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( ^ω^)ヴィップワースのようです 幕間 「語り継ぐもの(2)」

123名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 18:07:54 ID:oSZQ7V1E0

400年以上昔の話だ。
何故か文献にも殆ど残っておらず、今では各地で言い伝えられるのみの、一部だけが知る史実。


かつて大陸の諸侯、そして人々を恐怖に貶めた齢1000年を数える龍が居た。

曰く、”全てを滅す龍”
曰く、”終末の運び手”

人々からそう恐れられた龍の名は”ツガティグエ”

ただ跨ぐように通り過ぎるだけでも、その街は惨禍に飲みこまれたという。
体躯は山程もあり、爪の一つで何人もの人間が一片になぎ倒されては、吹き飛ばされる。

当時ツガティグエは北西一帯の地域を根城として猛威を振るっており、近隣諸侯は恐怖する。
比類なき力を宿したその龍の前には、人の抵抗などあまりに無力だった。

124名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 18:08:40 ID:oSZQ7V1E0

事態を重く見ていた北方諸国を預かる各領主たちは、こぞって幾度も討伐の兵を差し向けた。

しかし、千の騎馬を率いても、万の兵を率いても。
その悪龍を倒す事は──────できなかった。

時の聖ラウンジ騎士団も、もはや壊滅の様相を呈していたらしい。
人々はただ祈り、明日訪れるかも知れない恐怖に我が身を震わせるばかり。

その悪龍討伐に手を拱いていた諸侯を更に畳み掛けたのは、ある小国による独断先行だ。
ツガティグエの脅威に喘いでいたその小国の王は、ある取引を従者を介して龍へと持ちかける。

”年に一人の生贄を差し出す代わり、我が国の安全は保障してほしい”

龍の力を恐れるあまり、かの国の王は自ら進んで生贄を差し出したのだ。
その王の要求を龍が呑んだという知らせを聞いた地元の民の多くには、安堵を覚えた者もるだろう。
しかしながら、次の生贄としていつ白羽の矢が立つか解らぬ一部の若者は、言い知れぬ恐怖だった。

125名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 18:09:26 ID:oSZQ7V1E0

年に一人、うら若き生娘や、若く力のある青年達を。
束の間の安息を、その彼らの将来へと続く希望と引き換えに。

そして小国は龍に守られるようにして、少しずつ周囲の諸侯への優位にのぼせ上がっていく。
自国の民を生贄と捧げる事への非難を浴びながらも、悪龍の力に誰しもが手を付けられないのをいいことに。

小国は次第に、生贄を周囲の国からも募って龍へと捧げ始めたのだ。

間もなく、悪龍ツガティグエを”神”と崇める思想が小国へと広まる。
やがて龍の力に酔いしれた小国は、聖ラウンジと対極を為す異教、”龍の国”へと変貌していった。

同じ人間に対しての、完全なる裏切り。
しかして調子付く”龍の国”は、未曾有の脅威ツガティグエに守られ、手出しは出来ない。
平穏の訪れぬ日々に人々は疲れ果て、希望をもたらしてくれる英雄を求めた。

そんな中、龍退治に名乗りを上げた男は、後に真に英雄と称えられる事になる。

126名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 18:10:35 ID:oSZQ7V1E0

( ̄ー ̄)ニッ


”ヒロユキ=トゥーランド”


龍の国打倒、それに鼻息を荒げて各国の権力者達が志願兵を募っている場で、彼は自らの力を見せ付けた。
軍馬を易々と持ち上げる程の怪力、人並み外れて恵まれた体格である彼は、すぐにでも
ツガティグエの討伐隊へ組み込まれる程の資質を持っていたのだ。

”すぐに彼を頭として、残り少ない兵力を集中させて万の騎兵で攻め込もう”

そんな声が上がり大陸諸侯の騎士や、領主達の視線が注がれる中、彼は一言でそれを否定した。


”あの龍が────仮に嘘を嘘と見抜けないのであれば、それほどの兵力は必要ありません”


必要な武器は聖ラウンジの清めが施された剣一本。

たったそれだけを用意させて、ヒロユキは一人でツガティグエと戦う事を選択した。
そんな彼の言葉には周囲の誰もが呆れ果て、落胆したという。

127名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 18:11:17 ID:oSZQ7V1E0

しかしながら、この時ヒロユキが口にした言葉は、真実となったのだ。









討伐へと赴く前夜、信心深いヒロユキは一晩中もの間を、聖ラウンジの神に捧げる祈りへ費やしたという。
そうしてやがて、悪龍討伐の日を迎える。

度胸があり、そして頭も回る男であったヒロユキは、生贄の一人に扮して機を待った。
その頃には、龍に捧げられる為の生贄の数も、4~5人の要求へと増えていたらしい。

暮れなずむ夕日の中、断頭台のような丘に捨て置かれた生贄達の前に、やがてツガティグエは現れる。
黒く大きな山と見まがう程の巨大さに息を飲み、最期までの時を数える捧げられた人々。

だがこの時ばかりは、そんな彼らにもまだ一縷の希望が残されていた。
稀代の豪傑”ヒロユキ=トゥーランド”という男と共に、この場に居合わせた事に。

128名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 18:12:11 ID:oSZQ7V1E0

”歯向かう心根すらも叩き折られ、最早死を待つだけの人間共”


いつもと同じように、いつもぐらいの数の人間を喰らう。
───人間自身が作り出した流れに身を任せる内、龍はそれに慣れてしまっていたのだ。

だからこそ驕り高ぶった龍は、その日も生贄達を抵抗する事も無い”食物”だと決め付けて、
油断のままに牛をも一口にするその巨大な顎を、あんぐりと開かせた。

しかしヒロユキは、その瞬間こそを狙い澄ましていた。

外套の中に隠されていた聖ラウンジの洗礼を受けた大剣は、ツガティグエの喉元を刺し貫いた。
咄嗟の事に動転した龍が反撃を試みようとした時には既に時遅く、完全なヒロユキの流れだった。

剣はツガティグエの首に、何度も何度も突き立てられていた。

129名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 18:13:47 ID:oSZQ7V1E0

一瞬の勝機だけに覚悟を決めて全力で畳み掛けたヒロユキの前に、力を出し切れる事なく。
そうしてついに悪龍ツガティグエは、地を揺るがす大音を響かせながら倒れたという。
明晰なヒロユキの策に落とし込まれた龍は、彼の狙い通りに。


”嘘を嘘と見抜く事”は──────出来なかったのだろう。



その後、死んだツガティグエの身は、石山のように固くその場に在り続けたという。

大陸中の人々にとって永き宿願であった、悪龍討伐。
それが果たされた事で、諸侯はヒロユキを救国の英雄として迎え入れるお祭り騒ぎを始めていた。

( ̄─ ̄)(……………)

しかし彼はただ、その生贄の地で染まった断頭台の丘で何日もの間を、自らが倒した龍の姿を眺めていたらしい。

130名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 18:15:05 ID:oSZQ7V1E0

─────

──────────


───────────────


そうして、ヒロユキを婿に、王にと祭り上げる各々の国での動きが始まっていた。

しかし恐らくであるが彼本人はそんな事さえ知らぬままに─────その後、忽然と姿を消したのだ。
生まれ故郷である南東の小さな農村にさえ、戻って来る事は一度としてなかった。

後に失踪した彼の胸中を疑問に思って首を傾げていた人々は、彼をこう揶揄する。


”宿敵を倒した彼は、理想を遂げた事でその後を生きる気力を失ってしまったのではないか”と。


真相を知る者はいない。
永劫の眠りにつこうとしていた龍の内に、あの時ヒロユキが微かな”胎動”を感じていた事など。

131名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 18:16:26 ID:oSZQ7V1E0

ヒロユキが姿を消して数十年の時が経ってから、当時の決戦の地はえらく様変わりしていた。

どこかから引かれた水路、それらがかつてツガティグエに喰らわれた人々の血が染み込む丘へと流れ、
石山のようであった龍の遺骸もどこへやら、いつの間にか桃源郷の如し湖へと変貌していた。


龍が北方のこの地に骸となって数十年───どこの誰がこの湖を形作ったのか。


それもやはり歴史の地下深くに埋もれてしまい、今では取り戻す事のかなわない真実だった。


───────────────


──────────



─────

132名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 18:18:54 ID:oSZQ7V1E0




   ( ^ω^)ヴィップワースのようです


             幕間

         「語り継ぐもの(2)」


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133名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 18:20:16 ID:oSZQ7V1E0

───ロマネスクがヴィップを発ってから、4日。


朝日が少しずつ勢いを増して照りつける中、広大な自然湖が見えて来た。
水面に照りつける陽光の煌きが、まるで昼間に見える星のようだ。

( ФωФ)「久方ぶりに訪れたのであるな……ここにも」


湖の畔にぽっかりと口を開けた洞穴を抜ければ、湖の内側に大きく広がる巨大な鍾乳洞、
”ヒガン鍾乳洞”へと辿り着く。

内部では同じような景観が延々続き、加えて迷路のような構造の為、深部にまで辿り着くのは困難。
聞いた噂では、湖の遥か地下深くにまで鍾乳洞が続いているという。

最奥に何があるのか、単純な冒険者としての好奇心をくすぐる話だが、気を引き締める。
セシルからの依頼は、ここからが本番だ。

134名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 18:20:58 ID:oSZQ7V1E0

単独で危険な調査に乗り出す以上、体調管理にも万全を期さなければならない。
そこらの木陰に脚を投げ出して腰掛けると、携えた乾し肉の2、3切れを口の中へと放り込む。

途端に乾きを訴えた喉に、水筒の中に残された残り全ての水で潤いを与えた。

そうして少し空を眺めながら、郷里の妻へと想いを馳せていると、
疲れていた体には、気力と共に力が漲ってくる。

息子は、もしかするともう生まれただろうか。
セシルへの報告を終えた後は、何をすっ飛ばしてでも帰ろうと思った。


( ФωФ)(───あの少年も、今頃は無事に依頼を終えた頃であろうか?)

135名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 18:21:46 ID:oSZQ7V1E0

ふと、失われた楽園亭で出会った、幼い冒険者の事を思い出していた。

着の身着のまま、自分で作ったであろう木剣を背負って。
マスターの口添えで、初めての依頼を受けられたはずだ。

だがそこから自立出来るかは、本人次第。
少年は瞳に、復讐の色を少なからず宿していた。

過去というものに囚われて───ただそれだけで、彼は自分の両足を支えていけるのだろうか。
しかし、初心を忘れる事なくあの実直さを貫き通せれば、大成出来そうな気もしていた。

( ФωФ)(……いかんな。我輩も歳であろうか)

昔ならばただ自分の事が精一杯で、若さだけで突っ走った。
あの少年のような悲哀の過去を持つ同業も、数多く見てきた。

136名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 18:22:32 ID:oSZQ7V1E0

あまり他人の人生に肩入れするのは、良くない。
自分が世話をした冒険者の死が風の噂に聞こえてくるのは、どうしようもなく切ないからだ。

あの時少年に手助けしてしまったのは、やはり自分が子を授かったせいだろうか。
そうした考えを巡らせていると、いつの間にか陽光は額を汗ばませる程に高く昇っていた。

休息も十分だ、そろそろ行くとしよう────


そう思ったロマネスクだったが、唐突に只ならぬ気配を感じてもたれていた木々に身を隠した。
言い知れぬ気配、耳に聞こえたその音が、はっと彼に気付かせたのだ。


”……ばさっ ばさっ”

137名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 18:23:58 ID:oSZQ7V1E0

( ФωФ)(………ッ!)


ロマネスクの瞳を奪ったのは、逆光に黒く翼をはためかせる、確かな”龍”の姿。
実物など数えるほども目にした事はない分、驚嘆に思わず息を飲む。


雄大な空に威風を称えて羽ばたく龍の姿は、ロマネスクは心臓の高鳴らせた。
滅多に見られる事の無い光景、彼を久方ぶりに童心へ引戻す興奮を与えるに、充分だった。

( ФωФ)(しかし、小さい───まだ幼竜といったところであろうか?)

ロマネスクがあんぐりと口を開けてその降り立つ先を見送ると、どうやら
龍は、湖の上に口を開けた鍾乳洞の内部へと入って行ったようだった。

あれは恐らく、ヒガン鍾乳洞の深部にまで繋がっている。
船で湖に漕ぎ出して同じく湖上から入り込もうにも、あの湖上の穴は底知れぬ深さが広がる。
翼の無い人間には到底不可能な侵入経路───正攻法しかない。

138名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 18:25:00 ID:oSZQ7V1E0

( ФωФ)「近隣からの目撃談は本当であったか……」

まだ若い───下手をすれば自分と同じくらいの歳の竜であるかもわからない。

しかし、いくら幼いと言えども龍とはその存在自体が脅威であり、学連の魔術師達が幾ら
研究を突き詰めて龍族の事を計り知ろうとしても、未だに100年前の知識と大差ない進歩らしい。

現に彼らが力尽きる時、一体どのような場所で死んでいるのかすらもが、今でも明かされてはいない。

複数の龍が一箇所に寄り集まる事はないだろうとタカをくくっていた
ロマネスクだったが、少しこの場で認識を改めた。

( ФωФ)(出くわすのだけは避けなければならぬが───もしあれが”子”だとすれば……)

そう、親龍だ。

もしかすると、それが鍾乳洞内部にいる可能性も浮かんできた。
幼竜一頭だけが巣食っていると考えるには、いささか楽観的過ぎる。

139名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 18:26:08 ID:oSZQ7V1E0

もしロマネスクの予感が的中していれば、この北方領を中心として周辺諸侯は大騒ぎに騒ぐだろう。

問題は、竜がこの鍾乳洞を根城としているのは一時の事なのか、だ。
この場所を竜たちの安寧の地とされれば、ヴィップから北へ向く人々の足も遠のく。
縄張りを侵される事をよしとしない竜が、ヒガンの湖を横切る最中に旅人を襲う事だってあり得るのだ。


調査結果の報告次第では、子竜は親龍もろとも円卓騎士団によって駆逐されるだろう。

子を持つ親としては複雑な心境を表情に薄らと滲ませながら、ロマネスクは大きなその身体を
竜があぎとを開かせて待ち受けるような、その洞穴へと潜り込ませて行った。








鍾乳洞へと立ち入って、およそ一刻が経過した。

140名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 18:26:58 ID:oSZQ7V1E0

感覚で言えば、恐らくまだ湖の真下にまでは来ていないだろう。
足場が悪い土地柄、えらく曲がりくねって枝分かれの道も多い為、それほどに距離を稼げない。

そろそろ、地上から差し込んで来ていた日の光もか細くなってきた。

頃合を見計らって、ロマネスクは麻の荷物袋から乾燥させたイグサを動物油に浸した携帯松明を取り出す。
火打ち石でそれに火を灯すと、再び十分な視界が確保出来た。

周囲の静けさは変わらずに、奥へ進むにつれて自然造型物の自己主張が大きくなってきた。

ひやりと感じる霧のような湿気が肌には心地よくも、地面や天井にいくつも突き出る
白く濡れた鍾乳石が、松明の炎を橙色照り返すのと相まって、少し不気味でもある。


やがて、目の前にはまた左右へと枝分かれした道が現れた。

軽く松明を突き出して奥の様子を探りながら思案していると、音が聞こえる。

142名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 18:28:46 ID:oSZQ7V1E0

”ごぉぉぉ……”

( ФωФ)(………風、ではないのである)

遠くから反響するように聞こえたのは、良く人の声に聞き違えるような
洞窟内を抜けていく風の流れによるものではない。

耳を澄まして見れば、それは右側の穴から聞こえているようだった。

( ФωФ)(こんな何も無い洞窟を根城としている妖魔もいるのであるか……迷惑な話よ)

ふぅ、と溜息を吐き出しながら松明の灯火をそこらの壁へと叩きつけて、気取られぬように灯りを消した。

このような狭い場所で突然竜が現れる訳もなし、道の先に居るのは下級妖魔だとの察しはついていたが、
一応は気配を殺しながら、いつでも先手を打てるように薄ぼんやりとした暗闇に乗じる。

壁伝い、少し身を低くしながら進んでいくと、やがて少し広さのある空間へ続いているようであった。

143名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 18:30:06 ID:oSZQ7V1E0

(#℃_°#)キキッ

(# ゚_⊃)キッ


薄暗闇で会話のようなものを交わしているのは、緑色の体表に覆われた下級妖魔。

( ФωФ)(ゴブリンか……)

何が楽しくてこんな場所に住んでいるのだ、と文句を言ってやりたい所だが、
竜に出くわしてしまうよりかはよっぽど可愛らしいものだ。

何匹居るかはわからないが、過度に注意深く行動して無駄な時間は過ごしていられない。

( ФωФ)(どれ、これなどいいであるな)

手近に転がる小さな小石を指に摘むと、それをぴっ、と広間の奥へと弾き飛ばした。

(#℃_°#)キキ……ギィッ?

144名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 18:31:27 ID:oSZQ7V1E0

二匹ともがそちらの方向へ気を取られ、振り返った瞬間にロマネスクが駆け出す。

”ザリッ”


(# ゚_⊃)ギ……!?


( ФωФ)「寝ておれ」


遅れてロマネスクの気配に気付いた一匹が、振り向く。

しかし小突くように手首を返して放たれた拳の先端が、ゴブリンの鼻先を捉えて打ち抜く。
すぱん、と小気味の良い音がすると、その場に崩れるように一匹が失神した。

145名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 18:32:56 ID:oSZQ7V1E0

(#℃_°;#)ギギィッ!?

すると驚いた連れのゴブリンが逃げおおせようとした所へ、足を引っ掛けて転ばせた。
うつ伏せに倒れこんだ瞬間に、振り上げた踵に加減を加えて後頭部へと叩き落とした。

”ごつッ”

(#C_ ;#)ギャッ……ブッ……

硬い岩肌に顔面全体をしたたかに打ち付けて、残る一匹の意識も断絶した。

( ФωФ)「───………っと」

ロマネスクの身長からでは、たとえ妖魔であろうと武器を持った子供と大差ない相手だ。

だが、更に一匹の双眸が先に続く道の奥の暗闇から、ロマネスクの姿を捉えていた。
鼻息を荒げ、手に持つ武器はどうやら拾ったものらしき錆びた一振りの剣だ。

(#'℃_°';#)ゴフゥ……ゴフゥゥゥッ!!

146名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 18:35:27 ID:oSZQ7V1E0

( ФωФ)「リーダー格が残っていたのであるか……」

体格は人間並み。それもロマネスクの頭一つ分下という事は、なかなかに恵まれた体躯を誇っている。
それでも、背の剣を抜刀する程の相手ではない。

半身に片手だけを軽く突き出して、軽く構えを取る。

(#'℃_°';#)グオォォォォォッ!!

( ФωФ)「……ま、おぬしらも住処に立ち入られて気が立ってるのであろうが」

知性はまるで感じられないが、獣のように唸り声を上げながら首筋辺り目掛け斬り付けて来る。
野盗の類が振るう剣となんら遜色ない膂力は持ち合わせていそうだ。

そこらの駆け出し冒険者の中には、不覚を取る者もいるだろう。
だが生憎と、踏んでいる場数と力量の差が違いすぎた。

(#'℃_°';#)フゥッ!?

( ФωФ)「我輩も、急いでいるのでな」

147名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 18:36:22 ID:oSZQ7V1E0

剣が振るわれるのに合わせて、流れるような動作で脇から背へと潜りぬける。
一瞬ゴブリンがロマネスクの姿を見失ってしまった時には、既に勝負が決していた。

( ФωФ)「───てぇいッ!」

”どッ”

背後から振り返りざまに叩き落された手刀が、深々とゴブリンの首の根元にまでめり込んでいた。

(#'C_ ';#)ギッ……ゴフッ……

どさり、と膝から崩れ落ちて倒れこんだゴブリン。

ぱんぱんと手を払うと、ロマネスクはその背を最後まで見届ける事なく、
踵を返して松明に明かりを灯して、また先へと続く暗闇を照らして歩き出した。







148名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 18:37:31 ID:oSZQ7V1E0

( ФωФ)「………さて」

今の所は何ら問題ない。

しかし深部に進めば嫌でも深刻なそれに行き当たる予感がしていた。
下級妖魔と違って龍は警戒心が強く、その感覚自体も人間などよりよほど鋭敏だ。

どれほど上手く気配を殺しても、こちらが龍の姿を認める頃には向こうも存在に気付くかも知れない。
先の幼竜が仮に愚鈍であってくれたところで、もし傍らに親龍がいれば危険度は大幅に跳ね上がるだろう。

龍に対して敵意を持つつもりは決してなかった。

だが、人と龍とは相容れない存在だという事実は歴史が物語っている。

以前ヒガン湖近隣へ訪れた時に住民から伝え聞いた事を、ふと思い出していた。
この地に伝わる”悪龍”の伝承───確か、400年以上も前にこの地に眠ったのだったか。

149名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 18:38:34 ID:oSZQ7V1E0

しかし、何せ昔の話だ。

ロマネスクの豪腕を用いても牛や馬を持ち上げる事は出来ないが、実際に龍を討伐した事実から、
英雄の伝承には尾ひれがついて、それが次第に大きくなっては誇張されて伝わったのだろう。

龍の脅威にさらされていた人々は、悪龍亡き後、口々にヒロユキを英雄と称えた。
だのに、それでも彼が人里へと戻らず姿を消した理由は────何だったのか。


( ФωФ)「………英雄も、存外龍の事が嫌いではなかったのであるやも知れぬな」


ロマネスク自身も同じ立場なら少しは彼の心境を汲み取れると思えていた。

150名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 18:39:34 ID:oSZQ7V1E0

雄大な空のどこかを大きな翼で駆け巡り、数百年にも渡って永らえながら、また新たな生命を育んでいく。
自然をこよなく愛するのは、より繁栄をと、発展をと求める人よりも───龍の方であろう。

ここへ入る前に見かけた龍の姿は、人間というちっぽけな存在であるロマネスクの瞳には、
やはりどこか憧れにも似た感情を抱かざるを得なかった。

ヒロユキが人々の元から去ったのは、もしかすると自分の胸中にも似た、そんな理由なのだろうか。


( ФωФ)(我輩も、昔からその気持ちは変わってないのではあるが)


そんなかつてのこの地の出来事に想いを馳せながら、壁伝いを更に奥へと進む。
心なしか、先ほどより松明の明かりがか細くなっているように思った。

151名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 20:22:50 ID:oSZQ7V1E0

そろそろ湖の真下を通り過ぎている頃なのだろう。
深部へ向けて進むに連れて周囲の鍾乳石もより大きく、そして水気を多く含んでいる。
ひんやりとした内部全体の空気は、やがて視覚にも訴える程に薄らと霧のようにもなってきた。

そしてその霧が松明の明かりを弱めてしまっていたばかりに、ロマネスクはこの時ミスを犯した。

(;ФωФ)(………しまッ)


”ふっ”

まるでそんな音を立てて、地面を踏み締めて足裏へ伝わるはずの感触が消えたようだった。

凹凸の多い地形に隠されていたのは、地面に口を開いた大穴。
自然の脅威が、この時は天然の落とし穴として働いていた。

152名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 20:25:16 ID:oSZQ7V1E0

残る片足も、湿気に濡れた地面に滑らされて踏みとどまる事が出来ない。
両足は既に穴の中、全身から重力が失われ、ぶらりと宙を彷徨った。

(;ФωФ)「───ぬぅッ!」

しかし、松明を手にしていない残った片手を勢い良く振り上げて、辛うじて穴の端へ手を伸ばす。

少し丸みを帯びているその取っ掛かりをがっしりと掴み留めて、深い闇に
飲み込まれそうになっていた身体に、その片腕が再び重力を取り戻させた。

だが、片腕だけでぶら下っている状態では長くは持たない。
ちらりと下を見やってから、片手に持つ松明を握る力を緩める。

深く続く縦穴の先を明るく照らしながら、灯火は音も無く、見えない程の深部にまで落下していったようだ。

153名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 20:26:39 ID:oSZQ7V1E0

(;ФωФ)(まずい、であるぞ……)

松明を離して自由になった片手を繰り出そう、と思った矢先、冷や汗ものの感触が手先に伝わる。
ずり、ずりと地面から離れようとする、命綱の取っ掛かりである丸石。

だが、あとほんの少しだけでも手が伸ばせられれば、この穴から脱出できるのだ。
そぉっと上に向けて開いた掌を昇らせていくロマネスクの顔には、上からぱらりと小粒の鍾乳石が降り注いだ。

もう限界、そう考えて意を決し────ばっ、と素早く片腕に力を篭める。

”ばこっ”

しかし、伸ばした腕は宙を当て所なく彷徨い、空を切った。


(;ФωФ)「!………おッ───おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……………」

154名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 20:27:27 ID:oSZQ7V1E0

支えていた腕の骨が軋むような感触もいずこかへ消え去った。
重力から解放されたロマネスクを、次には浮遊感が全身を包み込む。

どこまでも暗く長細い縦穴を、落下していく。
羨むように上を見上げて、何も掴めぬ片腕を虚しく伸ばしながら。


”一体どこまで落ちるのだ”

実際にはそんな事を考える余裕もなかったが、とても長く落ちている感覚だった。
走馬燈が過ぎる間際だからだろうか、下まで転落するのはきっと一瞬のはずなのに、
深い暗闇に閉ざされていく自分の身に起きている出来事が、とても緩やかに感じられる。

しかしこれほど落ちれば、もはや助かりようの無い高さだというのも解っている。

155名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 20:28:19 ID:oSZQ7V1E0

(;十ω十)「………ッ」

覚悟を決めて、瞳を痛いほどに強く閉じこんだ。

上下の歯をがっちりと噛み合わせて、そして心の中で謝る。
郷里で帰りを待っているはずの妻と、まだ顔も知らぬ我が子に。

長らく冒険者を続けてきた自分は、こんなにも呆気ない幕切れを遂げるのだ、と。


───しかし、ロマネスクの想像とは裏腹に。


”ざ ばぁんッ”

156名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 20:29:51 ID:oSZQ7V1E0

穴の底にまで辿り着いた彼の身に襲うのは五体がばらばらになるほどの衝撃ではなく、
全身を打つ一瞬の激痛の後にまたも訪れた、浮遊感だった。

(;ФωФ)(………なんと)

縦穴の底部に待ち受けていたのは、白い鍾乳石に囲まれて広がる、蒼く澄んだ地底湖。
その湖部分へ着水した事によって、凄まじい落下速度の余波が深くまで彼を引きずり込みはしたが、
奇跡的にロマネスクの命を繋ぎとめたのだ。

しかし、この地底湖もまた底知れぬ青の闇。
潜ってしまえば息が切れてもまだいずこかへと深く続くだろう。

やがて落下の勢いが水中で殺し切られ、次第に浮力を感じ始めた。
妙な水流の流れに引きずり込まれないように必死で掌で水を掻き分け、上へ上へと、水面を目指す。

(;ФωФ)「ごぼッ……ぷっ、ぷはぁッ!」

157名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 20:30:53 ID:oSZQ7V1E0

必死で呼吸を取り戻したロマネスクのその声や音は、すぐにぼんやりと耳に帰って来た。

周囲を見渡してみれば、横穴の一つも見えない。
ただ白くすり鉢状に広がる、なだらかな鍾乳石の壁があるだけだ。

ここまで落下してきた穴を見上げれば、その入り口まですら恐ろしい高さがある。

(;ФωФ)「………ッくそぉッ!」

自身の落とし込まれた状況を把握して、ロマネスクは水面を拳で殴りつけた。

必死に全ての方向に首を回して視線を向けようが、脱出口などどこにも見当たらないのだ。
水面の上にあるのは、ただ人一人が腰掛けるのがやっとの、平べったい地盤。

一先ずはそこまで泳ぎ着くと、水分を含んで重くなった身体をその上で大の字に投げ出す。

158名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 20:32:08 ID:oSZQ7V1E0

(;ФωФ)「……死ぬのは、変わらぬか」

──(死ぬのは、変わらぬか)──


広く深い地底湖の中を反響して聞こえて来るその自分の呟きに、苦々しく歯を食いしばる。

白く艶めく壁面に映り込む水面の、幻想的なまでの蒼がただただ美しかった。
それらがもたらすのは、ゆるやかに包み込むような、死。

セシルからの依頼を達成出来ずに悔やむ気持ちはあったが、それ以上に悔しい想いがあった。

( ФωФ)(………)

159名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 20:35:02 ID:oSZQ7V1E0

暗い気持ちに呑まれつつあったロマネスクが、ふと残して来た妻の顔を思い浮かべた。
反射的にばっ、と身を起こすと───もう一度自分を奮い立たせようと、努める。

( ФωФ)「……死ねんのだ」

自分の言葉が木霊してまた耳へと帰ってくると、今度は少しだけ自分を勇気付けてくれた。


しかして、すり鉢状のこの地底湖の作りでは脱出は困難を極める。
遥か上で嘲笑うようにぽっかりと口を開けている縦穴に辿り着く事も出来ない。
加えて、垂直に伸びるその円筒を昇りきる切る事など不可能なのだから。

ならば、脱出口はこの深い蒼の中にしか在り得ないとすぐに行き着いた。

もしかするとそこから地上へと帰れる道は無いのかもしれないと、希望を自ら捨てる事はしなかった。

160名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 20:36:42 ID:oSZQ7V1E0

( ФωФ)(5分………溺死を覚悟して限界まで息を止めても、泳げるのはその程度である)

水気に重くなった麻袋をその場にどちゃ、と置いた。

片道切符だ。
だが、どうあっても故郷へと帰らなければならない。

すぅ、と吸い込めるだけの息を吸い込み、そこで呼吸を止める。
そうしてロマネスクが地底湖へと飛び込もうとした時、背後の水面が波打つ音が響き渡った。


”ばしゃっ”


( ФωФ)「………?」

162名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 20:45:26 ID:oSZQ7V1E0

自分以外に誰かが居るはずなど無い場所。

神秘的な景観にはこの世の物とは思えない程の美しさこそあれど、
たとえ妖魔ですら進んで来ようとなんて思わないだろう。

しかしこの奈落の底にあって、ロマネスクは今、何らかの気配が確かに背中越しに感じていた。


「───あなた………だれ?」


唐突に、動きを止めていたロマネスクの背には声が掛けられる。
人の。それも女性の声のようだった。

この蒼の湖のように澄んだ透明感のあるその声が、涼やかに木霊して耳にまで届いた。

( ФωФ)「………ッ!」

驚きよりも、警戒心よりも先に抱いたのは、好奇心。
”なぜ、こんな場所に女性が?”

冒険者としての本能に後押しされるようにして、ロマネスクは声の主にゆっくりと振り向いた────

163名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 20:46:55 ID:oSZQ7V1E0




   ( ^ω^)ヴィップワースのようです


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         「語り継ぐもの(2)」


             -続-


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