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( ^ω^)ヴィップワースのようです 幕間 「愚かさの歴史」

563名も無きAAのようです:2012/04/09(月) 01:23:29 ID:xEwgjE/Y0


   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

             幕間

         「愚かさの歴史」

564名も無きAAのようです:2012/04/09(月) 01:24:28 ID:xEwgjE/Y0

この大陸に住み暮らす一部のヒノモト人の中で、今でも伝説と語り継がれる人物が、かつて居た。

大陸民達にとっては得体の知れぬ信仰だとして、当時より畏怖の眼差しを向けられていた、”ブッ教”
だが、それを心棒とする敬虐なブッ教徒達の間には、時として”聖ラウンジの奇蹟”と同じように
正しく”東洋の神秘”と呼ぶほか無い、奇跡を起こし得る術の数々を扱える者も居た。

やがて大陸との交易が始まり、移民船の発着が盛んになってからは、ヒノモト人の多くもまた
様々な夢を馳せて広大な大陸へと移住していったのだが、ブッ教徒達の大半は生まれながらのヒノモトの地で
残りの生涯を費やし、ブッ教徒としての道を極める為に過ごしていった。

だが、”東洋の神秘”を身につけた者達の中でも一際に一目を置かれていた、その彼だけは違ったのだ。

「どこに居ようとも、俺自身には何の変わりも無い」

「広大な地へ飛び込み、挑戦し───新たな風をブッ教に吹き入れてやる」

565名も無きAAのようです:2012/04/09(月) 01:25:34 ID:xEwgjE/Y0

”ティーサン=ビンセンツィオ”

ヒノモトに居た頃の名と同じであるかは不詳だが、少なくとも大陸に来てからは、
ずっとその名を名乗っていた。それはもしかすると、彼自身が考えた仮の名前であるかも知れない。

( T)「破あぁぁぁぁぁぁぁーーーッ!!」

保守的で穏健派なブッ教徒達の中では特に型破りな男であったが、多くの信望を寄せていた。
何ものにも囚われない奔放な彼の振る舞いは、時に大陸民達から奇異の目で見られる事もあったが。

その彼の”禍払いの力”は、当時のブッ教徒達の中でも他に比肩する者がいない程に強力で、
現役の聖ラウンジ司祭ですらが手に余す程の怨嗟深き強力な悪霊退治に乗り出しては、
彼に助っ人を頼んだ冒険者達の羨望を集める日々が続いていた。

「すげぇ………これだけの亡者どもを、一瞬で……」

566名も無きAAのようです:2012/04/09(月) 01:26:23 ID:xEwgjE/Y0

( T)「───ふっ、やれやれ。ちょっとばかり肩肘張りすぎたか………明日の依頼は、やんぴだな」

「な、なぁティーサン!どうしたらアンタみたいになれるんだ?」

( T)「……そうだな────”困難”という壁の前に、立ち止まらない事……かな」

「これが噂に名高い、”東洋の神秘”ってやつか……」

「ティーサン!アンタさえ良ければ、是非俺達の正式な仲間に───」

( T)「それも─────いや」

言いかけて、小さく首を振ったティーサンが、彼自身に助っ人を依頼した面々に言い放った。
そして既に、ティーサンはそんな彼らに背を向けながら、歩き出していた。

567名も無きAAのようです:2012/04/09(月) 01:27:03 ID:xEwgjE/Y0

( T)「悪いが………まだまだ、退治しなくちゃいけない奴らを待たせてるんでな」

次に自分を必要とする者達の元へと───恐らくは待ち受けているであろう、更に強力な怪異達の元へ向けて。

( T)「この辺りは昔暴虐な領主による大規模な虐殺があった場所だ……
     死霊どもに身体を明け渡してやらないよう、気を付けろよ───」

颯爽と去って行く彼の背を見送りながら、決まって皆が────こう口を揃えるのだった。

「………”寺生まれって、すげぇな”………」


───────────────


──────────


─────

568名も無きAAのようです:2012/04/09(月) 01:27:47 ID:xEwgjE/Y0

大陸で数々の依頼をこなす傍ら、不浄な地に縛られた哀れな霊魂を、彼は救い続けた。
それは、ティーサンが大陸の地に降り立ってから、実に十数年の時が流れるまでの間を。


そして、晩秋。


「困難という壁の前に、立ち止まるな」

これまでもそう口にしてきたティーサンの前には、今─────
恐らく生涯で初めてと言っても良い程の困難が、立ちはだかっていた。


「あ……ティ、ティー………さ……」

( T)「キンバリーッ!?、マッケンジーッ!?」

569名も無きAAのようです:2012/04/09(月) 01:28:34 ID:xEwgjE/Y0

地下迷宮と化した、失われた古代魔法国家の墓の中に、ティーサンは数名の冒険者達と共に飛び込んでいた。
そしてその最も奥深き場所では、まさにティーサンの目の前で惨劇が繰り広げられる。

これまで他者を助ける事にこそ、その一点に生涯の大半を費やしてきたティーサンにとっては、
仲間たちが次々と倒れて行く光景を見せつけられるというのは、自らをも許しがたい光景だった。

口では救いを求めながらも、”王”の魔力にあてられ、次々と不死者へと変貌を遂げゆく仲間たち。
強烈な魔法によって命を落とした所に、死霊術によってその亡骸を辱められていったのだ。

もはや瞳に光を灯さない仲間達の姿は、ティーサンの拳を怒りで打ち振るわせた。

( T)「──────二人共………今、そこから”助け出してやる”からな」

(………さて、これで残るはお前一人だ───”東洋の奇術師”………)

570名も無きAAのようです:2012/04/09(月) 01:31:05 ID:xEwgjE/Y0

数多の亡者を束ねる”不死者の王”が、暗く、低い声で言葉を投げかける。
王は死して尚も、並の魔術師を束で当てても蹴散らせるだけの、強大な魔力を有していた。
恐らく力という一点においては、ティーサンもまたこの時、王には及んでいなかったはずだ。

─────それでも。

( T)「許してくれ、とは言わないぞ……二人共────破ぁぁッ!!」

ティーサンの術によって、仲間だった二人の不死者の肉体が、砂塵と化して消え行く。
やがて不死者となってしまった仲間の姿がこの場から完全に消え失せるのを見届けてから、
鋭い眼光を不死者の王へと向けながら、拳を固く握り締めて顔を上げた。

その細めた目の奥には、少しばかりの哀愁を漂わせて。

( T)「これでまた、死ねない理由が一つ増えたな────」

571名も無きAAのようです:2012/04/09(月) 01:31:59 ID:xEwgjE/Y0

(………お前の術は、なかなかに面白い。興味が沸いた、歯応えの無かった先の二人と、違ってな………)


( T)「………」


ティーサンはその言葉を、怒りの感情と共に己の胸に刻み込む。
憎悪に身を任せるのは、確かに簡単だ─────

だが、激昂してがむしゃらに攻め立てた所で、崩せるような壁では無いのだ。
だからこそ喚き散らしたい欲求を抑えて、怒りの感情をも、それすらも。

この場での勝利への執念だけを追求する、その為の力へと、換えた。


( T)「”オッサム王”─────いや、”オサム”よ」

572名も無きAAのようです:2012/04/09(月) 01:32:46 ID:xEwgjE/Y0

(………人間如きが軽々しく我が御名を口にするなど、万死を以っても購えぬ罪ぞ………)

( T)「貴様こそ、後悔するんだな………この俺を───”本気で怒らせちまった事”を」

(………来るがいい、存分に………)

(#T)「………亡国の王よ───自らの愚かさが招いた滅びの歴史と共に、再び眠りにつくがいいッ!」




─────「破あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーッッッ!!」─────










573名も無きAAのようです:2012/04/09(月) 01:33:38 ID:xEwgjE/Y0

その後、王国の跡地であった付近の村に災厄を振り巻いていた王の呪いから、人々は解き放たれた。

”ティーサン=ビンセンツィオ”

その名を知る者は少ないが、少なくともこの大陸の歴史の中の一つに、彼の名は確かに刻まれている。

古代魔法国家オッサム────その王の魔道死霊を封じた碑石は、
王国の跡地である村の中心部にひっそりと佇み、今ではその存在は忘れ去られようとしていた。

その後のティーサンの消息を知る者は、一人としていない。
王を封じると共に力尽き、彼の英霊は地下迷宮の奥深くに亡骸と共に眠っているのか────
一時期彼を知る人々の間に囁かれた噂話では、そのような説も駆け巡っていた。

しかし、決して一箇所には留まらない彼の事だ。
あるいは、この地の人々の安堵を見届けてから────また見知らぬ地へと旅立ったのかも知れないが。

574名も無きAAのようです:2012/04/09(月) 01:34:44 ID:xEwgjE/Y0

ティーサンと、そして命を賭した仲間たちとが作り上げた、今日までのこの地の安寧。

それは、長かったか、短かったか。
長い歴史から見れば、それこそ一瞬の瞬きであるかも分からない。

だがその平穏な日々は─────今、再び崩されようとしていた。



( <●><●>)(これは───また………難解、ですね)


暗き思想を持つ、一人の魔術師の手によって。


( <●><●>)(ですが、この私にかかればこの程度の封印式の解呪など)

575名も無きAAのようです:2012/04/09(月) 01:35:43 ID:xEwgjE/Y0

村を訪れたよそ者である彼は、夜も更けた頃合を見計らって、
ひっそりと宿を抜け出すと今、その場所に居た。

かつて封じられたオッサム王の霊魂が眠るという、その石碑の前に。

ある分野においては、彼もまた非凡な才を持ち合わせる術者であったのだ。
何よりも己の思想を追求したが故に、世間からは見放され、今では世を忍ぶ立場となっているが。

( <●><●>)(……ふふっ……もうすぐ)

石碑に何度か手をぺたぺたと触れながら、小さな松明を灯りにして一つ一つ、
その封印式の形を目で追う。瞳を輝かせながら、恍惚とした表情を浮かべて。

彼の探し求めるものは、醜く歪んだ欲望と言えるだろう。
”遍く不死者達を従える”───そしてそんな世界の、王たらんとするのだから。

576名も無きAAのようです:2012/04/09(月) 01:36:25 ID:xEwgjE/Y0

( <●><●>)「─────?」

不意に、魔術師は微かな違和感を覚えて振り返る。
ちらちらと辺りに視線を這わせたが、ひっそりと佇む寂しい村の景観の他には、何も変わりはない。
一寸首を傾げたのは、何か釈然としないものを感じたからなのだろうか。

少し周囲への警戒を強めてからまた封印式の解読作業に戻った彼だったが、それは違和感などではなかった。

(………愚鈍な事だ)

誰も居合わせないはずの広場には─────
その実、彼の後姿をはっきりと捉えている、二つの瞳が光っていたのだ。

そして、彼もまた崇高に歪んだ理想の持ち主であった。
かつて稀代の天才魔術師との呼び声もありながら、その一切をかなぐり捨てて。

577名も無きAAのようです:2012/04/09(月) 01:37:45 ID:xEwgjE/Y0

( ・∀・)(未だに気付く片鱗すら見せないとは。始末するのは……まだ、早いか)

誰もが、二度と気付く事もなかったはずだった。
たとえそれが、普段から目の前にあるものであっても。
一つのきっかけさえなければ、そのはずだったのだ。

歴史の闇に葬られた、遺物。
偶然にも互いを見知らぬ魔術師達は、時を同じくして二人共がそれを求めていた。
決して触れてはならないものに─────いや、だからこそ、なのかも知れないが。

幾年、幾百年もの歴史の中で、常に人は過ちを起こしては、それを省み続けて来た。
その正と負の連鎖はこれまでも存在し続け、これからも存在し続けるだろう。

禁忌を冒すという事にこそ、人の過ちの歴史があるのだから。

578名も無きAAのようです:2012/04/09(月) 01:41:39 ID:xEwgjE/Y0



   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

              幕間

           「愚かさの歴史」


             ―了―


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