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( ^ω^)ヴィップワースのようです 第8話 「血界の盟主(2)」

773名も無きAAのようです:2012/05/01(火) 06:14:24 ID:oBgBhKXM0

今ではこの大陸に存在していない場所の話になる。

彼女はかつて、広大な自らの城を住処としていた。
そこへ篭って数十年、数百年もの変わらぬ日常を過ごす内に────
次第に溜まり溜まった鬱憤は、悠久の時を生きる彼女自身を飽きさせてしまっていた。

ノ人゚∀人「………つまんねぇ」

ある日、定期的に女の供物を捧げて来ていた近隣の村からの使い、それを干乾びさせる事で鬱憤を晴らすと、
そのまま自らにかしづいていた従者達の血をも吸い上げ、やがて彼女は下界へ降りる事にしたのだ。

そうして城を後にしてから、幾夜かを旅歩いた。
丁度、その頃だったか。

彼女はこの時、自分がこの世に生まれた意味すら見出せずに居たのだ。
生まれ落ちた時から、脆弱な人間から”神の力”と崇められ、恐れられる力を持った自分自身を。
囁く血の誘惑、”始祖”として存在している自分の生きる意味は、如何なるものなのだろうかと。

774名も無きAAのようです:2012/05/01(火) 06:17:06 ID:oBgBhKXM0

そんな事を考えながら、風に吹かれながらただ歩いた。
けれど、大陸各地を気ままに旅歩きながらも、その目が移す風景は新鮮なものではなかった。
自分の中に疑問の答えが見つからない事が、どうしようもなくまた鬱憤を募らせる。

そんな中での、ある日の情景だった─────


とある国境間での、小国同士の小競り合い。
やがて過熱したそれは、数百人もの命を散らせる大規模な戦へと移り変わっていった。
彼女がこうしてここに辿り着いた時には、戦はどちらかの勝利で決着が付いていたようだが。

ふと見渡せば、一面を覆う赤黒い土は、殺し合う人間達が流した血や汗の染み込んだものだ。
その戦地の土を踏みしめながら、人間というモノの習性から何かを習おうとしていた。

ノ人゚∀人「勿体ない」

775名も無きAAのようです:2012/05/01(火) 06:18:12 ID:oBgBhKXM0

戦いとは本来、同じ位階に居るもの同士では起こらない。
あまりにも力の差が明確に隔てられていた場合は、強者は弱者を見逃し、
そして弱者は強者へと媚びへつらって、より存えようとするだろう。

しかし、宗教や思想───そういったものが絡んできたとき、人はその箍を外してしまうのだ。

国の存亡、同じ種での殺し合い。
そんなものが、この百年以上に渡って何度繰り返されてきた事か。
従者らからの話す言葉などからは耳にした事があれど、今こうして実際を目にするのは初めての事だ。

何故人は同属である互いを憎しみ、争うのだろうか。
”自身と同じ種”など持たぬ、原点にして頂点である彼女だからこそ、真剣に考えた。

出ない答えに焦れた彼女が抱いた人への認識は、一言で片付けられるものだ。

ノ人゚∀人「……馬鹿なのか?人間は」

776名も無きAAのようです:2012/05/01(火) 06:19:30 ID:oBgBhKXM0

「う……た、すけてく………れ…」

ふと、その声に視線を落とした。
そこにはもうすぐ亡骸と呼ばれるであろう、一人の男。

その兵士は姿形を人間だと認識して、彼女に声をかけたのだった。
だが、その相手は自分以下の存在などに、さして興味がそそられないのだろう。

”ぐしゃ”

ノ人゚∀人「………」

男の頭を一息に踏み潰すと、また何事も無かったかのように彼女戦地跡を渡り歩く。

また、暫く歩いた─────やがて。
真っ直ぐに前を見据える彼女の前方にはその時、戦勝を喜び合う傭兵の一団があったのだ。

戦地の離れに陣営を構えるは、片腕や片足を失った者達。
それぞれが武勇を語らいながら、酒盛りをしていた時───その中の一人が彼女に気付いた。


「───おい、見ろ。戦場の女神様が、俺たちに女まで遣わしてくれたようだぜ」

777名も無きAAのようです:2012/05/01(火) 06:21:00 ID:oBgBhKXM0

ノ人゚∀人「………」

何人かが身を乗り出して、にやにやと口元を歪めながら彼女に近づいてゆく。
戦勝の喜び、集団であるという安心感、そして酒こそが彼ら傭兵達の五感を鈍らせていた。
普段の自分達ならば、恐らくはまだ何人かがそれに気付くことが出来ただろうに。

決して触れてはならない、人知を超えた力の人外の恐ろしさに。

「女の一人旅は危険だぜぇ……俺たちが守ってやらぁ」

ノ人-∀人

下卑た笑みを浮かべながら、彼女の胸や肩へと手を触れようと、一人が近づいた。

「………べッ」

そして───その首が、飛ぶ。

778名も無きAAのようです:2012/05/01(火) 06:22:02 ID:oBgBhKXM0

ノ人゚∀人「こんなに脆いからか……?誰彼構わず、種を撒きたがるのは」

手指と爪の先に付いた男の血を、また戦場の土へ古い落とした。
そこで、ようやく彼らは事の重大性に気づいたのだ。

あまりにも遅すぎた、判断の過ちに。

「人間じゃ……こいつッ、人間じゃねぇぞぉッ!!」

ノ人゚∀人「数だけが頼みか」

未だ傭兵団の全体が事態を把握していた訳ではなかったが、
それでも一人が殺される光景を見た数人が、剣を抜いて彼女を取り囲んだ。

近隣の一部では伝承に囁かれていた夜の女王───”エルンスト=ハインリッヒ”とは知る由もなく。

「てめぇ、よくも仲間をッ!」

779名も無きAAのようです:2012/05/01(火) 06:23:00 ID:oBgBhKXM0

ノ人゚∀人「………?」

”仲間”というのは、彼女にとっては理解の及ばぬ言葉だ。
それを言った男の剣の打ち込みは届かなかった。

男の胸へと伸ばした鋭利な爪が、指の根元までずぶりと突き刺さる方が早かったからだ。

「ぐ……あッ、ふっ」

「ベイルの兄貴ッ……!?てめぇぇぇぇッ!!」

ノ人゚∀人「……なんだ」

「お頭に知らせろ!念の為人数を集めとくんだッ」

ノ人゚∀人「なんなんだ?」

「殺せ!気を付けろよッ、こいつ半端じゃなく速ぇぞッ」

ノ人゚∀人「なんで────」

「死にやがれッ!!たぁぁぁぁぁーーーッ」

780名も無きAAのようです:2012/05/01(火) 06:23:55 ID:oBgBhKXM0

”どうして、お前達は、怒っている?”


ハインリッヒはその新たに生まれた人間達への疑問に、首を捻る。
同じ種で殺し合いを行いながらも、それが殺される事でこうして憤慨する者もいるのだ。

自分よりも脆弱で、平伏す他無い存在にしか出会う機会の無かった彼女だからこそ、生まれた疑問だった。








ノ人;゚∀人「随分と……梃子摺らせて……くれたな……」

781名も無きAAのようです:2012/05/01(火) 06:25:16 ID:oBgBhKXM0

戦地から先に引き上げた100人超の正規兵がもしこの場に残っていれば、まだ勝負はわからなかっただろう。
だが、歴戦とはいえ人外の力に触れたことの無い統率の取れていない傭兵らなど、彼女にとっては赤子のようだった。

「やめ……やめて、くれ………」

50人以上の亡骸が、折り重なるようにそこら中に散らばっていた。

驚異的な再生能力を持つ彼女であっても、一度に4本以上もの剣が体内を貫通したのは、かなりの脅威だった。
身体を染める紅は返り血がほとんどといっても、初めてといってもいいほどの疲労感が、彼女を苛んでいた。

”どしゅっ”

最後の一人は───絶望に涙し、命乞いをしていた。

ノ人;゚∀人「終わった……か」

人間ごときに、随分と時間を食ったものだ。
目には止まって見えるような遅い斬撃も、随分とこの身に受けてしまった。

782名も無きAAのようです:2012/05/01(火) 06:26:35 ID:oBgBhKXM0

けれども戦地にありながら、その戦勝を収めた一つの傭兵団の全員を滅ぼした時、妙な達成感が生まれたのだ。
同時に───命を脅かされる危機が去った後、高ぶっていた己の熱がすぅっと冷めていくような、虚無感も。

この感覚は、何なのだ。

ノ人;゚∀人「悪くは───ない」

何の目的も示される事の無い己の”生”に、この戦いが知らしめてくれた。

つまらぬ日常に乾いていた自分の心が、潤っていく感覚を。
死の危機感を与えられる事で、初めて知る事が出来た己の極限を。

ノ人゚∀人「いや、寧ろ……」

この時、自分の生の意味への迷いは消え去った。
”闘争”こそが、自らに生きる実感を与えてくれるものなのだと。

「イイな────それも、たまらなく」

そして、”エルンスト=ハインリッヒ”は夜空へ向けて響かせた。
生あるものが誰一人として居なくなってしまった、宵闇の中で。

────”新たに生を受けた”自分との対面に、その歓喜を。


──────────────────


────────────


──────

783名も無きAAのようです:2012/05/01(火) 06:27:45 ID:oBgBhKXM0





   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

             第8話

          「血界の盟主(2)」

784名も無きAAのようです:2012/05/01(火) 06:28:27 ID:oBgBhKXM0

─────


──────────


───────────────



”ずぐんっ”


从 ゚∀从「────ぁハン」

骨ごと肉を断つような鈍い音を立てて、剣は奇しくも先ほどハインリッヒが示した場所に入り込んだ。

(;`ω´)「!」

更に力を込めて肩口から胸に向け、徐々に刀身を押し込む。
だが、苦痛を浮かべるどころか、斬り付けた場所から少しずつ、傷口が元通り塞がっているのだ。

785名も無きAAのようです:2012/05/01(火) 06:29:13 ID:oBgBhKXM0

胸の中央ほどにまで押し入った刀身は、そこで勢いが止められた。
後の傷口は瞬時に塞がり、胸を剣が貫通しているにも関わらず、それはまるで体内に取り込まれているかのようだった。

自身を貫く剣の刀身を眺めながら、それを掴み取ったハインリッヒが呟く。

从 ゚∀从「この剣……叩き折っちまうか?」

(#゚ ω゚ )「だおぉッ…!!」

いくら力を込めた所で、抜き取れないのは承知だ。
だから、逆に前に出て片手を柄から離すと、拳で顔面を狙い済まして殴りつけた。

”ぱしっ”

从 ゚∀从「で、お次はどうするんだ?」

(;゚ ω゚ )「───くっ」

軽く差し出したような掌だけで、それも受け止められた。
考える間もなく、次の動作は自然に身体が行っていた───

手を引っ込めると同時、柄を掴む左手を起点に、右の前蹴りを繰り出す。

786名も無きAAのようです:2012/05/01(火) 06:31:26 ID:oBgBhKXM0

”がしっ”

从 ゚∀从「……まさか、こんなもんなのか?」

(;`ω´)「おッ、ぐ」

───捕まれた。

その気になれば一息に足先が肉塊にされるのではと錯覚する程の力が、込められる。
痛みに顔を引きつらせるこの時のブーンには、やはりこの化け物に勝てる気など、髪の毛一本程も思えなかった。









爪;'ー`)「───走れぇッ!」

ブーンがハインリッヒへ斬り込んで行った直後に、フォックスはツンの背中を押しやりながら叫んだ。

ξ;゚⊿゚)ξ「でも!!」

793名も無きAAのようです:2012/06/01(金) 01:23:18 ID:1ENFozGI0

走ろうにも、この身体全体が重い。
それは疲労からのものではなく、唐突に現れた吸血鬼。

そのハインリッヒの注意を一手に引き受けようと、その場に留まったブーンに後ろ髪を引かれての事だ。
だが、彼の方へと振り返ろうとしたツンの肩は、がっしりとショボンに掴まれた。

(;´・ω・`)「この場を少しでも離れろ、ツン!」

ξ;゚⊿゚)ξ「ブーンを置いてなんて行ける訳が────」

爪;'ー`)「馬鹿野郎が……わかんねぇのか!?」

聞き分けないツンに対し、フォックスの語調は多分に苛立ちを孕んでいた。
今この場で問答をしている時間などない。

ブーンが一人で引き受けようとしているその相手は、
伝承に伝えられる程の、極めて人間離れした怪物なのだ。

ロード・ヴァンパイアを一人で倒せる人間がこの世に存在すれば、
それは恐らく伝説として歴史にその名を刻むであろう、本物の英雄であろう。

だが、現実にそんな人間が存在するなどという話は、未だかつて聞いたこともなかった。

794名も無きAAのようです:2012/06/01(金) 01:24:03 ID:1ENFozGI0

(;´・ω・`)「勝てる相手なんかじゃない───それでも」

ショボンが言葉を言いかけた所で、フォックスがブーンの方へ向いた。
そして、背中越しにツンへと叫ぶ。

(;´・ω・`)「命を懸けているんだ、彼は」

ξ;゚⊿゚)ξ「それなら……」

”それならば、自分も”

ツンが口にしようとした言葉を遮るように、ショボンとフォックスは彼女に背を向けた。
余裕すら垣間見せながらブーンの打ち込みを凌いでいたハインリッヒの方へと向き直ると、肩越しに叫んだ。

爪;'ー`)「いいか! ツン、お前は少しでもこの場所から離れろ……一秒でも早く、遠くにな!」

ξ;゚⊿゚)ξ「フォックス達はどうするつもりよ!?」

(;´・ω・`)「………」

爪;'ー`)「俺たちが、ブーンを死なせねぇさ───」

795名も無きAAのようです:2012/06/01(金) 01:26:03 ID:1ENFozGI0

(;´・ω・`)「数日経っても───楽園亭に僕らが戻らなかったら、今日の事実をフィレンクト団長に伝えてくれ」

ξ;-⊿-)ξ「………」

心情は違えど、そこで”嫌だ”、とは言えないツンだった。
昼間の依頼の疲労は、身体に重く圧し掛かっている。

ハインリッヒに宣告された言葉───真っ先に目を付けられているのは自分なのだ。
それを守ろうとした仲間を危険な目に逢わせるよりかは、この場を離れる方が幾分かマシなのだろう。

そう自分を納得させるしかないツンに、フォックスがいつもの笑みを投げかけた。

爪;'ー`)「ま、どうにかやりあってみるさ」

できる限り戦闘の場からツンを遠ざけてそれだけ告げると、二人はブーンの元へと舞い戻って行く。
その彼らの背中を見送る事しか、今の彼女に出来る事は無い。

ξ; ⊿ )ξ「くっ……」

「やはりこんな時、自分は足手まといでしかないのか」

俯き、一度だけちらりと彼らへ振り返ると、夜の闇の中を走り出した。








796名も無きAAのようです:2012/06/01(金) 01:27:03 ID:1ENFozGI0

(; ω )「───おッ………がはぁッ!?」

ブーンの身が軽々と持ち上がると、ふわり宙を浮いた彼の身体は、剣ごとそこらの木へと叩きつけられていた。
全身の痛みを庇う余裕すらなく、すぐに立ち上がり再び剣を構えるが、瞳の焦点は未だ合わない。

从 ゚∀从「結構頑丈そうだな、お前」

(;`ω´)「……くッ────」

从 ゚∀从「だけどなぁ、それだけじゃ俺を楽しませるには……物足りないワケよ」

ブーンの構えなど、この”超越者”の前には何ら危機感を感じさせるものではない。

悠々と両手を開きながら一歩ずつ、無造作に距離を詰めるハインリッヒ。
それに対してのブーンは、弄ばれている事に怒りを感じる余裕すらなく、じりじりと後退りするのが精一杯だ。

しかし、まだ闘志までは萎えきっていない。

(; ω )「お前は、何が目的なんだお」

从 ゚∀从「あん?」

797名も無きAAのようです:2012/06/01(金) 01:27:56 ID:1ENFozGI0

(#`ω´)「いきなりブーン達の前に現れて……お前の望みは何だおッ!?」

从 -∀从「………やれやれ」

(;゚ ω゚ )「!」

一拍を置いて、彼我の距離が瞬時に詰められた。

从 ゚∀从「御託を並べる暇があるなら、一振りでも多く打ち込んでこい─────よぉッ!!」

(;゚ ω゚ )「……おぉぉッ!」

”ざすっ”

顔面へと向かってくる風切り音から逃れるようにして、膝を畳んで腰を落とす。
刹那反応が遅れていれば直撃していただろう、ブーンの背の樹木を易々と穿つほどの、鋭い爪による貫き手が。

从 ゚∀从「かわすか」

(;`ω´)「ッ───ふッ!!」

まだ樹木に指先を突き立てている、それを理解したブーンは束の間の一瞬思案して、反撃に撃って出る。
頭上の腕を掻い潜りながらハインリッヒの左方へ回り込むと、間髪いれずに振り下ろしを見舞った。

”ずどん”

798名も無きAAのようです:2012/06/01(金) 01:29:16 ID:1ENFozGI0

从 ゚∀从「やるじゃん?」

(;`ω´)(……こいつ……!)

剣に伝わった感触は確かなものだ。
目視で確認してみると、確かに樹木へと突き立った腕は、肘辺りから断ち斬ってまだ残っている。

片腕を落としたというのに人間のように血は噴き出ず、動じた様子も無い。
寧ろそれに一瞬の動揺を得てしまったブーンの隙こそが、命取りだった。

从 ゚∀从「じゃあ、反撃といくか」

無造作に、ハインリッヒは木を突き刺した右腕の先端の指先付近を掴むと、胴から離れたその腕を引き抜く。
左手で自分の右手をぶら下げる姿には、やはり常識が通用するような化け物では無いという事を実感させる。

自分の斬られた腕を手にしながら、ゆっくりと振りかぶるような所作をしていた。
異様な光景に立ちすくむブーンには、それが何をしようとしているのか理解しかねていたのだが───

理解の及ばぬその一連の動作が何を意図してのものか、次の瞬間には身をもって知る。

从 -∀从「そぉー………ら」

(; ω )(腕をッ)

799名も無きAAのようです:2012/06/01(金) 01:30:22 ID:1ENFozGI0

从 ゚∀从「────よっとぉッ!!」

胴体から斬り離した身体の一部分を、鈍器のように薙ぎ振るったのだ────

(;゚ ω゚ )「ぐ、がっはぁッ!?」

気付いた時には、胸元目掛けて激しい衝撃が叩き込まれていた。
みし、びきびき、と伝わる不快な音階と共に、鈍い重さと鋭い痛みを胸部全体へと走らせる。
勢いに逆らう事も出来ず、ブーンの全身は後方へ翻りながら宙へと投げ出されていた。

そのまま地面へ墜落してゆくブーンのさまを見届けると、ハインリッヒは一度口笛を鳴らした。

从 ゚∀从「今の、気ぃ失ってもおかしかないんだけどなぁ……」

(; ω )「───ゴホッ……ガ───ハ……ッ!」

地べたを甞めさせられたブーンは、呼吸を阻害される程の痛みにむせながら、立ち上がれない。

まるで弄ぶかのように少しずつ、力を出し惜しむようにしてブーンを痛めつけているのだ。
動けずにいるブーンの元へ追撃に出ようと、ハインリッヒはなおも悠然と歩を進めようとする。

が、その進路を塞いだのは────それぞれ左右から飛び出たフォックスとショボンだ。

爪;'ー`)「褒めてるつもりかよ、それ」

800名も無きAAのようです:2012/06/01(金) 01:31:27 ID:1ENFozGI0

从 ゚∀从「あん?」

(´・ω・`)(果たして、どこまで通じるか……)

从 ゚∀从「……退けよ。俺ぁ今、そいつと遊んでるんだ」

(´・ω・`)「悪いが、彼を殺させる訳には行かないんでね」

爪;'ー`)「その通り。出来ねぇ相談だ」

从#゚∀从「あぁ、そうかい」

あからさまに殺気を入り混じらせた苛立ちが、幼ささえも感じさせる彼女の表情に滲む。
その彼女から片時も視線を反らせる事なく対峙する二人の脈拍は、自然と早まっていた。

爪;'ー`)(フゥッ、フゥッ)

フォックスが、身体の内に刻む。

もう、すぐにでも致死の威力を秘めた圧倒的な暴力が降り注がれるであろう事を予期し、
それに全身を対応させられるだけのとてつもなく小刻みな拍子を、神経を限界まで張り詰めながら。

801名も無きAAのようです:2012/06/01(金) 01:34:58 ID:1ENFozGI0

从 ゚∀从「……じゃあ、死んじまいな」

(;´・ω・`)(ッ!)

5歩の距離が、瞬き一度の間に詰められた。

黒い外套をばさ、とはためかせながら襲い来る姿は恐怖そのもので、
それはさながら、地に沿って飛翔するかのよう。

今やフォックスの胸下に居るハインの手は、既に彼の首を掻っ切る為の軌道を描いていた。

爪;'ー`)「───フッ!」

見た目にはか弱き、白く小さなハインの掌。
しかしてそれは、屈強な男が振るう業物の刀剣の威力にも勝る。

回避困難、一撃必倒のそれを、フォックスは纏めた後ろ髪を振り乱しながら胸を逸らすと、辛うじて避けた。

802名も無きAAのようです:2012/06/01(金) 01:35:39 ID:1ENFozGI0

从 ゚∀从「……何?」

言いながらも、次いでハインリッヒは逆の手で突き刺すようにしてフォックスの腹部へと伸ばした。
それにもフォックスは背後へ一歩飛びのき、風を唸らせる致命打から逃れた。

爪;'ー`)「……うらァッ!」

手刀の突きをかわされるや否や、そのまま身体を突っ込ませるようにして掌を広げ、今度は掴みに来た。
頑強なブーンの肉体でさえもが吹けば飛ぶように扱われる怪力にかかれば、捕まってしまえば命は無い。

だが、衣服を掴もうと伸ばされたその手を振り払うようにして、手にしたナイフを振るいつつ側面へと逃れた。

从 ゚∀从「痛ぇなぁ」

爪;'ー`)「フゥッ───フゥッ────」

闇の中から自身を捉えるハインリッヒの双眸と、視線が合った。
見れば、斬り付けられた掌をぺろりと一度、舌で舐め上げているようだった。
そうして、指のまたに沿って大きく裂かれた箇所が瞬時に”再生”していく。

防戦一方───しかし完全なジリ貧となってしまえば、死。
だからたとえ命の危険を冒してでも、今は反撃こそが肝要だった。

爪;'ー`)(今だぜ!)

803名も無きAAのようです:2012/06/01(金) 01:37:06 ID:1ENFozGI0

(´・ω・`)【 穿て、魔法の矢ッ 】

脇へと目配せを送ったフォックスの視線の先で、既にショボンが詠唱を終えていた。
闇夜を照らす光の束が幾重にも折り重なって矢となり、ハインの身体の中心へと収束する。

”ばすッ ばすッ ばす”

从 -∀从「あ~~~………痛ぇ」

(;´・ω・`)(───そうだろうさ)

爪;'ー`)「……化けもんが」

人間ならば確実にその機能を停止するであろう箇所を、数発もの魔法の矢が貫いた筈だ。
しかしそれは、不死者の女王にとって、児戯にも等しい効力でしかないのだろうが。

だが、それでも四肢を貫けば時間稼ぎにはなり得る。
息つく間もなく再びショボンが”魔法の矢”の詠唱を始めた時、ハインリッヒの注意は今度は彼へと向いた。

从 ゚∀从「こんなもんか?魔術師」

804名も無きAAのようです:2012/06/01(金) 01:38:14 ID:1ENFozGI0

(;´・ω・`)(絶やすな、集中を───)

身の危険を知らせる怖気が、身体の内から湧き上がってくる。
それを押さえつけるようにしながら、仲間を信じて詠唱へと入った。

从 -∀从「昔だったらなぁ……お前程度の魔術師なんざ───」

ショボンの元へとハインリッヒが一歩踏み出そうとした時、その背に再びブーンが突っかける。

(#゚ ω゚ )「だ───お───おぉッ!!」

从 ゚∀;,「奇襲か」

当たれば脳天を易々とかち割るだけの重厚な質量が、勢い良く背後から振り下ろされた。

”ず だんッ”

(´・ω・`)「ちぃッ!」

だが、ブーンの剣はハインリッヒの身体に刺し入れられる事はなく、ただ地面だけを抉った。
ほぼ同時に、ショボンの指先から放たれた魔法の矢も、空しく光の尾を引きながら彼方へと過ぎ去る。

消えた。

805名も無きAAのようです:2012/06/01(金) 01:41:43 ID:1ENFozGI0

”何事か”と確認する間もなく、ブーン達の視界は一瞬にして一面の黒に染め上げられていた。

突然どこかから湧き出してきては、時折顔に当たる不快な黒の群れ。
それらを振り払いながら後退すると、現状をようやく把握する。

ハインリッヒの身体の質量が、まるで中空へと溶け込んでいくかのように。
彼女が立っていた場所から方々へと飛び去るのは、無数の物体────否、生物。

(;`ω´)「………コウ、モリ!?」

「”あははァッ────驚いたか?”」

既にハインリッヒの肉体は形を為していなかったはずだ。

身体全体が無数に飛び交う蝙蝠の群れへと変貌を遂げると、それら全てが黒い闇夜の景色に紛れた。
しかし姿形は無くとも、蝙蝠達が翼をはためかせる音と共に、嘲笑うようなハインリッヒの声は確かに聞こえるのだ。

そこら中から聞こえているようにも、すぐ耳元で囁いていると錯覚してしまうように、女王の囁きは闇夜を木霊する。

爪;'ー`)「吸血鬼様は蝙蝠変化まで出来んのか!?」

(;´・ω・`)「”擬態”のようなものだ………蝙蝠を、その依り代として!」

806名も無きAAのようです:2012/06/01(金) 01:43:04 ID:1ENFozGI0

(;`ω´)「皆ッ、外側を向いて───円陣を組むおッ!」

「”はははは………”」

密やかな笑い声と、数多の蝙蝠たちの羽音とが、不気味な程の静けさにさらなる非日常を添える。
ブーンの号令通り、三人は背中を寄せ合って少しずつ小さな円となってゆく。

ゆっくりと旋回しながら、6つの瞳で木々に止まる蝙蝠達に鋭い視線を走らせた。

(;´・ω・`)「気を付けるんだ。奴は、どこからでも僕達を襲える」

羽音以外はひっそりと静まった森の静寂の中で、三人は息を呑む。

ふと、数匹の蝙蝠達がこちらへ羽ばたいて来るのが確認できた。
武器や手で払い落とそうと思えば簡単だったが、今は毛ほどの隙も見せたくはなかった。

しかし、それがブーン達の犯した間違いだった。

この夜を支配する不死の吸血女王は、蝙蝠を自らの依り代と化す。
実体を持ちながら、同時に無形の存在ともなり得るハインリッヒは、それら全ての
蝙蝠達の眼を使って、至る所からブーン達の隙を伺う事さえ可能。

ハインリッヒからすれば、自らの掌の上で命を踊らせているようなものなのだった。

807名も無きAAのようです:2012/06/01(金) 01:43:57 ID:1ENFozGI0

「………ご名答」

(;´・ω・`)「!?」

すぐ背後で聞こえた声に、ショボンは思わず呼吸を止められた。
背中を向け合わせる三人の中央に、急速に寄り集まって来ていた蝙蝠達が既に”主”の姿を形作りつつあったのだ。

从 ゚∀;,

そして、”突き刺す”とばかりに尖らせた五本の指を、肩よりも後ろへ振りかぶって───
その狙いは、がらあきの背を見せるショボンへと向けられていた。

爪;'ー`)「ショッ……!」

(;´ ω `)(しまっ─────)



从 ゚∀从「まず、一人」

808名も無きAAのようです:2012/06/01(金) 01:45:58 ID:1ENFozGI0

フォックスが振り向いた時、もうハインリッヒは突きを繰り出していた。
樹木をも易々と貫く威にかかっては、防具を身につけないショボンの絶命は免れない。

爪; ー )(クソがッ!!)

だが───間に合わない。
武器を振るって攻撃を中断させるにも、今は遅すぎた。

(;゚ ω゚ )「……やめ、るおぉぉぉぉッ!」

”どんっ”

(´・ω・`)「ッ!?」

だから、それに気付いて飛び出そうとしたブーンの頭の中には、
”己の身を挺する”という愚直な考えしか、思いつかなかったのだろうか。

あるいは考えようともせずに、ただ、仲間の為に。



”ドシュッ”

809名も無きAAのようです:2012/06/01(金) 01:47:06 ID:1ENFozGI0

一際重たく、そして鋭い音が響いた。
直後に、冷たく、恐ろしいほどの静寂を誘い込む。

使いでもある蝙蝠達が見守る中、やがてハインリッヒが呟いた。

从 ゚∀从「……興醒め、だな」

その言葉を皮切りに、凍結させられていた二人の時間は取り戻された。
フォックスとショボンの視線は、すぐにブーンへと向けて注がれる。

爪;'ー`)「ブーンッ!!」

(;´・ω・`)「────そん、な」

ショボンを突き飛ばすようにして入れ替わったブーンの背中からは、
ぬらぬらと赤い血に塗れたハインリッヒの指先────腹部を、貫かれているのだ。

(; ω )「………ぉ」

810名も無きAAのようです:2012/06/01(金) 02:42:57 ID:1ENFozGI0

从 -∀从「まぁ、お前ももう10年………ってとこだったなぁ」

消え入りそうな声で一度だけ呻いたブーンの表情から視線を逸らすと、
ハインリッヒは真っ赤に染め上げられたその手を、ゆっくりと引き抜く。

そして、ブーンの全身からはまるで糸の切れた操り人形のように、全ての力が失われた。

(;´・ω・`)「くッ────ブーンッ!!」

地面へ倒れ込むと、そのブーンの腹辺りからは少しずつ大きな血溜まりが作られていく。

”明らかに致命傷”だと理解したショボンは、悲痛な叫びを絞り出しながら駆け寄った。
自らを庇って、自らが受けるはずだったハインリッヒの攻撃を受けたブーンの元へ。

「しっかり……しっかりしてくれッ!」

この時ばかりは、ショボンは窮地においての氷の冴えを失っていた。
感情的にブーンの身体を揺さぶる彼の傍には、すぐハインリッヒが立っているというのに。

ハインリッヒはその光景をつまらなそうに見つめると、軽く首を振った。


从 -∀从「おやぁ……遊びももう、終わりが近づいてきたかな?」

811名も無きAAのようです:2012/06/01(金) 02:44:51 ID:1ENFozGI0

興味の対象であった相手の生命が今まさに終わろうという所で、ハインリッヒは少し冷めた様子だった。

だが、対照的に───その彼女の言葉が、同時に熱を生んだのだ。


爪 - )「………黙れよ」


見た目には軽い男にも思える銀髪の盗賊は、その実、誰よりも仲間の事を想いやる男。

その彼の仲間が倒された光景と、そして好き勝手を振舞う目の前の化け物に対しては、
普段は外に出そうとしないフォックスの”柄にも無い”部分へと、怒りの熱が滾っていた。

从 ゚∀从「まぁ、心配すんな、お前らもすぐ───」



「黙れっ……ッてんだろうがよぉッ!!」

一際大きな怒声に、木々に留まる蝙蝠達の多くが飛び立つと、ハインリッヒの言葉を遮った。

812名も無きAAのようです:2012/06/01(金) 02:47:36 ID:1ENFozGI0

爪#゚ー゚)「人間サマを……ナメてんじゃねぇぞ───この、腐れ女が」


从 ゚∀从「……ほぉ?」

爪#゚ー゚)「ブーンは死なせねぇ───だが、テメェは別だぜ」

从 -∀从「はンッ、無理だな。お前ら人間は脆い……こいつはもう助からねぇさ」

爪;゚ー )「………ッ!」

解りきった事実を憎々しい口調で告げるハインリッヒの言葉に、音を立てて歯軋りする。

だが、まだブーンが助かる道は残されているはずなのだ。
先に行ったツンを頼って、彼女の聖術”癒身の法”を施術してやれれば。

その為には何としても、手持ちのカードだけでロードヴァンパイアを倒さなければならないが。

爪#゚ー゚)「テメェが、先に死にやがれ」

813名も無きAAのようです:2012/06/01(金) 02:48:46 ID:1ENFozGI0

从 ゚∀从「ま、ちょっとはお前にも興味が沸いたぜ……楽しませてくれんだろうな?」

巨大な敵意を持つが故に、そして死の淵にしがみつく仲間を助けたい一心故に、
いつも人当たりの良い彼にはおおよそ似つかわしくない、粗暴な言葉を吐き出させた。

爪#゚ー゚)「………殺す」

銀色の刃を二振り手にすると、果敢に飛び込んだ。
自らに、そして眼前で手招きするハインリッヒに対し、言い聞かせるようにしながら。

「あぁ、そうさ────殺してやる」


───────────────


──────────


─────

816名も無きAAのようです:2012/06/03(日) 02:07:34 ID:di75YbrU0

「はぁっ───はぁっ………!」

更けた夜の、黒くそびえる木々が立ち並ぶ景色が、背後へと流れて行く。

必死に息を切らせて走るが、疲労困憊の身体では思うように距離も稼げない。
何より、仲間たちに流されるまま彼らをあの場に残したという後ろめたさが、彼女の足を鈍らせている。

自分でも気付かない内に、視界は滲んでいた。

ξ;⊿;)ξ「………はぁっ………私───最低」

ショボンやフォックス言葉の言わんとする事は理解できた。

だがそれでも、同じ冒険者パーティーとしての仲間だったではないか。
たとえ敵わなくても、あの場に残り自分も一緒に戦うべきだったのではないか?

ショボンとフォックスとの別れ際、ほんの少しでも「助かった」というような思いを
今、自身の心の中で抱いてしまっていた事が、いいようもない程の罪悪感をもたらす。

同時に、その心根に深く焼き付けられた、彼女への恐怖に当てられていた。

817名も無きAAのようです:2012/06/03(日) 02:09:23 ID:di75YbrU0

─────『女ぁ。お前から、殺しとこうか』

エルンスト=ハインリッヒ。
素性を隠していたのだ、昼間の古城で出会った時には。

吸血鬼に深く詳しい訳ではないツンでも、その名だけは知っていた。
冗談のような史実を作り上げた、悪名高い城主にして、吸血鬼。

200年以上前から存在し、今に至るまで2000人以上もの人々が彼女に命を奪われたと聞き及ぶ。
だがそのハインリッヒも50数年前を最後に、一度は確かに歴史から姿を消したはずだった。

その最悪の吸血女王と、まさか旅の最中対峙する事になるなどと、予想もつくはずがない。

ξ;⊿ )ξ(………怖い)

ハインリッヒの殺気にあてられた一瞬で、全身が萎縮するかのような感覚に囚われた。
それは、今でもこの足が震えるほどに────

ツンは走る足を止めて、とうとう突っ伏すように屈み込んでしまった。
僧服の袖で目元を拭うが、走る中で風を受けて乾いた涙の痕跡までは消えない。

818名も無きAAのようです:2012/06/03(日) 02:10:16 ID:di75YbrU0

ξ ⊿ )ξ「────こわ、い?」

再び顔を上げた時、自分が心の中で呟いたその一言で、思考が施錠された。

確かに、恐ろしい。
人間からはどれほどの力を持っているか、想像もつかない相手だ。

だが今この時、そんな怪物を相手に戦っているのは───誰だった?
誰しもが恐ろしくて尻込みしてしまうような吸血鬼を、仲間を逃がす為に一人で引き受けようとしたのは、誰だったのか。

そして今、そんな彼らの助けとなるべきなのは、誰なのか。

『みんな、死ぬ気で逃げてくれおぉッ!』

『俺たちが、ブーンを死なせねぇさ……』

『この場を少しでも離れろ、ツン!』

ξ-⊿-)ξ(………)

現に今、戦っているのであろう。

819名も無きAAのようです:2012/06/03(日) 02:11:29 ID:di75YbrU0

仲間達の奮闘を思い浮かべてみると、命を脅かされる事への恐怖は、少しばかり和らいだ気がした。
ゆっくりと立ち上がると、振り返り、これまで走ってきた道の先を見やる。

ξ゚⊿゚)ξ「私って……馬鹿ね」

たとえ今という時を生きながらえたとしても、束の間の安堵を得た後は、きっと一生後悔する事になる。

もし仮に────彼らが万が一あのハインリッヒを撃退したとしても、その窮地に居合わせなかった
自分など、彼らに対してこれからずっと後ろめたさ、罪悪感を背負い続けなければならないのだ。

─────そんなもの、”仲間”だなんて言えるものか。

ξ゚⊿゚)ξ「ごめん、皆………!」

「今すぐ、行くから!」



迷いは、晴れた。

820名も無きAAのようです:2012/06/03(日) 02:12:14 ID:di75YbrU0

やはり、自分は彼らの力とならなければならない。
不浄な者に対抗する為の力ならば、恐らく彼らよりも自分の方が勝っているのだから。

先ほどまでの自分を省みる時間など無い───今はただ、間に合ってくれ、と。
そうと決めたら、気持ちの面で負けていたさっきまでの自分の身体の疲労など、忘れてしまっていた。

僧服の裾を腰元に縛りつけると、再び彼らの元へと駆けようとしたその時───激しい衝撃をその身に受ける。


「ぅぉぉぉぉぉおおおおおおおおぉぉぉぉぉーーーッ!?」


”どんっ”

ξ゚⊿゚)ξ「………え?」

突如背中に強烈な大砲がぶちかまされたかのように、気付けばツンの身体は前方へと投げ出されていた。
地面が顔の前に迫った時、咄嗟に腕と肘で辛うじて受身を取る。

ξ;⊿ )ξ「え、あ……───ぐえぇッ」

821名も無きAAのようです:2012/06/03(日) 02:13:21 ID:di75YbrU0

「でぇぇぇぇぇぇぇッ」

「何かが突っ込んできた?」
それを確認すべく倒れ附した後に立ち上がろうとした直後、遠慮のない重みが身体に圧し掛かる。

まさかハインリッヒがもう自分を追ってきたというのか───内心冷や汗を浮かべる思いだったが、違った。

ξ;-⊿-)ξ「あい……ったぁ……」

「……す、すまんッ!!まさかこんな夜に人が山道を歩いているとは────」

ξ;゚⊿゚)ξ「………」

あえて口にはしなかったが、それはツンの言いたい台詞でもあった。
かなり驚きはしたが、どうやら立ち上がらせようと手を差し出している辺り、悪い人物ではない。

体格は良いが、細い身体付き───肩や胸には、銀色の軽甲冑を纏っている。
ツンが怪訝な視線を向けた事に気づいたか、後ろで一つに纏めた緋色の前髪をふぁさ、と
かき上げると、はにかんで再度ツンへと手を差し伸べてきた。

同性である彼女のいでたちは、どうやら騎士であるようだった。

822名も無きAAのようです:2012/06/03(日) 02:14:30 ID:di75YbrU0

ノハ;^⊿^)「大丈夫か?こんな夜更けに女の一人歩きは、危険だぞ?」

ξ;゚⊿゚)ξ「あ、ありがとう───って、ごめん、私……それどころじゃ───」

ノパ⊿゚)「………ん?」

ξ゚⊿゚)ξ「………?」

礼もそこそこに、すぐにでもブーン達の元へと駆け出そうとした所で、互いが顔を見合わせた後に静止した。
彼女の顔は、どこかで見た覚えがある─────記憶の引っ掛かりの正体を、甲冑に刻まれた紋章が呼び覚ます。

六角に囲われた聖十字───円卓騎士団。

ξ゚⊿゚)ξ「! 貴女────」

それが分かった時、ピンと来た。

ノパ⊿゚)「……!? あぁぁぁぁぁぁぁーーーッ!」

ξ;゚⊿゚)ξビクッ

823名も無きAAのようです:2012/06/03(日) 02:15:48 ID:di75YbrU0

どうやら、彼女もまたツンの顔を見て何かを思い出したようだ。
大きな声量に一瞬たじろいだが、次に彼女はその場にかしづき、頭を垂れた。

事態を飲み込めぬツンに、甲冑の少女は構うことなく続けた。

ノハ;-⊿-)「やっと……追いついた」

ξ゚⊿゚)ξ「追いついたって……貴女は───」

ノハ-⊿-)「非礼をお詫びします。アルト=デ=レイン司教のご息女、ツン様とお見受けしましたが……」

ノパ⊿゚)「相違、ありませんか?」

そう言って片膝を付きながらツンの顔を覗き込む彼女の瞳は、とても力強い。
夜分であっても艶やかな煌きを放つ髪色と同じく、燃えるような情熱を秘めた緋色の瞳だった。

ξ゚⊿゚)ξ「えぇ………貴女は、”ヒーやん”は、どうしてここに?」

ノパ⊿゚)「!?」

ツンの言葉に、彼女は一瞬驚いたような表情を浮かべていた。

824名も無きAAのようです:2012/06/03(日) 02:16:43 ID:di75YbrU0

「そうかそうか───覚えてて、くれてたかぁ……!」

照れくさそうに頭を掻きながら立ち上がると、ツンの正面へ向き直って力強く言い放つ。

ノパ⊿゚)「円卓騎士団長フィレンクト=エルメネジルドの命により、交易都市ヴィップより馳せ参じました!
     ”ヒート=ローゼンタール”────これより、再びツン=デ=レイン様警護の任に就きますッ!」

ξ゚⊿゚)ξ「!」

ノパ⊿^)「……久しぶりだなっ、ツン!」


こんな暗い場所であっても、空気を明るくしてしまうような───そんな変わらぬ元気の良さ。
そしていやらしさを少しも感じさせない屈託の無い微笑みが、彼女との思い出を急速に思い出させた。

「……ヒート!」

彼女が円卓騎士団に入るまでの間を、聖教都市ラウンジで共に過ごした、ひと時の幼少期が。


──────


────────────



──────────────────

825名も無きAAのようです:2012/06/03(日) 02:17:50 ID:di75YbrU0

ξ゚0゚)ξ「フィレンクト様ー、その子、だぁれ?」

(‘_L’)「ツン様にもご紹介しようと思いましてね。ヒート、ご挨拶なさい?」

ノパ-゚)「うん。ヒートっていうんだ、よろしくな、ツン!」

(;‘_L’)「これっ……仮にも将来円卓騎士団に入りたいという娘が……」

ξ゚-^)ξ「別にいーよ、フィレンクト様」

ノハ^-^)「おぉ、フィレンクトさまのおはなしどおりだな~」

ξ゚-゚)ξ「?」

ノパ-^)「まるでおにんぎょうさんみたいだな、ツンって」

ξ* -)ξ「えっ」

ノハ^-^)「あはは、あかくなったぞ!かわいいなぁ、ツンは」

(;‘_L’)「こらっ、ヒート……」

826名も無きAAのようです:2012/06/03(日) 02:18:40 ID:di75YbrU0








大聖堂を見上げるようにして、二人はよく外の原っぱに寝そべりながら様々な話をした。
過ごした時間こそ短かったが、彼女との思い出はツンにとっては今でも大切なものだったのだ。

息の詰まるような籠の中の鳥の自分に、同性で歳の近いヒートはよく顔を出しては話を聞いてくれた。


「ツンは、やっぱりいつかお父さんの後を継ぐのか?」

「私は……別に望んでないんだ、それ」


「それは……どうしてだ?」

「だって、私はお父さんみたいにはなれないし……本当の娘じゃないから……皆が噂する」


「皆……、か」

「………ヒーやんは、どうするの?」

827名も無きAAのようです:2012/06/03(日) 02:19:51 ID:di75YbrU0

「そうだな、ますます円卓騎士団に入りたい気持ちが、強まった」

「?」


「私が騎士団に入ってエラくなったら、もう誰にもツンの噂話なんてさせないからな!」

「ヒーやん………」


「それでもって、ツンや人々が危ない目に遭った時は、私が盾になってやるさっ」

「フィレンクト様の受け売りでしょ、それ」


「ちっ、違うぞ!円卓騎士として持つべき心得だっ」

「あはは……でも、嬉しいかも」


心地よい陽光の下で、風が誘った沈黙の後、彼女はツンにぽつりと呟いた。
いずれその時が来るだろうと、彼女自身もまた気付いていたが。


「言ってなかったけど……来年からしばらくは、こうしてツンに会えなくなるんだ……」

828名も無きAAのようです:2012/06/03(日) 02:20:45 ID:di75YbrU0

「! ─────ヴィップに、行くんだね………適正試験、やっぱり受かってたんだ?」


「……すまん、ツン」

「フィレンクト様はよく”ヒートの実力は騎士見習い補佐代理”とか言ってたけど……
 実は、陰では”彼女には素養があるのです”とか言ってたのよ?」


「ぬ、ぬわにぃぃぃっ!初耳だぞ、それは!?」

「知らぬはヒートばかりなり、ね」








間もなく、ヒート=ローゼンタールは騎士見習いとして円卓騎士団へと入団。
そしてその2年後、正式に叙勲を果たしたとツンは風の噂に聞き及ぶ。

その彼女と再会したのは、ツンにとって実に6年ぶりの事だった─────

───────────────


──────────


─────

829名も無きAAのようです:2012/06/03(日) 02:21:49 ID:di75YbrU0

その彼女が、今目の前に居る。

しばらく会わないうちに女性にしては随分と背が伸びたようで、ツンよりも頭一つ飛びぬけていた。
フィレンクトが言っていた通り、体格の面でも騎士としての素養があったのだろうか。

ノパ⊿^)「大きくなったな、ツン」

ξ* ー )ξ「ヒートこそ………ね」

旧友との再会に様々な想いが去来しては、話したいことが山ほど浮かんでくる。

だが─────今は。

ノパ⊿゚)「ところでツン、今は一人なのか?………冒険者仲間は、どうした?」

ξ ⊿ )ξ「────ヒート」

ノパ⊿゚)「………?」

彼女の顔を見て安堵し、ほんの一瞬意識から消えていた。
仲間が今───とてつもない化け物の脅威にさらされているのだという事を。

830名も無きAAのようです:2012/06/03(日) 02:25:03 ID:di75YbrU0

ξ ⊿ )ξ「お願い───力を、貸して欲しいの」

ノパ⊿゚)「………何か、あったんだな?」

震えたような唇で、痛切なまでに一言一言悲哀と焦燥が込められたツンの顔色に、
ヒートはすぐに何かを感じ取った様子だった。

近寄ったツンの肩を両手で掴むと、その表情を覗き込む。

ξ;゚⊿゚)ξ「ブーン達が……仲間が、危ないの!」

ノパ⊿゚)「そうだったか……任せろ」

ξ;-⊿-)ξ「っ! でも、相手は吸血鬼で………それもっ────」

ノパ⊿゚)「分かった!先導してくれ!」

ヒートの即答に戸惑うツンが、恐る恐る彼女の表情を伺いながら尋ねるが、毅然としたものだ。
迷い一つなく、爛々とした瞳で真っ直ぐにツンの方を見据えていた。

ξ;゚⊿゚)ξ「その………始祖、なんだよ?」

831名も無きAAのようです:2012/06/03(日) 02:26:19 ID:di75YbrU0

ノパ⊿゚)「そいつはまた──手強そうだな」

渋るともなく二つ返事でツンの頼みを引き受けるヒートの様子には、
途方も無く危険な頼み事をしているはずのツンの方が逆に困惑してしまう。

まさか騎士団で4年以上過ごしているヒートが、始祖吸血鬼の脅威を知らぬわけはあるまい。
それでも「早く案内してくれ」とばかりにツンの視線を受けながら道の先に立った彼女の背に、叫ぶ。

ξ;゚⊿゚)ξ「ヒート!……死んじゃうかも、知れないんだよ!?」

言葉を投げかけた後、彼女はゆっくりと振り向いて───またツンの両肩にその手を置いた。
優しく、けれどやはりその瞳には、生命力に満ち溢れた力が篭められていた。

ノパ⊿゚)「ツン───いつか、私は言ったよな」

ξ;゚⊿゚)ξ「?」

ノパー゚)「”ツンや人々が危ない時は、私が盾になってやる”───と」

ξ゚⊿゚)ξ「!」

お互いに、その時の言葉を忘れた事など無かったのだ。
今のツンにとっては、いかにそのヒートの言葉がいかに頼もしく、そして力強いことか。

832名も無きAAのようです:2012/06/03(日) 02:28:26 ID:di75YbrU0

昔の約束というものが少しだけ気恥ずかしくて、心の中でだけ言った。
”ありがとう”の一言を、義理堅く情熱的な彼女に対して。

ノパ⊿゚)「さぁ、お前の仲間の所に行くぞ!」

ξ* ⊿ )ξ「………うんっ」

ヒートがツンの手を引くと、すぐに二人は走り出した。
来た道を駆け抜け、窮地に立たされた仲間たちの元へ辿り着くべく。

ノパ⊿゚)(しかし───本当に、手強い相手だな……!)

昔よりも一回りも二周りも大きな背中を見せながら走るヒートの後姿は、
まるでツンの不安だとかの負の感情を一手に背負ってくれているようだった。

一人では心細さしか感じなかった夜の山道の景色が、彼女と一緒ならば心強い。

心の中でツンは、強く想っていた。
残して来てしまった彼らに対し、「遅くなってごめん」と。


ξ;゚⊿゚)ξ(無事でいなさいよ……アンタ達!)

強力な助っ人を連れて───すぐに戻るから、と。

835名も無きAAのようです:2012/06/06(水) 18:22:45 ID:Zi6LRdjw0

─────

──────────


───────────────


「うぉッらぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

仲間を倒された事による怒りが、叫びが。
そのフォックスの声は、木々の合間を縫って山道の森に木霊する。

が、一点に殺意を篭めて投擲した投げナイフは、いとも容易くハインリッヒの手の甲にはね退けられた。
空しく音を立てて地面へと転がったそれに視線を落とす事はせず、反撃に備えて再度距離を取る。

一見隙だらけのハインリッヒがまた手招きするも、懐に飛び込むのは愚策という他無い。

从 ゚∀从「はぁ。芸がねぇなぁ、お前」

爪#'ー`)「うるせぇよ」

836名も無きAAのようです:2012/06/06(水) 18:23:37 ID:Zi6LRdjw0

顔は怒りに火照っているが、フォックスは頭の片隅にまだ冷静さを残している。
危険を顧みず近距離で肉弾戦を仕掛けるには、いささか無謀すぎる相手なのだ。

それは、パーティーの中でも一番の屈強さと膂力を誇るブーンとの立会いから理解出来た。
恐らくハインリッヒがその気になれば、掴まれた人間の四肢を捥ぎ取るなど、造作もない。

考えたくはない事だが、最悪を想定するならば、それ程の力があるのは確実な相手。

爪#゚⊿゚)「………ショボンッ!いつまでそうしてんだッ!?」

それに対して勝算は無いのだ。
仲間の助けをなくしては、決して。

今も夥しい量の血を流すブーンの傍らでうな垂れていたショボンに、語気を強めて促した。

(;´・ω・`)「………フォックス」

爪#゚⊿゚)「ショボくれてる場合じゃねぇぞ。俺たちでこいつをぶっ倒さねぇと、本当にブーンが死んじまう……!」

(;´・ω・`)(皮肉にも、頼みの綱は彼女か)

837名も無きAAのようです:2012/06/06(水) 18:24:30 ID:Zi6LRdjw0

この場から遠ざけたツンの聖術の力以外に、最早ブーンが助かる道は無い。
ハインリッヒを撃退したところで、近隣の村や街までは安く見積もっても四半日は覚悟しなければならない。

ブーンが受けた傷口の治療は、今すぐにでもこの場で施さなければならない程の火急を要している。

(´ ω `)(すまない……ブーン)

(  ω )

深手に意識を失うブーンの顔からは、更に血色が失われつつある。
だが、今の彼にかけてやれる言葉はないのだ。

自らが受けた恩義に対しては、行動で示さなければならない────

(´・ω・`)「───最大火力を作り出す!その間を、何としても食い止めてくれ……フォックス!」

庇ってくれた仲間が瀕死に喘ぐ姿は見ていられないが、このままめそめそとして
いずれ全てが取り戻せなくなったら、きっと後悔だけでは足りない。

それに気付いて立ち直ったショボンが、フォックスに毅然と言い放った。
その言葉に、にやりとフォックスが笑う。

爪#'ー`)「……一辺倒な戦法だが、現状それしかねぇな」

838名も無きAAのようです:2012/06/06(水) 18:25:13 ID:Zi6LRdjw0

「なら───無茶な注文にも、どうにか応えてやるさ」
詠唱の構えに入ったショボンに背中で語り掛けるように、フォックスは一歩ハインリッヒへにじり寄った。
両の手に逆手に携えたナイフを固く握り締めて、一歩───また一歩と。

近距離にて斬り付ける、接近戦の構えだった。

从 ゚∀从「おいおい……本当にそのナイフでやり合うつもりかよ?」

「はンッ」と鼻で笑いを付け足しながら、対峙するフォックスとショボンの真剣な表情を蔑した。
まるで他人事のように、冗談だろうとでも言いたげな表情の緩みようだ。

”始祖”と”人”とではあまりに隔絶的なその力の差、ハインリッヒの優越は崩れない。

爪# ー )(ちんけなナイフで殺せるはずもねぇ───が、考えろ……)

圧倒的な身体能力、生命力の差は覆す事の出来ない種としての力の差。
付け入る隙があるとすれば、完全に自分を殺す事など出来ないと侮る相手が突く”意表”

その意表を突く事が出来るだけの材料が、どうにかして欲しかった。

爪# ⊿ )(吸血鬼……弱点……大蒜、日の光………)

十字架やニンニク。おとぎ話では彼ら吸血鬼が恐れるとされるそれらも、
所詮はどれも伝承の中で自然と付け足された話の尾ひれだ。

839名も無きAAのようです:2012/06/06(水) 18:26:07 ID:Zi6LRdjw0

その動きに注視しながら思案していたフォックスの思考は、
膠着した状態に焦れて悠然と歩き出したハインリッヒの動きに、中断される。

从 ゚∀从「俺を目の前にして、心ここにあらずってか」

大仰に両の腕を開きながら、にやにやと笑みを浮かべながら、ゆっくりとフォックスへ近づく。

あと二歩でハインリッヒの間合い。
それを肌に感じたフォックスが、先手を打って前へと出る。

爪#'ー`)「……シッ!」

从 ゚∀从「はッ」

リーチではやや勝るはず、そう踏んだ上で首筋を斬りつけようと右のナイフを振るうが、
その刃が届くよりも先にフォックスの腹部を掠めたのは、後手にも関わらずハインリッヒの鋭爪。

爪;'ー`)「つッ───!」

840名も無きAAのようです:2012/06/06(水) 18:27:04 ID:Zi6LRdjw0

あと一歩でも踏み込む領域を見誤っていれば、臓物を撒き散らしていたかも知れない。
熱いような痛みと、背筋に冷たい汗を垂らした一撃は、衣服と共に皮膚の薄皮を裂いていた。

再度距離を保つために後退するも、ハインリッヒの前進は止まらない。

从 ゚∀从「ほーら……」

爪;'⊿`)(くッ)

逆の手で天を射抜くような突き上げの一撃。
上体ごと顎を仰け反らせて避けた指先の爪が、またも掠めたのは顎先。

「まずい」

そう思って回避に全力を傾けるが、フォックスの反応を楽しむかのようなハインリッヒの攻撃は、
彼のあせりを読み取ったかのように、途端に苛烈さを極める。

从 ゚∀从「ほらほらァッ!」

爪;⊿゚)(………!)

薙ぐような大振り。
上体を仰け反ったまま後方へ倒れこむ意識で回避に専念したフォックスの判断は正解だ。

そのまま地面へ片手を付くと、飛び返りながら後方へと翻る。

841名も無きAAのようです:2012/06/06(水) 18:28:12 ID:Zi6LRdjw0

从 ゚∀从「逃げてばっかりじゃあ────」

爪#゚⊿゚)「! ……調子に乗るんじゃねぇッ!」

体勢を立て直している中、更なる速度で追撃にかかるハインリッヒを眼前に認識すると、
離さず手に持っていたナイフの一振りを、叩き込むようにして投げつけた。

それには、どうにか彼女の追撃を留める程の効力しかもたらさなかったが。

从 ゚∀从「……ッと!」

爪;゚⊿゚)(マジ、かよ)

顔の付近に手をかざすようにして、狙い済まして放ったナイフは二本の指だけで中空に留められていた。

从 ゚∀从「どうやって投げてんだ?これ」

そう言ってまじまじとナイフの刃先を眺めると、投げ返すような所作を見せて振りかぶる。
フォックスから視線を外したその背後に、魔法の詠唱を行うショボンの姿を認めて。

(´-ω-`)

从 ゚∀从「こんな感じかねぇ………返してやるぜ。これ」

爪# ゚⊿)「───てめぇッ!!」

次の瞬間────ハインリッヒの手元のナイフは、風を唸らせながら放たれた。

842名も無きAAのようです:2012/06/06(水) 18:29:20 ID:Zi6LRdjw0








フォックスには、またも損な役回りを強いてしまった。
辛くもハインリッヒの攻撃を避け続ける彼を目の前にしながら、それでも精神を研ぎ澄ませる。

(´・ω・`)(”炎の玉”、”爆炎の法”………それでも、足りない)

レッサー種であれば、それら魔法であれば倒せるだろうという自負はあった。
しかし、不死身を誇る始祖に対してそれでは足りないのだ。

(´-ω-`)(ならば編み出せるか?……この、土壇場で)

今必要なのは、その始祖を脅かす程に強大な魔法。

自分だけの魔法を未だ持たぬショボンだったが、今はその壁を乗り越えなければならない局面を迎えていた。
モララー=マクベインが自己透過の隠蔽魔術を編み出したように、対吸血鬼用の威力を秘めた魔法を。

賢者の塔に身を置いていた頃から、ショボンはモララーと比較させられる事が多かった。
先人が作り上げた高等魔法”炎の玉”ですらを易々と扱う事が出来る───だけど、それだけ。

自らで魔法を”創り上げ”なければ。
それを為し得なければ、モララーを超える事など出来ない。

何より、このロード・ヴァンパイア────ハインリッヒを倒すには至らないだろう。

843名も無きAAのようです:2012/06/06(水) 18:30:24 ID:Zi6LRdjw0

(´・ω・`)(違う───要るのは、今)

炎の精霊、サラマンダーと契約したのが実に6歳の頃。
それが今や、炎の精霊王”エフリート”の寵愛を受けるまでになった。

”出来るはずだ”

心のどこかでモララーに対して、負けを認めてしまっていたのだ。
今、その弱音を叩きだし、吸血鬼を葬った上で───その事実を揺ぎ無い自信としよう。

炎を御するショボンの心もまた、滾るハインリッヒへの怒りと、
ブーンを救う事への執念の炎となって、燃え盛っていた。

気を許すと叫び出してしまいそうな口元から、少しずつ搾り出すように言葉を紡ぐ。

(´-ω-`)【 ……解せよ 示威と恩恵を齎さん その炎の理を 】

感じるままに、言霊を呟いた。
自分自身の存在を、消えない巨大な炎の中へと没入させるようにして。

その”意思”と同調するかのよう───深く、意識を沈み込ませる。

844名も無きAAのようです:2012/06/06(水) 18:31:28 ID:Zi6LRdjw0

(´-ω-`)【 深淵の者共よ聞け 炎統べる我が赤き意思 その怒りを 】


ここでエルンスト=ハインリッヒを葬るという事。

それは恐らく、これまで命を奪われてきた多くの人々の遺志でもあろう。
声無き叫びをも力へと借り受け換えて、彼女の身をこの場にて、もはや再生不可能な程の灰燼とするのだ。


(´-ω-`)【 そして其は 断罪の業火に囚われながら 汝が過ちを戒めよ 】


荒ぶる感情を炎の流れに乗せて、語調にも力を篭めた。
尊い命を食い物にする、不遜な吸血鬼へ与える裁きの言霊を紡ぎだす口元で。


(´-ω-`)【 その身幾度容失っても 決して赦されざる怒り 】


(´・ω・`)【 それら生命の炎に、戦け 】

うねる炎の流れを、そしてその熱さが己の心の中でさえ感じ取れていた。
怒りの感情が引き上げてくれている───「これならば、いける」

手ごたえを確信して瞳を開くと、ハインリッヒが丁度こちらへナイフを投げつけようとしていた。

845名も無きAAのようです:2012/06/06(水) 18:32:22 ID:Zi6LRdjw0








”ギンッ”


爪;ー )(………)

尋常じゃない速度で投げ振るい返されたナイフは、見えていた訳ではなかった。
ショボンの詠唱を阻まれてしまえば、もはや打てる手が一つ残らず潰えてしまう。

半ば己の身を挺するつもりで、半身を捻りながらその方向へとナイフを振るっただけに過ぎない。
辛うじて弾く事が出来た───それを理解するのにもやや時間が掛かるほどに、心の余裕など無かった。

从 ゚∀从「あちゃあ」

わざとらしく肩をすくめて気落ちするような所作を見せるハインリッヒに、言い放つ。

爪;'ー`)「どこ見てやがんだ………テメェの相手は俺だぜ?」

846名も無きAAのようです:2012/06/06(水) 18:33:12 ID:Zi6LRdjw0

今手に持つナイフは一本、残りの投げナイフはもう無いはずだった。
だが胸元に手を差し入れてまさぐると、手馴れないその感触がある事に気付く。

最後の一本───昼間、マドマギアの露天で買ったナイフの存在に。

爪;゚ー゚)(………!)

从 ゚∀从「へっ」

微かに顔色の変わったそのフォックスの様子を知ってか知らずか、ハインリッヒがにたり、と厭らしく嘲った。

从 ゚∀从「所であと何本出てくるんだ?その、チャチな玩具は」

爪;'ー`)「……さてな」

从 -∀从「正直、道化の方が向いてるぜお前よぉ」

爪; ー )「嬉しくも何ともねぇな」

右手には投擲用のナイフが握られているが、急所と言える急所も無い相手だ。
刺せば死んでくれる人間が敵ならば、どれほど楽だったろうかと、苦虫を噛み潰す。

847名も無きAAのようです:2012/06/06(水) 18:34:41 ID:Zi6LRdjw0

何度刺し貫こうとも再生するであろう不死身に加えて、
この暗い景色に溶け込みながら高速で接近するナイフの軌道さえ視えているのだ。

ショボンの詠唱の間を持たせるには、再度接近戦しかない。

それには不向きな、柄を持たない投擲ナイフを一度握り締めた。
だがフォックスはそれを力なく地面へと放ると───捨てる。

从 ゚∀从「あぁン?」

からころと転がるそれに視線を落とすと、”理解が出来ない”という風な表情がハインリッヒの顔に滲んだ。

从 ゚∀从「そうか………命乞いねぇ」

爪 ー )「───違ぇよ、タコ」

从 ゚∀从「?」

そして、最後の一本を胸元から取り出す。
マドマギアの露天で売られていた、その煌びやかに装飾の施された”銀の短剣”を。

「ま、お代は見てのお帰りだぜ───」

848名も無きAAのようです:2012/06/06(水) 18:35:43 ID:Zi6LRdjw0

フォックスの姿が風に揺らいだかと思われた直後、その場から前へと飛び出した。
鈍色を照り返す銀の刃が、一筋の迷いも無くハインリッヒの喉へと振るわれる。

从 ゚∀从「笑わせるんじゃねえよ、ニンゲン」

蝙蝠化しようともせず、その前に突き出した手で、ハインリッヒはそれを掴み取る気だ。
無造作に、自らの喉首を狙い済ますナイフを。

从 ゚∀从「見えるんだよ、そんぐれぇ」

爪# ー )(ナメんじゃねぇぞ、クソ吸血鬼)

己の身体能力に大層な自信を持っているのだろう。
確かに、史実によれば四桁とも言われている犠牲者の血を吸ってきたハインリッヒは、
人間には到達する事の出来ない領域にまで発達した、常軌を逸した筋力と反射神経を備える。

数百年にも渡り衰えなど知らぬであろうその彼女の肉体は、
恐らくこんな正直な突きは、まともに喰らってくれはしないはずだ。

ならば、と─────試みる。

カード博打を好み、それに連戦連勝を重ねるフォックスでも、この時ばかりは賭けの成功を祈りながら。

849名も無きAAのようです:2012/06/06(水) 18:36:59 ID:Zi6LRdjw0


爪; ー )(試してみるだけの価値はッ───)



('A`)


頭の中を過ぎたのは、相対する相手に死の恐怖を思わせながらも、
どこか気の抜けたような表情だった、あの男の顔。


爪#゚⊿)「………あらぁなぁッ!!」

一度はデルタが受けるのを目の当たりにした、暗殺者の”業”。
記憶の中にある彼の動きを、再現するようにして────

首筋を狙い済ました一打を放ったはずのフォックス。
だがその彼の手にナイフが握られていない事に、ハインリッヒはようやく気付いた。

从 ゚∀从「な───ッ」


────暗殺の、一撃。

850名も無きAAのようです:2012/06/06(水) 18:38:21 ID:Zi6LRdjw0

左手で繰り出したはずの刺突が止められる直前、投げ渡すようにして逆手へと持ち替えたナイフは、
ハインリッヒの右の脇腹を突き刺し、ナイフの刀身を摘もうとしたその手に、空だけを掴ませた。

致命的な打撃にこそならなかったが、一瞬だけハインリッヒは、確かに呆気に取られていたのだ。

爪;'ー`)(浅ぇ、か)

さながら、予測も出来ぬ方向から第三の手が伸びるかのような攻撃。
その意識外の攻撃が、ようやくまともな手傷を与えたのだった。

从 ∀从「………ってぇな」

吸血鬼の弱点───十字架、心臓に杭、大蒜。
噂話に囁かれる効果の無いそれらの中にも、実際に効力を発揮する物はあったのだ。

それが、この”銀”のナイフ。

恐らくは清めもしておらず、”銀加工仕上げ”の見た目以外は、機能的には単なる粗悪品。
それでも、”吸血鬼を傷付けられるのは銀の剣以外に無い”という噂は、おとぎ話にも聞かれる程。
実際に今こうして、少なからず効果を発揮したのだ。

銀のナイフが突き立てられたハインの脇腹からは、ジュウ、と血が煮立つような音。
だが少しだけその顔に苦痛を浮かべたのを見届けて、フォックスは手ごたえを確信する。

851名も無きAAのようです:2012/06/06(水) 18:39:14 ID:Zi6LRdjw0

爪;゚⊿)「見えたぜ、テメェの弱点」

从#゚∀从「……うるせぇな」

衣服を掴んで引き寄せようとしたハインリッヒの手を、ぱん、と払いのけて距離を取る。
刺された腹の傷口へと視線を落としたのを見計らって駆け出し、再度突きを繰り出した。

しかし、当たらない。

从 ∀;, 「今のは、ちょっとだけムカついたぜ?」

爪#゚⊿)「クソ───野郎がぁぁぁーッ!!」

再び刃を突き立てたと思われた一瞬、そこでハインリッヒは蝙蝠へと姿を変え、フォックスの背後へと回り込んだ。

しかし、それをも読みに入れていたフォックスは、後ろ手に逆手で構えたナイフを、
そのまま身を翻す勢いのままに背後へと全力で振るう。

”ずんッ”

爪#; ⊿)

从 ゚∀从「ハッ。甘ぇ甘ぇ」

フォックスの呼吸が、一瞬止まった。

852名も無きAAのようです:2012/06/06(水) 18:40:28 ID:Zi6LRdjw0

狙いを引き絞る程の余裕も無く繰り出されたその一撃は、僅かにハインの顔を反れている。
腕が伸びきった所で大きくがら空きとなってしまっていた脇腹に、尋常ならざる速度で繰り出された
その拳が、深々とめり込んでいた。

爪#; ⊿)「がっ………ハッ……ァ」

内臓を吐き出しそうになる。
一瞬で冷や汗が顔全体に滲むと、痛みに目玉がぐりんと裏返りかけた。
がくがくと不安定になった膝には、もはや力が─────

思考が巡らず、意識が途絶えかけたその時。

ξ;゚⊿゚)ξ「……フォックスッ!!」

爪; ー)(ツ………)

戻ってきたのか───だが、好都合だと。
背中に聞こえたその声に、にやりと笑った。

たまらず闇に呑まれそうになった彼の意識を、ツンの叫びがどうにか繋ぎとめた。
身体が崩れ落ちる寸前、どうにか足を前へと投げ出して地面を踏みつけ、体重を支える。

爪;゚⊿`)「……き───うっぷ……効いたぜ、この……野郎ォ」

853名も無きAAのようです:2012/06/06(水) 18:41:27 ID:Zi6LRdjw0

だが、深刻に身体へと刻み込まれたダメージは、すぐに反撃を行えるようなものではない。
例えるならば、唸りを上げた鉄柱が自身の脇腹を貫いたような、重く鋭いものだ。

それでもなお倒れなかったフォックスの姿に、ハインリッヒの表情が愉悦に歪む。

从 ゚∀从「……イイね。想像してたよりも───遥かにイイよ」


────「お前達はさァッ!!───アハハ、アハハハハハッ!」────


ヒートとツンが辿り着いた時には、対峙する二人の中央で狂笑を上げる黒衣の少女の姿があった。

ノパ⊿゚)「……こいつかッ」

ξ;゚⊿゚)ξ「………ッ」

闘争を、心の底から愉しんでいる。
命の重さ、そんな倫理観など、この吸血鬼に取っては紙切れ一枚の価値も無い戯言だ。

姿形は似通っていても、人間とは決して相容れない化け物。
蝙蝠達がざわめく森の中で、その闇の主は狂ったように嘲っていた。

854名も無きAAのようです:2012/06/06(水) 18:42:39 ID:Zi6LRdjw0

从 ゚∀从「……ところでそこのお前。さっきから何かと思えば───召喚魔術?エフリートか」

(´・ω・`)「………」

从 -∀从「50年程前だったか───俺に挑んだ魔術師で、確か一人お前みたいなだんまりのが居たよ」

(´・ω・`)「その魔術師は」

从 ゚∀从「あぁ、首を引っこ抜いてやったさ……最後は無様に命乞いなんかしやがったからな」

(´-ω-`)「………」

この戦いそのものに、歓喜を感じているのだろうか。
少し饒舌になり始めたハインリッヒの言葉に再び瞼を閉じると、それを胸に刻んだ。

(´・ω・`)「なら───その魔術師の怒りも、この魔法に乗せて放つとしようか」

从 ゚∀从「おっ?来るかぁ!?」

くい、と人差し指を引いて挑発するハインリッヒに向けて、最後の詠唱を終えた。

855名も無きAAのようです:2012/06/06(水) 18:43:54 ID:Zi6LRdjw0

(´・ω・`)【 君の最期に手向けるのは ただ一言 "燃え尽きろ" 】

ショボンの周りでだけ、急速に大気の流れが速まっていく。
同時にそれらが熱を帯びて発火すると、もはや近づくのも困難な荒れ狂う炎の乱気流と化した。

まるで昼間のような明るさが、暗いこの森を炎で照らし上げる。

ノパ⊿゚)(離れろ───ツンッ!)

ξ;-⊿-)ξ(きゃッ)

今まさにショボンのを取り巻く炎の帯がハインリッヒへと襲いかかろうと場面を見届けて、
フォックスは立っているのもやっとだった、という風にその場にどっしりと尻を突く。

爪;'ー`)(ブチかませ、ショボン)

ショボンの背から四方を取り囲むようにして伸びる炎は、意思を持っているかのようにうねりを伴った。

(´-ω-`)(魔法名は、そうだな───)

(´・ω・`)【 "炎流焔舞"………とでも名付けようか】

从 ゚∀从「!」

856名も無きAAのようです:2012/06/06(水) 18:45:25 ID:Zi6LRdjw0

伸びた炎が扇状に取り囲うと、ハインリッヒの周囲の大気すらをも灼く。
もはや蝙蝠化して飛び去ろうにも、どこにも退路など残されていなかった。

回避は不可能───全方位から襲い来る炎が、徐々にハインリッヒの身を焼いていく。

从; ∀从「な───あッ!?」

自分の身に燃え移った炎に身をばたつかせるが、それ以上に苦痛を伴わせているのは、呼吸だろう。
炎の牢獄に囚われたハインリッヒの周囲の空気は全て焼かれ、息をするのもままならない。

自らの喉首を押さえながら、炎の中で苦痛に喘いで揺らめく彼女の姿は───まるで舞いを踊っているかのようだ。

「……ぐあぁッ!……あぁぁぁァァーッ!」

(´-ω-`)「─────Hitze ende」

爪;'ー`)(何決め顔してやがんだ……あいつ)

思わずフォックスからはそんな笑みも漏れる程に、勝利を確信できた一撃だった。
───いつまでも消える事の無いその炎に踵を返して、ショボンが振り向く。

心配そうに自分の顔を覗き込む、ツン達の方へと。
その表情には、一つの事をやり遂げた一抹の充足感を垣間見せて。

だがその瞳は、すぐに真剣味を帯びた。

(´・ω・`)「ツン……頼む」

859名も無きAAのようです:2012/06/06(水) 23:58:16 ID:Zi6LRdjw0

ξ゚⊿゚)ξ「………!」

(  ω )

ショボンの見据える方向には、血溜まりの中に倒れるブーンの姿があった。

(´・ω・`)「彼を、助けてくれ………!」

ξ;゚⊿゚)ξ(ブーン!!)

言葉が耳に届くよりも先にツンはブーンの元へと駆け寄って行った。
小さな背中のその彼女の双肩に、今は大事なパーティーの仲間の命が託されている。

しかし、それにはあまりに時間が経ちすぎていた。
間に合うだろうかという半信半疑さは拭えず、愚直に
ブーンが助かる道を信じきるという事など、難しい。

(´ ω `)(………)

会心の魔法は、見事ハインリッヒへと叩き込まれた。
しかしこれまで重圧にも感じていた”自分だけの魔法”を創り上げた事への達成感は、その表情には無い。

860名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 00:00:26 ID:e92H5ZPE0

そんな気落ちした様子のショボンの肩に手を置き、ヒートが声を投げかけた。

ノパ⊿゚)「仲間なんだろ?……助かるといいんだが」

(´・ω・`)「えぇ……ところで、貴女は?」

ノパ⊿゚)「話は後にしよう。だが冒険者、確か私は”始祖”だと聞いていたんだが?」

(´・ω・`)「終わりました、今しがたね」

ノハ ⊿ )「………あれが」

ショボンが指差した方向には、今なお閉ざされた炎の中で頭を抱え、のたうち苦しむ黒い影。
苦痛を訴える悲鳴が、次第に絶叫へと変わりつつあった。

人メ%∀从「あぐぅぅ────ぎゃああああああああぁぁぁぁぁぁ───ぁ……」

ノパ⊿゚)「………」

いつまでも耳に残りそうな不快な声がする火中から視線を外すと、それをツンへと移す。

861名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 00:01:11 ID:e92H5ZPE0

彼女は、泣き出しそうな表情で必死に腕の中のブーンに言葉を投げかけていた。
傷の具合を見ようと仰向けに抱き起こそうとした彼の身体からは完全に血の気が失われており、
掌がべっとりと拭った血の量に、ツンの顔からもさぁっと血の気が引いていく。

ξ; ⊿ )ξ「ブーン………駄目、死んじゃ………」

(´・ω・`)「ツン!早く聖術の癒しを、ブーンに………!」

ショボンの言葉にこくりと頷くと、血がついているのにも構わずにツンは手を組み交わした。
瞳を閉じ、今はこの場にて唯一ブーンを助け得る聖術、”癒身の法”を施そうとして。

「う……ぎ、があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーッ!!」

”ばぁんっ”

が────突如響いた轟音と叫びに身を震わせ、ツンの祈りの手が止まった。


爪; ー )「………!」

ノパ⊿゚)「何っ!?」

(´・ω・`)(何、だと………!)

862名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 00:02:12 ID:e92H5ZPE0

燃え盛っていた炎が消えると、再び辺りは静寂と闇に包まれる。
白だか黒だかも分からない煙を吸い込んでは吐き出しながら、ふらふらとその奥から姿を現した。

人メ%∀从「ブッ、はぁぁぁぁ────こ、ろ………」

黒衣は所々素肌が露出する程にただのぼろと化し、全身の至る所は炎に炙られ皮膚が剥がれ落ちている。
それだけの重度の傷を与えても尚、倒し切るには至らなかったのだ────

煙を吐き出しながら、ハインリッヒが掠れる喉で呟く。

从メ%∀从「げふンッ───うばく……しゃべれえぇ」

(;´・ω・`)(あの炎を……大気を糧に燻り続ける炎を、掻き消したというのか…!?)

そして身体を丸めるようにしながら自分の頭を押さえつけると、また夜空に向けて狂った笑いを響かせた。



从メ%∀从「あは───アーッハッハッハ、アハハハハハハハハハハハハハハハハァァァァァァーッッッ!!」

863名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 00:03:11 ID:e92H5ZPE0

(´・ω・`)「構うな、ツンッ!今はブーンの治療を───!」

ξ;゚⊿゚)ξ「! ……分かったわ!」

爪; ー )「クソが………!」

从メメ-∀从「あ~あ─────」

ブーンの傍らに座り込むツンを庇って、ショボンとフォックスが前に出た。
未だふらつく足取りのフォックスと、直ぐには第二撃を繰り出せないショボンとではあまりに危機的状況だ。

从メ゚∀从「お前たちは最高に面白かったよ───そんで、最高にムカついた」

爪;'ー`)「もう一丁あいつにかまして来るぜ……」

(;´・ω・`)「駄目だ、この間合いでは───」

生半可な火力では無かったはずだ───だが、それでもハインリッヒは言葉を紡ぎながら、
見る間に少しずつ、その身体に受けた重度の火傷を修復させていく。

从 ゚∀从「だからよぉ………そろそろ、殺すぜ?」

864名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 00:04:45 ID:e92H5ZPE0

やがて、纏っていた衣装がぼろきれとなった以外は、最初の頃となんら変わらぬその姿を取り戻していた。
万策尽きたか───もはやそんな表情を浮かべていたショボンとフォックスの目の前を遮ったのは、彼女。

爪'ー`)「………!」

ノパ⊿゚)「やれるもんなら───やってみろ」

円卓騎士団、フィレンクトの懐刀と呼ばれる彼女。
その緋色の髪と瞳を持つ彼女に、銀色の甲冑が良く映えた。

その彼女が怖気づく事など微塵も見せず、真っ直ぐにハインリッヒの瞳を睨み返した。

从 ゚∀从「また変なのが沸いたな。俺の言葉を聞いてたかよ?………もう、遊びは入れねぇぞ」

ノパ⊿゚)「貴様こそ────滅び急ぐか、吸血鬼」

从 ゚∀从「人間の女如きが……この俺にそれを出来るとでも?」

ノパ⊿゚)「人外など、この剣が切り捨てる」

从 -∀从「へッ……お前みたいな気丈な女が、小便漏らして命乞いするのが好きなんだよ……」

ノパ⊿゚)「………!」

从#゚∀从「────ねぇぇぇぇッ!!」

865名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 00:06:03 ID:e92H5ZPE0

当たれば人間の頭など弾け飛んでしまうような、遠慮の無い一撃が空を切り裂いた。
空間そのものを抉り取るかのような掌打に、毛髪を掠らせながらも深く屈み込み、ヒートは逃れる。

振り切った腕の反対側へとすかさず回り込むと、流れるような動作でそのまま銀色の剣閃が描かれた。

”ざしゅッ”

从 ゚∀从「………!」

ノパ⊿゚)「命乞いするのは、お前の方なんじゃないのか?」

ぼとり、とその場に落ちたのはハインリッヒの右腕。
そしてその切断面からは、音を立てて血が中空へと吸い込まれているかのように煙と消えて行く。
恐らくハインリッヒは、直ぐにはその傷を再生する事は出来ないであろう。

ノパ⊿゚)「我が剣は、円卓騎士団より授かり洗礼が施された……聖銀の剣ッ!」

从#゚∀从「お………あぁぁぁぁぁぁッ!」

身体ごと黒衣を翻しながら独楽の様に回転し、今度は逆の手を薙ぎ振るう。
それをかわしながら再び腕を叩き落そうとしたヒートの剣先が、一瞬迷いを感じて止まった。

見れば、攻撃を仕掛けようとしていたハインリッヒの腕も、ぴたりとその動きを止めている。
逆にヒートからの攻撃を待ち構え、そこからの打ち落としを狙っていたのだ。

从 ゚∀从「ばぁ。よく気付いたな」

866名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 00:07:03 ID:e92H5ZPE0

ノパ⊿゚)(狙いは───剣かッ!)

刀身を掴まれて叩き折られるかしてしまえば、洗礼を施した剣と言えど、たちどころに効力を失ってしまうだろう。
速やかにその場から退き、脱兎のごとく距離を取る。








怯む事なくハインリッヒと渡り合うその彼女の姿を、フォックス達が見守っていた。

爪;'ー`)「どこの姐さんかは知らねぇが───やってくれるじゃねぇか!」

(´・ω・`)「フォックス、君は何かあったらツンを。僕は、彼女の助けとなろう」

見下ろしたツンの背は、小刻みに震えているようでもあった。
少し離れた所で命の奪い合いが行われているというのに、それでも集中して祈りを念じる。

しかし、その彼女の表情には次第に焦りの色が浮かんでいるようでもあったが。

ξ;-⊿-)ξ(どうか───彼に慈悲を、再び立つ為の力を、お与え下さい……)

867名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 00:08:41 ID:e92H5ZPE0

もはや生命力が失われたブーンの身体───
傷は癒えども、彼の意識が戻って来る気配は無かった。

(  ω )

ξ;-⊿-)ξ(………ブーン)








躍動する、黒と銀。
真紅の瞳と緋色の瞳とが、闇の中で目に見えぬ火花を散らせる。


从 ゚∀从「───ハァァッ!」

ノハ;-⊿゚)「くッ………!」

人間の跳躍力ではない。
瞬時にして眼下にまで躍り出ると、関節が壊れているのではないか、と
思うほどに不自然な体勢から、鋭い爪先で突き刺すように蹴り上げて来た。

ヒートの甲冑の左肩部分が、消し飛ぶようにして彼方へと弾き飛ばされる。

868名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 00:09:31 ID:e92H5ZPE0

ノハ#゚⊿゚)「ぬんッ!!」

痛みに一瞬肩から下の感覚を失いかけるが、続けざまに接近していたハインリッヒの顔面に
剣の柄の底面をぶちかまして、その勢いを留めた。

面食らったハインリッヒが口元の血を拭う間に、また2、3歩の距離を取る。

从#゚∀从「オイオイ……お前も、面白ぇじゃんかよ」

ノパ⊿゚)「フン」

从#゚∀从「お前ら全員、下僕にしてやってもいいかな、と今では思うぜ………褒めてんだ」

ノパ⊿゚)「汚らわしい吸血鬼の言いなりになるくらいなら───私は死を選ぶがなッ!」

从#゚∀;,「ハハッ、イイ威勢だぜ」

ノパ⊿゚)「!?」

ハインリッヒの肉体が、蝙蝠達の羽音を立てながら闇に溶け込んでいく。
擬態し、完全にハインリッヒの姿を見失ってしまった彼女に、フォックスが叫んだ。

869名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 00:11:16 ID:e92H5ZPE0

爪;'ー`)「気を付けろッ!全方位……すぐ背後からでも襲ってくるぜッ!」

ノパ⊿゚)「! ………承知したッ」

フォックスもまた、辺りをつぶさに警戒した。
今や死に体な自分とツン達では、ハインリッヒにかかればあまりに無防備な標的だ。

しかし、恐らく彼女の狙いはヒート───ハインリッヒの興は、完全に女騎士へと注がれているだろうと思えた。

”ぞくっ”

ノハ;゚⊿゚)「……くッ」

背後に感じた蝙蝠の気配に、素早く前に出て距離を取ると振り返った。
だが、向き直った先にはハインリッヒの姿は無い。

爪;'ー`)「後ろだッ!姐さんッ!」

だが、ヒートは背後で実体化したハインリッヒの気配に気付けなかった。
耳元で囁かれるのは、残忍な性格からは想像もつかない程に、甘い囁き。

「つかまえた」

870名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 00:11:58 ID:e92H5ZPE0

ノハ; ⊿ )「!?」

身体を硬直させて虚空を見据えていたヒートの頬に、ひやりと冷たい手が触れる。
抵抗しようと思った一瞬、剣を持つ右手に覆い被せるにして脚を絡ませ、動きを封じられる。

人間の力ではどうしようも無いほどの圧力で、身体を拘束された。

从 ゚∀从「それじゃあ……いただきます」

”かぁッ”と口を開くと、鋭い牙をそこへ覗かせて───ヒートの首筋に齧り付こうと、顔を寄せた。

ノハ; ⊿ )「やめろぉぉぉぉぉぉーーーッ!」

その牙に血を吸われてしまえば、人間はその意のままに扱われる不死者の下僕と成り下がる。
必死に拒むヒートの叫びが虚しく響き渡るが、もはや振りほどく事も出来ない。

【 魔力の羊歯よ 絡み付き かの者の動きを封じよ 】

しかし、背に聞こえたその言葉に、ハインリッヒの動きが止まる。

从 ゚∀从「……チッ」

(´・ω・`)【 縛鎖の法────! 】

871名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 00:13:04 ID:e92H5ZPE0

その言葉を皮切りに、ハインリッヒの周囲の地面から這い出るようにして、無数の紫の蔦が伸びた。
それらがハインリッヒの脚元へと絡みつくと、少しずつ上半身へと伝っていき、その動きを縛り付ける。

首筋に限りなく牙が届きそうな、そのすんでのところで、ヒートは束縛を脱した。

ノハ;゚⊿゚)「助かったぞ……冒険者!」

(´・ω・`)「礼には及ばない───だが、すぐに解かれるだろう」

从#゚∀从「解ってんじゃねぇか」

ショボンに顔だけ向き直ると、明らかな憎悪を滲ませる。
彼の炎に身を焼かれ、そして今度は吸血鬼に取って性愛行動にも等しい”血を吸う”場面を邪魔されたのだ。

その眼には、ただただ殺気を孕んでいた。

ノパ⊿゚)「さて……幕引きだ」

从#゚∀从「…………」

持って数十秒程度───それでも、その間ハインリッヒは肉体の自由を奪われた無防備なのだ。

さらに魔力の蔦が拘束を強め、ハインリッヒの肉体が縮こまっていく中。
ヒートが銀剣を構えると、”機”とばかりに、その切っ先を鼻先へと突きつける。

872名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 00:14:22 ID:e92H5ZPE0

ノハ#゚⊿゚)「……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーッ!!」

微かに抵抗しているようでもあったが、その束縛が解かれるよりも先に、ヒートは
ハインリッヒの首筋目掛けて、銀剣にて弧を奔らせた。


”たんッ”


「………」


ノハ-⊿-)「あの世で────貴様が殺して来た人々に詫び続けるがいい」

刃先に付着した、沸騰しては煙と消えていくその血を剣から振るい落とす。
名も知らない赤毛の騎士が、始祖吸血鬼エルンストの首を、銀の剣にて断ち斬ったのだった。

騎士が持つ清めた銀の剣ならば、吸血鬼の弱点を突く武器としてはこの上ない。
今度こそ勝利を確信したフォックスが、喜びを声にした。

爪;'ー`)「やり……やがった!」

873名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 00:15:14 ID:e92H5ZPE0

呆気ない程間の抜けた音を立てて、胴から切り離されたハインリッヒの首。
ごとり、と転がったその口元には、驚いたような断末魔が浮かんでいる。

首を失ったハインリッヒの胴体からも力が失われ、やがて前のめりにゆっくりと倒れ伏せた。

”どさっ”

(´・ω・`)(まだまだ僕も力不足か……本当なら、さっきので勝てるはずだったな)

そんな中、ハインリッヒの身体をしばし眺めていたショボンの耳に、涙交じりのツンの声。
見ればブーンの傍らで、彼女は咽ぶようにして顔を押さえているようであった。

まさか────間に合わなかった?

(;´・ω・`)「……ツン!」

ξ; ⊿ )ξ「どう、しよう……ブーン、が……傷は治ってる、はずなのに………!」

そんな彼女に駆け寄り声を掛けようとして、ショボンの脚は止まった。

ノハ;゚⊿゚)「馬鹿な……ッ!?」

874名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 00:16:24 ID:e92H5ZPE0

ヒートが驚きの声を上げたのは、気のせいなどではないだろう。

転がっていたハインリッヒの頭部。
───それの口元が、にやりと吊り上がっている。

从 ゚∀从

首と胴を聖銀の剣で分かたれてさえ───ハインリッヒは、死んでなどいないのだ。
なぜなら、先ほどまでは正面を見据えていたはずのその瞳が、今では確かにヒートを射抜いている。

それに気付いた時、場に居た全員の時間が凍てついたかのように止まった。
逼迫した状況下の彼らの耳に、更なる絶望を告げるツンの痛ましい叫びが────緊張を齎す。

ξ;⊿;)ξ「───ブーンが、息をしてないのッ!」

爪;'ー`)「……ッ!?」

内側から搾り出したようなツンの叫びと同時に、事態は急転直下で動き出した。

从 ゚∀从「ばぁッ!死んだと……思ったか!?」

ノハ;゚⊿゚)「───うおぉぉぉぉぉッ!」

875名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 00:17:49 ID:e92H5ZPE0

嘲り笑うハインリッヒの頭部からは、まだ憎々しい余裕を吐き出す余力を感じさせた。
ならば───今度は細切れの肉片に、もしくは粉みじんの肉の塊に変えてやる。

そして剣を振り下ろそうとしたヒートだったが、突如何かに首を掴まれた。

ノハ;-⊿゚)「か───ふぅッ!?」

背後から、とてつもない力で喉を押え付けられている。
誰も居ないはずの方向から、なぜ?

それから逃れようと背後に肘打ちを見舞って、空を切ってから気付いた。
後ろには、誰も立ってなどいない。

切断したはずのハインリッヒの右手首が、背後から自分の首を締め付けているのだと。

(;´・ω・`)「動くな!」

「………」

事態を把握したショボンが”魔法の矢”を放とうと詠唱に入ろうとした所で、先手を打たれた。
”がばっ”と突然起き上がったハインリッヒの胴体部分が、側面からそのショボンの身体を殴りつけたのだ。

”ぼきんッ みしッ ぽきッ”

876名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 00:19:17 ID:e92H5ZPE0

(;´ ω `)「あが────はッ、ぁ……!」

風に吹かれる柳のように吹き飛ばされたショボンの身は、そのまま近場の木々へと叩き付けられると、
したたかに頭を打ち付けて、それきり立ち上がれなくなってしまった。

ハインリッヒの生首が、そんな光景を見ながら哂う。

从 ゚∀从「勝ちを確信してたか?───そんな奴らほど、こうなっちまえば脆い脆い……」

爪#'⊿`)「ショボンッ!?………てめぇぇぇぇッ!」

怒りのままに斬りかかっていったフォックスの突きは体捌きに受け流される。

だが、頭と右手を失っている相手に対し、付け入れる隙はいくらでもある───そんな驕りがあったかも知れない。
そうして再度ナイフを振るおうとした間際になって、脇腹に受けた攻撃の痛みが走り、致命的な隙を作ってしまった。

刹那、意識は混濁する。

”パァンッ”

「………」

爪; ー )(────あ………)

877名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 00:21:24 ID:e92H5ZPE0

从 ゚∀从「痛快だぜぇ……なぁ銀髪?」

腕の力だけで放たれた左拳が顎を射抜くと、そのまま全身の力が失われ───為すがままに身体は宙を舞っていた。

次に目を開く事が出来たのは、どうしてだかわからなかった。

あるいは、地面に落ちた衝撃を身体に受けるまで気を失っていたのかも知れない。
しかし大の字に天を仰ぐ身体を必死に横ばいにして、最後に残されたツンへ伝えようとした。

爪;ー )(お前、だけで───も……逃げ……ろ………)

重い瞼を必死に抉じ開けて、意識を確保しようとする。

何重にも重なって焦点がぶれるその薄目に見えたのは、
自分の首を拾い上げたハインリッヒがツンの元へと近づいていく場面だった。

そこで、フォックスの意識は薄れて───途絶える。

ノハ;-⊿-)「う……ぐッ────」

必死に抵抗するヒートの体力も徐々に奪われ、ついには自らの剣を地面へ落としていた。
未だ辛うじて意識こそ保っているものの、このまま絞め続けられれば意識は闇に飲まれる。

878名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 00:22:38 ID:e92H5ZPE0

ツンへと近づいていくハインリッヒは、拾い上げた首を切断面にあてると、既に再生を終えていた。

从 ゚∀从「あと少しだけそうしてな……すぐ、終わるからよ」

締め付けられている首への力を弱めようと抵抗するのがやっとで、そう言い残して
自分の前を素通りしてゆくハインリッヒに、一発お見舞いしてやる事も出来なかった。

拘束を解いたところで、まともに戦える人間はもはや自分一人。
最後に残されたツンには、戦う力などないのだから。

その絶望を覆せるだけの奇跡を────この時ヒートは懇願した。

ノハ; ⊿ )(ツ────ンッ……!)







逃れられぬ死の足音が、ゆっくりと近づいてくるのが耳に聞こえた。
次々と倒されていく仲間を尻目に、彼はまるで眠っているかのようにツンの呼びかけには応えない。

(  ω )

ξ ⊿ )ξ「いい加減、起きてよ……」

879名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 00:24:16 ID:e92H5ZPE0

”癒身の法”は、確かに貫かれたはずのブーンの腹の傷を癒した。
だが、その身に生命力が残されていなければ、それは意味を為さない行為なのだ。

从 ゚∀从「結局最後になっちまったな、女ァ」

ξ#;⊿;)ξ「………」

そのツンの様子を上から覗き込むようにして、ハインリッヒが近づいていた。
鼻先が触れ合う程の距離にあって、ツンは滲む視界の中で、それでも彼女を睨みつける。

从 ゚∀从「気丈だねぇ、お前さんも───流石は聖女様……てか?」

ξ#;⊿;)ξ(ショボン、フォックス……ヒート……)

从 ゚∀从「大丈夫だ。お前さんの仲間も、直ぐに送ってやるさ───」

冷たいハインリッヒの指がツンの喉へと触れると、そのまま強い力に引き寄せられる。

ξ; ⊿ )ξ(………ブーン………)

从 -∀从「だが、まぁお前の仲間は……この俺を随分と楽しませてくれた。
     ───その礼に、最期に言葉を言い残させてやるよ」

ξ; ⊿ )ξ「………う、して」

そう言って少しだけ首元への力を緩めたハインリッヒが、ぽつり呟いたそのツンの言葉に、耳を欹てた。

880名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 00:25:59 ID:e92H5ZPE0

ξ#;⊿;)ξ「────どうしてッ」

从 ゚∀从「………」

様々な思いが、彼女の頭の中を交錯していた。
それを一言で口にしようとしても息は詰まり、そんな疑問の言葉しか出てこない。

どうして、ブーンが生き返らないのか。
瀕死の仲間たちを助けるには、どんな聖術を用いれば良いというのか。
そして───目の前で笑う、人に仇なす不死者を倒すには────どうすれば。

頭がこんがらがって、どんな祈りをヤルオ神に届ければ”全てに対して奇跡を起こせるのか”。
気の利いた言葉など考え付かず、ただ必死に縋り、願った。

ありったけの、感情全てを押し込んで。

ξ;⊿;)ξ「”全部”………全部どうにかしてよッ!ブーンや皆を助けて、こいつをぶっ倒してよッ!」




─────その叫びの直後、天から光の支柱が降り注いだ。

881名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 00:27:22 ID:e92H5ZPE0

从;゚∀从「ぐあぁッ!?」

不死者に対して異常な熱をもたらしながら、その光の中にたゆたうツンの身体を中心として、暖かな十字の光を模る。
祈りを懇願した彼女の意識は、どうやら全ての願いを口にした時点で、緊張と興奮のあまり失われていたようであったが。

しかし奇跡は、確かにツンの願い通り───”全て”に対して救いを齎そうとしていた。

从;゚∀从「───てめッ……!?」

即座に腕を離したハインリッヒが再び近寄ろうとするも、もはやそれは不可能だった。
この世にとって不浄な不死者の存在では、この聖なる力には何人たりとも触れる事すら敵わない。

十字の光からは更に大きな光が生まれ、ハインリッヒにとっては不可侵な領域が更に広げられてゆく。

从; ∀从「オッ───オォォォォォォーーーッ!」

たまらず後退していなければ、恐らく200年以上も生きながらえて来た彼女の肉体は、
その光の前に塵一つも残らないぐらいに消し飛ばされていただろう。

そんなハインリッヒの様子を尻目に、横たわるブーンの身体を、柔らかな光が包んでいた。

(  ω )

微かに彼の指先が動いた事には、誰も気づく事はなかったが。

882名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 00:28:02 ID:e92H5ZPE0
─────

──────────


───────────────


意識の無い夢現のツンの身を、儚げな光が覆い包む────
白き世界。そこでは、ヤルオ神の声がツンの頭の中に静かに響き渡った。





       ____
     /      \
   / ─    ─ \
  /   (●)  (●)   \
  |      (__人__)    | ──”勇敢なる仲間には、神の慈愛を”──
  \     ` ⌒´     /

883名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 00:28:45 ID:e92H5ZPE0


       ____
     /      \
   / ─    ─ \
  /   (●)  (●)   \
  |      (__人__)    | ──”悪しき敵には───聖なる光を”──
  \     ` ⌒´     /










       ____
     /⌒  ⌒\
   /( ●)  (●)\
  /::::::⌒(__人__)⌒::::: \  ──これこそ”聖域の法”だお!──
  |     |r┬-|     |
  \      `ー'´     /

884名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 00:30:16 ID:e92H5ZPE0

ξ ⊿ )ξ(………ありがとう、ヤルオ神様)



一瞬の対話の中でツンはその奇跡に、心からの礼を述べる。
やはりそれには、神様らしからぬ反応が返ってきたが。


”どういたしましてだおっ”


───────────────


──────────


─────



─――ツンが白い光が覆う世界で、神と対話している間を。

その一方で、ブーンは黒く閉ざされた世界で、死神と対話していた───

885名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 01:21:08 ID:e92H5ZPE0

( ●..● )(オイオイ……何でまた来てんだぁ?)


まさか再会するとは思わなかった。迷惑そうにそう告げたのは、ついこの間の”死神”。
しばしこちらを見つめていた彼だったが、やがて納得したように何もない空を見上げて言った。

( ●..● )(………そうか、お前さん───死んだのか)

やはり人間臭い死神だ。少しだけその事実に気落ちしたような雰囲気を滲ませている。
否定してやりたいが、おぼろげな最後の瞬間を思い返す限り、きっとそれこそが真実なのだろう。

(だけど まだ……)

自分は殺されてしまったのだ。
しかしその相手、ハインリッヒと───フォックスやショボンはまだ、戦っているのだろうか。

そしてツンは────無事なのだろうか。

886名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 01:22:14 ID:e92H5ZPE0

( ●..● )(でも……ま、そういう事なら仕方がねぇか。お前さんの魂、この俺が看取ってやる)

有難いやら悲しいやら─────

全力で遠慮してやろうにもあの時とは違って、何故だか言葉を交わす事は出来ない。
魂の緒とやらが、肉体から離れかかってでもいるのだろうか。

深い重力に飲み込まれてしまっているような自分の身に───その時、ふわりと浮くような感覚を得た。

死神が、鎌を取り出そうとした手を止める。



( ●..● )(いや………待ちな)


黒い世界に、死神がそう言って見上げた先で黒く閉ざされた天井からは───微かに光が差し込んだ。

887名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 01:23:19 ID:e92H5ZPE0

ぼんやりとだが、その合間から聞こえてくる微かな声が、この耳にまだ、届いたのだ。

(全部……全部なんとかしてよッ!)

(ツ────────)

( ●..● )(あの嬢ちゃん、お前のコレか?――――ま、ともあれ……)

彼女は、呼んでくれているのだ。
あの世から、この世に来てしまった情けない自分を。

ならばその彼女の呼び声に応えて───助けになってやらなければならない。


その意思を込めると、やがて暗く沈んでいたはずの自分の身体は、
急速に引き戻されるような感覚を得て───


( ●..● )(お前さん、やっぱりまだ”死ぬ定めじゃねぇ”みてぇだぜ?)

888名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 01:24:13 ID:e92H5ZPE0

(………その、ようだおね)


( ●..● ) (ったく……悪運の強ぇ野郎だ)

(次に来たら、今度こそ魂を刈り取ってやるからな)
光に導かれるままこの世界を去る間際、死神は最後にそんなようなことをぼやいていたようだった。

(サンキューだお、ゼフ……!)








─────

──────────


───────────────


从 ゚∀从「………驚いたぜ」

891名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 02:21:27 ID:e92H5ZPE0

(  ω )「………」

ツンの呼び起こした奇跡”聖域の法”は、そう長く効力を発揮する事はなかった。
だが、ハインリッヒにとって不可侵の領域にあったブーンの身は、対照的に生命の光に癒されて───

再び両の脚で立ち上がると、全ての精神力を放出し尽くしたツンの身を、こうして両手で抱きかかえていた。


( ^ω^)(………ツン、ありがとうだお)


ξ ⊿ )ξ


( ^ω^)(フォックスに、ショボン……そして見知らぬ人)

爪 - ) (´ ω `) ノハ; ⊿ )



(  ω )(─────本当に)

892名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 02:22:32 ID:e92H5ZPE0

ハインリッヒの背後で倒れる、傷つき、意識を失った仲間たち。
その彼らに心で感謝を述べてから、抱きかかえていたツンをそっと後ろに横たえた。

ゆらり、と構えを取ったそのブーンの後ろには、まるで静かな闘志が満ちるかのように。
さっき立ち合った時のように、気負うだけの彼ではなく───ただ、その瞳は静かにハインリッヒを見据えていた。

从 ゚∀从「聖術で息を吹き返したか………やっぱり、お前が一番ソソるぜ」

( ^ω^)「……終わりしようお、ハインリッヒ」

从 ゚∀从「はは───さっきまで死んでた奴の台詞かぁ?けどまぁ、そいつぁ楽しみだな」

( ^ω^)「ブーンは、こんな戦いしたくなんかないお───けど……」

从 ゚∀从「はんッ」

(#^ω^)「仲間を傷つけられた事実に対して……ブーンは絶対にお前を許す事は出来ないおッ!」

”すぅ”と息を吸って、勢いよく剣を抜き出すと────堰き止めていた闘志が、再び溢れ出す。
そんな彼に背を向けて、ハインリッヒは近くで気を失っていたヒートの傍らに転がる自分の右手を拾い上げた。

893名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 02:23:44 ID:e92H5ZPE0

从 ゚∀从「イイぜ、お前───惚れちゃいそうだ」

振り返ると、既に切断面に当てた右手の再生は終えていた。
鋭爪を持つ両の手を左右へと投げ出すと、それが全力の構えだった。

(#^ω^)「”ブーン=フリオニール”………お前を倒す、最初で最後の男の名だお」

从 -∀从「ヘッ───最初ではねぇがな……」

从 ゚∀从「あはッ、なら……お前こそ死んでも俺の名前を一生忘れんじゃねぇぞ」


(#^ω^)「……おおおぉぉぉぉぉぉぉッ!!」

从*゚∀从「この───”エルンスト=ハインリッヒ”様の名をよぉぉぉッ!」


歓喜────その感情は、ハインリッヒの表情からありありと伺える程に、滲んでいた。

894名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 02:24:52 ID:e92H5ZPE0

二度目にして、恐らくは最後となる戦い。
3人がかりでさえ一方的に全滅させられかけたロード・ヴァンパイアと、たった一人で。

だが───今のブーンの身体に漲る力。
それは決して、自分一人の力だけではない事を知っていた。

だからこそ、負ける気がしないのだ。

从*゚∀从「死ぃぃぃぃッ!!」

(メ;^ω^)「────くッ」

真正面から自らの殺気を浴びせても何ら怯む事の無い、ブーンとの戦い。
それはハインリッヒの闘争本能という炎に、良からぬ形で油を注いでしまったのかも知れない。

頬を掠めた爪、その指先ごとついた返り血を口の中で味わい、狂悦に頬を緩ませた。

从*゚∀从「どうしてだ!?―――さっきより、全然イイ線イッてるじゃん、お前……よぉッ!」

895名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 02:27:00 ID:e92H5ZPE0

(メメ;^ω^)「……ハァッ!!」

辛うじて避けた攻撃にも、一振りごとにブーンの身は傷付けられていく。
しかし───それでも今の彼の闘志が挫かれる事など、無い。

从*゚∀从「あフンッ……!」

全力で振るった縦斬り。
だが、あえてそれを迎え入れるかのように受けたハインリッヒの肉体に、刀身が引き込まれた。
一度同じような状況に陥った時は、確か情けをかけられてしまったなと思い出す。

今度は、そんな感情を挟み込む余地すら与えてはやらないが。

(メメ#`ω´)「────うッるあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

从* ∀从「ぶ……ふァッ」

ハインリッヒに受け止めさせる事もさせず、鉄槌のようなブーンの拳がその顔に突き刺さった。
たたらを踏みながら何歩か退いたハインリッヒの身体から、強引に剣を引き抜く。

896名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 02:28:34 ID:e92H5ZPE0


从*゚∀从「はぁッ!……なんでだ、お前───これが、本当のお前の実力なのか?」

(メメ^ω^)「………」


ハインリッヒが驚くのも無理はないだろう。
自分自身でさえ、内心驚いているのだから。


ここに立っているのがさっきまでの自分だったら、きっと同じ結果に終わっていた。
しかし、充実している気力と、腹の底から湧き上がって来るこの力は───自分の物などではない。

(メメ^ω^)「……違うお」

从*゚∀从「なら、何だってんだッ────!?」

(メメ;^ω^)「はッ、……おぉッ!」

百年以上も昔───戦勝を喜び合う傭兵団を相手に大立ち回りを繰り広げた時から、
今こうして”闘い”というものに至上の喜びを感じるハインリッヒは誕生した。

从*゚∀从(………わからねぇ、人間の……この力だけが)

897名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 02:29:51 ID:e92H5ZPE0

終わる事の無い自分の生がとても虚しく思えた彼女は、その時魅せられてしまったのだ。
お互いの生命を懸けて散らすその一瞬の火花の中にこそ───自らの生命が輝く、その瞬間に。

それこそが───彼女にとっての”鼓動”であり、
ある意味では、”生”と”死”への執着なのだった。

そして今感じているこのブーン=フリオニールへの違和感は、全員が一丸となって
全滅をも厭わずに死力を尽くして来たあの傭兵たちに感じた感覚に、良く似ていた。

初めての”死を連想”した時の、あの闘いに。
そして、ある冒険者と戦った時の、あの興奮にも。

从*゚∀从「なぁ、お前の力の根源は───何なのか教えろよ」

(メメ;^ω^)「はぁッ………はぁッ……」

幾ら太刀傷を負わせても、瞬時に回復してしまう。
今の所は互角に渡り合うブーンだったが、やがて疲労に蝕まれれば綻びが生まれる。

今のままでは、決定打が足りない。

898名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 02:32:21 ID:e92H5ZPE0

从 ゚∀从「!?」

”ドッ”

(メメ;^ω^)「───!」

そのブーンの足元の地面に突き刺さったのは、一振りの剣。
神々しいまでの銀色を放つその剣は、ハインリッヒの遥か後方で膝を突く、女騎士が投げてよこしたものだった。

ノハ#゚⊿゚)「それを使え!冒険者───不死者に効力を発揮する、聖なる清めが施された剣だ!」

(メメ^ω^)「!」

ノパ⊿゚)「私がそれを使うより───なんだか、お前の方が頼れる気がするからなッ!」

从 ゚∀从「……また水差しやがって」

言いながらも、ハインリッヒが目の前のブーンに対して仕掛ける素振りは見せない。
まるで”使え”とでも言いたげに、目が訴えているようだった。

899名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 02:34:00 ID:e92H5ZPE0

从 ゚∀从「どうした、拾わねぇのか?」

(メメ ω )「………ありがたく、使わせてもらうとするお」

そう言ってブーンの一挙手を眺めていたハインリッヒの表情が、強張った。
無論、銀剣を使うのならば、元から使っていた長剣は手放すだろうと、当たり前の考えを抱いていたからだ。

しかしブーンは、右手に長大な剣の柄を掴みながらも、左手で地面に刺さった銀剣の柄を引き抜いたのだ。

从 ゚∀从「……正気か?」

(メメ^ω^)「───至って」

片手では支えきれぬほどの重量、その重さに従うままに刃先を地面へと着けた。
そして長剣の柄を逆手に掴むと、正位置に掴んだ銀剣の刃とを交差させ、構えとした。

土壇場での、二刀。



(メメ^ω^)「決めてやるお、こいつで」

900名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 02:35:59 ID:e92H5ZPE0

从 -∀从「ハッ……お前、やっぱり面白ぇな」


持てる力の全てをそれら二振りの剣に託して、全霊を呼び覚ます。
裂帛の気迫を込めた叫びが、地面にすら伝染して砂粒が震えた。


(メメ; ω )「………おああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーッ!!!!!」



一見、むやみやたらと振り回すだけの攻撃が来ると踏んでいたハインリッヒの読みは、外れる。
疾駆するブーンの勢いは、その身だけでも十分敵を吹き飛ばす程の威を伴っていた。

从*゚∀从「アハッ。受け切れたら、俺の勝ちってこったなぁッ!?」

長剣の先端を地面に伝わせながら、やがて互いに、間合いへと踏み込んだ。

”ずんっ”

土の地面が沈み込む程、ブーンは強く地面を蹴り出すと────
その力を、そのまま剣を振り上げる為の力と換えた。

そして、自慢の長剣を片腕だけで支えながら、全力を以ってして斬り上げる。

901名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 02:38:28 ID:e92H5ZPE0

从 ゚∀从「お……!」

その勢いを上から抑えこもうとしたハインリッヒの片腕が、寸断された。
さらにもう一本の腕の中ほどにまで刃が食い込んだが、そこで長剣の勢いは押し留められる。

しかし、ブーンが繰り出した一連の攻撃は、それだけに留まらなかったのだ。
まだ、もう一本の剣が残されている。

(メメ;゚ ω゚ )「………シィィィッ!!」

───大陸には、多種多様な武器を扱う流派や、外敵に身を備える為の剣術は、今も無数にあった。

ただ一点に立ち合いでの強さだけを求めて鍛錬に明け暮れる者も数あれど、それでも。
ある種の極致に至るまで、たゆまぬ研鑽を積んだ者達でさえ、その一握りしか体得出来ぬ技もある。

中でも────遠くヒノモトの地から大陸にて伝わった”渋沢流剣術”では、
その奥義はこう呼ばれていたのだった。


─────”双狼牙”────と。

904名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 03:18:18 ID:e92H5ZPE0

達人だけが扱えると囁かれるそれは、返す刀で二度の斬撃を見舞う、目にも留まらぬ必中の奥義。
まるで対をなす猛獣の連撃が、瞬き一つの間に浴びせられるかのような強烈な剣技にて、敵を仕留めるのだ。

本来ならば一振りの剣だけを用いる技ではあるのだが────しかし、偶然にして。

小回りの利かない長大な剣を持つブーンは、それを補うもう一つの剣を得た事で、
本来地力では到底実現不可能なはずのそれを、今この瞬間だけは為しえた。

それが、かの渋沢流では最高の剣士だけが体得出来ると言われている奥義だとは、知らぬまでも。

从;゚∀从「───な、にぃッ!?」


言うなれば───”我流・双狼牙”


誰かに付いて剣を学んだ事の無い彼をこの一瞬を境地へと引き上げたのは、
ただ”負けない為”────その一点に彩られた、執念だけだった。

从;゚∀从「か───はぁッ!?」

(メメ#^ω^)「お────おぉッ────おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーッッッ!!!」

905名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 03:20:23 ID:e92H5ZPE0

審判の銀剣が、ヒート=ローゼンタールの剣が、ハインリッヒの首筋に振り落とされた。

斬り上げと同時にやってくる閃光のような振り下ろしの一撃は、
さすがのロード・ヴァンパイアもお目にかかった事はないのだろう。
浅くは無い傷と、そしてそれに手傷を負わされた驚愕が、ハインリッヒの膝を地に着かせた。

从#゚∀从(ぐ、ぬぅぅぅぅッ)

肩口から首筋へと入り込んだ剣は、斜めに身体の反対側へと抜けようとしている。
洗礼を受けた銀剣に受けた傷を瞬時に再生させる事は、ハインリッヒにも不可能だ。

だが、その刀身を体内で留めてしまえれば、それで勝負は決まる。
全身に力を篭めて、徐々に押し入ろうとしている刀身の力に、逆らった。

───やがて、剣に篭められていた力がぴたりと止められる。


从*゚∀从「───へっ、これで俺の………」

(メメ^ω^)

从;゚∀从「ッ!?」

906名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 03:21:20 ID:e92H5ZPE0

またしても、死の火中の中から自らの生を拾い上げた────

ハインリッヒがその歓喜の元にブーンを葬ろうと顔を上げた矢先、
すぐ近くに穏やかな彼の表情があった事に、驚きを露にする。

何か底の知れない力が彼の背後で沸きあがって来ているような錯覚。
ハインリッヒは知らぬまでも───それは”恐怖”と呼ばれる感情だった。

(メメ^ω^)「ハインリッヒ……二つほど、教えてやるお」

从;゚∀从(な……んだ)


とくん。

今も切り裂かれている彼女の臓物のどれかが、ブーンの言葉に反応した。
そして確信した───やはりこの男の強さの源は、あの傭兵団達と良く似ている。

その錬度こそあの時の連中の比ではないが、確かに。

907名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 03:22:16 ID:e92H5ZPE0

(メメ^ω^)「ひとつ」


从;゚∀从「あ……ぅ」


(メメ^ω^)「───お前が”本当の実力”だとのたまった今のブーンの力は、仲間たちのお陰だお」


从;゚∀从「なか、ま?」


(メメ^ω^)「………」


ハインの表情に向けて、ブーンはこくりと頷いた。

互いを想い、互いを支えあう。そして自らを犠牲にしてでも助け合える程の
”絆”があったからこそ、ハインリッヒはブーン達を。

”失われた楽園亭のブーン一行”の面々の誰一人すらをも、殺す事が出来なかったのだ。

908名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 03:23:10 ID:e92H5ZPE0

本当ならば、自分一人だけが死んでいたはずの戦い。
だけどおせっかいな連中は、一度は死んでいた自分の目すらをも覚まさせた。

見渡せば、全力を出し切った上で彼女に倒された仲間たちの姿。
───その彼ら全員の想いを背負ってまで、負ける訳にはいかない。

ハインリッヒに言葉の真意が理解出来たかはわからなかったが、ブーンはさらに続けた。


(メメ^ω^)「そして………ふたつ」

从;゚∀从「………」

ブーンの言葉の真意を今も計ろうとするハインリッヒは、
抵抗を見せる事も無く、もはや説き伏せられるようにしてなすがままだった。

投げかけられた最後の言葉とともに、ブーンが持つ銀剣の柄には、再び力が篭められる。


(メメ#^ω^)「ブーンは───馬鹿力だけが取り得なんだおぉぉぉぉぉッ!!」

909名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 03:26:46 ID:e92H5ZPE0

从; ∀从「……アガッ……ア……ハァッ───!?」

身体の中心部で勢いを阻まれていた剣は、ハインリッヒの身を斜斬りに、
左の首筋から右の胴体部分にかけて───完全に斬り抜けた。

从; ∀从(お……れが───一度ならず、二度までも人間に負ける……なんざ)

想像を絶する苦痛に叫びを上げるよりも先に、白目を向いた。
そのままハインリッヒの意識は遠のいて───やがて、深淵の彼方にまで。

(……あり得、ねぇ……)


久方ぶりの敗北感は彼女にとっては実に数十───いや、十数年ぶりの、事だっただろうか。

─────

──────────


───────────────

911名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 04:34:36 ID:e92H5ZPE0

長い夜が、明けつつあった。
山道はもう、ここからは下り坂に入る。

(メメ^ω^)「……ふぅ」

背負ったツンが立てる寝息を肩に感じながら、
まだ彼女を起こさぬようにと気を使って、一歩ずつを踏みしめる。

ξ ⊿ )ξ

ノパ⊿゚)「大丈夫か?後でツンに癒してもらわないと、その傷は長引くぞ」

(;´・ω・`)「全く、情けないよ……今後は、自分の身体も鍛えなくてはね」

爪'ー`)「まぁ、いいんじゃねぇか?お前は今の……その、軟弱なままでもよ」

(;´・ω・`)「………」

ノパ⊿゚)「………どれ?」

ショボンに肩を貸すヒートが、不意にフォックスの腹を指で突付くと、
大げさな仕草で痛みを訴えながら飛びのいた。

爪;ー )「ギャッ!……触るんじゃねぇよ、そこッ!」

ノハ^⊿^)「人に軟弱だとか言っておきながら……ははは」

(´・ω・`)「ふっ───しかし、まぁ……よく戦ってくれたよ」

912名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 04:35:26 ID:e92H5ZPE0

爪'ー`)「まぁな!見てたか?俺があの瞬間ハインリッヒの野郎を出し抜いて───」

ξ-⊿-)ξ「皆の事を言ってるのよ、馬鹿」

爪;'ー`)「へっ……」

(メメ;^ω^)「ツン……?起きてたのかお」

ξ゚ー゚)ξ「勿論、”皆”の中にあんたは入ってるけどね。フォックス」

爪'ー`)「……臭ぇ」

ξ#゚⊿゚)ξ「はぁッ!?」

(メメ;^ω^)「ちょッ、ブーンの背中で暴れないでくれお……」

ノパ⊿゚)「相変わらず元気なようで──安心したぞ、ツン」

ξ゚⊿゚)ξ「うん……私も────それより」

ノパ⊿゚)「うん?」

ξ*-⊿-)ξ「その───ありがとう、ね。助けて……くれて」

913名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 04:37:14 ID:e92H5ZPE0

ノハ^⊿゚)「ははは!そんな事気にするな───フィレンクト様の命令が無くても、たとえ嫌と言っても守ってやるさ!」

ξ*゚⊿゚)ξ「ふふっ」

肌寒くも、暖かな陽光が照らし出す街並みの一つに、ここ最近では一番馴染みの深い景色が広がる。

(メメ^ω^)「朝日が出てきたお────ヴィップまでは、もうすぐだおね」

最初は自分達の成長をこそ思って選んだ依頼だったが、その実は虚構に塗れた街の実体を垣間見た。
しかし結果としてハインリッヒという戦いに魅入られた吸血鬼に絡まれて、それを打ち破る事が出来た。

今にして思えば、命がある事自体が奇跡と言う他無い。
が、仲間と力を合わせる事で、そんな脅威にも立ち向かえたのだ。

そんな充足感が、冒険者としての己の殻を一つ───破ってくれたような気がする。

疲労感や痛み───皆が皆、体中ぼろぼろになりながらも。
それでも、互いに生き残った喜びを分かち合えるのは、良いものだ。

突き詰めていけば、対等に並び立つ存在を持たず、孤独の究極にあったあの吸血鬼は、
たとえ一人であっても、そんな喜びを得たかっただけなのかも知れない。

悠久の時を生きる者にしてみれば、今を精一杯生きるだけの人間のその一瞬の価値は、到底解らないだろう。

914名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 04:38:37 ID:e92H5ZPE0

三日後。


──交易都市ヴィップ 失われた楽園亭──


(’e’)「傷の具合はもういいのか?お前ら」

( ^ω^)「ブーンは全然へっちゃらだおッ!」

(´・ω・`)「ま、寧ろ軟弱なはずの僕が一番被害が大きいんだけどね」

爪'ー`)y-「それでも、ツンの聖術のお陰でマシにはなったろ?」

(´・ω・`)「あばらの骨が5本ほど粉々になってたんだがね──医者も舌を巻いていたよ」

(’e’)「んで、ツンちゃんよ。ヒート嬢とは、あれきり会ってねぇのか?」

ξ;゚⊿゚)ξ「それが……しばらく会えないの」








915名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 04:39:40 ID:e92H5ZPE0

(*‘_L’)『よくやってくれましたねッ!あのエルンストを相手に、よくぞツン様を守り抜きました!』





(;‘_L’)「ヒート……一応何かの間違いかとは思いますが、マドマギアの街で食い逃げをした女の騎士がいるとか……」





(#゚_L゚ )「……あまつさえ、あれだけ目を離してはならないと言っていたのに───ツン様の動向を見失っていたですと!?」








ξ;-⊿-)ξ「相当カンカンだったみたい……今彼女、絶賛強化遠征中よ」

(’e’)「堅物だからな───バルグミュラーにでも送られたかも知れん」

916名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 04:40:45 ID:e92H5ZPE0

爪'ー`)y-「さぁて……フォックス様は暫く腹に響く鈍痛で依頼に出れねぇし……酒でも飲むかね」

(´・ω・`)「昼間っからかい?」

( ^ω^)「おっおっ……たまには、オツなものだお」

ξ゚⊿゚)ξ「あんたらは年がら年中飲んでるような気がするわよ」

(’e’)「しゃあねぇ……傷が癒えるまでは、ツケで飲ませといてやる」

(;^ω^)「えっ?昨晩とか、”生還を祝して”とか、あれ驕りじゃないのかお!?」

(’e’)「あたりめぇだ。何千spも持ってるんだ、もっと俺の店に金を落としやがれ」

爪;'ー`)y-「いや、親父……だからそれは誤解だっつぅの。実際は儲けなんてこれっぽっちもねぇさ!」

(’e’)「けッ、信じられっか」

917名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 04:41:26 ID:e92H5ZPE0

ζ(゚ー゚*ζ「いらっしゃいませ!」

「儲けた」「儲けてない」の言い合いが熾烈さを極めつつある中、また一人の客が
デレに見送られながら、酒場の中へと足を踏み入れた。

つかつかと靴音を鳴らしながら、その足は一直線にある人物の方向へと向かっていた。


(;^ω^)「本当に大変だったお……ニセの依頼は掴まされるし、
       帰ろうと思ったらあんな吸血鬼に出会うしで───」


(’e’)「ん?……いらっしゃい」


その時、マスターの視線がブーンの背後に立つ人物へと投げかけられた。
そして”彼女”はするすると両の手を席に座るブーンの首へと廻して────囁く。

「うふ……誰のハナシ、してるのさ?」

918名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 04:44:27 ID:e92H5ZPE0

(*^ω^)「………おっ?」

それは確か───乳と呼ばれるものだった。

「柔らかく───豊満でー───幸せな。
 それはまさしく、”巨乳”だった」(※参考文献:「狂乳戦士」の一文より抜粋)


紛れも無い、紛う筈の無い、たわわに実った桃の果実の感触が───今、両方ともが背中に宿っている。
柔らかなその感触と、全身から放たれている甘美な香りは、眠りにすら誘いかねない。

恐らくは自らも知らぬ所で、始祖吸血鬼エルンスト=ハインリッヒを撃退したとの噂が
ヴィップの街を駆け巡って、こうしてその英傑の寵愛を求めて美女が馳せ参じた次第なのだろう。

顔を見なくても分かる───この乳の感触からいけば、それにも間違いはないのだと。

「ねぇ、誰のハナシ~?」

919名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 05:29:14 ID:e92H5ZPE0

ξ;゚⊿゚)ξ

爪'⊿`)y-

(´ ω `)

( ^ω^)「?」

一様に驚愕している面々の顔を眺めて、”どれほどの美女が尋ねてきたのか”と、
期待に胸を膨らませながら、キメ顔で振り向く。

( `ω´)「ふふ……よくぞ聞いてくれたお───今、名だたる吸血鬼ハインリッヒを倒した話を───」


从*゚∀从「俺のハナシぃ?」

( `ω´)

920名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 05:29:58 ID:e92H5ZPE0

ガタッ

爪;'⊿`)

ガタッ

(´ ω `)「きっ……騎士団を」

ガタッ

ξ;゚⊿゚)ξ「……ぶ、ブーン!何とかしなさいよッ!」

彼らの驚きの理由が、今分かった。
わざわざ昼間の宿屋にまで、復讐の為に乗り込んできたというのか。

だが、分からないのは───何故目の前の彼女は、薄らと頬を赤らめているのかという事だ。

从*゚∀从「な、なぁなぁ……俺のハナシ、してたのかぁ?」

(; ω )「………な、ななな、なんであqwせdrftgyふじこ!!」

921名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 05:31:15 ID:e92H5ZPE0

酒場の中では緩やかな時間が流れる中、ブーン達の席の周りでだけは阿鼻叫喚だった。

(;´・ω・`)「騎士団を呼べぇぇぇッーー!」

爪;'⊿`)「きゅっ、吸血鬼が出────むぐぅッ!?」

大声でそれを客たちに知らせようとしたフォックスの頬が”きゅっ”と締め上げられると、
ハインリッヒは顔を近づけ、そこには殺意に満ちた苛立ちを篭めて低い声で言い聞かせた。

从#゚∀从「……何だって?もう一度言ってみろよ、殺すけどな」

爪;ー )フルフル

静かに首を振ったフォックスは、腰が抜けたかのようにすとんと席へと落ちた。
それから振り返ったハインリッヒがブーンへ向ける表情は、恋する乙女のそれなのだろうか。

从*゚∀从「久しぶりだぜ、ブーン!憶えてくれてたかぁ?」

もしかすると───考えたくはないが、ひょっとして────

(;`ω´)「あの───本日は、どういったご用件で……?」

922名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 05:32:29 ID:e92H5ZPE0

从*゚∀从「そんなに畏まるなよ───あれだけヤリあった仲じゃん……もっと砕けていこうぜ?」

瞬間、胃液が逆流しそうになった。

ζ( ー *ζ(うわ、最低)

という汚いものを見るようなデレの目つきが、彼女が脇を通り過ぎる最中で突き刺さる。

そして何より、後から知った話では2000人もの人々の生き血を吸ってきたこの吸血鬼に、
この自分が見初められてしまったという事実が告げられたからだ。

从*゚∀从「───惚れた」

(;゚ ω゚ )

(´・ω・`)

ξ;⊿ )ξ「さ、さて……私は買出しにでも───」

爪;'⊿`)y-

923名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 05:33:22 ID:e92H5ZPE0

「可哀相に……」
「居た堪れない……」

そんな憐憫の視線を投げかける仲間たち、あるいは、そ知らぬ振りすらしていた。
だがその彼女の思いは、どうやらブーン達が考えるように───性的な意味合いではなかったらしい。

从 ゚∀从「いや、まぁしかし……探したぜ。俺を倒す程の冒険者だ───
     どれだけ高名なパーティーかと思ったが、それほど名は売れてねぇみたいじゃん?」

(;`ω´)「ハッ……それは、その私どもと致しましても──まっこと、恐悦至極……」

从 -∀从「ヘッ。ビビるこたぁねぇ、お前さんは、この俺を倒したんだからよ」

「んで、まぁ今日は───単なる挨拶よ」

(;`ω´)「そ、そうでござい───ハッ!?……そうだっ、たかお」

从 ゚∀从「10年後」

(;^ω^)「お?」

「惚れたって言ったろ、お前の強さに」

それはやはり、死刑宣告だったのだろうか。
今から10年も経てば、恐らく普通であれば体力のピークはとうに過ぎている。

しかし彼女は、さらに己を磨きぬいた上での自分と────

924名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 05:34:32 ID:e92H5ZPE0

从*゚∀从「もう一度───殺し合うんだ。その時は、どっちが立ってるかな……!」

(  ω )オボォェ

嫌悪感に、吐き気を催す。

そう───その時の自分と、再戦を果たしたいと申し出ているのだ。

「10年後にお前を殺す」と言っているかのような彼女の台詞だが、
しかしそれに関して重要なのはやはり”闘って争う”という点らしい。

彼女らしいと言えばそうなのかも知れないが、この場で暴れられては手が付けられない。
泣く泣く瞳を輝かせる彼女───200才を越えるハインリッヒの申し出を、受け入れた。

少しばかり涙目だったが、また勝つ事が出来れば問題はない───と思いたい。

それまでの間に、彼女は自分とその仲間を歯牙にかけようというつもりはないのだろうか。
もしもそうであったら、少しは幸いだが。


从 -∀从「さて───見知った顔が居て面倒になってもアレだし……そろそろ帰るわ」

925名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 05:35:27 ID:e92H5ZPE0

( ^ω^)「ま……まぁ気をつけて、だお」

从*゚∀从「次に会う時は───そうさな、”ハイン”とでも、気軽に呼びな」

( ^ω^)「は、はい」


「────またな」

手を振って去って行った彼女の背を見送った後に、ブーンにはふと疑問が生まれた。


(;^ω^)「はぁ……これは、吸血鬼との友情が芽生えたとでも解釈すれば、いいのかお?」

やりきれない表情を見せるブーンの心中を汲み取ってやろうにも、
彼が10年後に約束させられた不運には、いかなる励ましも役に立たない。

ξ;゚⊿゚)ξ「ん……まぁ」

(´・ω・`)「そう思えるなら、そうなんだと思うよ」

爪;'ー`)y-「あ、あぁ。お前の中じゃな」

926名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 05:52:07 ID:e92H5ZPE0

(’e’)「その……かける言葉が見当たらねぇんだが……ご愁傷さん」

そう言って差し出された、並々とグラスに注がれたエールは、
マスターがブーンに対して哀悼の意味を込めた一杯だろうか。

( ^ω^)「マスター」

(’e’)「……何だ?」

( ^ω^)「今夜は、潰れてもいいかお?」

(’e’)「あぁ───ツケは効かねぇが、な……」

(  ω )「そうかお……」

深く沈んだブーンの表情だったが、どうやらそこで吹っ切れた。
さっきまでのは悪い夢だったのだ───それなら、飲んで忘れてしまおうと。

(#^ω^)「それなら───ありったけ、エール持って来てくれお!!」

爪'ー`)y-「付き合うぜ、相棒」

927名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 05:53:05 ID:e92H5ZPE0

ξ;゚⊿゚)ξ「まぁ今日に限ってはうるさくは言わないけど……飲み過ぎるんじゃないわよ」

酒を飲んで一時の現実を計ろうとしたブーンだったが、
楽園亭の中で配られている号外の見出しには、消せない現実だけが綴られていた。


(´・ω・`)「10年後のブーンに───乾杯」

───「行方を眩ましていたあの吸血鬼エルンスト=ハインリッヒ、ヴィップの冒険者に撃退される!?」───






   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

             第8話

          「血界の盟主(2)」

928名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 06:01:36 ID:e92H5ZPE0


───交易都市ヴィップより、遥か北西の地 【グラシーク】―――



「……な、なんだあ、あんた達ッ……!」

(  ▲)「………」


狼狽する旅人の一人は、恐らく商人なのだろう。
”旧ラウンジ聖教”の者達に取っての聖地、”エルシャダイ”へと向かう山道の中腹で、
彼はその不運に巻き込まれようとしていた。

旅人である彼の前に、突然フードを目深に被った5人ほどの男達が現れたのだ。

「か、金なら無いが……好きなだけ持って行ってくれ……」

野盗の類───男達の雰囲気から、旅人は瞬時にそう判断した。
対処を間違えば、恐らくは自らの命が危うき事を、肌で感じ取ったのだ。

929名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 06:02:29 ID:e92H5ZPE0

これから売りさばくつもりだったのであろう商品群が詰まった麻袋を、どさりと彼らの前に下ろした。
彼らが山賊の類であるならば、この旅人の判断は確かに賢明なものだ。

しかし、彼らの目的は物や金になど無い───それが、この男に取っての不運。

(  ▲)「………いらんな」

一際大きな体躯を誇る男がぽつりとそう漏らすと、それが合図かのように、
男の大きな背中の左右からは素早く二人の人影が躍り出る。

「───たッ、助け───むグッ」

助けを求める間もなかった。
一人に口を押さえられ、背後に回ったもう一人からは後頭部を硬い何かで打ちつけられる。
なす術も無く意識を奪われると、前にぐらりと倒れかけた男の身体は左右から抱え込まれ、
そのままフードの一味の一人の肩に担がれた。

実に手馴れたものだ。
鮮やかな手際に加えて、日が沈みかけた今のような夕刻ならば、目撃者はまず存在し得ない。

誰一人として、この哀れな旅人がこの場所で拉致された事に考えが及ぶ事は無いだろう。

930名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 06:03:18 ID:e92H5ZPE0


(  ▲)「……馬車に乗った商人の一団が、まだ他にもここを通るという情報が入っています。
      今日はこの辺で引き上げませんか?────”団長”」


巨躯の男の背後、恐らくは部下であろう男がそう言った。
団長と呼ばれた男はそれに若干の不快感を表情へと入り混じらせながら、自身のフードを払う。

その所作からは、こうして素顔を隠して行っている自分達の行為への嫌悪感をも、覗かせる。

「この任に着いている時だけは、そう呼ぶなと言った筈だ」

事実、好き好んでこんな汚れ仕事を請け負っている訳ではないのだ。
彼らの本分は民衆にとっての、”旧ラウンジ聖教徒”達にとっての盾であり、剣であるべきなのだから。

(  ▲)「ハッ……申し訳ありません」

(´・_ゝ・`)「いい。本来謝るのは………俺の方なのだからな」

旧ラウンジ聖教の剣──────”御堂聖騎士団”
ただ下される指令のままに職務を全うし、自分たちに定められた敵を滅する。

”異端”か、もしくは”それ以外か”を。

そこに差し挟まれる個人的な感情。
彼らの思う善にも、悪にも何の分別も持たない。

931名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 06:04:02 ID:e92H5ZPE0

彼らの志がどこに根付いていようとも、忠誠を誓う主君に対し、誠実であり続けるしかないのだ。
たとえこうして、騎士の本分とはかけ離れた汚れ仕事に手を染める事があろうとも。

(  ▲)「しかし我々は、一体いつまでこんな」

途中まで言いかけて口をつぐんだ一人の騎士が、どうにか己の内に言葉を押し留める。

民を、そして自らの誇りこそを守るべき存在である自分たち御堂聖騎士団が、
命令とはいえ罪も無い人間を攫う────それは、結果的にはただの人殺しも同じなのだ。

彼らにも解っている。
こうして拉致した人々が、二度と生きて戻る事など無いのだという事を。

日暮れが近い───曇天の空模様こそが、今の彼らの心境には似合いだろうか。

「雨、か────」

ふと空を仰げば、頬にぽつり、冷たい雨粒の一つが弾けた。

(´ _ゝ `)(堪えろ)

932名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 06:04:59 ID:e92H5ZPE0

”いつまで、こんな非道に手を染めなければいけないのか”
そう言おうとした部下が言葉を飲み下したのは、この場の中で誰よりもそれを思い、
心の底からもう嫌だと───そう、叫びたいはずの男がここに居たからだ。

自ら騎士の名を汚す蛮行にして、愚行。
己が尊厳を貶める事に手を貸す、屈辱。

────御堂聖騎士団長”デミタス=エンポリオ”は、しかしそれに歯を食いしばって耐えた。

(´・_ゝ・`)(どれほど俺達御堂が犬のように扱われても……最後まで泥を引っ被るのは、俺一人でいい)

それは、自分自身を守りたい訳でも、ましてや騎士としての矜持を守りたい訳でも無い。
ただ、今のような立場でなければどこへ行っても爪弾き者にされてしまうような部下達が、
彼ら自身と、その生きる場所を守り続けられれば、それだけで良かったのだ。

(´・_ゝ・`)(今のこんな俺を見たら───”お前たち”は、きっと笑うだろうな)

かつてデミタス自身が率いた傭兵団────
その面影を、彼らにも重ねていたのかも知れない。

当時を知る者は、彼一人を残して皆が既にこの世を去っていた。

933名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 06:06:26 ID:e92H5ZPE0

(´・_ゝ・`)(自分らの居場所を守るなどと……あの時、お前らに出来もしなかった事なんぞを───)

汚泥が口に入るのも厭わず、仲間や敵の血の温かみを身体中に感じながら戦い、
そして仲間を─────彼の全てを失った戦が、かつてあった。

「あの時ほどの地獄は、もう二度とない」
今ではそう思える当時があるからこそ、これからの自分たちがある。
誰に何を指図されようとも、たとえ悪魔に心を売り渡したとしてもだ。

デミタスに課せられた心の十字架が、その重みが彼の二の足に力を与える。

今日もこの供物となる男を、”現存する神”へと捧げるべく───彼らは帰途に着く。

(´・_ゝ・`)(全く、笑わせる)

その嘲笑は、しかしその自分へ対してだけのものでもない。
自らをその掌に躍らせる、より大きな意思である”旧聖教”の幹部連中に対してのものだ。

(´・_ゝ・`)(”龍”が─────”神”だと?……ふん)


「そんなものを崇める俺達こそが───”真の邪教”ではないか」

934名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 06:07:10 ID:e92H5ZPE0




   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

             第8話

          「血界の盟主(2)」


             -了-


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