火) 21:54:12 ID:ofOAqzgE0


(´・ω・`)「あぁ、ちょっとした聞き込みと、手がかりを探しにね」

( ^ω^)「アラマキって人からもらった猶予は半年だけ……だったおね?」

(´・ω・`)「そうさ。まごまごしてはいられないが、そうでなければ十分な時間だけどね」

ξ゚⊿゚)ξ「その……モララーっていう魔術師の懸賞金、1000spに上がったそうよ」

(´・ω・`)「彼は自己を対象とした隠蔽魔術の始祖だ───まぁ、山をいくつ狩っても見つからないだろうね」

ショボンは「骨が折れるよ」とばかりに肩をすくませて身じろぎした。
彼自身が天才と認める程の存在と聞かされていたモララーという男、それを捕まえなければ
自らが投獄され、あるいは裁かれてしまうかも知れないショボンの境遇を案じ、ツンはが心配そうな瞳を投げかける。

(´・ω・`)「大丈夫、目星まではつかないが、情報を集めればいずれたどり着けるさ」

ξ゚⊿゚)ξ「どうして?」

404名も無きAAのようです:2012/03/13(火) 21:55:27 ID:ofOAqzgE0

(´・ω・`)「恐らく人の多い場所には現れないはずだ───自らの罪を認めています、と言っているように
       自分への監視を始末したという事は、今は何らかの目的意識を持って動いていると思う」

(´・ω・`)「その目的が何か……それを突き止める事が出来れば、彼が透明の衣を纏っていたとしても
      関係は無い。いずれ、必ず行き当たる事が出来るはずだよ」

爪'ー`)y-「理論派なお前さんが物事を決め付けてかかるとは、意外だな」

(´・ω・`)「確証はあるさ。彼は───モララーは、僕と良く似ている」

見送る面々に対してそうにやりと微笑むと、後ろ手に手を小さく振りながら宿を出て行った。







ξ゚⊿゚)ξ「さて、と……私達も行こうかしらね」

ζ(゚ー゚*ζ「うん!」

(;^ω^)「えぇぇ……フォックスと二人っきりなんてつまんないお」

爪'ー`)y-「俺だってお前と対面しながら酒飲むのなんて飽き飽きだよ」

405名も無きAAのようです:2012/03/13(火) 21:56:10 ID:ofOAqzgE0


(;^ω^)「街に出るなら、ブーンも連れていってくれお……」

許しを請うかのようなブーンの視線に、女性陣は二人顔を見合すが、
すぐに彼女達からは悪戯そうな微笑みが返ってきた。

ξ゚ー゚)ξ「どうしても……っていうならいいわよ」

( ^ω^)「本当かおっ」

爪'ー`)y-「何!?……じゃあ、俺も──」

ζ(゚ー゚*ζ「二人で見に行くのは、婦人服ですけどね~」

(;^ω^)「ほえ?」

ξ*゚⊿゚)ξ「それにしても意外ねぇ……ブーンなんかが、淑女の美の嗜みの場に興味があるなんて」

ζ(゚ー゚*ζ「ふふ、狙いはお店に訪れるご婦人じゃないでしょうね?」

爪;'ー`)y-「ちっ、なんだよ……」

406名も無きAAのようです:2012/03/13(火) 21:57:09 ID:ofOAqzgE0


(;^ω^)「はぁ……やっぱり、大人しくしてる事にするお……」

ξ゚ー゚)ξ「そうそう、帰りにお土産買って来て上げるから、大人しくあたし達の帰りを待ってなさい」

ζ(゚ー゚*ζ「それじゃ、行って来ます」

(’e’)「おう、気をつけてな!」

( ´ω`)「ばいばいだお」

どうやら旅歩くようになるまでのこれまで、日頃から外出する事もままならなかった
ツンにとってはこの交易都市をじっくりとぶらつくのはかなり楽しみであったようだ。
同年代の同性という友人も出来、彼女にとっては充実した休息となるだろう。

付いていけば退屈凌ぎになるだろうと思ったブーンの期待は、無残にも裏切られたが。

407名も無きAAのようです:2012/03/13(火) 21:57:52 ID:ofOAqzgE0


きゃぴ きゃぴ

ξ*゚ー゚)ξ「あたし”感情的な巨乳”の新作を見に行きたいなー!」

きゃぴ きゃぴ

ζ(゚ー^*ζ「いいね、付き合う!私は”西の木のヴィヴィアン”の新作を狙ってるんだ~」

ξ*゚ー゚)ξ「ダイアンの小指”作とかも持っときたいわぁ~」

もはや彼女達には打ち捨てられた男二人の存在など眼中には無く、興味があるのは
交易都市ヴィップが誇る有名な匠達が手がける被服、その流行の最先端の方であった。

(;^ω^)「………」

爪'ー`)y-「やっぱりブーンと俺が二人……こんな所に取り残されるのがオチだったか」

(’e’#)「おいフォックス、そんなに俺の店が嫌ならいつでも出てっていいんだぞ」

爪'ー`)y-「はぁ───白けた」

408名も無きAAのようです:2012/03/13(火) 21:58:36 ID:ofOAqzgE0

彼女達が居なくなり、まだ日も高い内から酒も飲める気分ではなかったフォックスは
そう言って席を立つと、宿の部屋を取っている二階へと上がって行こうとしていた。

どうやら彼の休日の過ごし方は、その性格が現れているようだ。

爪'ー`)「寝るわ」

(;^ω^)「おっ、おーん……」

確かに、それ以上の”楽”が無いとは、良く囁かれる事ではあるのだが────








( ^ω^)「……暇、だおね」

こんなことなら、朝の内から一人でもこなせる依頼を確保しておくべきだった。

409名も無きAAのようです:2012/03/13(火) 22:00:00 ID:ofOAqzgE0

大抵の場合は一人の依頼は日銭を稼ぐ冒険者達にとっても難度の低い物が多く、また人気も高い。
その為、今となっては数日の期間が必要となる依頼ばかりが多く、今日中にこなせそうな手軽な物は残っていなかった。

やはり今日の所は、大人しくしているしかなさそうだ。

(’e’)「ま……たまにはそんな日があってもいいだろう」

大半の冒険者が出払ってマスターもまた暇をしていたのか、珍しく彼の方から語り掛けてきた。

(’e’)「そういや、お前さんだけ聞いてなかったな」

( ^ω^)「?」

(’e’)「”理由”だよ───冒険者になった、ワケってやつをさ」

( ^ω^)「そういえば……まだ皆にも話してなかったかお」

410名も無きAAのようです:2012/03/13(火) 22:01:05 ID:ofOAqzgE0

「そうだおね~、どこから話すべきかお……」
腕組みをしながら、椅子の背もたれに体重を預ける。
うーん、うーんと思案にあぐねながら紡ぐ言葉を選んでいる時───悲劇が起きた。

「───おっ」

ブーンが椅子ごと身体を後方へと傾けるうち、使い込まれた楽園亭の椅子の後ろ脚の二本ともが、折れた。

老朽化したぼろを使っていたというだけでもない、並の青年男性としては恵まれた体格の部類であるブーンの
荷重を支えるには、細めの丸足ではいかんせん頼りなかったのだ。

(; °ω°)「おぉう!?」

身体全体が後方へと投げ出される、一瞬の浮遊感。
マスターの表情を見つめていたはずの視線は次第に上へ、上へとぶれながら───

(’e’;)「あっ、おい!?」

411名も無きAAのようです:2012/03/13(火) 22:02:13 ID:ofOAqzgE0



”どすん”


(; ω )「ぎゃぷッ!」

そうして天井を見上げる頃には、激しい轟音と共に目の前に飛び出る星々。

一瞬白んだ目の前だったが───次第に意識は、闇に深く沈んでいった。



暗く、深淵のほとりにまで。


─────

──────────


───────────────

418名も無きAAのようです:2012/03/16(金) 04:06:58 ID:TzUuvxoQ0

(   ω )「ここ……どこ、だお」

そう呟いたはずの声は、頭の中でだけ響くように感じる。
抱いた錯覚に困惑すると共に、ようやく意識が覚醒しつつあった。

(   ω )「あ……おっ、おっ?」

暗い、とても暗い場所に居た。
首を振って視線を動かしても何一つ見える事が無いのだが、何故だか自分の手や足だけは確認できる。
そして、物音一つしない静けさだけが包むこの奇妙な空間に、えも言われぬ恐怖を感じていた。

全身が、薄ぼんやりとした白い光に覆われているのは、見間違いではなさそうだった。

(; °ω°)「一体……何なんだお……ブーンは────あ!」

ようやく思いだした、自分は失われた楽園亭で暇な時間を過ごしていたのだ。
そこで無様にも自分の不注意から後頭部をしたたかに打ち付け、今に至る。

恐る恐る手を伸ばしてみたその場所には今や、痛みも感覚も無い。
自分の肉体を触っているような感じが、まるでしないのだ。

419名も無きAAのようです:2012/03/16(金) 04:08:52 ID:TzUuvxoQ0

(;`ω´)「どう、どうしてだおッ!?」

自らが置かれた立場が、まるで理解出来ない。
何故だか不快感ばかりに襲われるこの場所から一刻も早く立ち去りたくて、焦燥の波が押し寄せる。
しかし、足を動かそうとも自分の身体までもが不自由で、上手く歩けているような気がしない。

息を大きく吸い込み、大声で仲間たちの名を呼ぼうとした時、暗がりから声がした。

(……随分と往生際が悪いんだな……)

(;^ω^)「……ッ」

方向感覚も曖昧なこの空間にあって、咄嗟にその声がする方へと向き直った。
暗闇の向こうに潜む相手に対して大声で叫んでも良かったのだが、それはやめておいた。
まず、自分の現状すらも把握出来ない今、その相手が敵であろうと下手に刺激は出来ない。

ゆっくりと、気取られぬように左足を一歩ずらして、半身の体勢を作った。

420名も無きAAのようです:2012/03/16(金) 04:09:43 ID:TzUuvxoQ0

(;`ω´)(そうかお……剣は……)

自分の得物は、どうやら楽園亭のカウンター下に立てかけたままだ。
この空間が相手の庭だとしたら、今やこの自分は丸腰の餌でしかない。

そうはならなかったが、内心には頬を冷たい汗が伝う程の思いだった。

(……そう、怖がらなくてもいいぜ)

(;`ω´)「……!?」

自分の心中を覗き込むかのような台詞が投げかけられたかと思えば、声の主はどうやら姿を現した。
その声の主の風貌には、それまで以上の警戒心を抱かざるを得なかったが。

(; °ω°)「!?」

ふと、一瞬で自分の背後へと回りこんだその気配へ勢いをつけて振り向いた所で、目が合った。
今のブーンのように全身の表面を淡い光が覆っている────愕然としたのは、その声の主の顔を見てしまったからだ。

421名も無きAAのようです:2012/03/16(金) 04:10:51 ID:TzUuvxoQ0

( ●..● )(よぉ)

人間では───ない?

すぐにそういった思考が頭を巡ったのは、彼が表情を持たない骸骨であったからだ。
髑髏を模った仮面でも付けているのかと勘ぐって凝視するも、そうではない。

黒い装束に身を包む骸骨といえば────何だった?
そう、自分が子供の時分に、村の仲間達とで話題に上った事もあるはずだ。

視線を下ろせばその手には、人の胴体を両断出来そうなほどの一振りの大鎌が握られていた。

(;`ω´)(────”レイス”、かお!)

多くの血を流し、深い怨嗟を残した土地などに渦巻く、死を振りまく脅威。
中には強力な魔力を宿すものもいるという、それだ。

致命的なのは帯刀していない事だが、仮に刃を振るったとしても、
それで物理的に致命傷を与える事が出来るだろうか。

怨念や何かの塊だとすれば、肉体を持たないお化けのような存在のはずなのだ。
だとするならば、恐らく今の自分一人でどうにかなるような相手ではないと悟る。

422名も無きAAのようです:2012/03/16(金) 04:11:50 ID:TzUuvxoQ0

無意識に後ずさろうとした所で、また頭の中に直接声が聞こえた。

( ●..● )(そう怖がるな。確かにお前の考える存在には似ちゃいるが……違う)

(;`ω´)(!………ブーンの考えを)

( ●..● )(下界じゃ似たモノ同士で通ってるみたいだがな、俺は務めを果たす為にここに居る)

目の前で語り掛けてくる、得体の知れぬ骸骨。
何故か無闇に湧き上がって来る不安、そして、不自由極まりないこの状況にあっても。

それでもブーンは、まだ自覚できずにいたのだ。

( ●..● )(この場所じゃ、お前がいくら足掻こうがどうする事もできないさ)

(; °ω°)「な……何をッ」

423名も無きAAのようです:2012/03/16(金) 04:12:41 ID:TzUuvxoQ0

( ●..● )(………ニブい奴だな。見て解らないのか────”俺は死神”だぞ)

(; ω )「………」

それを聞いて、心臓が踊りだすような衝撃を受けたブーンが、思わず自分の胸元に手をやる。
ほぼ確信してしまっている、その最悪の知らせを少しでも払拭したかったから。

胸の鼓動、肌の温かみ───それらを実感するために、半ば無意識の行動だったのだ。

だが、そこでブーンは気付いてしまった。

(; ω )「おっ───」

胸の鼓動が脈打つ感覚など、そこには感じる事が出来なかった。
呆然と立ちすくむブーンの胸に、強烈に叩きつけられるのは、純然たる事実。

真冬に冷水を頭から被せられたとしても、こうはならないだろう。

( ●..● )(ようやくか……もう”死んでる”んだよ、お前さんは)

424名も無きAAのようです:2012/03/16(金) 04:13:31 ID:TzUuvxoQ0

(  ω )「………死んだ?」

( ●..● )(そうだ)

「ブーンが、かお?」

それをはっきりと自分でも認識した時、落胆や喪失感よりもこみ上げてきたものがある。
声には出さないまでも、いつの間にかそれは表情に出ていたようだ。

( ●..● )(………面白いのか、自分の”死”が)

( ^ω^)「……おっおっ───とんだ、お笑いぐさだお」

”死神”と名乗る骸骨の声に気付けば、ブーンの頬はまだ普段のように緩んでいた。
─────あまりに突拍子もない現実に、笑いがこみ上げてきたのだ。

そして、冒険者として活動を始めて間もない自分がこれから上昇していこうという道半ば、
そこに来て、椅子から倒れて頭を強く打って死んでしまうなど、良い話の種だ。

仲間にも聞かせてやりたいとは思っても、それもかなわない事なのか。

425名も無きAAのようです:2012/03/16(金) 04:14:29 ID:TzUuvxoQ0

(;^ω^)「……はぁ」

本物の死神なんかが目の前に居るとなれば、諦める他ない。
寧ろ、彼が突きつけてきた真実に沿って潔く死を受け入れる事しか出来ない。

”腹を括った”とばかりに、隠そうともせず大きなため息を吐きながら、
ブーンはその場にどっかとあぐらをかいて座り込んだ。

(;^ω^)「せっかくツンにフォックス、ショボン達とも仲間になれたのに……本当に情けないお」

( ●..● )(………)

(;^ω^)「あ!元はと言えば、マスターのせいだったお!」

(#`ω´)「手入れの行き届いて無い椅子に座ったブーンにマスターが変な質問したのがいけなかったんだお!」

死神が人の言葉で喋るとは思わなかったが、彼の言葉が本当ならば、
自分はもう二度と仲間の元に、楽園亭にも帰る事が出来ない。

それを考えればやはり、ぽつぽつと沸いて出てくるのは、悔いや未練。

426名も無きAAのようです:2012/03/16(金) 04:15:27 ID:TzUuvxoQ0

過去を振り返る事や、悔いを残すという感情。
それらを完全に捨て去る事など、他の誰であっても出来ない事だろう。
少なくとも人間には、恐らく決して出来ない。

ついぞ、死神を前に愚痴が過熱しかけた時だった。
ただ押し黙って窪んだ眼窩からこちらを見下ろしているような死神が、囁く。

( ●..● )(ま、ひとまず落ち着いて俺の話を聞けよ)

(;`ω´)「………ブーンを生き返らせてくれるんなら、いくらでも落ち着いてやるお」

( ●..● )(あー、それなんだがな……)

死神はブーンから視線を逸らすようにして、少しだけ言葉を濁す様子を見せた。
そして、思わず彼のすぐ傍に詰め寄ってしまいたくなる程の話が、そこで飛び出したのだ。

( ●..● )(お前さんの肉体はまだ、生きてる───正確に言えば、まだ”死ぬ定めにない”とでも言おうか)

(; °ω°)「なんとぉぉーッ!?」

427名も無きAAのようです:2012/03/16(金) 04:16:27 ID:TzUuvxoQ0

( ●..● )(俺の仕事は下界に残る肉体と、この世を訪れた魂とを繋ぐ一本の線、”魂の緒”を断ち切る事にある)

( ●..● )(死んじまった後に、下界にそいつらが化けて出ないようにな。まぁ、これには例外もあるんだが……)

(;^ω^)「あ、あんたはブーンのそれを、これから刈るつもりかお!?」

( ●..● )(その予定だったさ───だが、ちょっとばかりこちらにも込み入った事情があってね)

おとぎ話の物語で聞いた通り。
やはり死神とは、死者の魂を扱う存在のようだ。

人や妖魔といった生物を超越した高位の存在であろう彼だが、
ブーンの頭の中へと語りかける時のその話し方は、どこか人間臭い一面が垣間見られた。

( ●..● )(お前さん、どうやら生前は対価を貰って仕事をする───冒険者ってやつだったらしいな)

428名も無きAAのようです:2012/03/16(金) 04:17:15 ID:TzUuvxoQ0

(;^ω^)「そんな事までお見通しなんだおね……確かに、ブーンは冒険者だお。今も」

( ●..● )(生前の話だけどな………もし生き返ったとしても、また冒険者をやりたいのか?)

(;^ω^)「そんなの、当たり前だお!」

( ●..● )(ふぅん……)

そう言った後、しばらく死神は黙り込んだ。

理由までは追求してこないが、もしかしたら自分の必死さが伝わったのでは、とブーンは思う。
人の生死を弄べるのだ、ひょっとすると心の中まで読む事が出来てもおかしくはない。

( ●..● )(なら、取引をしないか?)

(;^ω^)「取引………?」

( ●..● )(そうだ)

429名も無きAAのようです:2012/03/16(金) 04:18:12 ID:TzUuvxoQ0

こくりと頷くような仕草を死神が見せた瞬間、景色が吸い込まれるようにして、周囲の暗闇が晴れていく。
やがて物語の場面が移り変わったようなそこは、森を抜けたある村の入り口のようだった。

(;^ω^)「も、戻って来たのかお!?」

( ●..● )(お前さんがそうなるかどうかは、俺の話を聞いてからの働き次第さ)

燦々と降り注ぐ陽光、だが、やはりこの身体には体温が無い。
自分の手や足を周囲の景色と対比して見てみれば、ぼんやりと透き通っているようでもある。

( ●..● )(お前は今、肉体を離れた魂としての存在だ。ものを見たりする事は出来るが、全てに感覚は無い)

( ●..● )(今こうして目に映る下界に対して干渉する事も出来なくはないが、無茶をすれば魂に”キズ”が付きかねん)

( ●..● )(そうすれば”魂の緒”は断ち切られ、もはやお前は自分の肉体に戻る事が出来なくなるという訳さ)

430名も無きAAのようです:2012/03/16(金) 04:19:08 ID:TzUuvxoQ0

( ^ω^)「……自分の置かれた現状は大体把握できたお───なら、ブーンはどうしたらいいお?」

( ●..● )(───話を聞く気があるらしいな)

( ^ω^)「その代わり、騙しや裏切りは無しだお。それを約束するなら、あんたの頼みを聞いてやるお」

( ●..● )(ふん、さすが冒険者。交渉はお手の物か?)

( ^ω^)「生憎と、ブーンはそれは少し苦手だけどおね」

( ●..● )(なら……お前という男の魂が報酬の、商談に入ろう)


そこから─────またも場面は、移り変わった。








431名も無きAAのようです:2012/03/16(金) 04:19:54 ID:TzUuvxoQ0

次の景色は、恐らくこれまで入り口の前で立っていた村の、内部。
村人の一人の住む家屋の一室だろう、木造で味わいのあるインテリアが置かれ、部屋の中央には暖炉が備えてある。

そこで聞かされた死神の話は、なんだかこの大陸のどこにでもあるような話だった。

( ●..● )(もうすぐ死ぬ定めにある男が、この家の男だ───名を、”イームズ”と言う)

( ^ω^)「ふむふむ」

話にある彼は、周りの誰にもひた隠しにしながらも、すでに病魔が全身に巣食っているというのだ。
ある日”魂の緒”を刈り取る為に彼の元へ訪れたこの死神だったが、イームズには何故か彼の姿が見えていたという。

そして、「ある目的が叶うまでは、自分の魂を刈り取る事に対して猶予をくれ」
そういった旨の事を死神である自分に対し、必死で頼み込んできたという。

432名も無きAAのようです:2012/03/16(金) 04:21:11 ID:TzUuvxoQ0

( ●..● )(まぁ……なんだ、俺も何人もの魂を刈り取って来たワケだが、そんな奴は初めてでな)

( ^ω^)「それから、その人の頼みを聞いたという訳かお?」

( ●..● )(察しがいいな。勿論、死神である俺に私情なんて無いが……死を拒む奴の魂を無理に刈り取れば、
      最悪自縛霊としてこの地に悪意を持つ存在として留まっちまう、なんて危険性もある)

( ●..● )(だから、その男の要望を聞いてから魂を刈り取る事にしたのさ)

( ^ω^)「それは一体、何なんだお?」

( ●..● )(人の親なら誰でも抱く感情なんだろうぜ……”娘が心配”なんだと)

村長であるそのイームズには、一人の娘がいたのだ。
直接の血の繋がりはないが、しっかりと愛情を注いできた父と共に、順風に生きていた彼女。

幼き頃にイームズによって拾われたというその”マリエル”には、二人の婚約者の候補がいるという。

433名も無きAAのようです:2012/03/16(金) 04:22:22 ID:TzUuvxoQ0

( ●..● )(マリエルは、二人の幼馴染がいる。同じパン屋で働く”テッド”と、この村の村長の息子”スコット”だ)

気の弱い青年であったテッド、そして村の有力者の息子であったスコットとは、
マリエルが物心つく頃から三人ともがずっと仲が良く、子供の頃から毎日遊んでいたようだ。

( ^ω^)「そこに、何か問題があるのかお?」

( ●..● )(……っと。そこから先は、当人の口から聞かせてもらうとしようか)

死神とブーンが立つその部屋のドアが、かちゃりと開いた。
部屋に入ってきたのは、白髪に精悍な顔つきを称えた、初老の紳士と言った印象の男性だった。

(^・_v・^)「………やぁ、来ていたのか」

( ^ω^)「!………この人っ」

( ●..● )(あぁ。こいつが話にあった、イームズだ)

434名も無きAAのようです:2012/03/16(金) 04:23:37 ID:TzUuvxoQ0

死神が話した通り、どうやら今は魂だけの存在であるはずの自分の方を見て声を発した事に、ブーンは驚いた。
この世のものとは思えない光景を目の前にしながらも、彼は驚く素振りも見せずにいつものようにソファへ腰掛けた。

(^・_v・^)「目を患っていてね。姿がよく見えないんだが……その、隣に居るのは誰なんだい?」

( ●..● )(あぁ、こいつは生前冒険者をしていてな。お前の要望を叶えるに相応しい人材だろ?)

(^・_v・^)「冒険者───あなたが?」

(;^ω^)「今はこんな姿だけどお……ご紹介に預かった冒険者の、ブーン=フリオニールですお」

(^・_v・^)「そうですか……私は、イームズ=バーキンと言います」

(^・_v・^)「………」

( ●..● )(………)

435名も無きAAのようです:2012/03/16(金) 04:24:38 ID:TzUuvxoQ0

自己紹介をした後、イームズはじぃっと死神の方を見据えた。
全身が病魔に冒されているという話の通り、もう目もよく見えてはいないのだろうが、力強さまでは失っていないようだ。

(^・_v・^)「ブーンさん、といいましたか───私の願いを、聞いて下さいますか?」

( ^ω^)「何なりと。今の僕は、その為にここに立っていますお」

(^・_v・^)「では……恥を偲んで、お頼みしたい事があるのです」

そう言って、またもイームズはちらりと死神の方へ顔を向けた。
それに対して無言でこくりとだけ頷いたのは、「マリエルの事は話した」という合図だろうか。

(^・_v・^)「私はもうすぐこの世を去ります。頼みたい事というのは、娘のマリエルの事です」

( ^ω^)「幼馴染が二人居る、という所までは聞いたお」

(^・_v・^)「そのマリエルを拾った私の………まずは、過去をお話します」

ごほん、と一度咳払いをすると、イームズは白色が混じった力の篭った瞳を、ブーンへと向けた。

436名も無きAAのようです:2012/03/16(金) 04:27:05 ID:TzUuvxoQ0

(^・_v・^)「私は、かつて一人の暗殺者でした」

( ^ω^)「………」

(^・_v・^)「罪も無い人を殺め、組織の飼い犬としてただ冷徹な人殺しとして過ごす毎日を送っていました」

(^・_v・^)「その私に、ある日組織から指令が下ったのです。”組織から逃亡を図った男の一人を殺せ”、と」

(^・_v・^)「その男……”ゼフ”は、組織に入ってからの辛い日々を過ごす上で苦楽を共にしてきた、親友でした」

(^・_v・^)「しかしながら残忍な男であった当時の暗殺者を束ねる首領の命令には逆らえず、
       私は親友であったゼフを殺す為の、任に着いたのです」

( ^ω^)(酷い話、だおね)

過去を悔やんでいるというその心中が、その表情からはありありと伺う事が出来る。
恐らくイームズは、その後彼を殺したのだという事も予想がついていた。

437名も無きAAのようです:2012/03/16(金) 04:28:06 ID:TzUuvxoQ0

(^・_v・^)「私はゼフを追い……そして、私の短刀は確かに彼に致命傷を与えました。
       私が躊躇を見せながらも決して抵抗する事のなかったゼフは、何かを庇っている様子でした」

(^・_v・^)「それが、一人の女性との間に生まれた赤子───そう、マリエルだったのです」

( ^ω^)「………!」

( ●..● )(………そういう事さ、この男が”自分の娘”の将来を、特段憂う理由って奴はな)

(^・_v・^)「……ゼフは最期の瞬間まで、娘であるマリエルだけは殺さないでくれと───私に懇願したのです」

(^・_v・^)「親友であった者同士の情け───私はその彼の頼みを受ける事にしました。
       何よりも、彼が息絶えた後にあどけない笑みを浮かべたマリエルの表情が、私にそうさせました」

(^・_v・^)「あの子が当時の私に、非情のアサシンであった私の感情を、取り戻させてくれました……
       同時に罪の意識が溢れ、胸元にマリエルを抱えた私の目から、涙が止まりませんでした」

438名も無きAAのようです:2012/03/16(金) 04:29:15 ID:TzUuvxoQ0

(^・_v・^)「ですが、その赤子を組織のアジトへと連れ帰っても、育てる事など許されない。
       ――――だから私もまた、ゼフ同様に組織の証である短刀を捨て、マリエルを連れて逃げたのです」

( ^ω^)「……お二人の関係は、良く解りましたお」

(^・_v・^)「組織の刺客の目を逃れながら逃げた先が、この村でした───今にして思えば、幸運です」

(^・_v・^)「私は仕事を手に入れ、ゼフの忘れ形見であるマリエルを育てる為、必死に働きました。
       ………彼女の過去、本当の自分の父を殺した私の話など、当然出来るはずもありませんでしたが」

( ●..● )(ま、当たり前だがな)

( ^ω^)「あんた、ちょっと黙ってるお」

イームズから聞かされた壮絶な過去に茶々を入れた死神に一言注意を入れ、ブーンはまた依頼の話に戻った。

439名も無きAAのようです:2012/03/16(金) 04:30:16 ID:TzUuvxoQ0

過去に人を殺めていた彼は、確かに悪人であろう。ただの悪党であれば依頼を聞いてやるつもりもないが、
自分の立場を抜きにしても、そのイームズの依頼を聞いてやりたいと、ブーンはこの時思っていたのだ。

話を聞いた今になっても、裁かれるべき悪人というのとはどうにも思えなかった。
親友すらも手にかけた暗殺者であった彼だが、最後の最後には赤子の笑顔に心動かされ、良心が打ち勝ったのだから。

(^・_v・^)「……はじめの内は、酷く苦痛の毎日でした。彼女が私に微笑みかける度、
       父親であるゼフを殺したという私の罪を、咎められているような気がして」

(^・_v・^)「ですが、本当の父親のように私を慕ってくれる彼女を、いつしか私は本当に愛し始める事が出来たのです」

( ^ω^)「イームズさんが───本当の父親だと思えるぐらいに頑張ったから、だおね?」

(^・_v・^)「………決して許される事の無い罪を背負った、私ですがね」

440名も無きAAのようです:2012/03/16(金) 04:31:21 ID:TzUuvxoQ0

( ●..● )(そのゼフとかいう奴も、案外悪く思ってないかも知れんぜ?)

( ^ω^)「言う通りかも知れないお、ね」

(^・_v・^)「そして、話の本題はここからなのです───マリエルの婚約者としての候補が、今二人居ます」

( ^ω^)「パン屋のテッドと、村長の息子のスコットだおね?」

(^・_v・^)「えぇ。二人ともよく話した事はありますが、実に良い青年達です。
       ―――その彼らの内どちらかと、マリエルは共に将来を歩んで欲しい……そう、思っているのです」

( ^ω^)「それで……イームズさんの悩みとやらは、どういった事柄だお?」

(^・_v・^)「マリエルも今、成熟した女性としての途上にある微妙な年齢です。
       同じパン屋で働くテッドとは良い仲にあるようですが、スコットも彼女に好意を寄せている―――」

441名も無きAAのようです:2012/03/16(金) 04:32:18 ID:TzUuvxoQ0

(^・_v・^)「私自身は、やはり本当の親ではないからでしょうか。彼女の本当の気持ちというものを、
       情け無い話ですが伺い知る事が出来ないのです」

それは恐らく、自身の過去を悔やむイームズが己を責めすぎているという事もあるだろう。
きっと本当の親であっても、微妙な時期にある若い娘を扱うのは、どこの家庭でも非情に繊細さが要求される事柄だ。

( ●..● )(ようやく、本題に入れるな)

(^・_v・^)「長い話になって済まない───そう、ブーンさんに頼みたい事というのは、マリエルの本当の気持ち。
       すなわち、”テッドとスコットのどちらが彼女の婚約者に相応しいのか”」

( ^ω^)「───それを、見極めてもらいたいという事だおね?」

(^・_v・^)「そういう事になります。私がこの世を去れば、自惚れにはなりますが、彼女は悲観にくれるでしょう。
       そのマリエルを傍らで支えてくれる存在こそが、彼女の次の人生には必要なのです」

442名も無きAAのようです:2012/03/16(金) 04:34:07 ID:TzUuvxoQ0

(^・_v・^)「幸いにも、二人とも才ある若者だ……気弱だが奥底には熱いものを持つテッドは、
       腕の良いパン職人として有名です。大きな町へ行けば、名のあるパン屋が開けるでしょう」

( ●..● )(そして───村長の息子であるスコットは指導力もあり、聡明で勇気あり、優しい心根の男だ。
      次にこの村の村長を継げば、必ずや発展に貢献できる逸材で、包容力もある……だったな?)

( ^ω^)「なるほど……難しい問題かも知れんおね」

自分の過去を知らぬ、一人の少女。
自分の過去を悔やみ、少女を守ってきた男。

もうすぐ娘の元を去るその男の願いは、少女が次に歩むべき道を照らし出す、どちらかの道しるべを選ぶ事だ。
人の家庭に口を出す趣味はないが────今は自分の命も懸っている。

報酬は、”生き返る事”

( ^ω^)「その依頼……引き受けたお!」

どの道断るつもりもなかったが、力強いブーンのその一言で、
難しい顔を浮かべていたイームズの表情が、幾分か明るいものになったように感じられた。

(^・_v・^)「……ありがとうございます、ブーンさん───死神も」

( ●..● )(………仕事さ)

───まずは情報収集からだ、取り掛かるとしよう。

451名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:15:27 ID:QIfJHTTE0

───────────────

──────────


─────


真っ黒な世界に吸い込まれるようにして、再びブーンの身は、その外に吐き出される。
最初は戸惑ったが、こうして景色が移ろうのにもそろそろ慣れてきた。

まずはマリエルと、その婚約者候補二人の様子を観察しておく必要がある。
その旨を死神に伝えると、こうして非常に手際良く本人達の元へと案内してくれたのだ。

父親であるイームズには自分たちの姿が見えていたようなので、もしや、と危惧したものの、
どうやら井戸端で他の婦人達と他愛無い会話をしている彼女の視線は、こちらに気づきもしていないようだ。

ノルマ゚ー)「丁度お店の備蓄が切れちゃってたんで、助かりました」

「いえいえ、いいのよ。困った時はお互い様だから」

ノルマ^ー)「ありがとう。それじゃあまた、ジェニファーさん!」

452名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:16:10 ID:QIfJHTTE0

そう言って駆けていった活発な娘の後姿を見送った後、
ブーンの後ろで死神が言った。

( ●..● )(あれが、マリエルだ)

( ^ω^)「ふむ」

はきはきとものが言え、嫌味なところもなさそうな好印象の娘だ。
確かに彼女が自分の娘だったとしたら、その相手が気になってしまうのも無理からぬ事。

マリエルが去った後、広場の婦人達からは”裏の事情”も聞くことが出来た。

「大変ねぇ……イームズさんとこの娘さん」

「そうよ、近頃外にも出てこないし、かと思えばもの凄く顔色が悪いじゃない?」

「もう、長くないんじゃないかっていう話よ……」

「可哀相にねぇ───ねぇ、そういえば彼女、パン屋のテッドと結婚するのかしら?」

「あら?羨ましい話だけど、私はあの凛々しいスコットって子があの娘を好きなんだと思ってたわよ」

453名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:17:18 ID:QIfJHTTE0

「テッドなんて駄目だわ、あんなおどおどした目つきの子……スコットの方がいいわよ!」

「それにしてもあの娘、毎日健気にお父さんの看病をしてて偉いわ……是非ウチの嫁になって欲しいとこだけど、ねぇ?」

どうやら、村人達の間でもイームズの病状は何となくは伝わっているようだ。
その彼の魂を奪う為に現れた死神が今この場に立っていると知れば、どんなに驚くだろう。

姿が見えないというのは良い利点だ。
今この場に居ない事をいい事に好き勝手喋る人々の話を、気付かれずに聞くことが出来る。
だが、その婦人達から得られる情報で有力なものはなかった。


( ●..● )(下らない話だ……次、行くぞ)

( ^ω^)「わかったお」

元々、こうした人間達の噂話にすら興味は無いのだろう。
死神に促されるままに、また場面は広場から、今度は豪壮な一室へと移り変わる。







454名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:18:14 ID:QIfJHTTE0

イームズの家よりも広く、またそこかしこが格調高い造り。
味わい深く質の良いインテリアの数々は、有力者の家である事を思わせた。

( ^ω^)「村長の───息子の家かお」

( ●..● )(あぁ。次はお前の依頼主がご要望の、男どもの品定めだ)

あまり気の進まない話ではあるが、依頼とあればどんな事でも取り組まなければならない。
薬草の採取や浮気調査、たとえ”そんなもの”、と揶揄されるような内容であっても、
それに誇りを持って達成に努力する冒険者達だって、大陸には居るのだ。

とは言え、未だかつてこの世とあの世の狭間で死神と共に依頼に取り組む冒険者など、自分一人だろう。
そう考えると、何だか奇妙な高揚感があった。

もうすぐ、当人の一人が現れるのだろうか。
考えを巡らせている間に、部屋のドアが開けられる。

( -川-)「……なぁ、お前ももう良い歳だ」

髭を蓄えた中年の男性の後に続き部屋に入ってきたのは、栗色の明るい髪色が特徴的な、
利発そうな若者だった───恐らく、彼が村長の息子、スコットであろう。

455名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:19:15 ID:QIfJHTTE0

ノ∫^・_ゝ)「父さん……その話は止してくれと」

父の話を遮りたい、とばかりに苦い表情を浮かべるスコットだったが、
折られそうになった話の腰を逃すまい、と父親は彼に向けて続ける。

( -川-)「私はな、スコット。この村を、そして何よりもお前の為を思って言っているんだ」

ノ∫^-_ゝ)「分かってるさ……僕だって、もう子供じゃない」

( -川-)「それなら、マリエルがお前とテッドの間で複雑に揺れ動いているという事も、分かるな?」

ノ∫^・_ゝ)「それは……」

( ^ω^)(………)

霊体であるブーンらの声は、この場にいる彼らには聞こえないはずだ。
しかしながら、口を開くことなく固唾を呑んで彼らの話を盗み聞いていた。

マリエル、スコット、テッド。
幼馴染として育ってきた彼らの間には、この村の将来などと言った
”大人の事情”というものも、少なからず見え隠れしているようだ。

456名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:20:19 ID:QIfJHTTE0

若い力───それはとても重要なもので、一度失えば取り返す事の出来ないものだ。
この聡明そうな青年スコットが、ブーンの目からも容姿麗しい女性であるマリエルをもらい受ければ、
彼自身は家庭を、そして住み暮らす場所の発展の為により一層の力も入ろうというもの。

だが、既に村長である父親からは、後継者として見定められているのだろう。
どうやら、当人同士の恋愛感情などと言ったものだけでは割り切れない事情が潜むようだ。

三人の本当の気持ちというものを、どうにかして割り出さなければこの三角関係は解消できそうに無い。

ノ∫^-_ゝ)「それも分かってるさ───けど、僕にはマリエルには、テッドの方が相応しいと思うんだ」

( -川-)「スコット……テッドも大事な友人の一人だろうが、彼は一介のパン屋だ。彼女には、お前のような──」

そう父親が言葉を紡ごうとしたところで、スコットは多少語気を荒げて言い放つ。

ノ∫^#・_ゝ)「……父さん!僕の友達の事だけは悪く言わないでくれ!」

(;^ω^)(ふむ………絵に書いたような、善人だおね)

( ●..● )(だろ)

457名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:21:10 ID:QIfJHTTE0

容姿も端麗で、将来性もある恵まれた若者だった。

この厳格そうな父親の元で、他者を導く立場としての自分を形作っていったのだろう。
短い会話から察するには、恐らく指導力もしっかりと備わっているはずだ。

性格も良いとなれば、正しく非の打ち所が無い青年ではある。
しかしながら彼は、どうにもマリエルの件に関しては引き気味のようだ。

( -川-)「しかし、テッドは近く村を出るそうじゃないか―――マリエルが、彼に着いて行ってもいいと?」

ノ∫^-_ゝ)「………テッドは、本当に腕の良い職人だ。彼の腕なら、きっとヴィップに行っても通用するさ」

( ^ω^)(ふむ)

それから、父と子二人の間に流れた沈黙。
その間に立つブーンは、深く頷きながら佇む。


( ^ω^)(スコットは自分の立場と友人の手前、マリエルに気持ちを伝えられずにいるんだお)

458名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:22:27 ID:QIfJHTTE0

マリエル本人の気持ちを確認する前にすべき事で、一つの収穫だった。
後は───彼、スコットも羨む仲にあるテッドの気持ちというものは、どうなのだろうか。

盗み聞きをしているようで気後れはするが、どうやら彼らの会話の中から十分な情報を得る事が出来た。
スコットはマリエルの事を想ってはいるが、”立場”というものに縛られている。

だが、パン屋のテッドはそうではなく、この村から旅立って行こうとしているようだ。
この村に残るか、それとも村の外へと出るか───マリエルが選び得る道は、二つに一つのようだ。

考え事を止めて顔を上げると、死神はすでに次の現場へ行く準備を整えていたようだ。

死神が手に携える、大鎌の柄の部分。
その底で地面をとん、と一突きすると、またも風景は暗転した。

( ●..● )(さて、最後の当事者に会いに行こうか)

( ^ω^)(もう一人の婚約者候補、テッドだおね)

視界に映る全てが黒に塗りつぶされていく間を、ブーンは彼に何気なく尋ねてみる。

459名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:23:34 ID:QIfJHTTE0

( ^ω^)(あのスコットって青年……友人に気を使って、ってところかおね?)

( ●..● )(どうだかな。俺には、お前らのような人間的な感情は解らんよ)

( ^ω^)(……イームズさんの事も、単なる仕事の為って事かお?)

( ●..● )(当たり前だろうが)

( ^ω^)(そうは思えなかったけどおね───アンタは死神かも知れないけど、なんか、いい人そうだお)

( ●..● )(人の死期に訪れ、その魂を刈り取る”死神”が、か………?)

(変わってんな、冒険者ってのは)

そう言った彼の髑髏をたたえた表情は伺い知る事が出来ないが───
この時ブーンは、少しだけ死神が笑っていたような気がした。







460名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:24:28 ID:QIfJHTTE0

たどり着いた先は、村の広場に面した店先だった。
商品の並んだ陳列棚には、様々な種類のパンが並んでいる。

( ^ω^)「お?」

小さな店ではあるが、対面した客からは作業が見渡せるようになっている。
若い彼ら二人が熱心に仕事に励むさまは、恐らく客にしてみれば好印象を受けるだろう。

(・く_・川「マリエル、そこの香草を取ってくれない?」

ノルマ゚ー)「うん」

ブーンは今、テッドが営むパン屋の前に立っていた。

阿吽の呼吸で黙々とパン生地をこねるテッドの傍ら、マリエルがその補佐をしているようだ。
スコットと比べればお世辞にも美青年とは言いがたいが、そのパン作りの腕は評判の通りなのだろう。

マリエルから渡された香草を素早く鉢の中で擦ると、ペースト状のそれを生地と混ぜ合わせていく。
手練の動作で淀みなく商品作りをしていく彼の姿は、一人の職人の風格を感じさせた。

小麦粉まみれになりながらも、額に汗して一生懸命に生地を練っている。

461名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:25:28 ID:QIfJHTTE0

( ^ω^)(うまそうなパンだおね)

( ●..● )(今のお前はものも食べられないけどな)

焼きたてのそれらのふうわりとした香りを感じる事が出来ないのは、
今の自分が霊体である事から、五感の一部を閉ざされている為か。

だが、嗅覚を感じ取る事が出来なくても、思わず手に取ってしまいたくなる───そんなパンばかりだ。

( ^ω^)(んん~)

(・く_・;川「よい……しょっと」

ノルマ゚ー)「これ、オーブンに入れればいいんだよね」

(^く_^;川「ありがとう、マリエル。助かるよ」

ノルマ゚ー)「いつもの事だから、気にしないの」

手馴れた動作で生地をオーブンへと入れていくマリエルは、そう言って笑った。

462名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:26:17 ID:QIfJHTTE0

どうやら、いつもこの場所に来て手伝いをしているのだろう。
それを考えると、傍目からには実にお似合いの二人にも思える。

一通りの作業を終えたマリエルは、無心で作業するテッドの背に立っていた。
彼女がその背中に投げかけた言葉に、テッドの手が一瞬止まる。

ノルマ ー)「そういえば……さ、噂話で聞いたんだけど、”ヴィップに行く”って話───本当なの?」

(・く_・;川「………」

( ^ω^)(………)

恐らく、この話がマリエルの身の振り方に関して大きく関わってくる中心部分だ。
しばし押し黙ったテッドの様子を、マリエル同様にブーンも固唾を飲んで見守る。

(・く_・川「───実はね、ヴィップに住んでいる叔父に呼ばれたんだ。
      僕の腕を見込んで、店を手伝ってもらいたい、って」

ノルマ ー)「………そっか」

463名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:27:23 ID:QIfJHTTE0

(・く_・川「ゆくゆくは僕に店を任せたいと言われたんだ。だけど……僕は───」

ノルマ゚ー)「テッドなら、きっとヴィップでも十分に通用するよ」

(・く_・;川「………けれど、ヴィップにはマリエルが居ない」

ノルマ ー)「テッドだって、いつか自分のお店を持ちたかったでしょう?」

(・く_・;川「でも、マリエルが居ないんなら、僕がそこでパンを作る理由なんて───ッ」

テッドがそこで少し声を荒げて振り返った所で、マリエルは彼から表情を隠すようにして背を向ける。
震える声色からだけでも十分に解ろうというものだが、ブーンからは彼女の目に煌くものが見えた。

ノルマ ー)「ごめん、私………お父さんに花を持って行ってあげなきゃ!」

そう言って作業場を飛び出して行こうとするマリエル。
それを呼び止めようとして上げたテッドの右手は、そのまま下ろされた。

464名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:28:16 ID:QIfJHTTE0

そうして、誰も居なくなってしまった店先で、テッドは一人途方に暮れる。

( く_ 川「僕は、どうしたらいいんだ……」

ぷるぷると拳を震わせ、下唇を噛み締めている彼の様子を黙って眺めていた死神が、
そのテッドに対して苦言を漏らした。

( ●..● )(優柔不断な奴だな。こっちがイラついてくるぜ)

( ^ω^)「………違うお」

死神が言う通り、確かにさっきのやり取りからは彼の理想にどっちつかずの印象を受ける。
自分であったら、本当に愛している女性にならばたとえ自信が無くても「付いて来てくれ」と頼み込む所だ。

だが───彼はマリエルの境遇を良く理解した上で、ヴィップ行きに踏み出せずにいるのだろうと思えた。

( ^ω^)「イームズさんの身体は、病に冒されているお」

( ●..● )(それがどうした?)

465名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:29:11 ID:QIfJHTTE0

( ^ω^)「そんな彼女が父親を置いて行く事など出来ない事に対して、悩んでいるのだと思うお」

( ●..● )(………なるほどな)

気弱だという事は、より人の心の痛みにも敏感になる。
だからこそ自分自身がされて嫌な事をしないようにと、他者に対しても優しくなれるのだ。
しかし、それがかえって相手を傷つけてしまう場合もある。

今回のように、マリエルが少なからず好意を寄せているテッドにそうされてしまっては。

少しため息混じりではあるが、死神もブーンの言葉の説得力に納得したようだ。
互いに顔を見合わせ頷くと、作業台に両手を突いて悩むテッドに背を向けた。

人間の感情など理解出来ないと自分で言っていた死神だったが、
間を置いて、少しだけ饒舌に喋りはじめた。

( ●..● )(長い事死神やってるとよ。だんだん”思いやり”だとかそんな感情すら、無くなっちまうんだ)

466名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:30:09 ID:QIfJHTTE0

( ^ω^)「……へ?あんたは、最初から死神なんじゃないのかお?」

( ●..● )(違ぇよ。俺たちはどいつも、かつてはお前らみたいな普通の人間だった)

(;^ω^)「元人間、なのかお!?」

( ●..● )「まぁな。何の因果かこんな仕事をやっちゃいるが……
       生前の名や記憶なんざ、ここじゃあ何の意味も持たねぇんだ」

そう言った口の悪い死神の表情は、色も体温も感じられない、骸骨。

自分のような人間などとは違い、きっと永遠にも近い時を、彼はこうして過ごすのだろう。
そうであったら、やはり人間らしさなど───いずれは欠片も残さず失くしてしまうかもしれない。
話し方などから察するに、彼にはまだそれが残っているようには思えるが。

とにかく、これで一通りの当事者と会って状況はおぼろげながら見えて来た。

467名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:31:08 ID:QIfJHTTE0

イームズの娘マリエルは、確かに二人の青年の間で揺れ動いている。

その一人である村長の息子スコットは、テッドにマリエルを譲ろうとしているようだった。
いずれ村を発つテッドが、彼女を伴って行く事こそを願っているのだろうか。
愛情よりも、彼の場合は友情が打ち勝ったと言う所だろう。

そのマリエルはやはりテッドに惹かれており、彼の夢である自分の店を持つ事を応援したいようだ。
だが、彼女自身はたとえ彼を愛していても、村を離れる事など出来ないであろう。
なぜならば、病で弱った父親のイームズを一人この村に置いて旅立つ事など、出来ないからだ。

そうして、テッドもまた彼女のそうした事情を汲んでやった上で、悩んでいるのだ。
若く将来もあるが、まだ幼さの抜け切れていない青年だった。
大事な人と離れ離れになってまでやり遂げる夢に価値があるのか、答えを見出せずに居る。

468名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:31:53 ID:QIfJHTTE0

また、場面は移り変わって行く。
その最中、ブーンの考えは口を突いて出ていた。

( ^ω^)「彼女にとっての幸せって……一体何なのかお、ね」

( ●..● )(………お前さんにゃ、そいつが分かるのか?)

問いで返された死神の言葉に、また腕組みをして考える。

マリエルにとっての幸せ───変わらない日常をこれまでも、そしてこれからも大事な人達と過ごす事。
はたまた、夢に想いを馳せ新天地へと旅立ち、新たなる人生の一歩を踏み出す事なのであろうか。

─────しかし。

469名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:32:56 ID:QIfJHTTE0

( ^ω^)「───分からないお」

( ●..● )(なんだそりゃ)

茶化す死神の言葉にも、ブーンは続ける。

( ^ω^)「ブーンはマリエルじゃないから、分かるはずが無いんだお。
       何が彼女にとっての”本当の幸せ”で、何が彼女にとっての”不幸せ”かなんて」

( ●..● )(………まぁ、確かにな。だが、それじゃ依頼はどうなる?)

自分の魂が、命が懸っているこの依頼、決して失敗する訳には行かない。

だが、彼ら若者が上手く行くような道筋は、見えた気がしていた。
それら全ての答えを知っているのはブーンでも、彼ら三人でも無い。

恐らくは、”彼”が答えを出してくれる事だろう。

( ^ω^)「一旦、イームズさんの所に今日の出来事を報告しに戻らないかお?」

470名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:33:59 ID:QIfJHTTE0

( ●..● )(あぁ、わかっ────)

───と、そこで死神の所作が時が止まったかのように静止する。

言葉を言い掛けて死神がまた大鎌の柄で地面を突こうとしたところだったが、死神の意識は
ブーンの背後の虚空にあるようだった。

気付いたブーンがその方向へ振り返ると、闇の中に、彼ら以外のもう一つの影が躍っていた。

そしてそれは、こちらを見下ろしていたのだ。

( ▲,,▲)(……あァン?)

( ^ω^)「………!」

そこに居たのは、また別の死神のようだった。

471名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:35:07 ID:QIfJHTTE0

背格好こそ違えど、鎌を携えながらぼろの黒い外套で身を包んでいる姿に、一目でぴんと来た。
何よりも、今は身体から抜け出た霊体であるはずのブーン達を認識している事が一番の理由だ。

( ▲,,▲)(オイオイ、説明しろや───なーんでこんな場所に”生霊”が居やがる?)

( ●..● )(………フン。俺の仕事の”相棒”、ってところだ)

( ^ω^)(………)

また人間臭い台詞を吐いた彼の様子を気にかけながら、決して相手に警戒を与えない程度に
ブーンは片足の半歩だけを後ろに広げた。その口調から、必ずしも自分自身の存在を快く思っていない
死神も居るのだと、この場所に来たとき以来の不安を覚えたからだ。

だが、どうやら死神同士の立場はほぼ対等にあるようだった。

472名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:36:08 ID:QIfJHTTE0

( ▲,,▲)(はァ?何寝ボケた事言ってやがんだよ……肉体を離れてるなら、霊脈を断っちまえ)

( ●..● )(黙ってろ。この男の魂をどうするかなんざ、俺の自由だろうが)

(;^ω^)「いやいや……一応、僕の魂なんだけどおね……」

自分の頭の上を飛び越えて、随分と物騒な会話が繰り広げられている。
やはり新たに現れた死神は、今の自分の立場に対してあまり良い印象を持っていないようだ。

( ▲,,▲)(おめぇよォ……死神としての本分を履き違えてんじゃねぇか?頭、ダイジョーブですかァっ?)

( ●..● )(貴様こそ、俺の縄張りでチョロチョロするんじゃねぇ。いいか……俺の仕事の邪魔だけはするな)

( ▲,,▲)(………アァ!?)

473名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:36:59 ID:QIfJHTTE0

( ●..● )(てめぇなんざ、バルグミュラーの命知らずの馬鹿傭兵共の周りを飛び回ってるのがお似合いだぜ)

( ▲,,▲)(同じ言葉を返してやるよ……くれぐれも、俺の仕事の邪魔をするな)

( ●..● )(───とっとと俺の縄張りから失せやがれ、”ハイエナ野郎”)

( ▲,,▲)(………チッ)

最後にこちらに一瞥くれて、目つきの悪い髑髏はブーン達の元から何処かへと去っていったようだ。
死神同士の険悪な争いに巻き込まれて、二度と肉体に戻れないような惨事になるのではないかとひやひやしたが。

( ^ω^)「やっぱ、あれも死神なのかお?」

( ●..● )(まぁな。近頃俺のシマで随分勝手放題してくれてやがる、クソヤローだ)

(;^ω^)(死神の世界にも、同僚とのトラブルとかがあるんだおねぇ……)

474名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:37:59 ID:QIfJHTTE0

( ●..● )(奴はまだ死期でも無い生者の霊脈───魂の緒ってやつな。それを、下界に干渉して
       強引に切り離すような奴さ。言ってみりゃ、死神界の人殺しってな)

(;^ω^)「危ない奴なんだおね───アンタが一緒で、ブーンは助かったお」

( ●..● )(何、別に礼を言われる筋合いはねぇ……まずは、目の前の仕事を片付けようや)

( ^ω^)「イームズさんの所だおね」

( ●..● )(あぁ………)

( ^ω^)「?」

そこで一寸考え込んだ死神の顔を覗き込むと、顎に手をやりながら
先ほど言い争っていた別の死神が消えていった方向を眺めていた。

( ●..● )(ちと、気になる事がある)

( ^ω^)「何かお?」

475名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:38:44 ID:QIfJHTTE0

( ●..● )(悪いが、イームズの家に行くのは後回しだ───あいつがここらに現れたという事は、
       もしかするとこの村で”事故に見せかけて”死期を早められる村人が出る可能性がある)

( ^ω^)「っ!」

( ●..● )(その狙いが、俺たちの依頼人に関係する人物でなけりゃあいいんだがな───)

( ^ω^)「それなら早く……奴を追うんだお!」

( ●..● )(解ってる)

また杖のように鎌の柄を一突きすると、波紋のように景色の波が広がり
また別の場所へと意識は流されていった。







476名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:39:27 ID:QIfJHTTE0

たどり着いた先は、少し村から外れた場所のようだった。
川の上には崖が割れるように広がり、その間には小さな花畑が広がっている。

そこで花を摘んでいた、少女の後姿があった。

ノルマ゚ー)「えぇっと……これくらいでいいかな」

先ほどテッドのパン屋から飛び出していった、マリエルだ。
病気のイームズにでも渡す花を、摘んでいるのだろう。

( ^ω^)(ここに出た、という事は───もしかして)

( ●..● )(解らんが、嫌な予感がしてな)

ブーンと死神はぐるりと辺りを見渡したが、
そこに先ほどの死神の姿は見受けられなかった。

だが、気を抜く事は出来ない。

477名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:40:15 ID:QIfJHTTE0

自分の依頼人の娘であるマリエルが万が一命を落とすような事になっては、
誰よりも悲哀に暮れるであろうイームズに対して、申し訳が立たない。
彼女の周辺で危険が起きないか、つぶさに観察していたブーン達。

そこへ、ある人物が現れた。

ノ∫^・_ゝ)「やぁマリエル。花を摘んでいたのか」

ノルマ゚ー)「あ、スコット……うん!お父さんに、あげようと思って」

ノ∫^・_ゝ)「それは、何て花だい?」

ノルマ゚ー)「”蓮華草”よ。この花、お父さんの古い友達が好きだった花なんだって」

ノルマ゚ー)「花言葉は───ええと、何だったかな……」

ノ∫^・_ゝ)「……そうか。お父さんの病気、治るといいね」

ノルマ ー)「……うん」

478名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:41:13 ID:QIfJHTTE0

ノ∫^・_ゝ)「………」

それきり押し黙ったスコットは、凛とした表情で彼女の瞳を見据えた。
すぅ、と大きく息を吸い込むと、何かを決意したかのように彼女に尋ねる。

ノ∫^・_ゝ)「テッドから、聞いたんだね」

ノルマ゚ー)「ヴィップで、叔父さんの手伝いをするっていう話?」

ノ∫^・_ゝ)「あぁ、そうだ」

どうやら、スコットもまた彼女の身を案じているようだ。
聡明である彼にはこの後の事も見通せているのかも知れない。

父の病気が決して治癒する事はなく、もうすぐ彼女一人が取り残されてしまうのだという事を。

ノルマ゚ー)「でも……私には関係ないよ」

ノ∫^・_ゝ)「本当に?」

479名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:42:18 ID:QIfJHTTE0

ノルマ゚ -)「どうして、そんな事を聞くの?」

ノ∫^-_ゝ)「………」


( ^ω^)「………」

( ●..● )(───!)


それまで固唾を飲んで二人の会話を見守っていた死神が、そこで何かに気付いた。
彼女達の頭上、切立った崖上からぱらぱらと降り注ぐ石の飛沫があった。

( ▲,,▲)

先ほどの死神が、崖上でほくそえんでいる様子であった。
どこから持ってきたのか、その傍らには大きな岩があり、あと一押しもすれば崖下へと転落するだろう。

─────狙いは、この二人のどちらかだ。

480名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:43:26 ID:QIfJHTTE0

( ●..● )(あそこだ───野郎ッ!!)

(;`ω´)「まずいおッ!?」


二人に危機を知らせなければならない。
だが、こちらの声は届かないし、突き飛ばしたぐらいでは避けられぬ程の大きさだ。

どうすれば────奴の邪魔を、直接出来れば。

ブーンがその考えに至るのと、同時だった。

( ●..● )(奴の場所に飛ぶぞ!あいつをブッ倒す!)

(;`ω´)(それしか……ないおね!)








481名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:44:17 ID:QIfJHTTE0

( ▲,,▲)(るーんららぁっと)

上機嫌で鼻歌を歌う死神、その真後ろに、ブーンは一瞬で移動してきた。
この手に武器を持たない以上、素手で殴り倒してやる他ない。

心配なのは、仮にも”神”と名を冠する存在に攻撃して、自分は無事現世に帰れるのかという事だが。

( `ω´)「………そこまでだお!」

( ▲,,▲)(あぁン?)

( ●..● )(言ったはずだぜ───俺の邪魔はするなとな!)

(#)▲,,▲)(ぶごッ!?)

ブーンよりも先に動いた死神の拳が、その頬を打ち抜いた。
霊体同士であればこうして干渉しあう事が出来るのだろうか。

( ●..● )(お前も一発お見舞いしてやれ!)

自分の攻撃が通ずるか不安を残したが、その一言に後押しされて飛び出した。

(;`ω´)「ええい───もう知らんおッ!」

482名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:45:14 ID:QIfJHTTE0

(▲,,▲(#)(うげぇッ!)

今度は逆の頬に向けて、ブーンが思い切って振りかぶった拳が命中する。
殴った感触はまるで布切れを叩いたように感触の薄いものだったが、確かに通じたようだ。

二人から殴られた死神は、へなへなとその場に座り込むようにして崩れてゆく。
その様子を見届けてから、ブーンは急ぎ崖側の大岩を両腕に抱え留めた。

(;^ω^)「間一髪、だったおね」

大岩の横から下の様子を覗くと、まだマリエル達は会話していた。
こんなものがこの高所から落とされれば、丁度二人共が潰れてしまっていただろう。

(;`ω´)「んぎ……ぎぃ」

今後も悲劇が起こらないようにと、大岩が転落しないよう崖から引き離しておいた。

( ^ω^)「ふぅ──これで、大丈夫そうだお」

(;▲,,▲)(て、てめぇら……よく、も)

483名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:45:59 ID:QIfJHTTE0

( ●..● )(どうだ、もう2,3発も欲しいか?)

(;▲,,▲)(く……こんな事をして───人間ごときが!)

(;^ω^)(………)

よろよろと立ち上がった死神の恨みがましげな視線が二人に向けられたが、
飄々とその言葉を受け流す仲間の死神とは立場の違うブーンは、内心良い気分では無い。

彼もまた死神であるという事は、自分の魂の緒を刈り取る事の出来る存在にあるのだ。
その不安を見透かしたかのように、仕事仲間である死神はブーンにだけ伝わるような小声で言った。

( ●..● )(心配すんな、俺が居る以上、お前に手は出させねぇよ)

( ^ω^)(……助かるお)

484名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:46:52 ID:QIfJHTTE0

( ●..● )(―――とっとと失せろ。二度と俺達の前に姿を現すなよ)

(#▲,,▲)(……覚えてやがれ)

月並みな悪党の台詞を吐き捨ててから、二人を最後まで睨みつけていた死神の姿は、
やがて風景に溶け込むようにしてすぅっと目の前から消えた。

また現れた時の事を考えると素直に喜べないが、とにかくこれで、障害は取り除かれた。
人の恋路の邪魔をする奴は、馬に蹴られてなんとやらだ。

( ●..● )(さて、後は………)

( ^ω^)(二人の成り行きを、見守るとするおね)







485名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:47:56 ID:QIfJHTTE0

ノ∫^・_ゝ)「テッドがヴィップに行くというのなら、君も彼について行くべきだ」

ノルマ゚ -)「そんな……お父さんを、置いていける訳ないじゃない!」

崖下では、まだ二人が会話を交わしていた。
優しくたしなめるような口調のスコットだが、その言葉は彼女にとって辛らつなものだ。
自分の中で押し留めているであろう感情が、彼の言葉が引き金に爆発する。

ノルマ゚ -)「私が居なくなったら、お父さんは一人でこの村に取り残されるのよ!
     身体を患っているのに……スコット───あなたが、看病してくれるっていうの!?」

ノ∫^-_ゝ)「───構わない」

ノルマ゚ -)「ッ!」

それは、マリエルにしてみれば意地悪めいた言葉だったろう。
死期が近づいて、本来ならばもはやこの世にいないはずのイームズ。
その彼を、傍らで看病してくれるのか、などと。

だが、その言葉に対して当然のように言ってのけたスコットの言葉が、
逡巡すれば言葉を追い討ちしていたであろうマリエルが、言葉を詰まらせる。

486名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:49:04 ID:QIfJHTTE0

ノルマ -)「どうして……そんな事を、言うの」

ノ∫^-_ゝ)「僕はね、マリエル───”君にとっての幸せ”が、一番大事だと思ってるんだ」

ノルマ -)「………」

ノ∫^-_ゝ)「もちろん、君とテッドがお互いを想ってるという事も知ってるさ………
      そしてこれは恐らく───君のお父さんもまた同じ気持ちなんだと思う」

ノルマ -)「だって……私が居なくなっちゃったら……お父さん、たった一人で……」

健気な故に、この世でたった一人の父親の事を想うが故に、
少女は自分の気持ちに従う事が出来ずにいた。

スコットが仮に自分の気持ちに良い意味でも悪い意味でも正直で、
堪え性に欠けるような青年であれば、こうはならなかったはずだ。

だが、自分を殺して他者を思いやる事の出来る青年である彼の言葉に、
マリエルの気持ちは、今確実に揺れ動いていた。

彼女自身は一体どうするべきなのか───道しるべは、もう行き先を照らしている。

487名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:50:03 ID:QIfJHTTE0

( ^ω^)(アカン……ほろりときそうだお)

( ●..● )(親を想う子の愛情に───ってか?)

( ^ω^)(けれど、二人の想いはすれ違ってしまっていたんだお)

( ●..● )(……お前さんの依頼は、どうやらひとりでに上手くいきそうだな)

( ^ω^)(そう、だおね)

死神の言葉通り、ブーンもまたそう考えていた。
三者が居れば楽観的とも思われるかも知れないが、当人達の気持ちはこれまでの間
ほんの少しすれ違っていただけで、きっと最初から上手くいくようになっていたのだ。

488名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:51:16 ID:QIfJHTTE0

ノ∫^・_ゝ)「テッドも、君やお父さんの事を思っているから着いて来いと言えずにいるのさ。
      友達の僕には分かる───彼が誰より、君の事を愛しているとね」

ノルマ -)「でも、私……どうすれば……」

ノ∫^-_ゝ)「それを、君のお父さんはもう悟っていると思う。
     ───だから、今夜皆を交えて話し合おう。今後の事について、ね」

そう言って、花畑の中でうな垂れる彼女の肩に優しく手を置いて、スコットはじっと瞳を見つめた。

その彼らに背を向けて、ブーンと死神はまたどこかの空───暗い空間へと移動していた。
スコットの言った今夜、若者達を取り巻く複雑な感情の交差は取り払われるだろう。

( ●..● )(夜まで、少し意識を休めろ。霊体とはいえ、活動し過ぎると、
       肉体に戻る時に支障が生じるかも知れん)

(;^ω^)「それ、先に言って欲しかったお」

489名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:52:09 ID:QIfJHTTE0

( ●..● )(ま、今んとこは大丈夫だと思うがな……とにかく、休んでおけ)

( ^ω^)「なら……そうさせてもらうかおね」

彼の言葉に従うまま、ブーンは瞳を閉じた。
やがて、完全な闇の中へと、意識はまどろんでいった。



───────────────



──────────

─────



~その頃 交易都市ヴィップ~


ζ(゚ー゚*ζ「いっぱい買っちゃったね~」

490名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:52:53 ID:QIfJHTTE0

ξ*゚⊿゚)ξ「私、こんなに自由にお買い物したの久しぶりだわ!」

興奮気味に鼻息を荒げるツンが、両手一杯にいくつも抱えた紙袋を重そうにぶら下げていた。
ヴィップの商業区域にある、高級デザイナーによるショップが立ち並ぶ店々をはしごして、
人生で初めてのウィンドウショッピングを楽しんでいたのだ。

ζ(゚ー゚*ζ「このフリフリのやつ、可愛いよね~」

ξ゚⊿゚)ξ「うーん、迷ったんだけどね。どちらかといえば、デレに似合うんじゃない?」

ζ(゚ー゚*ζ「どうかなぁ……あ、でも私の買ったこの2ピースも、そういえばツンに似合うかも」

ξ゚ー゚)ξ「あ、分かった。貸し借りすればいいじゃない、お互いに、体型もぴったりでしょ?」

ζ(゚ー^*ζ「それもいいね!」

491名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:55:01 ID:QIfJHTTE0

ふとツンがウィンドウを見渡した先、面白い物を見つけたように指さした。
どれどれ、と近づいたデレがそれを見た瞬間、二人はお互いに顔を見合わせて笑みをこぼす。

ξ*゚⊿゚)ξ「ぷっ。何これ、”KIKKOU”だって……だっさ!」

ζ(^ー^*ζ「あはは、そんな事言ったらデザイナーの人に悪いよぉ」

ξ*゚⊿゚)ξ「デザインったって……こんなもん、荒縄で身体縛ってるだけじゃない!」

ζ(゚ー゚*ζ「でもまぁ、確かに……何考えて作ったんだろうね」

ξ゚⊿゚)ξ「どれどれ……”このKIKKOUは、素材からして厳選した荒縄を使用し……”」

ζ(^ー^*ζ「あはっ、厳選した荒縄って何!?」

二人が物珍しげに笑いあう後ろでは、一人の細身の青年が通り過ぎる。
気取られぬよう、気恥ずかしそうにしながら。

(;-_-)(くそ………カッコ良いと、思っていたのに………)

その胸元は、亀甲のように結ばれた荒縄が括りつけられていた。

492名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:56:22 ID:QIfJHTTE0

─────

──────────


───────────────


( ●..● )(おい、起きろ)

( ´ω`)「にゃむ……もう、朝かお?」

( ●..● )(馬鹿言ってんじゃねぇよ、もう夜だ)

(;`ω´)「はうッ!」

目覚めると、そこはやはり暗闇だった。
スコット達がそろそろ話し合いを始めるであろう現場に、立ち会わなければならない。

何故だか、悔しいような夢を見たような気がした。

495名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:58:04 ID:QIfJHTTE0

( ●..● )(どれ、もうぼちぼち全員が集まってるはずだ。行くぞ)

( ^ω^)「おっおっ、分かったお」

暗闇から溶け込んでくる景色には、一度見覚えがある。
確かここに来てから一番最初に訪れた、依頼人であるイームズの家だ。

彼が揺られるように腰掛けるロッキングチェアが置かれた広間には、もう全員が集まっていた。

496名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:59:17 ID:QIfJHTTE0

村長の息子、スコット。

ノ∫^・_ゝ)

青年達の想いの渦中にある村娘、マリエル。

ノルマ゚ -)

腕の良いパン職人、テッド。

(・く_・川

そして、ブーン達にマリエルの婚約者候補を見極めるよう依頼した、イームズ。

(^・_v・^)(………)

( ^ω^)(………)

彼だけは、この場に現れた見えないはずのブーンと死神の二人に対し、一度だけ視線を送って会釈した。
周囲の若者達からはほとんど気付かれない程度だったが、見逃さなかったブーンは、それに返す。

497名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:00:25 ID:QIfJHTTE0

状況をいまいち理解出来ていないのであろうか、テッドがおずおずとスコットに尋ねた。

(・く_・川「スコット。この──皆を集めての話というのは……」

ノ∫^・_ゝ)「これは、君の問題でもある。まず聞く、テッド───君は、マリエルの事が好きか?」

(・く_・;川「そ───」

ノルマ -)「………」

(^・_v・^)「………教えてくれないか、テッド。大事な事なんだ」

皆が見守る中、少しだけ自分の本心を吐き出す事を躊躇ったテッドだったが、
促したイームズの言葉と表情の中に、真剣さを感じ取ったか、すぅ、と息を吸い込むと、
彼もまた真剣そのものの顔つきで、自信を持って言い放った。

498名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:01:46 ID:QIfJHTTE0

(・く_・川「───好きです。マリエルの、事が」

ノ∫^-_ゝ)「………その言葉が、聞きたかった」

ノルマ -)「………」

(^・_v・^)「良く言ってくれたね。ここにいるスコットが、君が自分に気を使ってしまって
       マリエルに気持ちを伝えられずにいる事を、気に掛けていたんだ」

イームズの言葉に、スコットもまたこくりと頷いた。
それはマリエルにとっても喜ばしい言葉かも知れないが、今この場では粛々と受け止めているようだ。

(・く_・川「スコット……」

ノ∫^・_ゝ)「君が、本当は彼女と共にヴィップへ行きたいというのは分かってるんだ。
      そろそろ、その本当の気持ちを教えて欲しい」

(-く_-川「………それは」

499名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:03:00 ID:QIfJHTTE0

ノルマ -)「私の事なんて、気にしなくてもいい───だけど」

ノルマ゚ー)「いつか、私に教えてくれたじゃない。”世界一のパン職人になるのが夢なんだ”って」

ノルマ゚ -)「その夢を……ヴィップで店を出すのを、諦めるの?」

(-く_-;川「だ、だけどっ!」

このまま行くと、彼らの話は堂々巡りで問いの答えに行き着く事はないだろう。
そろそろか、と小声で呟くと、イームズは重い腰を上げ、テッドの傍らに立った。

(^・_v・^)「テッド、君は───何よりも、私に気を使っているんだろう?」

(-く_-;川「そんな……そんな事は……」

(^・_v・^)「嘘をついて騙そうとしなくていい、自分の気持ちを、ね」

ノルマ゚ -)「………お父さん」

そう言って、マリエルとテッドの肩を抱き寄せて、交互にその表情を見やった。
それは、決して彼らの本心を責めるようなものではなく、それどころか慈愛の込められた瞳だった。

500名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:04:32 ID:QIfJHTTE0

(^・_v・^)「マリエル。お前だって夢を諦めてしまうのかい?
       ―――テッドを”世界一のパン屋を支える”という夢を───」

ノルマ゚ -)「………でも……私は、お父さんを一人置いてなんてッ」

心が張り裂けんばかりの悲痛を込めた彼女の叫びは、優しい父の言葉に押し留められた。
父親の腕の中へと抱き寄せられたマリエルの瞳からは、つぅと光るものが伝う。

(^-_v-^)「すまない……そして、今までありがとう───マリエル」

( く_ 川「………イームズ、さん」

ノルマ; -)「………嫌、いや……だよ」

(^・_v・^)「二人共、私の事なら心配要らないさ。私は、今生きている事が奇跡なんだ」

( ●..● )(………まぁな)

そう言って、イームズはくい、と指をブーン達の方へと指した。
彼らからしてみればそこは何も無い空間だろうが、確かにこの場にはブーンと、そして死神が立っている。

501名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:05:23 ID:QIfJHTTE0

(^・_v・^)「実は、もうとっくに来ていた迎えも、そこで待たせていてね───」

ノ∫^・_ゝ)「イームズさん……後の事は、心配要らないと思います」

(^・_v・^)「スコット。今後は村を切り盛りする立場だが、無茶をしない程度に頑張ってくれよ?」

ノ∫^-_ゝ)「そのお言葉、しかと心に留めておきます──」

(^・_v・^)「あぁ……そして、テッド」

(・く_・川「───はい!」

はっきりと返事をして、ぴんと背筋を伸ばしたテッドの表情には、普段の気弱さが面影も見られなかった。
イームズの言葉に後押しされて、どうやら彼も決意の固まった───そんな表情だ。

502名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:06:33 ID:QIfJHTTE0

(^・_v・^)「マリエルの事を悲しませたら……承知しないぞ」

(・く_・;川「はッ、はひっ!お、お任せをッ!」

元暗殺者だというのは伊達ではないらしい。
娘を預ける親としては憎き相手でもある若者に、凄みを効かせて圧力をかけた。
たじろぎながら、それでもしっかりと返事をしたテッドに、最後には白い歯を見せたが。

(^・_v・^)「マリエルの事は……任せたよ」

ノルマ; -)「お父さん……どこにも行かないで……!私は……ここに───」

(^-_v-^)「嬉しいよ……マリエル。そして、今まで───ありがとう」

最期の力で、マリエルは抱き寄せたイームズの腕からは、次第に力が失われていく。
それがマリエルからは分かったのだろう、泣き叫びながら、父に呼びかけた。

(・く_・;川「イームズさんッ!」

ノ∫^;・_ゝ)「早くッ!医者を……!」

503名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:07:30 ID:QIfJHTTE0

(^-_v-^)「二人共、もういいんだ……私には、長すぎる時が与えられた」

ノルマ; -)「駄目ッ!死んじゃ嫌よ!お父さん───!」

(^-_v-^)「三人とも……雲の上から応援しているよ………そろそろ、お迎えだ───」

イームズの身体からは薄らと白いもやのようなものが漏れ出し、それが彼自身の姿を形作っていく。
身体から生命力が抜け出すかのようなそれは、人の魂というものなのだろうか。

( ●..● )(………やるぞ、イームズ)

( ^ω^)「これは───」

これまで沈黙を保ってきた死神が、背にある大鎌の柄を掴むと、イームズの前に振りかぶる。
もやがイームズそのものを形作ると同時に、彼の肉体は地面へと倒れ込んでいった。

亡骸となってしまったそれに群がり、泣き叫ぶ若者達の姿を尻目に、イームズが礼を述べる。

504名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:08:10 ID:QIfJHTTE0

(^・_v・^)(ブーンさん。どうやら、上手く事が運んでくれそうです───ありがとうございました)

( ^ω^)「いや……多分ブーンは、礼を言われる立場には無いお」

( ^ω^)「三人が同じ思いを抱いていたからこそ、この答えに行き着くまで遠回りしてしまったんだお」

(^・_v・^)(自惚れになりますが……そうかも知れませんね)

( ●..● )(そうだな───お前に気を使いすぎてたんだよ、あいつらは)

( ^ω^)「けど……きっと、そんな優しさを持ってるあの若者達なら、後の事は心配いらないお」

(^・_v・^)「実は、私もそう思っているんです」

そう言って、屈託無い笑みを浮かべたイームズの表情は、この世に何の未練も残さず、
全力で人生を生き抜いたであろう証の深い皺だけが、笑顔の中に刻まれていた。

間を見計らっていたのか、死神が問いかける。

505名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:09:02 ID:QIfJHTTE0

( ●..● )(随分と待たせてくれたが、もう……いいな?)

(^・_v・^)(それなんだが、最期にもう一つだけ我侭を聞いてはくれないか?)

( ●..● )(……ったく)

(^・_v・^)(村の裏手の墓地だ……一人、墓参りを済ませておきたい相手が居てね)

( ^ω^)「ブーンも、見届けさせてもらうお」







506名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:10:20 ID:QIfJHTTE0

村の裏手、ひっそりと花畑の中央に佇むようにして、そこには小さな碑石が立っていた。
どこか見覚えのある花は、確か昼間にマリエルが崖下で摘んでいた、蓮華草だ。

(^・_v・^)(ここだ……すまないが、もう少しだけ待っていてくれるか)

( ^ω^)「勿論ですお」

( ●..● )(まぁいいけどよぉ……全く、人間ってのは面倒くせぇ生き物だぜ)

一仕事終えて開放的な気分になっているのか、死神が饒舌に悪たれていた。
「まぁまぁ」とブーンがたしなめる横では、その小さな碑石に対して、イームズが目を閉じて両手を合わせる。

(^-_v-^)(本当に………難しいものだよ。父親というのは)

そう言って立ち上がったイームズが、死神の方へと振り返り、両手を広げた。

「やってくれ」という合図であろう。

(^・_v・^)(だが、我ながら良い人生を歩めたと───自分を褒めてやりたい)

507名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:12:44 ID:QIfJHTTE0

( ●..● )(………もう、言い残す事はないな?)

(^・_v・^)(あぁ、待たせて悪かったな────”ゼフ”)

( ^ω^)「………!」

その名は、イームズが今しがた手を合わせていた碑石に書かれていたものと、同じだった。

( ●..● )(………)

イームズの前に鎌を振りかぶっていた死神の動きが、ぴたりと止まる。
依頼人である彼自身の口から聞いたその名が、今この場で飛び出た事に驚いたが、納得する事は出来た。

それは、妙に人間臭い死神の、垣間見る事は叶わない表情や言葉の端から。

508名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:13:46 ID:QIfJHTTE0

( ●..● )(いつから気付いてた?)

(^・_v・^)(最初にお前が私の前に現れた時からだよ……びっくりさせてやろうと思ってね)

( ●..● )(ふん……お前らしいぜ。まぁ俺としては、こうして仕返しが出来て嬉しい限りだ)

(^・_v・^)(私としても───最後に死神を務めてくれる相手が、お前で良かったさ)

( ●..● )(………口約束なんぞを律儀に守ってくれやがって───ご苦労なこった)

(^・_v・^)(それはそれは、大変な毎日の連続だったさ)

( ^ω^)「………」

そこには、死神と人間同士、何の衒いもなかった。
こ憎たらしげに───しかし仲睦まじく対話しているイームズの表情には、
長らく会う事の無かった旧友へと向けるような、そんな笑顔が滲み出ている。

それは恐らく、髑髏が覆い隠す仮面の奥にある、死神の表情にも見て取れるようだった。

509名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:14:51 ID:QIfJHTTE0

( ^ω^)「さよならだお、イームズさん」

(^-_v-^)(えぇ………今度、お礼に伺いますよ)

( ●..● )(今度こそ、行くぞ)

死神の鎌は、景色をも歪ませながら、触れる物全てを切り裂くような鋭利さで振るわれた。
魂の緒、今のでそれを刈り取ったのだろうか。

( ^ω^)「化けて出るのは、勘弁して欲しいおね」

(^・_v・^)「………ありがとう、ございました」

ブーンの最後の言葉は、彼に届いたようではあるが。

( ^ω^)(さようなら、だお)

天へと登ってゆくイームズの魂に別れを告げていると、
ブーンの身を、急速に引き寄せられるような衝撃が襲った。

( ●..● )(お前さんももう用済みだ───じゃあな)

(; °ω°)「おっ……ふおぉぉぉッ!?」

そう言った死神がブーンに手をかざした瞬間、目の前の景色は見る見る遠ざかってゆく。
依頼の約束はどうなったのだろうか───もしかして、騙された?

510名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:16:04 ID:QIfJHTTE0

───────────────



──────────

─────

やがて真っ暗な空間へと飛ばされたブーンにそんな疑問が過ぎた時、声が聞こえた。

(心配すんな……このまま現世に飛ばしてやる)

(; °ω°)「び、びっくりさせんなお!」

このまま死神に裏切られてあの世に飛ばされたら、恨んでも恨みきれない所だ。
───現世では果たしてどれだけの時間が経っているのだろうか、皆心配しているだろう。

急に生き返ってびっくりさせてやろうか、そんな事を考えて、にやにやしてしまう。

511名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:16:47 ID:QIfJHTTE0

「……げ……も……よ」

( ^ω^)「ん?」

暗闇をたゆたうブーンの耳に、微かに聞こえた声。
それに耳を澄ましてみると、今度ははっきりとそう聞こえた。

「逃げられると、思うなよォッ!?」

(;^ω^)「なッ!」

(#▲,,▲)(───待ちやがれぇぇぇーーーッ!)

それは、昼間自分達に殴られた、あの性質の悪い死神だった。
後ろを振り返ると、ゆっくりと引き寄せられていくような自分とは対照的に、
ものすごい速度でこちらに向かって迫ってくる。

その手には、大きな鎌が携えられていた───────

(; °ω°)(……やっべぇお!)

512名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:17:43 ID:QIfJHTTE0

とてつもなくまずい状況だった。
今の自分では、あの鎌をこの身体に一振りされてしまえば、
今度は死者として向こう側に引き寄せられてしまうだろう。

しかして、丸腰である今のブーンには、それから身を守る術などなかった。

(;`ω´)(くそッ!あと少しって所なのに………どうしたらいいお)

「”ったく……こんなこったろうと思ってたぜ”」

不意に、頭の中にここ最近で最も聞き慣れた声が聞こえた。
すぐにピンと来たブーンは、その名を叫ぶ。

(;^ω^)「!───あんた、ゼフかお!?」

513名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:19:29 ID:QIfJHTTE0

「”その名で呼ぶんじゃねぇよ───いいか、よく聞け。最後に手助けしてやる”」

(;^ω^)「丸腰じゃ、どうする事も出来ないおッ!」

「”だから……よく聞けっての。お前が普段使ってる得物を想像しな───そいつを、この場に具現化してやる”」

(;`ω´)「………!」

(#▲,,▲)(うらぁぁぁぁぁぁッ!!)

目の前には、鎌を持って迫る死神。
だが、その光景に集中力を途切れさせてしまえば終わりだ。

「生きて帰る」
それを心に刻みながら、相棒の死神の言葉を信じて、ただ実行した。

―──間もなく、一瞬目の前の死神が怯む程の輝きを放ちながら、愛剣が目の前の宙空へと顕現する。
父が唯一つブーンへと遺した、龍の彫刻が施された長剣が。

514名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:20:47 ID:QIfJHTTE0

「”成功したようだな……だが、干渉してやれるのはここまでだ、生き返りたいなら、後は自分で何とかしな”」

(#`ω´)「───ふおおおおぉぉぉぉーーーッ!!」

(#▲,,▲)(なッ……てめぇッ!!)

その柄を両手で掴んでから、眼前までに迫っていた死神に斬撃を放つまでには、一秒もかからなかった。
生と死とを分かつ、闇が支配する空間の中で────剣と鎌とがぶつかり合って火花を散らす。

完全に意表を突かれたか、死神の鎌はブーンの打ち込みをどうにか堪えると、身ごと背後の空間へと後退する。

(;`ω´)「良いタイミングだったお!”相棒”!」

「”まぁな。だが───気を付けろ、その鎌に斬られれば、お前の魂はこっちに堕ちちまう”」

(;`ω´)「この不安定さでは、難しい注文だおね……」

515名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:22:42 ID:QIfJHTTE0

「”チッ……時間切れか───いいか、”声”に───”」

(;`ω´)「声に……!?何だってお───」

それきり、相棒の声は途絶えてしまった。
どうやら手助けできる限界が来てしまったのだろう。

だが、勝ち目ゼロからの状態からは、随分と分が良くなったものだ。
この状況ならば、どうにか打ち破ってみせる。

(ケヒャアァァァァァッ!!)

(;^ω^)(消え────)

そこで、一瞬目の前で鎌を振りかぶった死神の姿が、眼前から完全に失せた。
認めたくもない事実だが、忘れていた───目の前のこいつは、仮にも死神なのだ。

516名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:23:48 ID:QIfJHTTE0

じっと剣を構えながら、全方位へ向けてただ神経を張り巡らせる。
だが、いつまで経っても視界にその姿は映らない。

いつ、どこから斬られるか分かったものではない。
ただ一撃触れられただけで、自分は死人になってしまうのだ。

たゆたう空間の中で、波のように流されてゆく感覚もいつしか無くなっていた。

(;^ω^)(どうすれば、いいお───!)

「”………”」

強く念じても、相棒の力はもはや此処までは届かないのだろう。
彼の言葉通り、あとはこの状況を一人でなんとかするしかないのだ。

(;^ω^)(そういえば、”声”って……)

死神が最後に言っていたその言葉を鮮烈に思い出したのは、微かに耳に届いた、懐かしい声のお陰だった。

517名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:25:01 ID:QIfJHTTE0


「”馬鹿ッ……ブーンッ!”」

ξ゚⊿゚)ξ



(;^ω^)「───ツンッ!?」

”がきんっ”

(;▲,,▲)(……なにィッ!?)

背後へと迫っていた死神の鎌を咄嗟に打ち返す事が出来たのは、自分の名を呼ぶ
”声”の方へと振り返ったお陰だった。

( ^ω^)「……どうやら、行き先が分かったお」

耳を澄ましてみれば、次第に自分を呼びかける声たちは大きくなっていく。

518名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:26:11 ID:QIfJHTTE0


「”おいおい……洒落にもならんぜ、酒場で頭打って人生終了なんざよぉ”」

爪'ー`)y-



( ^ω^)「……フォックス、今に面白い酒飲み話のタネを持って帰ってやるから、待ってるお!」

(#▲,,▲)(死神様を相手に───人間なんぞがァッ!!)

人間よりも高位の存在だと驕り高ぶった死神なのだろう。
こちらを侮ってくれているならば、あながち怖い存在でもないな、と思えてきた。

何よりも、仲間がすぐ近くで待ってくれているからだろうか。頼もしい限りだ。
頭を狙った横なぎの一撃を、軽く肩をすくめながら首を傾けかわす。

519名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:27:24 ID:QIfJHTTE0


「”僕にもお手上げだ……後は、本人の生命力に託す他ない……”」

(´・ω・`)



( ^ω^)「ショボン!すぐにびっくりさせて、いつものクールな表情を引き剥がしてやるからおね!」

再び、自分の身体は波に押されるようにして流され始めた。
死神の背後、遠くには微かに煌いている光が見える。

( ^ω^)「仲間が呼んでるんだお───もう、お前なんか怖くないお」

(#▲,,▲)(ナマ言いやがって……おっ死ね!うるあぁぁぁぁッ!!)

荒ぶった感情のままに繰り出された、理性もくそも無い打ち込みへの対処は簡単だった。
真上から肩口へと振り下ろされた鎌を、かっちりと背に待ち受けた剣で受け止める。

520名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:28:44 ID:QIfJHTTE0

(#`ω´)「邪魔だお───そこを、退くおおおぉぉぉーーーッ!!」

(;▲,,▲)(ッんな、アホなぁッ!?)

生憎と、馬鹿力だけは取り柄なのだ。
鎌を受け止めた勢いを、押し返させる事もさせずにそのまま倍の力で返した。

(;`ω´)「────おおおぉぉッ!!」

( △,,△)(………あッ………がぁゥッ)



───背から真正面へと描いた弧月は、間の抜けた声で叫んだ死神の身体をそのまま引き裂きながら。

    ブーンの身は、程なくして光の向こうへと吸い寄せられていった──────


───────────────


──────────


─────

521名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:30:35 ID:QIfJHTTE0

───交易都市ヴィップ 【失われた楽園亭』───


どうやら、現世のヴィップでは四日間もの時間が経過していたらしい。

ξ;⊿;)ξ「………えっ?」

今では断片的な記憶しか思い出す事が出来ないが、どうやらあの光に吸い込まれたあとの自分は、
肉体に戻ってからの二日間を眠って過ごしていたらしい。

(´・ω・`)「………確認しておくけど、ゾンビという訳ではないだろうね?」

途中、完全に呼吸の止まっていた自分だったが、パーティーの仲間たちの頼みでマスターが一室のベッドに
ずっと寝かせてくれていたらしい─────魂が生きているのに、肉体がもし葬られたらなどと考えると、冷や汗ものだ。

爪'ー`)y-「よしッ……生き返ったか。なぁに───お前が息を吹き返す方に、100sp賭けてたのさ」

522名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:31:51 ID:QIfJHTTE0

急に生き返って驚かせてやろうと考えていた作戦があったが────
それは、喜んでくれた仲間たちや、自分の為に涙してくれたツンらの手前、胸にしまっておく事にした。

( ^ω^)「………んお?」

ベッドから起き上がった時、胸元に違和感を感じて毛布を取り払った。
すると、酒場のカウンターに立てかけておいたはずの自分の剣が、寄り添うようにして置かれていた。

今にしても思えば、あの死神が助けてくれたという事実の証なのだろうか。

─────

──────────


───────────────

523名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:32:43 ID:QIfJHTTE0

それから更に、数日が経ち、そろそろ次の冒険に行く話がパーティー内で話されていた時だった。
一度死んで死神の元を訪れていた、などというブーンの熱弁は一笑に附され、新たな談笑のタネにされていた。

楽園亭の扉が開いて、誰かが宿に入って来たことなどにも気付かず、ブーンはなおも真実を訴える。

(;`ω´)「だ・か・らぁッ!その───マリエルって娘さんの親父さんが!」

爪'ー`)y-「……もう飽きたっつーの、その作り話」

(´・ω・`)「僕としては興味を惹かれるけどね」

ξ゚⊿゚)ξ「けど、死神がいい人だなんて、斬新だとは思うわよ?」

いくら熱く語ろうとも、彼らにはまるで取り合ってもらえなかった。
確かに、これほど微細に渡って説明出来てしまうなどと、逆に現実味に欠けるかも分からない。
「大陸ではまだ聞いた事の無い作り話だな」などと、心外な評価を得てしまっていた。

524名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:34:16 ID:QIfJHTTE0

ひときわ煩いそんなパーティーの席を尻目に、カウンターでグラスを磨く
マスターの元に、楽園亭を訪れた一人の少女が話しかけた。

(’e’)「ん?……いらっしゃい……あぁ、そうだが」

(’e’)「悪いことは言わんが……ん?そうか……それなら」

(’e’)「……あれだよ、お嬢さん」

ノルマ ー)「───!」







(;`ω´)「どわからぁあぁッ!そのッ、マリエルって娘がだおね!?」

525名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:35:41 ID:QIfJHTTE0

叫びすぎて声を枯らしたブーンが咳払いをしていると、マスターがカウンターから叫んだ。
その言葉に、ブーンを相手にしていなかったパーティーの面々の動きが、一瞬止まる。

(’e’)「おーい、ブーン!マリエルって娘さんがお前に用事だとよ!」

爪;'ー`)y-「……んあっ!?」

(´・ω・`)「────こいつは」

ξ;゚⊿゚)ξ「驚いた、わね────」

(;^ω^)「………へっ?」

ノルマ゚ー)「………!」

何よりも、一番その事に驚いたのはブーンであった。
こちらに気付いてから、ぺこりと頭を下げた彼女は、確かにあの時のマリエルだ。

とは言え、向こうからしてみれば初対面であるのだが───

526名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:36:54 ID:QIfJHTTE0

ノルマ゚ー)「えと、ブーンさん……ですよね?」

(;^ω^)「そ、そうだけどお……なんで、ブーンの事を知ってるお?」

ノルマ゚ー)「父の日記にあったんです───生前、ブーンさんのお世話になったって」

( ^ω^)「そういう事だったかお………」

聞くまでも無い問いで、もしかしたら彼女を傷つけてしまうかもしれない。
だがここは、聞いておかぬほうが不自然に取られかねないから、あえて尋ねておいた。

( ^ω^)「その……という事は、イームズさんは」

ノルマ ー)「……先日、病でこの世を……」

( ^ω^)「……辛い事を、聞いたお」

やはり、まだ若い娘だ。
大切な人を失った傷跡は、そう簡単に癒えるようなものではないだろう。

だが、次の瞬間顔を上げた彼女の表情には、そんな悲しさばかりではなかった。

527名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:38:02 ID:QIfJHTTE0

ノルマ゚ー)「でも、私その分───精一杯生きるって決めたんです!」

ノルマ^ー)「夢を見て生きて、元気に明るく過ごして───それが、父さんの一番の願いだっていうから!」

( ^ω^)「……おっおっ!そうだお、イームズさんも、きっとそれを望んでいるお!」

ノルマ゚ー)「はい───それで、これ。父から預かってきたんです」

( ^ω^)「おっ?」

彼女の手から受け取った麻袋は二つ。
芳しい香りを放つパンと、若干の銀貨が詰まったものだった。

その袋の口を留める麻紐の端には、それぞれ一輪の花が結わえられていた。

528名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:39:59 ID:QIfJHTTE0

ノルマ゚ー)「父が、この150spをブーンさんに渡してくれって。父の荷物を片付けている時に、出てきたんです」

( ^ω^)(………イームズさん)

ノルマ^ー)「本当は300sp渡す予定だったけど、”ブーンさんは何もしてないから報酬半額だ”……って」

( ^ω^)(ズコーーーーッ!)

ノルマ゚ー)「あと、もう一つは私の主人と、この街で開くパン屋の新商品なんです。気に入ったら、店にも来て下さいね!」

( ^ω^)「ありがとうだお───美味しく頂かせてもらうお」

ノルマ^ー)「……っ、それじゃ、私はこれで!」

「やっぱり、何の憂いも必要なかったようだお、イームズさん」
心の中で、今この瞬間も彼女の姿を見守っているであろう彼に、心の声を投げかけた。

彼女は、彼女たちはこの町で明るく、そして強く生きていくだろう。

529名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:41:17 ID:QIfJHTTE0

去り際に彼女は一度振り返ると、またブーンがぎょっとするような問いを投げかける。

ノルマ゚ー)「あのっ、ブーンさん……私たち、どこかで会った事ありません?」

(;^ω^)「むふッ!?ぶひっ……そ、そうだったかおねぇ?」

ノルマ-ー)「思い違いかな?───なんだか、そんな気がして……」

( ^ω^)「………案外、どこかですれ違ってるかも知れないお」

ノルマ゚ー)「そっかぁ。でも、この街にいる以上───また会いましょうね!」

( ^ω^)「うん───また、会おうお」

元気に大手を振って宿を後にしていく彼女の後ろ姿をいつまでも見守っていたブーンの肩を、
これまでの話をあんぐりと口を開けながら呆気に取られて聞いていたパーティーの面々が、つんと叩いた。

530名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:42:39 ID:QIfJHTTE0

爪;'ー`)y-「お、おい……ブーンよぉ」

(´・ω・`)「会話の端々から、ブーンの言っていた人物の名前が聞こえたね」

ξ;゚⊿゚)ξ「ま、まさかあんた───本当に死んでたの?!」

(*^ω^)「―──おっおっ、だから言ったお!少しは驚いたかお!?」

得意げにするブーンの様子に、また面々は少し白けてしまうが、
たまたま彼らの席の横を通りすぎた仕事中のデレが、ブーンが手にする麻袋の留め紐に気付いた。

ζ(゚ー゚*ζ「あ、その花………この辺りじゃあまり咲かないんですよ?」

( ^ω^)「……おっ?」

ζ(゚ー゚*ζ「”蓮華草”って、ほのかな薄紫色が綺麗ですよね」

「花言葉は───何だったかなぁ」

531名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:43:40 ID:QIfJHTTE0






   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

             第7話

           「魂の価値」

532名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:45:02 ID:QIfJHTTE0



「あっ……思い出しました!」




──────「蓮華草」



           花言葉は─────




───────”私の幸福”―――――――

533名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:47:16 ID:QIfJHTTE0



   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

              第7話

            「魂の価値」


             ―了―


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