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( ^ω^)ヴィップワースのようです 第9話 「散るは徒花 名は紫苑」

2名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:07:39 ID:6rBbiW5k0

─交易都市ヴィップ 【悠久の時の流れ亭】─


クーは、早めの昼食を取りながら、張り出された依頼の中から今日赴く依頼を吟味していた。


川 ゚ -゚)(全く、奴め……人騒がせな)


ブーン一行と共に怪樹の森に囚われたあの一件以来、しばらく依頼は受けていなかった。

一つだけ気掛かりな事があったのと、どうにも気分が乗らないのがその理由だった。
しかし、今朝方この宿のマスターからある言伝を聞かされてから、胸のつかえは取れた。

長らく行方の知れなかったあのお調子者のギコが、ヴィップを発つからと言い残したらしい。

どうやら同伴者とバルグミュラーを目指すらしいが、あの未熟者の腕では命を落としかねない。
安否を確認できたのはいいが、それがまた新しい心配事の種でもあった。

皿に残っていた煮豆を口の中へと放り込むと、それをコーヒーで流し込んで席を立とうとした。

そのクーの前で、一人の男が靴音を止めた。

('_ヽ')「あんた、クー=ルクレールか?」

3名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:08:44 ID:6rBbiW5k0

川 ゚ -゚)「…………」

突然、肉厚の板金鎧。フルプレートを着込んだ中背の男が語り掛けて来た。

暗殺者ギルドとおぼしき連中が栽培していた、コカやケシの畑を暴いた先の一件を思い出す。
ギコと共に命を狙われたあの時依頼、自分を付け狙う存在には出くわしていないが、警戒は怠らない。

周囲を見渡せば、同業者やマスターの視線もちらちらと自分達二人へと向けられていた。
まさか白昼堂々と人目を憚らず襲ってくるような輩もいないだろう。

訝しむ視線を投げかけたのは一瞬だったかと思ったが、それに気付いたようで、男は自ら名乗った。

('_ヽ')「……怪しい者じゃない。俺はスタンリー、あんたと同じ冒険者だ」

川 ゚ -゚)「何故、私の名を?」

('_ヽ')「俺はついさっきこの街に来たばかりなんだが、どうしても腕の良い奴の力を借りたくてね」

そう言ってスタンリーは、マスターや周囲の同業者の方へと顎を向ける仕草を見せた。

4名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:09:55 ID:6rBbiW5k0
余所から来た一見の客というものは、大抵の場合”訳有り”が多い。

多分に厄介ごとを孕んでいるであろう問題は、高額報酬の裏で大抵危険が付きまとう。
そういった物に関わりたくないという気持ちは、恐らく大半の冒険者が抱いているはずだ。

クー自身もそうであるのだが、この時は周囲に体よく名を利用された形だった。

川 ゚ -゚)「……はぁ。依頼、という事だな?」

('_ヽ')「あぁ。俺に随伴してもらう事になるが、報酬は高額だ」

川 ゚ -゚)「スタンリーと言ったか。お前の話し方から察しはつくが……それでいて、危険なんだろう?」

('_ヽ')「最悪は……な。死ぬかも知れん───が、報酬は1500spを山分けだ」

クーの予想通り、高額な報酬。

だがそれを魅力的と思うかどうかは、話を聞いてからだ。
命あっての物種────生きているという事以上に価値あるものなど、存在しないのだから。

川 ゚ -゚)「内容次第では、余所を当たってもらうぞ」

('_ヽ')「………一応、話を聞いてもらうとしようか」


スタンリーと名乗った男はクーの正面へと座して、ゆっくりと語り始めた。

5名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:12:27 ID:6rBbiW5k0





   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

             第9話

        「散るは徒花 名は紫苑」



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6名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:14:55 ID:6rBbiW5k0

スタンリーが話してくれた依頼の内容は、ごく簡潔なものだった。
一言で簡単に説明が済んでしまう、”人の業”の類の依頼だ。

川 ゚ -゚)「人斬りか」

('_ヽ')「そうだ。すでに5人殺されている───皆、見る影も無い程に五体を細切れにされてな」

その犯人の意図は知る必要も無いだろう。
ただ愉しむために、人は人を殺す事だって出来るのだから。

川 ゚ -゚)「異常者だな、そいつは」

('_ヽ')「あぁ、胸糞の悪い話だ。どれも手口は同じで、遺体の切り口は剣でやられたものだ」

川 ゚ -゚)「そうだとするならば……手練の者か」

('_ヽ')「あぁ、一筋縄で行く相手じゃあなさそうだが、現場さえ押さえれば俺とアンタの二人でなら行けるだろう」

川 ゚ -゚)「………ふむ」

7名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:15:44 ID:6rBbiW5k0

剣に自信が無い方ではなかった。
話の冒頭から既に察しは付いていたが、単独の快楽殺人鬼であろう。

しかし、そいつを抑えきれるかどうかはまだわからない。
二人一組で挑むのならば相方の力量という一点に、結果は大きく左右される。

('_ヽ')「ま、今は冒険者の真似事をしちゃいるがね……これでも傭兵稼業は15の時からやってたさ」

考えに表情を強張らせるクーの様子に気付いてそう言葉を掛けてくるあたり、勘も悪くはない。
「それなりに自信はあるつもりだがね、俺自身も」

そう言ってのける彼自身の風貌を見ても、どこかの未熟者とは大違いだ。
恐らくは信頼に足る、背中を任せられるだけの力量を持つ人物だった。

川 ゚ -゚)「場所は」

('_ヽ')「殺しが起こってるのは、ここから東のリュメさ。あすこじゃ冒険者の人手が無くてな……
      それで、募集のしやすそうなヴィップまで来たって訳だ」

8名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:16:52 ID:6rBbiW5k0

交易都市ヴィップからもほど近い、寂れた田舎町。
盗賊ギルドが台頭している治安の悪い場所だと記憶していた。

しかし、そんな凶悪な人間一人が長々と潜伏し続ける事が出来るほどに、広い街ではない。

川 ゚ -゚)「所で、もう依頼は請けたのか?依頼状は?」

('_ヽ')「あぁ、依頼人には受ける方向で既に話はしてある。
      面倒臭そうな客だ。嫌味ったらしい成金野郎だったよ」

川 ゚ -゚)「なら後は、私次第というわけか……」

話に聞く限りでも、血生臭いその依頼。
張り込んでその現場を取り押さえようとすれば、当然犯人とは斬り合う事になるだろう。

ある晩に見かけた、月を背にした一人の暗殺者の顔が薄らと思い出された。
あんなに躊躇やためらいの感情、何一つもはさむ事なく人を斬れる奴が相手ならば、恐ろしい。

しかし、そんな狂人が跋扈しているのを見過ごしておけないというのも、クーの本心だ。

9名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:18:47 ID:6rBbiW5k0

('_ヽ')「血生臭い殺しの現場は女のあんたにゃきつかろう。実際に調査してみて、
      無理だと判断したら打ち切ってもらっても構わない……その場合、300sp払おう」

川 ゚ -゚)「悪くない待遇だが……なぜそこまで私に拘る」

他にも力量のある冒険者など沢山いるのに、と疑問をぶつけた。
恐らく彼はここより多くの古参が集まる失われた楽園亭に行くべきだ。

しかし、スタンリーは笑いながら言う。

(' _ヽ')「何、話してみて思ったが───むさ苦しい男より、アンタみたいな美人と歩く方がいいだろう?」

川 ゚ー゚)「ふっ。口説いてるつもりか、それは?」

('_ヽ')「はは、そんなつもりはねぇんだが。まぁ礼儀の内さ」

冗談も言える男なのだと、クーも笑った。

あの、ブーン一行と力を合わせて窮地を乗り切った後からだっただろうか。
これまで抱いてきた誰かを旅に伴うという事に対しての抵抗感を、クーは忘れつつあった。

10名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:21:20 ID:6rBbiW5k0

へらへらと自由気ままに冒険者稼業をして生きている連中、そんな彼らに
自身の憧れでもある冒険者という職を甞められたくないという気持ちがあったのは、
パーティーの一団をただ群れているだけの連中だと、見下していたからだ。

しかしそんな一人一人にも、旅を続ける理由やそれだけの想いがあるのだと、気付き始めていた。

川 ゚ -゚)「ひとまず付き合おう」

しばし考え込んだ後、クーは言葉を続けた。
条件としては悪くない。

それに、やはりクー自身も見過ごしてはおけぬ問題だからだ。

川 ゚ -゚)「しかし、犯人の特定が難しい場合は、悪いが打ち切らせてもらうぞ。
     想像以上に困難な依頼だと判断した場合にも、な」

('_ヽ')「待ってたぜその言葉───なぁに、地元の盗賊ギルドの協力がありゃあ、すぐよ」

川 ゚ -゚)「……盗人の手助けというのは」

('_ヽ')「いや、そう悪い奴らでもねぇさ。話してみて思ったがな」

11名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:22:20 ID:6rBbiW5k0

川 ゚ -゚)「………」

クーは内心気が進まなかったが、目撃情報などを集める際には必ずや彼らの力が必要になる。
だから、スタンリーが力強い口調でそう言い切るのを、否定する事はしなかった。


「さて。まずは依頼人、”ゴードン=ニダーラン”に会いに行こうか」


─────


──────────


───────────────


翌々日。

12名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:24:16 ID:6rBbiW5k0

──【 リュメの街 】──


「おい、寄るな!」

打ち捨てられた教会前の広場に、数人の人だかりが集まっていた。
”それ”を目の当たりにしてしまったものの中には、気分を悪くしてその場で胃の中身を吐き出す者もいた。

街の権力者であるゴードン直属の衛兵数人も、おろおろしているばかりで役には立たない。

そんな中、盗賊ギルドの数人は女の死体が人目につかぬよう気遣いながら、痕跡を調べていた。
鋭利な刀傷に骨までが易々と斬り落とされている、手口は同じだ。

人間業とは思えないこの所業─────この街に、とうとう6人目の犠牲者が出てしまった。


民衆の誰かが、口にした。

「──────こりゃあ………酷ぇ……」


( "ゞ)「………」

13名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:27:05 ID:6rBbiW5k0

顔までもすっぱりと輪切りにされているのは、女性。
その女の目元や口元に視線を落としてから、リュメの盗賊を束ねるデルタは切なさを浮かべた。

今朝から姿を見ていなかった仲間である彼女は、
誰かに見つけてもらえるのを、この場所でずっと待っていたのだと。


( "ゞ)(………ジュリア)


彼女の顔の傍に腰を落とすと、彼は手に血が着くのにも構わず、見開いた瞼を閉じさせてやった。

「───くそったれッ!くそぉッ!」

仲間の死に嘆き哀しみ、涙を零すもの。
その犯人に対しての怒りを露にし、地面を拳で殴りつけるもの。

盗賊ギルドの仲間たちの反応は様々だったが、その彼らの長であるデルタはゆっくりと立ち上がると、
背後へと振り返り、無念を口にする部下達のそれら想いを、”冷静”な表情で受け止める。

泣き腫らす部下の一人の肩に、ぽん、と手を置いた。

14名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:28:32 ID:6rBbiW5k0

「お頭ぁッ!どうして───どうしてこいつが………」

( "ゞ)「……お前さん、惚れてるんだったか」

「畜生、畜生!………ぶっ殺してやる……!」


( "ゞ)「………」


”ぎちぃッ”

──────否。

デルタもまた、激情に飲み込まれて理性の箍を外しそうになるのを、必死に堪えていた。
握り締めた拳の中で自分の爪が皮膚へと食い込み、そこから血が滴る程の怒りを、抑えていたのだ。

15名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:31:31 ID:6rBbiW5k0

衛兵達が苦々しい表情を浮かべながら亡骸を片付け、集まった民衆を散らしていく中。
腹の底に溜まった自分の感情を、吐き出すようにしてデルタは広場にて叫んだ。

(#"ゞ)「いいか………もう、他人事じゃねぇぞお前らッ!」

(#"ゞ)「集めた情報は、どんなもんでも俺のとこに持ってこい!
     絶対に野郎をこの街から出さないように、交代で街の出入り口への見張りを固めろ!」

(#"ゞ)「───袋叩きなんかじゃ済まさねぇ。野郎を、生かしてこの街から出すな!!」

「合点でさぁッ!!」

「!ッ……お、おぉよお頭!」

「やってやらぁッ!見てろよジュリア!」

彼ら盗賊ギルド同士の結束は、強い。
ましてや、住民同士で助け合って生きていかなくては生計を立てるのが難しい、このリュメでは尚更。

16名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:33:39 ID:6rBbiW5k0

その自分達の街が、そこに住まう気の良い住人や、大事な身内が。
きちがいの人斬りの餌食になるというのは、何よりも許しがたかった。

この狭い街にあって、まだそいつがのさばる事を許してしまっている自分自身にすらも。

( "ゞ)(クソッタレが)

その言葉は、自分に対して向けられた言葉だ。

────気付けば、惨たらしい死に様を晒していた彼女の亡骸は、もう衛兵達によって殆ど片付けられていた。

住民達も皆それぞれの生活へと戻っていき、部下の盗賊達は息を巻いて情報収集の為、何処かへと消えた。
そうして誰も居なくなった広場、最後までその場に残っていたデルタが背に背後を感じて振り向く。

「………ぃ」

( "ゞ)「………?」


そこに居たのは、子供。

17名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:35:38 ID:6rBbiW5k0

みすぼらしい服装をしている彼女は、ぼうっとある一点を見据えていた。
ジュリアの亡骸が置かれていた辺りだろうか。

( "ゞ)「………なんだ、嬢ちゃん」

「………」

何かを口にしたが、その言葉までは聞き取れなかった。
デルタの問いかけにも反応する事はなく、ゆっくりと振り返ると、少女はそのまま走り去る。

多感な子供には、凄惨な殺人現場に何かが視えていたのかも知れない、と思った。
あるいは、殺されたジュリアの血痕を見て、何らかの思いを呟いたのだろうか。

痕跡だけが、まだはっきりと残っている。
遺体が安置されていた周辺の石床は、中心から外側へ向けて放射状に黒く染められていた。

ただ剣に斬られたというだけで、全身の血液が飛散したかのようなこんな飛沫が、上がるものだろうか。

( "ゞ)(……仇は、取ってやるからな)

───────────────


──────────

─────

18名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:36:49 ID:6rBbiW5k0

─────クーとスタンリーの二人がリュメに辿り着いたのは、その晩の事だった


('_ヽ')「ふぅ。途中何度かアンタを襲っちまいそうになりかけたが、どうにかここまで来れたよ」

川 ゚ -゚)「そんな事をしていれば、今この場に居るのは私一人だったな」

('_ヽ')「はっ、違ぇねぇぜ姐さん」

一晩を共にする内、クーはスタンリーと随分砕けて話せるようになっていた。

自分の中で起こっている微かな変化には、クー自身まだ気付いていない。
他人と組むのを毛嫌いしていた自分が、こうして誰かと対等に話し、接している事に対して。

また、それがブーン達との一件。
ツン=デ=レインに感情をぶつけたあの時から、微弱な変化をもたらしたのだろうという事には。

('_ヽ')「辛気臭ぇ街だが、この館だけは大層な造りだろう?」

19名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:37:59 ID:6rBbiW5k0

実質的にこの街を領主より任されている、町長”ゴードン=ニダーラン”の館の前に二人は立つ。

交易都市の家々から見ればさもしい造りだが、広大な敷地の館へと繋がる玄関口には、
二人には理解し難い芸術的造詣を宿した美術品の数々が建ち並んでいる。

川 ゚ -゚)「ふん、富がこんな下らないものに注がれているのか」

('_ヽ')「豪族崩れが偉そうになぁ……世話しなきゃいけない住人達の事より、見栄が大事なのよ」

どうやら、クーとスタンリーでは意見が合うようだ。
わりかし馬の合う二人なら、連携も取りやすいと思えた。

ぶつくさと文句を垂れながら、絢爛な飾りが施された門をスタンリーが叩いた。
すると、直ぐに黒の正装に身を包んだ召使いと思しき白髭の男が顔を出す。

「……冒険者の方々ですね、お待ちしておりました」

('_ヽ')「今日は同行する相棒も連れて来たぜ」

20名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:39:01 ID:6rBbiW5k0

川 ゚ -゚)「よろしく頼む」

「あい解りました────ですが、恐れながら外での会話、内まで聞こえておりました……」

('_ヽ')「そうかい?聞こえるように言ってやったのさ」

わざわざ館内へと響かせるようにして、上向きに声を大にするスタンリーの様子にクーが笑う。

川 ゚ー゚)「ふっ」

「は、はぁ……ですが、旦那様の前ではどうか失礼のなきよう……お願いしたいかと……」

腰を折りながら両手を揉む召使いが、そう釘を刺した上でクー達を招き入れた。

川 ゚ -゚)「善処するさ」

21名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:40:05 ID:6rBbiW5k0

──リュメ 【ゴードン邸内】──



<丶`∀´>「良く来てくれたニダね」

通された一室で、依頼人であるゴードン=ニダーランと出会った。
金糸での刺繍が施された見栄えだけは絢爛なバスローブに身を包み、肩手には葡萄酒が注がれたグラスを持つ。


川 ゚ -゚)「………」

余所の土地から来たのだろうか、特徴的な訛りを残し、少し角ばった頬骨のその男。
思ったよりは覇気の無い、という印象だった。

その彼の様子に口を出したのは、スタンリーだ。

('_ヽ')「今日は随分と元気がないね、旦那」

<丶`∀´>「………」

ガラステーブルの卓上にグラスをことり、と置くと、ゴードンは目を伏せた。

22名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:41:27 ID:6rBbiW5k0

<丶`∀´>「……今日の早朝、6人目の犠牲者が発見されたニダ」

川 ゚ -゚)「!」

どこか気落ちした様子のゴードンの様子にも、頷ける。
スタンリーが助力を求めてヴィップから戻ってくる四日の間に、また一人殺されたというのだ。

<丶`∀´>「ついさっきまで、家の前に居た住人達が口々にウリを罵ってたニダよ……」

('_ヽ')「……そいつは、気の毒になぁ」

スタンリーの言葉は、犠牲者へと向けられた者だ。

街の人間の安全を預かる身としては、ぶざまな事この上ない現状。
しかし、領主がこの街の執政に口出ししてこない以上、この男は全責任を負う立場にある。

沈んだ面持ちのゴードンに、少しだけ哀れみは憶えたが。

23名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:42:17 ID:6rBbiW5k0

川 ゚ -゚)「いつからだ?この一連の、人斬り騒ぎが起こったのは」

<丶`∀´>「ウリの記憶では2週間程前からニダ。決まって深夜───未だ、犯人の目撃情報は無いニダよ」

川 ゚ -゚)(たった2週間の間に、6人か……)

<丶`∀´>「今は盗賊ギルドの奴らが街への出入り全てを監視してるニダ……だから」

川 ゚ -゚)(住人の中に、犯人が居る可能性が高いという訳か)

そんな芸当を成し遂げられる者が、そう隠れていられるとは思えない。
殺しに使った武器も、人間の五体を細切れにするぐらいならば返り血に塗れ、多少の血痕は残る。

外部からの侵入の線を消去すれば───恐ろしい事実だが、今も人斬りは、この町に住み暮らしているのだ。
何食わぬ顔で、人の皮を被ったその鬼畜が。

24名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:43:21 ID:6rBbiW5k0

('_ヽ')「ま、そう気落ちしなさんな」

務めて明るく振舞うスタンリーが、ゴードンの肩を叩きながら言った。
彼もまたゴードンに対して少しは同情する思いがあるのだろう。

('_ヽ')「ヴィップから俺が腕利きを連れてきたんだ───解決して、やるからよ」

<丶`∀´>「……そうしてくれると、助かるニダ」

川 ゚ -゚)「あんたの為ではないが、私も全力を尽くそう」

('_ヽ')「そうさ……」

深みのある表情を、スタンリーはクーへと向けた。

依頼の完遂へ向けて本腰を入れる。
打ち切るつもりは無くなったという彼女の決心が、表情からも読み取れたであろうか。

25名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:45:00 ID:6rBbiW5k0

<丶`∀´>「わざわざ、ご苦労だったニダね……」

「少しばかりやつれたな」
と、去り際にスタンリーはゴードンにぽつり漏らした。

必ず次の犠牲者が出るまでに犯人を見つけ出す、と口約束を交わして、
二人は召使いに再び招かれながらゴードンの邸宅を後にした。

外に出ると夜も深くなっていたが、すぐに寝付ける気はしなかった。







26名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:45:55 ID:6rBbiW5k0

──酒場 【烏合の酒徒亭】──


リュメの街では数少ない、男達の盛り場だ。
一歩店内に足を踏み入れると、まだ残る香ばしい匂いと共に店主の声が投げかけられた。

( `ハ´)「……アイヤ、お客さんアルか?」

川 ゚ -゚)「まだやってるか?」

( `ハ´)「悪いがもう店じまい────」


「シナーの親父」

言いかけた店主の言葉を遮ったのは、まだ店内で一人グラスを傾けていた、一人の男の声だ。

27名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:47:08 ID:6rBbiW5k0

( "ゞ)「あんたら、冒険者か?」

川 ゚ -゚)「……そうだ」

少し暗い雰囲気を纏った男がそれを聞いて立ち上がると、隙の無い身のこなしで二人の前に歩いてきた。
白濁している瞳から察するに、目を患っているようだった。

盗賊ギルドの一人だろう、とすぐに察しはつく。

('_ヽ')「あんたは?」

( "ゞ)「この街の現状を憂いながら酒を飲む一人────さ」

川 ゚ -゚)「………」

少しふざけた口調ではあるが、酒を飲んでいるというのにその表情には緩みがない。
事実、今この街で起きている事件をどうにかしたいのだろうという心境なのだろう。

( "ゞ)「少し、飲まないか?」

28名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:48:23 ID:6rBbiW5k0

( `ハ´)「デルタ!また勝手な事言いやがってアル……」

( "ゞ)「硬ぇ事言いなさんな、親父。今はこいつらの力が必要なんだからよ」

( `ハ´)「………」

厨房に居る店主が腰元に手をおいてしばし嫌そうな表情を浮かべた後、
空いた卓上の一つにでん、と酒樽を置くと、捨て台詞を残して厨房の奥へと消えて言った。

(……飲むなら、勝手に飲むヨロシ!)


( "ゞ)「……さて、こいつでゆっくり話が出来るな」

川 ゚ -゚)「デルタ、と言ったか。あんたは、盗賊ギルドか?」

( "ゞ)「あぁ、そして、今は俺がそいつらを束ねてる───まぁ座りなよ」

デルタに誘われるまま、エールの酒樽が置かれた席へと着く。

29名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:49:57 ID:6rBbiW5k0

カウンターから勝手に取り出して来たグラスを、酒樽の栓を空けて琥珀色の液体で満たしていくが、
どうにもクーとスタンリーは手を付ける気にはなれなかった。

デルタが、切り出してくる。

( "ゞ)「あんたらの依頼に、協力させてくれ」

川 ゚ -゚)「………」

('_ヽ')「ふむ」

卓に広げた両手を着かせ、半ば頭を垂れるかのように二人へ言った。

盗人などに情報提供を頼むなど、という当初のクー抵抗感は、今では忘れていた。
真摯にものを頼む、その男の態度の前に。

( "ゞ)「共同戦線と行きたいんだ……無論、報酬なんざいらねぇ」

川 ゚ -゚)「珍しいな。情報料に対価を要求する、盗賊にしては」

30名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:50:59 ID:6rBbiW5k0

( "ゞ)「………身内が殺られりゃ、もう他人事ってワケにはいかねぇさ」

('_ヽ')「なるほど、な」

少し皮肉が過ぎたか、とクーは自分の言葉に一寸後悔する。
デルタに対してまだ解ける事の無かった若干の警戒心だが、やがてそれも剥ぎ取れた。

仲間が殺された弔い、いち早い解決こそを願っているのだという事が、
彼の表情や声から。真剣さがひしひしと伝わって来たからだ。

('_ヽ')「どの道、あんたらに協力を仰ごうと思ってた所だ───そいつは助かる」

( "ゞ)「そうかい。だが、俺らが協力してやれるのは、野郎を炙りだすまでだ」

川 ゚ -゚)「水面下でお前たちが情報を集めている間、私たちも足を使おう。
     現場を押さえた時は、無論私達の領分だがな」

( "ゞ)「………そうだな、お互いに情報を集めた方がいい。野郎は多分、恐ろしくしたたかだ」

('_ヽ')「まだ、見当もつかないのか?」

31名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:52:07 ID:6rBbiW5k0

( "ゞ)「あぁ。殺しの現場に目撃者がいれば、と思ったんだがな───俺ら以外はブルッちまって、
     夜は家に閉じこもったきり……外に出ていける奴なんていねぇさ」

川 ゚ -゚)「なら簡単だ。深夜に外を出歩いている奴が、犯人なんじゃないのか?」

( "ゞ)「あぁ。だが、そう簡単に尻尾を掴ませてくれるとも、思えねぇがな」

('_ヽ')「………まずは、明日だな」

川 ゚ -゚)「あぁ」

足を使って情報を稼ぐには、今は夜も更けすぎた。
昨日の今日で再び人斬りが外を出歩くと限らない訳でもないが、今日は身体を休める事にした。

32名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:52:55 ID:6rBbiW5k0

( "ゞ)「明日から、よろしく頼むぜ」

川 ゚ -゚)「………こちらこそ」

最後に、置かれたエールグラスの端をデルタが差し出したグラスのものと軽く合わせると、
ちん、と澄んだ音が酒場内に響いた。

互いの協力の証であるその中身を飲み干すと、まだ一人グラスを傾けるデルタをその場に残して、
クーとスタンリーはゴードンから指定された宿へと向かった。





───────────────

──────────


─────


翌朝。

33名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:53:38 ID:6rBbiW5k0

昨晩はほとんど寝付く事の出来なかったデルタだが、それでもまだ日も浅い内から外をつぶさに観察していた。
見張り台がてらに使っている、ゴードンの邸宅の屋根の上で欠伸をしていた部下の一人に合図を送る。

( "ゞ)(異常ナシ……ね)

いつもならばこの時間、とうに花屋や商店が店開きの準備をしている頃だ。
だが、それでも人の出歩きがほとんどないのは、今リュメを騒がしている事件のせいだろう。

神経をすり減らしながら、何の事は無い日常の中にも鋭く視線を走らせる。
街中を巡回している内、デルタの足はやがてある場所で止まった。

古ぼけ、打ち捨てられた教会の前。
昨日、仲間のジュリアが惨たらしく斬り殺されていた、あの現場に。



( "ゞ)(………神なんざ、いねぇよ)

34名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:54:54 ID:6rBbiW5k0

「もし死の間際にジュリアがお前を願っていれば、目の前に居たお前は助けてくれたのか」
心の中で呟いたデルタの精一杯のその皮肉は、届いただろうか。

視線を落とせば、昨晩少しだけ降った雨のせいか、黒く残った血の飛沫は若干洗い流されている。
ふと、目の前で少しだけ扉が開いている廃教会の内部が、気にかかった。

現場に近い為、潜伏先と考えられるのはこの場所だ。
部下達も散々調べたと言っていたが、自分の目でも一度目にしておきたかった。

”ぎぃ”

( "ゞ)「邪魔すんぞ」

誰に聞かせるでもなく、そう言いながら扉を軽く押すと呆気なく開いた。

35名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:57:15 ID:6rBbiW5k0

入り口に立って中をつぶさに眺める。
今では街の子供たちの遊び場として使われている場所だが、デルタの目からはとても寂しい場所に思えた。

歩を進めると、納得した。
「あぁ。こんな場所では神とやらも、降りて来てはくれないんだな」と。

割られたステンドグラス。
倒れ、致命的な亀裂の入った十字架のモニュメント。
厚い層状の塊と化した、椅子へと積もった埃。

聖ラウンジが根付く事のなかったこのリュメの街。
この場所に神が降り立つ事など、もう無いのだ。

ふと視線を落とした先で、デルタはある違和感に眉を潜めた。
束の間の一瞬だが、自分の肉体が確かに何かの反応を示した。

( "ゞ)(!―――――何……だ)

36名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:58:30 ID:6rBbiW5k0

胸を締め付けられるような圧迫感。
そして、僅かだが感じたのは、頭の中をかき回されるような感覚。

見回してみるも、辺りには何の存在も認められない。

( "ゞ)(だが……底から上がってくるような……こいつは)

一度気付いてみると、寂しげな印象しか残らなかった廃教会の中に、
とてもおぞましい気配が立ち込めているような疑いの種が芽生えた。

そう。腹の底から、下からこみ上げてくるような嫌悪感。

( "ゞ)「………下かッ!?」

昨晩熟睡出来なかったせいか、常に張り詰めたままの神経。
その中で発揮されたデルタの動物的な勘は、この時冴えていた。

37名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:59:27 ID:6rBbiW5k0

入り口から牧師が立つ為の教壇へと敷かれた、埃塗れのカーペット。
それを目にした時、他の地面よりも埃の積もっている度合いが少ない、と気付いた。

カーペットの端を掴むと、がばっ、とそれを捲り上げた。

( "ゞ)「………!」









クーとスタンリーは、街の中を巡回しながら被害者の身辺を訪ねまわっていた。

「帰って下さい……」

('_ヽ')「───あ」

39名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 01:01:05 ID:6rBbiW5k0

”ばたん”

これはスタンリーが言い出した事だ。
遺体の状態や、襲われる前後に何かおかしな点はなかったかと、犠牲者の遺族に尋ねる。

結果はどれも門前払い。
それがこうして、5件連続で続いていた。


('_ヽ')「ちっ、話ぐらい聞いてくれてもいいじゃねぇか……」

川 ゚ -゚)「犠牲者の遺族に同情するさ、私もな」

('_ヽ')「ったく。失敗だったな、この案は」

川 ゚ -゚)「配慮に欠けていると言わざるを得ない。成功の見込みは薄いぞ」

とんだ空振り─────
だが、最後に一縷の希望を持って、この一連の事件の最初の犠牲者の家へと訪れた。

40名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 01:02:40 ID:6rBbiW5k0

”こんこん”

扉を二度叩く音は三度続いたが、しばらく待ってみても住民が顔を出す気配は無かった。

「やめときなよ」

川 ゚ -゚)「?」

不意に、二人の様子を影から見ていたであろう一人の盗賊が声を掛けて来た。
この民家の住人の内情を知っているような口ぶりで。

「ここは子一人、親一人だけで細々やってきた家庭さ………
 その母親が切り殺されて、どうやらガキの方は頭がイカれちまったらしい」

('_ヽ')「イカれた?」

「あぁ……この家に人斬りのクソ野郎が押し入って、ガキが寝てる内に母親を斬り殺した」

41名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 01:04:14 ID:6rBbiW5k0

「なぁ、もしガキが目を覚ました時、隣でおっかさんがズタズタになってたら……お前さん方はどう思うよ?」

('_ヽ')「………」

「まぁ血の跡は綺麗に拭いてやったけどよ……それでも、ガキはまだこの家に一人で住んでる。
 ―――おっかさんが帰ってくるとでも、思ってるんだかなぁ……」

残された子供への憐憫。
盗賊の話を聞いても、そんな感情しか出てこなかった。

物心ついてしまった子供がその惨状を目の当たりにすれば、精神が壊れても仕方のない事だと思えた。
暗い面持ちで雁首を並べる二人に、「あまり深入りしてやるなよ」と言い残して、盗賊は去った。

川 ゚ -゚)「……一旦、デルタの情報を待つか」

そうして民家に背を向けた時、背後でぎっ、と扉が開いた音に、振り向く。

「……お姉ちゃん達、だぁれ?」

('_ヽ')「!?」

42名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 01:05:54 ID:6rBbiW5k0

その声に驚いたのは、クーだけではない。
視線を落とした先には、先の盗賊の話の中にあった子供が居た。

どこか、ぼうっと視線が明後日の方向へと向けられているかのように感じた。

|щ)'-')「………どうして、ここにいるの?」

川 - )「………ッ」

('_ヽ')「あっ、おい」

低く屈んで目線をその少女に合わせると、クーは思わず彼女を抱き寄せていた。
歳の頃は、まだ物心ついたばかり───昔両親を失ったかつての自分の面影が重なったのだ。

少女の表情は変わる事がなかったが、やはり虚空を見上げていた。

川 - )「………寂しく、なかったか?」

43名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 01:07:12 ID:6rBbiW5k0

|щ)'-')「さみ、しい?」

川 - )「お母さん、もう帰ってこないんだ」

|щ)'-')「そうだね」

川 - )「────ッ……」

何気ない問いかけ、あっさりとその言葉を返した少女の表情へと、肩を掴んで向き直った。

川 ゚ -゚)「今……なんて?」

恐る恐る、変わらず薄らと笑みを浮かべて虚空を眺める少女に、尋ね直した。
しかし、少女からの返答が変わる事はなかった。

44名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 01:08:01 ID:6rBbiW5k0

|щ)^-^)「うん、お母さんはもう帰って来ないんだ───だって」

(;'_ヽ')「なぁ、行こう。クー」

川 ゚ -゚)「……だって?」

少女の様子に、不気味さを憶えたスタンリーがクーの腕を取る。
だが、それを軽く取り払って、クーは少女の次の言葉を待った。

|щ)'-')「お花になっちゃったの、お母さん───綺麗だったぁ」

川;゚ -゚)

クー自身もまた、少しばかり背筋が粟立った。
光を宿したその少女の無垢な瞳は、一体何を映しているのか。
母親が殺された事実を認識しても尚、まだその家に一人住み暮らす。

口にする言葉も、理解出来るようなものではなかった。
耐えられなかったのだ、少女は。

45名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 01:10:18 ID:6rBbiW5k0

幼い心に植えつけられた、耐え難い孤独、恐怖、不安。
そして近しい人の、子供には理解も及ばぬ程の死に目に遭って、心が決壊した。


───「紫のお花がね、咲いたの………こう、ぱぁって!」────


川; - )「………」

('_ヽ')「───行こう」

それ以上、どこか違う場所を眺めている少女に声を掛ける事は出来ず、黙って背を向けた。

少女の心が選んでしまったのだろう。
これ以上の絶望を耐えて生きるよりも、全てを忘れ去るという道。

|щ)'-')

二人の背中を、家の前でまだ見送っていた少女。
だが、そちらへ振り返る気にはなれなかった。

川 - )

「一度、デルタと落ち合おう」

そうして、またこの街には夜が訪れる。

51名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 04:47:44 ID:6rBbiW5k0


──烏合の酒徒亭──


デルタの方から呼び出しがあったのだ。
スタンリーとクーは、他の盗賊ギルド員から伝達を聞き、この場にて落ち合った。


( "ゞ)「来たか」

川 ゚ -゚)「……何か、進展が?」

( "ゞ)「とにかく見てもらいたいもんがあってな───場所を変えるぞ」

クーが浮かない表情をしているのは、あの少女の一件があってからだ。
だが、そんな彼女の表情にも構う事なく、デルタはついて来い、と外へ出た。

( `ハ´)「こらッ!酒代……」

('_ヽ')「悪いな、親父さん」

到着早々、すぐにクー達も酒場を後にした。








52名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 04:49:06 ID:6rBbiW5k0

静かな夜だった。
冷たい風が吹きつけ、肌寒さを感じる。

いつ何時人斬りに出くわす共限らない為、しっかりと辺りを警戒しながら歩く。

('_ヽ')「なぁ、どこに連れてくつもりだ?」

( "ゞ)「もう………そこだ」

川 ゚ -゚)「───教会?」

デルタが指差した場所は、クー自身にとってもあまり良い思い出の無い場所だ。
しかし荘厳な雰囲気など欠片も残っておらず、ただ打ち捨てられた、という印象を受ける。

廃墟と化した教会は、微かな月明かりを受けてその不気味さを強調していた。

( "ゞ)「行くぞ」

デルタに先導されるまま、その内部へと入って行く。
昔から何一つ変わっていないのだろう、饐えた香りに何処か懐かしさを覚える。

53名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 04:50:18 ID:6rBbiW5k0

川 ゚ -゚)「何も……見えんぞ……」

( "ゞ)「あぁ、忘れてた。俺は夜目の効くほうだが、あんたらは松明が必要だな」

('_ヽ')「携帯用の松明ならある。火打石は持ってるか?」

( "ゞ)「貸しな」

”ぽっ”

灯りを灯してみれば、外観同様の内装がほのかな光に照らされ、10歩先くらいまでの視界が確保出来た。
松明を持ったデルタの後に続いて歩いていくと、突然デルタはその場に立ち止まる。

そして二人へ振り返ると、足元を指差しながら言った。

54名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 04:51:22 ID:6rBbiW5k0

( "ゞ)「この、下だ」

川 ゚ -゚)「………蓋、か?」

('_ヽ')「何だ、こりゃ」

その蓋には、小さく窪んだ取っ手が付けられているようであった。
窪みの中へ指を差込み、スタンリーが力強く引っ張る。

”ごぉんっ”

持ち上がり、反対側へと開いたその蓋の中には───さらに地下へと続く階段が隠されていた。

川;゚ -゚)「こんなものが───」

( "ゞ)「……この地下に、とんでもねぇモンがあった」

('_ヽ')「中には、何がある?」

55名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 04:52:12 ID:6rBbiW5k0

( "ゞ)「いや……”あったハズ”っつぅべきだろうな……ま、着いて来い」

川 ゚ -゚)「………あぁ」

暗い階段を、心もとない松明の灯りに導かれながら一歩一歩降りていく。
饐えた廃墟の匂い───だがそれに、いずれ変化が訪れた。

鼻を突く、一度は嗅いだ事のある匂いだ。
どこまでも続くかと思われた階段は、十数段を下った所で呆気なく行き着いた。

川;゚ -゚)(何だ……この場所は)

( "ゞ)「………俺も、最初は驚いたさ」

(;'_ヽ')「薄気味悪ぃぜ、何だこりゃあ」

見れば、小さな部屋の左右には教典から魔術指南書に至るまで、様々な書物が棚に収められていた。

56名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 04:53:07 ID:6rBbiW5k0

そして部屋の最奥、中央には小さな祭壇のようなものが鎮座していたが、
”それ”を奉っていたはずの聖十字は、地面へと転がっている。

ただ、長細い抜け殻のような木箱だけが祭壇の中央に置かれているだけだ。

( "ゞ)「足元を見なよ」

川;゚ -゚)「ッ!」

見れば、ただのボロ布だとばかり思っていたのは、引き裂かれた衣服の端や、
この教会で使われていたすすぼけたカーテン。

それらには、赤黒く血の跡が拭われていた。
酸化して変色してはいるが、まだ新しい。

犠牲者達の血という、確かな手がかりを見つけてしまった。

('_ヽ')「………どうやら、近づいてきたな」

57名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 04:54:43 ID:6rBbiW5k0

川 ゚ -゚)「ここを、人斬りが潜伏先に使っていたのか」

( "ゞ)「あぁ。恐らくは剣に着いた血や返り血を、この場所で拭っていたんだと思うぜ」

「だが、ここにはそれだけじゃねぇ───」

デルタが、そこらの蔵書を手に取ると、ぱらぱらと頁をめくった。
どうやらここで奉られていたらしいモノを管理していた司祭の、手記のようだ。

( "ゞ)「どうやら、奴さん相当追い詰められてたらしいぜ……」

川 ゚ -゚)「人斬りの話か?」

( "ゞ)「いや。ここでそいつを拝んでた聖ラウンジのお偉いさんの話さ」

くい、と向けたデルタの顎先は、祭壇に虚しく佇む細長い箱へ向けられていた。

58名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 04:56:27 ID:6rBbiW5k0

('_ヽ')「ここでの証拠は確かに手がかりになるが、お前さんは何が言いたい?」

( "ゞ)「ま───焦んなよ。読み上げるぞ」

川 ゚ -゚)「………」

ぼそぼそと、呟くように手記の内容を声にするデルタが口にする内容は、
信じる方が難しい───常軌を逸した内容だった。



( "ゞ)『●月×日……私は、大きな過ちを冒していた事に気づいてしまった。
     かの剣は持ち手の精神に強烈に干渉し、触れた時には既にその者の支配は完了しているのだ』


( "ゞ)『魔剣───”シオン”そのものによる』

59名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 04:57:43 ID:6rBbiW5k0

川 ゚ -゚)「………魔剣、だと?」

('_ヽ')「…………」

少しだけ、この地下の祭壇に置かれていた物の正体が掴めてきた。
デルタが、なおも続ける。


『”シオン”は、人の血を吸えば吸う程に輝きを放ち、使用者への精神支配を強めていく。

  一度たりとも柄に、その刀身に触れてしまえば────シオンが咲かせる”華”を見てしまえば、
  もはやその魅力に取り憑かれ、手放す事は不可能になってしまう』


『………最初、ある冒険者から剣を預かって欲しいと渡された私は、それに触れてしまったのだ。
 2週間ほど前の事だっただろうか───もう、遅い。今でもシオンが笑っている、私の頭の中で』


( "ゞ)『私がもう”人を殺したくは無い”と思うたび───それを奴は、嘲笑うんだ。』

60名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 04:58:44 ID:6rBbiW5k0

川;゚ -゚)「………その剣は、封印されていたのか」

('_ヽ')「祭壇に置かれてる”聖印”を見る限り、そうだろうな」


”聖印”とは、単に十字を模られたモニュメントというだけではない。
聖術を扱える者の精神力が強く篭められており、不浄な存在に対しての魔除けとなる。

もはや効力を失っているであろうそれが、今はクー達の前に虚しく転がっている。


『様々な書物を漁って精神支配を解く方法を探したが、魔術ですらもが手に負えない代物らしい。
 もはや私に残された時間は無かった………●月△日、私は自ら命を断つ決心をした』

『この剣の当初の持ち主。そしてこれを作り上げた人物は、一体どれほど怨嗟を宿しているのか。

 しかしその答えを知られる事ももう無いだろう───狂人の振りをして、私はここから人を遠ざけた。
 使用者が命を落としてシオンの支配対象さえ居なくなれば、後は誰にも触れられずこの剣は忘れ去られる』

61名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 05:00:00 ID:6rBbiW5k0

『聖ラウンジの教えに背いて人を、そして自分を殺めた罰が赦される事はないだろう。
 だが、この剣はあってはならない───今にも柄に手を伸ばしそうな自分の手に短刀を突き刺し、
 辛くもヤツの支配から短時間だけでも逃れている。後は近くの崖から身を投げるだけだ』


( "ゞ)『願わくば、この先誰の手にも”魔剣シオン”が渡らない事を願う────』

( "ゞ)「……だと、よ」


「で、だ────その”魔剣”とやらは、どこにある!?」


手記を読み終えると、両手を広げてそう言ったデルタの背後に転がるのは、もぬけの殻。
ゴードンの話にあったように、2週間ほど前から少しずつ魔剣は力を強めているのか。

もし一連の事件が魔剣の使用者の仕業なのだとすれば、今後ますます犠牲者は増える。

川 ゚ -゚)「……信じたくは無い話だ」

62名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 05:00:58 ID:6rBbiW5k0

('_ヽ')「剣が、人みたいに意思を持ってるって言うのかよ?」

( "ゞ)「人間業じゃねぇあの斬り口を見る限り、そう思うのが妥当だろうよ……あれは、人の業じゃねぇ」

川 - )「それらが事実だとするならば………」

( "ゞ)「あぁ、使用者に罪は無ぇ、のかも知れん」

どうやら、斬り合いは避ける事が出来ないようだ。
この地下に封印を施した人間の話が事実ならば、説き伏せてどうなるものでもない。

使用者を斬る、恐らくはそれでしか解決策が見出す事が出来ない。
そしてその後の”魔剣”をどうするか───決して触れてはならない、それを。

63名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 05:01:47 ID:6rBbiW5k0

( "ゞ)「これまで、殺しは二日か……長くても四日おきに起こった」

川 ゚ -゚)「………!」

こま切れになって血の付着した衣服。それらは今回の犠牲者のものだろう。
全てではないかも知れないが、恐らく数名の衣服の端がこの場所にある。

それが意図する所は────

( "ゞ)「今日は殺しはなかったし、この場所にも奴は来てねぇ」

('_ヽ')「だとすりゃあ……」

明日の夜以降、再び現れるかも知れない。
殺す前か、殺しを終えた後か───魔剣の所有者は、当然この隠れ家の存在を知っているのだ。

この教会へ張り込めば、遭遇する可能性が極めて高かった。

64名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 05:02:49 ID:6rBbiW5k0

川 ゚ -゚)「……デルタ、スタンリー、動かした物は全て元の位置に戻しておけ」

( "ゞ)「あいさ……上のカーペットも戻しとかねぇとな」

('_ヽ')「”魔剣”、ねぇ。ご対面の時はどうやら近いな」

川 - )「───あぁ」

返事をしながらも、頭の中でクーは別の事を考えていた。

もし仮に相対するのが魔剣の所有者だとして、その時自分は、躊躇いなく斬れるのか。
自分の意思とは無関係に人を斬ってしまうように操られた、その人間を殺す事が。

両者ともに罪は無い───あるとするならば、諸悪の根源である魔剣自体に。

しかしそんな呪いの剣を説き伏せる術など持たないクーにとっては。
今はただ、快楽殺人者による犯行こそをと願っていた。


───────────────


──────────


─────

65名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 05:03:33 ID:6rBbiW5k0

──【烏合の酒徒亭】──


( "ゞ)「親父、あのマーボウなんたら、頼むわ」

( `ハ´)「アイヤーッ!」

明朝、一同は集まっていた。
打ち合わせは済ませており、後は時が満ちるのを待つだけだった。


('_ヽ')「俺は神もお化けも信じねぇんだけどよ……」

川 ゚ -゚)「死霊の類を目にした事はないのか?」

('_ヽ')「あぁ、これで結構怖がりなんでね……薄暗くて人気の無い場所は大ッ嫌いさ」

('_ヽ')「しかし───人を狂わせちまう剣なんかがあるなんて、なぁ」

川 ゚ -゚)「実際に犯人を捕まえれば、分かるさ」

66名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 05:04:53 ID:6rBbiW5k0

( "ゞ)「………」

「あっづ」
店主のシナーが作ってくれた絶品の料理に舌鼓を打ちながら、スタンリーが感嘆を口にしていた。

先ほどから二人の話を聞きながら静かにグラスを傾け続けるデルタの心中は、クーと似たものだろう。
地元で斬り殺されていく人が居る一方で、同じ街に住む住人を惨殺する殺人鬼に仕立てられた人間が居る。

クーが口にした”捕まえる”という時は、そいつを殺す時なのだというのが、デルタにも解っているからこそ。

('_ヽ')「そういやクーよ、ヴィップって良い街だよな?」

川 ゚ -゚)「拠点としてはな……別に、私は観光などに興味はないが」

('_ヽ')「勿体ねぇ───決めた!俺は、この依頼が終わったらヴィップを根城にするぜ」

67名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 05:05:40 ID:6rBbiW5k0

( "ゞ)「お前さんがたの話題にもならねぇ街で、悪かったな」

何杯目かの酒を一気に飲み干したデルタが、
たん、と音を鳴らしてそれを卓に置くと、そこで悪態をついた。

('_ヽ')「はは、そうは言ってねぇさ。けど、そうだ……アンタもどうだい?」

( "ゞ)「……俺はボスからの命令でここから動けねぇのさ」

川 ゚ -゚)「ほう、お前より更に上役がいるのか?」

( "ゞ)「まぁ、兄弟みてぇなもんだ」


「それに───これで案外、住んでみると悪くねぇ街さ」


( "ゞ)

そう言って、少し遠い目をしたデルタの白く沈んだ瞳は、やはりいくらか悲しさを秘めていたようだった。

68名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 05:06:23 ID:6rBbiW5k0

川 ゚ -゚)「………」

「そうだな、料理はうめぇし───人も良い!」

スタンリーが取り繕うかのように、デルタへ言った。

一緒の方向を向いて、一つの問題へと向かっていく。

その為の”仲間”が居る人間の気持ち。
それが少しずつ、確実にクーの心を氷解させている。

ブーン達と帰還した時、失われた楽園亭のマスターに聞かれた質問。
次に同じことを聞かれたら、自分はどう返すだろうか。


そうして、一時の仲間たちと共に。

────やがて、対決の夜を迎えた─────


───────────────


──────────


─────

69名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 05:07:09 ID:6rBbiW5k0

深夜。

──リュメの街──


川 ゚ -゚)(気配を殺せ、音を立てるなよ)

一段と冷え込む夜だった。
吹きすさぶ風が、どこか不気味に聞こえる。

これから起こる事の予兆にも思える、静けさ。
来るとすれば、今日なのか。

星が映える夜空を見上げれば、丁度月を雲が覆う所だった。

('_ヽ')(来る………気がするぜ)

( "ゞ)(黙ってろ)

三人は、教会へ向かう広場が見渡せる商店の、外に置かれた精算台の下で息を潜めていた。

70名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 05:08:03 ID:6rBbiW5k0

これほど静かな夜ならば遠くからでも気配を察する事が出来るとは思うが、
時折スタンリーが台から頭を覗かせては、広場前の様子を見やる。

何回目になるか、スタンリーがまたその動作を行っていた時だ。
さっ、と横切る影が、静かに木扉を押し開けて教会の中へと入って行くのを。

('_ヽ')(来たッ!)

川 ゚ -゚)(よし……ではッ)


三人が立ち上がったと同時、どこかから静かな夜空に絶叫が木霊した。

(……きゃあああぁぁぁぁぁーッ………)

(;"ゞ)「………ッ」

(;'_ヽ')「何!?」

72名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 05:09:17 ID:6rBbiW5k0

そこからのクーの判断は、誰より早かった。
ある種、声のした方は本命ではないとの勘もあったからだ。

川 ゚ -゚)「……二手に分けよう。デルタ、様子を確認して来てくれ」

( "ゞ)「分かった……まずそうだったら、すぐに退いて知らせに来りゃいいな?」

(;'_ヽ')「よし、なら確認だ。俺とクーが、教会の中へ雪崩れ込む」

川 ゚ -゚)「その通りだ───気を付けろ、デルタ!」

( "ゞ)「おおよぉッ」

遮蔽物として使っていた精算台を颯爽と乗り越えると、声の聞こえた西方へとデルタは走って行った。

声の聞こえた方は、生きた人間の叫び声だった。
恐らくは死体を見つけるかして、驚愕に怯えている女性が居るだけだろう。

今は、その後に教会へと入って行った人物の方が重要だ。

73名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 05:10:17 ID:6rBbiW5k0

('_ヽ')「先に行くぜ────!」

川 - )(推察が当たっていれば………7人目の犠牲者か)

川 ゚ -゚)(やはり、やるしかないようだな………!)


クーとスタンリーもまた、走った。
纏わりついてくる夜の闇を切り裂くようにして、その先の闇に居る、”魔剣”の所有者の元へと。


スタンリーが教会の扉の前に辿り着くと、それを蹴りつけながらいち早く押し入った。

”バンッ”

(……うおぉッ!)

74名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 05:11:42 ID:6rBbiW5k0

どうやら接敵したか───勘は当たっていた。
魔剣の所持者と戦闘に突入したらしき、スタンリーに向けて叫ぶ。

川 ゚ -゚)「待ってろ!」

そして、少し遅れてクーもまた教会の中へと押し入った。
外界から遮断される程の暗闇が、視界の中へ一挙に流れ込んでくる。

そうして、そこで目にしたのはスタンリーの背。


川;゚ -゚)「………スタンリーッ!」

(;'_ヽ')「く、おぉッ……大丈夫だ───」

正面から”魔剣”と向かい合っているのだという事は分かる。
しかし、彼は肩口を刺し貫かれていた。

肉厚の全身鎧、フルプレートを着込んでいるというのにも関わらず。

75名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 05:12:57 ID:6rBbiW5k0

(;'_ヽ')「今の内に、こいつをッ!」

肩を貫かれる痛みに耐えながらも、ミトンを手にはめる強みか、スタンリーは
自分に向けられた”魔剣”の刃を掴み、次の一刀を封じているようであった。

この隙に、彼を助け出さなければ。

川;゚ -゚)「………なッ」


(;'_ヽ')「うぐッ!?」

しかし、踏み出したその時、異変は生じた。
貫かれた肩口から、一段と多くの血が吹き出す。

肩部を刺されたにしてはあまりにも異常な量の血は、次第に音を伴う程の飛沫を上げた。

76名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 05:15:05 ID:6rBbiW5k0

”ぶしゃぁっ”

(; _ヽ )「う、───がああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーッ!?」


川;゚ -゚)


───何故その時、足を止めてその光景を見送ってしまったのか、クーには自分でも解らない。

上げられた飛沫は、闇の中にあっても確かな輝きを放っていた。
美しいとさえ思える、その血の色は、あまりに目に艶やかな”紫苑”の花の色にも似て────

この世の物ではないその花の色に魅入られながら、
ある少女の言葉が、クーの脳裏を急速に過ぎった。


川;゚ -゚)「………そんなッ」

77名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 05:16:24 ID:6rBbiW5k0

”ずっ”


(; _ヽ )「あぐぅッ……はッ、ぁ……!」

左肩を貫いていた刃は、すぅ、と抜き取られた。
一瞬にしてもたらされた大量の失血に、間もなくスタンリーはその場に両の膝を着いた。


───(紫のお花がね、咲いたの………こう、ぱぁって!)────


クーもまた、目を奪われてしまっていたのだ。
人間の命が儚く散るような、人間の命で以って咲かせるような、その華の美しさに。

自らがやらねばならない事を思い出した時、全ては遅すぎた。

川#゚ -゚)「スタンリィッ!」

”やめてくれ”───声無きその叫びは、無慈悲な剣には届かない。

78名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 05:17:56 ID:6rBbiW5k0

「あはは……」

闇の中で、薄紫に発光する刃が不気味に輝く。

ふぉん、ふぉんと二度程左右へ振られると、それは膝を突く彼の頭上に、ぴたりと止められた。

(; _ヽ )「ク────」

スタンリーの元へ駆け出したクー。
最期にその彼女へと振り返り、名を呼ぼうとしたのだろうか。


────しかし、既に”魔剣”は振り落とされていた。


( _|
   |ヽ )


彼の脳天から股下へかけて赤い筋が奔ると、次いで、薄紫の色へと変わる。


”うじゅッ ぶしっ ぶしゃああああああああああああああああああっ”

80名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 08:43:55 ID:6rBbiW5k0

川; - )「あ……あぁッ……」


そうして彼の全身が左右へと分かたれ倒れ込む時には、一段と大きな飛沫が。
大輪の”紫苑”が教会の天井にまで届きそうな程の勢いを以って、咲き誇った。

しかし、今度はそれに目を奪われる事は無かった。
全身の力が一気に抜けていき、紫苑に彩られた目の前が、真っ白になっていく。

この道中────何日かを共に過ごした、束の間の”仲間”

そいつが、目の前で呆気なく殺されていった、事実の前に。


「………綺麗」


川 ; -;)「──────ッ」

81名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 08:45:00 ID:6rBbiW5k0

ワケもわからないまま、視界が涙に滲む。
喪失感か───あるいはこれから行わなければならない事への、絶望に対しての涙か。

地面に両手両膝を突いていたクーが、その声の方へ、ゆっくりと顔を上げる。


川 ; -;)「………」


|щ)゚-゚)「あはっ……またおねえちゃんだ」


そこに居たのは、昨日の昼間に会話を交わした少女。
瞳には、薄らと紫の光を宿している。

幼い子供が携えるにしては長大過ぎるその片刃の剣を、
紫苑の残影を闇に奔らせながら、無意味に薙ぎ振るっていた。

川 ; -;)(魔剣………)

82名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 08:45:42 ID:6rBbiW5k0

|щ)゚-゚)「ねぇ────どうしてここにいるの?」

少女は、変わらぬ声で。
そして変わらぬ表情で、また昨日と同じ質問を尋ねてくる。

しかし今度は───抱きしめてやる訳にはいかない。


川 - )「くッ」

涙を拭いながらその場から素早く身を起こし、叫んだ。

川#゚ -゚)「───貴様がッ………!貴様なのかッ!」

|щ)゚-゚)「なにが?」

怒りを、憎悪を。
憤りといえる感情の類の全てを────

幼い少女の精神を支配する───”魔剣”の存在に対してぶつけた。

83名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 08:46:43 ID:6rBbiW5k0

川#゚ -゚)「街の人を次々殺し───そして、私の”仲間”を殺してッ………」

|щ)゚-゚)「あはは……」

笑うな、その少女の声色で。
本来無垢な筈のその瞳が、とても邪悪なものに視えてしまうから。

川# - )「そうして……そんな幼子の手までを───」

嘲笑うな、人の死を。
尊いはずの命を、軽はずみに弄んでいいはずがない。

川#゚ -゚)「血で───汚すというのか!? ”魔剣シオン”ッ!!」

|щ)゚-゚)「………」

川#゚ -゚)「………ッ」

その名を呼んだ時、少女の雰囲気はがらりと変わった。

少女の背後、闇の中に薄らと揺らめく存在が、もやのように映る。
そして次に少女が発した声は、既に人のそれではなかった。

84名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 08:47:43 ID:6rBbiW5k0

|щ) - )【我ガ名ヲ、知ル者カ】

川#゚ -゚)「ッ!?」

どこまでも低く、地面を伝って腹にまで響くような男の声。

瞬時に総毛がよだつと、腰から小剣を抜き出した。
ほぼ同時に、”魔剣”もまた自身の切っ先をクーの鼻先へと突きつける。

|щ)゚-゚)【ナラバ、永キニ渡ル我ガ怨恨ヲモ知ル者カ?】

川#゚ -゚)「何を……言っている!?」

突如として場に張り詰める空気も、冷たくなった気がする。
恐らくは───今喋っているのが”魔剣”本人なのだ。

|щ) - )【言ッテモ意味ナド、解ルマイガ】

携えた魔剣が、薄紫の軌跡を暗闇で描きながら、ゆらりと構えられる。
少女自身の背丈程もあるその魔剣が放つ剣気は、並大抵のものではなかった。

85名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 08:48:30 ID:6rBbiW5k0

|щ) - )【……過チヲ省ミル事無ク、愚カサヲ認メル事無ク……】

川#゚ -゚)(───来る)

とん、とん、と身体を上下させ、拍子を整える。

力を貸してくれ、スタンリー。
半ば祈るように、心の中で彼へと言葉を投げかけた。

|щ) - )【ヤガテ貴様ラハ、死ニ絶ヱルベキナノダ】

少女の頭上に突き上げられるようにして、魔剣がそそり立つ。
やがてそこから、斬撃が打ち落とされる。

|щ)゚-゚)【死ネ───人間】

川; ゚ -゚)「……くッ!」

”ギィンッ”

86名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 08:49:20 ID:6rBbiW5k0

紫の軌道は、頭頂部を両断せしめんと放たれた。
子供の背丈からでは顔の正面へと襲い来るその一撃を、剣でいなしながら左へと抜け出た。

川;゚ -゚)(………速い)

|щ)゚-゚)「……えいっ!」

今度は少女自身の、無邪気な声。
自分の剣の迷いを見抜き、惑わそうとしているのか。

事実、クーは今でもまだ少女を斬る覚悟を持ち合わせられずに居た。

川; - )「───くそッ」

しかして振るわれる剣の速度は、合わせるのですら命懸けだ。
プレートアーマーを着込んでいたスタンリーの鎧を、易々と通してしまう程の強度もある。

受けるのならば、力の方向を流してやらなければ剣も折られかねない。

”ぶんッ”

87名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 08:50:26 ID:6rBbiW5k0

川;゚ -゚)「ッ」

後方へ飛び退いたところへ、横薙ぎが髪の数本を落とした。
一瞬斬られた、と思ったが────紫苑の飛沫が上がる事は無かった。

首筋に手をやって、生を実感する。

川;゚ -゚)(待てよ……)

”ひんッ”

下から突き上げるような鋭い突きの後、そのまま刃先を捻って斬りこんで来た。
辛うじて脇を開いて突きを避けると、剣を合わせて押し出される勢いのままに距離を取る。

川;゚ -゚)(あるぞ……単純だが、少女を救う方法はあるんじゃないのか?)

苛烈な”魔剣”による攻撃から必死に身を守り続けながらも、クーは必死に頭を回していた。
かすってしまうだけでも、あの”紫苑”の出血により戦闘不能に陥る。

その状況にあって、それを狙うのは極めて困難だった。
しかし、不可能では無いとも。

88名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 08:51:42 ID:6rBbiW5k0

|щ)゚-゚)【痛マシイカ、コノ娘ノ命ガ】

川;゚ -゚)「………」

そんなクーの心境を読み取ったかのようなタイミングで、”魔剣”がまたクーを挑発する。

|щ) - )【我ト対峙シテコレホド生キテオレル貴様ノ身ナラ、コノ娘ノ無事ト引キ換エテモイイガナ?】

人心を惑わす、魔の囁き。
しかし、そんな持ちかけに応ずる事など在り得ない。

どんなに悪党で、どんなに保守的な奴であっても、
人間という精神が”剣”ごときに呑まれる事を良しとする者など居ない。

それは少なくとも、クーがこれまで会って来た人物達の中には、恐らくただの一人さえ。

川;゚ -゚)「……人間を、甞めるなよ」

人の力を以って、人が作った”魔剣”を出し抜く。
実行するには命懸けだが、この間合いで放たれる斬撃からなら、ある程度的が絞れる。

89名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 08:52:44 ID:6rBbiW5k0

剣を少女の手より叩き落して───再び手に出来ないよう、少女の身柄を抑える。
しかる後に、”魔剣”自身の封印方法さえ見つかれば、全ては御の字だ。

次に来る一刀を、ただひたすらに待ち構えていた。

|щ)ー)【ソレガ答エカ。イインダナ……我ハコノ娘ノ命ナド、惜シクモナイノダゾ?】

魔剣の刀身部分を、首筋を這わせるようにして少女の身に横切らせた。
少し遅れて少女の首からは小さな”紫苑”が”ぷつっ”と舞ったが、安い挑発だ。

川  - )「……まるで、その少女を殺した後でも私に乗り移れるかのような口ぶりだな?」

|щ)ー)【事実、ソウダトシタラドウスル?】

川# ゚ -゚)「しかしそいつは、とんだハッタリだ───”魔剣”」

|щ) - )「………」

90名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 08:53:53 ID:6rBbiW5k0

川 ゚ -゚)「お前は何より、少女の身が大事な筈だ。人間をなんやかんやと言いながらも、
     ――――その実人間に縋らなければ何も出来ない、木偶の貴様にとってはな」

|щ)゚-゚)「……おねえちゃん………助け、て」

川;゚ー゚)「はッ、図星だろう。芸の無い──そうやって、お前自身では何も出来ないのが今露呈されたな」

|щ) - )【……クク、遊ビガ過ギタカ】

再び、魔剣が鋭い剣気を帯びた。

これまでで最速の一刀が来るであろうと、自らを追い詰める。
しかし必ずやその剣を、全力で払い落とすか、弾き飛ばすのだと鼓舞した。

川;゚ -゚)(一瞬に───)

|щ)゚-゚)

少女の変わらぬ表情に動揺を浮かべる事なく、必死に剣を合わせようと身構える。

91名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 08:55:01 ID:6rBbiW5k0

紫苑の残影は、蛇がのたうつようにして中空を何度か揺らめくと───
やがてクーの瞳は、斜めからの振り下ろしが来ると見定めた。

川#゚ -゚)(───打ち落とし、だッ!)

刹那、眼前には”死”が迫った。
限りなく近く、僅かな目鼻の先にまで。

そのシオンの刀身をギリギリまで引き付けると、腰を落とし、首を逸らし、顎を引きながら。
自身の身体に毛ほどもかすらせる事なく、それを潜り抜けて避けきった。

|щ)゚-゚)【………!】

最速で、下がっていた剣を肩の後ろまで振り上げる。
狙いが逸れて手指の数本ごとを断ち切っても構わないのだと、一刀にただ全力を篭めた。

川#゚ -゚)「終わりだ───魔剣シオンッ!!」

92名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 08:56:15 ID:6rBbiW5k0

少女が握る魔剣の手元、柄の付近を狙い定めて、三日月の剣閃を描いた。

気迫の一撃が、剣同士で眩い火花を一瞬だけちらつかせた。



”バキャンッ”


全力で振り切った。

打ち落としの一刀が、確かに魔剣を少女の手から叩き落した。




─────その、はずなのに。

93名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 08:57:36 ID:6rBbiW5k0

不気味な静けさの中で、薄らと瞳を開けたクーは知ってしまった。

川; - )「バカ………な」

瞬く間に、全身から力が抜けていくのが解った。

”自分は少女を救う事に失敗したのだ”と悟っての、絶望。
クーの足元に転がる小剣の刃先だけでは、もう戦う事は出来ない。

”魔剣シオン”の強度の前に、クーは自分自身の心と共に、武器をも砕かれたのだ。

|щ)ー)【クク。サテ……オ前ノ身ヲ、頂クトシヨウカ】

川 - )(───すま、ない)

その言葉は、誰に対してのものか。
死んだスタンリーか、殺されていった犠牲者達か。

どれも違う───うな垂れる自分を押し倒し、目の前で
誰か違う人間の声で笑う、この魔剣に魅入られてしまった少女に対しての言葉だ。

94名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 08:58:51 ID:6rBbiW5k0

クーの鼻先に自身の切っ先を突きつけながら、純粋なはずの表情には厭らしい笑みが浮かぶ。

川 - )「救えなくて……力……及ばなくて……」

震えるような声で、うわ言めいた言葉を口にした。
自分をシオンの刀身に触れさせた後は、恐らく少女を殺すのだろう。

|щ)゚-゚)【幕ダ】

シオンの刃先が、頬へとゆっくり近づけられる。

やがて、冷たいその感触が─────


”とんッ”








95名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 09:00:17 ID:6rBbiW5k0

川 - )「………」

目を瞑ってしばらくの時を経ても、シオンの刀身が撫で付けられる感触は訪れなかった。

代わりに、少女の軽い体重がだらりと自分へと覆いかぶさって来ている。

「遅くなってすまねぇ……無事か!?」

暗闇の中に聞こえる声に耳を澄ますと、それはデルタのものだった。
自分は死んでもいなければ、魔剣に身体を乗っ取られたりもしていない。

瞼を開けると、ようやく少女の額にナイフが突き立っている事に気付いた。
彼女の瞳の奥に宿っていた紫苑の色は、もうどこにも見られない。

|щ)゚-゚)

川 - )「………死ん、だのか」

代わりに、少女の手元から少し離れた場所に転がる”魔剣”

────こいつこそが、生きているのだ。

( "ゞ)「……あぁ」

96名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 09:01:27 ID:6rBbiW5k0

川 - )「私───は……」

少女一人を、救う事が出来なかった。
こんなざまで依頼をこなしたなどと、思える筈が無い。

一時を共に過ごした仲間も失って、助けるつもりだった罪の無い幼子までが死んで。
魔剣がこの街に振りまいた災厄は、9人もの犠牲者を出して、この後終息へと向かうのだろう。

せめて最後の一人は、自分であったら良かったとさえクーは思う。


( "ゞ)「―――本当に、遅く………なっちまったな」

無残に身体を二つに分かたれたスタンリーの亡骸に視線を落とすと、
彼の傍らに屈みこんで、デルタは両手を黙して合わせた。

旅の半ば、冒険者が命を落とす事は数あれども。
それでも、このように残酷な死に様を晒さなければならないのは、あまりに惨い。

97名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 09:02:26 ID:6rBbiW5k0

川 - )「不運を呼び込むんだ、私は」

不意に口を突いた言葉が、デルタの気に障ったらしい。

( "ゞ)「違ぇだろう、馬鹿が。アンタは───スタンリーの奴に誘われて、自分から飛び込んだ」

( "ゞ)「そこで、こいつは運悪く死んじまったのさ……話は、それで終いだ」

川 - )「違う……私が───誘われたのが、私でさえなければ───」

( "ゞ)「………」

デルタなりの励ましのつもりなのだろうが、今のクーには短気しか浮かばなかった。

一筋の光明が射しかけていた、彼女自身の心。
やがては氷解するはずだった、他者との交わりを拒む気持ち。

それらの感情が再び─────クーをより深く。
より冷たい氷河の奈落へと、容赦無く落とし込んだのだ。

98名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 09:03:11 ID:6rBbiW5k0

川 ; -;)「なぁ───神なんて………やはりいないんだな」

仲間というものが、大切な存在に思えてきてしまっていた。
それを大事に思うが故に、失う事への怖さ故に、クーはこの時思った。

( "ゞ)「………あぁ、この場所にゃあ───多分な」


川 - )(もう……私には仲間など、いらない)


ふらふらと立ち上がったクーは、行く先々での壁に持たれかかるようにして外を目指した。

( "ゞ)「あ……おいッ!」

99名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 09:04:51 ID:6rBbiW5k0

|щ)゚-゚)

デルタの呼びかけに一度だけ振り返り、その先で少女の亡骸が視界に入ると、
歯噛みしながら拳を打ち震わせてその場に俯き────そのまま、教会を飛び出して行った。

川 - )(───くッ)


遠くなっていくクーの背中に、デルタはもはや
追いかけるのも、声を掛けるのも諦めていた。

( "ゞ)「………これでも、少しは感謝してんだぜ」

あのまま、クーがリュメに戻って来る事は無いだろうと感じていた。
明日からは恐らく、腑抜けた兄貴分の手も借りたい程に忙しくなる。

この事件を巻き起こした魔剣に一瞥くれると、そいつはただ、薄紫の輝きを放っているだけだった。

100名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 09:05:58 ID:6rBbiW5k0

しかし魔剣が大人しくしているのは、今に限った話だろう。
新たな所有者を得れば、また同じ様な惨劇が繰り広げられるのだ。

封印するにしろ、破壊するにしても───”魔剣シオン”への処遇は慎重に行おう、と思った。

人を魅了し、人を殺す魔剣が存在するのはいつからだろうか。
そして、シオンと呼ばれるその理由さえも今は定かではない。

この先100年は魅入られる者が出ない様にと、デルタは心の中で祈る。


二人の亡骸が安置された教会を抜け出ると、クーの去ったと思しき方向へぽつりと漏らした。

( "ゞ)「また会った時の為に……お前さんへの報酬は預かっとくさ」


───────────────


──────────


─────

101名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 09:06:45 ID:6rBbiW5k0

リュメを抜けた先の森で、クーの脚はただ前へと向いていた。

それは別に、意味のある行為でも、行き先を定めている訳でもなかった。
脚を引きずるようにしながら、一歩一歩、まるで歩く死人のような形相で歩き続ける。

ただひたすらに距離を稼ぐのが、今のクーには少しだけ楽に感じた。

川 - )

明け方の森を歩いた。
真昼の陽が差し込む中を歩いた。
やがて日が沈んでも、ひたすらに歩いた。

空腹や疲労が、どれほど自分の身体を蝕んでも。

あるいは、自分などどうにかなってしまえばいいとさえ思っていたのか。

102名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 09:09:15 ID:6rBbiW5k0

脳裏に焼きついた少女の死に顔、自分が救えなかったあの娘の表情は、そう簡単に離れない。
知らず知らずの内に、恐らく彼女は───自らのたった一人の母親を殺していたのだろう。

自分では耐えられそうにもない少女の苦痛や悲哀は、計り知る事など出来ない。

スタンリーが殺され、救いが必要な少女もまた死んだ。
心の様々な場所から侵食しては傷を広げてくる、それらの痛み。
和らげる方法としては、自らを傷つける事くらいしか思い浮かばない。

他者に対して欠片も思いやる事の出来ない性格の人種が、素直に羨ましいと思った。

自分の傷の痛みには敏感で、本当は一人が怖いのに。
無くしてしまえば耐え切れないから───そんな、自分に取っては。

103名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 09:41:44 ID:6rBbiW5k0

ぽつり、と艶やかな髪の一筋に、雨粒が伝い落ちた。

川 - )「……丁度、いい」

瞬く間に、雨脚は強まっていく。

どうやら雷雨のようだったが─────そうだ、丁度良い。

雷の音が、大声を上げて泣き喚く自分の声を掻き消してくれる。
顔中を濡らす雨粒が、次から次から溢れ出る涙の雫を、覆い隠してくれる。


(……うっく、う、うわああぁぁぁんッ………)

クーは、大粒の雨が激しく降りしきる空を仰いだ。
その場に座り込み、ぬかるんだ地面に身体や衣服が汚れるのも構わず。

久しぶりに子供の頃に戻ったかのように、大声を上げて泣いた。
幸いにして、それは誰にも聞かれる事が無いのだ。


───やがてずぶ濡れた彼女は泣き止むと、また前へと歩き出した。

104名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 10:04:13 ID:6rBbiW5k0








<丶`∀´>「そうニダか……」

( "ゞ)「で、報酬の受け取り手が居なくなった訳でさぁ」


リュメを騒がしたのは、ただ一振りの魔剣”シオン”
惨たらしく殺された犠牲者は全部で9人にも昇るが、ただ一つ幸いな事は、
殺意を持って人を殺したのは、デルタを除いてただ一人も居ないという事だ。

全ては、魔剣の所業だった。

その剣を始末するのには───ヴィップやラウンジから
高名な司祭連中を呼び寄せても、足りるかどうかは解らない。

105名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 10:05:04 ID:6rBbiW5k0

しかし、事情を話したゴードンが自らの邸宅で預かり受ける、とのたまったのだ。
最新の注意を払い、決して手では触れないように気をつけて運ぶのは手間だった。
しかし、これで現状は奪おうとする輩でも現れない限り、安泰と言える。

何しろ、所持者は不在の状態なのだから。

<丶`∀´>「なら、ウリが預かっておくニダ」

( "ゞ)「はぁ!?」

<丶`∀´>「彼女、クーって言ったニダか……ちょっと好みだったニダ」

(;"ゞ)「いやいや、俺に預けとけよ───渡しとくからよ」

<丶`∀´>「盗賊なんざウリは信用出来ないニダよ。今度彼女が戻って来たら、ウリが直接渡すニダ」

( "ゞ)「俺だってアンタがこの上なく信用ならねぇさ」

106名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 10:08:15 ID:6rBbiW5k0

今は効果があるのかどうかが甚だ疑わしい、聖印の模造品のような魔除けと共に、
ゴードンの宝物倉庫の最奥に厳重な封印が施され、眠っている。

しかし、今でもその自我自体は、消えずに残っているのだ。

”かちかち”

遠くヒノモトで生み出された形状───”カタナ”
それを流用した片刃剣である魔剣シオン。

備わった鍔と刀身を収める鞘とが、微かにかち合う。
それは、嘲笑っているようでもあった。

自らを手に取ってくれる主の帰りを、ひたすらに待ち詫びて────

かちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかち
かちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかち
かちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかち
かちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかち


魔剣が宿した深い怨嗟が振りまく災厄は、まだ完全に終わった訳ではなかった。

107名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 10:09:29 ID:6rBbiW5k0





   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

             第9話

        「散るは徒花 名は紫苑」



.

108名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 10:11:04 ID:6rBbiW5k0

飲まず食わずの状態───そんな身体を引きずって、クーはリュメから更に二日の距離を歩いていた。

やがて、夕日が沈む頃だっただろうか。
歩いた事の無い道をただひたすらに進み続けて、次第に視界には見慣れない人里が飛び込む。

川 - )(………村、か)

冷え切った身体、ぼろぼろの身体。

魔剣を叩いた時に武器も失ってしまった。
野盗にでも襲われた所で、今の自分にはどうする事も出来ない。



「もしそうなってしまえば、それでもいいさ……」

109名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 10:12:58 ID:6rBbiW5k0

折れたクー自身の心の剣。
いつもの凛々しく毅然とした賢明さは、疲れ果てた彼女の表情からは伺えなかった。

しかしこの時ばかりは、身体が休息を選んでいた。

川 - )「宿は……借りれる、かな……」


───村の名は”ロア”といった。

かねてより、この村の人々は周辺の森の守神として”月の狼”を称えている。
その景色に吸い込まれるようにしながら、クーはその村へと近づいて行った。

当て所なく進み続ける道の先で、自分を苦痛から解き放ってくれる光明を、捜し求めるようにして。

110名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 10:14:51 ID:6rBbiW5k0




   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

             第9話

        「散るは徒花 名は紫苑」


             -了-


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