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( ^ω^)ヴィップワースのようです 幕間 「壁を越えて(4)」

171名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 05:01:27 ID:hGrdgYdc0

( ,,゚Д゚)「綺麗な湖だな……」

ジョルジュと共にヴィップを経って、5日が経った。

道中の用意を甘く見ていたギコは、携帯する食料すらも
十分な量とは言えず、結局途中の村での補給を余儀なくされた。

これまで何事の危険にも巻き込まれずに来れているのは、土地勘があり、
何より身に危険が及ばないよう自衛する知識に長けたジョルジュのお陰だ。

ギコはその彼に、全幅の信頼を寄せながら旅をする事が出来ていた。
ある意味ではおんぶに抱っこ───彼自身の甘さというものは、否めないが。
  _
( ゚∀゚)「やっとこさ、ヒガンの湖か……」

( ,,゚Д^)「いっちょ水浴びでもしていかねぇか、ジョルジュ」

そう言って、ギコは少しばかり身体をうずうずさせていた。
自分よりも一回りほど年上のジョルジュに対しても、敬称を使う事はない。

取り立ててそんな事は気にしないジョルジュだが、少し苛立っているのは別の理由だった。

172名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 05:02:09 ID:hGrdgYdc0
  _
( ゚∀゚)「………誰のお陰で予定が遅れてるのか言ってみろ」

地図を持たせて道順を示させようとすれば、間違えようのない所で間違える。
立ち寄った村で買い付けておくように言った品を頼めば、好みを優先してまるで見当違いの物を買ってくる。

そんなこんなで、本来予定通りに行けば今日の朝には辿り着けていたはずの目的地は、まだ遠い。

”城壁都市バルグミュラー”
そこで落ち合うはずの男を、待たせてしまっているのだ。

( ,;-Д-)「あぁ、へいへい……俺のせいですよっと……」
  _
( ゚∀゚)「水浴びしてぇなら言え。湖ん中叩き込んでやるからよ」

( ,;゚Д゚)「いや、そいつは勘弁してくれ」
  _
( -∀-)「……チッ、至極残念だぜ。龍どもの餌にしてやったのによ」

( ,,゚Д゚)「龍が居たのか?……こんな湖の、中に?」

173名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 05:02:59 ID:hGrdgYdc0
  _
( ゚∀゚)「……よく見ろ」

ジョルジュが指差す方向。
広大な湖の中ほどには、深さのありそうな洞穴が湖上にぽっかりと口を開けていた。
  _
( ゚∀゚)「もう入り口は過ぎちまったが、そこが中の鍾乳洞と繋がってるらしい。
     この場所で死んだドでけぇ龍の死体に水が流れ込んで、それを形作ってるって話もある」

( ,,゚Д゚)「へぇ…!今でも龍が居るなら見てみたいもんだぜ」
  _
( ゚∀゚)「………随分と昔の話よ、400年も前のな」

( ,,゚Д゚)「ふんふん」

話を聞いてしまえば、まるで湖面の穴は龍が開けた口のようだった。

注がれた陽光を湖面にて美しく煌かせる湖。
その景観に見惚れながら歩く行楽気分のギコには、時折ジョルジュが注意を促す。

その都度へへ、と減らず口を端から漏らす彼を睨む瞳の奥には、鋭い光が宿っていた。
  _
( ゚∀゚)(………)

174名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 05:03:47 ID:hGrdgYdc0

やがて湖を横手に通り過ぎ、大きな崖の割れ目へと差し掛かる。
目の前には、ヴィップ領とを隔てる長く古めかしいつり橋が見えて来た。

( ,;゚Д゚)「うへぇ……渡るのか、これ……?」

所々が老朽化しており、目にも不安定さが見てとれる程だ。
橋の前に一旦立ち止まって躊躇するギコにはお構いなしで、ジョルジュはずかずかと先へと進む。
  _
( ゚∀゚)「行くぞ」

その背中を、ギコも慌てて追いかけた。

この橋を渡れば、険しい断崖や荒野ばかりが広がる土地───ブルムシュタイン領。
そしてその先に二人が目指す街、城壁都市バルグミュラーがある。

ここ数十年で城壁都市周辺も随分と開拓されはしたが、それでもまだ十分ではない。

175名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 05:04:37 ID:hGrdgYdc0

周辺の騎士団ですらうかつには手を出せぬほどの妖魔の群が、まだ北の地にはひしめく。
それら危険と常に隣り合わせの街が、人と妖魔との境を守るようにして石造りの城壁を築く、バルグミュラーだ。

男達の生業は主に妖魔退治、人鬼が住まう洞窟への調査など。
粗野で暴力的な荒くれ者ばかりが集う街の依頼には、命を切り売りする内容ばかりが並べられる。

”ぎしっ、ぎしっ”

( ,;゚Д゚)「こ、怖えぇぇ……」


これから行く所は、とても命が軽い場所。
そこでは、今二人が渡っているこの危うい吊橋のように、自分の命さえもが。

そこで果たす務めの先に待ち受ける事柄への、覚悟。
それらが果たしてギコには十分かと問われれば。

ジョルジュの目からは、それはまるで足りて無いように見えた───

  _
( -∀-)(………)

176名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 05:06:05 ID:hGrdgYdc0



   ( ^ω^)ヴィップワースのようです


             幕間

         「壁を越えて(4)」



.

177名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 05:06:50 ID:hGrdgYdc0

──城壁都市バルグミュラー 【宵の明星亭】──


錆びた鉄扉を開けると、すぐに下品な笑い声や物騒な言葉が耳へと飛び込んでくる。

見れば、卓を挟んで殴りつけられた男が鼻血を噴き出しながら背中から床へ落ちていた。
だが、周りの卓の人間はそんな事を気に留める事もなく、ただ酒を飲みながら談笑を交わす。
女もなく、酒しか娯楽の無いこの場所ではそんな光景は常なのだ。

だが彼がそこへ足を踏み入れれば、途端に酒場の空気が凍りつくかのように一斉に視線が集まった。


(不吉だぜ)

178名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 05:07:42 ID:hGrdgYdc0

その彼の事をひそひそ卓の仲間と囁きあう者もいれば、何事も無くまたグラスのエールを煽る者も居る。
仲間であっても必要以上に干渉しあう者達は少ないが、緻密な連携無くして妖魔退治はままならない。

それでも命を落とす者は後を絶たないこの街に身を置きながらも、彼は孤独な一匹狼だった。

/ ゚、。 /「今、帰った」

隆々の胸板を覆うシャツに付着した血は、殆どが妖魔の返り血。
依頼を終えて報告に訪れる彼は、決まってこの宿のカウンター席の端に座り、強めの酒を何杯か飲む。

まだこの街に訪れてから日の浅い者の中には、顔を鉄仮面で覆い隠したその大男の姿を認めると、
驚いたような視線を向けて、こそこそと後ろを通り過ぎて行く者もいる。

こうして何度も彼の帰りを出迎えている宵の明星亭のマスターにとっては、もはや見慣れた光景だが。

179名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 05:09:03 ID:hGrdgYdc0

本日渡された報酬は600sp。
危険な妖魔退治には少し見合わぬ額だが、宿代と酒代に消費するだけの彼に取っては十分な額。

「ご苦労だったな、ダイオード」

カウンターの端にどっかりと腰を下ろした彼に、マスターが酒を差し出しながら労いの言葉を掛ける。

/ ゚、。 /「そうでも、ないさ」

ここでは、金払いさえ良ければどんな過去を持つ人物であろうともわけ隔てなく酒を飲ませる。
たとえ、周囲からは”鉄面の死神”と字され忌避される彼、ダイオード=バランサックであってもだ。

それを受け取ると、口元以外を覆う鉄仮面を外さないまま、彼はグラスの端に口を付けた。
身体のそこかしこに負った裂傷による火照りを、強めの蒸留酒で冷ましていく。

180名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 05:10:51 ID:hGrdgYdc0

普段から酒を嗜む男でも、ヒノモト産のこの”アワモリ”を一気に飲み干せば赤ら顔になるというものだが、
巨躯に加えて、そこらの武芸者が裸足で駆け出す程の筋量を誇る彼には、なんら影響を及ぼすものでない。

瞬く間にグラスの中身が底をつくと、彼はマスターに尋ねた。

/ ゚、。 /「……今日、着くと言っていた冒険者はどうした?」

「あぁ、そういえば遅ぇな。来る途中で死んでなきゃいいがよ」

マスターが半笑いに口にしたその言葉は、案外ただの冗談でもなかった。
殺人や物取りといった罪を犯して、余所では住処を追われた者達もこの街には少なくない。

挙句、揉め事を起こしてこのバルグミュラーにすらも居られなくなれば、
最後には近隣の野山にて訪れる冒険者達をつけ狙う、野盗の類へと身を堕とす。

近年では野に下るそんな荒くれ者どもも増え、余所から流れてくる冒険者達の障害と問題視されていた。

181名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 05:11:39 ID:hGrdgYdc0

/ ゚、。 /「……それでは、困る」

未だ自身の待ち人が顔を見せない事に、心なしかダイオードの瞳には落胆の色が浮かんだ。

「えらく風格のある奴だったがね。まぁ、大丈夫だろうさ」

/ ゚、。 /「………そうか」

マスターの言葉に一抹の安堵を得てか、伏目がちに頷くと、また注がれた酒を煽り始めた。

彼にとっては重要な事なのだ。
その男が、果たして自分の目に適う器の持ち主かどうか。

病でこの世を去った愛息子───そして自ら命を絶った最愛の女性。
その二人が旅立った場所へ自らも行く事こそが、彼の最大の願いなのだから。

182名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 05:13:10 ID:hGrdgYdc0

しかし、彼女たちは自ら命を捨てようとする事を許してはくれなかった。

そんな死に方では二人の御許に辿り着けないから、だからこそ、自らを死地へと立たせる。
純朴な木こりだったかつての彼が振るう斧は、いつからか妖魔の首を刈り取る為の、血塗られたものになっていた。

周囲の人間が次々と命を落としていく中を、常に第一線で戦いへと明け暮れた。

それが幸いしてか───いや、皮肉にして。
限りなく求めるはずの”死”を克服し続けるだけの力。

いつの間にかそれは、彼の中に備わってしまっていた。

そのダイオードが求めるもの。

それは、ただ無慈悲で、どんなに理不尽であろうとも。
抗おうにも抗いようの無い、絶対の死を齎してくれる存在。

183名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 05:13:50 ID:hGrdgYdc0

/ ゚、。 /(───早く、来い)

ヴィップから訪れる冒険者は、果たしてその為の舞台を整えてくれるだろうか───


歩く死人だと自覚している彼だったが、酒の熱に引き上げられてか、次第に胸は高鳴っていた。

いずれ”龍”との邂逅をもたらすであろう、その男の到着を待ち望んで。



─────

──────────


───────────────

同じ頃。

184名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 05:14:38 ID:hGrdgYdc0

( ,;゚Д゚)「あッ、ぅ……なん、で」

自身に降りかかった鮮血の生暖かさに、その心地悪さに。
膝をかたかたと震わせながら、絶句し、驚愕の表情を浮かべていた。

そのギコへと振り返り、どこまでも冷たく蔑する眼差しを向けるのは───ジョルジュ。
  _
( ゚∀゚)(………)

その男の身体を貫いているのは、紛う事無くジョルジュが背にする大剣だ。
ぶ厚い鉄塊が胸の中心から、背中へと抜けていた。


「か───ふ……ゥッ」

刃先には鮮血が彩り、ジョルジュ自身の顔や外套をも返り血が汚している。
そうして、串刺された男は短く呟くと、間もなく絶命したようだった。

185名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 05:15:27 ID:hGrdgYdc0

( ,;゚Д゚)(………し、死んだのか?)

「う、あぁ……兄貴ぃ!」


ギコの瞳には───瞬く間の、出来事だった。


危うい吊橋を渡りきった後の二人の前に、まず三人組の男が躍り出る。
その彼らがにやにやと吊り上げた口元には髭が伸び切っており、長い山での生活を思わせた。

そして、剣の切っ先をジョルジュ達へと向けてありていな台詞を言ってのけたのだ。

”お前さんがた、身ぐるみ全部置いていきな”、と。

山賊だ、それをギコが認識した瞬間には、もうジョルジュの剣が男を貫いていた。
一寸の躊躇も無く、否応無しにその男の人生を終わらせたのだ。

186名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 05:16:20 ID:hGrdgYdc0

ジョルジュより遥か遅れて剣の柄を握り締めたギコは、
呆気に取られた表情でその一部始終を目の当たりにしていた。

( ,;゚Д゚)(………)

身を寄せながら男の胸から剣を引き抜くと、もはや事切れた男の亡骸は、ずさ、と地面へと伏した。
光景を背後で見送っていたあとの子分らしき二人も、今のギコと同じような表情を貼り付けている。
  _
( ゚∀゚)「で?………どうするよ、お前らは」

「……ち、畜生がぁ!」

あくまで不遜を貫き、目の前の男どもを食ったような物言い。

しかし、冗談めかしの言葉など投げかけられる雰囲気は微塵も無い。
ギコにはとてもじゃないが、今朝方まで道中を共にした男とは思えなかった。

これほどあっさり、人を斬り殺せるような男だなどと。

( ,;゚Д゚)「や、め────」

187名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 05:17:13 ID:hGrdgYdc0
  _
( ゚∀゚)「ほら、目の前にいるぜ。やってみろよ………仇討ちでも」

この山賊どもとジョルジュとの差は、火を見るよりも明らか。
一人が討たれた時点でもはや勝負はついていたはずだ。

だが、ジョルジュの挑発に看過された男の一人が、剣を構えてしまった。

「なめやがって……よくも、兄貴を!」

無茶だ、やめろ。
そう叫ぼうとしたが、上手く声が出ない。

ジョルジュの背に立つギコは、もはや明らかな動揺に飲み込まれてしまっていた。

「殺してやるぜ、てめぇ!」
  _
( -∀-)「そうだな……潔く散るも、良しだ」

188名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 05:17:56 ID:hGrdgYdc0

「くッそがあぁぁぁッ!!」

残る山賊の内、一人が激昂してジョルジュへと斬りかかった。

( ,; Д )「………止めろよッ! ジョルジュッ!」

上手くひねり出せなかったが、どうにか彼の背中へそう声を掛ける事が出来た。

”ぶんっ”

刹那、重さを纏った風切り音。


”バヅンッ”

遅れて、山賊の胸当てが一閃に断ち割られる音が響く。

  _
( ゚∀゚)

やがて動きを止めたジョルジュが、ギコの方へ振り返る。
右手で繰り出した大剣を振り下ろした勢いは、柄を左手へと持ち替えて、左方へといなし終えていた。

189名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 05:19:21 ID:hGrdgYdc0

( ,;゚Д゚)「ジョ……」

ギコが言葉を言いかけた時、胸当てごと肉を切り裂かれた山賊が、その場にどさ、と両の膝を突く。
  _
( ゚∀゚)「チッ……仕留め損なったぜ」

「ぐ……うッ」

痛みに表情を歪め、傷口を手で押さえる彼の衣服からは、じわりと血の色が滲んでいる。
苦悶を浮かべる山賊には、もはや戦意など欠片も残っていないだろう。

ジョルジュの剣の抜き出しの速さ、そして圧倒的な速度と質量で放たれた打ち込み。
それらはギコの目にも留まらぬ、全てが一瞬の出来事だった。

「ひッ……」

残された山賊の一人が甲高い声を上げながら、それらの光景にとうとう尻餅をつく。

190名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 05:20:54 ID:hGrdgYdc0

( ,;゚Д゚)「もう、十分だろ」

これまでと違う一面を見せる彼の背中に、そう言葉を投げかけた。
だが、ジョルジュはなおもギコが耳を疑うような台詞を口にするのだ。

  _
( -∀-)「止めは───お前が刺せ」

( ,;゚Д゚)「な、何言ってんだ……なんで! 俺が……」

「……ヒ、ヒィッ!か、勘弁だッ、勘弁してくれやッ!」
  _
( ゚∀゚)「………」

無言でギコから向き直ったジョルジュが、抜刀したまま尻餅を付く山賊の前に歩み出る。
仲間二人を軽々と斬り伏せたその男が、ゆっくりと頭上に剣を振り上げていく光景は、恐怖だろう。

191名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 05:22:35 ID:hGrdgYdc0

おののく山賊は、今にも股間を湿らせそうな程に弱々しく泣き叫びながら許しを乞うも、
そのジョルジュの横顔からは、情けをかけてやるつもりなど毛頭感じ取れず、
そればかりか、彼はもはや戦意を失った人間をも、これから斬るつもりなのだと悟った。
  _
( ゚∀゚)「なら………俺がやらぁ」

やがて頂点に構えられた剣が速力を得ようとした時、ギコが割って入った。

( ,#゚Д゚)「───止めろって、言ってんだゴルァッ!!」
  _
( ゚∀゚)「……あぁん?」

( ,; Д )「くッ……」

ようやく剣を下ろしたジョルジュに掛ける言葉を選びながら、胸を詰まらせた。
信頼の置ける実力者が、その実”人を斬るのになんら厭わない男だ”という事実を目にしての、落胆。

192名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 05:23:28 ID:hGrdgYdc0

怒りを露にして、自分よりいくつも年長であり、いくつも経験を重ねているであろうジョルジュに対し、叫ぶ。

( ,#゚Д゚)「何も───何も、殺す事はねぇじゃねぇかゴルァッ!」
  _
( ゚∀゚)「………はん」

顔を熱に火照らせるギコとは対照的に、ジョルジュはその彼の言葉を冷笑の元に伏した。

( ,#゚Д゚)「正直、見損なうぜ───アンタにゃ感情が欠落してんのか!?」

言い過ぎているとは、ギコ自身も思っていない。
たとえ悪党であろうとも、目の前で命乞いをする人間を斬り殺すなど許せなかった。

父から譲り受けた妙な正義感からか、この時ばかりは己の判断が、ジョルジュのした事は間違いだと告げる。

193名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 05:24:42 ID:hGrdgYdc0
  _
( -∀-)「───ガキが」

すぅ、と息を吸って、ジョルジュはそこでようやく剣を下ろした。

かと思えば、今度は大剣の切っ先をギコの目の前へと突き出して、
なおも食ってかかろうとしたギコの勢いに水を差した。

( ,;゚Д゚)「!」
  _
( ゚∀゚)「いいか、ケツの痣もまだ消えきっていねぇ青二才のガキめ」
  _
( ゚∀゚)「偽善って言うんだよ、てめぇのそれは」

( ,#゚Д゚)「なんだとゴルァ!?」

逆上するギコの神経を逆撫でるかのような言葉が、口元に笑みを浮かべたジョルジュが更に紡ぐ。
しかしその瞳は出会った時と変わらず、今は冷ややかでこそあったが、やはり焔の色を宿していた。

194名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 05:25:29 ID:hGrdgYdc0
  _
( ゚∀゚)「……実の所、お前自身は親父さんの仇討ちをしてぇなんて気持ち、てんでねえだろ?」

( ,#゚Д゚)「今は関係ねぇ話だ!俺は───アンタから話を聞いて……自分で選んでこうして……」
  _
( ゚∀゚)「自分で選んだ?俺から、てめぇの親父さんの話を聞いたからってか!?ちゃんちゃら可笑しいぜ」

( ,#゚Д゚)「何が───」

話を逸らそうというのか。誰がそんな事に聞く耳など、持つものか。
今ジョルジュがやってのけようとした事は、偽善だとか、自分の旅の理由などとは何の関係も無い。

しかし雄弁を振るうジョルジュの声は、何故だかギコの深い部分に入り込んでくるようでもあった。

195名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 05:27:01 ID:hGrdgYdc0
  _
( ゚∀゚)「……違うな。停滞して、燻って。そんな気はさらさら無ぇ癖に………
     てめぇはこの俺に着いて来る事で、そんな自分が変われるとでも思ったのよ」

( ,#゚Д゚)「………」
  _
( ゚∀゚)「───俺は、俺の全てを奪った野郎を許せなくて、ただその一心だけでここまで来た。
     装備どころか、ろくに服も食い物もねぇ。初めての武器はな、削りだした木の枝だったさ」
  _
( ゚∀゚)「10やそこらのガキには、世間様はえらく染みる辛さよ。
     だがな───それでも俺はその道を、俺自身で選んだ」
  _
( ゚∀゚)「ところがてめぇと来たらどうだ!?今まで考えもしなかった旅の理由を、この俺に預けてやがる!」

( ,;゚Д゚)「───!」

ぎくり、とする思いだった。

196名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 05:28:30 ID:hGrdgYdc0

この男に出会わなければ、その彼に惹かれるようにしてこうして大きな目標を抱いて旅立つ事は無かったろう。
人の栄える交易都市で、いつまでも根無し草のような日々を送っているだけだったかも知れない。

ジョルジュが自分で自分の道を選んだように、かつて邪龍と戦った傷が元で死んだ父。
”フッサール=ブレーメン”の弔いだとか仇討ちだなどと、本当にそれを考えて今この場にいるのか。

その問いを自らに問えば問うほどに、ジョルジュの言う通り、それは”停滞”への言い訳にも思えた。

決心した、覚悟をした。

そんな言葉を自らに言い聞かせてきた、はずだった。
  _
( ゚∀゚)「普段なら……俺一人なら殺しはしねぇ程度の相手だった」

( ,;゚Д゚)「………」

そう言って目線を送った先には、まだ身をかたかた震わせている気弱な山賊の姿があった。

198名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 08:22:57 ID:hGrdgYdc0
  _
( ゚∀゚)「だが、いざって時に人を斬れる度量もねぇてめぇには、この先一体何が出来るってんだ」
  _
( ゚∀゚)「”人は斬れないが悪い龍なら斬れます”ってか?」


( ,;-Д-)「だ、だけど───俺だって、覚悟を決めて」
  _
( ゚∀゚)「それだ、その口が言いやがる。随分と大安売りだぜ───”覚悟”なんざ、
     腹にこうと決めたら、とっくに自分自身で考えて行動してるさ」
  _
( ゚∀゚)「敵はファフニールだけじゃねぇかも知れねぇ、同じ人間のクソ外道どもと、
     一戦ぶちかます事だって”俺の旅”には大いにあり得る」

199名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 08:23:45 ID:hGrdgYdc0
  _
( -∀-)「そんな時……てめぇの喉元に剣が迫った時だ。そこで、下らねぇ
     善悪の感情なんぞに引っ張られて躊躇しちまうような奴なんざ、ツレとしちゃ御免だわな」
  _
( ゚∀゚)「そんなもんに振り回されて、周りに良くしてくれたツレが不運に巻き込まれて死んだりな……
     逆に老い先短ぇ爺や婆をだまくらかした挙句、幸せな余生を送ってる小悪党だって見てきた」
  _
( ゚∀゚)「俺としちゃあ……人間なんざ。いやさ、妖魔どもも龍族の化けもん共も、そうは変わらねぇさ」

( ,;-Д-)(………くッ)

甘さを痛感していた。
ジョルジュはギコの中身の無い上辺だけのその”覚悟”を、容赦なく責め立てた。

200名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 08:25:04 ID:hGrdgYdc0

”お前に俺ほどの覚悟があるか”
ジョルジュは自らの想いの強さを示すかのように、山賊の一人を躊躇なく斬った。
決してそれは万人が諸手を上げて”良い事だ”などと、言えようはずもない。

しかしそれは、時に人を殺めてでも───

その上でも遂げたい程に強く願う理想を掲げているのか。
そして、その為に踏み越えて行かなければならない道々での覚悟があるのかと。

それこそを、伝えたかったのかも知れない。
  _
( ゚∀゚)「……まぁ、短い付き合いだったが───俺はお前の親父さんには実際感謝してるぜ」

( ,;-Д-)「………そう、かい」

この先へ踏み出す程の覚悟を持たないお前とは、ここで別れる。
ジョルジュの言葉は、それを告げるようだった。

激しく打ちのめされたギコがその背に声を掛ける事はできなかったが、
先へと進もうとしたジョルジュが、最後にふと足を止めて、彼へと振り返った。

201名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 08:25:48 ID:hGrdgYdc0
  _
( ゚∀゚)「まだ悔いがあるなら、チャンスをやろうか」

( ,,゚Д゚)「……?」


「え……ひぃっ、ひぇッ」

意味深な台詞を口にして、またもジョルジュは残る山賊へと視線を向けた。

  _
( ゚∀゚)「そいつを殺れりゃあ、お前をバルグミュラーに伴ってやってもいい」

( ,,゚Д゚)「………」

にやり、と口の端を吊り上げながら、またジョルジュはそんな言葉をのたまった。
先ほどは怒りをむき出しにして食ってかかったギコだが、どうやら今はそんな気にもなれない。

「だ、駄目だッ!やめっ、見逃してくれぇぇッ!」

202名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 08:26:52 ID:hGrdgYdc0

情けないその男の悲鳴にも似たその声が、二人の間で叫ばれる中。
ギコは、自分の掌へと視線を落として、それをじっと見つめていた。

その彼が一体どう出るか。
まるで試しているかのように見守るジョルジュの瞳に、やがて光が躍る。

ギコが、ゆっくりと背に手を回して剣を抜いたのだった。
  _
( ゚∀゚)「………」

( ,, Д )「………」

「って、えひぃぅぇぁッ」

ギコは両手に掴んだ柄の先、黒く堅牢な”邪龍ファフニール”の尾鱗が覆う剣の刀身を、見つめる。
  _
( ゚∀゚)「斬るのか」

ジョルジュは問うが、そうではなかった。

203名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 08:28:08 ID:hGrdgYdc0

ジョルジュの言葉に薄らと首を横に振りながらも、今一度意味を考えていたのだ。
父がこの”竜刀・邪尾”を自分に託したのは、どういう思いからだったのかと。

傭兵として家族を養う一方で、父・フッサールは、一人の正義漢だったと聞かされて育った。
幼い頃の記憶しか持たないギコには、そんな父が昔話に出てくるように、遠い存在と感じていた。

命を落とすきっかけとなった邪龍の一部を、死の間際に匠へと預け、それを剣として息子に託した意味────

今になってジョルジュの言葉に開眼出来たギコには、ようやく見えた気がした。

( ,,-Д-)「………いいや」

ジョルジュのように、自分自身を支えてくれる、理想の為の背骨。
それは父が遺したものの中に、少なからず想いとしては宿っているはずだ。

( ,,゚Д゚)「ー──たとえ悪党だろうと、俺は怖くて小便まで漏らしてる奴を、殺す気にはなれねぇな」

204名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 08:28:56 ID:hGrdgYdc0
  _
( ゚∀゚)「……はッ、だろうと思ったぜ」

やはり、血みどろの道すら厭わないような覚悟など、この腑抜けには定まらないのだ。
それを一言笑ってやろうとしたジョルジュだったが、顔を上げたギコの瞳を見て、言葉は飲み込んだ。

( ,,゚Д゚)「だが、この剣に誓って言うぜ───今まで中途半端な気持ちで、悪かったな」
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( ゚∀゚)「………ほぉ?」

( ,,゚Д゚)「今後、あんたみたくむやみやたらに人を斬るつもりはねぇが、
     降りかかる火の粉は掃う。だから連れてけ───俺も、バルグミュラーにな」

その言葉は、自らに行動で示そうとしたジョルジュへの皮肉も込めた。
情けない自分の内面の図星を指されてしまった仕返しに、これくらいはいいだろうと思った。
  _
( ゚∀゚)「へッ、お得意の”覚悟”が定まったって奴か」

205名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 08:29:59 ID:hGrdgYdc0

( ,,゚Д゚)「ジョルジュ───あんたに言わせりゃ下らねぇかも知れねぇけどよ……こいつぁ、単に正義感って奴だ」

父が息子へと繋いだ想い。
それは肉親であるが故に、極めて都合の良い解釈かも知れない。

だが、自分自身も少なからずそうであるから、こう思えた。

( ,,゚Д゚)「俺の親父は……多分、あんたみたいな目に遭う奴が二度と出ない事を望んでたんだと思う」
  _
( ゚∀゚)「………」

口にするとなんだか陳腐で、安っぽくもある言葉。

正義────人の世ならば、その反対にはまた違う正義があるだけ。
だが、人の世を脅かす邪龍に、そんな常識は当てはまらない。

( ,,゚Д゚)「俺の親父を死なせて、あんたの村を滅ぼした邪龍の野郎は、悪さ」

206名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 08:30:45 ID:hGrdgYdc0

( ,,-Д-)「……じゃあ、そいつを使って悪だくみしようとしてる奴がもしいたら、そいつらも悪だ」

( ,,゚Д゚)「んで……俺は親父の遺志を継いで、そいつらも邪龍もぶっ倒す。俺が、正義だ」
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(;゚∀゚)「あぁん?結局何が言いてぇんだよ」

疑問符ばかりを浮かばせるジョルジュを納得させるだけの言葉を捜しあぐねて、ギコが思案を重ねる。

( ,;-Д-)「うーん、俺はあんたみたく口先はうまくねぇから良い言葉が浮かばねぇんだが……」

腕を組んで悩んでいるうち、頭の中でぴぃんと閃いた。
それは至極単純明快で、ギコらしい答えだ。

207名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 08:31:40 ID:hGrdgYdc0

( ,,゚Д゚)「まとめるとだが……俺は、俺や俺の親父が信じる”正しさ”の元に、邪龍を討つ」

  _
( ゚∀゚)「……ふん。で、何がどうなろうと揺らがないだけの覚悟が、そこにあるって訳か?」

( ,,゚Д゚)「言ったばかりだぜ。身に降りかかった火の粉は、てめぇで掃うさ」

きっぱりとそれら言葉を言いのけて、ギコもまたふん、と鼻を鳴らした。

次にはどんな揚げ足取りの言葉を用意しているのか、ジョルジュが次に言う言葉を
じっと待っていたが、その彼の口から紡がれたのは、あまりに呆気ない台詞だ。
  _
( -∀-)「……なら、勝手にしろ」

( ,;゚Д゚)ハァ!?

208名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 08:32:39 ID:hGrdgYdc0

思わず目を見開いて、そう言った。
珍しく頭を使って、力強く投げかけたギコの言葉に、さして興味も無さそうに
ジョルジュはずんずん先へと進んで行こうとする。

素早く追いすがって、その肩を掴んで振り向かせた。
  _
(#゚∀゚)「……るせぇな、今度はなんだ!?」

( ,;゚Д゚)「いや、いいのかよ───その、着いてって……」
  _
( ゚∀゚)「だから勝手にしろって言ってんだろうが。足手まとい」

( ,;゚Д゚)「な、何ぃ!?」
  _
(#゚∀゚)「それよか……急いでんだからよ。無駄な事に時間使わせんじゃねぇ」

( ,;゚Д゚)「あ、わ、悪い」

先ほどまでの説教は何だったのかと、小首を傾げながらどこか釈然としない思いを抱く。
互いに抜き出していた剣を収めると、また目的地へ向かうべく、二人は歩き始めた。

209名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 08:33:39 ID:hGrdgYdc0

不意に振り返ると、あの怯えていた山賊もようやく立ち上がると、
ジョルジュに斬られて深手を受けた仲間を抱え、何処かへと連れ立とうとしていた。

( ,,゚Д゚)(しかし、惨い事するよな……)
  _
( ゚∀゚)「下らねぇ事考えてんじゃねぇだろうな」

( ,;゚Д゚)「いや、別に」

心の中を読まれたかのようなタイミングで発されたジョルジュの言葉が、
またもぎくり、とギコの心音を高鳴らせた。

有無を言わさず胸を貫かれた山賊の男に、少しばかり同情してしまうのは事実だ。
  _
( ゚∀゚)「……間違っても、可哀相だなんて思うなよ」

( ,,゚Д゚)「ん?」

210名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 08:34:25 ID:hGrdgYdc0
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( ゚∀゚)「俺に殺された奴は、同じ手口で人の2~3人も殺してるだろうし、女ぁ攫ったりもしてんだろ」

( ,,゚Д゚)「まぁ……無くはねぇか」
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( ゚∀゚)「誰かに剣を向けた時───同時にそいつは、自分に剣が向けられる事も覚悟しなくちゃいけねぇ」

( ,,゚Д゚)「………」
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( ゚∀゚)「いつか、痛い目は必ず自分に返ってくるのよ──まぁ、そいつが嫌なら……」

( ,,-Д-)「最初から、しみったれた真似はすんなって話か」


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211名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 08:35:25 ID:hGrdgYdc0


もうじき二人は、城壁都市へと足を踏み入れる。
そこではギコの口にするような”正義”など、見向きもされない代物だ。

必要とされるのは、ただ己の身を凶悪な妖魔の身から守る為の武具や、それを扱う術。




────夕刻。

彼ら二人の瞳には、ようやく城壁都市の重苦しい外壁が姿を現しつつあった。
暮れなずむ茜に染められた外壁と、荒野の赤土。

その色は、この先控えているであろう血戦を、予感させるものだった。

212名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 08:37:11 ID:hGrdgYdc0



   ( ^ω^)ヴィップワースのようです


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         「壁を越えて(4)」


             -続-


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