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( ^ω^)ヴィップワースのようです 幕間 「壁を越えて(3)」

970名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 04:17:14 ID:mdK0uiGI0

答えは、明日の早朝にまでという事だった。

ただ一つ懸念していた暗殺者達に襲われたクーの安否も、衛兵達に聞く限りでは大丈夫そうだ。

( ,,゚Д゚)「待たせたかい」

実際にクーとは顔を合わせて話をしたかったが、急ぐ旅らしい。
あの女の事だ、心配してくれているという自惚れもないが、一応あの日の宿の店主には言伝を頼んでおいた。

ヴィップで使い走りの依頼をこなしているよりは、よほど刺激的な道程になるだろう。

父の仇討ちを思えば、息子の俺がそんな不謹慎な想いを抱いてはいけないのだろうが、
この男はこれまでの自分の瞳が映していた退屈な景色を、全て叩き壊すほどの鮮烈さを放ちながら現れた。

事実、父との記憶も少ない自分には、龍に倒された父親の話などあまり実感が沸かなかった。
だけどこの男と話した時、思わされたのだ───彼の後ろに、着いて行きたいと。

  _
( ゚∀゚)「遅ぇよ、馬鹿」

971名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 04:18:06 ID:mdK0uiGI0

ヴィップの北門。
交易都市から北部バルグミュラーへと続く桟橋の上で、俺たちは落ち合った。
男の背で頭を出す朝日が、新たな旅立ちの訪れを告げるようだった。

バルグミュラーは未開の地が多く、未だに凶悪な妖魔どもがうろうろしている。

人間と妖魔とが織り成す、互いの領分の削りあい。
境界線で人間側が根城とする砦には、自分の命を切り売りする猛者どもがひしめいていると聞く。

その中の一人に自分も名を連ねるというのだから、否が応でも胸は高鳴る。


( ,,゚Д゚)「すまねぇ。野暮用を済ませてた」

  _
( ゚∀゚)「ま、いい。道中で今後の事を話す───今は、行くぞ」


( ,,゚Д゚)「あぁ、分かった」


会話はそれだけだったが、俺は内心胸を震わせていた。
俺より少し背の低い───だけどとても大きな背を見せて前を歩く、この男との旅に。

ジョルジュの誘いに乗った自分の、この”邪龍討伐の旅”に。

972名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 04:19:01 ID:mdK0uiGI0




   ( ^ω^)ヴィップワースのようです


             幕間

         「壁を越えて(3)」



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973名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 04:20:27 ID:mdK0uiGI0

─交易都市ヴィップ 悠久の時の流れ亭─


  _
( -∀-)「………とまぁ、そんなお話よ」


( ,;゚Д゚)「それが───親父の最期、だったか」
  _
( ゚∀゚)「厳密には、その時の傷が元でその後に……お前の親父さんは死んだんだがな」

今まで知る事も、その術もなかった。

傭兵であった父親がディクセン騎士団の戦列に加わって実際にやりあったという相手の
ドラゴンが、かの悪名高い”邪龍ファフニール”であったという事実など。

思い起こしてみれば、父の形見でもある己の”竜刀・邪尾”
その刀身を後ろから覆うように施された堅鱗の装飾は、漆黒に染められたそれだった。

おぼろげな父の顔が急激に頭の中で思い出されると、ギコ=ブレーメンは少しだけ誇らしそうな表情をした。
瞬く間に三人の暗殺者を徒手空拳で倒して退けた、目の前のジョルジュ=レーゲンブレストルに向けて。
  _
( ゚∀゚)「しかし、お前も思わねぇか」

974名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 04:22:37 ID:mdK0uiGI0

( ,,゚Д゚)「………何をだ?」

グラスを傾けながら、ジョルジュがギコを指差して言った。
  _
( ゚∀゚)「奇妙な縁をだ。確かに大陸で人が大勢集まる場所っつったらこのヴィップだがよ」

( ,,゚Д゚)「あぁ」
  _
( ゚∀゚)「それにしちゃあ、あいつに全てを奪われたこの俺と、あいつと戦った男の息子のお前が
     今こうして同じ場所に居るのを思うと───大陸も案外狭ぇな、ってな」

( ,,-Д-)「……そうかも、知れねぇ」

大陸に住み暮らす人々の数は、数千万とも言われている。
人種も様々で、未だに言語を持たない部族だって僻地の片田舎には居るのだ。

星の数ほど人々が住み暮らすこの大陸で、たった一つの共通点を持つ二人の冒険者。
それがまるで因果に導かれるようにして出会った事に、二人は少しばかり感嘆を漏らしていた。

  _
( ゚∀゚)「俺は明朝ヴィップを発つ」

975名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 04:23:53 ID:mdK0uiGI0

( ,,゚Д゚)「どこへ───」
  _
( -∀-)「城壁都市バルグミュラーだ。そこで、顔合わせしねぇといけねぇ奴が居る」

( ,;゚Д゚)「あの国境の危険地帯に……まさか、そこにファフニールがいるのか?」
  _
( ゚∀゚)「違ぇな」

身を乗り出してジョルジュの話に耳を傾けるギコに、ジョルジュは顔を近づけた。
多少人目を憚るようにして、そして小声で囁く。
  _
( ゚∀゚)「……だが、でけぇヤマになる───これまでにねぇ、な」

( ,,゚Д゚)「どういう事だ?」
  _
( -∀-)「こいつぁ勘だがな、ファフニールは人知未踏の地になんかにゃあいねぇ」

( ,,゚Д゚)「はっ、そんなとんでもねぇ化け物が、どこに隠れる? まさか──誰かに飼われてるとでも言うのかい?」

976名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 04:25:14 ID:mdK0uiGI0

  _
( ゚∀゚)「───その通りだ」

( ,;゚Д゚)「ハァ!?」

あからさまに大声を上げたギコの鼻先に、「しっ」と立てた人差し指が当てられた。
ジョルジュの言う通りだとすれば、それはとんでもない事実だろう。
  _
( ゚∀゚)「まだ疑ってる段階だ……確かではねぇ。だが”邪龍”を崇めてる奴らはどこかに居るってぇ話だ」

( ,;゚Д゚)「龍の化け物を───崇めるだって?」

もしそんな集団がいれば、それは正気の沙汰ではない。
にわかには信じがたい事実を淡々と口にするジョルジュの言葉に、ギコは驚きを隠せなかった。

「馬鹿げてる……ッ」
そう口にしたギコに相槌を打つように、彼は腕を組みながら頷いた。
  _
( ゚∀゚)「そうだ。馬鹿げてやがる───だからそんな馬鹿共は、ぶっ飛ばしてやらねぇと」

977名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 04:26:32 ID:mdK0uiGI0

( ,,゚Д゚)「アンタは……何を考えてんだ」
  _
( ゚∀゚)「………」

どうという事も無い、という風に話すジョルジュの存在は、ギコからはとても異質に思えた。
確かに歴戦を潜り抜けてきた屈強の冒険者、という認識は彼の佇まいから感じさせられる。

だが、彼からはそれ以上に───ギコの目の前の在り来たりな日常を、全て吹き飛ばしてしまうように。
爽快で、生命力に満ち溢れた、人間の強さというものを感じさせてくれる、そんな雰囲気を感じさせた。
  _
( ゚∀゚)「バルグミュラーでの依頼が重要になる。事が終われば……俺はそこの命知らずの兵隊共を借りれるのさ」

( ,,゚Д゚)「戦争でもおっ始めるつもりかよ?」
  _
( ゚∀゚)「まぁ、似たようなもんだ。ファフニールを匿ってる奴らの存在が
     どっかで暴かれれば、俺はそいつらを率いてヤツの寝床に雪崩れ込む」

( ,;゚Д゚)「本気、かよ」
  _
( ゚∀゚)「あぁ───どこの誰が、止めようともな」

( ,,゚Д゚)「しかし………アンタ一人に、そんな事が出来るとは思えねぇ」
  _
( -∀-)「分かってねぇな、若造」

978名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 04:28:39 ID:mdK0uiGI0

「───ふぅ」
呆れるような仕草で溜息をついたあとに、彼はまた力強い焔の色を宿す瞳を見開いた。
口に出された言葉は力強く、そこには一筋の迷いすら無い彼自身の覚悟をも感じさせた。
  _
( ゚∀゚)「出来るか、じゃねぇ………”やるのさ”」

( ,;゚Д゚)「………!」
  _
( ゚∀゚)「俺ぁ、やり遂げる。ファフニールの野郎の喉元に剣をぶち込んでやる。
     その為だけに、今まで血反吐を吐いたりもしてきたんだからな」

( ,;-Д-)「アンタは………」

「本物の、馬鹿だよ」
そう言いかけたが、真っ直ぐに自分を射抜く眼差しに気圧され、それきり口をつぐんで目を伏せた。

ギコがジョルジュから視線を逸らせてしまったのは、自身も冒険者という職でこれまでをやってきて、
それでも彼のようにただ一心の思いを、自分の力を信じる上で目指して掴む”夢”を。

曖昧ながらも、誰もが当たり前のように描く”未来への想い”を抱くことが出来なかった自分への負い目に感じた。

979名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 04:30:18 ID:mdK0uiGI0

( ,;-Д-)(くそ───)

思い起こせば、冒険者となってのこれまでを、ただ中途半端に生きてきた。

自分を産んでくれた父の仇が、のうのうと今もこの大陸に生きているというのに。
それをヘラヘラと───憎しみという感情すら、満足に抱けてはいなかったのだ。

だからこそ、この男の視線に打たれると、自分が恥ずかしく思えてしまう。
瑣末な技術の事ではなく、この男自身の”人間としての強さ”の光に、その輝きの前に。

( ,,゚Д゚)「アンタは……今まで、どれだけの修羅場を潜り抜けたんだ?」
  _
( ゚∀゚)「はっ。武勇伝を聞きてぇってか? 腐るほどあるぜ」

次に口を開いたギコは、投げかけるはずだった言葉を取りやめた。
会話を交わす内に湧き上がってきた単純なジョルジュ自身への興味に変えた。

  _
( ゚∀゚)「あー、ありゃいつだっけ。いざとなると出てこねぇな」

( ,,゚Д゚)「?」

980名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 04:32:46 ID:mdK0uiGI0

  _
( -∀-)「エルン……何たらっつぅ、なんでも結構有名な吸血鬼に因縁つけられたな。俺は知らなかったけどよ」

( ,,゚Д゚)「吸血鬼かよ!一匹でも騎士団が手こずるっつぅ……あれだろ」
  _
( ゚∀゚)「あぁ、まぁ何だ──ーただただ、疲れたな。何しろ何べんぶった斬っても死んでくれやがらねぇ」

( ,,゚Д゚)「そりゃ、そこらの妖魔と比べたらクソ強い部類だろうさ」
  _
( ゚∀゚)「んで、最後には面倒だったから、胴体はす斬りにぶった斬って逃げたさ───まぁ、
     その時ゃこっちもまだガキだったからな。何か手心加えてたみてぇだったが、あの女」

( ,,゚Д゚)「ヘッ、勝っちまったのかよ!」
  _
( ゚∀゚)「でなきゃ今ここにいねぇだろ、馬鹿────完勝よ」

酒のせいもあるのだろうか。
あるいは、自らとの奇妙な縁があるおかげか。

最初は無愛想で気難しそうだとばかり思っていたジョルジュが饒舌に語る姿に、瞳を奪われる。
何故だか、”もっと彼を知りたい”とさえ思う自分があることに気付いた。

981名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 04:34:03 ID:mdK0uiGI0

気付かぬ内に、ギコは引き寄せられていたのだ────
ジョルジュという、これから大きな嵐を巻き起こすであろう男の魅力に。

いつの間にか、夜が更けるまで酒盛りは続いていた。
その後もいくつかの武勇伝を聞いては、ギコが感嘆する流れが次第に出来ていたある時、
今度はジョルジュの方からギコに言葉が投げかけられる。

  _
( ゚∀゚)「んで───お前はどうなんだよ?」

( ,,゚Д゚)「ん、あ?」
  _
( ゚∀゚)「さっきの話だ。”やるのか、やらねぇのか”」

( ,,゚Д゚)「………」

期待と、予感を抱いていた。

燻っていたこれまでの自分が変わるべき転機と言っていい。
鬱屈した気分の何もかもが、この男にかかれば吹き飛んでしまうような。

賭けない理由はない。

982名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 04:35:27 ID:mdK0uiGI0

「───やるさ、やってやる」

自らの燻った弱い火も、この男が胸の内で燃え上がらせる炎に投じれば、また
希望を抱いて生きられる、より強い炎となれる。


─────

──────────


───────────────





────そう思ったからこそギコは今、こうして彼の背を歩いていた────


( ,,゚Д゚)「………」

983名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 04:36:34 ID:mdK0uiGI0

  _
( ゚∀゚)「………所でよ」

( ,,゚Д゚)「ん?」


不意に振り返ったジョルジュが、手に掴む地図に指を伝わせるギコに言い寄った。
その顔には、厳しく責め立てるような険しい剣幕を滲ませて。

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( #゚∀゚)「いつの間にかルート外れてんじゃねぇのか、これ!?」

( ,;゚Д゚)「あ……本当だ。やべぇ」
  _
( #゚∀゚)「やべぇ、じゃねぇこの野郎!道案内もロクに出来ねぇのか……何年冒険者やってやがる!」


「たはは……」

額に汗を滲ませながら、突き出した掌の指を二本だけ折り曲げて数を模る。
そのギコから地図を引っ手繰ると、またジョルジュが大声を上げた。

984名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 04:38:48 ID:mdK0uiGI0

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(;゚∀゚)「───だあぁッ、一刻も前から道順外れてんじゃねぇか!どういう見方してんだこの馬鹿っ!」

( ,;-Д-)「いや~、悪い悪い」



「しくじったぜ、お前を誘っちまった俺は、もしかすると人生最大の大へまをやらかしたかも知れねぇ」

          「まぁ、今にその認識を変えてやるさ」


急いで山道を駆け戻りながら、乱れる息の中でそうして憎まれ口を叩き合う。
それはジョルジュに取っても新鮮だったが、何より───ギコにとっては鮮烈な。

985名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 04:42:25 ID:mdK0uiGI0

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(;゚∀゚)「チッ……無駄な体力使わせやがって」

( ,;゚Д゚)「はぁっ、だからっ、悪かったっての!」
  _
(;゚∀゚)「そんなんで、化け物とやり合えんのかよ?」

( ,;゚Д゚)「ま───自信はねぇさ」
  _
(;゚∀゚)「偉そうに言うんじゃねぇ!」


「仕方ねぇ。道中でお前を叩き直してってやるさ」

「げっ!あんまし……無茶はさせんなよ?」


少しずつヴィップの街から遠くなっていく彼らの背中。

それを照らす陽光と、そして空の景色。
それらはきっと、新たな旅立ちに心を躍らせているギコの心情を表しているのだ。

まるで、嵐が過ぎ去った後のように晴れ渡った、雲一つ無い快晴が。

986名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 04:44:47 ID:mdK0uiGI0



   ( ^ω^)ヴィップワースのようです


             幕間

         「壁を越えて(3)」


            -続-



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