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( ^ω^)ヴィップワースのようです 第8話 「血界の盟主(1)」

585名も無きAAのようです:2012/04/25(水) 22:17:59 ID:WL6rGXRc0



───交易都市南西部 サウスパックの町───



(;'A`)「……ハッ、ァッ……」

べったりと頬に塗られた血の温かみが、額に浮き出た汗の感触と共に沸き上がってくる。
急速に脈打つ心拍を諫めるべく、ゆっくりと大きく、肩で呼吸をしながら天を仰いだ。

瞳を閉じると、ようやく呼吸が落ち着き始めてきたようだ。

( ∵)

ふと、足元の血溜まりに転がるナイフの傍に倒れ込む、3人の亡骸に視線を落とした。

(;'A`)(まさか……昼の街中で襲われるとは思っても見なかったぜ)

586名も無きAAのようです:2012/04/25(水) 22:19:01 ID:WL6rGXRc0

肩がすれ違うその一瞬、振るわれるナイフへの反応が少しでも遅れていれば、
今こうして呼吸をしている自分はこの場に居なかっただろう。

刺客の存在に気付き、人目につく事を避ける為にこの路地裏へと逃げ込んだのが罠だったのだ。
待ち受けと背後からの奇襲に加え、狭い場所で三人もの敵を始末するのには、多少骨が折れた。

流石に無傷という訳にもいかず、刺客たちの手荷物を漁ってはみたが、
案の定、僅かな銀貨の他に余分な物は、一つとして持ち合わせていなかった。
暗殺に失敗した時、万が一自分の身元を明かすような事があってはならない為だ。

('A`)「……はぁ」

薄らと群青の衣服の脇下が裂かれ、その下からは血の滲む素肌が露出している。
傷口が熱を持ってじんじんと響くような苦痛を与えてくるが、これには耐えるしかない。
幸いにして、止血しなければ命に関わるような怪我でもないのだから。

それよりも、今は先にすべき事があるのだ。

587名も無きAAのようです:2012/04/25(水) 22:23:06 ID:WL6rGXRc0

恐らくこの刺客達が連絡に戻らない事が知れれば、また付近を探りに来るはずだ。
そうなる前に早い所町を抜けて、死角となりそうな宿営場所を見つけておかねば。

出来ればその道中で薬草の類でも手に入れて、
この憂鬱な気分にさせてくれる傷口も手当てしてやりたい所だ。

('A`)(大きく南西の村々を迂回して、と思ったが……張り巡らせてやがるな)

ドクオ本人の考えと動きは、彼が今付け狙う対象に感づかれていたのだ。
幼年期の尤も多感な時期に、自らを優秀な人殺しとして育てるために従事させたかつての主。
”黒き手”と称えられたエクストに、なまじ尤も近しい存在として行動していたが為に。

各町々に、恐らく数人ずつの捜索役を置いて、それぞれに連携を持たせているのだろう。
このサウスパックの町からの連絡が途絶えた事が知れれば、恐らく次にドクオが現れるであろう
場所には、更に強固な布陣が敷かれる事になるはずだ。

588名も無きAAのようです:2012/04/25(水) 22:24:04 ID:WL6rGXRc0

('A`)「正々堂々、宣戦布告しておいてやったんだ───ま、気付いて当然だわな」

その一員として、長く身を置いてきた暗殺者ギルド。
普通の神経ならば、一度足抜けしたのならば決して組織の目が届かぬ場所へと逃げようとするはずだ。

だがドクオはまさに、真っ向切って一度は歯向かった彼らの只中へ、舞い戻ろうとしていた。
長であるエクスト=プラズマンの命を、自らの贖罪の為にと捧げるため────

組織を敵に回す決意をしたあの時の自分を、たまにふと振り返る───

故郷の酒の味にやられて、考えが飛躍し過ぎていたのだろうか。
あるいはしたり顔で御託を並べた、あの生意気なこそ泥の言葉に引き上げられてしまったのかも知れない。
酔っ払った勢いで、暗殺者の長への鉄の誓いを破るなどという話は、大層な笑い話にも思えるが。

589名も無きAAのようです:2012/04/25(水) 22:25:16 ID:WL6rGXRc0

完全に呼吸が落ち着いた所で立ち上がり、足早に路地を去ろうとした時、一人の少女と目が合った。

「あ───その、傷」

('A`)「………!」

衣服の端が切り裂かれているのに目を留めた少女は、そっとドクオの傷に手を出そうとした。

以前までの自分ならば、自分の背に転がる死体を見られる事を恐れ、すぐさま少女の口を塞ぎ、
否応なしにその首元にナイフの刃を突き立てていた事だろう。

しかし、何か言葉を言いかけた少女をその場に残して、視線を合わせる事もせずに立ち去った。
その背中に視線を送っていたであろう少女が、路地裏に転がる死体に気付いて絶叫したのは、ややあっての事だ。

「───ひっ、いっ……きゃああぁぁぁぁぁッ」

590名も無きAAのようです:2012/04/25(水) 22:29:13 ID:WL6rGXRc0

その場に集まってくる人ごみの群をかき分けながら、ドクオは静かな笑みをその口元に浮かべる。

もう、”自分に向かってくる敵以外を殺さなくて良い”という解放感が、彼に妙な昂揚を齎していた。
決して殺しを重ねる事への愉悦などではないが───それでも、楽しみなのだ。

エクストの元へ近づくにつれ、自らを囲繞しているこの心の牢獄から、解放されていくような気がして。

彼を知る第三者が今のドクオの姿を見ていれば、その行動原理にこんな印象を受けるだろう。
「あいつはもう、殺す事にも、手を血で染める事にも疲れていたんだろう」と。
他者からすれば、今の彼は確かに自分の死に場所を捜し求める歩く死人にしか映らない。

しかし、今のドクオを突き動かすものは、ただ一つの執念なのだ。

591名も無きAAのようです:2012/04/25(水) 22:29:55 ID:WL6rGXRc0

('A`)(……でぃ……エクスト……待ってろ)

記憶の墓場から掘り返された、闇に身をやつす前の自分の、忘れ形見。

狂気の色が混じった茜色の原風景は、最近になって時たま脳裏を掠める。
あの時この手に染み付いた感触を拭う事など、二度と出来はしない。

育ての親であるエクストを殺す、それ以外の事では。

その為にこそ───贖罪の為にこそ。
自分の命を取っておいている理由は、そんな極めて単純なものだ。
ドクオ本人以外には、到底理解されようもないが。

ゆっくりとではあるが、確実にドクオの足は────エクストの元へと近づきつつあった。

592名も無きAAのようです:2012/04/25(水) 22:31:04 ID:WL6rGXRc0
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 ヴィップワース第8話




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593名も無きAAのようです:2012/04/25(水) 22:31:50 ID:WL6rGXRc0

(;^ω^)「───ツン!そいつから離れるおッ!」

ξ; ⊿ )ξ「……ッ」


ツンが、それに手を触れようとした時だった。

一瞬の輝きを放ったのは、純然たる野性を残した獣の牙。
それが、開けられた口元で妖しい殺気を孕んでいたのに気付いたブーンが、一も二も無く駆け出す。

「ぐるるるる」

ブーンの声と、その動きが、反射的に獣の野性を突き動かしたのかも知れなかった。
恐らく彼にしてみれば尤も避けたいはずの事態だが、やがてそれは目の前で巻き起こった。

「……きゃッ」

小さく聞こえたツンの悲鳴が、ブーンの激情を駆り立てる。

594名も無きAAのようです:2012/04/25(水) 22:32:37 ID:WL6rGXRc0

見れば獣の牙は、ツンの手の甲へと突き立てられていたのだ。
決して離さず、”このまま噛み砕いてやる!”とばかりに。

(#^ω^)「───ツンッ!?」

ξ;゚⊿゚)ξ「………!」

間に合わなかった。
少しだけ、駆け出すのが遅れてしまったのだ。

柔肌の表面を喰い破ってしまった獣の牙がもたらす痛みか、ツンは血の流れる己の手を、
まるで自分の身体とは思えないという風に傍観していた。

気付くのが少しでも早ければ────彼女から離れてしまっていたブーンは、
そうやって悔やむ感情さえも後方へと置き去りにして、ただツンの元へと駆けた。

「わおぉぉぉんっ」

595名も無きAAのようです:2012/04/25(水) 22:33:23 ID:WL6rGXRc0

ツンの手へ齧り付いた事への満足感からか、獣が吼える。
そうして、気力も削がれて無抵抗のままのツンへと、再び獣の牙が───

ξ ⊿ )ξ

(#^ω^)「───やめるおぉぉぉーッ!」

だが、ブーンがそう叫んだその時、ツンの後ろにはいつの間にか一人の男の姿。

爪'ー`)「……おいたは、そこまでにしときな」

獣の腹あたりへ手を差し入れると、その身体をひょい、と軽く持ち上げる。
そのまま自身の腕の中へと抱え込むと、手のひらの裏でそいつの喉あたりを撫ぜた。

(;^ω^)「……ふぅ。サンキューだお、フォックス」

爪'ー`)「おーおー、こんなに怖がっちゃって。可哀相になぁ」

596名も無きAAのようです:2012/04/25(水) 22:37:35 ID:WL6rGXRc0

▼#・ェ・▼「……ワフゥッ、ワンッ!」

その、小さく耳の垂れた白い”犬”を抱える彼の元へ、
少しだけ息を切らせた様子のブーンが駆け寄った。

────これにて、依頼は完了だ。

ブーン達は元々、依頼をこなす為に目的地へと向かっている最中だったのだ。
その道すがらで一人の男に泣きつかれて渋々請け負ったのが、この「飼い犬探し」の依頼。

犬を散歩させている最中、突然野原で走り出して行方が知れなくなった、というのが事の経緯だ。

突発で舞い込んできたもので、労力に対する見返りを考え眉間にしわを寄せるブーンらを放って、
困り果てた飼い主を見るに見かねたツンが割って入ると、強引に聞き役として受諾してしまったため、
こうして彼らにとっては不本意ながらも、道中でまた予期せぬ仕事をしてしまう羽目になった。

597名も無きAAのようです:2012/04/25(水) 22:38:53 ID:WL6rGXRc0

(´・ω・`)「終わったようだね」

三人の姿を尻目に近くの木陰で悠然と読書をしていたショボンは、
依頼内容を済ませた事を確認すると、ぱたりと読んでいた書物を閉じて立ち上がる。

衣服の端に付いた雑草を払っている彼のすました表情に、ブーンが突っ込みを入れた。

(;^ω^)「いやいや……手伝えお。ショボン」

(´・ω・`)「僕は君たちより体力もないし……有事の際の為に温存しておくのが賢明かと、ね」
       ───それより、彼女から君に話がありそうだけど?」

ξ#゚⊿゚)ξ「………ブーン」

(;^ω^)「へ?」

恨みの篭った眼差しが向けられていた事にブーンが気づくと、ツンはゆらりと立ち上がる。
自身の手の甲に出来た真新しい噛み傷をブーンの前に見せ付けては、その表情に激情を浮かべた。

598名も無きAAのようです:2012/04/25(水) 23:13:57 ID:WL6rGXRc0

ξ#゚⊿゚)ξ「───いきなり大声上げんじゃないわよ!死にゃあしないってのに!」

(;^ω^)「ぶ、ブーンはツンの身を案じて………」

ξ#゚⊿゚)ξ「折角私の手元に懐いて来てたのに、アンタがこの子を驚かすから───これ!この傷!」

(;´ω`)「う……ご、ごめんだお」

爪'ー`)(うんうん、そうだな……怖いよな、あの姉ちゃんな)

▼*・ェ・▼「キャンッ」

ξ#゚⊿゚)ξ「何か言った!?」

爪'ー`)「いいや?」

599名も無きAAのようです:2012/04/25(水) 23:18:39 ID:WL6rGXRc0

「──おぉ、パス……!パスカル……見つけてくれましたか!」

不意に、そんな一同の後方───内輪揉めを繰り広げる二人の様子を傍目に、遠くから呼ぶ声がした。
フォックスがそれに応えると、息も絶え絶えになりながら依頼人が駆け寄って来る。

爪'ー`)「それ、お前のご主人様だぞ?」

▼*・ェ・▼「ワンッ ワンッ」

最後に犬の頭をくしゃくしゃに撫でてから、フォックスは抱えた子犬を地面へ下ろすと
一直線に駆け出して行こうとする犬の尻を押しやって、飼い主の元へと放った。

「あぁ、ありがとうございます。冒険者の方々!」

爪'ー`)「お安い御用さ。こいつぁ、まぁ手間賃代わりにもらっとくよ」

剥き出しの銀貨、報酬である30spをフォックスの掌に握らせると、
依頼主は面々に対して何度も頭を下げて感謝を述べた。

600名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 00:33:27 ID:ShYYLLxE0

爪'ー`)「これを機会に、今後困った事があったら”失われた楽園亭”のフォックス一行まで頼むぜ」

「凄腕の冒険者パーティーだって、噂を広めといてくれよ」
冗談めかしにそう言って、ぺこぺこと頭を垂れながら帰路へと着く依頼人の背中を見送る。
踵を返しブーン達の方へ振り返ると、そこではまだツンによる叱責が行われていた。

ξ#゚⊿゚)ξ「ホンットに……レディに対してなってないわねアンタは。男なんて別に傷だらけでもいいけどさ、
      乙女の柔肌ばっかりはそういう訳にいかないのよ───分かる!?」

(;´ω`)「…仰る通りですお…」

爪'ー`)「まだやってらぁ。疲れないのかねぇ……」

(´・ω・`)「寧ろ、見ているこっちが疲れる気さえするよ」

その後、また旅路を歩き始めた一同だったが、フォックスとショボンの後方では暫くもの間、
ツンに残された怒りの残滓がブーンへと向けられ、きつい罵りの言葉と共に彼を打ち据えていた。

601名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 00:38:41 ID:ShYYLLxE0

───────────────


──────────


─────



今回の依頼の発端は、半日ほど前の朝にまで遡る。


───【交易都市ヴィップ 失われた楽園亭】───


( ^ω^)「あー……よく、寝たお」

曇天の空模様ではあるが、雲間から差し込む僅かな西日が、寝覚めを誘った。
身体を伸ばしながら大きな欠伸をすると、窓の下では早くも宿を出入りする同業者達の姿が見える。

602名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 00:39:49 ID:ShYYLLxE0

ブーンにとってはとんだ休日となってしまった、先の四日間が空けた。
ようやく今日からは、また全員でパーティーとして動いて行けるという日が訪れたのだ。

思えばこの頃は巻き込まれるような形での”思わぬ依頼”ばかりだと、
仲間内では前日までにもよく卓を囲んで話していた。

様々な人間の思惑が絡んだ黒い事件の背景などには、確かに予期せぬトラブルも付き物ではあろう。
けれどこの面々の行く先々で死霊や妖魔の類に出くわすのは、単純なツキの無さが原因かも知れない。

こんこん、と、不意に部屋の戸を叩く音があった。

( ^ω^)「……おっ?」

「入るわよ」

ブーンが返事をする間もなく、扉を開けると同時に声の主は部屋へと入って来た。
もちろん身構えるまでも無い、気の知れた相手だ。

603名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 00:42:15 ID:ShYYLLxE0

ξ゚⊿゚)ξ「……不用心ねぇ。ちゃんと鍵かけときなさいよ」

( ^ω^)「おはようだお、ツン」

ξ゚⊿゚)ξ「おはよう───って、今日はブーンにしては早い方ね。久しぶりに朝の挨拶交わした気がする」

( ^ω^)「こないだ沢山寝すぎたからだお。そいつはもう言わないでくれお……それより」

ξ゚ー゚)ξ「冒険に出たくてうずうずしてる、って顔ね?」

(*^ω^)「おっおっ。そうだお、今日はどんな依頼が来てるのかおねぇ?」

ベッドから飛び上がるようにして身を起こすと、ようやくブーンは荷物の点検を始めた。
自室の扉に背中をもたれて腕を組むツンと会話を交わす傍ら、今日からの依頼へ向けて旅支度を整えてゆく。

604名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 00:43:05 ID:ShYYLLxE0

ξ゚ー゚)ξ「今日は結構依頼が多いみたいよ。さっきからフォックスとショボンが選んでるけど、
      もしかしたらもう二人が決めちゃってるかもね」

(  °ω°)「なぬッ!?」

ξ///)ξ「ちょっ……!」

「そいつはイカンおッ」と叫ぶや否や、猛烈な勢いで寝巻きを脱ぎだしたブーンは、
ツンの目も憚らずに、麻で編み込まれた衣服へと素早く着替えを終えた。

駆け出してツンを扉の横へと押しやると、そのままけたたましく階段を駆け下りて行く。

(リーダーの僕を差し置いてぇぇぇ───)

悲鳴交じりなその声は、一人残されたツンの耳には遠く聞こえた。

ξ-⊿-)ξ「全く……子供みたいね」

605名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 00:44:13 ID:ShYYLLxE0

その場で肩をすくめたツンがブーンの部屋を立ち去ろうとした時、
ベッドの傍の机に置かれた、一枚の手紙が目に留まった。

ξ゚⊿゚)ξ「うん?」

つい、悪いとは思いつつも、やけに気に懸かったのだった。
大雑把で能天気と言う他無い冒険者のブーンがこんなまめな事をしてまで、宛てる相手の事が。

ξ゚⊿゚)ξ(………)

心の中で彼とヤルオ神に対し謝りながらも、封筒からはみ出たその便箋の
端を掴むと、ツンはちらりと手紙の内容を盗み見た。

それには、随分と改まった丁寧な言葉がしたためられている印象を受ける。

差出人と宛名は書かれていなかったが、角ばって所々の文字の大きさがまばらな
この雑な筆跡は、恐らくブーン本人が書き込んだものであろうと思われる。

ξ゚⊿゚)ξ(誰に宛てた手紙……なのかしら)

606名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 00:45:23 ID:ShYYLLxE0

まだ書いている途中なのか、あるいは書き損じたのかはわからないが、文章は途中で途切れていた。

一方的な語り口調で自らの近況を告げる文の中には、時に相手の身体を気遣うような言葉も見られる。
久しく会っていない人物へ向けての友情か、あるいは愛情なのか。

どちらにせよ、その手紙には、何かしらの想いを込めてしたためられた手紙のように感じられた。

ξ;゚⊿゚)ξ「……うー、ごめん」

普段は繊細さなど微塵も感じられないブーンの立ち振る舞いであったが、彼もまた
ショボンやフォックス、あるいは自分と同じように───何か背負ったものがあるのではないか。

そう思ってからは手紙を盗み見た事に対しての罪悪感が沸き起こり、誰に聞かれるでも無く呟くと、
元あった机の上の封筒の中へ、ツンはそっとその手紙を戻した。

ξ゚⊿゚)ξ「私も、準備しとかなきゃね」


これは、また別の話なのだが─────

607名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 00:46:10 ID:ShYYLLxE0

────この手紙が宛名の本人の元へと届く事は、決して無い。


たとえそこに、宛名が記されていたとしても。
たとえ差出人の名に、ブーンの名前が書き加えられていたにしてもだ。

それはツンにも、そしてこの手紙をしたためたブーン自身もが知らぬ事実なのだ。








608名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 00:46:55 ID:ShYYLLxE0

どたどたと階段を下りての開口一番が、この有様だ。

(;`ω´)「フォックス!ショボン!……このリーダーを差し置いて、良い度胸してるお!」

客こそ少ないが、まだ出立前の冒険者なども待機している1階の酒場にて喚いた。
そのブーンの方を見て、客たちは「またか」というような表情を浮かべるあたりは、
そろそろこの楽園亭でも、彼らの顔は慣れ親しんだものになりつつあるようだ。

爪'ー`)y-「あぁん?いつお前がリーダーに就任したんだよ」

(´・ω・`)「僕たちで候補は絞っておいたさ。後は、いつも的確な判断を下してくれる
       このパーティーのリーダー殿に預けるとしよう」

売り言葉に買い言葉の二人だが、どうやらいくつかの依頼を拾い上げておいてくれたようだ。
突発で依頼が張り出される事もあるが、一日の内ではこの早朝一番に届く依頼が最も数多いのだ。

609名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 00:49:41 ID:ShYYLLxE0

寝坊などという失態で、朝一番の美味しい依頼を逃すような事はあってはならないが、
ブーン自身は野営中に見張り交代の番が巡って来ても寝こけるぐらいなので、本人にとっては大助かりだ。

マスターが仕込みの作業をしている対面で、二人が拾っておいた数枚の依頼状を並べた。

( ^ω^)「ふぅ……焦ったお。どれどれ?」

爪'ー`)y-「俺のオススメはこいつだな、”地下洞穴の財宝探し”」

(´・ω・`)「依頼とは名ばかりで、単なる労働要員として駆り出される光景が浮かぶよ」

( ^ω^)「……うーん、他のは何かお?」

爪'ー`)y-「ロマンのねぇ連中だぜ……ったく」

(´・ω・`)「これはどうだい。”古代墓地に眠る失われた石版”」

610名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 00:50:48 ID:ShYYLLxE0

( ^ω^)「石版?これも何かのお宝なのかお?」

(´・ω・`)「古に使われていたという、力を持つ言霊を記した石版が隠されているらしい」

爪'ー`)y-「なんかよ……また湿っぽい場所で不死者どもとやりあうのは、しばらくは御免だぜ?」

(´・ω・`)「ま、個人的な興味本位だ。却下されるとは思っていたよ」

( ^ω^)「うーん……いまいちそそられる依頼がないおね」

思ったよりは良さげな依頼がない事に、ふぅ、とブーンは鼻息を鳴らした。
今はツンを入れて4人の大所帯となっているのだ。

加えて、予期しえぬ危険な依頼に巻き込まれながらも、無事に終えた実績もある。
一人の時には命の危険という事が掠めて考えられなかったが、今は試してみたくもあった。

611名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 00:51:33 ID:ShYYLLxE0

( ^ω^)「多少、難度の高めの依頼はどうかおね?」

(´・ω・`)「まぁ僕らは良しとしてもだ。ツンを同伴している事を忘れちゃいけないよ、ブーン」

( ^ω^)「……だおね」

フォックスが、また壁面の依頼状を覗きに席を立つ。

爪'ー`)y-「高めねぇ───」

爪;'ー`)y-「うぉッ」

( ^ω^)「?」

何やら一際大きくでかでかと張り出された一枚の依頼に、釘付けになっていた。
それを壁から引っぺがすと、見せびらかすようにしながら持ってきた。

612名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 00:54:48 ID:ShYYLLxE0

爪'ー`)「ま、見てみろよ」

そしてまず、目に飛び込んできた報酬の額に、我が目を疑う。

(;^ω^)「さ……3000sp!?」

(´・ω・`)「それはまた───家でも買えそうな報酬額だね」

(;^ω^)「一体何をしたらこんなバカ高い報酬がもらえるんだお?」

依頼状を手に取って、そこに書かれた文字へ視線を走らせる。
法外な報酬には驚いたが、どうやらそれも頷ける内容のようだ。

(´・ω・`)「どんな内容なんだい?」

爪'ー`)「おっ、お前さんも少しは興味が沸いたか」

(´・ω・`)「もちろん、内容次第だけどね」

613名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 00:57:24 ID:ShYYLLxE0

爪'ー`)y-「───どうだ?ブーン」

( ^ω^)「……おっ」

尚も、食い入るようにして書状の中身を確認していたブーンが、
一言をぽつりと呟くと、そこで言葉を詰まらせた。

( ^ω^)「場所が”マドマギアの街”、討伐対象は───」

( ^ω^)「………!」

依頼内容の最後の下りまでを読み終えたブーンの指に、かすかに力が篭った。
その彼の様子に、フォックスが茶化すようにへらへらと笑いながら言った。

爪'ー`)y-「びびったろ」

(´・ω・`)「………何なんだい?」

( ^ω^)「”吸血鬼”」

614名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 01:06:28 ID:ShYYLLxE0

(´・ω・`)「!」

それを聞いたショボンが、ブーンの手からその紙を引っ手繰るように手に取った。

内心驚きを隠せなかったブーン同様に、ショボンもまた真剣な面持ちで
依頼の内容を確認し終えると、天井を見上げて大きく息を吐きだす。

”ヴァンパイア”

数百年にも渡ってこの大陸のどこかに存在し続け、列強の不死者たちの中でもそれは数少ない。
一見すれば人間同様である肉体も、そして自我をも持ち合わせている。

朽ちる事の無い肉体、その生命力をもたらす源は、長きに渡って人間の生き血を吸い続けるからだという。
その力は人間など比べるべくも無く、強力な魔力を帯びる固体も存在するというのが、語り継がれる噂だ。

( ^ω^)「実際に見た事はないけどお……人間の生き血を吸うっていうあれ、だおね?」

(´・ω・`)「そう、ヴァンパイアとも呼ばれているね」

爪'ー`)y-「そんぐらいは、俺もガキの時分から知ってたさ。
     まぁそん時ゃ、童話に毛が生えたような眉唾もんの噂話の類と思ってたけどな」

615名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 01:07:47 ID:ShYYLLxE0

( ^ω^)「正直、それはブーンもだおね」

爪'ー`)y-「けどよ───」

(´・ω・`)「信憑性に足るだけの報酬額を見る限り、その考えを改めさせられる事になりそうだよ?」

普段はこのような機会、滅多にないだろう。
報酬額もそうだが、想像上の生物とも思われる事がしばしばの、ヴァンパイアを拝める依頼など。

三人ともが深みのある表情を浮かべながら、一枚の依頼状に書かれたその内容を凝視していた。
やがて、一仕事を終えたマスターが彼らの前のカウンターに手を着いて、諭すような表情を浮かべていた。

(’e’)「その依頼か……やめといた方が、無難だがな」

爪'ー`)y-「おぅ親父。その口ぶりだと、何か情報持ってんのか?」

(’e’)「まぁな───そこにある”マドマギア”っつぅ街からは、ここ数年ちょくちょく似た様な依頼が来る」

616名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 01:08:42 ID:ShYYLLxE0

(´・ω・`)「この書面によると街の人々は吸血鬼の支配下に置かれているみたいだけど………
       そんな事が、ここ数年おきにですって?」

(’e’)「まぁ、そこにあるような吸血鬼騒ぎは初めてだが……妖魔や屍鬼どもに襲われて、
     街を占拠される、なんつぅ事はこれまでにもしばしばだったな」

( ^ω^)「一体その街に何があって、そんな事になってしまったんだお?」

(’e’)「さぁな……昔はのどかな田舎町だと聞いていたが。とにかく、お薦めはせんよ」

爪'ー`)y-「危ないヤマだって言いてぇのか?」

(’e’)「おうとも。少なくとも、お前らのような半人前にはな」

(;^ω^)「ちょ、マスター……そんな事」

(´・ω・`)「それは言えてるかもね」

(’e’)「ほれブーンよ、ちったぁ賢明なショボンを見習いな」

617名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 01:20:58 ID:ShYYLLxE0

「ショボンまで、何を言うおっ!」
マスターの指摘と、パーティー内の仲間の弱気とも取れる発言。
それがブーンの負けん気をほんの少し逆撫でさせてしまっていた。

だが、その言葉を事実として受け入れている冷静なブーン自身も、確かにいる。
マスター本人や、周囲の同業者達が心から自分を一人前と認めてくれるような
冒険者になれるのは、恐らくまだまだ先の事だろう、とは。

それでも、いずれは大きな壁をひとつ越え、ふたつ越えして───
自分の力を信じる事が出来るだけの、一端の冒険者として大成しなければならない。

これは、大陸を渡り歩く冒険者達の誰しもが思う事ではあろう。
ただ燻って終えるだけの冒険者稼業ならば、この道を志す事などなかったからだ。

(´・ω・`)「僕らの業界でも、何度かその名で賑わった事はあるけどね。
       ブーン───ヴァンパイアは確かに実在し、そしてそれにも種類がいるんだ」

(’e’)「その通り」

618名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 01:21:54 ID:ShYYLLxE0

( ^ω^)「ゴブリンと、ゴブリンシャーマンみたいなもんかお?」

(´・ω・`)「単純な固体としての強さを比べるならば、段違いだろうけどね」

そう前置きして、ショボンがこの依頼から遠ざけようとするマスターに同調するようにして、
ブーンを諭すためにヴァンパイアの脅威を少しずつ説明していく。

(´・ω・`)「まず、最下級で言えばだけど───ヴァンパイアに血を吸われ、吸血鬼と化した人間や生物。
       これをレッサー種と言って……固体別の力で見れば、そこらの妖魔と代わり映えしないだろう」

爪'ー`)y-「でもよ、自分で仲間を増やす事も出来るんじゃなかったか?」

(´・ω・`)「ご名答さ。レッサー・ヴァンパイアの脅威としては、自ら血を吸った人間を同じ存在に出来る。
       繁殖力、いや感染力というべきか───それが第一なのかな」

( ^ω^)「………おっお」

619名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 01:25:15 ID:ShYYLLxE0

魔術師というものの博識さに感嘆しながら、ブーンはショボンの講釈に聞き入る。
幼少の頃よりずっと頭に知識を詰め込んできているのだろう、棒切れを振るって駆け回っていたばかりの
時代を過ごした自分などとは、頭の出来からして違うのだと思った。

(´・ω・`)「だけど、レッサー種を自分の意のままに操る事が出来る”純血”のヴァンパイアなら難題だ。
       その多数のレッサーを従えながら、身体能力は人間を凌駕し、魔法すら扱う」

(´・ω・`)「実体を持たない相手とも言われているが、もっとも厄介な事に、
       奴らは”死なない”んだ───並大抵の事ではね」

爪'ー`)y-「並の不死者よか、相当に厄介なお相手ってこったな」

( ^ω^)「話を聞く限りじゃ、多少斬ったぐらいで倒れてくれそうな相手には確かに思えないお」

(´・ω・`)「僕の魔法も効く相手かどうか……試してみたくはあるけどね」

(’e’)「よく陽の光や十字架、果てはニンニクが弱点だとか囁かれる事はあるがな───
     実際のとこ、この大陸においてそうやって吸血鬼を倒した、なんて話は聞いたこたぁねぇ」

620名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 01:26:21 ID:ShYYLLxE0

( ^ω^)「そう……かお……」

まだまだ、自分たちには絶対的に経験が足りない。
いつか酒場で出会った、”龍を倒す”などという想いを掲げていた熟練の冒険者であれば、
もしかすると未知の脅威である吸血鬼をも跳ね除けるかも知れない。

しかし今の自分達には、やってみない事にはわからないのだ。
やはりこの依頼を諦めるべきか───ブーン自身にもそんな考えが沸いてきた頃だった。

ξ゚⊿゚)ξ「───お待たせ!」

( ^ω^)「お、遅かったおね」

ξ゚⊿゚)ξ「あ、うん……ちょっと準備に手間取っちゃってね。で、依頼は決まったの?」

( ^ω^)「いや……」

言いかけたブーンの手元の依頼状を、ツンが「どれどれ」と覗き込んで来た。
”吸血鬼討伐依頼”という依頼内容の文字までをも追えているはずだが、それに
さほど驚くような様子も見せずに眺めている。

621名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 01:30:58 ID:ShYYLLxE0

ξ゚⊿゚)ξ「……ふむふむ。吸血鬼に支配された街……かぁ」

(’e’)「ツンちゃん、この依頼はこいつらにお薦めしねぇ。別の依頼にしとくんだな」

ξ゚⊿゚)ξ「え?」

爪'ー`)y-「ま、それも仕方ねぇかもなぁ」

(´・ω・`)(フォックス)

ちら、とツンの方を見ながらその台詞を吐いたフォックスに、ショボンが小声で注意を流す。

その考えが、名声や栄誉を求める多くの冒険者パーティーと同じならば、ブーン達はこの場で
すぐにこの依頼を決めていたはずだ。

( ^ω^)「この依頼は……やめにしようお」

ξ゚⊿゚)ξ「………」

622名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 01:34:20 ID:ShYYLLxE0

少しだけ揺れ動いていたブーンの決心も、マスターの言葉の方へと傾いたようだ。
何よりも、命の危険を孕む依頼へと踏み切れぬ理由は、やはり伴うツンの存在にあるからだ。

円卓騎士団のフィレンクトからは、ツンを危険から守るようにと念を押されていた。

その禁が破られるような事になっては、あの怪力に加えて大仰な槍で串刺しにされかねない。

勿論それだけが理由という訳でもなかった。

聖ラウンジの奇跡、”聖術”を扱える以外はそこらに居るような非力な女性と同じなのだ。
そのツンを、危険が待ち受けていると分かっている依頼に伴うなど────

ξ゚⊿゚)ξ「何言ってんの?───ブーン」

( ^ω^)「……おっ?」

そう考えて口に出した己の考えは、ブーンが気を揉んでいる理由の大元である
当の本人、ツンの口から棄却された。

623名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 01:35:45 ID:ShYYLLxE0

ξ゚⊿゚)ξ「この街の人たち……吸血鬼に怯えて暮らしてるんでしょ?
      もう、既に何人も犠牲になってるかも知れないじゃない!?」

(´-ω-`)(……始まったか)

(;^ω^)「そっ、……え?」

ブーンが彼女の言葉に忘れていた事を思い返すと同時に────ショボンは少し俯いた。
ツンはこの場にいる誰よりも、困っている人間を見過ごす事など出来ない性格だったのを思い出した。

そして、それらに祈り救いをもたらす事こそが彼女の信仰の道であり、
”聖術”を持つ彼女は、さらに直接それに干渉しようとする。

確かにこれまでも、何人かがツンに命を救われたという実績こそあれど。

ξ゚⊿゚)ξ「どうしてそんな人たちを見過ごそうとするのよ!危険だから?」

(;^ω^)「見過ごすとは言い方がよろしくないお!ブーンはただ、ツンを───」

624名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 01:37:47 ID:ShYYLLxE0

爪'ー`)(ブーン!)

(;^ω^)「あ……いや」

ξ゚⊿゚)ξ「私……?私が、何よ?」

今度は、フォックスが直接考えを口に出そうとしたブーンを制止した。

「な、なんでもないお」と、たじろぎながら言葉を濁したブーンの様子は訝しまれたが、
たとえツンの安全を考えての事であっても、それを口に出せば彼女は傷つくだろう。

自分達の重荷でしかない、などという考えを持って、パーティーを抜けると言うかも知れない。

爪'ー`)(ま……このお嬢様はそんなタマでもねぇだろうけどな)

ξ-⊿-)ξ「と・に・か・くっ!……この依頼は受けます!はい決定!」

爪;'ー`)(ほらな)

625名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 01:43:40 ID:ShYYLLxE0

(;`ω´)「だッ、駄目だお!……それは、リーダー権限で却下させてもらうお!」

(´・ω・`)(粘るね、ブーン)

ξ#゚⊿゚)ξイラッ

(’e’)「……ふぅ」

ブーン達が織り成すいざこざに対して、マスターは黙してただ見守っていた。
強固な石のようなツンの考えに、口出しはしない構えのようだ。

その彼らの先行きを案じて、カウンターの中で深い溜息をついてはいたが。

ξ-⊿-)ξ「ふぅ」

なおも食い下がろうとするブーンだったが、そこで一旦冷静になったのはツンだ。
怒りに身を任せて罵声の嵐が飛び交うかと身構えた一同の前に、彼女はふふんと鼻を鳴らした。

そして腕組みをしながら、こう言うのだ。

626名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 01:49:37 ID:ShYYLLxE0

ξ゚⊿゚)ξ「なるほどね……怖いんだ?」

(;`ω´)「こ、怖い事はないお?」

ξ゚ー゚)ξ「それは嘘よ……吸血鬼が怖くて、自分じゃ街の人を助けられないって……
      まるで、顔に書いてあるみたいよ?」


(# ω )プチッ


ξ゚⊿゚)ξ「怖いんでしょ?吸血鬼が。ま───あたしはへっちゃらだけどね!」

ブーンの理性に、その一言が止めを刺した。

(#`ω´)「……ブーンは、吸血鬼なんか怖くなんかないおぉッ!」

「………」

酒場中に響くほどの声量が、一瞬の静寂を誘う。

(’e’)「あーあ」

629名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 23:06:01 ID:ShYYLLxE0

皆”何事か”とブーン達の席の方へ視線を集中したが、何の事はない。
パーティー内でのいざこざだという事に気付くと、また宿内の空気は賑わいへと溶け込んでいった。

ξ゚⊿゚)ξ「………よしッ、じゃあ決定ね?」

(;`ω´)「そんなの、望むとこ………ハッ!?」

小さく握りこぶしを作ったツンの姿は、彼女の勝利宣言だろう。
挑発に負けてしまったブーンには、今更それに抗うのもみっともなく思えた。

そして、諦める事にしたのだ。

(;^ω^)「……すまんお」

爪'ー`)y-「バカ」

(´・ω・`)(結局、こうなるのか)

630名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 23:07:02 ID:ShYYLLxE0

ξ゚⊿゚)ξ「マスター。この依頼、私たちが請け負います」

彼女を危険から遠ざけようという思いは、無残にも打ち砕かれる事になってしまった。
今度フィレンクトと顔を合わせる時には、そろそろまた首を絞められる事になりそうだ。

ぴっしりと背筋を伸ばして、ツンはマスターの前に”吸血鬼討伐”の依頼状を差し出す。

(’e’)「……解った。いいかい、無茶だけはするなよ?」

ξ゚ー゚)ξ「ええ、解ってます」

爪'ー`)(このお嬢様……本当に解ってると思うか?)

( ^ω^)(無茶をするのは、僕たちなんだけどおね)

(´・ω・`)(そういう事を言うのは野暮ってものさ)

かくして、吸血鬼に支配された”マドマギア”の街へ行く事が決定づけられる。
それはツン自身に振り回されるようにしての事ではあったが、これで腹を括れた。

631名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 23:07:43 ID:ShYYLLxE0

初めて全員が本腰を入れて請け負う依頼となるだろう。
恐らくは力を団結しなければ、乗り越えられないほどの。

( ^ω^)「でも───」

相対した事の無い、未知なる脅威である吸血鬼の姿形を想像しながら、鼓動は早まる。

爪'ー`)y-「あん?」

( ^ω^)「やっぱり、楽しみでもあるお」

その大きな壁を、仲間と共に乗り越えた時の達成感は如何ばかりか。
そしてその経験が、一体どれほど冒険者としての自分を高みへ引き上げてくれるのか。

早くも、そんな事を考えてしまう程に期待していた。


───────────────


──────────

─────

632名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 23:08:37 ID:ShYYLLxE0

それらやり取りが、半日前の朝方だった。

陽も傾いてきた今は、”マドマギアの街”へ向けてひたすら足を動かした。
途中一度だけ休憩を挟んだだけだが、ヴィップから目的地へと繋がる道はそう楽ではない。

(´・ω・`)「地図で見るとそう遠くは無いんだが───やはり山を迂回しなければならない」

( ^ω^)「吸血鬼に支配された街……果たして、どんな惨状なんだおね」

爪'ー`)y-「想像したくもねぇ、そんなぐらいに決まってるさ」

ξ゚⊿゚)ξ「けど……ヴィップから二日も無い場所に、そんな街があっただなんて」

でこぼことしたあぜ道ばかりが続き、体力の無いツンには過酷か、とも一同は思ったが、
どうやらこの依頼を受けると決めた彼女本人はある種責任感を持っているのだろう。
途中の道程を、一度として”疲れた”だのという台詞を口にする事はなかった。

自らを殺して、他者を優先するという彼女の姿勢には、やはり頭が下がるものがある。

633名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 23:09:21 ID:ShYYLLxE0

(´・ω・`)「所で……最悪の場合街にはレッサー・ヴァンパイアがひしめいている事もあり得る。
       もしマドマギアの街中がそんな状況だったとして、対策は考え付くかい?」

( ^ω^)「………」

ξ゚⊿゚)ξ「………」

ブーンにとっては少しだけ耳が痛くなるような、ショボンの問いかけ。
”小細工抜きでぶった斬る”という単純さで押し通れるような状況なら、こんな報酬額にはないだろう。

蛮勇を振りかざして、ツンはこの依頼を決めたのだ。
そんな彼女にそんな考えは浮かばないだろう───皆が内心、そう思っていた。

だが、以外にもツンの口からは、自信に満ちた返答がなされる。

ξ゚⊿゚)ξ「あるわ───私のこの”聖術”が、きっと力になれると思う」

634名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 23:10:04 ID:ShYYLLxE0

(´・ω・`)「なるほどね」

そう言って立ち止まった彼女が、力強く胸の辺りでまた拳を握る。
何の考えも無しに、ブーン達の庇護だけを頼りにしてこの依頼を選んだ訳ではないのだろう。

”自分だって、やれるのだ”
そう言いたげなだけの気概が、彼女の表情からは見て取れた。

爪'ー`)「へっ。まぁ頼りにしてらぁ」

ξ゚⊿゚)ξ「………うん」

弧憎たらしげな笑みを浮かべながら頭だけを彼女の方へと振り返ったフォックスに、ツンがこくり頷く。

あながちそれは、軽薄なフォックスにしては珍しく、上辺だけの言葉でもない。
以前に不死者達がひしめく村で、ツンが空に向かって顕現させた、巨大な光の十字架───

不死者を浄化し得るだけの力をもたらす彼女の祈りは、確たる力となるはずだ。

635名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 23:10:45 ID:ShYYLLxE0

( ^ω^)「山が見えてきたおね」

(´・ω・`)「あぁ、この脇を抜けて行けば───目的地までは近い」

眼前に聳える山には、暗い雲がかかっていた。

山の天候は荒れやすい。
雨粒に打たれる前に、できれば今日の内には越えておきたいところだ。

爪'ー`)「はてさて……雲行きが怪しいねぇ」

( ^ω^)「やるだけ、やってみようお」

(´・ω・`)「正直、この4人で戦力として十分とは言えないだろう」

爪'ー`)「ま、勝てねぇと悟ったら脱兎の如く逃げりゃいいさ」

( ^ω^)「確かに……視野に入れた方が、いいかも知れないおね」

ξ゚⊿゚)ξ「………そういえばさ、クーさんも誘えば……良かったかも」

(;^ω^)「───おッ!」

636名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 23:11:43 ID:ShYYLLxE0

【 川 ゚ -゚) 】


ツンの言葉に、「忘れていた」という表情がブーンに浮かんだ。
彼女の言うとおり、共に危機を乗り越えた間柄だ、頼りになってくれただろう。

しかしクーとブーンらは、あれからしばらく楽園亭で顔を合わせる機会に恵まれなかった。

爪'ー`)「出発を急いたのは誰だったかな」

(´・ω・`)「確か、このパーティーのリーダーだったような気がするが」

(;^ω^)「おぅふ」

ξ゚⊿゚)ξ「………」

会話の言いだしっぺであるツンの表情が、野山の雲同様に少しだけ翳った。

誘った所で彼女が、クー=ルクレールが同行してくれたとは限らない。
寧ろ申し出た所で、きっぱりと拒否されたかも知れないのだ。

637名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 23:12:27 ID:ShYYLLxE0

───彼女は、ツンと聖ラウンジに対し、決して良い感情を抱いていないのだから。

両親の仇である聖ラウンジを憎むクーだが、その道に殉じようとするツンが、
また彼女と共に旅立ちたかったのは、それでも、本当の想いだったが。

クーの身上と、自分の心情。
それを考えるとツンには複雑な想いは去来するが、今この場でそんな考えが
浮かんでしまうのは、この沈んだ天候と彼女自身の身体を蝕む疲労のせいもあるのだろう。

ξ゚⊿゚)ξ「………さぁ、越えちゃいましょう!」

極力それを仲間には気遣わせないよう、ツンはなるべく声を張って言い放った。


───────────────


──────────



─────

638名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 23:13:14 ID:ShYYLLxE0

今日という日にはブーン一行同様に───とても騒がしい朝を迎えた一人の少女が居た。

ブーン達が依頼の事で揉めていたのと、ほぼ同時刻。



────交易都市ヴィップ【 円卓騎士団 兵舎 】────


こつ、こつ

(おはようございます)

ノハ ⊿ )スゥ...スゥ...

自室の扉を叩く音にも気付かず、その呼びかけに応じる事は無く、彼女は寝こけていた。
朝を迎えた彼ら円卓騎士団は、既に今いる全員が中庭に集まり調練に励んでいるというのに。

639名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 23:13:56 ID:ShYYLLxE0

「………」

こんっ こんっ


ノハ ⊿ )ンゴォ...


(もう、とっくに朝ですよ)

だんっ だんっ

扉一枚を隔てても聞こえる彼女の寝息に、そして起きる気配の無い彼女に対し、
朝を告げながら起床を促す、扉を叩く彼の手には次第に力が込められてゆく。

(………)

640名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 23:14:40 ID:ShYYLLxE0

ノハ ⊿ )ン!...ムニャ...

ドンッ ドンッ


「起きなさい!」

ダンッ ダンッ


ノハ ⊿ )ン...ゴォォ...

ゴンッ ゴンッ


「───ここを開けなさい!」


ガンッ! ゴンッ! ドウッ! バガッ!

ベキッ! ゲシッ! メキッ! ミシッ!

641名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 23:15:43 ID:ShYYLLxE0


ノハ ⊿ )「……むにゃ……何か、うるさいぞぉ……」

ガゴンッ! ドガンッ! ズッギャァッ!
メシッ! ビキビキッ! メメタァッ!


「開けなさいと、言っているのです───”ヒート”ッ!!」


ノハ;-⊿゚)「────ん、おおぅッ!?」

半覚醒状態だった意識の中、聞こえるのは断続的に打ち鳴らされる、破壊音のような扉を叩く音。
そして、はっきりと怒気を孕んで自分の名を呼ぶその声に、一気に彼女は覚醒した。

642名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 23:16:27 ID:ShYYLLxE0

ノハ;゚⊿゚)「あわわ、まさか……ね、寝過ごしたあぁぁぁぁぁぁぁーーーッ!?」

「………ようやく、お目覚めですか?」

ノハ; ⊿ )「!」

”バッ!”

強靭な足腰を持つ小動物のように、これまで寝ていたベッドから一瞬で跳躍した。
冷ややかな殺気すらも漂わせる扉の向こうの声の主を、これ以上待たせてはならないと。

すぐに自室の扉の鍵を開錠すると、同時に扉はゆっくりと開け放たれた。

( ^_L^ )「………おはよう、ございます」

643名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 23:17:20 ID:ShYYLLxE0

ノハ;゚⊿゚)「お、おぉ、おはようござい……ましゅ」

彼女には、よくよく理解出来ているのだ。
この笑顔は嘘偽りの作り物だと───その表情の下に眠る、悪鬼羅刹の本当の顔が。

不気味なほどのこの笑顔から放たれる殺気に、背筋には冷たい汗が伝う。

( ^_L^ )「よく眠れましたか?………貴女以外の全員は、今頃中庭でみな調練に励んでいますよ?」

ノハ; ⊿ )スッ..,スミマセンデシ...

威圧感のあまり、彼女の喉からは掠れたような声しか出ない。
表面上は穏やかに聞き返すフィレンクトだが、その額には一本、また一本と青筋が浮かび立つ。

( ^_L^ )「え?」

644名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 23:18:30 ID:ShYYLLxE0

ノハ; ⊿ )「あの、その……す、すみませ──」

(#‘_L’)「………あぁ~ん……?聞こえんなぁぁぁーーー!?」

途端、彼の表情は怒りに歪んだ。
もはや、全力で謝って許してもらうという道しか、彼女には残されていない。

ノハ;゚⊿゚)「も───申し訳ございませんでしたぁッ!………フィレンクト団長殿おぉぉぉぉぉぉぉーーーッ!!!」

(#‘_L’)「全く………たるんどるわぁぁぁぁぁぁぁーーーッ!!」

ピン、と背筋を伸ばして直立すると、天井をぶち抜いて届かせる程の声量で叫ぶ彼女。
それをこうして叱責するフィレンクトの怒声とが、中庭で鍛錬に勤しんでいる他の団員達の失笑を誘うのだ。

「おい、またやってるぞ……団長たち」

「懲りないよなぁ、あいつも」

これは、円卓騎士団の朝の一幕の中で、もはや恒例化しつつある光景の一つであった。

645名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 23:19:12 ID:ShYYLLxE0







(‘_L’)「ヒート、貴女もそろそろ、他の後発の団員達の見本となっていかねばならないのです」

ノハ; ⊿ )「うぅ………仰る通りです……」

(‘_L’)「こんな事で皆の失笑を買っていては、そんな立場は決して務まりません」

ノハ; ⊿ )「はひ……耳が……痛いです」

中庭で行われていた朝の調練は既に終了し、団員達は各自持ち場へと散らばっていった。
フィレンクトにこうして懇々と説教を受けるのは、もう彼女に取っては幾度目なのか。

646名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 23:20:00 ID:ShYYLLxE0

それでも、フィレンクトが部下である彼女を見放す事はなかった。
朝に弱く翌日に支障をきたすという欠点はあれど、彼女は日頃からそれを補う程の働きを見せる。

こうして間々寝坊してしまうのは、一日の終わりにはいつも全ての体力を
使い果たしてしまい、ぐっすりと眠りについてしまうというのが理由の一つなのだが。

玉に傷、こうしたミスが彼女への評価を相殺しているものの、それは決して低いものなどではない。

常に集中力を以って、一つの物事に対し全力を賭してぶち当たる。
それがフィレンクトの”懐刀”とも呼ばれる彼女────”ヒート=ローゼンタール”

(‘_L’)「……貴女が本気になれば、これぐらいの事は改善出来るはずです───以後は、重々気を付けなさい」

ノハ; ⊿ )ズビバセンデシタ...

647名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 23:20:41 ID:ShYYLLxE0

こと剣においては、贔屓抜きに彼女の腕は他の団員達と比べても群を抜いているという。
こうしてフィレンクトの説教を受けている時の姿からは、それも形無しだが。

( -_L- )「では………今日はこのぐらいにしておきましょう」

ノハ;゚⊿゚)(……やっと、おわた……)

終始姿勢を正しながらフィレンクトの話を聞いていた彼女が、
そこで今日初めて足を楽にして、安堵の溜息を漏らす事が許された。

部屋を去る、と思われたフィレンクトだったが、まだ話は続くようだった。

(‘_L’)「調練が終わったら、と思ったのですがね───」

ノパ⊿゚)「?」

648名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 23:21:30 ID:ShYYLLxE0

少し首を傾げて迷うような仕草をしながら、
フィレンクトは彼女にかける言葉を選んでいるようでもあった。

(‘_L’)「これは命令というよりも……貴女への”お願い”なのですが……」

ノパ⊿゚)「───はいっ!何なりと!」

自らに対して与えられた指令を、必ず全うする。
使命感を炎のように燃やす少女は、いつ何時であっても、そうはっきりと受け答える。

吸血鬼討伐の依頼に向かい出立した、”失われた楽園亭”のブーン一行とほぼ同じ頃。
彼らを取り巻く事態は、水面下にてひっそりと───知られぬ所で動き出していたのだ。


───────────────


──────────



─────

651名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 12:58:30 ID:.tzphm0k0

ブーン一行がマドマギアの街へと赴いた、翌朝。

彼らは途中に一度の野宿を挟んで、吸血鬼の支配するその街へ、辿り着いていた。

ξ゚⊿゚)ξ「………着いたわね」

(´・ω・`)「ああ」

爪'ー`)y-「………」

( ^ω^)「ここが───”マドマギアの街”……」

市街へと続く入り口の前に立つ彼らの中で、ブーンがまず一歩を踏み出す。

街の中に足を踏み入れると、一瞬にしてその瘴気が肌へとまとわり付く。
この街に暮らす民であったはずの者達は、今では視線もろくに定まらぬ瞳で、
ふらふらと血を求めて彷徨い、こちらの存在に気付くと、一斉にその視線が向けられる。

652名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 12:59:32 ID:.tzphm0k0

かつて多くの人々で賑わっていたはずの商店街もどこへやら、濃霧が全体を包む寂しげな街の景観は、
もはや吸血鬼の支配のもとに不死者の楽園と化し、訪れる生者の美酒たる血液を待ちうける、死の街。

そして、王たる吸血鬼が根城とする古城へと続く道へは、
数多の亡霊や不死者が溢れ、ブーン達冒険者の行く手を遮るのだ。

たとえ吸血鬼の元へたどり着けたとしても、決して命の保障はない。
恐らくは、死闘に次ぐ死闘を重ねる───その覚悟を、しておかなければ。

マドマギアの街の状況は、そんなにも絶望的な────


そう、そのはずだったのだ。
少なくとも、ブーン達4人の頭の中に描かれた”想像の光景”の中では。

653名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:00:15 ID:.tzphm0k0

( ^ω^)「それが……一体、これはどういう事だお………」

ξ゚⊿゚)ξ「どう、って……」

爪'ー`)「この状況、どう見るよ」

(´・ω・`)「どう、って……」

(;^ω^)「この街は───どうなってるんだお!?」

そう叫んだブーン達の目の前には、大きく街の目印となる看板が立てられていた。

”ようこそ、吸血鬼に支配された街 マドマギアへ!”

”おいでませ!冒険者大歓迎!”

一歩街へと足を踏み入れれば、その街の様子はブーン達の思い描いていたものとは
遥か斜め上空へまで、と言っても差し支えの無いほどに、予想からかけ離れていたものだった。

654名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:00:56 ID:.tzphm0k0

肌がひり付くような緊張感も、街中を覆い包む瘴気など、そんな暗い影は一切無い。

「いらっしゃい!吸血鬼退治にはニンニクが有効だよぉ!」

「おっと、そこのあんたら、冒険者か!お薦めの武器があるんだよ、見ていかないか?」

「マドマギア名物、吸血鬼まんじゅうはいらんかね~!」

寧ろ、自分達の他にもぽつぽつと見受けられる冒険者達に対して
商いをして回る人々が織り成す、清潔な活気こそがこの街には溢れているのだ。

(;^ω^)「ハッ───そうかお、人々は実は皆吸血鬼に操られて……」

ξ゚⊿゚)ξ「そう……見える?」

爪'ー`)y-「いんや、全然」

655名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:02:03 ID:.tzphm0k0

ヴィップに比べたら俄然小さな街ではあるが、中央区には確かにそれらしき”古城”が佇む。
その城へと繋がる道には不死者の類では無く、商人たちの露天が軒を連ねているのが異質だが。

だが、まずはこの依頼主であるこの町長に顔合わせしておく必要があるだろう。
このらんちき騒ぎの理由を尋ねて、一刻も早く現状を把握しておくべきだった。

「さぁさぁ、吸血鬼の弱点を突くならこの十字架の装飾が施された銀剣だ!
 今なら50sp追加で、持ち主の名前を刻印するサービス付きさぁっ!」

(´・ω・`)「しかし、これではまるでお祭り騒ぎだね」

爪'ー`)y-「あの依頼は何かの間違いだったんじゃねぇかと思えて来たぜ」

「業物の銀ナイフが、お値段なんと一本50sp! よぉ、そこの兄さんどうだい?」

爪'ー`)y-「お……このナイフ、いいじゃん」

この街へ向かう道中での緊張感も、いつの間にやら消え去っていた。
ツンが言っていたように、吸血鬼の脅威に怯える様子の住民など、どこにいるというのか。

656名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:02:57 ID:.tzphm0k0

(´・ω・`)「もはや観光気分だね、フォックス」

爪'ー`)y-「───思わず買っちまったぜ。俺のナイフコレクションにまた一つ、だ」

(;^ω^)「はぁ……とにかく、町長の家を探すんだお」

ξ;゚⊿゚)ξ「そうね。まぁ、思ってたより平和そうで何よりだけれど……」

そこで、一同は各自散開して情報を集める事にした。
まずは依頼人である町長の家を探し当て、吸血鬼に関する事を聞きだすのだ。

(´・ω・`)「じゃあ、半刻後にこの場所で落ち合おう」

( ^ω^)「わかったお」

爪'ー`)y-「俺はこの町の同業者を訪ねて、情報を漁ってくる───ツンは」

657名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:04:19 ID:.tzphm0k0

ξ゚⊿゚)ξ「町長の家を探せ、っていうのね。子供じゃないわ、それぐらいは出来るわよ」

(´・ω・`)「このお祭り騒ぎ一色の雰囲気は確かに異常だが……仮にも吸血鬼に支配された街と謳ってる」

( ^ω^)「解ってるおショボン。ツンには、ブーンが護衛につくからお」

(´・ω・`)「任せたよ。僕もフォックスとは別に情報収集につくよ」

ξ゚ー゚)ξ「それじゃあ、また後でね」

入り口前の広場で吹き出る噴水の前、そこで面々は互いに手を振りながら別れた。








658名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:05:05 ID:.tzphm0k0

ショボンはまず、吸血鬼に支配されたこの街というものの実体を、その真偽を探る聞き込みだ。

(´・ω・`)「そこの方」

「おや、冒険者さんか。何だい?」

(´・ω・`)「おかしな事を尋ねるようですが、この街には、本物の吸血鬼が?」

「あぁ───ま、俺はこの街の住民じゃないんだが、そう、らしい」

(´・ω・`)「……”らしい”?」

あからさまに訝しげな視線を送るショボンの表情に慌てた露天商の男が、すぐに言葉を付け足す。

「あ、まぁ冒険者達以外じゃ、まだ誰もそいつに直接遭った奴は居ないんだよ」

(´・ω・`)「という事は、やはりこの街のどこかに吸血鬼は実在する、と?」

659名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:06:02 ID:.tzphm0k0

「どこかって───あそこさ」

(´・ω・`)「………」

そう言って男が指差したのは、やはり嫌でも目に付いた。
街の中央に一際高く目立つ建造物、あの古城だ。

あの場所から、この街全体を支配しているというのか。

「吸血鬼はもうず~っとあそこに篭ってるんだが、もう数え切れないぐらいの
 冒険者が返り討ちにあってんだ。あんたらももし行くなら、精々気を付けた方がいい」

(´・ω・`)「! その彼らは……やはり、死んで……?」

「いやぁ、それがさ」

(´・ω・`)「?」

660名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:06:51 ID:.tzphm0k0

「どいつもボロボロにされてはいるんだが……必ず生きて帰ってくるんだよ、全員が」

(´・ω・`)「はぁ?」

素っ頓狂な声を漏らしたショボンの反応こそ、当然のものだ。
伝承や噂話に名高い人の血を啜る怪物が、自分の城に乗り込んできた敵を殺さないというのだ。
それに、敗れた冒険者達は血を吸われ、レッサーヴァンパイアにさせられたという訳でもない。

そのような不自然は、話を聞くだけでも到底納得できるものではないだろう。

「そうだよ。まだ、この街で冒険者が死んだって噂は一度も聞かないね」

(´・ω・`)(事実………なのか?)

ひとまずは、他にも地元民らからも情報を得る必要がある。
だが、商人ばかりがひしめくこのマドマギアの街では、それは非常に探し辛いが。

661名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:07:35 ID:.tzphm0k0






爪'ー`)「邪魔するぜ」

盛り場には、決まって情報が集まってくるものだ。
本当に価値ある情報は、タダで手に入るものなどではない。

「………」

それを知るフォックスは、一見の客である自分へ向けられる訝しげな視線を受け流しながら、
まずはカウンターに着くと、一杯の酒を注文した。

爪'ー`)y-「”古城の吸血鬼について”、だ」

「………10spだな」

無愛想にフォックスの元に酒を出すと、腕組みしてカウンター内に佇むマスターが、そう呟いた。

662名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:08:25 ID:.tzphm0k0

爪'ー`)y-「ったく、高ぇ酒だぜ」

ぼやきながらも、胸元から取り出したそれら銀貨をカウンターの上に転がし、
酒場のマスターの方へと手で押しやった。

「ま───いいだろう。何から話す?」

自分に差し出された銀貨の枚数を目で確認すると、一杯の酒を差し出しながら鼻を鳴らした。
一見の客に対して怪しむ態度が、ようやく少しばかり軟化したようだ。

爪'ー`)y-「そうだな───吸血鬼とやらの特徴について、聞いておこうか」

「………あぁ、それなら古城からボロ雑巾みてぇになって帰って来た奴らが、口々に言ってたよ」

爪'ー`)y-「どういう相手だ?」

「そいつぁ、”魔法”を使うらしい。こちらの攻撃はまるで当たらず、一方的にやられるんだとさ」

663名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:09:15 ID:.tzphm0k0

爪'ー`)y-「魔法、ねぇ……」

それならば、と思わずショボンの顔が思い浮かばれた。

そういえば、フォックスがこの酒場に辿り着くまでに小耳に挟んだ情報の一つに、
安心した事があったのだ────まだ、吸血鬼に挑んで殺された冒険者は居ない、という事だ。

爪'ー`)y-(はてさて、それが何を意味するか……だ)

彼らに取っては餌であろう人間に対し、殺意の無い吸血鬼などどこの世界に存在するのか。
もしそんなものが居るのなら、それは”本当に吸血鬼なのか?”───と。

「他に聞きたい事は?」

マスターのその言葉に、フォックスはその考えを直接伝えてみた。

爪'ー`)y-「マスターよ。吸血鬼なんて、本当にこの街に居るのか?」

664名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:10:30 ID:.tzphm0k0

吸血鬼など、実の所は存在していないのではないだろうかと。
こんな安穏とした雰囲気が覆うこの街は、そうでなければ説明がつかない。

「どうだかな……だが、挑んだ奴らはどいつも口を揃えてる」

爪'ー`)y-「何だってんだ?」

「吸血鬼の瞳は血と同じ赤色で、大層色白な肌の色をしてるらしいぜ」

爪'ー`)y-「ほぉ」

「それに……この街には手練の奴らも何人か滞在してるが、時々感じるらしい。
 ───この街に居ると時々、何かに押しつぶされるような重苦しさがあるんだってよ」

爪'ー`)y-(………)

これ以上の有益な情報は無さそうだった。
事の真相は、結局自分達の目で確かめるしかないのだ。

一口も口を付けなかった酒で満たされたグラスをそのままに、フォックスは席を立つ。

665名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:12:50 ID:.tzphm0k0








~その頃~

目の前に山盛りに盛られた東洋の茶菓子に舌鼓を打つ、騎士の姿があった。

久方ぶりにたった一人で遠出した為に、彼女は舞い上がってしまっていたのかも知れない。
様々な露天が並び賑わう町並みの中で、芳しい香りが漂うこの茶屋へと自然に引き寄せらた。

ノパー゚)「ん……んまい!旨いぞ、この吸血鬼まんじゅうッ!」

「ありがとうございますっ。ささ、たんと召し上がって下さいよ騎士様!」

ノパ⊿゚)「それに焼印も可愛いし!」

ノハ*゚⊿゚)「おぉッ!こっちの餡は何が詰まってるんだ!?」

ノパ~゚)「んむ……むぐ……」

ノハ; ~ )「ッ!!?」

ノハ; ⊿ )「ゲフンッゲフッ……の、喉が詰まっ────み、みッ、ず………!」

「お客さん!?……ちょっと、オイ水だ、水持ってこいッ!」

その膨大な量の甘味の前に、女騎士ヒートの意識は、闇の中へ引きずり込まれた。

666名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:14:24 ID:.tzphm0k0







ξ;゚⊿゚)ξ「本当に……2,3質問するだけでもいいんです!」

一方のブーン達は、商人たちに聞き込みを行いながら町長の家を見つけた、という所だ。

だが、そこでは一つの問題に直面したのだ。
吸血鬼に支配された街などと到底思えない、街の賑わい。

古城に近づく前にまずは当事者から詳細を、と考えていた。

(;^ω^)「ここまで来て……依頼主に会えないなんて、どういう事だお!?」

ブーン達が声を荒げているのは、その家の扉の前に背を持たれながら
冷ややかな表情を浮かべる、長身の男に向けられた言葉だ。

二人の言葉を聞き流すその男は、ただ静かに腕を組んでいるばかりだ。

667名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:15:58 ID:.tzphm0k0

(´<_` )「……悪いが、誰が来ようとも町長にはお目通りかなわん。
       この吸血鬼騒動の最中、彼は病床に伏せっているんだ」

説明を求めても、男は淡々とした言葉でそう言うばかり。
ブーン達の言葉に決して感情を荒げる事もなく、表情には感情すら希薄に思えた。

細身ではあるがブーン以上の長身で、感情の起伏に乏しそうな彼からは、
決して口には出せないものの、冷淡な男という印象を受けざるを得なかった。

ξ゚⊿゚)ξ「あなたは、縁者の方?」

(´<_` )「違うよお嬢さん。俺た……俺は、単なる用心棒として雇われただけの冒険者さ」

ξ゚⊿゚)ξ「用心棒って……どうして町長はあなたみたいな人を雇ってるのよ?」

(´<_` )「さぁな。こんな時勢だから……だろうさ」

ξ゚⊿゚)ξ「………」

668名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:16:58 ID:.tzphm0k0

( ^ω^)「吸血鬼は依頼の通り本当にこのマドマギアに居て、街に災厄を振りまいているんだおね?」

(´<_` )「あぁ、確かに古城に居る。だが……災厄か」

「死人は出ていないし……どうだかな」
街を賑わす目下一番の話題である、吸血鬼の話についてはあまり触れようとしない。

どこか不都合になる会話を避けているのではないか、という雰囲気を感じたツンが
続けて追求しようとしたところで、熱くなったブーンがその冒険者に対して語調を強めた。

(;^ω^)「この街にこれだけの冒険者を集めている以上、当事者本人による説明の責任があると思うがお!?」

(´<_` )「………わからん奴だな」

ξ;-⊿-)ξ(駄目ね、これは)

なおも食い下がろうとするブーンの肩に、ツンがそっと手を置いた。

669名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:17:42 ID:.tzphm0k0

ξ゚⊿゚)ξ「行きましょう、ブーン」

(´<_` )「すまないが、そうしてくれ」

(;^ω^)「くっ……話にならんお!」

ξ゚⊿゚)ξ「───行きましょう」

(´<_` )(………)

悔しさが収まらない様子のブーンが去り際に一瞥をくれたが、
やはり変わらぬ無表情のまま、男はその扉の前に腕組みして佇むばかりだった。







冒険者がこなしていく仕事の依頼において、事前情報というものは極めて重要なものだ。

それを依頼主が提供してくれないというのだから、あとは自分達の足を使う他ない。
幸いにしてショボンとフォックスが別働隊として情報を集めてくれているはずだ。

670名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:19:02 ID:.tzphm0k0

今回の依頼に関しての違和感は、当然のように感じていた。

ξ゚⊿゚)ξ「なんだか、おかしいと思わない?」

( ^ω^)「……そうだお。依頼を投げっぱなして、訪問者は門前払いなんて、絶対におかしいお」

何、裏があるのではないか、そんな疑念が嫌でも沸き上がる。
ちらほらとこの街に見かける冒険者パーティー達の姿は、ブーン達の他にも
10や20は下らないのではないかという程だ。

その彼らもまた高額の報酬に釣られてか、訳もわからぬままに吸血鬼に挑んでいるのだろうか。
あちらこちらでは武具も売られており、装備を整えてこれから挑むのでは、という光景だ。

そうこうしていると、待ち合わせ場所である噴水の縁に腰掛けているフォックスの姿があった。
遠目からは少し伏目がちな表情から察するに、さほどの収穫は見込めなかったのだろうか。

爪'ー`)y-「よぉ、お二人さん。町長には会えたのか?」

671名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:19:56 ID:.tzphm0k0

ξ-⊿-)ξ「………」

ツンがその言葉にふるふる、と2度首を小さく振った。
それよりもブーンとツンのやるせない表情から、その結果は伝わっていたようだ。

爪'ー`)y-「何があった?」

( ^ω^)「愛想の無い冒険者が家の前に居てだおね……
       町長は今病床に伏せっているから、の一点張りだったお」

爪'ー`)y-「はっ倒して押し入れば良かったじゃねぇか」

(;^ω^)「さすがに同業者……ましてや一応は依頼人の雇った相手にそこまではできんお」

(´・ω・`)「待たせたようだね」

そこへ、フォックス同様に情報収集へと回っていたショボンが戻る。

672名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:21:36 ID:.tzphm0k0

爪'ー`)y-「ショボン、目新しい情報はあったか?」

(´・ω・`)「恐らく、ギルドづてに情報を仕入れられる君ほどのものはないだろう」

爪'ー`)y-「俺も大して変わりゃしねぇと思うぜ……?」

そして、フォックスとショボンは拾い上げてきた情報の全てを他の二人にも伝えた。
言った通り、ショボンとフォックスの仕入れてきた情報の殆どは似通ったものだったが。

ξ゚⊿゚)ξ「……死者は、出ていない?」

( ^ω^)「なのに、吸血鬼に支配された街だっていうのかお?」

(´・ω・`)「あの街の中央区画の古城で、冒険者を待ち受けている───それだけは、確かのようだ」

爪'ー`)y-「で、肝心の冒険者に泣き付くべき立場の被害者、町長さんは姿を見せねぇってんだ」

673名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:22:23 ID:.tzphm0k0

何か、この件には裏がある。
そう思って当然とも言えるべき状況だろう。

しかし、ここまで来て手ぶらで帰る訳にも行かない。

( ^ω^)「行ってみるしか、ないおね」

覆い隠された事実は───自分の目で確かめるしかないのが冒険者だ。

爪'ー`)y-「まぁ、そいつを倒しゃ3000spもらえんだろ?……死ぬリスクがねぇなら、いいと思うぜ俺は」

(´・ω・`)「確かにね。僕も、吸血鬼の実物というものには興味が惹かれる」

ξ゚⊿゚)ξ「───見て、あれ」

街の中央にそびえる古城へと向かう途中、城へ続く一本道の両脇には、様々な露天が軒を連ねる。
商店街のような活気が生み出されているなか、城へと出入りする冒険者達の姿があった。

674名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:23:26 ID:.tzphm0k0

「くそッ」

城から出てきた腕を負傷したと思しき一人が、仲間に付き添われながら悔しそうに唇を噛み締めていた。
古城の主に挑み、敗れ去ったのだろうという事は一目見て解った。

( ^ω^)「………負けた、のかお?」

「………あぁ、口惜しい事だがな」

「俺達もそれなりに自信はあったんだが」

肩を落として立ち尽くす彼らを気遣いながら、質問をぶつけてみた。

爪'ー`)y-「強いのか?その───吸血鬼、とやらは」

「悔しいが、歯が立たなかったよ」

(´・ω・`)「やはりその吸血鬼は、魔法を?」

「わからねぇ……だが、攻撃が殆ど当たらねぇんだ。あいつは」

675名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:24:19 ID:.tzphm0k0

「濃い霧で目晦ましされて、一方的にやられたよ……あんたらも、気をつけな」

(´・ω・`)(ふむ)

( ^ω^)「───貴重な情報、ありがとうだお」

見れば、皆剣を手にしている三人の冒険者達。
それゆえに、相手の魔法に対して応じる手段がなかったのであろう。

しかしながら、こちらには魔術師も。
また不死者を浄化する奇跡の業を持つ少女もいる。
魔法を使う相手であろうとも、渡り合える可能性は無くもない。

立ち並ぶ露天の喧騒を抜け出し、やがて一同は古城の正門に構える大きな木扉の前に立った。
無理もないが、心なしかこの扉の奥から、とても禍々しい気配が伝わってくるように感じられる。

676名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:25:41 ID:.tzphm0k0

( ^ω^)「この扉を抜けたら……直ぐに戦闘になるかも知れないお」

爪'ー`)「吸血鬼の弱点って謳ってたけどよ、露天で何か買っとかなくて良かったのか?」

(´・ω・`)「……”弱点”と言われている十字架やニンニクなどは、単なる言い伝えさ。
       確かめた事のある人物は極少数だろうが、僕ら魔術師達の意見では、そんなものに効力は無いとされている」

ξ゚⊿゚)ξ「そこで、私の出番って訳ね」

(´・ω・`)「ああ。吸血鬼も不死者の一つに数えられる存在だ───不浄な者に対抗する力なら、恐らく通用するだろう」

( ^ω^)「……頼りにしてるお、ツン」

ξ;゚ー゚)ξ「ちょっと、緊張するような事言わないでよ」

爪'ー`)「………」

677名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:26:35 ID:.tzphm0k0

見れば、ツンの小さな肩はふるふると小刻みに震えていた。
聖術を身につける司教の娘とはいえ、やはり未知なる脅威、それとの戦闘には少なからず怯えているようだ。

( ^ω^)「二人とも───」

(´・ω・`)「解ってるさ、君の言いたい事は」

ブーンが、二人の仲間に目配せを送っていた。

ξ;゚⊿゚)ξ(ふぅ……私にやれる事は一つしかない)

それに気付いたフォックスとショボンは、呼吸を落ち着かせようとするツンの方を
ちらりと覗き込むと、ブーンの視線に対して無言で頷いた。

もしかすると唯一の対抗策となり得るツンを、この三人で守るのだと。

( ^ω^)「皆準備はいいかお?」

ξ゚⊿゚)ξ「……行きましょう」

678名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:27:34 ID:.tzphm0k0

「───行くお!」

両方の腕を力強く扉に押し付けると、木扉はさほどの抵抗もなく呆気なく開いた。

そのまま脇に視線を散らす事もなく、ブーン達は一直線に駆け出す。
古めかしい外観からは想像もつかぬほど、アンティーク調の内装は豪華なものだ。

吸血鬼はどこにいるのか、そんな考えを巡らせる事もなく───既に戦闘に突入する体勢に入っていた。

(#^ω^)「出てこいお───吸血鬼ッ!」

すでに背の鞘に納まった剣の柄に、ブーンは片手を掛けていた。
彼の叫び声が木霊した入り口の大広間を抜けると、すぐに目の前には螺旋階段が飛び込んできた。

(´・ω・`)「階上……上がって来いとでもいいたげだね」

爪'ー`)「待て」

階段の前に全員を立ち止まらせたフォックスが、注意深く観察眼を走らせた。
情報にはないが、一応は罠の類がないかを確かめているのだ。

679名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:28:17 ID:.tzphm0k0

爪'ー`)「何の仕掛けもねぇ……ってこたぁ、誘ってんだ。どうやら余裕かましてるな、吸血鬼とやら」

ξ;゚⊿゚)ξ「この階段を上がった先にいるのね」

今や、吸血鬼の居城に土足で足を踏み入れているのだ。
相対して殺された冒険者はいないという話だが、それを甘えとしてはならない。

絶対に殺されないと限った話ではないのだ。
集中力を高め、勝利する事に対しての士気を高く持っていなければ、無残な結果が待っているだろう。

(;^ω^)「皆、気をつけるんだお」

言いながら、まず階段に一歩足をかけたブーンに対し、階上から声が掛けられる。

「───またか」

680名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:29:16 ID:.tzphm0k0

ξ;゚⊿゚)ξ「!?」

ブーン一行全員の身体が、一瞬緊張に強張った。
そしてすぐに視線が注がれた先には、階段の踊り場で影の中に立つ、人影。

从 ∀从


(;^ω^)「─────お前が、吸血鬼かお!」


ブーンの問いかけに、影の中の人物は無言で歩み出た。


爪;'ー`)「………あん?」


その姿を目の当たりにしたフォックスが、怪訝な表情を浮かべた理由は一つだ───


从 ゚∀从「あー……ようこそいらっしゃいましたぁ、冒険者ご一行様ぁー」

だらしなくそう言って、手を前に組みながらぺこりと頭を垂れたのだ。
─────フリルがそこかしこに施された奇抜な衣装を纏った、そのメイド風の女性が。

681名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:30:40 ID:.tzphm0k0

(;^ω^)「……へ?」

从 -∀从「えーっと、この度は我が主の居城にご足労頂きー────」

(´・ω・`)「ちょっと、待ってくれないか」

从 ゚∀从「誠に───って、あん?」

面倒くさそうな口調で話す従者と思しきそのメイドの言葉を、とりあえず一旦遮った。
すぐに戦闘が待ち受けていると覚悟していた一同は、とんだ肩透かしを受けて動揺を隠せない。

ξ;゚⊿゚)ξ「あの……貴女は?」

从 ゚∀从「見てわかんねーかな。メイド」

(;^ω^)「メイド………?」

从 ゚∀从「そ、メイド」

爪'ー`)「………」

682名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:31:56 ID:.tzphm0k0

一同にしばし無言の間が訪れた後、彼女は名乗った。

从 ゚∀从「あ、名前は”ハイン”ってんだ」







よく彼女の姿に目を凝らしてみれば、肩ほどまでの長さの滑らかな黒髪と、その瞳は同じ色だ。
色白ではあるが、吸血鬼に咬まれたというような不自然な肌の色でも無かった。

从 -∀从「あぁ、もうやんなっちまうよ……今日はあんたらでもう20組目だぜ?」

ハインと名乗ったそのフリフリのメイドは、肩や首をこきこきと鳴らしながら愚痴をこぼし出した。

(;^ω^)「まさか吸血鬼の城に来て、人間のメイドに出迎えられるとは思ってもみなかったお」

683名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:32:52 ID:.tzphm0k0

(´・ω・`)「従者を雇っているとは頷けるにしても……君は」

「命を脅かされ、仕方なしに仕えているようには見えない」
という風な質問をぶつけようとしたショボンに、彼女は軽く言い放った。

从 ゚∀从「もち仕事さぁ。お・し・ご・と」

ξ゚⊿゚)ξ「吸血鬼が人間を雇っている……って訳?」

从 ゚∀从「あぁ、まぁそうだ───あたしの場合は趣味半分ってとこだけどな」

(;^ω^)「───ふぅ」

(´・ω・`)「君の趣味には悪いけど、我々はそのご主人様を倒させて頂くつもりなんだが……」

从 ゚∀从「あぁ、構いやしないさ」

爪;'ー`)「なーんか調子狂うぜ………」

684名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:33:52 ID:.tzphm0k0

「じゃあ」とそのメイドに声を掛けて脇をすり抜けようとした所を、両腕でせき止められた。

从 ゚∀从「ほい」

そして、”出せ”と言わんばかりに一同の前に掌をひらひら躍らせる。

(;^ω^)「あの……」

頭の上に浮かぶ疑問符の答えは、すぐに出る。

从 ゚∀从「通るんだろ?───入場料、一人50spだ」

ξ゚⊿゚)ξ「はい?」

4人で200sp─────そんな事は問題などではない。

依頼で訪れたこの場所へは、街を賑わす吸血鬼騒ぎに終止符を打ちに来たのだ。
そのつもりであった冒険者一同は、それに挑むのに金銭を要求されるというのだから、たまげた。

685名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:34:43 ID:.tzphm0k0

(;^ω^)「そんな話は聞いてないお!」

从 ゚∀从「まぁ、人様の城に入るんだからよ」

爪'ー`)「強引に通っちまうってのは、駄目か?」

从 ゚∀从「当たり前だ。んな事許せば、あたしが怒られちまうからな」

ξ;-⊿-)ξ「本当───どうなってるのよ……」

全員が、ツン同様に深い溜息をつきたい心境だ。
とはいえ、ここで「通せ」「通せない」と押し問答をしていても始まらない。
吸血鬼に仕えているとはいえ、人間である従者に乱暴を働く訳にも行かなかった。

爪'ー`)「あー、もう面倒くせぇな……ブーン、渡してやれよ」

(;^ω^)「け、けど200spといったら大金だし──ブーンの初依頼の報酬と同じ額だお!」

686名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:35:54 ID:.tzphm0k0

(´・ω・`)「仕方ないさ、ブーン。吸血鬼を倒したあとに、町長を捕まえて返してもらえばいい」

从 ゚∀从「ま、そいつができりゃあ苦労はしねぇんだろうけどな」

(;^ω^)「ぐぬぬ……!」

必ず倒してやる───吸血鬼。
その強い想いを新たにしながら、虎の子の銀貨200枚を、泣く泣くブーンは手渡した。

从 ゚∀从「ひー……ふー……ん。確かに」

(;^ω^)「通らせて、もらうお」

从 ゚∀从「───それではどうぞお通り下さい、冒険者ご一行さまぁ」

気だるいような声でそう背中に投げかけるハインの言葉に後押しされながら、
ようやくブーン一行はハインの横を通り抜けて、先へと進む。

687名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:36:51 ID:.tzphm0k0

从 -∀从「……ま、頑張んな」

「────ふ、わぁあ~あ」
ブーン一行の姿を見送り届けた後に、ハインは一つ大きな欠伸をこしらえた。







気を取り直したブーン一行は、少しずつ緊張感を取り戻していた。
思わぬ障害が立ちはだかったが、どうやら今度こそ本命の元へと辿り着けそうだ。

螺旋階段を登り切ると現れたのが、この重そうな鉄扉だ。

ξ゚⊿゚)ξ「今度こそ───ね」

688名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:37:48 ID:.tzphm0k0

(´・ω・`)「戦意を少しでも削ぐのが目的なのかな、あれは」

爪'ー`)「まぁどうでもいいけどよ、準備は出来てんのか?」

妙な邪魔にあって調子を崩していないかと案じたフォックスがブーンの横顔を覗き込んだが、
どうやら変に気負ったりしてもいないようだった。

先ほどのハインとの問答が緊張感を解してくれるような、良い清涼剤になったのかも知れない。

( ^ω^)「……大丈夫だお」

ブーンが全員に視線を送った後、扉の前に立って一歩下がった。
少し腰を落として半身になると、左に出した前足を起点に強烈な蹴りを扉へとぶちかます。

”ばごんっ”

階下にまで響き渡るような音を上げて扉が開け放たれた瞬間に、一同は室内へとなだれ込む。

689名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:39:20 ID:.tzphm0k0

(#^ω^)「出て来るお吸血鬼───この200spの恨みは……デカいおッ!」

爪'ー`)(まだ気にしてんのかよ)

広い室内だった。
こざっぱりとして、余計な物など何一つ置かれていない執務室─────

ブーン達の視線の先にあるのは、ぽつんと置かれた机の上でペンを走らせる、一人の女性の姿だけだ。

( ^ω^)「……お前が」

「懲りもせずに────また冒険者が来たか」

ブーンが言葉を言いかけた所で、漆黒の外套を羽織った彼女は、ペンを置いた。
そして腰掛けた椅子から静かに立ち上がると、机の前まで歩き、ブーン達へ面と向かった。

('、` 川「───ようこそ、我が居城へ」

690名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:40:22 ID:.tzphm0k0

透き通るような透明感のある声は、人のそれとは変わりない。
外見だけで言えばツンとさほど歳も変わらず見えるが、肌はほのかに青白く、何よりも真紅の瞳が異質だ。
同じように際立った赤を放つ口元には、血を好むその性質を感じさせた。

ξ;゚⊿゚)ξ「現れたわね……ッ!」

爪'ー`)「へぇ。吸血鬼が女とは思わなかったぜ」

('、` 川「精々、歓迎しようじゃないか。この”ペニサス=バレンシュタイン”が」

(´・ω・`)「………」

言って、黒の外套をはためかせながら大仰な仕草を見せる”女”の吸血鬼。
4人の敵を相手にしても一切怯む様子も見せないのは、やはり人外の力を持つ者のなせる余裕か。

( ^ω^)「お前に直接恨みはないけど───倒させてもらうお」

('、` 川「出来るものならば……やってみるが良かろう?」

691名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:41:50 ID:.tzphm0k0

あくまで表情にも平静を保った、余裕の佇まい。
ブーン達がどう打って出てくるかを、探っているかのようだった。

ξ#゚⊿゚)ξ「………」

( `ω´)「まずは正面から、ブーンが行くお」

爪'ー`)「───あぁ」

(´・ω・`)「隙を見て、”魔法の矢”で貫く」

ブーンが正面に刀身を傾かせて剣を構え、フォックスは二振りのナイフを指先に掴んだ。
ペニサスと名乗った吸血鬼の前に立った三人は、ツンを遮るようにしてそれぞれに身構える。

('、` 川「ほう? 魔術師が居るか……」

(´・ω・`)「生憎と」

ショボンもまた、両の掌の間に見えないものを抱えこむようにして、詠唱の準備に入っている。

692名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:43:21 ID:.tzphm0k0

(#`ω´)「───いっくおぉぉぉぉッ!」

真正面を切って吸血鬼の元へと駆け出したブーンの左右に、
それぞれフォックスとショボンがツンから離れすぎないように散らばった。

その彼らに信頼を預けて、ツンもまた”聖術”を解き放つ祈りを始めていた。

ξ-⊿-)ξ(───”ヤルオ=ダパート”の名において───)

が、4人を待ち受ける吸血鬼が、腕とともにばさりと大きくその外套を翻した時、異変が起きる。

( 、 川「”来るがいい!”」

( `ω´)「!?」

吸血鬼がそう口にした瞬間、瞬時に広い室内には深い霧が立ち込めていく。
部屋の四隅、隙間という隙間から、どこかから発生したそれが入り込み、冒険者達の視界を奪う。

693名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:44:48 ID:.tzphm0k0

吸血鬼を三方から覆い包むように拾っていた三人は、突然の濃霧に足を止めた。
既に、お互いの顔の目視も困難なほどに室内全体を覆い隠しつつあるのだ。

互いに離れすぎては、各個撃破の格好の的となってしまう。

爪'ー`)「………ツンッ!後ろに下がって、入ってきた扉を開けろ!」

ξ;゚⊿゚)ξ「わかったわっ!」

(´・ω・`)「退けっ、下がるんだ、ブーンッ!」

(;`ω´)「くっ……何なんだお、この霧は!」

即座にフォックスが霧を払うべく、大声でツンに促した。
ブーンも一旦足を止め、寄り集まるようにしての後退を余儀なくされる。

もはや、一同の正面に立っていたはずの吸血鬼の姿も捉えられない。
距離感すら危うく、飛び出したはずの3人は逆に部屋の後方へまで押しやられていた。

694名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:45:43 ID:.tzphm0k0

ξ;゚⊿゚)ξ「……駄目、開かない!」

この部屋と廊下とを隔てる鉄扉が、今ではびくともしなかった。
一度立ち入った敵を逃がさない為の仕掛けがなされているのだろう。

「はははははッ!どうした───逃げ惑え、そして怯えるがいいッ!」

(;`ω´)「ショボンッ!」

部屋中に響き渡る高らかな吸血鬼の笑い声───しかし、霧に阻まれてそれとの彼我差を図る事が出来ない。

扉を室外へと追いやって物理的に霧を晴らす事も不可能。
だが、もしこの霧が魔的なものだとすれば、対処出来るのはこの中で彼一人しかいない。

(´-ω-`)【見えぬ生命の脈動 我が瞼の裏に 色を以ってその輝きを知らしめよ】

【───生命探知の法───】

ショボンが瞳を閉じているのすら今のブーン達には把握出来ていなかったが、彼は静かにそう呟いた。

695名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:46:41 ID:.tzphm0k0

そして、再び冷ややかな吸血鬼の声が室内に響き渡る。

「頃合だな───そろそろ始めようか、この余興を」

(;`ω´)「!……そこかおッ」

その居所が掴めぬままに、ブーンが反射的に声の聞こえた方向へと剣を振るった。
しかし刃先へと伝わる感触は、空を裂くものだけだ。

爪;'ー`)「ちッ、無事かツン!?」

ξ;゚⊿゚)ξ「ええ、今はまだね!」

それぞれが霧の向こうを見据えながら、いつの間にか三人はツンを囲みながら小さな輪となっていた。

('、` 川「どうした?───余を倒すのではなかったか?」

(;`ω´)「!」

突然、ブーンの正面に濃霧に遮られながらぼんやりと吸血鬼の姿が映り込んだ。
のこのこと姿を現したその敵に大きく踏み込むと、気合と共に縦に断ち割る一閃を見舞った。

696名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:49:34 ID:.tzphm0k0

”がぎっ”

(; °ω°)「ぬおぉッ!?」

しかし、またも手ごたえは得られない。
目の前に姿があるというのに、剣は振るわれる威力のままに床を叩き付けただけだ。
予想に反した結果が、身体を持っていかれるような浮遊感をもたらし、よろめいた。


ξ;゚⊿゚)ξ「ブーン、気をつけて!」

('、` 川「フフン……それが全力か?」

(;`ω´)「───フ、ゥッ!」

顔を上げた先に、またも蜃気楼のように霧の中に映り込む吸血鬼。
振るった横薙ぎも、やはりその刃が届く事はなかった。

('、` 川「ほら、どうした」

ξ゚⊿゚)ξ「!」

('、` 川「姿を現してやったというのに」

爪;'ー`)「………冗談かよ」

697名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:50:18 ID:.tzphm0k0


            ('、` 川                    ('、` 川

('、` 川                     ('、` 川

       ───「まるで、攻撃が当たらぬではないか」───

  ('、` 川          ('、` 川
                             ('、` 川

          ('、` 川


(;`ω´)(幻覚を───見せられているのかお!?)

気付けば、霧の中のそこら中に吸血鬼、ペニサスの姿が映り込んでいる。
ブーン達を嘲うかのような言葉が紡がれると、全てのその蜃気楼が、同じように口を動かすのだ。

698名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:51:28 ID:.tzphm0k0

”こちらの攻撃がまるで当たらない”

敗れた冒険者達が口にしていたのは、この状況だったのだ。
本体はこの部屋のどこかにいるはずだが、目の前に映る幻影が視覚を惑わせる。

弄ばれているかのような現状を打破する手立てが、見えてこない。
ブーンの額から流れた冷たい汗が地面へと、頬を伝い落ちた。

('、` 川「………そぅら」

ξ;゚⊿゚)ξ「どうしろっての……これ───きゃッ!?」

突如、吸血鬼の幻影がブーン達を指差した次の瞬間、室内のどこかで光が瞬いた。
そちらへ視線をやると、”球状の光”───そう思しき形状と認識できた。

だが、それは凄まじい速度で既にこちらへと向かっていた。

”ぱんっ”

699名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:52:20 ID:.tzphm0k0

「……うおぉッ!?」

形を為した光がブーン達の方と飛来した直後、何かが軽く弾けるような音と共に、一人の苦痛が叫ばれる。

爪;'ー`)「ア……ッチィな───畜生が!」

フォックスが、肩膝を付いて肩を庇っていた。
霧の中から放たれた光が、フォックスの身体へと浴びせられ、炸裂したのだ。

光の弾に当てられた部分の衣服が破れ、薄らと血の滲み出る素肌が覗かせた。

(;`ω´)「大丈夫かお、フォックス!?」

爪;'ー`)「死ぬほどじゃねぇがな───痛ぇぞ」

言っている内に、また光が瞬いた。
再び、球状の光が目視不可能な程の速度で飛来すると、僅かに半身を反らして対応したブーンの
右胸を掠めるようにして直撃したその光が、爆散する。

”ぱんっ”

700名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:53:25 ID:.tzphm0k0

(; ω )「く……おッ!」

皮の胸当てにそれが当たったのは幸いだった。
だが、味わった事の無い魔力がもたらす衝撃とその熱に、たたらを踏んだ。

爪;'ー`)「───今光ったのは部屋の東側だ。俺の時は西側だった」

(;^ω^)「く……一発ごとに、この広い部屋中を移動してるのかお!」

('、` 川「どうした?───余は、こんな近くに居るというのに」

狡猾極まりない───人間以上の性能をその身に有しているというのに、
このペニサスの戦い方は、そう吐き捨てたくなる他無い戦い方だ。

あるいは、こちらの戦意を徐々に削ぎ、いたぶるだけが目的なのかも知れないが。

(;`ω´)「ツンッ!………むぉッ────”聖術”だお!」

ξ;゚⊿゚)ξ「───ええ!」

ツンに言葉を掛けている最中にも、ブーンがまた光弾をその身に受けた。

701名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:54:27 ID:.tzphm0k0

濃霧に囚われたこの場所は、今やブーン達にとっての檻だ。

吸血鬼からすれば、好き勝手にこちらを攻撃できる格好の場所であろうが、
何らかの行動を起こさなければ、このまま戦闘不能にまで陥ってしまうだろう。

(;^ω^)「また───時間稼ぎするんだお、フォックス!」

爪;'ー`)「仕方ねぇ……どわちッ!」

ツンが聖術発動までの祈りを捧げる中、フォックスとブーンはその両脇を固めた。
光弾がツンの命を脅かすような事や、その祈りに雑念を挟み込ませるような事があってはならない。

ξ-⊿-)ξ(───一【この邪にして不浄なるものを 消し去る力を与え賜わん事を】────)

”ぱんっ”

(; ω )「ぐはッ」

ξ;-⊿-)ξ(───ッ!)

702名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:55:54 ID:.tzphm0k0

”ぱんっ”

爪;'ー`)「うおぉッ!?くそったれ───ショボン、何してやがんだッ!?」

既に、二人には数発の光の弾丸が叩きつけられている。
一発ごとに身体にはその傷跡が刻まれ、戦意というものを、少しずつ痛みが蝕んでゆく。

(´-ω-`)「………」

その彼等から少し離れた場所で、瞳を閉じたショボンは何かを感じ取るように、
探り当てるようにしながら、両の腕を胸の前でゆらめかせていた。

('、` 川「そら、そらそら───どうした?やはり人間風情では、手も足も出ないかぁッ?」

ペニサスの幻影が、またもそんなブーン達を嘲う。

それでも、剣が届かずどこにいるかも解らない相手に対して今出来る事は、
ツンの祈りを妨げる事の無いように、彼女を庇う事しかない。

ξ;-⊿-)ξ(───【勇敢なるかの者達の 助けとならん事を その為の力を……】───)

703名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:57:00 ID:.tzphm0k0

爪; ー )「うがぁッ!……同じ箇所に当てんじゃねぇ!てめぇッ!」

ξ;゚⊿゚)ξ(力を────!)

俯きながら祈りを念じていたツンが、突然ばっと顔を振り上げた。
表情には、明らかな動揺を貼り付けて。


ξ;゚⊿゚)ξ「───駄目ッ」

”ぱぁんっ”

爪;'ー`)「うがッ!………ツン!?」

「どうしてッ!?」
そう叫びでもしたそうに、ツンがわなわなと口元を振るわせる。

ξ;゚⊿゚)ξ「届かないの───ヤルオ神に、祈りが……!」

”ぱんっ” ”ぱぱんっ”

704名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:57:48 ID:.tzphm0k0

泣き出しそうな彼女の表情に振り返る事もできず、ブーンは腕を交差させて光弾を凌ぐのが精一杯だった。

(; ω )「もう一度───もう一度、だおッ!」

ξ;-⊿-)ξ「………くッ」

頼みの綱であったはずの聖術が発動せず、攻略の糸口はまるで見えない。
───全員の心が焦燥に囚われかけた、その時だ。


(´-ω-`)「視えた………!」


未だ瞳を閉じたままのショボンが、そう囁いた。

(;^ω^)「ショボン」

705名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:58:50 ID:.tzphm0k0

(´-ω-`)「そこらの幻覚に惑わされては駄目だ───この部屋には、僕ら以外に”二人”が居る」

ξ;゚⊿゚)ξ「吸血鬼……以外にも?」

爪;'ー`)「やれやれ……もっと早くよこせよ、その情報」

この濃霧の中にあって、恐らくショボンは全員の中で誰より現状を把握していた。
たとえ瞳を閉じていても、彼の”探知魔術”によって、生命の動きがショボン一人だけには視えるのだ。

(´-ω-`)「ブーン、左から光弾が来る」

(;`ω´)「!………うおッ───とぉッ」

ショボンの言葉にブーンが身構えた瞬間、その方向から光弾が飛来した。
大まかではあるが、予めその情報を渡されたブーンは、どうにか身体を反らしてその直撃を避ける。

爪;'ー`)「へっ、じゃあそろそろお楽しみの種明かしを頼むぜ、ショボンさんよ!」

706名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:59:32 ID:.tzphm0k0

(´-ω-`)「この霧を発生させているのは恐らく魔法によるもの………そして、その術者は───」

(´・ω・`)「僕たちの───”真上”だ」

('、` 川「………なッ」

一瞬、蜃気楼の吸血鬼が狼狽したような声を上げた。

( ^ω^)「そこ……かお!?」

ショボンの言葉に見上げた先にあるのは、何の変哲も無い天井。
人二人分ほどの高さはあるそこを目掛けて、ショボンの言葉を信じたブーンが跳躍した。

突き刺す、そうイメージして剣を天井へと振り上げる。

”がしゃあぁんッ”

707名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:00:50 ID:.tzphm0k0

( ^ω^)「!」

だが、感じた柄への手ごたえは呆気のないものだった。
あっさりと剣が貫通すると、ぱりぱりと音を立ててこれまで”天井”だった破片が降り注ぐ。

(ひえぇッ!?)

階上で、この濃霧を発生させていたと思しき”人”の声が聞こえた。
頭から降り注ぐ破片の飛まつを腕で庇いながら、霧が少しずつ薄らいでいくのが感じられる。

(´・ω・`)「目を庇って、三人とも!」

ξ;-⊿-)ξ「あた、あだだ!」

爪;'ー`)「こりゃあ……硝子か!」

(´・ω・`)「そうだ───恐らく隠蔽魔術の一種……」

708名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:01:50 ID:.tzphm0k0

(´・ω・`)「肉厚の硝子を張り巡らせて天井と偽装した場所に、予め
       この濃霧を生み出す為の術者を配置しておいたんだろうさ」

ξ゚⊿゚)ξ「術者って……」

(´・ω・`)「当然、魔術師である人間だろう」

本来の天井には、もっと高さがあったのだ。

ブーンが剣を突き立てた部分から開いた風穴に霧が流れ込む事によって、濃霧だったそれは
映し出していた吸血鬼の姿を、今ではぼんやりとだけ映る薄もやのように変えていく。

.:'、`;川「く……こんな───バカなッ!」

( ^ω^)「全く、とんだ吸血鬼だお。どうやら……からくりが見えてきたおねッ!」
                ・ ・ ・
種が破られた今、どうやら吸血鬼は明らかにうろたえている。

709名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:04:42 ID:.tzphm0k0

やがて、ガラス張りの天井には少しずつ亀裂が広がり、音を立てて大きな破片が崩れ落ちた。
───一際大きなものに見えたのは、それは人影だったからだ。

「……ぐッおぅッ!!」

爪'ー`)「おー、こりゃあ痛ぇな」

べちゃりと音を立てて、濃霧を発生させていた術者が顔面から地面へと落下してきたのだ。
当然、割れた硝子の破片がひしめく地面に落ちたものだから、その顔中は傷だらけであった。

(メ;´_ゝ`)「な………な……何が、起こった?」

ξ゚⊿゚)ξ「ッ───あなた、町長の家の前にいた……!」

(メ;´_ゝ`)「……はい?」

710名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:05:29 ID:.tzphm0k0

(;^ω^)「なるほど………この吸血鬼騒動、町長とやらもグル……ってことかお」

('、`;川「………」

(メ;´_ゝ`)「へ?え?何、どういう状況これ……まさか、見破られたのかペニ────」

('、`;川「───だ、黙ってろ!”人間の従者”ッ!」

(´・ω・`)「もうサル芝居は二度と通用しないよ、ペニサスさん───と仰ったか」

('、`;川「くっ……」

”人間の”という部分にわざと力を込めて言い放ったが、その不自然さは見過ごせなかった。
まだ、”あくまで自分は吸血鬼だ”とでも言いたげな表情をしていたが。

どうやら、このマドマギアを賑わす”吸血鬼騒動”の真相が見えつつある。

711名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:06:36 ID:.tzphm0k0

( ^ω^)「さーて……姿が見えれば、こっちのものだお」

あちこちを傷だらけにはされたが、未だ命に別状のあるダメージではない。
剣を構えたブーンが、悠々と吸血鬼・ペニサスの元へと近づいてゆく。

先には、痛めた全身をさすりつつ刺さった硝子片を抜いている、術者の男。
その背後で、ペニサスはたじろぎながらじりじりと後ずさっていた。

爪'ー`)「おいおい、仮にも吸血鬼(笑)だぜブーン……全力でかからねぇと」

('、`;川「うっ……くぅッ」

(メ;´_ゝ`)「……あ、解ったぞ!───いわゆる”まずい状況”だろ、これ?」

ξ#゚⊿゚)ξ「ぬけぬけと……よくもさっきは騙してくれたわね」

(メ;´_ゝ`)「え………何?俺、君とは初対面だと思うんだけど……」

712名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:08:20 ID:.tzphm0k0

形勢は、もはや一挙に逆転していた───部屋の隅の机にまで押しやられたペニサス。
そしてその前に小さく膝を抱えながら丸まる術者である男を、ブーン達は皆で取り囲んでいた。

ξ゚⊿゚)ξ「さぁて、どうカタをつけてくれようかしらね」

(メ;´_ゝ`)「いや……マジで、時に落ち着けって……本当に!マジで初対面だからッ
      ”私と貴方は前世で会っている”とかそういうアレだったら本当に勘弁して欲しい」

ξ#゚⊿゚)ξイラッ「こいつ……こんな感じの奴だったかしら」

( ^ω^)「一つ尋ねるけどお───ペニサス。あなたは、本当に吸血鬼なのかお?」

('、`;川「………そ、そうだ!」

爪'ー`)y-「ヴァンパイアって、随分とコスい戦い方するんだな……一つ勉強になったぜ」

('、`;川「ま……魔法ぐらい……あんなもの……!」

713名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:10:05 ID:.tzphm0k0

(´・ω・`)「ふぅ───本物の吸血鬼なら仕方ないね。倒させてもらうけど、いいかな?」

('、`;川「あ──ぐぅ……そ、それは……!」

(メ;´_ゝ`)「…………」

もはや戦意を失っている彼女達を、まるで小馬鹿にするような口調でショボンが言い放った。
これまでの道中、ブーン達が激戦を覚悟して此処まで来たその代償を、彼女達にも払ってもらわなければならない。

悪戯な心が、全員の中に芽生えていた。

( ^ω^)「ところで、吸血鬼を倒したっていう証はどうしたらいいかおねぇ?」

(´・ω・`)「そうだね……首でも刎ねて、持っていけばいいんじゃないかな?」

( 、 ;川「───ひっ!」

( ^ω^)「……やっぱりそうだおね、それが一般的だお」

爪'ー`)y-(くっく……悪い奴だな、ショボン)

ξ゚-゚)ξ(あぁ……なんか、こんな自分も居たのね)

714名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:11:15 ID:.tzphm0k0

ブーン一行は、少しだけこの状況を楽しんでいた。
この”偽りの吸血鬼”が、自分達の言葉に狼狽している、その様子に。

( ^ω^)「さて……覚悟してもらおうかお」

(´・ω・`)「そんなものは必要ないさ。吸血鬼は類稀なる生命力を持つ───生首になっても、言葉を喋るかも知れない」

爪'ー`)y-「おーっと、そりゃあちっと俺は見たくねぇ光景だな」

ξ゚ー゚)ξ「私も……目背けとこっと」

(メ;´_ゝ`)「ペニサス……今まで、ありがとうな」

ξ゚⊿゚)ξ「喋んな、お前」

(メ;´_ゝ`)「痛っ!?ちょっ、俺───今明らかに年下の娘さんに平手打ちされたんだけどッ!?」

715名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:13:25 ID:.tzphm0k0

( ^ω^)ジー「………」

(´・ω・`)ジー「………」

爪'ー`)y-プカー「………」

ξ゚⊿゚)ξジトー「………」

(メ;´_ゝ`)(マジ、これ謝った方が良くないか?)

('、`;川「む……うぐ、ぐぅ……」

吸血鬼騒動の真相──―その”自白”を待ち、
一同が冷ややかな笑みをペニサスに浴びせている─────その時だった。

716名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:14:18 ID:.tzphm0k0


「───待ってくれ!」


( ^ω^)「………っ」

背後から聞こえたその声に振り向くと、閉ざされていたはずの鉄扉を開け放して、一人の男の姿。
その顔を見て全員が一瞬驚き、思わず二度見してしまった。

(´<_` )「……その辺で、勘弁してやってくれないか」

ξ゚⊿゚)ξ「!」

先ほど、町長の家の前に立ちふさがっていた、あの冒険者の姿がそこにあった。
ツンの足元で小さく丸まっている男の顔と、その彼が瓜二つな事に驚き、見比べてしまう程だ。

(メ;´_ゝ`)「……弟者!?」

('、`;川「オトヒム!?………な、なんでここに居るのよッ!」

717名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:16:05 ID:.tzphm0k0

(;^ω^)「おとう……と?」

(´<_` )「………ああ」

こくりと頷くと、つかつかとブーン達の前へと歩み出て、彼は控えめに頭を垂れた。
恐らくは、この件に関しての謝罪のつもりだろう。

(´<_` )「すまなかった……そこの彼女、ペニサスは───多分あんた達にも知られている通り、本当は”人間”だ」

(´・ω・`)「………」

爪'ー`)y-「まぁ、途中から知ってたけどよ」

彼女からすれば予想外の人物による真相の暴露に、ペニサスが慌てふためく。
それでも、もはや収束へと向かっているこの状況が彼女にとって好転する事はないだろう。

('、`;川「何を言い出すの!オトヒムッ!」

(メ;´_ゝ`)「弟者………ッ」

(´<_` )「もう十分だろう、ペニサス。こんな状況に陥っても依頼主の名を明かさないプロ根性は流石だが」

718名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:16:58 ID:.tzphm0k0

('、`;川「ぐぬぅ────ッ」

「………ここまで、か」
そう呟くと、ようやく観念した、というような表情のペニサスが、
今のような事態を引き起こした経緯について、ぽつりぽつりと真相を語り始めた。







黒い外套の端で顔や身体に満遍なく塗布された白粉を拭ったペニサスの顔には、やはり人間の血色が戻った。
瞳に丁度良くはめられていた極々薄い、赤みを帯びた硝子玉を取り外すと、そこには薄茶色の瞳も隠されていたようだ。

('、`*川「……最初は、軽い悪戯心のつもりだったんだけどね」

720名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:23:03 ID:.tzphm0k0

(´・ω・`)「ペニサス……本当の名は、”ペニサス=ジラルディーニ”と言ったか。一度聞き覚えはあったよ」

('、`*川「そうよ……よくご存知で。私も、以前は賢者の塔に出入りを許された魔術師の一人だった」

('、`*川「最初から、貴方があのショボン=アーリータイムズだったなんて知ってたら───」

(´・ω・`)「全力で倒しに来た、かい?」

('、`*川「……ううん、正直貴方クラスにはかなわないって思うし───最初から、こうしてたかもね」

魔術の研究に行き詰っていたペニサスは、一時期このマドマギアに滞在していた。
それが3年ほど前で、当時は行き交う商人の数も少なく、寂れた田舎町だったという。

721名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:24:03 ID:.tzphm0k0

凋落してゆくわが町に対し、町興しに危機感を募らせていた今の町長が、そんな彼女に目をつけたのだ。
ゆったりとした彼女だけの研究室を与え、稼ぎの一部を対価としてペニサスに与えた。

以前から何度も噂話の流言で冒険者を釣ろうとしていた町長は、失敗を重ねていたのだという。

それが今回、”吸血鬼に支配された町”を演じる上で、魔術師としては腕の立つ方である彼女は適役となり得た。
高額報酬で多数の冒険者を大陸各地から募りながら、そこに集まる商人達が商いをする事で、街は賑わいを見せたのだ。

('、`*川「私もさぁ……衣装とか身に着けていざ吸血鬼の演技し始めたら、結構ノリノリだったワケよ」

ξ゚⊿゚)ξ「でも……倒されたらっていう事は、考えなかったの?」

(´<_` )「そうならないよう、町長から依頼されてペニサスにあてがわれ、これまでフォローしてきたのが俺たちだ」

(メ;´_ゝ`)「そう───この俺”サスガ=アニエス”と……弟の”サスガ=オトヒム”がな」

722名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:25:32 ID:.tzphm0k0

('、`*川「ま、やってくるのはこれまで大抵二流三流の冒険者ばかり……剣を振るうしか戦法を知らない奴らだったし」

(;^ω^)「ちょっと心に刺さるお、その言葉」

('、`*川「ごめんごめん───でもまぁ、あんた達の連帯感は大したものよ。この仕掛けが、見破られるとはね」

(メ;´_ゝ`)「あぁなったら、殆どの冒険者パーティーが纏まり無く散らばって逃げ惑ったからな」

「腕の良い魔術師が敵だと、本当に厄介よね」
そう言って、ペニサスはショボンの方へ少しだけ悔しそうに笑みを浮かべた。

(´<_` )「さて───悪事の片棒を担いだ俺たちの罪は明白だが……」

(メ;´_ゝ`)「その俺たちを、一体どうするつもりかな?」

ξ゚⊿゚)ξ「弟さんが神妙にしてんのに、兄貴が踏ん反りかえってんじゃないわよ」

(メ;´_ゝ`)「痛ッ……あぁッ!そこ、ガラスとか刺さってるからマジでやめてッ!」

723名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:26:19 ID:.tzphm0k0

( ^ω^)「ふむ………」

彼等への処遇は、自分達だけでは決めかねる問題だ。

騎士団にこの事実を通報すれば、恐らく町長はもとより彼等自身もタダでは済まぬだろう。
しかして、この多数の商人を集めた騒動が収束すれば、一つの街の存亡にも関わる。

('、`*川「ちなみに……私はもうやめるわ、吸血鬼役───懲りたわね、正直」

疲れたような表情を浮かべるペニサス、彼女もまた、少なからず良心が咎める部分があったのだろう。
その彼女に呼応するように、オトヒムもこの件に関して手を引く事を口にした。

(´<_` )「俺もさ───また暫くの間、兄弟で依頼をこなしながら各地を転々としようと思う」

爪'ー`)y-「俺はあんたらがどうなろうと知ったこっちゃねぇが……」

(´・ω・`)「ブーン。一応は君がリーダーだ……決めるといい」

724名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:28:04 ID:.tzphm0k0

ξ゚⊿゚)ξ(話してみると例外を除いて案外悪い人たちじゃなさそうだけど───円卓騎士団に知れたら大事ね)

あのフィレンクト団長の事だ。
吸血鬼を騙って甘い汁を啜っていた町長も、一役買っていた彼等もまた、三日や四日の尋問では済まない。

それらを踏まえたうえで、ブーンは意を決したようだった。

( ^ω^)「───帰るお」

('、`*川「へ?」

( ^ω^)「あんた達がこの街から手を引くなら、ブーン達も町長を問い詰める理由は無くなるお」

爪;'ー`)y-「おいおい……仮にも銀貨3000の依頼の条件を満たしたんだ───金品ぐらいは要求しても……」

( ^ω^)「今後の事を考えると……それも気が引けるおね」

(メ;´_ゝ`)「まぁ、俺たちが居なくなれば……この街はまた昔ながらの冴えない田舎町に逆戻りだろうな」

725名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:28:58 ID:.tzphm0k0

('、`*川「ま、私もマドマギアを出る際に”吸血鬼騒動は捏造でした”、って流布しておくつもりだし」

(´<_` )「元の木阿弥……信頼を失い、前以上に寂しい街になるだろうな───だが、俺たちへの制裁はどうする?」

ξ゚⊿゚)ξ「私としては───冒険者以外で吸血鬼に苦しめられた人が居ない以上、あまり口を出すつもりはないけど」

( ^ω^)「今は───ブーンにも考えつかんお。ツンの言うとおりだと思うお。
       確かに労力は惜しいけど、ペニサス達は町長に従ったまでの事だし……このまま街を出るつもりだお」

(´<_`;)「……おいおい、それじゃ」

(メ*´_ゝ`)「やったぞ弟者よ!俺たち、お咎めナシだってさ!」

ξ#゚⊿゚)ξ「アンタは反省が足らないみたいだからどうしようかしらね?」

(メ;´_ゝ`)「……海よりも深き所にて、猛省している所存です」

爪'ー`)y-(ったく、甘ぇ奴だぜ……町長を脅かしゃあいくらでも……)

(´・ω・`)(彼の美徳の一つと考えてあげよう、フォックス)

爪'ー`)y-(しゃあねぇ、か)

726名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:29:58 ID:.tzphm0k0







3人ほど面子の増えた冒険者集団は、七人で古城を後にする。
去り際、螺旋階段に座り込んでいたペニサスとすれ違い、一言をかけておいた。

( ^ω^)「終わったお」

从 ゚∀从「───おろ?」

('、`*川「今までお世話になったわ、ハインちゃん」

状況を飲み込めぬままのメイドであったが、彼女に別れを告げて古城を出た後、
どうやらペニサスら3人はその足で直接町長の家に赴き、決別を宣言しに行ったようだった。

報酬がない事にぶうたれていたフォックスだったが、彼等との別れ際に口止めを兼ねた
迷惑料をオトヒムから渡され、どうにか溜飲を下げたようだ。

(´<_` )「あんた達のリーダーの意図ではないかも知れんが……古城への入場料に、少しばかり上乗せしておいた」

( ´_ゝ`)「粋だな、弟者」

727名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:30:48 ID:.tzphm0k0

爪'ー`)「へっ。まぁ、吸血鬼討伐の対価としては少ねぇが、有難くもらっとくさ」

('、`*川「色々と迷惑かけたわ、本当」

ξ゚⊿゚)ξ「自称リーダーがいいって言ってるんだから、もう、いいのよ」

('、`*川「仲いいんだ、君たち?」

ξ゚ー゚)ξ「ふふ……まぁまぁ、ね」

('、`*川「ま、私もサスガ兄弟とはこの街に来て仲良くなったし──明日の朝には一緒に発つつもりよ」

ξ゚ー゚)ξ「こっちは、町長の恨みを買って住民総出で袋叩きに遭う恐れがあるから、少し休んで夜出発だってさ」

('、`*川「……そっか。ま、またどこかで会う事があったら、その時はよろしく頼むわね」

ξ゚ー゚)ξ「───こちらこそ!」

728名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:31:40 ID:.tzphm0k0

(´・ω・`)「二人共、傷の具合はもう大丈夫かい?」

( ^ω^)「おっおっ!さっきツンにしてもらった”癒身の法”でバッチリだお」

爪'ー`)y-「まぁ、元々が軽い火傷みてーなもんだしなぁ」

( ´_ゝ`)「あんたらの連れてる娘さん、本当に凄い力を持ってるんだな」

ツンが聖術を用いて傷を癒したのは、ブーンとフォックスだけではなかった。
顔面にガラス片が突き刺さり血まみれだった、アニエス───サスガ兄弟の兄者もだ。

( ´_ゝ`)「死に体の俺に対しての、あの容赦ない暴力───正しく情け無用の残虐ファイターそのものだ」

爪'ー`)y-「まぁな、あいつをあれだけ怒らせて平気な顔してるお前さんも大したもんだが」

( ´_ゝ`)「ま、それは流石───」

ξ゚⊿゚)ξ「きこえとんぞ」

「!?───ギバーーーーーップッ!!」

729名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:32:33 ID:.tzphm0k0

”吸血鬼討伐の依頼”、本当ならば、銀貨3000spに値する依頼だった。
だが、結局の所得られたものは、新たな冒険者の友人だけだ。

ブーン達は街の入り口付近でそうして彼らと触れ合うと、いずれ廃れるであろうマドマギアに憐憫の情を送りつつ、
そしてサスガ兄弟とペニサス=ジラルディーニに小さく手を振って、暮れなずむ夕焼けの中、マドマギアを発った。

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──────




~そして~


忘れ去られていた人物が、ここに一人。

ノパ⊿゚)クワッ

730名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:35:18 ID:.tzphm0k0

「おぉッ……良かった、お目覚めになられたか!意識が戻らないから死んでしまったかと……」

饅頭屋の店主は、付きっ切りで彼女を看ていたのだ。

今になって目を覚ましたヒートが、状況を把握しようと辺りを見回す。
だが、その窓の外から見える明るさは、もう昼間のものではない。

ノパ⊿゚)「……寝てた」

「ね、寝てたんですか?饅頭が喉に詰まって気を失ってたのかと───」

ノハ;゚⊿゚)「はッ!”ツン様警護の任”がッ………しまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーッ!!!」

「ひえっ」

主人が驚くような声量で叫ぶと、傍らに置かれていた剣を掴み、素早くベッドから飛び跳ねる。
そのままどこかへと走り去って行ってしまった───と、思いきや、戻ってきて一言だけ告げた。

731名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:36:05 ID:.tzphm0k0

ノハ;゚⊿゚)「そ、そうだ───忘れてた。饅頭、ご馳走様でした」

「……あっそういえば、まだ吸血鬼饅頭48個分の代金───」

「また来るからッ、その時にしてくれぇぇぇぇぇッ!」

”食い逃げ”と叫びながら裸足で追いかける主人の奮闘も空しく、時既にヒートは何処かへと走り去っていた。
───この事件の後から、彼女の称号”朝寝坊の騎士”に加えて、新たに”食い逃げの騎士”が冠される事となる。


──────

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732名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:36:51 ID:.tzphm0k0




   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

             第8話

           「血界の盟主」

733名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:38:05 ID:.tzphm0k0

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──────

夜の帳が下りた。

もう、すぐにでも適度な野営場所を探さねばなるまい。
完全に陽が没した今になって、やはりマドマギアに一日滞在すれば良かった、と後悔が出る。

ξ゚⊿゚)ξ「ごめん。ちょっと……疲れちゃったかも」

( ^ω^)「そろそろ、ここらで休むとするかお?」

爪'ー`)「そうだな───ま、お姫様にゃ荷が重い。見張りは俺ら三人でこなすとするか」

(´・ω・`)「ツンも聖術による疲労もあるだろうし、それがいいね」

734名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:39:13 ID:.tzphm0k0

そこらの枯れ木を拾い集め、それにショボンが短い詠唱で起こした小さな炎の魔法で、火を灯した

( ^ω^)「ショボンがいると、火起しが楽でいいおね」

(´・ω・`)「無尽蔵に出せる技じゃないんだ……たまに、で頼むよ」

ぱちぱちと飛び散る火の粉が、少しずつ疲れの溜まった身体を眠りへ引きずり込もうとする中、
何か───気配を感じたツンが、無数に立ち並ぶ木々の方へと振り向いた。


そして、唐突にそれは訪れる。

735名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:39:54 ID:.tzphm0k0



────ぞくり。




ξ゚⊿゚)ξ「………な、に」

( ^ω^)「どうしたお?ツン」

視界の届く範囲、その方向には誰も居ない。
だが、ツンと同じ方向へ首を向けている内に────彼らもまた、唐突に身を震わせた。

爪'ー`)「………」

フォックスが、音も立てずに静かに立ち上がると、無言のままに胸元からナイフを取り出す。

736名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:40:47 ID:.tzphm0k0

この場に居合わせる全員ともが、同時に感じているのだ。
首筋から背中へと伝わる、意味も解らずに肌が泡立つようなおぞましさを。

(;^ω^)「───誰だお!」

ブーンが叫んだのは、眺める木の影の端に、何者かの動きがはっきりと捉えられたからだ。

ξ;゚⊿゚)ξ「誰か……居るの?」

まるで、恐る恐る声を掛けたツンの問いに答えるようにして───
その影はゆっくりと、ブーン達が起こした灯りの元へと姿を現した。


从 ゚∀从「よっ」



ξ゚⊿゚)ξ「!」

737名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:41:42 ID:.tzphm0k0

静かにそこに佇んでいた彼女は、軽くブーン達に向けて右手を上げた。
見れば、昼間に古城で通行を管理していた、あのメイドだ。

(´・ω・`)「君は………」

昼間見た時と違う点と言えば、今はメイド服を脱いで黒の外套を纏っているぐらいだ。

(;^ω^)「───びっくりしたお!確か……”ハイン”?」

从 -∀从「あぁ……クビんなっちまったよ……ペニサス達があんたらに負けてから、な」

(;^ω^)「やっぱり、そうなったかお───悪い事したお」

从 ゚∀从「ま、気にしなくてもいいぜ」

ξ;゚⊿゚)ξ「………」

ハインの姿を認めてから、ツンは一言も発しようとはしなかった。

おかしい。

738名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:42:47 ID:.tzphm0k0

目の前の彼女は恐らく、何かが決定的に狂っている。
そこに居るのは、確かに見知った顔のメイドであるはずなのに。

だのに───攻撃的に肌を突き刺してくるようなこの不快感と、冷や汗が収まる気配は今も無い。

その身に纏う異質な雰囲気自体が、とても禍々しいものに感じられた。
存在自体にそう感じてしまうというならば───それは、人間などよりももっと高位の存在。

(;´・ω・`)(! なん……だ、この、心臓を握られているような───)

爪;'ー`)「………気付いたか?ショボン」

そんな彼らの様子に触れる事もなく、ハインは一方的に話し始めた。

从 ゚∀从「いやぁ、あの常勝無配を築いてきたペニサスをよく倒したよなぁ」

739名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:44:38 ID:.tzphm0k0

(;^ω^)「たまたま……あとは、ショボンの活躍、だお(何、だお……?)」

从 ゚∀从「ま、吸血鬼目当てに来てた奴ぁごまんといるが、俺が見た中では……お前らが一番だった」

今この場に立ち込めているのが、どす黒い殺気という事に気付くまでは、時間がかかってしまっていた。

しかし、どうやらツンの目には彼女の姿がブーン達とは違う風に映っていたらしい。
彼らの後ろで立ち上がり、いつでも聖術を使えるだけの体勢を身構えていた。

从 ゚∀从「あぁ、そうさ……そうだよ。一番────”そそられた”」

ξ;゚⊿゚)ξ「違う……ッ」

昼間古城で面倒臭そうな態度を取っていた、あのやる気の無いメイドとは違う。

ましてや───”人”ですらない。

740名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:46:03 ID:.tzphm0k0

(;^ω^)「………!!」

仲間たちが既に臨戦態勢に入っていたのが視界の端に入り、ブーンも怖気の正体を認識した。
気取られぬよう、話しながらも静かに剣の柄へと手を伸ばす。

爪;'ー`)「おめぇ────何もんだよ」

从 ゚∀从「いやぁ、長らく人間観察が趣味だったけどよ……やっぱり身体を動かさない生活は退屈で駄目だね」

問いかけるフォックスがナイフを構える態勢は、もはや敵と見なしている相手へのそれだ。
吸血鬼に扮したペニサスを、初めて前にした時ですらこれほどまでの危機感は覚えなかった。

相対しているだけで、生命の危機を感じる───などとは。

从 ゚∀从「なぁ……ところであの街にさ。吸血鬼、探しに来たんだろ」

(;^ω^)「………それが」

ごくりと、生唾を飲み込んでからハインに言葉を返した。

741名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:48:25 ID:.tzphm0k0

彼女は極々普通に話すようにして、まるで世間話をするようにして言葉を紡ぐ。
その彼女に対しては、武器を持つ二人が既に彼女へとそれを向けて構えているというのに。

それを認識しながらも、一切会話の中でそれに触れる事もない事こそが、彼女の異常さを際立たせる。

从 -∀从「教えてやるよ、ヴァンパイアにも色々居るんだぜ?古株んなったら……エルダーとか呼ばれんだ」

(´・ω・`)「君は………何が言いたい?」

从 ゚∀从「あぁ、悪ぃ悪ぃ。ちっとばかし興味が沸いちまっただけなんだよ、お前さん方にさ」

そう、あっけらかんと笑う彼女の悪戯な笑みは───
表情や仕草だけ人間そのものである彼女の姿は。

まるでとてつもない化け物が、外見だけを扮しているようにしか感じられない。

(;^ω^)(ま、さか……とは、思うがお)

742名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:51:04 ID:.tzphm0k0

ふと、ブーンが昼間会った時とは違う彼女の瞳の色に感づいた。
今見ても限りなく黒に近く見えるのは、それがとても深い赤色だからか。

从 ゚∀从「そうそう、”始祖”って……知ってるか」

爪;'ー`)「何の話だ」

(;´・ω・`)「………なッ!」

ハインのその問いかけに、ショボンが驚きの声を上げた。
普段の彼の様子から察するに、それが決して大げさではない事も知っている。

从 ゚∀从「なぁ、知ってる?」

(;^ω^)「………ショボン」

(;´・ω・`)「エルダーら純血種と呼ばれる者達ですら……それは片方から受け継がれた血だけ───」

743名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:54:53 ID:.tzphm0k0

(;´・ω・`)「 片方か、もしくは更にその半分には人間の血が混じり……”真の純血種”など存在し得ない。
        だが───たとえそれですら騎士団を壊滅させかねない存在だ……」

ξ;゚⊿゚)ξ「………」

(;´・ω・`)「”始祖”と呼ばれるのは……”ロード・ヴァンパイア”は───
        その名の通り吸血鬼を生み出した大本の存在。いわば、それこそが純血種」

(;´・ω・`)「より色濃き───吸血鬼としての本当の血を持ち、今では大陸から既に
        滅び去ったとされてきた、”伝説的な存在の不死者”だ────」

緊張に震える声で紡いだショボンの言葉の意味が、そして自分達の身体が訴える
この生物としての本能的危機感の理由に、合点がいった。


从 ゚∀从「おぉっ。お前頭いいな───正解!」

744名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:56:03 ID:.tzphm0k0

爪;'ー`)「そいつが、何だってんだ」

从 ゚∀从「こん中でもわりかし頭キレそうな奴だけど……はぐらかしてんのか?───お前」

爪;'ー`)「………ッ」

いつもは軽口を叩き返すであろうフォックスが、それに言い返す事もできない。
強烈に浴びせかけられ続けている殺気に入り混じった威圧感に、呑まれていたのだ。

从 ゚∀从「昼間名乗ったのは”偽名”なんだよ───悪かった」

(;^ω^)(いざとなったら……)

(;´・ω・`)(解ってる)

この森ごとを焼き払ってでも討つか───それが出来なければ、死ぬ気で逃げおおせるしかない。
その算段を、互いに目配せを送って意思疎通をしておいた。

745名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:58:56 ID:.tzphm0k0

从 ゚∀从「本当の名はな……”エルンスト=ハインリッヒ”ってんだ───なぁ、そこのお前?」

(;´ ω `)「………」

指差されたショボンが、やはり、という表情を浮かべる。
決して知りたくはないような、そんな事実でしかないという風に。

恐怖、今のショボンの表情に貼りつくものは、その一言に尽きる。

从 ゚∀从「そぉッ!知っての通りさ………”始祖”って呼ばれた事も、あはは……あったっけなぁッ!」

”エルンスト=ハインリッヒ”は、そう言ってのけた。
ショボンはその名を知っていたからこそ、戦慄したのだ。

一国の国軍をも滅ぼし得る程の強大な力を有した、歴史に名を記す始祖たるヴァンパイアの名だ。

───そいつが放つ言葉は、普通の人間にしてみれば単なる死刑宣告のようなものだった。

746名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 15:04:54 ID:.tzphm0k0

从 ゚∀从「退屈してたんだ───楽しませてくれよ、お前らが」

彼女の頭上に、どこからか現れた数多の蝙蝠達が羽ばたいてきた。
近くで火を炊いているというのに、まるで、主の元へ縋るようにして。

(;^ω^)「……話し合いでは、駄目なのかお」

从 ゚∀从「応じられねぇ………ならさ。命を投げ打って、俺を討つっきゃ───ねぇよなぁ!?」

「あはは………あはははははは」

ξ;゚⊿゚)ξ

爪;゚ー`)

(;´・ω・`)

(; ω )


「───見せてくれよ……もう、昂ぶって止められねぇ───」

”彼女”と”彼ら”とを隔てる死線が、はっきりと目に見えるようだった。

超えても、超えられても───死ぬ。

752名も無きAAのようです:2012/04/28(土) 06:08:28 ID:u.yqq6NY0

───────────────

──────────


─────


マドマギアの街と交易都市ヴィップを結ぶ山道を駆ける、一人の騎士の姿があった。
小さな身体からは想像も出来ないほど、爆発的な速度で黒い木々が立ち並ぶ夜の景色が過ぎ去ってゆく。

自分に与えられた任を思い返しながら、奥歯を噛み締めて後悔していた。
昨日もフィレンクトに渇を入れられたばかりだというのに、またも同じような愚を繰り返してしまったと。


『ツン……さまの、警護??』


『そうです』


ノハ;゚⊿゚)「──はぁっ、はぁっ──」

753名も無きAAのようです:2012/04/28(土) 06:09:38 ID:u.yqq6NY0


『ななな、きゅ、”吸血鬼”がいるのですかッ!?』

『それが本当であれば……私自ら出向いているのですがね』


『確か、昔からあの街の怪物騒ぎは流言だって……』

『ええ。ですが今回はただ───何か嫌な予感がする、とでも言いましょうか』


ノハ;-⊿-)「くっそぉぉッ!あるまじき失態だっ!」


目を離した隙にツン達が既にマドマギアを発っているとは思わなかった。
再び彼女達に追いつくべく、今はただ全力で夜を駆け抜ける。


ノハ;゚⊿゚)「───待っててくれぇぇぇぇ、ツーーーーーンッ!」


─────

──────────


───────────────

754名も無きAAのようです:2012/04/28(土) 06:10:52 ID:u.yqq6NY0

(;`ω´)(はぁ……、はぁ……)

小さな炎の中にくべられた、焚き木。
その灯火が生み出す光と影だけが、ブーン達とハインリッヒとを隔てていた。

絶望的な戦力差である向こう側とこちら側との、超えてはならない境界線だ。

獰猛な肉食動物に出くわした時の対処のように、片時も視線を逸らさずに睨み合って、
もうどれほどの時間が経ったのだろうか。

今や、全ての感覚は麻痺していた。

先に目を背ければ───隙を見せてしまえば、たちどころに殺される。
そんな負の映像しか、頭の中には浮かんでこないのだ。


从 ゚∀从「……どうした?遠慮しなくてイイぜ、全員でかかってこいよ」

755名も無きAAのようです:2012/04/28(土) 06:12:05 ID:u.yqq6NY0

焦れたハインリッヒが、掌を上に向けて差し出し、こちらへ手招きしている。
だが、そこへ飛び込むのは勇猛でも、果敢でもなんでもない。

この状況において、相手との力量を図る事も出来ないというのならば、そいつは冒険者失格だ。

(;´・ω・`)(詠唱の隙が───)

こうして見詰め合っているだけで、体力が根こそぎ削られているような気がした。
背中や首筋から汗は自然と滲むが、全身は恐ろしく冷え切っている。

生きた心地がしない、というのはこういう事なのか。

爪;'ー`)(動けよ……クソッタレ)

背を向けて一目散に退散する───不可能だ。

隙が見当たらないどころか、目の前の”始祖”がその気になれば、
いつでも瞬時に自分達の内の数人を殺してしまえると、その雰囲気が伝えるようだ。

756名も無きAAのようです:2012/04/28(土) 06:13:09 ID:u.yqq6NY0

確かに、ブーン一行は吸血鬼退治の依頼にやって来た。
まさかそこで出くわしたのが、その中でも”最強”の奴だとは───誰が予想できたか。

ξ;゚⊿゚)ξ(どう……しよう……)

ブーン達は、たとえ真相を暴露された町長の恨みを買おうとも、マドマギアに泊まるべきだった。
そうであったら、もう少しだけ逃げるための余力があっただろう。

普通の冒険者と比べても、ましてや一般の男性と比べても体力自体が劣るツン。
その心中は、あまりに切ないものだった。

長旅と依頼による疲れで───逃げ切れる体力も、その自信も全く無いのだ。

肌を突き刺す空気から、もはや人間が勝てるような存在でない事は仲間は知っているだろう。
逃げを決め込むとすれば、足が遅く体力の無い自分が真っ先に追いつかれ、殺される。

これから先も自分の人生が続いていく、そんな道筋など見えなかった。

757名も無きAAのようです:2012/04/28(土) 06:14:15 ID:u.yqq6NY0

从 ゚∀从「こねぇのか────」


(;`ω´)「………」


何度も似たような台詞を言っていたハインリッヒの語気が、少しだけ荒くなったように感じられる。
ただそれだけの事で、心臓を鷲づかみにする力を強められたかのように、緊張が跳ね上がった。


从 ゚∀从「つまんねぇぞ?───なぁ、どうした?」


(;`ω´)「………フゥッ」


満足させろ、そう言っているのだ。
何を以って、そこらに掃いて捨てるほど居るような自分達が、そいつに見初められたというのか。

ただ恐怖に駆られるばかりで、そいつの言葉の意味など理解しようとさえ思えない。

758名も無きAAのようです:2012/04/28(土) 06:15:39 ID:u.yqq6NY0

爪;'ー`)(どうにか……隙を作るっきゃねぇ)

フォックスが作れる隙、恐らく人間に対しては有効なものだ。
だが、彼が得物とするナイフは、”人間以上”の存在に対しての致命打など与えられない。

全神経を集中させ、どうにかして相手の眼を狙いすまして投げ放っても、刹那のものだ。

(;´・ω・`)(威力、そして詠唱の短さとの兼ね合いが重要だ───段階的に、隙を作るしか)

冷え切ってしまっている頭、だが、まだ働いてくれている。
倒す為の策など”無い”が、逃げ切る為の策ならば、まだ成功率は高い。

フォックスか、もしくはブーンが詠唱の為の隙を生み出してくれたならば、
その合間を縫ってショボンは出来るだけ早く、出来るだけ強力な魔法を浴びせかける。

このパーティー内で最大の火力を持つ彼の攻撃、それで怯ませる事が出来なければ、逃走など最初から無理な話だ。
成功率は───高所に張られた限りなく細い糸の上を、素足で渡るようなものに感じられるが。

759名も無きAAのようです:2012/04/28(土) 06:16:35 ID:u.yqq6NY0

ξ; ⊿ )ξ(私……)

ツンは、何も考える事が出来なかった。

魔術師同様に、祈りによる”聖術”を力とする彼女もまた致命的に時間がかかる。
そして、それが必ずしも予期した結果に結びつくとは限らない。

不死者を浄化する力が、”最強の不死者”に通用するとは、彼女自身にも信じる事が出来ずにいた。
この中で、一番のお荷物なのは自分なのだと、こんな死ぬか生きるかの瀬戸際になって───

その想いが、彼女をせめぎ立てる。


从 ゚∀从「じゃあさぁ、こっちから……行かせてもらうぜ」

言って、ハインリッヒが「つまらない」といった表情で、一歩を踏み出した。
ただそれだけの事に、全員の間には戦慄が走る。

760名も無きAAのようです:2012/04/28(土) 06:17:39 ID:u.yqq6NY0

(; ω )「フゥッ……フゥゥッ……!」

力強く呼吸する事、それは、自分が今生きているという事を実感する為だ。

剣を前方にて構えながら、体内では、知られる事もなく密やかに拍子を刻んでいた。
─────意を決して、斬りかかる為の覚悟を決めるまでの時間を。


从 ゚∀从「さーって。こん中で……一番楽しませてくれそうなのは誰だろうなぁ」

(;´・ω・`)「………」

从 -∀从「お前もいいケドさぁ……」

爪;'ー`)「………」

从 ゚∀从「ナイフ?―――お前は、てんで駄目だな……次ッ」

ξ; ⊿ )ξ

761名も無きAAのようです:2012/04/28(土) 06:18:32 ID:u.yqq6NY0

从 ゚∀从「女────へぇッ、お前、”聖術”使うのかよ」

ξ;゚⊿゚)ξ「!?」

从 ゚∀从「はははッ……”どうして”ってかぁ?」

从 -∀从「俺も昔はそいつに苦しめられたクチでさぁ───なんか、分かんのよ」

(´・ω・`)「………!」

その言葉をショボンは聞き逃さなかった。
もしくはわざとヒントを与えているのかも知れないとさえ思えたが、それでも。

この中で、ツンの術こそが恐らく尤もこいつに対して有効だというのは、一同の持てる唯一の武器。
だが、ロード・ヴァンパイアが告げる一言に、その希望は粉々に打ち砕かれる。

762名も無きAAのようです:2012/04/28(土) 06:20:03 ID:u.yqq6NY0

从 ゚∀从「ってワケで……女ぁ。お前から、殺しとこうか────」

ξ; ⊿ )ξ


絶望そのものが告げた。
”お前たちの拠り所を壊す”と。


刹那、大気が鳴動する。

「………うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーッッッ!!!」


(´・ω・`)「──な」

爪;'ー`)「ブーッ……!」

763名も無きAAのようです:2012/04/28(土) 06:20:59 ID:u.yqq6NY0

(#゚ ω゚ )

己を奮い立たせるための、腹の底から搾り出した咆哮。
ハインリッヒの元に集っていた無数の蝙蝠達が、空へと羽ばたいて行く。

从 ゚∀从「────嬉しいねぇ……」

ぺろり、”始祖”の顔からは、そう舌なめずりするような音が聞こえてきそうだ。

それが自分の意思だったのか、ブーンにも掴めていない。
だだ、何か熱い感情が、その熱が自らの身体を突き動かしたか、あるいは引っ張った。

怒りと恐怖とが入り混じる感情の狭間、その先に踏み出せば生か死かを分かつ。
そう知っていても、今こうして自分が駆け出していなければ、このまま終わってしまうと思った。

ξ;゚⊿゚)ξ「───ブーンっ」

仲間たちの声は、彼を後押しする為のものではない。
”やめろ”と、引き止める為のもの。

けれど既に走り出していたブーンの耳に、そんな声は届かない。

764名も無きAAのようです:2012/04/28(土) 06:23:14 ID:u.yqq6NY0

(#゚ ω゚ )「………ぅぉぉぉぁぁるああああぁぁぁぁぁぁーーーッ!」

超えてはならない、互いの間に張り巡らされた死線を、超えた。

从 ゚∀从「……来いよぉ」

上段から一気呵成に落とした剣には、渾身の力を込めた。
踏み込みの踵が、土を大きく抉り返すほどに。

ブーンほどの体格があれば、厚みのある剣であれば並の妖魔など一刀だ。
ただ、この時ばかりが相手が最悪と言って差し支えなかった。

繰り出した必倒の斬撃は、かすり傷を与える事すらかなわない。

(;゚ ω゚ )「───おぉ……ッ」


从 ゚∀从

765名も無きAAのようです:2012/04/28(土) 06:24:37 ID:u.yqq6NY0

肉厚の長剣、その刀身の先端部分はハインリッヒの左手の中にある。
「何が起きた?」
それを認識する間も与えられないままに、掴まれた刃身ごとそのままぐい、と引き寄せられる。

从 ゚∀从「ほれ、よく狙えよ。胴体斜めに、真っ二つにしちまえば……”再生”までに時間が掛かるぜ?」

(;゚ ω゚ )「ぐっ、ぬッ……くぅッ!」

引き寄せた刀身をそのまま自分の肩付近に引き寄せると、そこを剣でぽんぽん、と二度叩いた。
手から剣を引き剥がそうと必死に柄に力を込めるも、大岩に同化してしまったようにびくともしない。

光景を目の当たりにしてしまった仲間の顔にも、蒼白の色が浮かぶ。

从 ゚∀从「その必死さに免じて離してやるよ───じゃあ、もう一度だ」

そう言って、ハインリッヒが掌に収まった刀身への力を緩めた。

(; ω )「はぁッ」

766名も無きAAのようです:2012/04/28(土) 06:25:38 ID:u.yqq6NY0

その瞬間に全力を込めて、捕えられた剣を引き抜く。
だが、それが出来たのはあくまで向こうの気まぐれだ。

まるで無造作に引っつかむようにして、全力で放った打ち込みを”掴んだ”のだ。
その事実を認識出来た瞬間、悟ってしまった。

─────”戦い”にすら、なるような相手ではないという事を。


爪;'ー`)「───ブーンッ……!」

ナイフを手に、フォックスもまた仲間の奮闘に押し出されるようにして身体を前に出していた。


「……来るなおッ!!」


背中越しに、その場へ仲間を引き留めたのは、ブーンの叫びだ。

767名も無きAAのようです:2012/04/28(土) 06:27:46 ID:u.yqq6NY0

从 ゚∀从「……あぁん?」

(;゚ ω゚ )「───ブーンが……ブーンがこいつを抑えこんでいる間に───」


爪;'ー`)「………!」

やめろ、その先は口にするなと───仲間たちはそう叫びたかったはずだ。
だが、既にブーンはその覚悟を、硬く己の剣へと結び付けていた。

(#゚ ω゚ )「みんな────みんな、死ぬ気で逃げてくれおぉッ!!」

ξ;゚⊿゚)ξ

(;´・ω・`)「よせッ!」


またも斬り掛かっていく彼の背中には、やはり仲間達の声は届かなかった。

768名も無きAAのようです:2012/04/28(土) 06:34:14 ID:u.yqq6NY0


   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

             第8話

          「血界の盟主(1)」


             -続-



从 -∀从「おやぁ……遊びももう、終わりが近づいてきたかな?」

爪;゚ー )「ナメてんじゃねぇぞ───この、腐れ女が」


ξ; ⊿ )ξ「どう、しよう……ブーン、が……」

「───ブーンが、息をしてないのッ───」

逼迫した状況に、絶望を告げる彼女の痛ましい叫びが、仲間たちに更なる緊張をもたらす。


(;´・ω・`)「く………ッ!」

从 ゚∀从「はは──あははぁッ!どーするよぉ……お仲間、死んじゃったってさァ」

爪#゚ー゚)「テメェが、先に死にやがれ」


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