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( ^ω^)ヴィップワースのようです 第10話 「孤狼は月厘に哭く(1)」

223名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 22:48:37 ID:sFhAi3KQ0

──交易都市ヴィップ──


爪'ー`)「重てぇなこれ。一体何入ってんだよ」

人々が往来する波に揉まれながら、街路の中央で紙袋一杯の買い物を持つフォックスの言葉に、
彼の前を行くツンは、小鼻を膨らましながら小さな胸を反らせた。

ξ-⊿-)ξ「泣き言言わないの。誰のお陰で今こうしてられると思ってるのよ」

爪'ー`)「へぇへぇ、ツン様のお陰ですよっと」

先のロード・ヴァンパイア、ハインリッヒとの戦い。
結局のところツンの”聖術”によって、重傷を負った全員が全員、命を拾う事が出来た。

面々も一時は死を覚悟したものの、それから10日あまりが過ぎた頃には、
すでに激しく生き残りを懸けた戦いの余韻も何処かへと過ぎ去って───

今では、またこうして次の冒険に備えて旅に入用な品を買い揃えているという訳だ。

224名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 22:49:17 ID:sFhAi3KQ0

爪'ー`)「……ん?」

買出しを終えたツンとフォックスは、宿へと帰る途中だった。
ふと、フォックスが見覚えのある後ろ姿に眉をひそめた。

ξ゚⊿゚)ξ「どうしたのよ」

爪'ー`)「ちっと、見知った顔かも知れねぇ」

ξ゚⊿゚)ξ「知り合い?」

爪'ー`)「これ、頼むわ」

ξ;゚⊿゚)ξ「え……ちょっと」

その背中を追いかける為、荷物をツンに預けたフォックスは走って行ってしまった。
どさ、と投げ渡された荷物の重みによろけた彼女一人が、ぽつんとその場に取り残されたまま。

ξ;゚⊿゚)ξ「って……重いんですけど、これ」

225名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 22:50:04 ID:sFhAi3KQ0

──【失われた楽園亭】──


( ^ω^)「傷は治ったのかお、ショボン?」

(´・ω・`)「あぁ、もう万全だ」

( ^ω^)「遠出が出来る身体じゃない分、夜通し酒を酌み交わしたおかげかおね」

(´・ω・`)「酒浸りの君らと一緒にしないでくれ。傷に染みた日もあったさ」

( ^ω^)「その割にはショボンだって結構楽しそうにしてたお?」

(´・ω・`)「まぁ、それなりにはね」

226名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 22:50:57 ID:sFhAi3KQ0

( ^ω^)「確かに。昨夜は深酒し過ぎて、珍しく酔ったショボンを見たお。
       目元も潤んでたおね。”僕は父さんを認めさせたいんだ”って」

(;´・ω・`)「……何、だと……?」

(;^ω^)「本当だお」

ばん、と卓を平手で叩きつけたショボンが、
「その話は忘れてもらおうか」とブーンに詰め寄っていた。

ブーン達以外の冒険者も大体が出払い一息を着いていたマスターは、
頬杖をつきながらそんな彼らのやりとりを眺めていた。

(’e’)(はぁ。平和だねぇ)

お互い死ぬ目に遭ったばかりだというのに、まるでそんな事もなかったかのように振舞う。
それはただ単に呑気だからなのか、はたまた、肝が据わっているからなのか。

227名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 22:52:04 ID:sFhAi3KQ0

(’e’)(ま……いっつも切羽詰まってるよりかは、常に余裕を持ってる奴らの方が頼れるもんか)

その言葉は、心の中で思っておくだけに止める。
軽はずみにそんな褒め言葉を彼らに投げかけては、益々もって増長してしまうからだ。

不意に、扉が開け放たれて外気が宿の中に立ち込み、客入りを知らせる。

(’e’)「──いらっしゃい」

( "ゞ)「おぉ……良さそうな店じゃねぇか」

(’e’)「俺のこだわりが光る、料理が自慢の店さ」

( "ゞ)「マスターはあんただな? ……ちと耳に入れときたい情報があってね」

( ^ω^)(おっ?)

228名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 22:53:06 ID:sFhAi3KQ0

聞き覚えのある声に、ブーン達の卓の横を通り過ぎてカウンターへ向かった男の顔を、覗きこんだ。
確か、初依頼の時にリュメの街で情報を教えてくれた盗賊だ。

(’e’)「……俺はお前さんとは初対面だが」

( "ゞ)「あぁ、こいつはあんたに直接の関係はねぇかも知れねぇが……って」

( ^ω^)ジロジロ

(;"ゞ)「………何見てんだ」

(´・ω・`)「知り合いかい?ブーン」

( ^ω^)「やっぱり、そうだお!」

宿への来客である彼のすぐ背後にまで忍び寄ってきたブーンが、彼の耳元で大声を上げる。
耳の穴に指を入れて、盗賊は心底煩そうに、その声量に顔をしかめたが。

229名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 22:54:01 ID:sFhAi3KQ0

(;"ゞ)「あぁ、いつかの干し肉冒険者か」

( ^ω^)「その節は世話になったおね!」

( "ゞ)「お前さん、この街に居たのか……」

その時、扉が開け放たれて、買出しへと出かけていたフォックスが帰って来た。
ブーンとマスターら三人が集まる方を指差すと、驚いたように言う。

爪'ー`)「やっぱり……デルタじゃねぇか!」

( "ゞ)「へ……? お頭ッ!?」

( ^ω^)「おっおっ、フォックスとも知り合いなのかお?」

( "ゞ)「知り合いなんてもんじゃねぇさ」

231名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 22:57:28 ID:sFhAi3KQ0

爪'ー`)「そっ、俺とそこに居るデルタは……兄弟みてぇなもんよ」

( "ゞ)「随分としばらくで……お頭」

(´・ω・`)「同じ盗賊業、という訳か」

粗雑な話し言葉が瓜二つな事に、ショボンがなるほど、と頷く。

( ^ω^)「そういえば、ツンはどうしたお?」

爪'ー`)「あ……忘れてた。もうすぐ来るだろ」

(’e’)「んでお前さん、俺への話ってのは何だ?」

( "ゞ)「その前に」

マスターの言葉を手で遮って、デルタがフォックスに尋ねた。

232名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 22:58:17 ID:sFhAi3KQ0

( "ゞ)「お頭よ、もしかしてこいつらと」

爪'ー`)y-「あぁ。今はパーティー組んでんだ」

( "ゞ)「……ヘッ。本当に冒険者になってるとは思わなかったぜ」

爪'ー`)y-「楽園亭のフォックス一行って言えば、今は少しは名の知れたパーティーだぜ?」

( "ゞ)「へぇ?」

(’e’)「お前さんが言う程じゃねぇよ」

( "ゞ)「──ま、そんなこったろうとは思ったが」

真っ向からフォックスの言葉を否定したマスターにデルタが同調していた折、
必要以上に勢い良く、入り口の扉が開け放たれた。

”ばんっ”

233名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 22:59:22 ID:sFhAi3KQ0

ξ;゚⊿゚)ξ「ぜぇぇ~ッ、はぁぁ~ッ」

肩をいからせたような格好で、重そうな紙袋を抱えてよろよろと面々の元へと近づく。
呼吸を乱せて、髪のところどころはぴんと跳ねていた。

( ^ω^)「おっおっ、おかえりだお、ツン」

爪'ー`)y-「よっ、悪かったな」

ξ;゚⊿゚)ξ「あ、アンタねぇ……悪かった、じゃないわよ!非力な私にこーんな重いもの持たせて!」

爪'ー`)y-「いや、すまねぇ。懐かしき友人がそこに居たものでね」

( "ゞ)「………」

ξ゚⊿゚)ξ「?」

235名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:00:19 ID:sFhAi3KQ0

フォックスの視線に促がされるまま、デルタと瞳が合ったツンは軽く会釈した。
ショボンの座す席の卓上にでん、と音を立てて重い荷物を置いて、自身もまたその場に腰を下ろす。

ξ;゚⊿゚)ξ「ふぅ……ようやく一息つけるわ」

一堂が会した折を見計らって、マスターが再度切り出した。

(’e’)「──そろそろ、その、俺への話ってヤツを聞かせてもらえるかな?」

( "ゞ)「あぁ……実はここに来る前、悠久の時の流れ亭のマスターに聞いたのさ。
     ”クー=ルクレール”って冒険者と、あんたは親しいらしいな?」

(’e’)「ん、まぁ……昔は親代わりを務めたもんさ」

ξ゚⊿゚)ξ「………?」

( ^ω^)「おっ?クーさんが、どうかしたのかお?」

( "ゞ)「……何だ、お前さんがたも知ってるのかい。って事は──」

236名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:01:37 ID:sFhAi3KQ0

爪'ー`)y-「あぁ、前にちょっとな──ちと性格はキツいが、良い女だ」

( "ゞ)「ちげぇねぇ」

一度頷いてから、デルタは言葉を続けた。

その彼が口にした話の内容は───ブーンらにとっても。
そして、まだ幼い頃から彼女の面倒を見てきたという楽園亭のマスターに取っても、捨て置けないものだった。

( "ゞ)「丁度良い……それなら、お頭とあんたらにも聞いてもらおうか──」








237名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:02:33 ID:sFhAi3KQ0

山を黒く包むのは、大きく広がった雨雲。
その悪天候の中臨むのは、遥か南東の小さな農村を目指す旅路だ。

掌を上にかざすと、ぽつり、ぽつりと雨粒の感触が伝わってきた。

爪'ー`)「さすがにこの天候だと、先行きが不安になるな」

(´・ω・`)「リュメをへ迂回してからだとそれだけ到着が遅れてしまう───険しい山道が続くが……」

( ^ω^)「……構いやしないおね、ツン?」

ξ゚⊿゚)ξ「えぇ。それよりも、彼女の身が心配だわ」

(´・ω・`)「……確かにね。話に聞く限りでも、壮絶極まりない依頼だと誰もが思うはずだ」

爪'ー`)「まぁ、俺でも三日は寝込んじまうかも……な」

238名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:03:36 ID:sFhAi3KQ0

──デルタの言葉を聞いた彼らは、あの後。
彼女、”クー=ルクレール”の胸中を想い、しばし言葉を発せずにいた。

連続殺人、その事件の影で暗躍していた謎の”魔剣”と対峙した際に、彼女は
目の前で相棒一人を失い、あまつさえ剣の力に魅了され、操られていた年端もいかぬ少女の死を目の当たりにした。

そして彼女は、失意のどん底へ突き落とされてそのまま失踪したのだという。

窮地に陥ったクーを救うため、実際にその少女の命を絶ったのは、デルタだった。
盗賊ギルドの仲間の一人が事件の渦中で殺された事にもそうだが、郷里の気心知れた町の仲間。
たとえどうにも出来ない状況だったといえ、兄弟の一人がそれを手に掛けて、血で汚す痛みを、哀しみを。

ブーン一行の中でデルタのその苦渋を誰よりも汲み取って、そして自分事のように悲しんだのは、
やはり貧民窟で幼い頃から共に育った、フォックスだが。

爪'ー`)「………」

239名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:05:32 ID:sFhAi3KQ0

今、ブーン一行はそのクーを捜索する為の道程を歩んでいる。

ξ-⊿-)ξ(どうか、彼女が無事でありますように……主の、ご加護を)

クーの為に、そして名も知らぬ少女や、リュメの町の犠牲者達の為にも、ツンは心の内で祈りを捧げる。
共に力を合わせて窮地を乗り切った彼女は、自分の身を投げ打ってツンらを助けてくれた事もある。

マスターの手前、そして何より自らの信じる聖ラウンジ、過去、その恥部による行いへの贖罪の為にも。
嘆きや悲しみに打ちのめされながら南東の村に消えて行ったという彼女の事を、放ってなどおけなかった。

(  ω )(クーさん。早まってはいけないお)

デルタは彼女への義理から、楽園亭のマスターへその話を持ってきたのだ。
俯きながら、黙って最後まで話を聞いていたはげちゃびんは、最後に「頼む、お前たち」と言った。

無論、マスターのその気持ちには応えよう。
何よりもそれは───自分達全員の想いでもあるからだ。

240名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:06:46 ID:sFhAi3KQ0

───────────────


──────────


─────



川 - )




───彼女はまどろみの中で、懐かしい故郷の夢を見ていた。

241名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:07:46 ID:sFhAi3KQ0

セピアに色褪せたその景色の中には、とても優しい母と、勤勉な父の姿があった。

無邪気に両親に甘えていた。
まだ、それが出来た頃の彼女の過去の中で───もっとも幸せな時間。
けれどその夢の中では、いつしか両親は何者かに連れ去られてしまうのだ。

次第に暗闇が周囲を閉ざし、彼女はその場にたった一人で残されて、涙を拭っていた。
しかしその彼女の前に、ある時突然光を伴った一人の旅人の背が映し出される。

眩いばかりの光の中へと消えてゆく彼の背を追いかけて、彼女は走った。

自分に新たな光を、風を吹き込んでくれるであろうという淡い期待を抱いて。
けれど、走れども走れども、大声で叫ぼうが、彼が立ち止まる事は無く、自分は追いつけないのだ。

242名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:08:34 ID:sFhAi3KQ0

足がもつれて転んでしまった彼女は最後、消えてゆく彼に向けて手を伸ばした。
今この生き地獄に身をやつす自分に救いを与えて、道を指し示してくれるであろう、彼に向けて。

そうして、やがて覚醒しつつあったクーの顔を───大きな掌が、2、3度彼女の額辺りを撫ぜた。


川 - )「………ん、くっ」


(   )「…………」


どこか懐かしいような感覚に囚われながら、そしてそれが彼女の寝覚めを誘ったのだ。

243名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:09:36 ID:sFhAi3KQ0

何度も見た悪夢の果て。
やがて目を覚ました彼女の目には、少しずつ現実の光が入り込んで来ていた。


(    )「……起こしてしまったか」


川 ゚ - )「…………ここ、は」


大きな掌が、今も自分の額に触れている感覚があった。
やがて光に目が慣れて、完全に視界が晴れた時だ。

何よりも眩しい光が、更にその先に待ち受けていたのだ。


夢の中でまで、その背を追いかけた───

244名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:10:48 ID:sFhAi3KQ0


( ゚д゚ )

川 ゚ -゚)

再会こそを、待ち望んでいたのだ。
そして、その彼女の想い人は今───彼女の傍らに、寄り添っていた。


「───今、誰より会いたかった」

「俺も、なんだろうな……”クー”」


彼の懐かしい声を聞いたとき、その胸に飛び込みたい衝動を抑える事は、もはや出来なかった。
気が付いた時には広く厚い胸に顔を埋めていた彼女は──大声でその名を口にした。

何度も、何度も。

嗚咽し、涙や鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら。


「───ミルッ、ナぁぁ……!」

245名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:13:02 ID:sFhAi3KQ0




  (  ω )ξ ⊿ )ξ(´ ω `)爪 ー )y-
      ヴィップワースのようです
    
         第10話

      「孤狼は月厘に哭く(1)」



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246名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:14:25 ID:sFhAi3KQ0

川 *゚ -゚)「……どう、して?」

一頻りを彼の胸の中で泣き喚いた彼女は、ゆっくりと傍から離れると、改めてその表情に眼差しを向ける。
ゆっくりとベッドから身を起こして、力の満ち溢れる精悍さを湛えた、懐かしき顔を。

それには疲れからか───少しばかり頬がこけている様な印象を受けた。

( -д- )「………」

問いには直ぐに答えず、「ふっ」と一人語知るように息を漏らしただけだった。

”ミルナ=バレンシアガ”

かつて彼女自身がまだ幼い頃、狂った方向に向けられた聖ラウンジ信徒達の暴走をたった一人で鎮圧し、
無実の罪で幽閉され、拷問に掛けられていた多くの住民達を救い出した、嵐の如き英雄。

両親を異端審問で亡くしたクーには、彼女が冒険者の道を志すに至るまで、崇高とさえ思えた男だ。

247名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:15:18 ID:sFhAi3KQ0

( ゚д゚ )「……俺は……」

川 ゚ -゚)「………?」

( ゚д゚ )「”拒絶”──されると思っていたんだ、お前に」

俯きながら、自分の掌を眺めたミルナが、寂しげにぼそと呟いた。

彼にしてみれば───いつまでも共に旅を続けたいとさえ思っていた時もあった。

しかし彼女の将来を自らが決めてしまう事に、最期を看取ったクーの両親への申し訳なさを感じたのだ。
過去に大きな心の傷を持つ彼女を、それから庇護してやるのには自らの力では足りないと。

彼女に情が移れば移る程、夜毎考えれば考える程にそれらは沸いて出た。
いつしか彼は旅を続ける上での重荷を、自分の中で作ってしまったのだ。

248名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:16:47 ID:sFhAi3KQ0

だからこそ、ミルナは失われた楽園亭のマスターの元にクーを預けて、また一人旅立った。
時が経ち大きく成長した彼女と再び出会う場所がこんな辺鄙な片田舎だとは、夢にも思わなかった事だろう。

川 ー )「………恨んだ時も、あった」

( -д- )「………」

弁明はしない。
彼女の本心を知りながらも、甘んじて自らその関係を立った咎。

いつか出会ったら、いくらでも受けようと覚悟していたから。

川 ゚ー゚)「でも、そんな昔の事はもう──忘れてしまったな」

( ゚д゚ )「クー………」

次にまた明るく笑みを投げかけてくれた彼女の表情は、まだあの時と同じように。
聡明な中でも幼さを残した、儚くも健気な少女のものだった。

249名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:17:47 ID:sFhAi3KQ0

( ゚д゚ )「許してくれとは、言わない──だが、俺もお前に会いたかったのは──」

川 ゚ー゚)「……私もだ、ミルナ」

二人を分かてていた空白の日々は、実に10年にもおよんだ。

それでも、彼らが共に連れ添った2年はその時の中で風化する事なく、
やはり変わらず───愛しくも懐かしき、思い出だった。

話したい事は山ほど積もり積もっていたはずなのに、互いにいざ顔を合わせると、言葉は出ない。

川 ー )(なんで……だろうな)

250名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:19:20 ID:sFhAi3KQ0

空白の10年を乗り越えて、今という時間に追い付いた。
色を失っていたクーの日常に、また彩りが継ぎ足されていく。

冒険者になった事。楽園亭のマスターは今も元気だという事。
そして、名も知らぬ少女一人を、救えなかった事───

何から話そうか、考えを巡らせながらはにかんでいたクーは知らない。
そのミルナの笑顔は優しげに映ったが、寂しく、哀しみに包まれたものだという事を。

まだ力を宿した瞳の奥に仕舞い込まれた、抗いようの無い苦悩の存在を。

( д )(───”罰”か)

”今”という時は、10年の空白が背負わせた罪。
己の罪こそがクーとの再会を引き寄せたのだと、彼は心の内で一人、神を呪っていた。

251名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:20:24 ID:sFhAi3KQ0

─────

──────────


───────────────


”罰を受ける為”

ある一人の暗殺者もまた───
たった一つの罪を贖う為だけに、自らを死地へ落とし込んでいた。

その道中で更に多くの罪を纏い、背負いながらも。


('A`)「随分遠回りしちまったな」

寂れた、今では打ち捨てられた村。

252名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:21:23 ID:sFhAi3KQ0

昔この場所では、多くの村人が気の触れた一人の男に殺されたらしい。
所々屋根の剥がれ落ちた家には、鬱蒼と茂った樹木に覆い包まれて光は差し込まない。

暗殺者ギルドを束ねるエクストの影響力は、各街では言うに及ばず、
既に大陸諸侯の一部の者にまでその息がかかっている。

政略の為に暗殺者ギルドに要人の暗殺を依頼して、それを弱みに握られて、
エクストに資金供給を逆らう事の出来ない貴族もまた、存在しているのだ。

エクストが旨い物を食っている一方で、幾らでも代替の利く子飼いの暗殺者である彼らは、
喪失感やら罪悪感に責め立てられながら、雨の日も風の日も、この場所で震える膝を抱えていた。

辛気臭いこんな場所に押し込められていた時もあったな、と、ドクオは自らの日々を振り返る。

253名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:22:19 ID:sFhAi3KQ0

殺しの腕を上げていく自分が、エクストから優秀な片腕と扱われる一方。
日に一切れのパンだけを与えられて、ひもじさに喘ぐ者達も居た。
満足に依頼をこなす技量を持たぬ奴は飢えて死ぬか、もう見込みの無い人間はエクストに斬り捨てられ──

そんなこの場所には、エクストという男の闇に心を蝕まれた子供たちが、今も膝を抱えて震えているはずだった。

('A`)(10やそこらは……居るだろうな)

廃村の家屋それぞれに息を潜めているであろうエクストの部下達の存在を、肌に感じる気配で探る。

この場所に今もエクストが居るという確証はないが、仕事の依頼で部下を連れ出す時や、
身を隠したい時には必ずこの場所へは戻ってくるはずだ。

ついこないだまで身を置いていたこの場所も、今や敵地。
ドクオにとっては、遥か昔に存在した故郷のようにも感じられる、遠い場所だった。

254名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:23:21 ID:sFhAi3KQ0

( ∵)

(∵ )

息を潜めながら無音の足音で村の付近にまで近づくと、歩哨の姿が見える。

('A`)(俺が来る事も、予見してたって訳か)

エクストに対して牙を剥いた自分の情報は伝わっている。
姿を見せれば、子飼いたちとの戦闘になるのは避けられないだろう。

('A`)(見張りは二人……なら)

胸元に手を入れて取り出したのは、丸く束ねられた細いワイヤー。
見た目より相当長さのあるそれを地面に垂らすと、何度かそこで円を模る。

255名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:24:10 ID:sFhAi3KQ0

その端を口に咥えると、ドクオはするすると手近な樹木へと昇っていく。
村の入り口が見下ろせるぐらいの高さまで昇り切ると、そこで枝を軽く揺さぶった。

('A`)(技を、使わせてもらうぜ)

その木々の擦れ合う音が、侵入者を見張る二人の歩哨の注意を惹いた。

( ∵)「………?」

ドクオが息を潜める方向へと振り返った一人が、もう一人の肩を肘で小突く。

無言のまま意思の疎通を図った二人の歩哨は、一人を前に歩かせて、すぐ後ろを
もう一人がその背中を守るような格好だ。

やがて、木の上のドクオの真下には、二人の男の頭が見えていた。

('A`)「………ッ」

256名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:25:18 ID:sFhAi3KQ0

( ∵)「!?」

微かな物音。それが真上に息を潜めていたドクオが、
ワイヤーを引いた事によるものだという事にまでは、仮面達は即座に気付けなかった。

そればかりか、物音に注意を引かれて上を向いてしまったばかりに見落とした。
己の足元に垂れてその場に円を形作っている、そのワイヤーこそを警戒すべき状況において。

”シュルシュルシュル!”

( ∵)「──ヒッ、ギュウゥッ……!」

手元に絡み付けたワイヤーを決して離さぬまま、木の枝から飛び降りたドクオは、
そのまま地面へと降り立った。

その動作が済んだ頃には、互いの位置は入れ替わり、仮面の男の一人は首元にワイヤーを
括りつけられたまま締め上げられ、木の上に首を吊るし上げられていた。

瞬く間にして作り上げられた、奇妙な果実。

257名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:26:39 ID:sFhAi3KQ0

( ∵)「……んなッ」

('A`)「シッ」

すぐ後方を歩いていた筈の残りの歩哨が、目の前の味方が吊り上げられた異様な光景に怯んだ。
”もう助からない”と判断するや、木から突然飛び降りてきたドクオへ、ナイフを振るう。

だが、一瞬だけでも視線を別の場所へ移してしまった隙は、この男を前にしては致命的だった。

ワイヤーを絡み付けた手を離さぬまま、逆の手で抜き出し振るわれたククリナイフが、
彼が大きな声を上げるよりも早く、的確にその喉笛を切り裂いていた。

( ∵)「あが……ッハ……」

(∵ )「ギ───ギッ、イッ!」

258名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:27:45 ID:sFhAi3KQ0

どれだけ声を上げようとしても、足をバタつかせても。
木の枝を支点として宙空に絞首刑を形作られた仮面の抵抗は徒労に終わる。
あがけばあがくほど、皮膚から血が出るほどにワイヤーは首筋へと食い込んだ。

そうして───やがて彼の呼吸も止まった。

('A`)「悪く思うなよ」

二人の死を確認してから、ドクオはゆっくりと手に絡み付けていたワイヤーを解き緩めては、
歩哨の死体を地面に下ろすと、先ほど喉を切り裂いた者と共に近場の木陰へと移動させた。

ここより先は、侵入が発覚すれば常時3対1以上を強いられる劣勢を覚悟しなければならない。
出来うる限りこちらが拠点へ侵入したという事実の露見は、避けなければいけないのだ。

259名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:29:12 ID:sFhAi3KQ0

('A`)(さぁ、首を洗って待ってな)

その後、ククリナイフの刃先に付いた血を自らの衣服で拭い落とす。
今も暗殺者として育てられている子供達が住み暮らすその廃村へと、息を忍ばせながら入り込んで行った。

暗殺者ギルド頭目、エクスト=プラズマンを殺す為に。
その彼に育てられた、忌まわしき記憶の残骸であるかつての自分自身をも、ここで死なせてやる為に。

やがて、小雨が降り出し始めた。
限りなく過酷な夜が、まもなく訪れようとしている。

───────────────


──────────


─────

260名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:30:32 ID:sFhAi3KQ0

峠道を越えたブーン一行は、もう交易都市の灯火が確認できない場所まで来ていた。

このまま無理を押して行進しようとも考えたブーン一行だったが、のまず食わずで
ここまで歩いてきた道程は、女性のツンのみならず、他の面々にも過酷なものだった。

( ^ω^)「燃えやすそうな枯れ木を見つけてきたお」

雨脚が弱まる気配は無い、そう判断して、やむなく山中での野営を選択した。
幸い背丈の大きな木々に囲まれた細道にめぐり合えた為に、火を焚いても子細なかった。

明日の晩には、辿り着く事が出来るだろうか。
リュメの南には小さな村がある。

クーが行き倒れる事なく、無事そこまで辿り着いていてくれれば、迎えにいけるのだ。

261名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:31:21 ID:sFhAi3KQ0

ブーンが片腕にいくつも抱えてきたその枯れ木を、フォックスらがこしらえていた
石を敷き詰めた急ごしらえの焚火台へと並べていく。

あらかた準備が整ったのを見計らって、ショボンが額に指をかざしてから、何事かを呟いた。
薪の一つに指を差し向けると、ぽぅ、と小さな炎を起こして薪へと燃え移り、野営の準備が終わった。

ξ゚⊿゚)ξ「………ごめん、何か手伝える事があればいいんだけど」

ショボンから借りた外套を羽織って、ツンは寒さに震える身を抱きながら言った。

爪'ー`)y-「なぁに、こういうのは男の仕事だ」

(´・ω・`)「なら、精神力の要る魔法より、火打石を使ってくれると在り難いんだけどね」

262名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:32:15 ID:sFhAi3KQ0

爪'ー`)y-「減るもんじゃあるまいしケチケチすんなよ」

(´・ω・`)「恒久的に減りはしないが、そうすぐに回復するものでも無いんだよ」

ξ゚⊿゚)ξ「………」

ぱちぱち、と時折火の粉が舞う焚き火をじっと眺める三人の元へ、継ぎ足す為の枯れ木を
また拾い集めてきたブーンが、汚れた手を払いながらどっかりと腰を下ろした。

( ^ω^)「ふぅ、これだけあればばっちりだおねぇ」

ふとブーンがいつもより静まった一同の雰囲気に違和感を感じて、それぞれに視線を向ける。
すると、その空気を作り出しているのは、普段よりもしょげたツンであるという事に気付く。

じぃっと炎を眺めながら身を震わす彼女は、少しナーバスになっているようだった。

263名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:33:34 ID:sFhAi3KQ0

( ^ω^)「………」

掛ける言葉を模索している内、ツンの方から声が掛かった。

ξ゚⊿゚)ξ「ねぇ………クーさんの事、皆はどう思ってる?」

(´・ω・`)「彼女の、事?」

ξ-⊿-)ξ「……うん」

この面々の中で、一番クーの身を案じているのは、ツン。

デルタの話を聞いた楽園亭のマスターが、年輪の刻まれた表情を殊更に渋ませて考え込んでいたとき、
彼がクーの捜索をブーン達へ願い出るよりも先に、それを声高に訴えたのはツンだった。

264名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:34:23 ID:sFhAi3KQ0

カタンの森での一件から、彼女がクーに対して何らかの拘りを持っているのは、パーティー内の
誰の目からも明らかだったが、その話になると途端に遠い目をする彼女に、それを追求する者はいなかった。

爪'ー`)y-「肝の据わった女だよ、お前さんと一緒でな」

ξ゚⊿゚)ξ「……私?」

(´・ω・`)「はは」

フォックスの言葉に、ショボンが小さく笑った。

彼もまた、同様の感想をツンに対して抱いている。
彼女の破天荒さ、出会った時から今に至るまでずっと変わらぬ彼女を一番見てきたのは、彼だ。

(´・ω・`)「勝るとも劣らないだろうね。彼女や君を怒らせる事は、そんじょそこらの男には出来ない事さ」

265名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:36:16 ID:sFhAi3KQ0

ツンと論争を始めてしまった時の、周りの緊張感はただ事ではなかった。

女だてらに剣を使うのもそうだが、妖魔を相手に怯むことなく真っ向から立ち向かっていったあの武勇は、
手に何も持たずにたった一人残された壊滅的状況から、奇跡の逆転劇を演出したツンに勝るとも劣らない。

歯に衣着せぬ率直な感想だった。
そのショボンの言葉に少しだけ笑みを浮かべた彼女だが、すぐに瞳には寂しげな色を浮かべる。

ξ ー )ξ「少し、違うかも」

(´・ω・`)「………?」

ξ ー )ξ「彼女……私よりもきっと、強い」

266名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:37:30 ID:sFhAi3KQ0

( ^ω^)「……ツン。クーさんとの間に、何か?」

ξ ⊿ )ξ「───うん」


─────その後、ツンはぽつぽつと降りしきる雨粒の音に紛れるようにしながら、彼らに話をした。

その昔、今は分裂してその信仰を違えた異端弾圧の動きが、聖ラウンジの一部の中にあった事。
かつてクーの居た町が、暴走したその信徒の手によって無実の人々が次々と吊るし上げられていた事。

それに巻き込まれて両親を失ったクーは、今でも聖ラウンジを憎んでいるという事実を。


ξ ⊿ )ξ「皆を引っ張っちゃったのは、私」

(´・ω・`)「………」

267名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:38:40 ID:sFhAi3KQ0

ξ゚⊿゚)ξ「罪滅ぼしになるって訳じゃないけど……それでも、彼女の事は放っておけないの」

爪'ー`)y-「何もお前一人が背負い込む問題じゃねぇだろ。腐敗ってのはな、どこの集団にでもあるもんだ」

ξ-⊿-)ξ「そうかも知れないわ……だからこれは、私の我侭に付き合わせてるってだけ」

ξ゚⊿゚)ξ「もし皆が乗り気じゃなかったら、私一人でもクーを捜しに行くから、今からでも──」

( ^ω^)「水くさいお、ツン」

ブーンが、そう言ってから、はっとしたようにツンが顔を上げた。
他の二人に顔を向けてみたが、同じように彼らもそう言いたげな表情を浮かべている。

268名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:39:44 ID:sFhAi3KQ0

( ^ω^)「これまでも、ブーン達はツンに散々引っ張りまわされてきたお」

ξ;-⊿-)ξ(う………)

( ^ω^)「それが今更、ツンを突き放したりするような事を、少なくともブーン達はしないお?」

(´・ω・`)「……そうだね。君がいつも波乱を巻き起こすという事は、出会った時から知っていたよ」

爪'ー`)y-「おいおい、たまに殊勝になってるんだからよ。ここはしょげた様子をもう少し楽しんで──」

ξ#゚⊿゚)ξ「あんだって?」

爪;'ー`)y-「何でもございません」

きぃっと睨みを利かされてすぐに小さく萎縮したフォックスをよそに、ブーンが言葉を続ける。

269名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:40:55 ID:sFhAi3KQ0

( ^ω^)「──ツンの話を聞いたら、ブーン達もますますクーさんの事は放っておけなくなったお」

ξ゚⊿゚)ξ「………」

( ^ω^)「だから一緒に助けるお。その為に、ツンは彼女の無事を祈っててくれお?」

ξ* ー )ξ「──うん」

一人で苦悩を背負い込もうとしていた自分が少し気恥ずかしくなるのと同時に、
改めて”仲間の存在”というものに、自分自身が助けられているのだという実感を得る、ツン。

少し俯いて声だけで返事を返したのは、彼女なりの照れ隠しだった。

爪'ー`)y-「そーそー。だからお前さんは、祈ってくれてりゃあいいのさ」

(´・ω・`)「言葉が悪いよフォックス、ツン、君は───」

270名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:41:46 ID:sFhAi3KQ0

ξ ー )ξ「大丈夫」

フォローを入れようとしたショボンに言われるまでもなく、ツンはその言葉裏を理解していた。

祈る事しか出来ない自分だからこそ、全ての魂の為に。
そしてまだこの地に生きる彼らや、救われぬ日々を送る人々の為にこそ。

今は───失意に深く飲み込まれているであろう彼女と、それを助けようとする自分達の為に。


ξ゚ー゚)ξ「私に出来る事は───これしかないから」


クーへと伝えた己の意思を、今でも就寝前には必ず捧げる彼女の両親の為への祈りを。
頑なに行動として貫き通している慈愛の精神を宿す彼女は、一同の前に顔を上げては、そう言って笑った。


─────

──────────


───────────────

271名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:43:03 ID:sFhAi3KQ0

──大陸南東の地 【ロアの村】──


川 ゚ -゚)「………美味しい」


空腹と披露に苛まれていた体中に、村人の一人が運んできてくれた暖かな玉蜀黍の甘いスープが、染み渡る。

( ゚д゚ )「食事まですまないな。備蓄だって、余裕はないだろうに」

「礼には及ばねぇです。”旅人には親切にせよ”っていうのが……昔から、ここいらの風習でね」

彼ら二人の元に食事を運んできてくれた老人は、この村の村長だという。
腰は折れ曲がり、杖を突いていてもおかしくはない年齢だろう。

歳相応に落ち着いた年輪が、刻まれた皺として表情に浮かんでいる。

272名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:43:45 ID:sFhAi3KQ0

「随分とお疲れのようだった……ゆっくりと、休んで行って下せぇ」

川 ゚ -゚)「──ありがとう、ご老人」

「連れのお方もねぇ」

( ゚д゚ )「痛み入る」

「では」、と二人に軽く会釈して、ロア村の村長は部屋を後にした。
その背を見送っていたミルナが、クーがスプーンを置いたのを見計らってから、切り出す。

( ゚д゚ )「クー。ここに来るまでに、何があったんだ?」

川 - )「………」

その言葉に、思わずクーは俯いた。

273名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:44:52 ID:sFhAi3KQ0

ミルナの話によると、ロア村の入り口手前にて体力、精神ともに限界を迎えたクーは気を失って倒れていたという。

それを発見した村人の一人がこうして村長の家にまで担ぎ込んでくれたのだが、
たまたまこの時、このロア村にはもう一人の冒険者が居合わせた。

今クーの目の前に居る、彼女自身が再会を願っていたミルナだ。

村へと運び込まれてきたクーと、これまで山に篭っていたというミルナがたまたま人里に下りた所で、
そこで運命に引き寄せられたかのように、二人は奇跡的な再会を果たした。

ミルナの言葉に、茫然自失となっていた自分の事を思い返すと、それに至るまでの
出来事がまたふつふつと暗い感情と共に湧き出ては、クーの表情は翳った。

川 - )「自分では、一人で小器用にこなせる、それなりの冒険者でいたつもりだった」

274名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:45:41 ID:sFhAi3KQ0

( ゚д゚ )「………」

川 - )「だけど───実際にはたった一人の少女すら救ってやれない、半人前だったのさ」

ぽつりぽつり、と悲哀に満ちた表情と声で語り始めたクーの話を、ミルナは真剣な面持ちで聞き入った。
真っ直ぐに彼女の瞳を見据えながら、無言のままに、時折頷いて。

クーは話した。

”魔剣”という恐ろしいものの存在を。
そしてそれに魅入られた少女が、次々と町の人々を惨殺していった経緯。

最期の時には───力及ばず、クーの仲間を殺したその少女もまた、命を落としたという事を。

川 - )「………」

( -д- )「………」

275名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:47:38 ID:sFhAi3KQ0

部屋の中には、互いの心にも痛い程の静寂が包んでいた。
傍らに居なかった自分では察してやりかねるその彼女の心中を思い、ミルナもまた深い哀しみに暮れる。

彼は彼女の不遇に対して、憤りにも似た感情を沸き立たせていた。

過去に両親を失って、精神に傷を作った少女。
どうしてこうも神という奴は、そのクーの心の傷口をなぞり上げるのだ、と。

それでも彼女は、心で悲鳴を上げながら己を見失いそうになる中でも、
死んでしまった少女の痛みや哀しみを、まるで自分の痛みや哀しみのように感じている。

( ゚д゚ )「………頑張ったな」

276名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:48:36 ID:sFhAi3KQ0

昔のように、その大きな掌を彼女の頭にぽんと置いて、優しく撫でてやった。
今でも幼い頃の面影を残しながらも、逞しい一人の女性に成長した、クーの頭を。

やがてミルナが、遠い目で呟いた。

( ゚д゚ )「俺も、かつては少女一人救えなかった」

川 - )「………」

( -д- )「その自責の念から、俺は過去を手放して逃げたんだ。現実からな……」

川 - )「それは、私の事か?」

( ゚д゚ )「あぁ───だが、お前は違う。クー」

優しげな表情を彼女に向けて、ミルナは彼女を励ました。

自分もまた、同じなのだと。

277名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:50:57 ID:sFhAi3KQ0

それでもお前は違う、胸が張り裂かれんばかりの哀しみと絶望を味わってなお、
まだ自分でその痛みを背負い込みながら、しっかりと己の足で立っている。

血を吐き出すような痛みに叫びながらも、お前は自分自身だけで、それを受け止めようとしているのだと。

( -д- )「俺が言ったらお前は怒るかも知れんが───傷はいつか……癒える。時が、癒してくれる」

川 - )「………」

( ゚д゚ )「人は弱い生き物だ───お前の声から耳を塞いで逃げてしまった、俺のように」

( ゚д゚ )「だが、幾多の理不尽を受けながら、傷を負いながらも」

川 ゚ -゚)「………ミルナ」


「……それでも、まだ心を蝕む現実と戦い続けるお前は強いさ、クー───俺などより、よほどな」

278名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:52:07 ID:sFhAi3KQ0

自らを武の道に投じて、ただひたすらに鍛え抜いてきた鋼の男は、外剛だった。

大陸でも指折りを数える程の屈強にして、知る人ぞ知る拳流門派。
”男闘虎塾”───その筆頭一號生として、”最強”の名に尤も近い筈の彼が。


川 ゚ -゚)「………私は、弱いさ」


そのミルナよりも非力で、かつて震えるだけでしかなかった少女は、内剛であった。

もっとも両親の寵愛を受けるべき年頃の彼女は、その親子の仲を永遠に引き裂かれてしまった。
共に連れ立ってくれた男も何処かへと消えた時、彼女はまだ、その男の後姿に惹かれていた。

女一人では過酷とされるその道を、男連中に混じってまだ幼い頃から歩み始めたのだ。

279名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:53:11 ID:sFhAi3KQ0

川 ゚ -゚)「そうさ、ミルナ──お前が、支えていてくれないと……私は」

( ゚д゚ )「………」

一人でぬかるんだ記憶の泥沼を歩み続けてきた彼女の前には、今は想い人が居た。
しかしその彼は、彼女の言葉には応えずじっと悲しげな眼差しを向けるだけだった。

ベッドの傍らに置かれた椅子から、ミルナはゆっくりと立ち上がる。

川 ゚ -゚)「……ミルナ?」

280名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:54:08 ID:sFhAi3KQ0

また、一緒に旅を出来る。
だが、そうとばかり思っていた彼女の想いは、その想い人の口から否定された。



( д )「───できん」

川 ゚ -゚)


( д )「俺は───お前と旅する事は、出来ないんだ」

川;゚ -゚)「ど、どうし……て?」


( ゚д゚ )「………」

281名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:55:00 ID:sFhAi3KQ0

動揺して、懇願するような声色でミルナの顔色を窺うクーだったが、
やはり彼の瞳は変わらず真っ直ぐに、ただクーの眼差しを押し返すばかりだ。

深く沈んだような色を、悲しげな目元に滲ませて。

川;゚ -゚)「待って──ミルナ!」

(   ゚)「………すまない」

救いを求めるように伸ばされた彼女の腕は、もはや背を向けたミルナの視界には入らない。
あるいはそれにも気付いている風であった───意図して、その彼女を突き放そうとするように。

戸を開けて、部屋を後にしようとしたミルナの背に声を掛けるも、彼が立ち止まる事はなかった。

282名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:56:10 ID:sFhAi3KQ0

川; - )「──どこへ!」

ぱたり、と閉ざされた扉の向こうから、彼の声だけがくぐもって聞こえた。


(お前は、俺なんかと居るべきでは───ない)


川;゚ -゚)「……くッ」

ベッドから飛び上がってミルナを追いかけようとしたが、やはりしこたま募った疲労が効いていた。
勢い良く髪を振り乱したところで、きん、と襲い来る頭痛に顔をしかめる。


(言ったはずだ、俺のようになるなと)

283名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:57:30 ID:sFhAi3KQ0

川;゚ -゚)「また……また私を置き去りにするのか!ミルナ!?」

(追うな、俺を───)

川; - )「待て!……待って───」


悲痛に叫んだ彼女の言葉は、ミルナには届いていないようだった。
扉越しにあった彼の気配は既に遠のいて、どこかへと行ってしまったように思えた。

頭を押さえながらベッドから立ち上がったクーは、少しばかりふらつきながらも彼の後を追った。


川;゚ -゚)(ここまで来て……そいつは無しだ)


川  - )(今度は許さないぞ───ミルナ)

287名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 01:03:44 ID:DZBL.5Tk0

───────────────


──────────

─────


満ちた月の光すら僅かにしか差し込まない、夜の闇が訪れた。
木々が覆い隠すかのように存在するその村を、梟の鳴き声が木霊した。

そこに本来居るはずの人間達は、息を潜めては、ただ無言のままに。
訪れた侵入者の命を奪うため、凶刃を振るうだけ。

極力気配を殺しながら廃村へ足を踏み入れたドクオだったが、その表情にもはや余裕は無かった。

( ∵)「!!」

288名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 01:04:29 ID:DZBL.5Tk0

(メ'A`)「──くッ!」

流石に気配や音に敏感な暗殺者達を敵に回しては、ドクオの潜入はほぼ筒抜けだったようだ。

既に5人もの同郷の喉や首を切り裂いた。
今相手にしているのは、その彼らが同時に三人だ。

三方向から囲まれて一斉に突き出されたナイフを、一本は屈んで躱す。
最初から脇腹あたりへと向けられた一本には、その柄を握る手首を掴んで軌道を逸らした。
残る一本には右手に構えるククリナイフの腹をかち当てて、倒れ込みながらも難を凌いだ。

( ∵)「フンッ!」

その場から身を横転させると、すぐに今居た場所にナイフが突き立てられた。

289名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 01:05:25 ID:DZBL.5Tk0

(メ;'A`)「……ちぃッ!」

残る二本の凶刃が襲い掛かる前に、ドクオは足を絡ませて仮面の一人をその場へと引きずり倒す。
すかさず胸元を掴んで引き寄せた首の横へと刃を刺し入れてから、即座に後転してその場を脱した。

( ∵)「──死ねッ、裏切り者がァッ!」

(メ'A`)「………」

仮面の奥で、押し殺した激情を垣間見せた一人が突っかけてくる。

同じ境遇に喘いでいる、世間からは忘れ去られた者達。
その中でもそいつは、こんな掃き溜めにあっても仲間を、居場所というものを見出したのだろう。
有無を言わさず人殺しの道具に育てられていく日々の中に、彼は同化しようとしているのか。

290名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 01:06:12 ID:DZBL.5Tk0

果たしてどちらが正しいのだろうかと考えながら、ドクオは自分に向けられた刃先を眺める。

与えられた役割を、不満一つ漏らさない機械としてこなす日々。
それに対しての自分は、たった一つの下らない理由の為だけに────

( ∵)「ぐ、ぁッ!」

(メ A )(裏切り、ねぇ)

指の数本ごと、突き出されたナイフを寸前の所で切り払った。
血を噴き出した手を押さえて痛みに悶絶する仮面は、もう利き手に刃を構える事は出来ないだろう。

その男の方へと、ドクオが一歩踏み出した。

( ∵)「……ヒュゥッ!」

そこへ、左方より援護に躍り出た一人がその首筋を狙い済ました一撃を見舞う。

291名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 01:07:44 ID:DZBL.5Tk0

(メ'A`)「単純、過ぎるぜッ!」

( ∵)「か───はッ……?」

軌道を見切って首を傾けたドクオが同時にククリを握った腕を半ば無造作に伸ばすと、
言葉を失った仮面は、突き刺された己の心臓へと視線を落としてから、ぱったりとその場に倒れる。

そして、指を斬り落とされた痛みでその場に膝を着く、最後の一人の元にドクオが詰め寄った。

(メ'A`)「これで、残るはお前だけか」

( ∵)「──て、てめぇッ!」

人目を避ける暗殺者達の隠れ里に立ち入ってから、もう7人もの返り血を浴びてきた。
どうやら腕の立つ人間も何名かが混じっていたらしく、ドクオもまた身体の端々に裂傷を負っている。

292名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 01:08:32 ID:DZBL.5Tk0

それでも戦意が萎えたりしている様子は微塵もなかった。
寧ろ、暗い炎が燃え盛るような、言い知れぬ雰囲気を纏う彼の視線に射抜かれると、仮面は言葉を失う。

(メ'A`)「残る何人かは、目下育成中の”子供達”ってとこか?」

(;( ∵)「……くっ」

ドクオが言い当てた通り、もうこの里に戦える人間は居なかった。

たとえ襲撃者の存在を知っていても、わざわざ恐怖から己を奮い立たせ、
矢面に立つ度胸を持つ”前途有望”な子供など居ない。

それは、幼少の頃この里に居た事のあるドクオを除いては、という話だが。

293名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 01:13:55 ID:DZBL.5Tk0

数え切れない程の人間を葬ってきた”黒き手”のエクストに、尤も近い男。
そいつが放つ異様な静けさに当てられて、残る仮面に出来る事はもう、死への覚悟を決める事だけだ。

だが不意に、ドクオは眼下の刺客に対して問いを投げかけた。

(メ'A`)「なぁ。お前は、明るい未来とか考えた事……あるのか?」

(( ∵)「………」

(メ'A`)「まぁ──いいや」

裏切り者である自分と刃を交わしたその一人が、ほんの一瞬だけではあるが、
組織の命令という単純な理由ではなく──とても個人的な感情を見せた気がした。

道具として扱われる日々にまだ心折れる事なく、陽の当たる日々がいつの日にか
自分にも来るのだという事を信じているような暗殺者が、とても珍しく思えたから。

294名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 01:14:39 ID:DZBL.5Tk0

突飛な質問に面喰らったであろう彼を尻目に、ドクオが肩をすくめた。
操り人形のようにただ指令に突き動かされるだけの彼らに、己の意思など無いだろう、と。

しかし、間を置いて仮面は確かに呟いた。

(( ∵)「………あったさ」

(メ'A`)「へぇ?」

(( ∵)「この村の仲間とで、いつか俺たちが自由になる日々、だ───」

(メ'A`)「………」

(( ∵)「あんたぐらいの強さがありゃあ……俺だって、エクストの野郎には従ってないだろう」

295名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 01:15:23 ID:DZBL.5Tk0

(( ∵)「だがな、俺たちはアンタなんかとは違う。あいつの命令に逆らう事なんて、出来ないんだ」

(メ'A`)「さしずめ、俺がその夢とやらをブチ壊した……って所か」

(( ∵)「………今更、恨み言は言わねぇけどな」

(メ'A`)「殺し屋同士で仲間意識、ねぇ……持った事はねぇから、お前の気持ちはわからんが──」

そう言って、ドクオはまた肩をすくめる。
手に持ったナイフの血を衣服の裾で拭い終えると、彼はそのまま仮面の横を通り過ぎて行こうとした。

見逃された───生きていられる。

(( ∵)「待て」

まだ命ある者ならば、誰もがそう思うはずだ。

296名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 01:16:48 ID:DZBL.5Tk0

しかしそれは、こんな場所でも仲間と言えるような同僚を持ち、それをドクオに殺された彼にとって。
名も知らないその手負いの暗殺者にとっては───情けという屈辱以外の、何者でも無かった。

(( ∵)「殺さないのか」

(メ'A`)「逆に聞くけど、殺されたいのか?」

(( ∵)「……こんな中途半端で、俺だけ生かされているよりは、な」

(メ'A`)「ハッ……」

笑ったような表情のドクオが胸元から、小ぶりの短剣を抜き出した。
振り向き様にそれを指先から放ると、刃は仮面の顔のすぐ傍を通り抜けて、彼の背後の地面へと刺さる。

(;( ∵)「ッ!?」

297名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 01:18:19 ID:DZBL.5Tk0

意図している所がわからず、後からやってきた緊張感に鼓動が早まり、仮面の奥で顔を上気させる。
そんな彼に踵を返したドクオが、ひどくなで肩のその肩越しに、告げた。

(メ'A`)「お前は、今ので死んだって訳だ」

(( ∵)「何のつもりだ……?」

(メ'A`)「行きな──何処なりとな」

(( ∵)「……どこに行った所で、エクストが命令すればすぐに連れ戻される……」

「俺たちに逃げ場なんて───」

言いかけた所で、はた、と彼は気付いた。

組織を抜け出してから、再びこの場へと舞い戻ってきたドクオの目的を。
長であるエクストが、恐らくはそうでないかと踏んでいた通りの事が、今起きているのだ。

298名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 01:19:04 ID:DZBL.5Tk0

(メ'A`)「そのエクストを、俺がこれから殺すんだ」

(( ∵)「──本気、だとは……な」

(メ'A`)「まぁそうなりゃ──お前たちは晴れて自由の身だろうさ」

(( ∵)「………」

「まだ気に食わねぇなら、エクストが死んだ後にいつでも来な」

言い残してドクオは、彼を一人その場に残して歩き出した。
エクストが休憩所として使用していた、村の外れに位置する小高い丘の家屋を目指して。







299名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 01:20:10 ID:DZBL.5Tk0

長であるエクストさえ亡き者とすれば、子飼いの暗殺者同士で殺し合いを必要は無くなる。

そうとばかり思っていたドクオだったが、自らを殺して冷徹な殺戮の道具と成り果てていた自分と違い、
まだ心に熱いものを残していた若者を見逃したのは、憎悪の種を撒いただけに他ならないだろう。

彼が本当に仲間だと思える存在を自分が手に掛けたのなら、彼はいつか、自分を殺しに来るかも知れない。

(メ'A`)(ま、そんな最期もアリかな……)

”でぃ”の仇であるエクストを殺し、幼い頃の罪の一つを贖い終えた時───自分はどうやって死のうか。
そんな事を少しも考えていなかった彼は、かつての同郷に殺されるのであれば悪くない、と考えていた。


”ばごんッ”

(メ'A`)「お邪魔するぜ」

300名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 01:20:58 ID:DZBL.5Tk0

目に入った住居の扉を蹴破って、その先に視線を向ける。
───思ったとおりだが、どうやらエクストは不在だった。

左右への注意を怠らず、心持ち足音を消しながら入って行くも、やはり誰も居ない。

(メ'A`)「なら……しばらく待たせてもらうとしようか」

そこいらのソファに身をもたれて、連戦による疲労を束の間癒そうとした時、
ふと小さな机の上に置かれた、一枚の羊皮紙に目が留まった。

ドクオにはそれが、自分にとって目に付きやすい位置にわざわざ置かれているように思えてならなかった。

(メ'A`)「この字は───」

301名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 01:21:42 ID:DZBL.5Tk0

間違いなく、エクストによる直筆だ。
ご丁寧にも二枚が重なった上の一枚には”ドクオへ”と宛名されていた。

随分と整った文字で書かれているのが、妙に苛立ちを募らせる。
あいつはきっと、おふざけ半分でこの書置きを残したのだろうと。

ぺら、と捲った2枚目には───こう書かれていた。

”あの場所で待つ”


(メ'A`)「………?」


微かな違和感を覚えた。
その文末、羊皮紙の端に小さく書き足されたような文字を目にしてからだ。

302名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 01:22:46 ID:DZBL.5Tk0

”──生きてたらな”


(メ'A`)「俺を殺せる奴なんて───」

持ち前の勘の鋭さに加えて、すぐさま想像力を働かせる。
導き出した答えは、この手紙を一度は手にするであろう自分への、闇討ち。

こんな手紙を残す以上、エクストならば半ば冗談めいた、そんな罠も仕掛けかねない。

”…ぎっ”

違和感が確信を得た時、微かに頭上から聞こえた音に、まず身体が動いた。

(メ;'A`)(梁の────上かッ!?)

303名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 01:23:39 ID:DZBL.5Tk0

(メ; A )「……クソがぁッ!」

叫びながら振り返り、後方へと身を投げ出す。
直後に響いたのは、全体重量を伴った刺突が、すぐ背後の床板へ突き刺さる音。

”ドンッ!”

その気配を察知する事が出来なかった───侵入者の首を狙う者が、この家屋に潜んでいたのだ。

辛うじてその場の難を逃れたドクオは、即座にその方向へと振り返る。
そこには、小剣ほどの長さの短刀を床板へと突き刺していた男の姿があった。

304名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 01:25:44 ID:DZBL.5Tk0

∠ ̄\
 |/゚U゚「激しく──暗殺失敗」

全身に纏うは、濃紺の装束。
頭に被る頭巾が、冷徹な表情を浮かべているであろう顔を大きく包み隠している。

妖しく鈍色の輝きを放つ短刀を床板から引き抜くと、深く腰を落として片手に構えた。

露出した双眸には、狂気に満ちた猛禽の光を宿し───
恐ろしく低い体勢から付け狙うように、ドクオの姿を見据えていた。

(メ'A`)「……お前みたいな奴も飼われてたんだな」

305名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 01:27:18 ID:DZBL.5Tk0

∠ ̄\
 |/゚U゚「問答無用」

ドクオの問いにはただ、装束の男は短刀を持つ手首をちゃき、と返しただけだ。
一見すると奇抜な風貌だが、”使う男”だという事を、瞬時に判断した。

不可思議な体勢でも揺るぐ様子の無い体重均衡、決して対象への視線を外す事の無い観察力。
無音でいて、流れるように軽やかな一歩一歩の踏み込みと、その間合いから実力を感じさせる。

恐らくは───”自分自身と拮抗し得る”とさえ思う程に。

(メ'A`)(俺の生まれたとこにも、いたっけな)

子供の頃に見た本で、おぼろげながらその存在は知っていた。
異国の暗殺者───確か、自分の故郷であるヒノモトが発祥のはずだ。

確か、こういうのを”ニンジャ”とか言ったか。

306名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 01:29:12 ID:DZBL.5Tk0

∠ ̄\
 |/゚U゚「かくなる上は、真剣勝負──」

どうやら、ニンジャの方もドクオを強敵と見定めたようだった。

(メ'A`)「……面白ぇ」

ククリナイフを右手に、それに比べると幾分か小ぶりな短剣を左手に。
それぞれを逆手に構えたドクオもまた、刃先を外側へと向けて、どん、と腰を落とした。
互いに足を床に擦らせながら、猛禽の忍とドクオとの差は、じりじりとだが確実に詰まっていく。

やがて最大限にまで緊張の糸が張り詰めた中で、二人の暗殺者は同時に言葉を放った。

∠ ̄\
 |/゚U゚「いざ、尋常に──」

(メ'∀`)「来な───胸を貸してやるからよ」


───その言葉が、闇夜の決闘の幕開けとなった───

309名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 04:08:36 ID:DZBL.5Tk0

───────────────


──────────


─────


──ロアの村 付近──


川;゚ -゚)「はぁッ、はぁッ……」

ちら、とこちらの方角へと消えていくミルナの背を、辛うじて見かけた。
その彼を追うクーは、夜も深まった村付近の森の中を、息を切らせて駆け抜けていた。

310名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 04:10:42 ID:DZBL.5Tk0

川;゚ -゚)(捕まえたら、いくら言い訳しても承知しないぞ──ミルナ!)

村の付近を取り巻く”ロアの森”には、昔から伝えられている伝承があった。
それも今では殆どが語り失われてしまったものの、未だ古くからの民の記憶には新しい。
月の満ちる時にだけ現れては、そこへ向けて遠吠える。

山の守神としてかつて崇められた月の狼は、”ムーンロア”と呼ばれていた。

獰猛な野獣の類だと勝手な勘違いをして、それを倒そうと躍起になった人間は、彼に次々と殺された。

しかしムーンロアは本来、彼が天に吠える事で山に恵みを齎す存在であったのだ。
人に仇なす妖魔はその咆哮におののき何人も近寄らず、逆に動植物はその元へとより集まるようになる。

だからこそ月の狼を倒す事は、災いを振りまく事に他ならないと、信じていた人々が居た時代がある。
時が経つにつれてその言い伝えも薄らいでは、付近を旅する者達にそれが知られる事も──次第に無くなったが。

311名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 04:11:43 ID:DZBL.5Tk0








( -д- )(知っていれば、か……)

今では取り戻す事の出来なくなってしまった日々。
こうあれば、という夢物語に想いを馳せながら───

ミルナは、月の光に照らし出される己の両手を見つめていた。

不意に、ざわ、と背筋に嫌な寒さが伝わる。
己の身を抱きしめるように、その寒さから逃れるように両手を身へと絡ませた。

( д )(来……た)

人知れず育まれてきた”ムーンロア”の血脈を絶やした者は、過去に誰一人としていなかった。
───彼、ミルナ=バレンシアガが初めてだったのだ。

312名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 04:15:07 ID:DZBL.5Tk0

(; д )(───”師父”よ、”メッシュ先輩”方よ……!)

同門の、苦楽を共にした過去の宿敵(とも)や、好敵手達。
それぞれに懐かしい顔を思い返しながら───今日もその思い出たちに縋った。

「助けてくれ」と。

徒手空拳のみを武器として、常勝無敗を築いてきた鋼の男。
しかし己自身だけでは決して打ち勝つ事の出来ない”呪い”の効力に今、恐怖して。

”月の狼”は、確かな魔力をその身に宿していた。
蠱惑的なまでの黄金色を双眸に灯すかの獣の魔力は、満月という日に尤も高まる。

ミルナ自身を含めても、これまで誰一人として知らない事実だが───
月から受けた魔力を咆哮にて周囲へと発散させる事こそが、
ムーンロアが”月の狼”であり、”山の守神”足り得る所以だった。

313名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 04:16:39 ID:DZBL.5Tk0

ミルナは確かに、その獣を単身で倒した。
手に何も持たずして、彼の命を奪った。


(; д )「……俺は──違う!……嫌だッ、俺はッ!」


あの満ちた月の日。
ムーンロアの最期を看取った時から、彼は────


「──ミルナ!!」


(;゚д゚ )「………ッ!?」

その声に、驚愕した。
そして同時に、戦慄をも禁じえない。

何故、彼女は自分を追ってきてしまったのだと。

314名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 04:17:46 ID:DZBL.5Tk0

川;゚ -゚)「はぁ……やっと見つけた、探したぞ!」

ミルナが振り返った道の先に立つのは、やはりクーだった。

かけがえの無い存在。
絶対に、失いたくは無いその彼女が。

何も知らずに、”獣の領域”へと踏み込もうとしている。

川 ゚ -゚)「さぁ、聞かせてもらおうか──どうして、旅を共に出来ないのかをな」

(;゚д゚ )「く、クー……!離れろ……こっちへ、来るんじゃない!」

川;゚ -゚)「……!?」

言葉を間違えた。
辛らつな言葉で突き放せばまだ良かったと、内心ミルナは舌打ちした。

315名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 04:21:48 ID:DZBL.5Tk0

川;゚ -゚)「どうしたんだ……顔色が、おかしいぞ?」

まだ自我を保てているのが、彼にしてみれば奇跡のようだった。
目の前にクーがいるからこそ、意識は少しでも長く繋ぎとめる事が出来た。

まだ未練を残す、人間の意思の元で。


( ゚д゚ )(───ア)

川 ゚ -゚)「………え?」


限界と感じたのは、その一瞬だ。

ミルナもクーも、二人ともが同時に見上げていた。
灰色の雲がかかった空に浮かんで、金色の光を放つ、その月厘を。


その周りには、幾重にも丸く光が編み込まれた────巨大な月の傘を見た。

316名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 04:22:56 ID:DZBL.5Tk0

「見る、な………」


川 ゚ -゚)「ッ!?」

( д )「──見な、いで……クレ───クゥッ!」

再び視線を落とした時、既にミルナの身体は”変質”しようとしていた。

突如何かが弾けるような反動を受けて、びくんと大きく仰け反った彼の胸元は、瞬く間に隆起する。
ぞわぞわと耳に届く気色の悪い音の正体は、彼の身体中の毛穴から、急速に伸びる銀色に光る体毛だった。

川;゚ -゚)「ミル───ナ?」

もう、そのクーの呼びかけが届く事は無かった。
けだものに侵食されていく心には、もはや人の言葉など通じないのだ。

317名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 04:25:17 ID:DZBL.5Tk0

(# д )「に、げ──オアアァッ!アギィィィッ……!」

全てを口に出来ぬまま、身に起きる異変に耐えかねたミルナが四肢を地面に着くと、
とうとう彼は、二本の脚で地を踏みしめるヒトの姿ですら、無くなってしまう。

川; - )「───こん、な……馬鹿な……」

自分はまた、とても良くない夢を見させられているのか。
クーが目にする信じがたい現実の前には、そんな都合の良い考えが過ぎる。

しかし”ミルナだったもの”が放つ本能的な危機感に、クーの脚はかたかたと震えていた。
どうしようも無く、どこまで逃げても───今という時は無常な現実。

満ちた月光の元に照らされた彼の内で、やがて呼び覚まされた獣性が、吠え声を上げた。


 #゚叉「……ァアオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォッッッーーーーーー!!」

318名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 04:26:04 ID:DZBL.5Tk0

川; - )

その瞬間、ひりひりと肌を突き刺す威圧感が、クーの全身を粟立たせる。

まるで大気が張り裂かれるようなものだった。
耳を塞いでも、鼓膜が打ち震えてしまう程の咆哮。

恐怖に固まる全身では、その光景から目を逸らす事さえ出来なかった。




やがて────その咆哮が止んだ時。


恐る恐る、彼女は天を仰いでいたその獣に声を掛ける。

319名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 04:28:24 ID:DZBL.5Tk0

川;゚ -゚)「………ミルナ、なのか………ッ」


クーの目の前にいるのは、かつて彼女が知っていた想い人の姿ではなかった。

全身を、月光を照らし返す程に輝かしい白銀の色に染められた、巨躯の銀狼。
人を惹き込むような瞳の力強さは、確かにミルナにも似ていた。

だが、暗闇の中に映える双眸が宿す対の黄金色には、人としての自我など欠片も感じさせない。


ミ#゚叉゚彡


あるのはただ、長らくの空腹に耐えかねて眼前の獲物に舌なめずりをする、欲望の色。

闘いに明け暮れた一匹狼の成れの果て───悲しい程に本能に忠実な、餓狼の姿でしかなかった。

320名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 04:30:27 ID:DZBL.5Tk0



   ( ^ω^)ヴィップワースのようです


              第10話

         「孤狼は月厘に哭く(1)」


             -続-


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