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( ^ω^)ヴィップワースのようです 第10話「孤狼は月厘に哭く(2)」

332名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 02:47:35 ID:SbeAitYU0

雨粒が屋根を叩く音が響く、朽ちかけた住居。

その一室で幕の開けた命の取り合いは、一進一退の攻防が矢継ぎ早に展開されていた。
互いが互いの攻め手を殺し合い、息つく間もなく繰り出される致死打から、巧みに身を躱し続けるものとなって。

(メ'A`)「エクストのお気に入りか?……”期待の新人ッ”」

ドクオが踏み込み、左手で突き出した短刀。
しかしそれを持つ腕を削ぎに来るのを読みに入れ、腕を交差させてククリの刃を横に置いていた。

”ギンッ”

身を引きながら刺突を躱したニンジャの薙ぎ払いを、やはりというべきか、その刀身で受けた。
頭巾に覆われたニンジャの表情こそ窺えないものの、恐らくは眉一つ動かしている様子は無い。

333名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 02:50:26 ID:SbeAitYU0

瞬き一つが命に繋がる程に、思考する間も無く二人の間を刃だけが飛び交う。

(メ'A`)「それとも、金で雇われた飼い犬だったか?」

∠ ̄\
 |/゚U゚ 「………」

一瞬ニンジャの小太刀を弾き返した隙を突いて、短刀の投擲を見舞おうとも考えたドクオだったが、
ニンジャはドクオの主たる殺傷能力を秘めた歪曲の刃への注意は怠らぬまま、逆手に構える短刀が
いつ投擲されても致命傷だけは免れられるよう、逆の手腕では常に急所への警戒を払っていた。

やりづらい、というのが印象の相手だった。

(メ'A`)(堅ぇ)

334名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 02:51:45 ID:SbeAitYU0

∠ ̄\
 |/゚U゚ 「……激しく、封殺」

これまでの展開は、正しくニンジャの言葉通りだ。

独特で突飛な体裁き、加えて得物のリーチでは倍程度の差がある現状。
未だに互角を繰り広げていられるのは、ドクオもまた二手という優位性を保っているからだ。
機さえ訪れれば片方のナイフを投擲して手傷を与え、更にもう片方で止めを刺せる。

しかし万一その機を見誤ってしまえば、今度はナイフ一振りだけで戦うにはリーチで劣るドクオの劣勢は揺ぎ無い。

相手もまた、ドクオに負けじ劣らずの肉薄した実力を持つ始末屋。
たとえ腕一本や目玉一つ犠牲にしても、その代わり確実に命を脅かす一撃を放って来ると踏んでいた。

335名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 02:53:37 ID:SbeAitYU0

”コォンッ”

今は機を待つ他無い───ただ無心で、ドクオの殺傷範囲外から放たれた一刀を往なす。
だがそこで、予測の範疇には無かった伏兵の存在が明らかとなる。

”ずぐっ”

(メ;'A`)「───ッ!?」

刃を合わせて、確かに。首を狩り取られかねない剣閃は逸らした筈だった。
しかし直後には、右の上腕へと音も無く入り込んだ感触。鋭い激痛。

∠ ̄\
 |/゚U゚ 「激しく、手応え──」

途端、ニンジャの打ち込みの苛烈さが上回る。
それまでよりも積極的に首を取りに来ているのが、分かる程に。

336名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 02:55:31 ID:SbeAitYU0

ニンジャの動きが良くなったというよりも、それは逆だ。
棒状の太い針のような金属片が、ドクオの左上腕部を貫通している、というだけ。

(メ;'A`)(チッ……俺とした事が)

見落としていた。あるいは思いの他手強い白兵戦こそが真価かと、その存在を忘れてしまっていた。
対象の暗殺や諜報活動を担う”シノビ”が極意とするのは、何も刀剣で斬り合う事だけではない。

時にワイヤーや毒針を使う自分達同様、”シュリケン”や”クサリガマ”といった独自の暗器を用いる。
そうしたニンジャ達の立ち回り方をドクオ自身知識としては知っていたはずだったが、それだけに。
影の合間を縫うかのようにして巧妙に打ち込まれた棒型のシュリケンの痛みに、苛立ちを覚えた。

337名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 02:58:46 ID:SbeAitYU0

一見すると思い切りの良すぎた小太刀の打ち込みは、その実。
振りの遠心力を生かして投擲武器を放ち、こちらの動きを抑止する為への、布石だったのだ。

油断───状況は不利に追いやられた。

(メ A )(それでも)

先ほどまで命令に従っていた自分の左肩が、今ではまるで鉛のように重く、熱い。
東洋の神秘”ニンジャ”は、ドクオ自身これまでに数える程しか出会わなかった、手強い相手だった。

だが手負いの今、安い命の張り合いをしている今という時。
目の前で互いに殺意を篭めた刃を見舞い合う、今の自分には。

より身近に感じられるのだ───生も、死も。

あの日、自分の命可愛さに”でぃ”を殺した時の自分は、きっと”生きたい”と無意識に願っていたのだろう。
皮肉な事だが、今贖おうとしている”原罪”こそが、歩く死人に等しい今日までの自分を、練り上げた。

338名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 03:00:20 ID:SbeAitYU0

(メ'A`)(やっぱ……死ぬ気はしねぇんだ。これが)

原罪───過去───そして現在までの時を経て。

這い寄る死から逃れる術に、長けていると言えるだけの実力を備えた。
常に血塗られた幾夜をも駆け抜けてきた自分だからこそ、それへの自負もある。

他人の生き死に、ましてや自分の命などどうでも良いと思っていたつもりだった。

しかし裏を返せば、自分の命が惜しいからこそ組織の犬として冷徹を演じ、名も知らぬ他人を殺め続けてきたのだ。
そうでなければ、今も沸きあがってくるこの感情には説明が点かない───”負けるつもりなど無い”などとは。

凍て付いたはずのドクオの心の氷壁の奥には、まだ生命への執着という種火があった。
命を賭してでしか掘り起こす事の出来ない記憶の忘れ形見が、あともう少しだけ、先にあるからだ。

339名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 03:01:44 ID:SbeAitYU0

∠ ̄\
 |/゚U゚ 「──首級、激しく頂戴」

激しく繰り出される小太刀の連弾を、ドクオは辛くも凌ぎ切る。


───距離を取った。


(メ'∀`)「……お前、もう面倒くせぇわ」


───左手にあった短刀の刀身を指先に掴むと、指差すようにしてそれを投げつけた。

340名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 03:03:22 ID:SbeAitYU0

∠ ̄\
 |/゚U゚ (勝機)

闇を裂く一振りの銀閃。

躱すには、ニンジャの動体視力にとってみれば十分な距離だったようだ。
床に手を着きながら、べったりと身を伏せるようにしてからまもなく。
その背後の壁には、びぃんと音を立てて短剣が突き刺さった。

それを契機としてニンジャはより低く、そして大きな一歩を踏み出した。

短剣を振るい投げてから刹那を経て。
ドクオの眼前には、小太刀の長大さを生かした直突が迫る。

(メ'A`)「──だろうな」

341名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 03:08:30 ID:SbeAitYU0

”ぞぶっ”

そのまま、喉元を貫き通した感触が、ニンジャの手元の柄には伝わった。

確かに小太刀の切っ先は、肉を抉っていた。
だが、その後に顔を上げた彼が目にした結果は、想像した物とはかけ離れていた。


∠ ̄\
 |/゚U゚ 「………激し、く─────!?」


存命───刀身が穿ったのは、急所では無い。


(メ; A )「くッそッ───痛ぇなんてもんじゃ、ねぇけどよ……」

342名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 03:11:01 ID:SbeAitYU0

動揺したニンジャであったが、それに気付いてからは柄に力を篭めて、刀身を引き抜こうとした。
だが、重心を背に預けるのが僅かばかり遅れたために、逆にニンジャの身は引き寄せられる。

身体の中心で盾となるようにして刃先を留める、あえて小太刀に貫かせたドクオの左腕に、力が篭められたからだ。


(メ;'A`)「……”残念”。詰んだぜ、お前」


ほっそりと筋張った腕には確かに刃が通っている。
が、それ以上刺し込む事も、引き抜く事もままならない。

だから、すぐに得物を手放すという選択を、ニンジャは最速で行った。


∠ ̄\
 |/ U 「────ッ!!!」

343名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 03:13:02 ID:SbeAitYU0

距離を保つため、すかさず背後へと跳躍して、逃れる。
だが、それでもドクオの黒刃の加害範囲にまで寄ってしまった体全体を逃がす事は、出来なかった。

背後の床へと着地してから間もなく。
自らの紺色の装束の首のあたりから、繊維がはらりと垂れるのに気付いた。

その場所を触ってみると───濡れていた。
生暖かく、そして後から後から湧き出るような、ぬめりを伴ったもので。

∠ ̄\
|/ U 「ッぶ、ぐ……!」


”自分の口から、血泡が噴き出されている?”

344名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 03:17:15 ID:SbeAitYU0

気付いた時には、既にニンジャの眼下では赤い噴水が音を立てていた。
瞼の上から覆う黒い雲もかかり始める頃には、視線はいつの間にか、無数の梁が伝う天井を見上げて。

(こいつは、俺の生まれでの受け売りだけどよ)

頚動脈を切り裂かれて吹き出る血の赤と、混濁していく意識の黒によって、直に視界は閉ざされた。
──残された数十の時の間に聞こえるのは、ぼんやりと遠くから呼びかけるようなドクオの声だけ。

(”ブッ教”ってぇのの……お偉い坊さんが、言ってた言葉だ)


∠ ̄\
 |/ U 「ごぷッ……が、ばぁ」



(───”ショギョウ ムジョウ”、だとよ)

345名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 03:18:54 ID:SbeAitYU0

∠ ̄\
 |/ U (……その方の、業……まさに”無情”……也……や───)


同じ土地に生まれた、異国の同業者。
その彼の最期に、ドクオは故郷の言葉を餞とした。

”この世の全ての物事は、一時として移ろう時を止める事など無いのだ”という、その言葉を。

二人の勝負の明暗を隔てた”闘法”ですらもが、その限りではなかった。
己の命をも流転の元に曝し、そして凝り固まった型からも逸脱しなければ。

たとえそうまでしても、ニンジャが果たしてドクオの立つ境地にまで辿り着けたかどうかは解らなかった。

346名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 03:21:41 ID:SbeAitYU0

全ての命はやがて死へと辿り着き、永久に失われ。
全ての罪にもいずれは、罰という名の裁きが下される。

あえて自らその道を往くドクオは、死に慣れ親しんだだけのアサシンではない。
あるいは、茜に染まったあの砂浜に流れ着いた時から恐らく既に、人としては死を迎えていた。

そこへ、故郷の火酒の熱さと、青臭さを語る狐目のコソ泥の眼差しとが、小さく火を灯したばっかりに。

(メ'A`)「左腕はオシャカ、ね……」

原罪を照らし上げる蝋燭の炎が呼び起こしてしまった。
彼の内に眠る、僅かばかりの”悔恨”というものを。

だから死人は、今彷徨うだけ。

347名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 03:23:16 ID:SbeAitYU0
行き着く先は、ただ滅するのみ。
一人と、もう一人の仇を葬った、その後に────

左腕からニンジャの遺した小太刀を引き抜き、携帯した薬草の類で血止めをする。
失血に少し足元はふらつき、指先が痺れつつあった。

取り出した包帯の端を口に咥えながらそこにきつく撒きつけてやると、血色はもう殆ど見られなかった。

(メ'A`)(感覚、無くなりかけてやがんな)

考えにも入れていないドクオだったが、期せずして、舞台は整えられていた。

ドクオと実力を二分できるだけの存在は、もう、一人しか居ない。
当時それに最も近いと目されたドクオが今より挑むは、闇を渡り歩く生きた死神。

これより行われるは、どちらかの血を以って”黒き手”の称号が移譲される、果し合いの儀でもあった。

371名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 13:37:04 ID:cxH.ljNE0

―――――

――――――――――――


―――――――――――――――



《……喰ラエ》


聞こえた声には、もはや返事を返す余裕もなかった。
抗う事など出来ない、抑え付ける事のままならない存在だと、知ってしまっているから。

大事な娘一人を守ることおろか、殺そうとしている自分を、おぼろげながら自覚してしまった。


《喰ラッテ、腹ヲ満タセ》


「………」

372名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 13:40:11 ID:cxH.ljNE0

数日前、数週間前までの自分なら───”ミルナ=バレンシアガ”ならば。
決してそんな声に耳を貸す事などなかった。

傲岸不遜を貫き通し、人の理に、それへの義に恥じるような事に荷担する事など、有り得なかったはずだ。


《ドウシタ、食ワセロ》


しかし、もう───自分は以前までの自分では無くなってしまった。
自身の内側で人知れず聞こえるその声を、かき消すようにして叫んでいた胆力も、もう萎えた。

せめてもの抵抗は、水以外の一切を口にせず、緩やかに死に行く事だけ。

そうして山に篭って、数日が経った頃だったのだ。
人が恋しくなって、居ても経ってもいられなくなってしまった折に、麓の村でクーと出逢ったのは。

373名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 13:41:07 ID:cxH.ljNE0

少なからず、いや、激しく。
心は揺り動かされる出来事だった。

自ら死を選んだ決死の思いが、再びの生を求めて揺れ動いてしまう程に。

それは、今もなお。


《旨ソウナ肉ガ、目ノ前ニアルノダゾ》


「………」

もはや、己が内に宿ったけだものの声に逆らえるだけの意志力はなかった。
死する時まで、人を喰らう獣として生きていく定めは、”この獣”を打ち殺した自分への罰。

あるいは、もっと昔の出来事がそれに起因しているのかも知れないと、寂しそうに心で笑った。

374名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 13:41:55 ID:cxH.ljNE0

「もう、いい」


決して折れる事のなかった筈の漢の心は、諦めに染まっていた。
思い返すのは闘いに明け暮れた日々と、友との思い出。


あれは、いつだったか。


───────────────

──────────

─────



― 15年前 ―



(;゚д゚)「ハァッ……ハァッ」

375名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 13:42:37 ID:cxH.ljNE0

5人の門下生に囲まれて息を切らせるのは、まだ表情にどこか幼さを残した少年。
だがその彼の足元では三人の男が鼻血を流して気を失っていた。


「……やっちまえ!」


(;゚д゚)(ふふ)

真に男を磨く場所───その言葉の誘いのままに、彼は山奥に佇む荘厳な門をくぐった。
そうして辿り着いたのは、どいつもこいつも鼻息を荒くして、小さな世界で強さ比べをしたがるだけの男達。

己自身を磨こうという気など更々ないのだ、こいつらは。

群れる事で独力では勝てない個人を押さえつけながら、強さを求めるべき場所において、
下らない上下関係の結びつきなどに固執し、自身の限界などよりも、ただでかい顔をしたいだけ。

376名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 13:43:20 ID:cxH.ljNE0

(;゚д゚)(つまらないな)

入門する以前に己が描いていた幻想は、打ち砕かれた。

何の事はない、たかだか15の若造にぶちのめされた事にむかっ腹を立てて、
数を率いてお礼参りに来る有象無象の連中など、何が”漢”か。

さぁ、残りも片付けてくれよう。
そして拳をきゅっと握り締めた折、どこかから声が掛かった。


-=三川
| ノ-_>「お前ら、面白そうな事してんじゃねぇか」

377名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 13:44:20 ID:cxH.ljNE0

(゚д゚)「……ッ!」


ふと振り返れば、書物蔵の屋根の上に腰掛ける男に、その場の全員の視線が向けられる。
自分と相対している何人かが、ばつの悪そうな顔で言い訳じみた言葉を口にした。

「しッ師範代、違うんです……こりゃあ──」

見覚えのある顔を見て、ミルナはすぐに思い出す。

打撃にて相手をぶちのめす、ミタジマ流の撃術。
確かそれを門下生達に教授している師範代、”メッシュ”という男だった。

自分を止めに来たか。それでも、構いやしない。
茶々を入れるつもりならば、たとえ師範代であっても容赦しない。
もし彼が掴み掛かってでもきたら、逆上任せに殴ってやるぐらいのつもりだった。

そのミルナの熱気とは対照的に、彼はこの光景を飄々と眺めている。

378名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 13:45:26 ID:cxH.ljNE0

-=三川
| ノ-_>「恒例の新人シゴキかと思ったがよ。こいつぁ、見たとこ――」

(#゚д゚)「……しぃやあぁッ!」

関係無い、とばかりに門下生達へ向き直った自分は、一息にその胸下へ迫ると、
言葉を紡ごうとした様子にもお構いなしで、顎を拳で突き上げた。

”パグンッ”

目玉が回転して、即座に男は崩れ落ちる。

「……や、野郎~~ッ!」

また一人をぶちのめされた事に逆上はすれど、その彼にかかっていく者はいない。

たった一人の少年の前に、因縁をつけた門下生達ももはや腰が引けているのだ。
しかし少しずつ後ずさる彼らを睨み付けながら、若獅子は更に追撃の牙を突き立てようと拳を固めた。

379名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 13:46:21 ID:cxH.ljNE0

だが―――――そこで。


「その辺にしといてやれよ」


(゚д゚)「………!」


いつの間にか、屋根の上で光景を見下ろしていたメッシュの声が、連中へと
飛び掛ろうとしたミルナのすぐ背後から聞こえて、思わず動きを止めた。

それに苛立ちが募ると、彼へと勢い良く振り返る。


-=三川
| ノ-_>「………」


(#゚д゚)「ハッ」

380名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 13:48:12 ID:cxH.ljNE0

もはや連中の戦意も失せているだろう。
打ち込まれても対応できるだけの意識を背へと払いながら、ミルナはメッシュの前で
大仰な仕草で肩をすくめて見せた。

-=三川
| ノ-_> 「”ミルナ”、つったっけな……気ぃ晴れたか?」

(#゚д゚)「晴れる訳が、ありませんね」

-=三川
| ノ-_> 「はて?お前さんは無傷……そいつらはズタボロ。こりゃどう見たって――」

(#゚д゚)「はんッ、弱い門弟相手には、随分とお甘い事だ!」

-=三川
| ノ-_> 「……」

381名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 13:50:45 ID:cxH.ljNE0


1対1の果し合いに破れ、その腹いせに仲間を連れてくるような手合い。
”私闘”に対しては甘い門派だと聞いていたが、ミルナはメッシュの言葉に拍子抜けしていた。

(#゚д゚)「俺に惨敗してこいつらがもし居なくなったら、貴重なお布施が減るからですかね?」

-=三川
| ノ-_ >「ふぅ……」


(#゚д゚)「それか……弱い門弟しか育てられない流派だと周囲に露見するのが怖いんでしょう?」


-=三川
| ノ゚ _>「―――――あ?」


あまりに挑発的な、ミルナの言葉。
若く、そしてこの歳にしてはあまりに強く。

383名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 13:51:56 ID:cxH.ljNE0

これまで他者との闘争において地べたを嘗めた経験の無かったミルナだからこそ、
何者をも恐れぬその言葉がついぞ口をついてしまった。

それまで閉じているように細目であったメッシュの瞳が、瞬時に見開かれる。


-=三川
| ノ゚ _>「おめぇ……今、なんつった?」


(#゚д゚)「聞こえませんでしたか?なら、もう一度言いましょう―――」

途端に気色ばみ、ごきごきと首を鳴らしながらミルナを見下ろすメッシュ。
その瞳にはそれまでの平静なものではなく、明らかな怒りの色が宿っていた。


(ば、馬鹿!あ、あいつ―――――!)

384名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 13:53:03 ID:cxH.ljNE0

遠巻きに観ている門下生達は、逆に少年を気遣う様子でいたのだが、
鼻息も荒く挑発を続けるミルナが、それに気づく節はなかった。

腕で自慢、傲岸不遜な少年であった―――彼には。

-=三川
| ノ-_ >「よーし、良い度胸だ。特別に、俺が実戦稽古つけてやるよ……今この場でな」


(゚д゚)(そら来た)

それは、道場の台所事情を引き合いに出され逆上しての台詞だろう。
それならば存分に受けて立ってやる。

たとえ師範代といえども、こんなヤワな門下生ばかりを弟子にとり、
もはやこの道場の底も見えた。彼を倒したら、今晩の内にここを後にしよう。

385名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 13:53:50 ID:cxH.ljNE0

ミルナはすごすごと後ずさっていく軟弱な兄弟子達を背にして、硬く拳を結ぶと、
掌を返してこちらへ手招きを送るメッシュへと切り込んでいった。


―――――

――――――――――


―――――――――――――――


-=三川
| ノ-_ >「……理解、出来たか?」

386名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 13:55:37 ID:cxH.ljNE0

(メメ д)「………」


数分の後、大の字に地面に身を投げ出しているミルナの頭上で、メッシュは彼の顔を
覗き込みながら、胸元からハーブを巻いたパイプを取り出すと、それを口に加えてから一度空を見上げた。

烏の鳴き声が、緋色の空に夕暮れの音を告げる。



(メメ;д)「―――ぐ、ぅっ」


天を仰ぎながら、ミルナの両目には涙が滲んだ。
歯を食いしばってそれを堪えようとしたが、余計に悔しさが増すばかりだった。

-=三川
| ノ-_ >「………」

387名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 13:56:23 ID:cxH.ljNE0

物心ついた時から山に捨てられていたミルナは誰にも頼らず、誰にも媚びずに。
そうしてたった一人で生き抜いてきた。

字や言葉を教わったのは、決して故郷であった山を離れようとしなかった自分の下に、
定期的に押しかけて来ては半ば強制的に学問を学ばせた、ある僧の教えによるものだ。

ある日を境にぱったりとそれも来なくなったが、こうして大陸の各地を転々と旅するようになったのは、
外の世界に興味を抱くようになったのは、その彼の影響もあったのだろう。

誰の手も借りずに、無頼で生きてきた少年は、武門など軟弱な者達のただのお遊びと思っていた。

―――――今日、この時までは。

-=三川
| ノ-_>「これが、今のお前の背丈だ」

388名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 13:57:20 ID:cxH.ljNE0

メッシュの言葉に、涙が、堰を切ったかのようにあふれ出した。


「負けたのだ」と、そしてミルナは実感する。


(メメ;д)「ち……く、しょう……」

齢15にも満たぬ彼だったが、これまで売られた喧嘩は勿論の事、山賊らなどにも負けた事はなかった。
山で培った体力、力。それらが与えてくれた天性の身体能力だけで、そこらの大人をねじ伏せるのは容易かったのだ。

しかし若獅子の牙と爪は、今日初めて出会った男の前に、無残にも打ち砕かれて、へし折られた。


ただ一発の拳を、面長の彼の顎へと打ち当てたその後に。

389名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 13:58:31 ID:cxH.ljNE0

-=三川
| ノ-_ >(……おー、イテェ)

少し赤くなった顎をさすりながら、ミルナの頭上でメッシュはしゃがみ込んだ。
徒手空拳を武器とする門派としては最強と名高い”ミタジマ流”

打撃戦を極めた名手である撃術師範代であるそのメッシュを相手に一撃を入れるというのは、
他流派との交流試合でも近頃は稀な相手でしか為し得ない、一流の武術家をもってしても困難な事。

駆け出しからすれば最高の栄誉であるそれを、若干齢15のミルナが成し遂げたという事に
メッシュ自身も内心は驚いていたのだが、果し合いの末に敗れて悔し涙を流す彼にそのように
いたわる言葉をかけるのは無粋と思い、メッシュは言葉を飲み込む。


だから、飄々とした彼なりの口調で、”期待の新人”獲得の為の軽い激励を送るだけに留めた。

390名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 13:59:26 ID:cxH.ljNE0

-=三川
| ノ-_ >「まぁ……見込みはあるぜ。お前よ」

(メメ;д)「うるさい」


袖で涙ごとその言葉をぬぐい捨てたミルナだったが、再び視界が晴れた時。
目の前には、上から差し出されたメッシュの掌があった。


(メメ д)「……?」

-=三川
| ノ-_ >「俺がお前の頃の歳の時はな、今日ぐらいのメニューでヘコたれて逃げ出そうとしたもんさ」

391名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:01:01 ID:cxH.ljNE0

-=三川
| ノ-_>「やらねぇか、お前?」


「その涙の分まで強くなれると思うぜ?―――――この”男闘虎塾”でよ」


(メメ゚д゚)「………」



―――――その手を取ったのが、”ミルナ=バレンシアガ”に更なる強さを与える出会いとなった。


若さゆえ、自分の力がどこまで通ずるかを試したいという想いもあった。
この”男闘虎塾”へ入塾すれば、さらに己の糧となるのではないか。

敗北を経て、この時のミルナは思ったのだった。

392名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:11:21 ID:cxH.ljNE0

その後、ミタジマ流の”筆頭一號生”として看板を背負い立つに至った彼は、
やがて再び広い世界を観に旅歩くようになった。

”螺旋の力”

今ではこの大陸に二人と居ない、人体に眠る奇跡の力であるそれを、奥義として体得し終えた後に。

秘められし潜在能力であるその螺旋の力を引き出す事が出来た者の肉体。

それには―――――住まうのだ。
黄金の体表を持つ、”螺旋の蛇”と呼ばれる生命力の具現化した存在が。

そして”黄金の蛇”は、まだミルナの内底に眠っていた。
魔力に変貌してしまった今の彼の意識が完全に飲み込まれずにいるのは、それが理由だった。







393名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:14:34 ID:cxH.ljNE0

美しき思い出の中の一つ。
彼女は、優しいあの顔を思い浮かべていた。

一度は失意に飲み込まれそうになった自分を、再び立ち直らせてくれた、彼の横顔を。


『その……なんだ、お前に似合うと思ってな』


(きれい…)

街で買ってきた、安い硝子玉をあしらったリングを、そっと手渡してくれた。

394名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:15:31 ID:cxH.ljNE0

『ありがとうな!』


言葉だけ聞けば、子供にしては小生意気な台詞にも、彼はにやりと笑みを浮かべるだけ。

少し照れくさそうにしながら、すぐに彼女から振り返り頭を掻いたが。

『まぁガラじゃないが、な……』

ぽつり呟いたのは、聞かない振りをしておいた。


”とくんっ”

395名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:16:46 ID:cxH.ljNE0

ある時、旅のさなかで彼女が高熱を出した夜もあった。
三里は下らぬ山道を、彼はその身を抱えて奔ってくれた。

『気をしっかり持て!……もう少し、もう少しだ!』

追いすがる山道の暗闇をも、遥か遠くへ置いてけぼりにするほどに、早く。

病からくる高熱と、身体に感じる揺れとが合わさりうなされるまどろみの中、
瞳を開けると微かに映る必死な横顔に、だから彼女は安心していられた。

(あぁ、私はきっと、大丈夫)

その背中に、全てを預ける事が出来たから。

「今こうしていられるように、私を助けてくれた人だから」と。

396名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:17:28 ID:cxH.ljNE0

彼女は、今一度思い浮かべる。
優しい思い出を与えてくれた彼の、真剣そのものの横顔を。


”とくんっ”


( ゚д)

397名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:19:04 ID:cxH.ljNE0

―――――

―――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――――


川;゚ -゚)「……ミル……ナ?」


”どくんッ”


その名を口にして、もう一度心臓は大きく高鳴った。
つかの間、遠い過去の方へ意識が引き寄せられていたのを、鼓動が引き戻した。

398名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:20:14 ID:cxH.ljNE0

小さな左胸の奥で、怒涛のように駆け巡る血潮の流れを感じていた。

つい先刻までは、確かに。
あの時と変わらぬ眼差しを向けてくれた彼が、そこにいたはずなのに。

クー自身をかつて旅へと伴ってくれた、憧れの冒険者。

川;゚ -゚)「ミル、ナ……なんだろう?」

有り得ない、という表情をする彼女の前には、月の光を受けて体表を煌かせる、銀色の狼。
光景の一部始終を目の当たりにしてしまった今でも、信じられる事ではなかった。

震えた声で問いかけるクーの言葉は、やはり”彼”には届かない。
クーの目の前に居るのは、ただ牙を剥き出す金眼の猛獣。


ミ#゚叉゚彡

399名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:21:12 ID:cxH.ljNE0

毛むくじゃらの狼人間、などという域ではない。
一人の人間の身体が大きく膨れ上がり、銀色の体毛を体中から生やして───

そしてミルナは、四足で地を踏みしめる野獣そのものとなってしまった。
その猛禽よりも深い黄金の色を湛えた両眼が、冷たい汗を滲ませるクーの瞳を捉えて離さない。

自らへ向けて踏みしめられた一歩に、クーは無意識のうち後ずさる。
大陸各地を旅したクー自身も見た事が無いほどの大きさの、銀色の獣。

彼女でなければ、逃げ出していただろう。

その獣が纏う雰囲気には、当てられただけで己が捕食されている様さえ浮かぶ。
人としての生存本能がまず、この場に居てはいけないと叫び出しそうな程に。

400名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:22:05 ID:cxH.ljNE0

川;゚ -゚)「──わからないのか、ミルナ!? 私だ……クーだッ!?」

応じてくれるはずもない―――――彼は、今や人ではないのだから。

目の前の光景全てが、クーには信じる事の出来ないあやふやな現実。
何が起こっている―――――どうなっていると、それらばかりが。

疑問は頭を埋め尽くし、今は逃げなければならないという現実すらをも直視させないほどに
彼女の感覚を鈍らせて、そしてクーはその場で、ただ呆けるように立ち尽くしていた。

川;゚ -゚)(……何が、起きて)

獣と化したミルナは、一歩一歩ゆっくりと両の足を交差させてクーへと歩みを進める。

401名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:23:03 ID:cxH.ljNE0

ミ#゚叉゚彡「………グルゥッ!」

かぁっと口を開くと、そこには鋭牙が覗いた。
剥き出しの敵意は、人間特有の感情のような”憎悪”では無い。

より単純であり、より原始的なもの。
生物としての本能に基づいて、彼はそれに従おうとしているだけなのだろう。

即ち、食欲。

川; - )(なんという表情をしているのだ)

ミルナは狼の姿へと変貌し、もはや彼自身の理性は失われている。
そして彼は、これより自分を喰らおうとするのであろう事を、遅まきながら理解する。

402名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:23:50 ID:cxH.ljNE0

気を失いそうになる現実の中で、一つだけ確かな事があった。
姿形は変わってしまっても、なぜだかその吠え声から、クーはミルナの想いを感じたのだ。

ミ# 叉 彡「───ォォオオオオオオォォォォォォッ……ォォォンッ!」

ミルナだった狼が、再び月へと吠えた。
この世に二つとあるか疑わしい程に、てらてらと輝く眩い白銀。

川;゚ -゚)「………泣いて、いるのか?」

まるで、決して手の届く事の無い頭上の月を羨むかのように哭く、獣の哀愁。
クー自身の瞳には、それがどこか誇り高く、崇高さを感じ得る光景だった。


川  - )「……ミルナ?」

403名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:24:36 ID:cxH.ljNE0

ミ# 叉 彡「……フゥゥ……」


もう一度呟いたその名に、微かに反応した。
クーの呼びかけに、確かに獣は動きを一度止めたのだ。

彼はこの時、抗っていた。
自らの内で暴れだす、御せぬ獣心に対して。


ミ#゚叉゚彡「………」


殺されようとしていた、僅か一欠けらの人心を守る為。

404名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:25:28 ID:cxH.ljNE0



  (  ω )ξ ⊿ )ξ(´ ω `)爪 ー )y-
      ヴィップワースのようです
    
         第10話

      「孤狼は月厘に哭く(2)」


          川 - )

405名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:26:29 ID:cxH.ljNE0








『オれは―――――ナにもの……ダッ、た』


”自分”という意識は、果たして今どこにいるのだ。

何かを思考したはずの一瞬すら、すぐに記憶の彼方へと置き去られる。
全身には力が入らない、故に立ち上がる事も出来ない。


「あぁ、そうだ」と、一つだけ思い出す。
自分は”囚われている”のだという事を。

限りなく自らの欲求に従うだけの魔の牢獄、それに人としての心は、囲繞されているのだ。

406名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:27:19 ID:cxH.ljNE0

―――――《オ前ハ、獣ダ》


耳を塞いでも、直接語りかけてくるこの声。
それから、逃れる事は出来ない。


『チ……がう……俺、ハ、くー?ヲ……ッ』


今しがた口にした人物の名、それが誰だったかすらをも、思い出す事が出来ない。


―――――《何モ違ワナイ。オ前ハ俺、俺ハ、オ前ダ》

407名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:28:22 ID:cxH.ljNE0

尚も、内に潜む獣は囁く。
狂ってしまえと、喰らってしまえと。

しかし、壊してはならない大事な物が、確かすぐ近くにあるはずなのだ。


『(オれの名ハ……)』

д )


だから、抗う。

408名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:29:07 ID:cxH.ljNE0

―――――《獣》

ミ# 叉


しかし、打ち勝つ事は出来ない。


『ッ……ち……ガッ!……アァッ…!』


一度覚えてしまった血と肉の味、鼻腔をくすぐるは、なんとも芳しき柔肌のにおい。
耐えがたきこの空腹には恐らく、それが至福をもたらすのだ。

《月》

409名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:31:06 ID:cxH.ljNE0

『ミる、な?』

それは、誰の名だったか。

《肉ヲ》

川 - )

『くー?』

それは―――――誰の名だったか?

《―――――血ヲ》


ミ# 叉『―――――食ウ』

僅か一瞬、瞬き一度程度の時の中での、出来事だった。
そこで彼は確かに人として戦い、けだものの声に抗った。

しかし最後の抵抗も虚しく、ミルナの人としての意識はそれきり闇に沈んだ。

410名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:33:29 ID:cxH.ljNE0







ミ#゚叉゚彡「……ゥルルゥゥゥゥッッ!」

川; - )「―――――あ」

次の一瞬、動けなかった。

逃げる事も出来ずに、ただ彼女は憧れの対象が自身の喉元に牙を剥く眼前の光景に、
緩やかな時の流れの中で身を委ねながら見届ける事しか出来ない。

手には一振りの剣さえ、無い。
まして武器があった所で、彼女は己の力量だけで彼を怯ませられる気さえしなかった。

411名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:34:14 ID:cxH.ljNE0

川; - )「……私、は……」

両膝から自然に力が抜けて、とうとうクーはその場の地面にへたりこんでしまった。
不運と悲哀の星の元に定められた自らの運命を呪いながら、心の中で言葉を口にする。

”どうしてこうも、私は”

両親の死を乗り越えてから、自分は独り立ちして強くなれたと思っていた。
しかし仲間の死を目の当たりにした自分は、そうではなかったのだ。
薄々内心には感づいていながらも、その事実を認める事なく強がっていたに過ぎない。

見知らぬ少女を助ける事が出来なかった自責の念と、束の間を共にした仲間を失った喪失感。
たったそれだけの事で、誰かの支えがなければ立ち上がる事の出来ない程に弱かったのだ。

そんな自分なのに、全ての心の拠り所を打ち砕かれた心には、もはや―――――

412名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:41:02 ID:cxH.ljNE0


だからこれ以上、自分の心が痛めつけられる事を拒んだ。
やがて諦念を抱いたクーは―――――そうして目の前の現実から、目を伏せる。

川 - )(もう……いい、や)

最期は、自分が憧れを寄せた人物に殺されるのだ。

疲弊した彼女の心は、そんな現実の前に諦めを選択させる。
嘲るように口元を歪めたクーだったが、しかしその頬は―――――濡れていた。

死を受け入れて瞳を閉じこむ直前に、極めて獰猛な獣の牙が目の前で輝きを放ったようだった。

413名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:41:43 ID:cxH.ljNE0










―――――瞼を閉じこむ間際、薄ら輝いたのは獣と化したミルナの眼光だと思った。


川; - )(…………)

414名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:43:06 ID:cxH.ljNE0

しかし、どうやらそうではない。
何より喉元をかぶりつかれそうになったクー自身は、まだ五体満足だ。

意識もはっきりとしている。
―――しかし、この目を開けてしまえば、死が遅れてやってくるのではないか。

その恐怖と緊張が彼女の身を強張らせては、奥歯が瞬く間に磨り減って
しまいそうな程に、クーは顎を力強く噛み締めていた。

そして耐え切れぬ程の、沈黙。



「……ぐッ、ぬッ……」

416名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:43:59 ID:cxH.ljNE0

川; - )(…………?)

声―――――ミルナのものか。

五感全てを投げ出してしまっていたクーだったが、それを認識した途端に、
聴覚が戻りつつあった。そして再び自らの波打つ胸の鼓動が耳へと届き始めると、
意を決したクーは、ゆっくりと薄目を開けながら顔を上げる。


そこには、人の形を成した影があった。


(    )


川;゚ - )

417名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:45:19 ID:cxH.ljNE0

まず思ったのは、何が起きたのか。
その次に到来した疑問は、この後ろ姿の主は誰かという事だ。

微かな月明かりを受けて、クーを背に庇う彼の後ろ姿は―――
いつか見た憧憬の一つに、重なるようでもあった。



(   д)




川;゚ -゚)「―――――ッ!?」

418名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:46:34 ID:cxH.ljNE0

しかし、それは彼のものではない。
見慣れぬ背姿に、しかし、確かに見覚えはあった。



(; ^ω)



ある依頼の最中で、期せずして道程を共にする事になった冒険者。
”ブーン=フリオニール”と、彼は確かそう名乗ったはずだ。


川;゚ -゚)「な……」

その彼が、クーとミルナの間を遮るようにして両の足で、力強く立っていた。

419名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:47:22 ID:cxH.ljNE0

(; ^ω)「無事ッ、かおッ……!?」


川;゚ -゚)「……なんで……」


(; ^ω)「話は、後だお―――」


ちらと横目で伺うようにクーへと視線を向けていたブーンだったが、
すぐに正面へと向き直る―――――剣の腹で、獣の牙を押さえ付けているのだ。

それも、恐らくもう限界。


ミ#゚叉゚彡「グッ…、ルオォゥゥゥゥゥッ!!」

420名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:48:39 ID:cxH.ljNE0

(;^ω^)「―――――くッ!?」

ブーンの剣の打ち込みに合わせて噛みついたのか、それともその逆か。
幅広の長剣は、しっかりと野獣と化したミルナの上顎と下顎に押さえ付けられ、
それに抗い刃を押し込もうとするブーンの手元は、巻き取られつつあった。

並みの野生であればこうはならない程の腕力を、彼は備えている。
しかし、月の魔力を浴びたこの”妖獣”の身体能力は、そんなものとは比較にならない。

剣を巻き取られて地面に転がされてしまえば、たちどころに喉元を食い破られる。
それほどの危機感をクーよりも間近に受け止めながら、尚もブーンは抵抗していた。


「やれやれ――――」

421名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:51:49 ID:cxH.ljNE0

その時、そんな彼らの背に掛けられた声に、クーは振り返る。
直後、彼女の顔のすれすれを抜けて二つの銀閃が奔った。

川;゚ -゚)「……!」

微かな風圧に、それが何らかの投擲物だと気づく。

ミ#゚叉゚彡「グァウッ!?」

”ザウッ”

(;^ω^)「……!」

ブーンの剣を牙でねじ伏せていた獣が、一息に飛び退いた。

直感、それも恐ろしく鋭敏な獣ならではのものだ。
闇の中を切り裂いて自らへと迫る銀の閃光、瞳の間近に迫ったそれを避けるべく、
白銀の巨獣は刹那、怯んだ。

422名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:53:18 ID:cxH.ljNE0

人間では為し得ない跳躍力と、動体視力。
その獣の顔の付近を掠めて、ナイフは背後の木へと突き刺さっていた。

(;^ω^)「思ったより遅くて、真面目に焦ったお……」

背中越しに声を掛けながら、両腕に力を込めた構えで、ブーンはクーより前に一歩を踏み出る。
そして、どうやらこの場に現れた人物は彼一人だけではなかった。

「一人で勝手に突っ走るんじゃねぇよ、ブーン」

クーの隣に並び立ち、腰からナイフを抜き出す銀髪の男。
その彼の事も、やはりクー自身はしっかりと覚えている。

川 ゚ -゚)「お前は……ッ」

423名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:57:00 ID:cxH.ljNE0

爪'ー`)「……よう、お姫さん」

”グレイ=フォックス”と名乗った、盗賊。
見た目には軽薄そうで、クー自身は虫の好かないタイプの男だった。
しかし、窮地においてはそうではなく、間違いなく彼女の眼からは肩を並べて戦える人物。

少なくとも、今という時においても。


「まだ命がある事を、幸運に思ってもらわなければね」


反対側、また一人クーの隣に立った彼を仰ぎ見て、確信を得る。

424名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 16:03:46 ID:cxH.ljNE0

(´・ω・`)「また死なれてしまったりしたら、僕は目覚めの悪い悪夢に苛まれそうだ」

川 ゚ -゚)「ショ……ボン……」

ローブの魔術師、”ショボン=アーリータイムズ”
度胸もあり、また彼が確かな実力を持つ事は、クーは既に知っている。

カタンの森で依頼を共にした冒険者達、ブーン一行の姿が、今何故かこの場にあった。
それに驚きながらも、「まさか」と思った所で、彼女の肩は掴まれる。


「大丈夫ッ!?」

425名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 16:05:25 ID:cxH.ljNE0

川 ゚ -゚)「……っ」

声の主に対して振り返ろうとした時、既に彼女はクーの目の前に立っていた。
彼女を眼前の脅威から庇護するように、二人の冒険者と肩を並べながら。

そうして、クーに対して笑みを投げかけながら、言うのだ。

ξ;゚ー゚)ξ「……良かった……無事みたいね」

クーの故郷であるロアリアを惨禍に招いた、聖ラウンジ。
その象徴とも言える司教の娘である”ツン=デ=レイン”は、息を切らせながらも、
言葉を詰まらせるクーに対して。


川;゚ -゚)「お前たち……どうして!」

427名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 16:06:11 ID:cxH.ljNE0

ξ;゚ー゚)ξ「―――ごめん、話は聞いちゃった」

川 ゚ -゚)「!」

先の依頼、魔剣騒動の後から自暴自棄となった自分は、今ここにいる。
その事を知る手立てがあるとすれば、依頼で一緒になったデルタの手回しだろうか。

そうして彼らはここに来たというのだろうか、それだけの為に。

川;゚ -゚)「判らん―――なぜ、お前たちが」

ξ;゚ー゚)ξ「……言っとくけど、貸しでも何でもない。
       込み入った経緯があるんだろうけど、それを聞いちゃったら私達は
      ”はい、そうですか”――で済ませられる程、大人じゃないの」

川;゚ -゚)「……」

428名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 16:07:02 ID:cxH.ljNE0

クーからすれば、他人の為に私情のみで行動する冒険者など、失格だ。
予期せぬ出来事に足元をすくわれ、命を落としてしまう事だってあり得る。
一人を助け出すために、それ以外の全員が命を落として解散したパーティーだって知っている。

そして彼らは、その”失格”の冒険者達だった。

大方依頼から戻らない自分の身を案じた楽園亭のマスターが依頼でもしたか。
――――もしくは、このツンの言う様に、彼らは私情でここまでやってきたのか。

いずれにせよ、この状況では呆れる程のばか者だと思えた。


ミ#゚叉 彡「………グルゥ………」

目の前には、見た事のない妖獣の類と化したミルナ。
それを他の4人が知る術はないが、暗い茂みの向こうから今も黄金色の瞳は5人の様子を伺っていた。

429名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 16:08:37 ID:cxH.ljNE0

ブーン達の強襲以降、慎重になっているのだ。

獰猛な野生は、鋭敏な感覚だけでなく、生きる為に本能的な狩りの才能も備わっている。
隙を見て一気に喰らい付くか、あるいは獲物の抵抗が弱まるまで、じわじわと抵抗力を奪うか。

(´・ω・`)「……ああ出られた方が怖い。観察しているんだ、僕らを」

(;^ω^)「フォックス!ブーンの撃ち込みで隙が出来たら、そこを!」

剣をしっかりと構え、引き込まれそうになる獣の魔眼を直視する。
決して怯えを悟られぬように―――――とは言え、場にいる三人の肌はヒリついていた。
そして、たちどころに首を刈られてしまいそうな重圧に、いつかと似たような冷たい汗が流れる。

しかし、この危機は未知ではない。
”同じ程の脅威かも知れない”と感じながらも、それでも”戦える”と、思えた。

430名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 16:10:03 ID:cxH.ljNE0

(´・ω・`)(感謝しておこう―――”エルンスト”)

時に、命を捨てる覚悟をしなければならない戦いもある。
しかしそれは、以前の彼らには出来ていなかった心構えだった。



爪;'ー`)「おい。多分こいつは一筋縄じゃいかねぇ。大きな振りは、極力控えろ」

しかし、一度その間際を辛くも潜り抜けた彼らには、単に場数や腕力以上に。
時として大きな力を発揮し、各人の力を限界以上に高める”ある要素”が、芽を伸ばしていた。

431名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 16:12:02 ID:cxH.ljNE0

ミ# 叉 彡「―――――……ゥルオオォォォォォォォォォォッッッ!!」


再度、咆哮がけたたましく闇を劈いた。
先程クーの前で見せたそれとは違い、今度は威嚇によるものであったかも知れない。

腹の底がひっくり返り、膝がわらいそうになる恐怖が、自然と頬を伝う汗として滲み出る。

ξ;゚⊿゚)ξ「……退がってッ!」

川;゚ -゚)「止せ、逃げた方が、まだ……」

事実、その咆哮の前にツンの膝は小さく震えていた事に、クーは視線を落として気づいた。
それでも、守ろうとしているのだ。

他でもない、この場にいるクー一人を、4人の命を賭して。

432名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 16:13:20 ID:cxH.ljNE0

(´・ω・`)「ここで背中を見せれば誰かは死ぬかも知れない。
       態々、この広い森の中で鈍足な獲物を逃がすとは思えないからね」

爪;'ー`)「……あぁ、逃げおおせる所を散り散りに分断されちまえば、それこそお陀仏だ」

(;^ω^)「追い払う―――今は、それ以外にないおね」


川;゚ -゚)「お前、たち……」

武術家としてのミルナの強さを知る彼女だからこそ、彼らが勝てるイメージは沸かなかった。
その気になれば素手で人を撲殺できたかも知れない彼が、今は馬鹿でかい狼の姿をしている。

しかし、その事実を彼らに知らせられるような暇はない。

ただ、覆い包む闇の中で―――――
妖しく死へと引き寄せる金眼の魔獣の前に、彼らの”絆”の力だけが試されていた。

444名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 09:40:18 ID:ctbJJWLU0

川; ゚ -゚)(わざわざ……)

そうだ、わざわざ―――――彼ら4人はこの場所に立ち寄った。

失意の底に沈み、自棄となったクーの身を案じて、わざわざこの辺鄙な場所にまで。
そこが、彼ら自身想像だにしていなかった修羅場だとは、知らぬまでも。

やがてめぐり合った彼らは、それでも退く事を知らなかった。
丸腰であり、外敵に対抗する手段を持たないクーがいの一番に危機に晒されるからだ。

僅かばかりの食料や銀貨を争って、人が人の命を奪う事もある時代。
稀有な存在―――人は彼らの事を、愚直だとさえ思うだろう。

爪;'ー`)「こりゃあ、羆(ひぐま)の方がまだ可愛げがあるぜ」

445名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 09:41:14 ID:ctbJJWLU0
ミ ゚ ゚ 彡(………)

視線が合っただけでもまる呑みにされてしまいそうな圧迫感の中でも、常に頭を働かせて相手を観察する。
妖魔の類では無く、野生動物では最大の戦闘力を持つ肉食獣である熊といった猛獣。

きっとこいつは、そいつらも軽々と凌駕する。
ばかげた体躯を見るだけで、一般人だろうとその脅威を理解するだろう。

(;^ω^)(………)

たかが、獣―――――この狼と対峙してみれば、そんな言葉は間違っても出てこない。
静かに、だが口元では獲物を仕留めるための牙を光らせながら、まるでこちらの考えを見透かしたかのように佇む。

(´・ω・`)「気を付けろブーン。そこらの獣などより、よほど狡猾だ」

ショボンの言葉通り、こちらを観察しているのだという事が伝わる。
膠着した状態の中にあって、ブーンもまた獣の眼窩に収められた金色を、真っ直ぐに睨み返す。

眼を逸らせば、たちまちに襲い掛かって来る。

446名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 09:41:57 ID:ctbJJWLU0
ミ ゚ ゚ 彡「……グォゥ」

真正面から獣の威圧感を受け続けるブーンの背はじっとりと汗ばんでいたが、頭は氷のように冷えている。
反射速度、身体能力で野生に遥か劣る人間は、叡智と武器を持って彼らの隙を突く他ないのだ。

しっかりと集中しながら対峙出来ていた。
向こうを先に動かす―――今は、動くべき時ではないと悟る。

あえて脇を軽く開けて、隙を見せる仕草を取る。
決して剣の構えを疎かにはしない程度にだけ、力を抜いた。

(;^ω^)「……っ!」

”ざりっ”

―――――「何歩の距離だった?」

一瞬、そんなどうでもよい考えが巡ったのを振り払って、半ば無我夢中で剣を横へと薙いだ。
猛進する勢いを少しでも削ぎ落とす為。

”ブンッ”

ミ ゚ ゚ 彡「ゥオゥッ!」

がむしゃらな構えから繰り出された斬撃は、あえなく空を切る。

447名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 09:42:51 ID:ctbJJWLU0

(;^ω^)「くッ、はッや……!」

並々ならぬ質量と威を伴った、強力なブーンの打ち込みだが、
それも当たらなければ、ただ自身に疲労を募らせるだけに他ならない。

獣の残影があったはずのその場所で、剣先が一瞬だけ獲物を見失った。
見計らってか、飛びのいたばかりの獣の瞳が光る。

ミ ゚ ゚ 彡「……フオォゥッ!」

否、強い殺気によって、ブーンが見せた隙を狙う獣の瞳が、紅く輝いたような錯覚を思わされた。
やがて鋭爪は、月光を照り返しながら闇の中で線を描く。

爪#'ー`)「……やらせるかよッ!」

ミ#゚叉゚彡「グァウルゥッ!!」

しかしブーンを切り裂こうと振り上げられたその前足の根元に、フォックスの投げた短剣が突き刺さる。

448名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 09:43:32 ID:ctbJJWLU0

なおも動きは止めようとしなかったが、ほんの僅かな怯みを生み出す事が出来たおかげで、
自身の剣の打ち込み以上に音を伴って振り下ろされたその爪撃から、ブーンは辛うじて加害範囲外に身をかわす。

離れた耳元へも聞こえる風切り音が、獣の一撃が生死を分かつ程の威を秘めたものであると知らせた。

(´-ω-`)(【 我が前に立ち塞がる敵 其はその一切を 業火の元に滅せよ】)

(;^ω^)「ふゥッ――……ショボンッ!」

粟だった肌、しかし崩れた体勢を瞬時に建て直しながら呼びかけた時、
既に名を告げた相手は助力に応じてくれていた。

爪'ー`)「頭ァ下げろ!ブーン!」

(´・ω・`)「【――炎の玉――】」

ミ#゚叉゚彡「ゥ、グルァッ!?」

”どむっ”

449名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 09:44:22 ID:ctbJJWLU0

闇夜を染め上げる紅蓮が、爆音と共に獣ごと樹木をなぎ倒す。
―――ショボンの想定では、確かにその筈だった。

問題は単純に、銀狼の反射神経は人のそれなど遥か凌駕していたというだけだ。

(´・ω・`)(外されたかッ……これほどの近距離でッ)

木々の一つに命中した炎弾は、深くその表皮を抉るに留まる。

しかし、ショボンによる魔法詠唱は全くの無駄に終わった訳ではない。
ブーン達のあたりには獣の夜目に対抗できるだけの光量が与えられ、銀狼の姿を焔がはっきりと浮かび上がらせる。

その姿は、月明かりに曝された時と変わらず。
やはり変わらず、美しさすら憶える銀の獣だった。

爪;'ー`)「下がれ、ショボン!!」

450名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 09:45:15 ID:ctbJJWLU0

まずい、と感じたフォックスの額に、冷や汗が滲み出た。
二度ほど跳躍し、炎の玉によって炎上しながら朽ちた樹木の壁を乗り越えて、
既に獣はショボンの眼前に躍り出ている。

大きくその口を開いて齧り付こうと。
まだ、驚く程の冷静さを保ち続けていた彼の前に。

(´・ω・`)「―――穿ち貫け、【魔法の矢】」

ミ#゚叉゚彡「グァッ!?」

次いで、閃光が彼の指先から迸ろうとしていた。
避けられる事を予期してか、炎の玉の詠唱直後、ショボンは最速で第二撃を準備していたのだ。

大きな隙を伴う反面、強大な威力を齎す”魔法”。
ショボンは実践にて場数を踏む内に、それの、より効果的な使い方を身につけつつあった。

無論、背中を任せられる仲間の支援を視野に入れた上でだ。

ミ#゚叉゚彡「……ガァルッ!?」

目の前に突きつけられた指先が眩く発光したかと思えば、遅れてやってきた激痛。
致命傷には至らないまでも、閃光は確かに獣の前足上腕部分を貫く。

明らかに怯んだその機を、さらにブーンは見逃さない。

451名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 09:46:15 ID:ctbJJWLU0

(#^ω^)「――おぉぉッ!」

”ドンッ”

頭骨すら易々と断ち割るであろう上段構えの打ち込みが、地面にまでめり込む。
ブーンの長剣の切っ先は微かに獣の額辺りを捉えたが、致命には程遠いかすり傷。

獣が大きく飛びのいた先を睨み付けると、その形相は見る間に憎悪に歪んでいるようであった。

ミ#゚ ゚彡ルルゥ...

(;^ω^)(今のは、惜しいおね…)


呼吸と隊列を整えなおしながら、再度剣の柄を握り直してから出方を伺う。

手傷を負わせればあるいは―――そうも考えていたブーン一行だったが、
手負いとなった今、もはや完全に敵意をそぐ以外にこの場を乗り切る手段は無いように思えた。

「倒す」
それでしか、恐らく。

452名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 09:46:56 ID:ctbJJWLU0







川;゚ -゚)(強い)

以前に依頼を共にした新参冒険者パーティーは、クーの目からは見違う程に連携が取れていた。
各々の実力も、決して古参の冒険者達が集う楽園亭でも見劣りするものではないだろう。

恐らくこの場に自分一人ならばすぐに食い殺されてしまっていただろうと、クーは思う。

( ;^ω))

ちら、とこちらを覗いたブーンの仕草に、意図を察したツンがクーの耳元で小さく呟いた。

ξ;゚⊿゚)ξ「今の内に……離れましょう」

川;゚ -゚)「………」

ξ゚⊿゚)ξ「大丈夫。勝つわ――きっと」

453名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 09:48:20 ID:ctbJJWLU0

肩を抱えて力の篭った眼差しを向けるツンに対してクーは俯く。

彼女自身の為にこの場に参じたブーン一行は、今、命の危険を冒して戦っている。
―――――凶暴なる獣と化した、自らの想い人を相手に。

近い未来に、恐らくどちらかが死ぬ。
いや、ツンの言葉通りになる事を、クー自身も予感できていたのだ。


―――そうなれば、ミルナは?

ツンはきっと考え違いをしている。
この自分の考えなど、彼女は決して理解してはくれないだろうと思う。

それを口にしてなど、ましてや想像してさえならない言葉。
だのにそれは、無意識の内にクーの口を突いて出てしまった。

川 - )「……さ………くれ」

ξ゚⊿゚)ξ「……え?」

ブーン達にも、そして自らの想い人にも伝えたかった言葉。
クーの言葉の意図を察しかねて聞きなおすツンに構わず、クーは立ち上がる。

454名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 09:49:02 ID:ctbJJWLU0







”バウッ”


(;`ω´)「………ふッ!」

懐を目掛けた一撃に、大きく身を仰け反らせて腹を空ける。
喰らってしまえば、新調したばかりの皮鎧ごと肉を根こそぎ持っていかれていただろう。

宙に浮いた両手で剣を握り締め、直後、反撃の打ち下ろし。

いっそ怒り狂って齧り付きに来てくれればいくらでもやりようはある。
だが、形相には悪意に満ちた憎悪が浮かんでいるというのに、獣はまだどこか冷静を保って見えた。

またも、機を捉えられなかった。
剣を持ち上げ構えなおすと、再び次の一合に集中力を高める。

ミ#゚叉゚彡「フゥッ……ルゥッ……」

455名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 09:50:03 ID:ctbJJWLU0

爪' -`)「落ち着け、ブーン。少しだけ下がっとけ」

(;^ω^)「………?」

爪' -`)「陣形を乱すな。集中力と持久力切らしたら五体のどれか持ってかれるぜ?」

(´・ω・`)「もう一度、僕が」

爪' -`)「あぁ。ブーン、お前はショボンの詠唱中、護衛を務めるだけでいい」

(;^ω^)「……わかったお、フォックスは」

爪'ー`)「防戦を強いらせて悪いが、焦るな」

「どうにか俺が、やっこさんの”眼”を潰すからよ……!」

的が高速で動いてさえいなければ、ほぼ百発百中を誇るフォックスの投げナイフ。
両方が潰せれば最善だが、片目だけでも奪えれば逆上を誘えるだろう。

456名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 09:50:53 ID:ctbJJWLU0

そうなれば、より獰猛にはなるが落ち着いて戦えている自分達の方に分があるのだ。

ミ#゚叉゚彡「――ゴルゥ………ルオォォッ!!」

獣の俊足が、今度はブーンの隣に並び立つフォックス目掛けて繰り出される。
背後のショボンを守る為に、二人はここを動く訳にはいかなかった。

焦りに駆られて当然の状況、ブーンが剣を上段に構えながら叫ぶ。

(;^ω^)「フォックス!ブーンがッ!」

爪;'ー`)「へへ……まぁ、焦んな――よッとッ!」

ミ#゚叉゚彡「ッ!」

獣の前足がその身に届くギリギリまで、引きつけたのだ。
寸前になってフォックスが振り下ろした右手の指先から、やがて銀の弾丸が飛び出す。

”ざざッ”

457名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 09:51:41 ID:ctbJJWLU0

四つ脚の柔軟性、そして強靭な脚力を生かした神風の如き切り返し。
投擲されたナイフの速度を、見てから避けてしまう程の身体反射を持つこの獣には、攻撃を当てるのは極めて困難。

だが―――より冷静に、より狡猾にと磨き上げられてきた人の技こそが、それにも届くのだ。

”トンッ”

ミ# 叉"彡「……ギャウッ!?……ゥゴフルゥゥッ!!」

深々と獣の左目に刺さった投げナイフが、確実に金眼の一つを潰した。
面から血を流しながら、獣は激痛に耐えかねて吠える。

三回、四回と頭を激しく振り乱す内に、眼窩へと突きたてられたナイフは、やがて勢い無くぽとりと地面に落ちた。

爪;'ー`)「秘技――”影縫い”ってなとこだ……!」

最初に投擲されたナイフは、ダミー。
本命は逆の手の中に隠されたもう一本、そこから最小限の動作で繰り出された二本目が、獣の眼を捉えた。

458名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 09:52:56 ID:ctbJJWLU0

東洋の暗殺者から伝わったナイフ術の一つだが、易々と体現出来る技では当然無い。
しかしながらはしっこさや手先の器用さ、非常時においての集中力など。

ナイフ使いとしては類稀なる資質を備えたフォックスにとって、試みようと思えば不可能ではない技だ。

(;^ω^)「――よしッ!」

状況を把握し、剣を手に飛び出そうとしたブーンの肩に、突如荷重が加えられる。
フォックスに引き戻された彼が向けた視線の先では、いよいよ憎悪を煮えたぎらせる獣の姿が映った。

ミ#゚叉"彡「”ウグルゥゥオオオオオォォォォッ”―――!!!」

(;^ω^)「片目を奪った!……今がチャンスだお!?」

縦横無尽、眼を穿ったナイフが刻み込んだ痛みに抗うようにして、地面を掘り返しながら前足を暴れ狂わせる。
なおも自らの方を握り締めるフォックスに向き直って叫ぶブーンを、二人の仲間は諌めた。

459名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 09:53:45 ID:ctbJJWLU0

爪;'ー`)「焦んな。手負いの今こそ、こっちから飛び込めばがむしゃらに暴れられてやべぇ」

一歩を引いて状況を見渡す事――それは、時に勇み飛び出す事よりも重要となるのだ。
理性を欠いて暴風さながらに荒れ狂う獣の懐に飛び込めば、その爪牙に肉体を削られるリスクは遥か高い。

だが、相手に手傷を負わせてなおもこちらが慎重に、冷静でさえいれば―――勝率は上がる。

(´・ω・`)「仕上げは任せてくれていい」

斬り込み役のブーン。

そして、それを補佐する二人の働きによって、楽園亭のブーン一行は円滑なチームワークを保っていた。
それでも力が及ばないような窮地においては、ツンが冗談としか思えないような奇跡を実際に呼び起こして。

ξ゚ー゚)ξ「見て。いける……!」

川 - )

ツンが口にした通りの出来事が、彼らの背に守られるクーの目の前で起ころうとしていた。

460名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 09:55:18 ID:ctbJJWLU0
本当の意味での死の淵からも生を拾って来た彼らは、今でさえ少しずつ、冒険者としての”高み”を昇っているのだ。

それは、永きに渡って”月の守神”としてこの地周辺に沢山の逸話を残してきた、
ある一匹の妖狼をも―――――屠り去ってしまいそうな程に。

”どん”

十分な詠唱時間を稼ぎ出したフォックスらの働きに満足そうに、ショボンは一際瞳に宿した光を強める。
次の瞬間、赤熱していく彼の掌からは次第に細く小さな炎の帯が発現する。

ξ;-⊿゚)ξ「えっ」

勝てる―――勝てて、しまう。

そう思っていたのは、この場できっと彼女。
クー=ルクレール、ただ一人だった。

(´・ω・`)「これまでも……かわせるか?【炎流――――】」

不可避の焔。不死身のヴァンパイアは殺し損ねたが、一匹の獣程度ならばこの炎に巻かれれば跡形も無い。
焦熱の牢獄に囚われた対象はどうする事も出来ず、魔力と大気を糧に燃焼し続ける炎によって屈するのみ。

461名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 09:56:03 ID:ctbJJWLU0

( ^ω^)「なっ!?」

それを知ってか知らずか、彼女は飛び出していた。

あろう事か、隙だらけの背中を獣の方に向けて―――
今まさに魔法を放たんとした、ショボンの目線の先に立ち塞がるようにして。

川;゚ -゚)「………やめてくれッ!」

両腕を大きく左右へと広げているそのさまは、まるで、手負いの獣を守ろうとするかのように。

爪;'ー`)「お、おい!馬鹿ッ、何の真似だそりゃあッ!?」

(;´・ω・`)(―――チィッ……!)

クーの背後、未だ憎悪の眼差しを向ける獣へと狙いを定めていたはずの、ショボンの赤熱した掌に宿った魔力。

暴発しかけた魔力を握り締めた手の内で霧散させると、女性が一人焼け死ぬだけに
終わってしまうような最悪の展開を、すんでの所で食い止めた。

ブーン達が驚くのも、無理からぬ事だろう。
自分の命を奪おうとしていた獣を庇い立てするように、クーは彼らの動きを制止していたのだから。

462名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 09:56:48 ID:ctbJJWLU0

ξ;゚⊿゚)ξ「クー!?……ど、どうして」

川;゚ -゚)(………)

(#^ω^)「危ない、早くそこを退くおッ!」

怒気を孕んだブーンの言葉は、もっともな事を言っている。
それを自分でも理解しているにも関わらず、がんとして動こうとしない彼女は、ただ視線を下に落とした。

(´・ω・`)「何のつもりなんだ、君は」

ミ#゚叉"彡

極力、背後の獣の動向を伺いながら、それを刺激しない程度に声量を抑えながら、ショボンは言葉を選んだ。
それに返してきたクーの言葉は、やはり彼には理解しかねるものであったが。

川; - )「殺さ……ないで、くれ」

(;^ω^)「―――えっ?」

463名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 09:57:38 ID:ctbJJWLU0

消え入りそうなほどか細い声で紡がれた彼女の言葉に、ブーンは面喰らった。
この場にいる、クーを守ろうとしていた全員が、恐らくは同様に。

その瞳を覗き込めば、それがたちの悪い冗談の類でないのが解ってしまう。

爪;'ー`)「ッ!?」

思わず激情に駆られて叫び出しそうになったフォックスだったが、クーの開いた両腕の隙間から伺える眼光。
獣もまた、こちらのおかしな様子に困惑しているようだった。

獰猛の獣に対して、極めて近い距離で背を向けるなど「食べてくれ」と言っているようなものだ。
やがて、一拍の間をおいて、彼女はもう一度口にした。

川;゚ -゚)「頼む―――殺さないでくれ、こいつを」

爪;'ー`)「はん、博愛主義ってか?お咎めなら後で聞くぜ、だから今は大人しく―――」

ミ#゚叉"彡(………)

464名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 09:58:20 ID:ctbJJWLU0

痛みにしかめた表情は深く皺が刻まれたままだが、こちらのおかしな様子に警戒心を抱きつつも、
数歩で飛び掛って来られる程に、自分達を隔てるクーとの距離は近い。

命を投げ出そうとしているようにしか思えない彼女の言動と、行動。
それを想像だに出来ずにいたブーン達の表情から振り返ると、クーは獣へ向き直った。

川;゚ -゚)「”ミルナ=バレンシアガ”」

(´・ω・`)「………?」

一瞬、一行は彼女の言葉の意味を考える事を余儀無くされた。
だが、敵対心を剥きだしにする野生を前に大きく隙を見せる事は、命を捨てるようなもの。

焦れたフォックスが怒りを露にするのももっともだ。

爪#'ー`)「なんでもいいが……おしゃべりしてる暇はねぇ、早く!」

それに対しクーの口から飛び出したのは、あまりに意外な言葉。
多くの疑問符が頭の中に並べ立てられ、それを整理して答えを導き出そうとすれども。

川;゚ -゚)「人間なんだ……れっきとした!」

465名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 09:59:24 ID:ctbJJWLU0

(;^ω^)「おっ?」

”おかしくなってしまったのか”と、ブーンは内心に彼女を案じる。

今や自分達の前にいるのは、鋭利な爪や牙を覗かせては、貪欲な殺意に爛々と瞳の金を輝かす一匹の獣。
おおよそ同じ人間になど見える訳がないにも関わらず、強張った表情の中に浮かぶ泣き出しそうな表情が、
クーの言葉に篭められた真剣さを物語っている。

正確に彼女の言葉の意図を理解できたのは、この場において二人だけだった。
にわかに受け入れがたい現実と言えども、”それ”への知識を頭の片隅に残していた二人だけ。

ξ;゚⊿゚)ξ「え……?」

爪;'ー`)「どこをどう見れば人間に見えんだ……どけよッ!」

ミ#゚叉"彡

フォックスがクーを振り払おうと一歩踏み出すと同時、獣はぴくりと反応する。
今すぐに飛び込んできかねない―――一刻を争う状況下、まごまごしている時間などない。

それでも、クーはその場を離れようとしないのだ。

466名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 10:00:15 ID:ctbJJWLU0

(´・ω・`)「待ってくれ」

川;゚ -゚)「………」

無言で背を向ける彼女に、ショボンは率直な疑問を投げかける。

(´・ω・`)「本当、なのかい?」

川; - )「………」

言いかけた言葉を飲み下すようにして、ショボンの問いにクーはゆっくりと頷いた。
丸腰のクーは、すぐにでも目の前の襲い掛かられてもおかしく無い。

(´・ω・`)「―――驚いた」

しかし、何故だかまだ向こうは戸惑いを見せているようであった。
それでも、こうして無用な問答をしている隙を見せては、全員の命に関わるのだ。

二人の仲間たちの様子に、ブーンとフォックスは互いに顔を見合わせて怪訝な表情を浮かべる。

467名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 10:01:05 ID:ctbJJWLU0

(;^ω^)「解らないお。何を言っているんだお?」

(´-ω-`)「”ライカンスロープ”」

(;^ω^)「おっ?」

ただの妖獣ならば、この大陸に星の数ほど巣食っている。
けれども、その存在は伝承やおとぎ話の中でしか明かされていない。

人の姿と、狼の姿を同時に併せ持つ存在。

ξ゚⊿゚)ξ「………人狼よ」

かつて、異教が崇める神々の中にもその姿を模した神が居たと伝えられる。
だが今のブーン達の目の前にいるのは、ただ獰猛な妖獣が一匹。

仮に事実だとしても、人の身体に狼頭を持つそれとは、よほどかけ離れた存在だ。

(´・ω・`)「”人狼”は事実、過去にも存在していた」

爪;'ー`)「おい、冗談抜かせ。あいつがどうやったら人型に見えるんだよ」

468名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 10:01:53 ID:ctbJJWLU0

川; - )「冗談などでは、ないッ……!」

爪'ー`)「……ッ」

爆発しそうな感情を必死で繋ぎ留めているかのように、クーは喉の奥から擦れた声を漏らした。
あるいはフォックスの言葉どおり、冗談であって欲しいとさえ彼女も思っていた筈だ。

それを物語るかのように言葉を紡いでいく彼女の声は、次第に悲痛に満ちていった。

川; - )「この場所で、彼と話していた。つい、さっきまで」

ミ#゚叉"彡

”この狼は、元は人間だった”
訴えかける真剣なクーの声色からは、それが嘘だなどとは思えない。

しかし、それだけがこうして彼女が立ち塞がる理由ではないであろうと、ブーンはふと直感を得る。

(;^ω^)「……知っている人、なのかお?」

469名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 10:03:12 ID:ctbJJWLU0

川; - )

誰かの命に固執するという感情の理由は、きっとただ一つだ。
いつかの、娘の幸せを願うあまりに死神の誘いを拒み続けた老紳士の顔が浮かぶ。

「―――――あぁ」

クーにとって大切な一人なのだと、すぐに解ってしまった。

川; - )「彼は、私を―――」

(;^ω^)「それが……一体、何がどうしてこうなってるお!」

クーがブーン達の方へ振り返ろうとした間際、獣の前足がずり、と一歩踏み出された。
微かな初動が、やがて最悪の事態をもたらしてしまう想像が脳裏を駆け巡る中、ツンが叫ぶ。

ξ;゚⊿゚)ξ「危ない!!」

”どんッ”

470名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 10:04:03 ID:ctbJJWLU0

ミ#゚叉"彡「ルオォォォッ!!」

川; - )「!」

ブーンの肩に跳ね除けられたクーの身は、呆気なく一瞬宙へと放り出されると、脇の地面に倒れこむ。
正面を切って突っ込んできた獣の突進の直線状から、少しでも彼女を遠ざけるため。

(#`ω´)「!………くおッ」

目の前が暗くなったのは、獣が後ろ足で立ち上がり、ブーンの前に大きく影を落としていたからだ。
頭上で振り上げられた右の前足が視界の端に入ったのを確認すると、とっさに長剣の柄を巻き取る。
刃を寝かせて幅広の刀身側面を自らの肩に押し当てながら、爪撃を迎え入れる構えを取った。

”ゴスンッ”

(; ω )「――のッ、ぉ」

ミ#゚叉"彡「ゴオアァァァァッ!!」

471名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 10:04:45 ID:ctbJJWLU0

とっさの防御によって、首への直撃は辛うじて防いだ。
だが、体内で響いて脳を揺らす極めて重い衝撃は、まともに受けるのは得策でなかったようだ。

獣の雄叫びを耳にしながら、長身を誇るブーンの身体は軽々と後方へと吹き飛ばされていた。

(´・ω・`)「ブーン!」

爪;'ー`)「下がれッ、全員離れるんじゃねぇッ!」

目の前にまで迫られた恐怖に抗いながらも、身体は考えるより早く反撃の刃を放っていた。

危機的状況下にあっても弱点を狙い済ましていたフォックスの判断は間違っていなかったが、
一度”痛みを学習”されたせいで、二度目の目潰しは顔を覆った獣の前足に阻まれる。

ミ#゚叉"彡「――フシィッ」

川; - )「……あ……」

爪;'ー`)(まずい)

472名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 10:05:43 ID:ctbJJWLU0

ブーンを吹き飛ばした獣の爪が次の獲物を見失った時、獣の視線は、脇に倒れた一人へと注がれる。
帯刀してさえいれば。あるいは、普段の彼女ならばすぐに動き出していただろう。

だが、この時のクーには力なく短い声を発するだけで精一杯だった。
自分を食おうと牙を剥き出す獣を前にしてさえ。

ξ;゚⊿゚)ξ「逃げて―――クーッ!!」

(#´・ω・`)「【魔力の羊歯よ 絡みつき かの者の動きを封じよ―――縛鎖の法!!】」

だが、フォックスの背後で腕を伸ばしたショボンの魔法が、辛うじて間に合う。

倒れこんでいるままのクーを組み伏せるようにして喰らいつこうとしていた獣の牙は、
ショボンの手から伸びた魔力の蔦によって猿轡をかますようにして動きを阻害した。

ミ#゚叉"彡「グッ、……オォアァァァゥ!」

(#´・ω・`)「もって数十秒だ!離れろ、クー!」

473名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 10:06:56 ID:ctbJJWLU0

川;゚ -゚)「ぁ……」

尻餅をついたような状態で身を起こした彼女の前には、ギラつき、飢えた狼の牙。
促すショボンの言葉にも、彼女は蝕まれた理性によってその場を動けずにいた。

恐怖という、単純なその感情だけではないが。

爪;'ー`)「へッ!千載一隅だぜ……いつまで寝てやがるブーン!!」

先のハインリッヒ戦でも見せたショボンの戦闘補助魔法。
ほぼ確実に攻撃をぶち当てられるのならば、ブーンが動ける状況下においてこの上ない。

相手は、首をもげば死んでくれるだけ―――随分と分の良い勝負。

(;^ω^)「いわれなくてもだおぉッ!」

肩口に裂傷を負いながらも、ブーンは剣を手に走り出していた。
一方の獣は魔力の蔦に全身の自由を奪われながら、まだ動く事が出来ずにいる。

474名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 10:07:41 ID:ctbJJWLU0

彼女には気の毒な事をする事になるのだと知りつつも、もはや機を逃す訳にもいかない。
後からいくらでもクーから憎まれる覚悟をせざるを得なかった。


―――やがて、ブーンは大上段に構えた剣を、獣の頭上へ。

川 - )「…………なんだ」

(  ω )「ッ!!」

それは長剣の刃先を振り下ろそうとした、直前になってだった。
ぼそりと呟いたクーの言葉が瞬時にして強烈に耳へ突き刺さったブーンの動きは、それきり止まる。

聞き直すように首を向けたブーンの瞳には、くしゃくしゃの彼女の表情が映っていた。

川 ; -;)「……育ての、親………なんだ」

(; ω )

ブーンはただ、その場に無言で剣を振り上げたままでいる事しか出来なかった。

475名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 10:08:33 ID:ctbJJWLU0

この狼が本当に元・人間だとするのならば、これからブーンが行おうとしているのは、
クーのその感情すらをも、彼女の悲痛な願いすらをも断ち切る事に他ならない。

爪;'ー`)(聞くべき言葉じゃなかったぜ)

人というものは、金や名声などいくらでもかなぐり捨てる事が出来る。
即ち、人との縁―――――自らが大切に思う、誰かを想う感情のためならば

彼ら自身にも決して例外ではない親や仲間との”絆”は、天秤にかけられるものではない。
替えの利くものなどなく、ただ一人の人物を失う事の痛みは、ブーンも良く知っていた。

彼もまた、自らの親を失う痛みを知っているからこそ躊躇ったのだ。
それは決して、今この場では彼女に口にして欲しくはなかった言葉だが。

ξ;゚⊿゚)ξ「………」

476名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 10:09:18 ID:ctbJJWLU0

以前に対話したクーの瞳からは、両親を奪った聖ラウンジへの憎悪が伺えた事を、ツンもまだ憶えている。

その彼女から、あまつさえその両親の命を奪った仇敵とも言える自分が、またしても彼女から大事な一人を
奪おうとしていたという事実を認識すると、頭を揺さぶられるような衝撃を感じていた。

人の命を脅かす凶暴な獣を前にして、彼女の願いは一つだけ。

川 ; -;)「――頼む」

なのに、それを叶えてやる事は出来そうにない。

(´-ω-`)「長くは持たない……決断を」

これほどの獣性を、人里の近くに放っておく訳にもいかないのだ。
この場をすぐに退散するにしても、クーがこの状態では逃げ遅れ、追撃を受けるすぐ先の未来も見える。

(  ω )(意地が悪いお、ショボン)

477名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 10:10:12 ID:ctbJJWLU0

クーはきっとこの事実を、今まで知らなかったのだろう。

それでも、これまで何人の人間を喰らってきたのかという考えは、嫌でも浮かんでしまう。
仮に彼が人で、その人格がどうであろうとも。

近隣の村や旅人に対し、必ずや脅威となるであろうこの狼を放っておく事こそが後顧の憂い。
―――――恐らく、クーもそれは理解しているのだ。

だとするならば、やらなければならない事を解った上で、大事な人との別れを惜しみ彼女は涙しているのか。

(; ω )(ブーンの性格で―――殺せる訳がないお)

爪;'ー`)「ちッ!………わぁッたよ!」

ブーンのその胸中を読んだかのように、頭を掻きながらフォックスが叫んだ。
その手には、変わらずナイフが握り締められ―――未だもがく獣の元へ歩みを進める。

ミ#゚叉"彡「ガァゥ…… ガアァッ!」

爪;'ー`)「おめーらが出来ねぇなら、俺がやるしかねぇ」

478名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 10:11:00 ID:ctbJJWLU0

川 ; -;)「……やめ、て」

爪;'ー`)「ッ―――もう一つの、目を潰す!………それか、四肢の一つを不能にする」

ξ;゚⊿゚)ξ「でも、そうしたら」

(´・ω・`)(随分と妥協した”最善”だが―――しかし、彼女にとっては……か)

爪'ー`)「俺達がここで見逃して、明日は俺達の知り合いの誰かが食い殺されるかも知れねぇんだ」

川 ; -;)「……」

爪'ー`)「脅威は削げる、死にはしねぇ。わかってんだろ……あんたも」

言葉を聞き遂げると、ブーンは振り上げていた剣をゆっくりと振り下ろし、再びクーの表情を覗いた。
未だ涙に濡れた頬は変わらずだったが、その表情にはある変化を感じ取っていたようだった。

(  ω )「―――――任せたお、フォックス」

479名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 10:12:47 ID:ctbJJWLU0

川 ; -;)「頼む……ミルナ――元に」

ミ#゚叉"彡(… … …?)

そこからだ、魔力の蔦に絡みつかれたまま暴れていた獣の動きにも、変化が訪れたのは。
一つだけ残された深い金色の瞳が、じっと彼女の瞳を離さずして捉えていた。

ξ゚⊿゚)ξ(……急に、動きが……?)

( ^ω^)「………!」

まさかクーの想いが伝わったのではと、ブーン達もまた光景に見入った。
にわかには信じがたいが、彼がツンの口にした”人狼”であるのならば、人としての部分も残っているのではと。

ほのかな期待を篭めて、彼女はもう一度その名を口にする。

480名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 10:13:31 ID:ctbJJWLU0
川 - )「ミル、ナ………?」

打って変わって突如静けさを取り戻した夜の森。
一同の火照った頬を、一陣の夜風が駆け抜け撫ぜる。

この獣にとって、目の前に涙するクーの表情は、何故か心を揺さぶるものだった。

あるいは残された眼がその輪郭を捉えたのか、感情が呼び覚ましたのか。
しかし、そのいずれでもなかった。

”彼”はまだ―――今この時にあっても戦っていた。
無意識の底に幽閉されているはずの、本来の自分と向き合うために。

ミ#゚叉"彡(… … …)







481名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 10:14:13 ID:ctbJJWLU0


『み    ル    な』











何故だか、その声だけはこれまでで一番はっきりと己の内に響いた気がした。
自分という存在自体が霞のように薄らぎ、意識すらもあるかどうかが不確かな中で。


―――――ソウ、ダ。

482名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 10:14:53 ID:ctbJJWLU0

先ほどから、自分に語りかけようとしていた声の主だ。
だが、何かを伝えようとする彼の言葉は、ずっと”奴”によって遮られてしまっていた。

暗闇に包まれた水底の、さらにその奥へと沈んだ自分に語りかける声など、届かないのだ。
そして金色の瞳に狂気の色を入り混じらせた一匹の白狼が、またもどこかの闇からのそりと現れる。


ミ#゚ ゚#彡《ナンダ 貴様ハ》


――――――オマエ ハ。

水面に波紋を形作るかのように、今度はしっかりとその言葉が溶け込んできた。
どれだけ叫ぼうとも、決して這い上がれる事のなかった黒の牢獄の中で、確かに。


ミ#゚ ゚#彡《失セロ 貴様ナドニ用ハナイ》

483名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 10:16:13 ID:ctbJJWLU0

――――――ワスレル、ナ。

『……オれは、忘レちゃ、いナい』

声の主の問いかけに、何故だか自然とそう言葉を返していた。
だがきっと声色には、深い諦念が染み込んだものに感じられた事だろう。

そうして、そこへ”奴”の呪詛が割り込む。


ミ#゚  ゚#彡《コレハ 俺ノ身体》


そう、確かにそうだった。
自分がこいつを殺したのだと、また嫌な事を思い起こさせてくれる。

484名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 10:17:09 ID:ctbJJWLU0

旅の最中、一匹の狼を葬り去った。
奴の呪いこそが、自分という存在をこの場所に縛り付けている。

いかに強く自我を保とうと試みても、朝になれば人の血肉が歯の裏にへばりついている悪夢こそが現実。
自分が今までに何人を殺し、そして何人を食って来たのかすらも知らない。

呪いによって自ら命を絶てないのなら、せめて食欲を精神力で押さえ付け、ゆるやかに死んでいこうと試みた。
だが、人恋しさからか、ある時山を降りてしまったのがいけなかったのだ。

そこで、あいつに会ってしまったから―――――



『あ……イ………ツ?』



一体誰の事を考えていたのか、自分でも解らなかった。
理性を蝕む獣の性とのせめぎ合いの狭間で、思考は混濁する。

485名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 10:17:55 ID:ctbJJWLU0

―――――ワスレルナ、オマエジシンヲ。


その言葉に、ふと。


川  )


鮮烈に誰かの後姿が――哀愁が影を落とす女性の背中が、脳裏を駆け巡った。
そこで自分は、その人物が誰かを知っているはずなのだという事を、思い出す。

ミ#゚  ゚#彡《オ前ハ 俺―――俺ハ オ前》

けれどもこうして”奴”に攻め立てられては、思い出すのすら困難だ。
こうして記憶が少しずつすっぽりと抜け落ちて、いずれ自分は自分で無くなってしまうのだろうか。

486名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 10:19:59 ID:ctbJJWLU0

―――――ナラバ キケ。


(元に……ミ … ナ)


そこへあの声が、もう一度聞こえてきた。
水面を揺らす波紋は、自分だけでなく―――――この闇の淵をも確かに揺らす。

ぼんやりと見上げた先、もう一対の金色の双眸がこちらを見下ろしていた。


<゚||゚>
^^

この目には眩しいまでの光が、薄ら見えた。
よくよく目を凝らしてみると、その先にいた”蛇”の姿と共に。

487名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 10:22:18 ID:ctbJJWLU0

―――――オモイダセ オマエヲ、カタチヅクッタモノタチヲ。


『俺ハ………』


―――――ワスレル、ナ。


『オ、ぼえ……テいた』


―――――オマエガ、ナニモノデアルノカ。


『コの胸ヲ熱クした あノ日々ヲ』

勝手に呼応する感情、やはり言葉は自然に口を突く。
しかしそれを取り戻す事こそが、自分という一人の人間の願いだったのだ。

あまりに遅くなってしまったが、ようやくそれに気付き始めていた。

488名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 10:23:39 ID:ctbJJWLU0

―――――ワタシハ イツデモオマエトトモニアッタ。


ミ#゚  ゚#彡《何者ダ―――――”蛇”》


「俺はお前」だと、これまでそれを語り聞かせるようにしながら、あの夜から
ずっと自分に付き纏い続けてきた”奴”の呪縛が、初めて揺らいだのを感じる。


<゚| |゚>《ウシナッテハ ナラナイ》


金色に輝く体表を持つ、この世のものとは思えない艶やかな光を放ち続ける”黄金の蛇”
”奴”と同じ黄金の眼を持ちながらも、その存在はきっと対極に位置する。

呼び起こそうとしているのだ、”俺”を。

そうだ、そろそろ目を覚まさなければならない。
諦めている場合などではないのだ。

この瞬間を逃してしまえば、きっと俺は一生死んだ獣の亡霊にかしづく奴隷だ。

489名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 10:24:49 ID:ctbJJWLU0

『キッかけヲくレタからコソ 俺ハ外の世界ニ目ヲ向けタ』


親に捨てられた粗野な山子でしかなかった俺を見つけ、酔狂な事に人の道を説いた神父が居た。
いつからか彼は姿を現す事は無くなったが、彼がいなければ今の俺はなかった。


『世界ハ広いのダト 感ジさせてくレた』


人付き合いが苦手で、闘争ばかりに明け暮れる俺をまともな人間にしてくれたのは、ミタジマ流だった。
共に汗を流す毎日の中で友と呼べる相手も出来て、俺は次第に広い世界へと目を向けるようになった。


―――――ソシテ、オマエハタイセツナモノトメグリアッタ。

490名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 10:25:44 ID:ctbJJWLU0

『…………クー』


そうか、そうだった。


ミ#゚ ゚#彡《邪魔ダ 貴様》


もう、お前の支配に縛られる事もなさそうだ。


( д )


『ソうダ。俺は、ミルナ=バレンシアガ』


ぼんやりとだが、俺の意識に直接語りかけるようにして、”黄金の蛇”は言葉を紡いだ。

491名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 10:27:11 ID:ctbJJWLU0

彼は、いつからか俺の内に宿っていたのだ。
肉体と精神の内底で眠っていた事を、これまで知らなかった。

自らのものだけと感じていた力の根源―――やがてそれは、意思を持った存在と化していた。

”ミタジマ流の究極秘伝”

元々の素質に加え、万日の稽古に錬を費やしながら、強く健全たる精神の持ち主にだけ
”その姿”が見える事が万に一つもあるのだと、兄弟子達から聞いた事がある。

”螺旋の力”と呼ばれる、人体に眠る特殊な力。
それを制御する事によって体現し得る孔術を極めた者のみが、極稀に出会える。

自らの精神に宿る、黄金の体表を持つと言われるその”螺旋の蛇”に。


<゚| |゚>《… … …》


―――――ワタシハ イツデモオマエトトモニアル―――――

492名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 10:28:17 ID:ctbJJWLU0

その言葉を言い残して、黄金の蛇は微かな光の残滓を俺の前に残しながら、暗闇に溶け込むように消えて行った。

やがて浮遊感を得て、少しずつ闇の淵から引き上げられていくのは自らの意識か。
ふと下を見ると、これまで俺を苦しめてきた”奴”がこちらを見ていた。

ミ#゚  ゚#彡

言いたい事は分かっている、そして、”奴”の言った言葉は間違いではない事も。
いくら抑え付けることは出来ようとも、その憎悪はきっと消える事はない。

だからこそそれへの罰を、甘んじて受け入れる。


( ゚д )『解っている……逃げも隠れもしないさ。俺がお前を殺したんだものな』


せいぜい、共に生きてやるさ。








493名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 10:29:10 ID:ctbJJWLU0







(;^ω^)「離れるお、クー!!」

ショボンの放った縛鎖の法の効力は、とうに切れていた。
それにも関わらず、これまでブーン達はクーと獣の動向から目が離せずにいたのは失態だ。

万に一つも奇跡が起こる可能性を信じて、マスターから頼まれた娘の命を危険に曝してしまった。

川;゚ -゚)「あ……ッ」

即座にクーの脇を抱えると、引き摺るようにしながら獣から彼女を引き離した。
何が起こっているのか―――――果たして、考える時間は与えてくれるだろうか。

「………ルルルルルオォアァァァァァァァァァァァッーーー!!!」

494名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 10:29:51 ID:ctbJJWLU0

ξ;-⊿-)ξ(なんて吠え声……!)

しばらくクーの瞳を覗き込んでいた獣は、突如月を見上げると狂乱の咆哮を上げた。
腹の底にまで重く響くその声は、人間の戦意を喪失させるに十分な畏怖を振りまく。

山々を木霊し駆け巡るその声は、恐らく遠く離れた旅人の耳にも届いた事だろう。

「ア  アァ  オ  ォ   ォ  ―――――」

やがて、獣の身に緩やかに起こっていた変化に、フォックスが気付き指を差した。

爪;'ー`)「オイ……あれ、って」

(´・ω・`)「!」

ミ# дメ#彡「ガ……ァアッ……オォォォォォッ!!」

495名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 10:30:50 ID:ctbJJWLU0

明らかな変化が、獣の身に起こっていた。
その身を染める白銀の毛並みはそのままに、全身や顔までも、形が変わっていく。

その姿はこれまでの獣というよりは、より人に近しく。

川;゚ -゚)(何なのだ)

人から獣になったのならば、その逆も起こり得るのではないか。
クーは僅かばかりの期待を瞳に篭めながらも、その光景を見送る。

しかし、異変は彼女が願った通りの形になるものではなかった。

「―――――ルオォォォォァァーーーッ!!」

それどころか、妖獣の姿は更なる異形へと変貌を遂げていく。

(; ω )

爪;'ー`)

496名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 10:31:50 ID:ctbJJWLU0

びりびりと痛みすら伴うような雄叫びに、自然と一行の肌が粟立つ。

やがて途切れるようにして月に向けられていた咆哮が消えゆくと、
白い息を吐き出しながら肩で息をするようなその獣の姿に、ショボンが思わず口にした。

ミ#゚дメ#彡「…フゥゥ……、…フゥゥ……」

もはや、二本の脚で立っている獣の背格好は、”鬼”と呼ばれるオーガの巨躯にも劣らない。
限りないまでに馬鹿げた筋量の肉体と、全身の多くを覆っている体毛。

そして狼頭に加えて、人に限りなく近い肉体を持っている事以外は。

(;´・ω・`)「ライカン――――スロープ」

(;`ω´)「……狼男なのかお……本物の」

やがて”脅威は増した”のだと確信する。
佇まいからでも解る、低級の妖魔などとは別次元に格が違うのが。

ミ#゚дメ#彡「…………フゥッ…………」

497名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 10:32:45 ID:ctbJJWLU0

人体の輪郭を残しながらも、四肢の先端にある手や脚は獣としての武器が変わらず備わっている。
不自然な筋肉量と、打撃程度ではびくともしないであろう、人間の胴ほどもある首周りや胸板の厚み。

どうしてこうも自分達は貧乏くじを引くのかと、内心自らを嘲り笑いたい気分だった。
だが、それを表情に出せるほど気持ちの余裕は持てない。

身にまとう闘気は異質で、人をくびり殺すなど片手で造作もないだろう。
対峙しているだけで静かに命を削られているような感覚は、嵐の予感を感じさせた。

爪;'ー`)「誰か説明できるか、この状況」

(;´・ω・`)「”後でゆっくり”……とだけ」

ミ#゚дメ#彡(… … …)

やがて呼吸を整え終えた”人狼”は、鋭い爪をもつ自らの掌をじっと見つめては、
その場で息を呑んでいたブーン達のほうをゆっくりと見回し始めた。

498名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 10:34:53 ID:ctbJJWLU0

ξ;゚⊿゚)ξ

(;^ω^)(守りきれる、かおね)

背には、守らなければならない二人の女性が小さく肩を震わせている。
戦意は元より、武器を持ち合わせていないクーにはこの場を離れてもらうしかない。

先ほどまでならば、十分に勝機を見出せた戦いのはずだった。
それも今となっては、三人の戦力を合わせてどうかという、未知数の賭け。

カード勝負でフォックスに負け越してばかりのブーンだったが、それでも勝たなければならない、命の博打。

「……ル……ナ」

(;^ω^)「ッ……来ちゃだめだお、クー!」

ミ#゚дメ#彡(… … …!)

その名を聞いて、かすかに人狼の瞳孔が開く。
もはや各々が武器を携えて出方を探っているさなかでの人狼の反応は、一行の目にも明らかだった。

499名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 10:35:33 ID:ctbJJWLU0

川;゚ -゚)「聞こえて、いる……のか?」

ミ#゚дメ#彡

”ざっ”

(;^ω^)「!」

ブーン隣に並び立った彼女は、さらに一歩を踏み出して”人狼”の前に立つ。
すぐに後ろへどけようとしたブーンだったが、それより早くフォックスの叫びが耳をつんざく。

爪;'ー`)「馬鹿野郎がッ!離れろッ!」

そして、その彼の動きを静止したのはショボンだった。

(´・ω・`)(待て―――――!)

爪;'ー`)「?」

(´・ω・`)(先ほどまでと比べて、明らかに様子がおかしい……)

500名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 10:36:39 ID:ctbJJWLU0

丸腰のクーを前にして、一歩片足を後ずさったのは銀狼のほうだった。

食欲ばかりが先行しているように見えたさっきまでにも、こちらを貪欲な眼差しを向けながら
出方をしっかりと伺う程度の知性は持ち合わせていたが、今の人狼の姿からは、まるで――――

川;゚ -゚)「なぁ……”ミルナ”ッ!」

ミ#-дメ#彡「… … …」

彼女の言葉は、彼の耳に届いている。
人の心など入り込む余地のない完全な獣性とは違う、人としての人格を持った者の反応。

ξ;゚⊿゚)ξ「聞こえて―――いるんだわ」

( ^ω^)「!?」

ツンの目からはその人狼の様子が、クーの言葉をはぐらかしたかのように映った。

川;゚ -゚)「応えてくれ、私の質問に」

501名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 10:38:33 ID:ctbJJWLU0

更に彼に近づこうとしたクーの歩みを止めたのは、人狼。
威嚇の唸りではない、その大きく裂けた狼頭の口から発されたのだ。

ミ#゚дメ#彡「……”クー”……」

爪'ー`)「……んなッ」

確かに、ミルナと呼ばれた人狼はその名をしっかりと口にしたのだ。
低く不規則に震えるような、人間のものではないような声で、人の言葉を。

皆が表情に一瞬で驚きを浮かべたが、何よりもその言葉に安堵したのは、クーだった。

川 ; -;)「ミル……ナ、なんだな……?」

ミ#-дメ#彡「… … …」

両腕を下したまま、彼女の涙ながらの問い掛けを肯定するかの用に、沈黙を保った。
それはこの状況に対して申し開きを拒むかのような合図に思え、彼の人格が残されている事を確信できた。

どういった経緯でこうなってしまったかは解らないが、聞きたい事は山ほどある。

502名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 10:40:04 ID:ctbJJWLU0

(;^ω^)(どうやら……)

ξ;゚ー゚)ξ(……うん)

ツンとブーンは無言で視線を交わすと、互いにゆっくりと頷きあった。
構えていた長剣を下ろしながら、彼女の育ての親の命を奪わずに済みそうだという事に、
少しだけ安堵の表情を浮かべる。

両手で涙を拭うクーは、もう今すぐにでも彼のふさふさの胸へと飛び込んでいきそうな様子だった。

爪#'ー`)「……突っ立ってんじゃねぇ!ボケナスッ!」

(´・ω・`)「下がるんだッ!」

ξ;゚⊿゚)ξ「―――――えっ」

ミ#゚дメ#彡

”パンッ”

503名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 10:43:12 ID:ctbJJWLU0

ショボンに襟首を引き寄せられ、急速に移り変わるツンの視界の端に見えたもの。
それは、駆け寄ろうとしたクーの身体が、肩に受けた衝撃に踏みとどまる事も出来ず、吹き飛ばされていく光景だった。

川; - )「か……ハ、ぁッ!」

( ゚ ω゚ )

人狼がクーに行ったのは、腕を広げるようにして単純に彼女を裏拳で振り払う所作。
たったそれだけの動作で、糸の切れた操り人形のように彼女は宙を舞って、地面へと墜落した。

ミ#゚дメ#彡「… … 邪魔だ」

”キンッ”

その逆の腕では、この中ではいち早く動き出していたフォックスが
喉首を目掛けて既に投擲を終えていたナイフが、容易く弾き落とされる。

爪;'ー`)「んだとぉッ」

504名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 10:44:11 ID:ctbJJWLU0

ブーンは自らの認識が甘過ぎた事を、倒れ込んだクーの姿を見る事でようやく痛感した。
たとえ姿形が異形であっても、記憶や人格さえ残されていれば分かち合えるものだと。

常に最前をいく自分こそが、もっと慎重にならねばいけなかったのに。
危うく後悔してしまいそうになった―――――が、今はその暇すら惜しい。

(#゚ ω゚ )「……ツン!」

ξ;゚⊿゚)ξ「うん!」

きっと彼女もまたブーンと同様の心境にあっただろう。
安堵を浮かべたその直後、現実に裏切られる。

そんな光景を目の当たりにしても、すぐにやるべき事を見出せるあたりが、強い女性の証拠だ。
一瞬の忘我の後、”クーを頼む”という彼の意図はすぐにツンへと伝わり、駆け出した。

そして再び柄を硬く握り締めて剣を構えると、眼前の”人狼”を睨めつける。

505名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 10:45:15 ID:ctbJJWLU0

ミ#゚дメ#彡「そう……クー、ルクレールだったな」

(#゚ ω゚ )「……お前、やっぱり―――!」


考えていた通りだった。
人狼はしっかりと、自我を保っている。

それにも関わらず、親しい間柄であるはずのクーを目の前で跳ね除けた。
あろう事か、彼女が好意を向けていたのもお構いなしに、それを踏みにじるかのようにだ。

(´・ω・`)「なら、お聞かせ願えるかな?”それ”に至った経緯と―――」

爪;'ー`)「そうさな……”育ての親”とやらのお前さんが、今俺達の前でクーをぶっ飛ばした理由だ」

ミ#゚дメ#彡「……下らんな」

506名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 10:46:41 ID:ctbJJWLU0

(#゚ ω゚ )「………!」

こちらが敵愾心を剥き出しにした様子など、全く意に介していないのが見て取れる。
そして狼頭の裂けた口元が、まるで人間のもののように厭らしく歪んだ。

ミ#゚дメ#彡「先の問いの答えを教えてやろう」

(´・ω・`)「………」

”読めない相手”だと、ショボンらは会話を布石として今一度人狼の様子を伺っていた。

素直に質問に答える辺りは向こうの気まぐれなのだろうが、静かに詠唱を済ませながらも、
いつでも最速の魔法を放てるだけの準備はしておいた。

場合によっては戦闘を避ける事も可能なのではないか、という考えを抱きつつも。

ミ#゚дメ#彡「”闘争”こそが、俺を形作る全て」

爪'ー`)「………ほう?」

507名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 10:48:06 ID:ctbJJWLU0

ミ#゚дメ#彡「……強くなる事。それだけの為に、俺は全てを捨て去ってきた」

(#`ω´)(………)

きっと似たような考えを抱いている大層なバケモノを、ブーンは知っている。
”名だたる妖魔や強力な力を持つ一種族どもは、野蛮な闘争に明け暮れる事しか考えないのか。”

日がな他者の命を奪う事しか考えないのだとしたら、そいつともいつかきっと決着を付けなければならないが。
静かな闘志を絶やさぬままに、ブーンは敵意を篭めた眼差しだけを鋭く向け続ける。

ミ#-дメ#彡「この肉体を手に入れたのは……予期せぬ事だったが」

(´・ω・`)「個人的には、その原因に非常に興味を惹かれるね」

ミ#゚дメ#彡「フン。単純な事……”呪い”だ」

爪;'ー`)「ったく、流行らねぇな……今日び」

508名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 10:49:30 ID:ctbJJWLU0

ミ#゚дメ#彡「―――ある満月の日、俺に殺された一匹の狼が与えたのさ―――この”力”をな」

ミ#゚дメ#彡「現に貴様らの前にいるだろう、人が”人狼”と恐れる……俺という存在が」

(´・ω・`)「それが、望んだ結果だとでも?」

ミ#゚дメ#彡「ハッ―――――”好都合”、だったという事だ。強さを追い求める、俺にしてみればな」

(#`ω´)「………」

ここまで会話を交わして、ブーンはようやく思い当たる。
なぜこの人狼は、戦意をこちらにぶつけてこないのかという事に。

人の意識を持っているとしても、中身はそこいらの獣とは比較にならないだろう。
闘争に血道を上げる口ぶりからいっても、戦闘狂の誰かさんならば剣を向けられて黙ってはいないはずだ。

そんな考えに気を取られている内、正面に立つブーンに対し、人狼は問いを投げかける。

509名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 10:51:19 ID:ctbJJWLU0

ミ#゚дメ#彡「―――――俺に、勝てると思うか?」

(#`ω´)「……やってみなけりゃ、解らないおねぇ」

意図を辿るには至らないが、気持ちで負けてはならない。
他愛なく柳のように吹き飛ばされたクーを目で追うしか出来なかった、さっきの失態もある。

こちらを試しているかのようにも思える人狼の言葉を、強く押し返す。

ミ#゚дメ#彡「”ロアリア事変”を知っているか?」

ξ;゚⊿゚)ξ「!?」

その言葉が人狼の口から出た瞬間、混濁した意識のクーに対し”癒身の法”を
試みていたツンの視線が、ばっと彼の方へと向けられた。

川 - )

頭部をしたたかに打ち付けたか、未だ彼女が立ち上がる気配はない。

510名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 10:53:29 ID:ctbJJWLU0

爪'ー`)「知らんね。故郷以外に興味がないもんでな」

(´・ω・`)「……10年前の当時、異端弾圧の動きが最も過激だった聖ラウンジの中で起きた事件だ」

ξ;゚⊿゚)ξ(………)

ツンにとっても、そして今彼女の腕の中に横たえられたクーにとっても苦々しい事件。
凄惨な宗教戦争の幕を閉じ、やがて”聖ラウンジ”から”旧ラウンジ聖教”という乖離を生み出す大本となった事件。

(´・ω・`)「襲撃者不明の中、武装した異端審問官ら数十名が倒され、うち数名が後にこの世を去った」

ミ#゚дメ#彡「………たった、一人の仕業だ。歳は20を過ぎたぐらいの”素手”の若造、一人のな」

(;^ω^)(………なるほど)

人狼としての姿を持たずともして、それだけの大立ち回りを出来てしまう化け物の肉体が基盤という事だ。
少なくともその強靭さは人狼と化した彼の身に、福音ばかりをもたらす源となっているであろう。

かつて人の身にありながら――――目の前の男は更なる”超越者”となったのか。

511名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 10:54:45 ID:ctbJJWLU0

ξ;-⊿-)ξ「―――クーのご両親は、その場所で行われていた異端審問が元で亡くなったはずよ……」

川 - )

(;^ω^)「!」

なおさら、解らなくなっていく。
この男が何を考えているのか、その言動は力を誇示するためか。

(´・ω・`)「その首謀者が、”ミルナ=バレンシアガ”という男な訳か」

爪;'ー`)「異端審問と言やぁ死ぬまで拷問くらうのがお決まりだ……クーを助けるためか?」

ミ#-дメ#彡「まさかな。気まぐれに、力を試しただけだ」

(;^ω^)「あんたは、何を考えているんだお」

これまで溜め込んできた疑問を、率直に人狼へとぶつける。
それによって、こちらの出方は明確に定まってくるだろう。

やはり戦うしかないのか―――――あるいは。

512名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 10:55:44 ID:ctbJJWLU0

ミ#゚дメ#彡「言ったはずだ。命のやり取りだけが、俺の全てだとな」

(;^ω^)「………なら」


爪;'ー`)

(´・ω・`)

ξ;゚⊿゚)ξ

川 - )

人語を解し、人としての言葉で話す”人狼”

けれども変わらずその雰囲気は異質―――その耳も、目も、口も。
紡ぎ出してくる声さえもが、人が戦慄するには十二分なほどの”強さ”を示している。

これから導き出されるであろう問いの答えに備え、ブーン達の身体は自然と強張った。

525名も無きAAのようです:2013/02/16(土) 14:15:11 ID:koW4D9nI0

しかし、人狼の口から返答されたのは意外な言葉。

ミ#゚дメ#彡「だがな―――弱者に興味など、沸かん」

(;^ω^)「……な」

ミ#゚дメ#彡「失せろ。貴様らを殺した所で、何の足しにもならん」

突然に背を向けた人狼の姿に、ブーンは狼狽する。
あくまで戦意を向けようとしない、理性的とも言えるような人外の行動に。

互いにやりあえば、きっとただでは済まない事も分かっている。
それによって、仲間の命を危険にさらしてしまう恐れがある事も。

(´・ω・`)(これは……)

526名も無きAAのようです:2013/02/16(土) 14:16:04 ID:koW4D9nI0

胸を撫で下ろすべき、願ってもない展開だった。
あまりに拍子抜けて、こちらが済ました覚悟もどこへやらという風に。

けれども、それは好都合なのだ。

爪;'ー`)「へッ」

(;`ω´)「………」

戦闘を最低限に済ませられるにこした事はない。押し寄せるのは、やはり安堵。
こんな化け物ばかりを相手にしていては、命など幾つあっても足りはしない。

(´・ω・`)「―――それは、”見逃してもらえる”と受け取っていいのかな?」

ミ#-дメ#彡「どうとでも受け取ればいい」

強張らせていた全身の緊張が、人狼の言葉に少しだけ緩んだ。
それでも警戒心はしっかりと保ちながら距離を伺いながら。

後は、去ろうとする彼の背を見送るだけ―――――だったのに。

527名も無きAAのようです:2013/02/16(土) 14:17:12 ID:koW4D9nI0

(;`ω´)「……待つお」

爪; ー )(馬鹿野郎)

穏便に荒事を回避する器量は、いつ見知らぬ地で死ぬかも知れない冒険者にとって、重要なもの。

それでも、この時のブーンにはそんな事はどうでも良かったのかも知れない。
身に及ぶ火の粉の熱さにすら、気にかけてなどいられぬほどに。

彼の中で引っかかったわだかまりは、まだ消えていなかった。

ミ#-дメ#彡「”失せろ”と言ったはずだ」

( `ω´)「………まだ、もう一つの質問に答えてもらってないお」

528名も無きAAのようです:2013/02/16(土) 14:18:10 ID:koW4D9nI0

背中越しに会話を交わす人狼の表情は伺えない。
先ほどのクーへの行動に対し、まだ遺恨を残していたブーンが人狼を引き止めたのだ。

それをむざむざ許してしまった、自分自身への怒りもあったかも知れない。

(´・ω・`)(ブーンッ)

仲間達のサインにも耳を貸さない彼の心情としては、”納得がいかない”というだけ。

(;`ω´)「なぜ、クーを」

ミ#゚дメ#彡「………」

身体ごと振り向いた人狼の瞳には、静かに黄金の色をたたえていた。
見透かすようなその瞳からは、やはり彼の感情が掴み取ることが出来なかった。

529名も無きAAのようです:2013/02/16(土) 14:18:52 ID:koW4D9nI0







(なんだ、この暖かい光は)

ふうわりと、優しく抱擁を得るかのような安らぎに、クーの中の
途切れ途切れの意識は少しずつ引き寄せ合って、やがて薄っすらとその瞼が開いた。

少しずつ取り戻していく視界には、まず彼女の表情が飛び込んでくる。

ξ;゚ー゚)ξ「………良かった」

川 ゚ -゚)「ツ――ン」

530名も無きAAのようです:2013/02/16(土) 14:20:10 ID:koW4D9nI0

彼女にこうして介抱されるのは、自分にとって2度目であろうか。
自然に到来したそんな考えを抱く内に、自分はどうしてこうなったのかをすぐに思い出す。

狼変化したミルナがついには獣人と化し―――――そして、自分を。

川;゚ -゚)「そうだ……ミル、ナは……」

ξ;゚ー゚)ξ「どうやら、戦わずに済みそうよ」

そういって視線を向けた先で、ブーンらとミルナが会話を交わしている光景が映った。

ミ#゚дメ#彡

( `ω´)

川;゚ -゚)(………)

そこにあるのは、決して夢幻などではない。
ただ、もはや人ではない彼の姿があるだけ。

531名も無きAAのようです:2013/02/16(土) 14:24:55 ID:koW4D9nI0

だが、クーの身にはそんなものより驚くべき事が起きたのだ。
目視が困難なほどの力と速さで、彼女自身を拒むかのように弾き飛ばした。

―――他でもない、あのミルナがだ。

川; - )「……うッ……」

この左肩の痛みが、その事実を大げさに騒ぎ立てる。
ツンの聖術のおかげもあって意識を取り戻したクーだったが、内心は穏やかでない。

聖術をもってしても癒えず残る鈍痛は、まるで彼女の心に直接浸透するようだった。

ξ;゚⊿゚)ξ「無理しちゃ駄目よ……もうすぐ」

川; - )「……もうすぐ何だというんだ」

ξ;゚⊿゚)ξ「………それは」

”終わるから”といった意味合いの言葉を、続けようとしたのだろうか。
クーはその彼女の言葉を、真っ直ぐに受け取る事が出来ない自分自身に、やはり嫌悪感を抱いていた。

532名も無きAAのようです:2013/02/16(土) 14:25:43 ID:koW4D9nI0

自らを助けに来てくれた人間を冷たく突き放すような、精神的な余裕の無さ。
かっとなってしまえば、心にもないはずのそんな言葉しか、口に出来ない自分が。

今という時間が過ぎ去り、ブーン達とミルナとの会話が終われば、どうなるのか。
再び彼は自分の前から姿を消し、目指していたはずの安寧の時は―――もはや二度と返らないのか。

川 - )「冗談じゃ……ない」

―――――全てを話してくれても良いはずの間柄だ、逃がしはしない。
このブーン達の力を借り受けてでも、また行方を眩ます事など、許さない。

執念にも似た感情が、今という不条理の前に、自分でも整理が付かない津波となって押し寄せる。

ξ゚⊿゚)ξ「――――クー……」

川;゚ -゚)「ミルナッ」

533名も無きAAのようです:2013/02/16(土) 14:26:55 ID:koW4D9nI0

憐憫の眼差し向けるツンは、心の底から同情してくれているのだとはクーにも解る。
しかし彼女の手の温もりを振り払うと、幾分か肩の痛みに顔をしかめながらも、立ち上がった。

やがて、少し離れたこの場所にもはっきりと伝わる声量で、ブーンが感情も露にミルナへ怒声を浴びせていた。

(#゚ ω゚ )「今―――クーの事をなんて言いやがったおッ!?」

川;゚ -゚)「!?」

会話の内容は掴めないが、次のミルナの言葉を待って、耳を欹てる。
だが、それは彼女にとっては決して耳に入れたくはなかった言葉だろう。

そしてその一言が、この後の彼女の生き方をも変えてしまう程の、大きな意味をもたらす事になるのだ。

ミ#゚дメ#彡「”邪魔”だったのさ……それが、どうした」


川 ゚ -゚)

534名も無きAAのようです:2013/02/16(土) 14:28:36 ID:koW4D9nI0







(;゚ ω゚ )「どうして、クーを……あんたは、親のような存在なんじゃないのかおッ!?」

感情を露に食って掛かるブーンには、やはりそれは納得のいく答えではなかった。
彼女は自分が殺意を向けられたにも関わらず、ブーン達から彼を守ろうとした。

身を挺してでも命を救いたいと行動させた、大事な人物。

だからこそ姿形こそ異形であれとも、一人の女性にそこまでを思わせるミルナという人狼が、
人としての感情すらも失った”ただの怪物”だとは思えなかった。

ミ#゚дメ#彡「”情”というものだ。時に都合良く履き替えられる、そんな感情は俺にもあった」

しかし、声を荒げるブーンとは対照的に、ミルナの言葉は冷水のように浴びせかかる。

(´・ω・`)(よせ、と言いたい所だが……)

川; - )

いつの間にかその場に立ち尽くし、呆然としたクーの様子に気付いたショボンだった。

535名も無きAAのようです:2013/02/16(土) 14:29:55 ID:koW4D9nI0

彼女自身の耳に入れるのは憚られる辛辣な言葉の数々に、その心中は察しかねるが、
無用に人狼の激情を煽るようなブーンの様子も、そして、それをたしなめようとする
彼ら自身の内心も、決して穏やかなものではなかった。

(;^ω^)「あんたは、クーと長く一緒に居たんじゃないのかお!それがなんで、あんな―――」

ミ#゚дメ#彡「”罪悪感”」

川 - )「………!」

ミ#゚дメ#彡「そうした感情が、重くなったんだろう。俺は、その”重荷”を手放したに過ぎん」

全ては、一方的な感情だったのか。

大切に紡いだとばかり思っていた、彼女にとっての想い出たち。
空っぽの心の中で拠り所を支えていたはずの細い糸が、ぷつりと途切れる音が―――

クーの耳には確かに聞こえてしまった。

536名も無きAAのようです:2013/02/16(土) 14:31:00 ID:koW4D9nI0

嘘であって欲しいと願う彼女の表情に気付いたミルナは、せせら笑うように彼女に一瞥をくれる。

川 ; -;)(…………)

ミ#゚дメ#彡「……軽くなったさ。随分とな―――お喋りは終わりだ」

(#^ω^)「くッ…の、言わせておけばッ!」

ξ;-⊿-)ξ「駄目!ブーン……!」

思わず詰め寄ろうとしたブーンだったが、とっさのツンの言葉に反応し、脚を止める。
仲間達の表情からだけでなく、今一度しっかりとミルナの顔を見据えては、改めて気付いた。

獰猛な獣性を持ち合わせながらも、戦いというものに揺るがぬ自信を保った”闘士”としての佇まい。

537名も無きAAのようです:2013/02/16(土) 14:33:35 ID:koW4D9nI0

ミ#゚дメ#彡「ならば―――どうする」

それから放たれるのは、純然たる闘気の奔流―――ある種、穏やかさすら感じ取る事の出来る
黄金の瞳が、場数の違いや力の大小などといった些末なものでなく、単純に物語っていた。

”力の差は、歴然としている”のだと。

(#^ω^)「………ッ」

剣の柄を握った手に震えがきたのを、思わず目で確認する。
飲み込んだ生唾は、喉元に引っかかって周囲に音を漏らしてしまいそうだった。

爪;'ー`)「ツンの―――言うとおりだ」

睨みあったまま動けずにいたブーンとミルナの間を、一陣の夜風と共にフォックスの言葉が抜ける。

争いを止めるように叫んだツンの言葉からも、”得策ではない”とブーンも解っているはずだ。
それでも、このまま彼を行かせたくはなかった。

538名も無きAAのようです:2013/02/16(土) 14:34:38 ID:koW4D9nI0

川 ; -;)

月明かりに照らされた彼女の頬を伝う、消え入りそうな一筋の雫が瞳に映ってしまったから。

ミ#-дメ#彡「力の差にも気付けぬ雑魚か……」

(#^ω^)「だから! ……そいつは、どうかわからないお」

(#´・ω・`)「ブーンッ!」

(#^ω^)「―――手出しはしないでくれおッ!!」

二人を隔てる空気が、瞬時にしてむせ返るほどの威圧感に包まれていく。
剣をミルナの前にかざすブーンの反対の腕は、割って入ろうとしたショボン達を制止するように広げられる。

そこからは”来るな”と言わんばかりの、彼の強い意思が感じ取れた。

539名も無きAAのようです:2013/02/16(土) 14:36:08 ID:koW4D9nI0

(#^ω^)「……これでも、ブーンは200年以上も生きてる吸血鬼を倒した事があるお……」

ミ#゚дメ#彡「死ぬぞ」

「この期に及んで」と、”両者とも”が内心に苦笑を浮かべていた。

ブーンは自らでも、これが冒険者としては失格な行いと理解している。
拾えるはずの命を、あえて火中へと投げ入れるだけの行動をとっているのだから。

しかし、たとえどうあっても譲れない時もある。

自由の風に吹かれて生きる気ままな冒険者家業の自分には、大層な志などない。
ただ―――――今という時は、身勝手な自己満足に過ぎないのだ。

(;`ω´)「―――――”試したい”んだお……あんたを」

540名も無きAAのようです:2013/02/16(土) 14:37:04 ID:koW4D9nI0

ミ#゚дメ#彡「何のつもりか知らんが、”5人の命”と……引き換えにか?」

(;`ω´)「!? やるのは、このブーンたった一人だお」

川 ; -;)(もう……聞きたくない)

向けていたはずの信頼が、培ってきたはずの絆が、彼の口が開くたびにぽろぽろと抜け落ちてしまう。
崩れ去る心の堰堤から溢れ出した悲しみは止まる事なく、感情の残骸となって儚く消えていく。

ξ;-⊿-)ξ

その場に膝を着いて泣き崩れるクーの傍らで、彼女の横顔を覗き込むツンは、すっと息を吸い込む。
意を決したかのようにその顔を上げると、やはりいつもの毅然とした表情の彼女がそこにあった。

「――――いいわッ!!」

( `ω´)「ッ!?」

541名も無きAAのようです:2013/02/16(土) 14:39:10 ID:koW4D9nI0

ミ#゚дメ#彡(… … …)

ξ;゚ー゚)ξ「や、やってやりなさいよッ、ブーン!」

川 - )「………」

クーの肩を抱くツンの顔は強張り、かたかたと震えているようでもあった。

されども力強い瞳の光は変わらず、眼差しはミルナと対峙するブーンへと向けられていた。
ショボンとフォックスからすれば、あまりに理解から外れた彼女の言動。

それでも気丈に振舞うようなツンの瞳に、ブーンはその決心を後押しされる思いだった。
ミルナという”人間”が何を考えているのか、それを知るために、より危険な賭けに臨む事を。

(;`ω´)「どうやら―――お許しが、出たお」

ミ#゚дメ#彡「………一つ。宣言しておこう」

542名も無きAAのようです:2013/02/16(土) 14:40:16 ID:koW4D9nI0

しばし沈黙を保ったミルナが、そう言ってブーンの前に一歩踏み出した。
その口が告げるのは、やはりクーの心を折る容赦のない言葉。

ミ#゚дメ#彡「”お前が死んだら、残った全員を殺す”」

川; - )

爪;'ー`)「………」

(;´-ω-`)「ブーン」

もはや、一触即発。

最後に引き下がる事を願って名を呼んだショボンの言葉にも、
やはりブーンが素直に聞き入れてくれるような様子はなかった。

(;^ω^)「……案ずるなお、ショボン」

(;´・ω・`)「?」

(;^ω^)「なんでか分からないけど……これは勘だけど、お」

543名も無きAAのようです:2013/02/16(土) 14:41:15 ID:koW4D9nI0

ミ#゚дメ#彡「―――来い」

先端に鋭く光る爪を持った、三本の太い指がブーンへと向けられていた。
もはや後戻りなどできるはずも無い、互いが戦闘態勢に入ってしまっている。

それでもブーンは、微かな笑みを一度だけショボンに向けて言った。

(;`ω´)「……そうはッ、ならない気がするんだおぉッ!!」

同時に、懐へ飛び込みつつ腰を入れて放たれたブーンの打ち込みが、開戦の狼煙だった。

”ざうッ”

加減をして力量を試せるような相手ではない事は解っているからこそ、遠慮なしの一刀でいく。

ゴブリン風情ならば一撃で切り伏せてしまうブーンの、紛うことなき全力。
それによってミルナも知った事だろう、彼が中途半端な覚悟で突っかかってきたのではないと。

544名も無きAAのようです:2013/02/16(土) 14:42:46 ID:koW4D9nI0

一見すれば、当たり所などいくらでもありそうに伺える巨躯。
しかしてその身のこなしは、それから想像もつかない程に迅速だった。

夜目に慣れていなければ、彼の動きはその場に残影すら見せたかも知れない。

ミ#゚дメ#彡「………」

(#`ω´)「……ッふ、ぅッ!」

打ち込みを掻い潜りながら、ミルナが剣を振り切ったブーンの背へと回り込む。

ぞくり、と首筋を伝わる悪寒によってそれを察知したブーンは、構えなおすのを諦める。
強引に振り切った剣の勢いのままに踵を軸として、背後へと迫ったミルナに向け、独楽のように薙ぎ振るった。

”ぶんッ”

545名も無きAAのようです:2013/02/16(土) 14:43:45 ID:koW4D9nI0

( ゚ ω゚ )「―――ッ!?」

一瞬の忘我、視線と共にあった長剣の刃先に見えた景色が、そうさせたのだ。

柄を握り締める手へと伝わる感触は、流されるままの勢いに逆らうのがやっとだった。
ブーンの背を取っていたはずのミルナの姿が、見当たらない。

夜風に溶け込んだその姿を瞳で追おうとしたが、その声に動きが止まる。

「―――視えたか?」

(;`ω´)「な……ッ」

獣の息遣いが、頭のすぐ後ろで聞こえた。
潜り込まれて背後を狙われたブーンの咄嗟の切り返しは、誤った判断ではなかった筈だ。

ミ#゚дメ#彡

しかし今、戦慄を禁じえない―――”なぜまた背後にいるのか”と。

546名も無きAAのようです:2013/02/16(土) 14:45:19 ID:koW4D9nI0

その感触には、鳥肌さえ立つほどの思いだった。
背中合わせになるようにして、ブーンの背にはミルナが密着している。

(#`ω´)「――お、ぉッ」

”前方へと倒れこむようにしながら、後ろ手に大振りをかます”
そう考えてすぐに動き出そうとしたブーンの耳へ、嘲笑うかのように明瞭な声が響いた。

ミ#゚дメ#彡「遅い」

”ド ン ッ”

(;゚ ω゚ )「―――かッ……はッ――!」

その一瞬、意識とは裏腹に呼吸が止まる。
予測もしていなかった衝撃に、体中の細胞がその活動を止めたのだ。

ブーンを中心とした足元周辺の地盤が突然沈下し、それは円環を形作った。
舞い上げられた土や石は、まるで緩やかに浮き上がるかのように彼の目の前で舞い上がる。

やがて視界は、突然に切り替わるかのように速力を得て、景色が流れた。

547名も無きAAのようです:2013/02/16(土) 14:46:28 ID:koW4D9nI0







”―――バキャンッ”


(……ブーン……ッ!)

仲間の呼び声が、どこか遠く聞こえた気がした。
再び意識を取り戻す事が出来たのは、何かへとぶち当たる自分の身体が発した音だったか。

一度白むように途切れてから、次には暗転していた景色。
瞼が、思うように開いてはくれなかった。

548名も無きAAのようです:2013/02/16(土) 14:47:50 ID:koW4D9nI0

「――――何秒だ?」

自分は一体、何秒の間の意識を失っていたのか。あるいは、何分もか。

そんな疑問が、ようやく活動を始めた体内の血流たちと共に、ブーンの脳内へと巡り始めた。
思い切り大気を取り入れるが、どれかの体内器官は意思に反して、それをうまく吐き出してくれない。

(; ω )「…ひゅッ……ゴホッ」

何をされたのかもわからぬまま、剣を手にする為の指や脚の無事を、握っては確かめる。

ミ#゚дメ#彡

遠く間合いの開いた視線の先には、未だミルナの姿があった。
意識だけがまだまどろむような夢うつつの世界にいるようだったが、
すぐに全身を覆った骨にまで染み入る激痛が、それを引き締めてくれた。

549名も無きAAのようです:2013/02/16(土) 14:49:14 ID:koW4D9nI0

(;`ω´)「が、はっ………」

どうにか数秒の間だけ、意識を失う程度で済んだようだった。
自分の身体が爆発してしまったかのような感覚があった、それだけをブーンは覚えている。

次の瞬間には、肩や背中を密着させただけの体勢から、
まるで大砲の弾丸になったかのように吹き飛ばされ、意識が飛んだ。

細い木々の一つをへし折りながら、それでもなお止まらなかった彼の勢いは、
どうやら今、彼の背にある、より太い樹木がせき止めてくれたようだった。

ミ#゚дメ#彡「児戯、だな」

(;`ω´)「ふぅ、ぅ……ッ」

ミルナが口にしている”種の違い”としての彼我差は、彼ら二人の間に圧倒的に高くそびえる。
容易く放たれたような最初のたった一撃で、もはや足腰はふらついてしまっている。

それでもまだ戦いを捨てていない剣士としての瞳を、人狼の眼光だけが静かに捉えていた。

550名も無きAAのようです:2013/02/16(土) 14:50:18 ID:koW4D9nI0

ミ#゚дメ#彡「どうした、俺を”試す”んじゃなかったのか?」

(;`ω´)「そいつは、まだ……これから、だお」

ミ#゚дメ#彡「……フハッ」

”ダンッ”

挑発的とも言えるブーンの言葉の後、土煙を巻き上げながらミルナの姿が消えた。

(;`ω´)「……!?」

咄嗟に身構えては、視界から消えたミルナの姿を目で追いかけたブーンだったが、
頭上を照らしていた月から降り注ぐ光が閉ざされた事から、すぐにそちらへ目をやる。

ミ#゚дメ#彡「―――シャアァッ!」

考えられない距離を、たった一度の踏み込みによって跳躍していた。
月に被るほどの体躯がブーンの頭の上に影を形作ると、指先に光る爪が妖しく光を放つ。

551名も無きAAのようです:2013/02/16(土) 14:52:23 ID:koW4D9nI0

(;`ω´)「だ、おぉッ!」

”ズジャッ”

横へ転がり込んで逃れようと試みるも、上手く脚が働いてくれず、どうにか
脇の茂みへと倒れこむような形で、飛び込みざまのその一撃から逃れた。

すぐに立ち上がり剣を構えようとするも、すでにその額には、冷たく嫌な感触があてがわれていた。

ミ#゚дメ#彡「勝てるはずなどない」

(;゚ ω゚ )「~~ッ?!」

指差す鋭利な爪の先端が、つぷ、と僅かにブーンの額の肉を抉っては食い込んだ。
しかしその裂傷が広がるのも構わず、ブーンはその場に腰を落とすと、身体を軸とした。

”少しでも間合いを突き放す、横斬りを見舞う”

だが、ブーンがそれを行動に移すよりも早く、またしても先手は打たれた。

552名も無きAAのようです:2013/02/16(土) 14:55:09 ID:koW4D9nI0

”ズドォッ”

(;  ω )「……ぐぉ、ごッぼハァッ!」

「腹に破城槌を打ち込まれたのか」

そう錯覚するほどの衝撃に一瞬で胃液が逆流しては、それらをぶちまけながら、
ブーンの身体はさらに後方へと吹き飛ばされていった。

打撃を受ける度に、まるで風に吹かれる柳のようにブーンの身体は容易く浮き上げられる。
意識を刈り取られて完全に気を失ってしまえば、そのまま殺されるかも知れない。

「これでは、とても戦いとは呼べんな」

(; ω )(…こい、つは……や、べぇお…)

553名も無きAAのようです:2013/02/16(土) 14:56:25 ID:koW4D9nI0

すぐ近くでミルナの声が聞こえる、あと数秒でまた攻撃が来るのだ。
血の入り混じった唾を吐き捨てながら立ち上がると、既に意識は朦朧としている。

たった2度の攻撃をその身に受けただけで、心を折られかけてしまっていた。

それでも、まだブーンはこの戦いを続けて、見極めなければならなかったのだ。
この”ミルナ=バレンシアガ”という男の、人としての心の在り処を。

(; ω )(だ…け……ど―――)








554名も無きAAのようです:2013/02/16(土) 14:57:16 ID:koW4D9nI0

ξ;゚⊿゚)ξ「ブーンッ!?」

川 - )(………何の為に)

抜け殻のように脱力してしまったクーの虚ろな瞳は、始まった二人の戦いを映していた。
けれども今の彼女にとって、それに意味がある事だなどとは思えなかった。

仮に人の姿のミルナであっても、そこらの武芸者は束になっても敵わない。
まして強さを目指す果てに怪物と化したそのミルナに、彼らとて勝てるはずも無いだろう。

あるいは自分のために戦ってくれているのだろうかと、ぽつり苦笑を漏らす。

川 - )「……捨てられた私なんか、放っておけばいい」

子供の頃に抱いた幻想など、きっと二度と求めるべきではなかったのだと、想いは口を突いた。

555名も無きAAのようです:2013/02/16(土) 14:58:23 ID:koW4D9nI0

気まぐれから彼女を助けたミルナが幼い自分の面倒を見てくれたのは、きっと自分の両親を
生かす事の出来なかった罪悪感から―――――そして、それがずっと彼の重荷となっていたのだと。

彼が時折、どこか苦々しい表情を抱いていた事は、現に子供の頃に幾度もあったと思い返す。
それで、クーの前から彼がこれまで姿を消していた理由にも説明は付いてしまうではないか。

川 ゚ -゚)「……不吉で、忌み嫌われた子供だったんだな。私は……」

ξ゚⊿゚)ξ「……どうして、そう思う?」

川   - )「聞くまでもない、さっきの彼の言葉だ」

”邪魔だった”

寄せていた信頼は無残にも砕け散り、
絆とは、幼い思い出に装飾されながら、既に壊れてしまっていたものだったのだ。

556名も無きAAのようです:2013/02/16(土) 15:01:09 ID:koW4D9nI0

その言葉を聞いてしまっては、長い間をほとんど自分の力だけで生きてきたミルナの境遇を知る彼女には、
少なくとも自分が彼にとっての邪魔な手荷物でしかなかったのだと、自嘲めいた考えしか浮かばなかった。

肉体の鍛錬ばかりに多くの時間を費やしては、時に危険から庇い立ててくれた。
そんなミルナの姿を見つめていた憧憬は、まだクーの中で鮮やかに残っているのに。

ξ゚⊿゚)ξ「きっと、それは違うわ」

川 - )「………」

”慰めはよしてくれ”と、口にしようと躊躇った。

冒険者を続けていた理由の全てが、再びミルナに出会う為だった。
失意の底で偶然に辿りついた場所で見つけた灯火、しかしそれも幻想に過ぎなかった。

彼のたった一言によって、自分のこれまでは否定されたのだ。
全てが終わってしまったのだと、もう十分だと、それすら口にするのも億劫な程に気力は奪われた。

557名も無きAAのようです:2013/02/16(土) 15:02:02 ID:koW4D9nI0

ξ゚⊿゚)ξ「ブーンも、私と同じことを思ったから……ああしてるんだと思う」

川 - )「………?」

ξ-⊿-)ξ「なんだかね―――」

(――――ブーンッ!?)

ツンが言いかけた言葉は、名を叫んだ仲間達の声によってそこで途切れる。

ξ゚⊿゚)ξ「ッ!」

川; - )「あ……」

見れば、蹴り転がされたブーンが吐瀉物を吐き出しながら、地面にのたうっていた。
すぐに立ち上がろうとするも、既に彼のダメージは脚にまで来ているのだ。

558名も無きAAのようです:2013/02/16(土) 15:03:48 ID:koW4D9nI0

川;゚ -゚)「もういい……早く、あいつを助けてやれ……!」

このままでは、本当に目の前でブーン達が殺されてしまうと危惧した。
もはやミルナはクーが知っていた頃の彼ではないが、今ならまだ、聞き入れてくれるかも知れない。

ξ;゚⊿゚)ξ「………うん」

何か言葉を言い含んだような眼差しで暫しクーの瞳を見つめた後、
立ち上がったツンは彼女を残し、小走りでブーンの元へ駆け寄って行った。

”5人全員を殺す”と言い放ったミルナの言葉が頭の中に残っていたが、
クーが知っているはずの彼ならば、彼女のような女性に危害など与えないはずだ。

そうあって欲しいと、願うばかり。

559名も無きAAのようです:2013/02/16(土) 15:04:59 ID:koW4D9nI0

ξ;゚⊿゚)ξ

川; - )(未練、か)

ツンの背中を見送りながら、まだ”何か”に期待してしまっている自分の胸をさすった。

自分を探しにはるばる旅してきたブーン達こそを助けるべきだというのに、
理解を超えた出来事の数々にぐちゃぐちゃの頭では、感情の整理がつかない。
自らの立ち位置はどうあるべきなのか――――迫られている選択を、無意識に避けていた。

彼らが希望を運んできてくれるのではないかと、甘い可能性に賭けていたのだ。







570名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:02:31 ID:MFi8FkIY0

一度は立ち上がったはずだった。
だが、今度は膝が言う事を聞かなくなり始めた。

「遊ばれているのではないか」と思える程、力の差は明白。
強力無比な打撃が、次第に意思とは無関係に身体の自由を奪っていく。

(; ω )「……ごッふ、ブハァ! ハァッ…」

ミ#゚дメ#彡「立てなければ、死ぬだけだ」

「お前だけでなく、な」と続けた人狼の口角は、よりいかめしく釣り上がる。
ちら、と彼が微かに横顔を向けた先には、ブーンの元へ駆け出してきているツンの姿が映った。

もはや目の前に立っていたミルナのその声に奮い立たされると、
ブーンは必死で己の剣を地面に突き立てて、それを支えに立ち上がる。

―――――けれども、まだ”見極められた”訳ではないのだ。

571名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:03:11 ID:MFi8FkIY0

(;`ω´)「あ……アンタは――――ッ!」

ブーンが感情のままに叫びを上げようとした時だった。
ミルナの瞳は何かを捉えると、その方向へ腕を凪ぐようにして振るった。

ミ#゚дメ#彡「……!」

”パシンッ”

遅れて響く、甲高い金属音。
地面へ転がったのは、一振りのナイフだった。

ミ#゚дメ#彡「……お前達の順番は、後にするつもりだったがな」

爪'ー`)「へへ。そいつが、そうも行かなくてね」

(;`ω´)「フォックス……!手を出すなって……」

572名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:03:53 ID:MFi8FkIY0

爪'ー`)「うるせぇ。お仲間が殺されるのをビビッて見てるだけなんざ、まっぴらよ」

ナイフ片手に軽口を叩くフォックスは、片目を閉じてブーンに目配せを送る。
それにブーンが思ったのは、「彼も自分の狙いに気付いたのではないか」という事だった。

ミ#゚дメ#彡「ハッ。最初から3対1でも構わなかったがな―――」

(;`ω´)(… … …)

ξ;゚⊿゚)ξ「ブーン!動かないで!」

クーの傍から離れて駆けつけたツンの肩を借り受けて、ブーンは身を預ける。
片腕で彼女は”癒身の法”を施し始めた。

そこでどうやらミルナの注意は、フォックスへと向いたようだった。

ミ#゚дメ#彡「お前の武器は、その子供騙しのおもちゃか?」

573名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:04:33 ID:MFi8FkIY0

爪;'ー`)「へッ、生憎と……”あんたら”向けな武器がなくてねぇッ!!」

大きな右腕の振りから、勢いをつけて投げつけたナイフがかっ飛ぶ。
半狼に残された野生の勘か、視界外からの攻撃にも反応してくるのは読めていた。

ならば今一度、意識外からの影を縫う一撃ならば――――

”カッ コンッ”

時間差を置いて、乾いた軽い音が二度ほど響く。

ミ#゚дメ#彡「やはり、おもちゃだな」

爪;'ー`)(……効くワケねぇかッ)

一度はミルナの瞳の一つを奪った”影縫い”も払い落とされた。
人狼となった今のミルナの身体能力は、先ほどまでの比ではない。

574名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:05:39 ID:MFi8FkIY0

飛翔物への反応速度やそれを認識する動体視力も驚異的だが、
更には片腕を緩やかに動かしただけの動作で、それぞれのナイフを払い落としてのける芸当。
無駄な動きによる隙は微塵も見せない。

そしてこの理性的な獣の恐ろしさは、獰猛な野生の皮を被った、冷徹さにあるのだと知る。

ミ#゚дメ#彡「なら、近づいたら何が飛び出す?」

”ドンッ”

地面を蹴り付けると、ミルナは風と同化したかのようにフォックスへ向けて疾駆する。
ブーンとのやり取りでも目の当たりにしたが、実際に迫って来られるのとでは、その脅威も桁違い。

爪;'ー`)(……クッソ速ぇッ!)

575名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:06:25 ID:MFi8FkIY0

ブーン程の頑強さを持たない彼にとっては、ミルナの生み出す破壊力によって
一撃で戦闘不能になる事もあり得る。それでも、この場所を動く訳には行かないのだ。

しかしその狙いを読み取ったか、フォックスの目論見には少し足りぬ位置で、ミルナは脚を止めた。

”ざっ”

ミ#゚дメ#彡「……囮、か」

爪;'ー`)「ちっ―――ショボンッ」

(´・ω・`)(さすがに、気付かれるか)

筋書きとしては、ミルナの注意を引いたフォックスがその場に留まり、
少し離れた側面からショボンによる”主砲”を撃ち当てるというものだった。

576名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:07:05 ID:MFi8FkIY0

それも、事前に察知されてしまえばいくらでも反応のしようはある。
もはや再び距離を保ち、ブーンの回復を待ちながら必死で防戦に身を削るしかない。

しかし高等魔法の使い手を前にして、ミルナは余裕ともとれる言葉を口にした。

ミ#゚дメ#彡「魔術師。乗ってやる――――撃ってみろ」

(´・ω・`)「………是非、お言葉に甘えるとしよう」

受けて立つ、とでも言うかのように手招きするミルナ。
既に炎熱を帯びた自らの掌同様に、ショボンの瞳にもその一瞬炎が揺らいだ。

そして発現した炎弾が、彼の手元で一層火力を強めた。

(#´・ω・`)「悪いが、さっきの契約は不履行だッ―――【炎の玉】ッ!」

577名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:07:47 ID:MFi8FkIY0

尾を引く火の粉が夜空を染め上げて、緩やかな曲線を描く炎弾がミルナの元へ飛び込んでいった。

いかに強力な妖魔であっても不死の怪物でもない限り、直撃すれば身に及ぶダメージは並大抵では済まない。
だがそれを避けようともしないミルナの様子に、ショボンは「侮ったか?」という考えを浮かべる。

しかし、そうではなかった。

眼前に迫る火球を見据えながら、ミルナは直前になって構えを取る。
それはショボンの目からは、まるで”武術”の型を取るかのように見えた。

ミ#゚дメ#彡「―――――”緑 閃”」

やがて月を射抜くかのように高々と振りかざされたその掌に、変化が訪れる。
人狼の掌は薄っすらと緑色の光を纏って、ぼんやりとした輝きを放っていたのだ。

578名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:08:42 ID:MFi8FkIY0

その尾を引き連れながら、そのまま一直線に斬り込むようにして振り下ろされる。
それは、炎の玉が今まさにミルナへ直撃するという寸前での――――出来事だった。

(;´・ω・`)「……なんだとッ!?」

ミ#゚дメ#彡「”刀 撃”―――――ッ」

”ぴっ”

緑光を帯びた腕から繰り出された手刀は、只ならぬ熱量を秘めた魔力の炎弾を、真正面から断ち割っていく。
同じ性質のもの、魔法でなければ相殺される事などあってはならないはずだ。

しかしその技は、魔術でもなければ単なる物理でもない、不可思議な力を秘めた何か。

”ぴぴっ”

ミルナの元に一瞬だけ留まった炎の玉は、そのまま縦一直線に別たれると、
対象を見失った炎弾の残滓は、彼の背で霧散していった。

579名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:10:01 ID:MFi8FkIY0

たとえゴブリンでも、低級の魔法ならば扱える種族はあるが、それを獣人が行うなどと聞いた事もない。
魔法を無効化し得るその未知の力への脅威に、ショボンは自身の戦慄を口にする。

(;´・ω・`)「……最悪の相性だ」

ミ#゚дメ#彡(………)

”それ”を放った己の掌を見つめて佇んでいたミルナの隙を突いて、フォックスが叫びを上げる。

爪;'ー`)「挟めショボンッ!」

言いながら、彼は片手に3本ものナイフを同時に投げつけていた。

何かに気を取られて反応が遅れていたミルナは、その内の2本を地面へと
叩き落としながらも、残る1本はそのまま右肩へと受けた。

それが足止め程度にもならない事は、動じる事の無い様子から一目で解る。

580名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:10:44 ID:MFi8FkIY0

ミ#゚дメ#彡「……退屈させてくれるな。随分」

(#´・ω・`)「穿て―――【魔法の矢】ッ!」

次いで、最速で詠唱を練り上げたショボンが矢を放つが、
それにも容易く反応して来たミルナは、軽く身を傾けるだけで外させた。

そして、再びミルナがフォックスとの距離を詰めると、唸りを伴って豪腕を彼へと振るった。

爪;'ー`)「ち、ぃッ!」

”ヴンッ”

ミ#゚дメ#彡「もう、打つ手なしか」

大きく身を捩りながら、想像もしたくない威力の拳から辛うじて身を逃がす。

581名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:11:43 ID:MFi8FkIY0

正攻法で行くならば必ずやブーンの力が必要になるが、まともにこのミルナの攻撃を
もらい、未だ足取りもふらつく彼には、まだツンによる治療が必要なのだ。

だから、今は時間稼ぎをするしかない。

ミ#゚дメ#彡「逃れるだけか?」

爪;'ー`)(必死だぜ……こちとらッ)

”プンッ”

身体の末端を狙い済ました突きを、大きく脇を開いてかわす。
続けざまに脚部の爪を剥き出した蹴りが、閃光の如く下から襲い来る。

見てから反応できる速度ではない、これは半ば勘だった。
下から吹き抜ける風圧を顔に感じたフォックスが、後方へと翻る。

爪;'ー`)(ッぶね……ぇ―――ッ?)

”ぐんっ”

582名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:12:26 ID:MFi8FkIY0

しかしそこで、突然首に受けた激しい衝撃に視界が揺らぐ。

全力で回避行動を取ったつもりのフォックスにとっては、滑稽とも思える状況だった。
そのまま首を刈り取りに来ると思われた蹴り上げは、膝辺りで止められたフェイント。

意表を衝かれたフォックスは、気づけば衣服の胸倉を掴まれていた。

ミ#゚дメ#彡「相手が俺でなければ、まだ通用するのだろうがな」

そのまま毛むくじゃらの指はフォックスの首を手繰り寄せて、
宙に浮いた彼の身体はミルナの腕の力だけに強く引き寄せられる。

やがて伸びた指が首の両側を圧迫すると、フォックスの表情は苦悶に歪む。

ミ#゚дメ#彡「あとどのくらい力を入れたら、この首はへし折れる?」

爪; - )「ふ、ぐぁッ……!!」

583名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:13:21 ID:MFi8FkIY0

ぎりぎり、と嫌な音を立てて首を締め上げられながらも、
宙ぶらりんに吊り上げられたフォックスは、脚をばたつかせてなおもがいた。

爪; - )(あ……ッが)

(#´・ω・`)「フォックスッ……待っていろッ!」

捕まっているフォックスの手前、威力を伴った魔法は彼を巻き込んでしまう危険がある。
それでも、対象の身体の自由を奪える”縛鎖の法”ならば問題は無い。

手元で印を結ぶと、ショボンは即座に詠唱の動作に入る。
しかしフォックスを掴んだままのミルナの視線は、そのショボンを捉えていた。

吊り上げたフォックスの身を、背へと振りかぶるかのような動作。

ミ#゚дメ#彡「……返してやる」

爪; ー )「――――ぐうッ、うぉぉッ!?」

(;´・ω・`)「!?」

584名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:14:09 ID:MFi8FkIY0

拘束されていたフォックスの身体は、小石を放る様な動作のままにミルナから手離される。
浮遊感に逆らえないフォックスの身体が、詠唱も未だ途中のショボンの胴体目掛け、背中から突っ込んだ。

(;´-ω-`)「うッく!」

”ドォッ”

咄嗟に「受け止めなければ」という衝動に駆られたショボンは、
そのままフォックスの身を抱きとめながら、彼と共に後方へ倒れこんだ。

身体に能力に秀でている訳でもないショボンにとっては、それだけでも十分な攻撃。
瞳の焦点がぶれては、目の前に星が飛び出るような衝撃だった。

爪; ー )「ッ……ゴホッ、ゲホッ!」

(;´-ω・`)「い……つっ」

まざまざと見せ付けられた身体性能の差に、無力とはかくも悔しいものか、と痛感する。
先ほどの獣としての姿でいてくれれば、今のミルナに比べて、どれほどやりやすい相手であったかと。

585名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:14:52 ID:MFi8FkIY0

ミ#゚дメ#彡「どうした、そんな体たらくで―――俺と張り合えるつもりか?」

あらゆる攻撃に対しても、身一つで完膚なきまでに対応してくる。
そんな鉄壁さに、畏敬の念すら覚えるほどだった。

爪;'ー`)「……なぁ、おい」

(;´・ω・`)「なんだい」

爪;'ー`)「今からでも、謝って許してもらうってなぁどうだ?」

(;´・ω・`)「出来る事ならそうしたいけどね」

ミ#゚дメ#彡

586名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:15:33 ID:MFi8FkIY0

地を響かせるような威圧感を引き連れながらゆっくりと近づいてくるミルナを前にして、
フォックスは呟くように後悔を口にした。それが出来るような状況に無い事は、異質な
雰囲気を纏うミルナの佇まいからも解ってはいるのだが。

(;´・ω・`)「だが、乗っかったのは僕らだ……”彼”にね」

ミ#゚дメ#彡「……!」

やがて、追撃を加えようとショボンとフォックスの前に立ったミルナは、二人の視線の在り処に気付く。
振り返った先には、”癒身の法”によって立ち直ったブーンが、注意を引き付けながら斬り込んでいた。

(#`ω´)「―――だッおおぉぉッ!」







587名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:16:15 ID:MFi8FkIY0

川;゚ -゚)「あいつ……まだ!」

彼らとミルナが戦う理由など、どこにも無いというのに。

そう思いながらもずっと戦況を見守りながら虚ろな色の瞳を浮かべていたクーだったが、
彼らの明らかな劣勢に、少しずつ冷静さを取り戻しては、その光景を緊張の面持ちで見守る。

ふと視線を移すと、ツンが崩れ落ちるようにその場に膝を着いていたのが視界に入った。

ξ;-⊿-)ξ

再びブーンを戦線へと送り込んだツンだったが、その彼女の表情には深い疲労が伺えた。

川 ゚ -゚)「……おいッ」

ξ;゚⊿゚)ξ「大丈夫……何でもない、からっ」

588名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:17:11 ID:MFi8FkIY0

川 ゚ -゚)「………」

先ほどからの戦闘に、彼女は神経をすり減らせていた事だろう。
更には長旅の行程の疲れを引き摺りながらの、聖術の連続使用。

元々体力の無いツンにとっては過酷ともいうべき肉体の酷使に、疲労は色濃い。

ξ;゚ー゚)ξ「それより、さっき言いかけたんだけど、さ」

川;゚ -゚)「なんだってこんな時に……お前の仲間も戦いに加わってしまったんだ。
      このままじゃ、さっきミルナが言った通りに全員――――」

ξ;゚ー゚)ξ「殺されると、思う?」

川;゚ -゚)「………ミルナは、元々が達人級の武術家だ。ただでさえ強いのに、それなのにッ」

ξ;-ー-)ξ「………」

589名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:17:54 ID:MFi8FkIY0

クーは、まだツンの言葉の意味を理解出来ていなかった。
そんなクーの焦燥の表情を目の当たりにしながら、ツンが少しだけいたずらな笑みを浮かべる。

ξ゚ー゚)ξ「私が言ってるのは、そうじゃない」

川 ゚ -゚)「?」

ツンの瞳は、闇夜の森深くにあっても、クーには眩しいほどに光り輝いたものに見えた。
信仰を力と換えるその少女は、”明るい希望を信じている”と告げるように。

ξ゚⊿゚)ξ「クーは……あのミルナさんって人が、あなたを殺すと思う?」

川;゚ -゚)「………」

心のどこかで、もやもやとして引っかかっていた部分。

590名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:18:45 ID:MFi8FkIY0

あの変わり果てた姿となってしまったミルナを、恐れてしまっている気持ちは確かにある。
正気を取り戻したはずの彼が口にした言葉の数々が、クーの心にとって酷く辛辣なものだったからだ。

”義”や”情”というものに厚いはずの彼を知るクーだったからこそ、信じられない言葉。
失意の水底に心を落とし、自棄になっていた彼女を介抱してくれ筈の彼が、自分を重荷として見ていた事。

それがミルナの本心からの言葉だったのか、信じ切る事が出来ずにいた。

だが、確かにミルナはクーに一時の安らぎをもたらしてくれた。
不幸の連鎖、負を呼び寄せる自分という存在に、嫌気が差してきた頃に。
沈み込んでいた自分を、暗い水底から引き上げてくれたのもまた、ミルナだったのだ。

それは―――あの灰色の空のもと、輝かしい彼の背中を見上げて歩いた憧憬のように。

川; - )「わから……ない」

592名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:19:32 ID:MFi8FkIY0

ツンの言葉に、小さな胸は揺れ動く。

陰鬱さばかりが取り巻く自らの境遇に、全てを投げ出してしまおうと思いながら歩いた。
そこでなまじ安堵を得たばかりに、突き落とされた先での衝撃の落差も計り知れない。

獣となり、そして半獣と化したミルナの姿に驚き、恐れる気持ちを消す事は難しいだろう。

だが、きっと彼を信じていたはずの自分こそが、当初の気持ちを忘れてしまっていた。
ミルナという想い人の事を、信じ切ってやる事が出来ずにいたのだと―――――

ツンの言葉が、微かな光明となって。
まだクーの思い出の中のかがり火に、ほのかな熱を与えてくれるようだった。

ξ-⊿-)ξ「ブーンがどうしてあの人に食ってかかったか、気持ちが解る気がする」

川 ゚ -゚)「………あいつは」

593名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:20:37 ID:MFi8FkIY0

ξ゚⊿゚)ξ「あいつ、そういう変なとこがワガママなのよね」

川;゚ -゚)「我……侭だって?」

”我侭一つの為に自分の命を危険に晒す事など、普通の人間に出来るものか”
思考の中で留めたその言葉、だが現に今―――クーの瞳はその光景を映していた。

確かに普通の人間になら出来る事じゃない、何の利益も無しに人の助けになろうなどと、
ましてやそれが、自らの命を火中へと投げ打つ事になると知っているにも関わらず。

そう、連中は普通じゃなかったのだ。

ミ#゚дメ#彡「俺の”貼山靠”や”猛虎”を喰らって、まだ立つ事が出来るか」

(;^ω^)「生憎と……頑丈さと、馬鹿力だけが取り柄だお……ッ」

594名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:21:57 ID:MFi8FkIY0

普通の旅人なら、これほどまざまざと力を見せつけられる以前に、
今のミルナの姿に驚き、慌てふためき脱兎の如く逃げるのが常だろう。

一度旅を共にしただけの間柄、今の世の中ならそこらに掃いて捨てる程存在する縁薄い関係。
しかしツン達は、自分や楽園亭のマスターの為に、わざわざこんな辺境の地まで足を運んだ。

川;゚ -゚)(何故、戦う)

そこで怪物と出くわすとは予期しないまでも、こうして、今戦っている。
そんな損得の勘定も出来ない、自己犠牲の固まりのような馬鹿者達を見たことはなかった。

それが彼らにとっての”我侭”だとでもいうのか。

ξ-⊿-)ξ「クーが自分の身を危険にさらしてまで大事に思った人を、あいつは
      悪い人だと思えなかった……だからきっと、その本心を疑った」

595名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:23:03 ID:MFi8FkIY0

ξ゚⊿゚)ξ「悲しそうな表情をしたクーを見て、いても立ってもいられなかったのよ」

川 - )「私が、可哀相だとでも?」

ξ゚⊿゚)ξ「ううん。あいつ、天然でそういう所があるから」

川 - )「お前は――――ツン達には、あのミルナが……どう映った?」

”殺す”、”邪魔だった”
それらの言葉は確かに、他ならぬミルナ自身の口からクー達へと向けられた。

手離しに好意的な感情を向けていたはずのクーの心はその事実に心の膝を折られた。
それは、これまでの自分の存在意義を否定されているのと同義だったから。

596名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:23:45 ID:MFi8FkIY0

しかしそれでもなお―――――それらが彼の本心からの言葉でない。
そう信じられたら、一体どれだけ今の自分は救われるだろうか。

そしてその救いを、クーは無意識に目の前のツンへと求めていた。
仲間達が人を超えた怪物と命がけで戦っている状況にありながら、その口元に笑みを湛える彼女に。

ξ゚ー゚)ξ「………”いいひと”、なんだと思うな」

川 ゚ -゚)「―――――!」







(;`ω´)「おぉぉッ!」

597名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:24:36 ID:MFi8FkIY0

不屈。

その剣士の姿は、ミルナの印象からすれば一言だった。
殴り合いのためのような人生を送りながら、そして今は人の理から外れてしまった自らをして。

自らでも、驚く程に、この身体は恐るべき力を秘めているのだという事が理解る。
それが人間の限界を遥かに超越しているのは、きっと傍目からにも明らかだと。

それでも、剣士は退く事をしなかった。

ミ#゚дメ#彡(―――――何の、為だ)

その眼に、人外の恐るべき異形の姿を焼き付けながら。
その身に、四肢などやすやすともぎ取ってしまえるだけの力の片鱗を刻み込みながらも。

「何故この男は、自分と戦えるのだ?」

ミ#゚дメ#彡(俺が人だったら、こう言っていたかも知れん)

598名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:25:19 ID:MFi8FkIY0

正気を取り戻した今となっては、この男達と戦う理由など、こちらさえ持ち合わせていないはずなのに。

(;`ω´)「くッ」

威力と速さはあるが大振り過ぎる打ち込みを、必要な分だけ下がって避ける。
剣に身体全体が振られて、そこでがら開きとなったわき腹へ”迅撃”を叩き込む。

ミ#゚дメ#彡(”良い闘志だ”――――とな)

(;゚ ω゚ )「……ゴォッ、ぶッ!」

巨大な拳による打ち込みで、被弾した上体ごと全身がふわりと浮いた。
皮鎧がへしゃげるほどのダメージは、そのまま内臓へまで伝わったろう。

たたらを踏みながら後ずさるも、襲い来る嘔吐感を精神力だけで抑えつけている。

599名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:26:35 ID:MFi8FkIY0

爪;'ー`)「ショボン、もう一度!あの絡みつくやつだ!」

(;´-ω-`)「短時間で、高等魔法を連発し過ぎた……少しだけ時間が必要だ」

ナイフを手にした盗賊風が、魔術師にそう促したのを横目で確認する。
だが魔術師の回復を待って、しかる後同時に攻撃した所で、自分を倒す事など出来はしまい。

ミ#゚дメ#彡「構わんさ、いつでも俺の背中を狙えばいい」

爪;'ー`)(………)

安易にまた突っかけてくるような馬鹿でもない、戦力の分析は出来ているようだ。

大勢は決している、こちらの圧倒的優位が揺るぐ事などない。
戯れるような一撃は、ただそれだけでも吹き転がすようにして簡単に人の命を弄べる。

―――――しかし、それでも。

「いいやッ!」

600名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:27:28 ID:MFi8FkIY0

駆け寄ろうした盗賊らに手を突き出して制止すると、
剣士は口の端に伝った血を拭いながら、強い口調で拒んだ。

(;`ω´)ペッ

血の入り混じった唾を吐き捨てて、なおもこの人狼の前に立つ。
斬撃の全てはことごとく外され、ただ打ちのめされるだけだというのに。

絶望的な力の差を体感しつつも、彼の瞳に灯された炎は吹き消える事がなかった。
そしてその原動力が、ミルナにはやはり理解できなかった。

(;`ω´)「ブーン一人で、十分だお」

ミ#゚дメ#彡(理解らん男だ)

剣士は殴り転がされても、蹴り転がされても起き上がって来る。
すでに今まで浴びたダメージだけで、足腰はその口と正反対の主張をしているのに。

601名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:28:14 ID:MFi8FkIY0

内心には若干の戸惑いを覚えつつあった自分に、剣士は風に紛れてぽつり呟く。

(;`ω´)「そろそろ教えてくれないかおね」

ミ#゚дメ#彡「?」

(;`ω´)「この勝負……決着はいつになるんだお?」

ミ#゚дメ#彡「………」

男が口にした言葉は、ミルナ自身の狼としての皮を剥ぎ取り、
見せてはならないその部分を、一瞬だけ見透かしていたように思えた。

”最初から、そんな事のために戦っていた?”
決して表情に出す事は無いが、毛の生えたような己の心臓にちくりと針を刺された感覚。

602名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:29:08 ID:MFi8FkIY0

(;`ω´)「あんたはさっきから、きっと何度もブーンを殺せるチャンスがあった筈だお」

ミ#゚дメ#彡「下らん。お前を殺すのに、全力などまるで必要ないからな」

(;`ω´)「ふふっ。それだお――――」

(;`ω´)「さっきからその強そうな言葉がッ、あんたを弱く見せているお!」

正確な狙いは解らない、しかしこの男は恐らく見抜いていたのだ、こちらの真意を。
この人狼に対して、あろう事か果し合いを望んだのもそのためか。

ミ#゚дメ#彡「………」

この男は確かに試そうとした――――それも、自分の命を捨石にしてだ。
ミルナ=バレンシアガというこの人狼が、人に仇なす脅威であるのか否か、ということを。

そこまで考えて、それはきっと彼女のためであるのだと気付き、ミルナは一度振り返った。

川;゚ -゚)

603名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:29:59 ID:MFi8FkIY0

クーの視線の先には、自分と戦う冒険者達の姿が映されている。

ミ#-дメ#彡(……そうだ。お前はそれでいい――)

心の中でだけ呟いた言葉は、クーへと届く事はない。
それが正しい。化け物の言葉など、耳に入れる必要がないからだ。

人と獣の狭間にある己自身に、言い聞かせる為の言葉でもあった。

(;^ω^)「あんたは、クーを突き放そうとしているのかお?」

ミ#゚дメ#彡「………」

(;^ω^)「たとえ姿形がそんなでも、あんたはクーにとって――――」

”ヴンッ

604名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:30:49 ID:MFi8FkIY0

続けて言葉を紡ごうとした剣士の前に、風に揺らぐ剛脚が半月を描いた。
咄嗟に身を屈めて難を逃れたが、当たればやすやすと意識を刈り取れる。

ミ#゚дメ#彡「黙れ」

(;`ω´)「……おッ」

先ほどよりも一層殺気を込めた一撃に、剣士は場の雰囲気が変わった事をすぐに悟ったようだった。

今の自分はどんな表情に歪んでいるのだろうと考えたが、鏡などなくても想像はついた。
きっと、ぶつけようのない衝動を当たり散らそうとしている、醜悪なものだろう。

ミ#゚дメ#彡「お前が、俺の全てを知っているとでも?」

(;`ω´)「わ、解らないおッ!だけど、あんたはちょっとだけズレてるんだお!」

ミ#゚дメ#彡「………」

何がそこまで必死にさせているのか、これほどまでに突っかかってくるのか。

605名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:31:33 ID:MFi8FkIY0

この化け物を前にしてそんな事を口走れる肝の太さを見る限りでは、きっと
”自分を殺さない”と踏んでいるのを抜きにしても、いずれかの修羅場を潜り抜けた
肝の据わった男なのだろうと思った。

だがその蛮勇も、今の自分にとっては群がる蝿ほどの鬱陶しいものでしかない。

(;^ω^)「最初から3対1でも構わなかった。あんた、さっきそう言ったお」

ミ#゚дメ#彡「?」

(;^ω^)「二人の女性を……クーとツンを、勘定に入れてなかったのかお?」

ミ#゚дメ#彡「ハッ」

あほ面のようでいて、なかなか細かい所で目端の効く男だと笑った。
確かに、女子供を手に掛けるなど、見下げ果てた外道の行いだ。

それこそ、かつてのクーの周りから大事な物を奪っていった、あの異端審問官のように。

606名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:32:17 ID:MFi8FkIY0

ミ#-дメ#彡「たまたまだ……それよりわからんな。俺と戦って、お前に何の利がある」

(;^ω^)「あんたに手を焼いたブーン達が、あんたを倒そうとしている時。
       クーだけはあんたを大事な人だと……”育ての親”だと―――必死に庇ったお」

(;^ω^)「ブーン達が手の付けられなかったあんたを倒そうとしている中で、ただ一人身の危険も顧みず」

ミ#゚дメ#彡「………ッ」

剣士のその言葉に、かすかに胸が疼いた。
思わず視線を送ってしまいそうになった自分を、抑える。

残っている人としての感情が、今は煩わしくさえ思えた。

( ^ω^)「だから、クーが信じるあんたという人間を、試す必要があったお。
       あんたという人間が、本当に人の心まで失ってしまった怪物なのかを――おね」

607名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:33:25 ID:MFi8FkIY0

( ^ω^)「クーは本当は、あんたと居たいはずだお。だけどあんたは彼女を突き放す。
       それはあんたが……望まずしてそんな姿になってしまったからじゃないのかお?」

ミ#-дメ#彡「ふっ。”クーの為”だとでも?」

( ^ω^)「それもあるお……だけど、それはきっとあんたの為でもあるんじゃないかお?」

ミ#゚дメ#彡「俺の、為だと?」

( ^ω^)「今の自分の姿が恐ろしくて、クーに拒まれたりするんじゃないかって。
       さっきみたくクーを襲ってしまうんじゃないかって、あんた自身、自分が怖くて」

ミ#-дメ#彡「………」

608名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:34:24 ID:MFi8FkIY0

( ^ω^)「あんたは、クーの親代わりなんじゃないのかお?
       クーの気持ちを汲んで、一緒に居てやるべきなんじゃないのかお」

ミ#゚дメ#彡「………フッ」

気の抜けるような特徴的な語尾で話す剣士の言葉は、自分の頭の中に涼やかに響いた。

見抜かれていたのだ、クーを遠ざけようとしている事も。
それより何より、俺が”俺自身を恐れている”のだという情けない心の弱さすらをも。

なればこそ、甘さを捨てなければならない。何よりも、クーを思えばこそ。
好意を向けてくれていたあいつには、きっとこの上なく酷い形での裏切りになる。

しかしそうする事で、二度と彼女は自分を追おうなどと思わないだろう。
それどころか、自分を憎む事になるはずだが―――それで、いいのだ。

609名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:35:09 ID:MFi8FkIY0

ミ#-дメ#彡「ならば、知れ」

剣士の言葉は、自ら望んでこの心を獣のものとする覚悟を刻ませた。

自分は間違っていたのだ。本当に大切なものを守る為に、自分が成すべき事。
いつまた獣と化すか分からない自分をクーから遠ざける為に、どれほどの事をしなければならないかを。

人というものは、何かを守るために何かを犠牲にしていかなければならない。
人としての未練を捨てて、自分はもはや人ではないのだと、それを認めるしかない。

温もりのある”絆”に引き寄せられていた自分自身の心。
今、それを完璧に断ち切らねばならない。

ミ#゚  メ#彡「哀れな命を幾つも喰い散らかしてきた―――人狼の恐ろしさを」

”その為に―――俺は、この剣士を殺そう”

610名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:36:20 ID:MFi8FkIY0







ブーンの周囲を、幾重にも折り重なった重圧が押し寄せる。

ミ#゚  メ#彡

先ほどまでの雰囲気とは、明らかに違う。

気を抜けば途端に気持ちが萎えてしまいそうになる、人間以上の存在が放つ殺気。
真正面からこんなものを受け続けていては、頭がおかしくなってしまうかも知れない。

(;^ω^)「この”賭け”は……あんたがブーンを殺せなければ、ブーンの勝ちだお」

ミ#゚  メ#彡「――思うのか?」

611名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:37:03 ID:MFi8FkIY0

”ビュゥォッ”

(;`ω´)「……おッ!」

瞬時にして、これまでに無い本気の打ち込みだと感じていた。

ミ#゚  メ#彡「俺が、貴様を殺さないと――」

低く身を潜りこませるようにして辛うじてその拳をかわしたが、
生身でも自然石すら粉砕せしめるであろう鉄の拳は、代わりに足元の地面を穿っていた。

追撃に備えてすぐに構えを取るが、どうやらその必要はなかった。
むせ返るような殺気の流れに、なんとなくは理解出来ていたのだ。

ミ#゚  メ#彡「さっきの問いの答えだ―――次の一瞬で、”決着”する」

612名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:38:11 ID:MFi8FkIY0

(;`ω´)(言われ、なくても……!)

次で、終わりにしようとしている。

ミルナは両腕を交差させると、深く腰を落とした。
重心ごと地面へと落とした足裏は地を踏み鳴らし、まるでそこに深く根を張った大樹のよう。
押したり引いたりするぐらいでは、きっとびくともしないであろう大仰な構えだ。

だが、それが単なる大げさな動作でない事は、対峙しているブーンが一番よく理解していた。

ミ#゚  メ#彡「コオォォッ………!」

(;^ω^)(空気が……震えてッ)

充満した闘気――――やがて魔術のものとよく似通った光が、ミルナの右の拳に宿った。
光の中では何かが急速に蠢いているようであり、それ自身が生きているかのように力強さを訴える、金色の光。

まるで生命力をそのまま力と化したように目にも見えるそれが、明確に予兆を告げていた。

ミ#゚  メ#彡「奥義―――――”旋光撃”」

「これが最後なのだ」と。

613名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:39:09 ID:MFi8FkIY0

拳に宿された光が辺りをもまばゆく照らし、ミルナ自身の体表をも金色へと染め上げた。
魔術の類か、あるいは焼きつくすような熱量を持っているのかは分からないが、これだけは解る。

喰らえば、死ぬかも知れない。

(´・ω・`)「あれは、まずいと思うよ」

爪;'ー`)「仕方ねぇ、お前が魔法を撃てるようになるまで、俺が……!」

ミルナに対峙するブーンの元へ駆けつけようとした二人を牽制してその場に引き止めたのは、
やはり背中越しに掛けられた、他ならぬブーンの一声だった。

(; ω )「来ないでくれおッ!」

爪;'ー`)「あぁッ!?」

(;^ω^)「こいつは、ブーンとミルナのタイマンだお!
       わざわざフォックス達が出張る程の事はないお」

(;´・ω・`)「どうして君はいつもそう……!」

614名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:40:09 ID:MFi8FkIY0

(;^ω^)「そして、よく見ておくお、クー!」

川;゚ -゚)「ブーン……」

(;^ω^)「最後は、クーが見極めてくれお―――この、わからず屋の事をッ」

川; - )(……本気で、ミルナは―――)

離れていても感じる、肌がひりつくような殺気の奔流。
あの拳を叩きつければ、ブーンがただで済むはずがない。

ミ#゚  メ#彡「ハァァァァァッ…………」

疑う余地の無い、紛れもない絶命の一撃を放とうとしている。
どうして、何の為に―――その拳を自分の前で振るおうというのか。

ここに来て、ようやくそれを理解する。

川;゚ -゚)(決別をこそ……望んでいるというのか?……ミルナ)

615名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:41:01 ID:MFi8FkIY0

ツンの言葉を思い返す。

甘い幻想の日々など、長続きするものではない。
現実は非常に過酷で、常に自分が考えるよりも遥かに厳しいものだ。

幼くして天涯孤独となった自分は、きっとそのままだったらくずおれて、
その場に膝まづきながら、自らの境遇に涙し続ける日々を過ごしていただろう。

だが、クー自身の道を切り開く先行きに、灯りをともしてくれたのは誰だった。
女だてらに冒険者を気取り、険しい山道の中腹で疲れ果て、風雨を凌ぐ洞穴で小刻みに肩を震わせながら、
それでもまた再び歩き出す為の希望を与えてくれていたのは、きっと本人は知らぬまでも―――

何もかもが嫌になるような不安に苛まれた時、嵐のように現れる存在。
クーの心をさらい上げては根こそぎ不安を吹き飛ばし、道を見失いかけた時にまた新たな道を指し示す。

まるで彼自身が、これまでのクーの人生にとって啓示のようなものだった。

616名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:42:02 ID:MFi8FkIY0

川 - )(ならば―――私は………)

ミルナが指し示すのは二つの道。
そのどちらを選ぼうか、もう、片方に心は傾きかけていた。

新たな迷いの中、道を切り開こうと。







617名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:43:04 ID:MFi8FkIY0

(;^ω^)「言っとくけど、今のを遺言にするつもりは無いお」

ミ#゚  メ#彡「……お前という男が居た事を、俺の中に留めておくさ」

静かな風が吹く。
けれども、それは熱を帯びていた。

次の一合が、人生最後の瞬間になるかも知れない。
ブーンの中に不安はあれども、集中し、己を保つ事が出来ていた。

(  ω )スゥ

この男を打ち負かして、泣きそうな顔で背中を見守る仲間たちの為に。
そして、この男を親と庇ったクーの思いに報いて、本音を引きずりだしてやる為にも。

ミ#゚  メ#彡

白銀の体毛を煌めかせる、右の黄金の拳が放つ光は美しくさえあった。
それは未知の力。魔術による熱でも、ましてやツンの使うような聖術でもない。

618名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:44:14 ID:MFi8FkIY0

ブーンには知る由もなかった。

人体の各部位に100箇所以上も存在する点、経絡。
それらの奥底に眠る神秘、”螺旋の力”というものを。

螺旋の力を引き出し、そしてその真理に触れ得る資格を持つ者のみが許される。
神か悪魔の寵愛を受けた肉体にしか宿す事のできない、超常の力。

( `ω´)「……来い、だお」

その力を有するミルナが、武人としてどれほどの高みにあるのか。
生え抜きの武芸者であっても、彼の存在を知る者ならば裸足で駆け出す程なのだ。

しかし、関係がない。

ミ#゚  メ#彡「ああ」

知る必要すらない、たとえ知っていても答えは変わらなかっただろう。

619名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:45:26 ID:MFi8FkIY0

何故ならば、自分の心に従って生きる事―――
そう誰にでも出来る訳ではないが、曲がらない、変わらない。

それだけを芯として生きて、これからも道程を歩もうとしている、この粗野で素朴な冒険者は。

ξ;ー )ξ「頑張……れ……」

川 ゚ -゚)「!」

ツンが決着の瞬間を見届ける事はかなわなかった。
張り詰めた緊張感の中、体力か、精神力か。

あるいはその両方が尽きたツンの身は、慌てて両手を伸ばしたクーの腕の中へ手繰り寄せられる。
再び視線を投げかけた先で、ついに光が動いた。

(#゚ ω゚ )「―――ぜぇぃあぁぁぁぁッッッ!!」

620名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:46:10 ID:MFi8FkIY0

まだ不敵な笑みを口元に残しながらも気を失ったツンを、クーは地面に横たえてやる。
ブーンとミルナが光散らすその光景を見送りながら、クーは自分の胸に手を当てていた。

ξ;ー )ξ

川 ゚ -゚)「………」

急速に引っ張られた心の在り処を、クーは探していた。
もう自分自身で選択して、それに従うしかない。

心の音に、声に。

621名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:47:07 ID:MFi8FkIY0

(#゚ ω゚ )「――るあぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

強い追い風が、吹いた。
その時、力の限り踏み込む。


ミ#゚  メ#彡「ッ……!」

これまでで最も早い太刀筋に、ミルナは一瞬意表を衝かれる。
ミルナの拳もまた、同じ瞬間にブーンの胸元目掛けて突き出されていた。

しかし、どうやら互いに同じ事を考えていたのだ。
避けるつもりなど毛頭ない、真正面からの打ち合い。

622名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:48:16 ID:MFi8FkIY0

先ほどまでのやりとりを考えれば、木っ葉のように吹き飛ばされるのはブーンの方。
しかし、今のミルナが放つ拳はそんな生易しいものではなかった。

螺旋の力を引き出したミタジマ流奥義”旋光撃”は、肉や骨でなく”気を断つ”。
即ち、人体における生命力の源を遮断し、せき止めてしまうのだ。

経絡からの気の流れを断ち切る事で、体細胞はその活動を止める。
それが意味するところは、否応なしの”死”だけだ。

無知であるがゆえに、無謀な挑戦。

ミ#゚ メ#彡(―――気迫かッ)

しかし、お構い無しに拳を当てようとしたミルナは、激しい違和感を覚える。
決死の形相で振り下ろされたブーンの剣は、これまでで最も脅威の一撃だった。

623名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:49:14 ID:MFi8FkIY0

この男の命を断ち切る事で、クーとの繋がりをも断ち切る。
その決心が揺らぐ事は、きっとなかったはずだ。

しかし今、その拳の伸びがブーンの剣の速力よりも劣っていたのは、只ならぬブーンの気迫。
人狼の肉体を得て慢心を得た訳でもなく、単純に踏み込みで出遅れていた。

幾百もの闘争に身を投じて来た男をしてそうさせるほどの、人の、生命を賭す事を厭わぬ一刀。
それは一流の武人としてではなく、まして人狼としてでもなく。

ただ純粋に、ミルナという存在を気圧す程の意志力を剣に乗せた、重い剣だった。

(# ω )「オォォッッッ!!」


”ずしゃっ”

624名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:50:14 ID:MFi8FkIY0

ミ#゚  メ#彡「―――ぐッ………ぬゥッ!」

初めてブーンに受けた剣は、ミルナの左の胸から入ると、そのまま斜めに振り抜ける。
間を置いてミルナの胸の前で噴き出した鮮血が、遅れて痛みを認識させた。

振り下ろした態勢のまま、長剣の切っ先は地面へと突き刺さっている。
この一刀に対して、それほどに全力を込めていたのだ。

しかしそれはミルナの拳の狙いを僅かに逸らすも、それを中断せしめる程の手傷ではなかった。
右の黄金に収束した光が、瞬きする間も与えずに一気呵成に押し寄せる。

(# ω )(…………避け、られないお)

そう踏んで、既にブーンは次に動き出す為の力を溜め込んでいた。
避けようともしないのは向こうも同じ、ならば、次に倒せるだけの一撃を放つ為に。

625名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:51:56 ID:MFi8FkIY0

構うものか、食らいながらでも剣を浴びせてやると歯噛みする。
だが、身体に響く衝撃は、ブーンが想像していたより遥かに小さなものだった。

ミ#゚  メ#彡「―――見事だった」

”ずしゃ”

その言葉と共に、ミルナの光の拳はブーンの無防備な脇腹を掠めるように、胸の下を通り抜けた。
それには五体が吹き飛ぶような衝撃も、内蔵までえぐり貫かれるような威力もなかった。

それなのに――――この感覚は、何だというのか。

( ゚ ω゚ )「…………おっ」

626名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:52:52 ID:MFi8FkIY0

その一瞬、”時が止まった”と、ブーン自身は錯覚する。

目に映る光景も、耳に聞こえる音も、肌で感じる息遣いも、そのどれもが知覚できない。
それどころか、自分の体がぴくりとも動かない。

荒ぶっていた心臓の鼓動さえもが、聞こえてこない。
立ったまま呆けているような感覚に捕われながら、目の前が白んでゆく。

ミ#゚  メ#彡「… … …」

白い闇の中で眼光をこちらに向けるミルナが、何か言葉を投げかけていたようだった。
それすら聞き取る事が出来ないブーンの身は、もはや力の入らない足腰の支えを失うと、
地面に刺さった剣の柄にもたれるようにして、そのまま意識と共に落ちてゆく―――

生命力そのものが、根こそぎミルナの拳に絡め取られてしまったかのように。

627名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:53:42 ID:MFi8FkIY0

爪'ー`)「………な」

(;´・ω・`)「ブーンッ!?」

傍目からには、理解の及ばない光景だった。

決して大きく物理的な外傷を伴った攻撃ではなかったはずの一撃。
それにより地面へと膝を付いたブーンの姿が、まるで燃え尽きた後の松明のように見えたのだ。

ミ#゚  メ#彡「……終わりだ」

爪;'ー`)

(;´・ω・`)

川 - )「………ッ!」

628名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:54:35 ID:MFi8FkIY0

ミ#゚  メ#彡「まだ死んではいないが、それも間も無く訪れる」

ミルナは、顔だけを二人に向けてそう言った。

たった一発の掠めるような拳がブーンの命を奪うなど、考えられるはずもない。
しかし事実、ミルナの拳はブーンの肉体の生命活動を停止させていたのだ。

爪;'ー`)「ばッ、馬鹿言うんじゃねぇよッ!」

抜け殻のように剣の柄にもたれるブーンの近くへ、フォックスが歩み寄ろうとした。
それに対して釘を刺すように、ミルナは眼光を光らせてぼそりと呟く。

ミ#゚  メ#彡「―――先ほどの言葉を、取り消そう」

629名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:55:27 ID:MFi8FkIY0

(;´・ω・`)「ツンッ!!」

まだ完全に死んでいないのならば、聖術の力で助ける事が出来る。そう考えたショボンだが、
そう思って視線を向けた先で、クーの傍に横たわるツンの姿を見て、苦虫を噛み潰した。

一瞬視線があったクーのかぶりを振る仕草が、それが不可能な状態である事を物語る。

川; - )

(;´-ω-`)(くッ!!)

ミ#゚  メ#彡「お前たちを見逃してやる……この男の戦いに免じてな」

爪#'ー`)「――てめぇ、どのクチでほざきやがるッ!」

630名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:56:42 ID:MFi8FkIY0

ミ#゚  メ#彡「無論、それもお前たちに”その気がなければ”―――の話だ」

言って、顔の前に拳をかざすミルナが、再びその表情に獣性を覗かせた。
激昂するフォックスは今にも飛びかからん勢いであったが、安易にそうできない無言の圧力。

長旅でつのる疲労、そして先ほどの狼の姿のミルナともやり合ってきたフォックス達は、
もう十分な戦力を持って戦えるだけの力を残してはいなかった。

何より、ブーンが戦線に立てない状態で、このミルナに勝ち目はない。

爪#'ー`)「……ナメんなよ……ブーンの野郎の考えに気付こうともしねぇ化け物が」

ナイフを手に、それでもフォックスはミルナの前に歩み出る。
口に出されても許容出来ない現実の前に、内心では選択を迫られていた。

631名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:57:40 ID:MFi8FkIY0

ブーンを失って、その仇を前にしてみすみす見逃さなければならない屈辱。
だが、もしかするとブーンを助ける事はまだ間に合うかも知れない。
また、ツンの聖術の助けさえあれば――――しかし、今はそれすら望みが薄い。

ミ#゚  メ#彡「そう、俺はもはや、ただの化け物に過ぎん」

(#´・ω・`)「フォックスッ!今は、ブーンを助ける事に全力をッ!」

ミ#゚  メ#彡「……万に一つも賭けてみたらどうだ。ここで怒りに任せて全員死ぬより、
      もう死にゆくこの男を助ける事に全力を尽くす方が、懸命だと思うがな」

爪#'ー`)「クソったれッ!畜生ッ!―――どうすりゃいいんだよッ!?」

感情に従ってミルナと事を構えれば、ブーンは助からないどころか全員が二の舞となる。
ショボンの言う通りにする事が最善だとは解っていながらも、割り切る事が出来ない。

一刻を争う状況の中で様々な感情が交錯し、混乱するフォックスの手に持つナイフが、怒りに震える。

632名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:58:34 ID:MFi8FkIY0

川 - )(………)

横たわるツンの表情へと視線を落としながら、それらの言葉は全てクーへと跳ね返って来ていた。

他の誰でもない自分の為に、この場へ訪れた騒がしい面々。
その中の一人が、自分のこれまで想い人だった人間の手によって、今は命を落とすところだ。

きっと今となってはどうでも良い理由の為に、避けられたはずの戦いで、お人好しの一人が。
その彼の想いに対して――――自分の成すべき事は定まっている。

だが、次の瞬間、この場に居た誰もが予期し得ない事態が生じた。

ミ#゚  メ#彡(………?)

最初にそれに気づいたのは、ミルナだった。

(  ω )

633名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:59:45 ID:MFi8FkIY0

微かな気配の残留、もはや命を抜き取られた抜け殻のような男から、それを感じた。
次に僅かな初動、活動を止めた体細胞が、再び活動する事など無いにも関わらず。

その一念は命を断たせてなおも、二の太刀を放つべく死んだ筈の人間を突き動かしたのか。

ミ#゚  メ#彡「な――――」

「………かッ」

身体がそうすべきだと憶えていたのか、あるいは鬼気迫る執念が繋ぎ留めたのか。
完全に意表を衝かれた胸下からの斬撃に、さしものミルナといえど反応は出来なかった。

刀身すらしならせるような苛烈極まる斬り上げは、先ほどの振り下ろしよりも遥かに疾かったからだ。

”バチュンッッッ”

634名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:00:56 ID:MFi8FkIY0

ミ#;゚дメ#彡「ッぐ……ご……ぁアッ………!?」

振り下ろしよりも、斬り上げる威力の方が倍に感じた。

事実、閃光のようにミルナの胸元を抜けていった剣は、先ほど与えた切り傷を交差して
遡るかのようになぞらえて、更にはミルナ自身により深い手傷を及ぼしていた。

大量の血液が地面に血溜まりを作り、そこへ片膝を突いたミルナにぴちゃり、と音が聞こえる程にも。

ミ#;゚дメ#彡「何……故――――生きてッ……」

見上げる格好となったミルナが視線を向けた先。
そこには、夜空に向けて天を穿つかのように剣を高々と振り上げたままのブーンの姿があった。

(  ω )

635名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:02:23 ID:MFi8FkIY0

ミ#;゚дメ#彡「いや……そう、か」

その表情に、これほどの一撃を放つような覇気は伺えなかった。
それどころか、やはり意識すら保ってはいない。

この男の肉体の生命活動は、確かに停止しているのだ。

だが、死んだ肉体をも突き動かす程の執念は、人間の限界という箍を外させて、
己の成すべき事を成すために、再度活動を呼び起こさせた。

死にゆく肉体が呼応したというのだ、意識すら無い中で、執念だけは剥がれ落ちず。

ミ#;゚дメ#彡「これまで―――お前のような男に巡りあう事は……何度あったかな……」

(  ω )

636名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:03:36 ID:MFi8FkIY0

応じる事も無いブーンの姿を見上げながら、深く残痕を刻まれた胸元を押さえつけ、立ち上がる。
誰しもが体得し得ないミタジマ流の奥義を以ってしても、完全に叩き潰す事は出来なかったブーンの一念。

ミルナの身体を流れる武人の血が、騒いでいた。
今や完全に力尽きたであろうこの剣士に、自分なりの敬意を表せよと。

力強く、右の拳に全力を込めて握り締める。

ミ#;゚дメ#彡(実に………実に良い闘志だった)

自分がまだ人間でさえあれば、言葉で健闘を称えてやりたいとすら思う。

死んでいてさえ反撃の一太刀を浴びせてくる程の男に対して、
ミルナは全力を込めて完全に叩き潰す事で、餞とする事を選んだ。

やがて、高々と振り上げられた拳が、意識の無いブーンへと繰り出される――――


”―――トンッ”

637名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:04:28 ID:MFi8FkIY0

ミ#;゚дメ#彡「………」

爪'ー`)「………させるかよ、馬鹿野郎が」

五体をバラバラにするつもりで握りしめていたミルナの拳への力が、そこで緩む。
”それだけはさせない”、そう訴えるような決意に満ちたフォックスの瞳が、ミルナを睨めつける。
右肩に刺さったナイフを引き抜こうとした左手を伸ばそうとした所で、それを引っ張られるような感覚。

”グンッ”

(´・ω・`)「今ので確信できた。ブーンは、まだ生きている」

ショボンの手元から地面を這うようにして伝う紫色に発光する羊歯が、ミルナの左腕を締め付けていた。

638名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:06:40 ID:MFi8FkIY0

ミ#;゚дメ#彡「どけ、俺は―――この男に……」

「連れて帰る、お前を倒して」
口程にそう言っているのが、彼らの瞳に込められた力からミルナにも感じ取れた。
仲間を見捨てて逃げるような者は、どうやらこの中には一人もいないらしい。

だが、ミルナ自身の昂った感情を諌める為には、ブーンという剣士に敬意を払う意味でも、
彼自身の手で完全に葬り去ってやりたかったのだ。もう助からないと察しているからこそ、
もはや人ではない筈のミルナに、闘争というものを通して武人としての高揚感を齎した彼に対して。

それは人間としての彼と、人狼としての彼との感情が溶け合わさったものだったかも知れない。

(  ω )

やがて、風に吹かれるようにして倒れ込もうとしていたブーンの背を、誰かが支えた。
その手から取り落とした剣を、自分の背丈には見合わぬそれを拾い上げると、彼女は顔を上げた。

ミルナの正面に立ち、重そうに剣を構えながらも―――その頬に乾いた涙の痕を残して。

639名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:07:32 ID:MFi8FkIY0

川#゚ -゚)「私が……相手だッ!」

ミ#;゚дメ#彡(………クー………)

疲弊し、一度は折れたはずのクーの心。
憧れを寄せた男の手に掛かり命を落とす悲劇をも、受け入れようとした。

しかし、その彼女にもう一度力を与えたのだ。
無関係でありながらも、死をも辞さずこの窮地に自らを救おうとする、彼らの背が。

そして、決めた。

どれだけ辛い現在でも、決して逃げ出してはならないと。
繊細で痛がりな自分の心を、もう一度だけ奮い立たせる時だった。

関係の無い自分の為に傷ついていく、彼らの手助けとなりたいという想いに従って。

640名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:09:01 ID:MFi8FkIY0

離別の時は訪れた―――二人にとって、本当の意味での。
ミルナにとってはそれが本望であり、クーにとっては苦渋の末に決断した選択。

川#゚ -゚)「彼らを殺すつもりなら、まずは私を殺してからにしろ……ミルナッ!」

ミ#;-дメ#彡「震えているぞ。それで、お前にその剣が振れるのか?」

爪'ー`)「……下がれ、クー。こいつは、俺達が―――」

川#゚ -゚)「もうそんな訳にいくかッ!私が、私の我侭がお前たちを巻き込んで―――」

(´・ω・`)「ブーンを助けたい、解る。助かるさ」

「だが、その前にまず……」
言葉を紡いだショボンが、白々しい仕草のまま視線をミルナへと向けた。

(´・ω・`)「退いてくれ」

641名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:10:04 ID:MFi8FkIY0

ミ#;゚дメ#彡「………はっ」

迷いの無い正直な言葉に、ミルナは思わず笑みを浮かべる。

(´・ω・`)「ブーンの考え通りならば、今、貴方が戦う理由は無くなったはずだ」

川#゚ -゚)「何を―――ミルナは、ブーンを……!」

爪'ー`)「……心配すんな、こいつぁタフさがウリの一つ。最近死ぬのもクセになってるみてぇでな」

ミ#;゚дメ#彡「お前達は……俺がおとなしく引き下がるタマだと思っている訳か」

(´・ω・`)「そうでなくても、そうしてもらう」

爪'ー`)「こっちから売った喧嘩だ、リターンマッチはまた受け付けるからよ」

ミ#;-дメ#彡「………くく」

642名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:11:25 ID:MFi8FkIY0

ブーンの生存の可能性を見出したショボンとフォックスにとって、決して引き下がれない場面。
どうあってもブーンに止めをさすつもりならば、死力を尽くして相打ち以下に持ち込む。

ミルナ自身のダメージが大きい所を見れば、戦力が十分でない今でも、勝機は無くもない。

だが内心は決して穏やかではなかった。一度は息を吹き返したかのように動いたブーンの身体は、
今やもうぴくりとも微動だにする事のない状況―――恐らくは、手当するまでの時間が生死を分かつ。

(´・ω・`)(だが、恐らくは………)

元々が吹っ掛けたような戦いに、向こうが乗ってきた。
ならばこんな不躾な申し出にも、交渉の余地があるのではないかと希望はあった。

”ブチッ ブチブチッ”

(;´・ω・`)「お……ッ!」

643名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:12:38 ID:MFi8FkIY0

ミ#;゚дメ#彡「そういって逃れるつもりなんだろうが……そうはいかんな」

ショボンの手元から放っていた魔力の流れが、突然に途絶える。
左腕に絡みついていた魔力の羊歯が、無造作に腕を振り上げるような動作で引きちぎられる。

爪;'ー`)「てめぇッ―――まだッ………!」

咄嗟にフォックスの投げ放ったナイフは、はたき落とされそこらの茂みへと転がっていった。
身体の自由が戻ったミルナは、一歩、二歩と前へと歩み出る。

川;゚ -゚)「私がやる……私が、注意を惹きつけるから――お前たちはッ!」

ミ#;゚дメ#彡「まるでおままごとだな、クーよ」

川#゚ -゚)「……止まれ、ミルナッ!」

叫ぶクーの言葉を聞き入れる事無く、ミルナの前進は止まらない。
底知れぬ威圧感を引き連れながら、ゆっくりと確実に彼女の元へと。

644名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:14:15 ID:MFi8FkIY0

――――だが、クーの目前まで迫った時、ミルナの視線は彼女から外れてその足元へと落ちた。

爪;'ー`)「ショボンッ、ぶっ放せ!」

(´・ω・`)(待て、フォックス。様子が………)

(  ω )

ミ#;゚дメ#彡(………)

ブーンの頭上、そこでしゃがみ込むと、ミルナはじっと自らの掌を見つめていた。
何かを行う、その為に具合を確かめているかのように。

川#゚ -゚)「何をする気だ!?お前がそのつもりなら――――」

言いかけて、クーはその光景の既視感に囚われる。
死に掛けた人間の元に立ち、言い聞かせるようにして指先に集中する、その動作。

どこかで見たことがあった―――それはたしか、幼い頃に一度。

645名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:15:19 ID:MFi8FkIY0

川 ゚ -゚)(………!)

ミ#;゚дメ#彡「再戦だとか抜かしたな―――本気か?」

爪;'ー`)「ブーンが、生きていればの話だぜ……どけよ、そこを離れろ!」

ミ#;-дメ#彡「面白い……なら」

”ずぷっ”

ミ#;゚дメ#彡「―――その時がくれば、お前達にその気が無くても加減はせん」

ブーンの胸に、ミルナの右の手から4本の指先と、更に左手から1本の指が深くめり込む。
それらは骨と骨の継ぎ目を縫うようにして、革鎧を貫通し穴を開ける程、深々と差し込まれた。

646名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:16:12 ID:MFi8FkIY0

爪#'ー`)「てめぇッ!!」

川 ゚ -゚)「待て……」

フォックスが飛び掛かろうとした一瞬、クーが身体を寄せてミルナとの間に割り込む。
その彼女に浴びせようとした罵声を遮って、なだめるような口調で告げた。

川;゚ -゚)「見たことがあるんだ、あれを」

爪#'ー`)「何だってんだ、止めさそうとしてるだけじゃねぇかよッ」

(´・ω・`)「炎の玉を撃つが、よろしいかな?」

ミ#;-дメ#彡「………そう急くな―――見ても解からんだろうがな」

647名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:17:45 ID:MFi8FkIY0

―――活殺自在を謳うミルナの門派には、人体を破壊する技があるだけではない。
その対極として、人を活かす為の指技もまた、同じくらいに扱えなくてはならない。

東方の島々では主に医療分野で使われてきた技術を変化させ、経絡を突く事で
それらに眠る人体の力を呼び起こし、生命への活力とさせる孔術へと昇華させたものだ。

無論、環境などによる条件や施術者の技量に左右されるものではあるが。

ミ#;-дメ#彡「ミタジマ流孔術……”湧泉孔”」

(  ω )「………ッ」

ミルナの爪がブーンの身体へと食いこむと、そこで彼の身体は微弱な反応を見せる。
それに最も驚きの表情を見せたのは、フォックスとショボンであった。

(´・ω・`)「―――不思議な技だ。もしかして、彼を助けようと?」

648名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:19:06 ID:MFi8FkIY0

ミ#゚дメ#彡「死者を救う事など、出来ようはずもない」

爪;'ー`)「おいおい、じゃあそりゃあ一体何の真似だよ!」

川 ゚ -゚)(やはり、これは―――)

ミルナの言葉が、幼き頃のクーの脳裏に焼き付いた痛ましい光景を想い出させた。

異端審問と称した旧・聖ラウンジ教徒達による拷問の傷から、命を落とした両親。
やはり彼はまだ、あの日の事を自らへの十字架と課しているのだと確信する。

自分の両親を救えなかった事への悔しさを、それこそ、失った自分の悲しみと同じように。

ミ#゚дメ#彡「だが、この男にまだ運があれば―――五分もすれば息を吹き返すかもな」

川;゚ -゚)「……ミルナ、お前は……どうして」

649名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:20:13 ID:MFi8FkIY0

ミ#-дメ#彡「……勘違いするなよ」

川;゚ -゚)

施術を終えるとミルナはゆっくりと立ち上がり、三人に未だ険しい眼光で一瞥をくれる。

クーとて、完全に敵意が消えて失せた訳ではない。
ブーンを死の淵に追いやっておきながら、しかし今はブーンの手当を施した。

彼への憎悪を残しながらも、波紋を投げかけてくるような言葉は、やはり心をかき乱すのだ。

(´・ω・`)「退いてくれる、そう受け取っても?」

ミ#゚дメ#彡「この男がもし目覚めたら、伝えておけ」

650名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:21:35 ID:MFi8FkIY0

ミ#-дメ#彡「そう遠くない内に再び決着を付ける。その時まで―――精進しておけとな」

退いてくれさえすれば万々歳の、駄目で元々の交渉だった。
しかしどうやらその価値はあったようだ。

自らの魔術を徒手空拳で切り裂く程の未知の力、ショボンはそれにある種の希望を見出す。

(´・ω・`)「………いいだろう」

爪'ー`)「―――助かるんだろうな、本当に」

ミ#-дメ#彡「言ったはずだ、俺に死者を救う事など出来ん―――だがこの男が運に見初められていれば」

(´・ω・`)「十分だよ。あなたに感謝するのもおかしな話かも知れないが……
       こちらには、奇跡を起こせる聖女様もいるんでね」

651名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:22:59 ID:MFi8FkIY0

くい、と視線を送った先では、積み重なった疲労に意識を失っているツンの姿。

ξ ⊿ )ξ

ミルナの手技によって微弱に反応した今のブーンならば、彼女の聖術によって助けられる。
叩き起こして鞭打つような過酷を強いてしまうが、あとから自分たちが彼女にぼやかれればいい。

彼には憂慮すべき未来を与えてしまう事になれど、多少は仕方のない事だ。

ミ#゚дメ#彡「そいつの名は、何だ」

(´・ω・`)「”ブーン=フリオニール”だ。再戦のご要望は楽園亭まで……」

爪;'ー`)(バカッ、こいつ―――偽名でも何でも言って取り繕っときゃいいものを……!)

652名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:24:03 ID:MFi8FkIY0

ミ#-дメ#彡「……憶えておくとしよう」

一同に去来するのは奇妙な感情、奇妙な縁を感じていた。
今しがたまで戦っていた相手と、今はこうして会話をしている事に。

そのやり取りのさなか、クーは足元に視線を落として驚きの声を漏らす。

(; ω )「―――かはッ!」

川 ゚ -゚)「……ブーンッ!?」

爪;'ー`)「お、起きやがったか!」

意識は未だ完全に戻っていないようだが、少しずつブーンの顔には血色が戻りつつある。
息を吹き返し、身体が呼吸を思い出そうとしているのを見て―――助かったと確信できた。

653名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:25:25 ID:MFi8FkIY0

(´・ω・`)「フォックス!彼をツンの元まで運んでくれ、僕はツンを叩き起こす!」

爪'ー`)「よしきた!……じゃあ狼のおっさん、そういう事だからよ」

ミ#-дメ#彡「好きにしろ」

川;゚ -゚)「………ミルナ」

ブーンが息を吹き返したと分かると、各々即座に行動へと走る光景から、ミルナは既に背を向けていた。
クーは未だブーンの剣を手にしながらも、その背を見送るようにして立ち尽くす。

過去の思い出と現在の想いとが交錯し、ミルナへと掛けるべき言葉を短い時間で必死に模索した。
数々の出来事に感情の整理がついていない頭では、それがうまく見つからないばかりに。

654名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:26:38 ID:MFi8FkIY0

川;゚ -゚)「――――ミルナッ!!」

ミルナはもう、またいつかのように自分の元を去ろうとしている。
しかしその前に、一つだけ伝えておかなければならない事があった。

思いの丈を振り絞るようにして叫んだクーの声に、そしてミルナは一度だけ足を止めた。

ミ#゚  メ#彡「………」

川 - )「……私は、今まで自分一人で何でもこなせると、自分は強い人間だと思っていた」

川 ゚ -゚)「いや、そうありたいと願って、そう振舞おうとしていたんだ。
     ミルナ―――お前と会うために、お前のように強く在りたいと」

ミ#-  メ#彡

655名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:29:11 ID:MFi8FkIY0

川 - )「それは、私がお前に依存していたからだ――――。
     私が冒険者を志した理由も、お前に会う為だった」

ミ#゚  メ#彡「どう言いくるめようと、俺はもはや人を食らう魔獣………お前たちと交わる事はない」

川; - )「そうだな、私はもう、お前のようになろうとはしないさ……」

ミ#゚  メ#彡「懸命だ」

”俺のようになるな”
それはミルナ自身が、彼女へと残した言葉。

ミ#-  メ#彡(苦々しい……な)

だがそれは自衛の手段だったのだと、クーには見せぬまま口元は自嘲の笑みに歪む。

656名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:30:21 ID:MFi8FkIY0

罪の意識という十字架や、人一人の人生を背負う事への自信の無さ。
自分という人間がクーを育ててはならないなどとは、体良く並べられた綺麗ごとだ。
心の脆さをクーに見せる事のないまま、自分は彼女を手離したのだった。

川;゚ -゚)「私は自分の弱さに気づいた―――だけど」

ミ#゚  メ#彡

昔よりも成長した彼女は決して、弱い女性などではなかった。
心の弱さに負けた自身とは対照的に、悲劇的な幼少を送りながらも彼女は強く育った。

―――依存の対象を失った今となっても、今振り返れば彼女の瞳はきっと、
強い意思を秘めているに違いない事だろうと思う。

だが決して振り返る事はしないと決めたミルナの背に、彼女は最後の言葉を叫んだ。

657名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:32:38 ID:MFi8FkIY0

川#゚ -゚)「だけど―――決してお前の事を諦めた訳じゃないぞッ!」

ミ#゚  メ#彡「………!」

たとえ肉体は鋼玉であろうとも、心に亀裂の入ったミルナ。
たとえ肉体は硝子であろうとも、心に折れぬ芯を支えとするクー。

互いに相手を思えばこそ、譲る事の出来ない感情があった。

(お前には―――お前の場所がある)

川#゚ -゚)「お前がどんなでも―――」

(……の…… ……には ……るな………)

深い闇が口を開ける山々へと消えていくミルナの背は、次第に遠くなり。
やがて、彼自身の声も完全に聞こえなくなるまで、クーはその場で彼を見送っていた。

川# - )「私はいつか、必ずお前を………ッ」

658名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:33:39 ID:MFi8FkIY0

再び訪れた別れの時―――しかしこれは、絶対に永遠のものとはさせない。
それは相手の意思がどうであろうと、自分で決めた事への誓いだった。

川 ゚ -゚)「………追いかけて、捕まえてやるからな」

この別れは、きっといずれ意味をもたらすものなのだとクーは自分の中に答えを見出す。
自分の弱さを受け入れて、自分が旅する意味を誰かに預けていた、弱い自分とも決別した。

その上で、やる事自体は変わらない。

聞きたい事や話したい事が、また山ほど増えてしまった。
一緒に過ごした時間が少なかろうと、想いというものはその分を補うように積み重なってしまうのだ。

659名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:34:33 ID:MFi8FkIY0

心に荒波を立てた嵐のような一夜が過ぎ去った後、やがて朝鳥達が告げるのは夜明けの合図。
木々の隙間からかすかに覗く光は、日が昇りつつある事だけでなく、朗報をも運んできた。

それは、決意の朝に相応しい。
新たな自分と向きあわせてくれるに至った立役者の、生還の報せだった。

爪'ー`)「―――クー、あいつよ……目ぇ覚めたみてぇだぜ」

川 ゚ -゚)「ッ!」


―――――

――――――――――


―――――――――――――――

660名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:35:46 ID:MFi8FkIY0

ξ#゚⊿゚)ξ「何勝手に死んでんのよッ!バッカじゃない!?一人で勝手に無理して、
      挙句……私とっても疲れてるんですけど!?」

(;^ω^)「す、すまないおツン。けど今回は死神さんとご対面する事もなかったから
       ブーンの中ではノーカンということで………それほど、おお事でもないお」

ξ#゚⊿゚)ξ「………ッ!」

”ばちんっ”

不眠での苛立ちも募っていたツンに聞かされたのは、敵に塩を送られながらも
未だ危機的状況にあったブーンが、生死の境を彷徨っているという報せ。

ようやく意識を取り戻したかと思えば、そこへ来てこの脳天気ぶりがツンの怒りを買う。
次の瞬間、ブーンの頬に茜色の手の平の痕がはっきりと出来上がった。

661名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:37:02 ID:MFi8FkIY0

ξ#゚⊿゚)ξ「もうあんたなんか知らないわよッ」

(;^ω^#)「……と、ともあれ……ブーンの中での賭けは、ブーン一人勝ち、だおね……」

(´・ω・`)「あぁ、君が殺されなければっ……てやつかい?」

(;^ω^#)「やっぱりあいつ、ブーンを殺さなかったお」

爪'ー`)「いや、でもお前、一度死んでるっぽいぜ」

(;^ω^#)「………へっ?」

一時的に仮死状態になった際、確かに肉体としては死んでいたのかも知れない。
だが、無意識化で反撃を繰り出す程の精神力があったのは、どう説明するべきか。

本人でさえ憶えていない出来事を、周囲も説明に戸惑った。

662名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:39:42 ID:MFi8FkIY0

しかし、ブーンに手当を施したのは、そうさせたミルナ自身だった。

一時は生命すら危ぶまれる出来事があったばかりだというのに、相変わらず
ひょうきんな面々を横目に、少し遠い目をしながらクーは呟いた。

川 ゚ -゚)「……どう、なのかな」

今は分からない、ミルナがブーンを助けるに至った理由を。
しかしいずれは直接本人を問いただして、聞き出してやる事を考えていた。

(;^ω^#)「―――クー……今回は、その……」

川 ゚ -゚)「………」

立ち上がると、物思いに耽るようなクーの横顔を前に俯いて、ブーンは言葉を探していた。

663名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:41:02 ID:MFi8FkIY0

リュメで起きた事件の事は聞かされている。そして今回も彼女は大切な人間に裏切られた格好で、
今こうして別れを余儀なくされてしまったのだ―――傷ついているはず、そう思って。

しかしブーンの胸中とは裏腹に、じんじんと腫れ上がったブーンの左頬が視界に入ると、
ぷっと苦笑した後に、彼女は冷えた指先を繊細に押し当てながら、その場所を撫ぜた。

川 ゚ -゚)「大丈夫か……?それ」

(;*^ω^#)「い、いやいやいや!!だ、大丈夫だお!こんなもん何ともないおッ!」

爪'ー`)「ニクイじゃねーか、ブーンよぉ」

より一層膨れ上がった丸顔が、瞬時にしてのぼせたように赤みを帯びた。
照れ臭そうに首を振ると、クーの指先が触れない位置にまで慌てて後ずさる。

その場所で、ブーンの背に何かが当たった。

664名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:43:59 ID:MFi8FkIY0

ξ#゚⊿゚)ξ「あたしのあげた”聖痕”を……こんなもんとは何よッ!」

(;^ω^#)「あ、あの」

”ばちん”

ξ#゚⊿゚)ξ「……命の恩人をもっと敬いなさいよ」

(;# ω #)「………す、すいませんでしたお(理不尽だお……)」

(´・ω・`)(”聖痕”って……そんな俗なものだったかなぁ)

川;゚ -゚)「本当に大丈夫なのか?それ」

(;#^ω^#)「だ、大丈夫ですお。はい」

川;゚ー゚)「………ぷっ」

665名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:45:31 ID:MFi8FkIY0

頬を左右対称に茜の紋で染めたブーンの膨れ面を見て、そこでクーが思わず吹き出した。
ミルナを前にあれほど度胸がありながら、なんとも情けなく尻に敷かれる現状との落差。

ひょうきんで脳天気なブーンのにやけ面が、何とも面白くて。

川; ー )「うく……あっはっはは……!」

ξ゚⊿゚)ξ「……クー?」

(;#^ω^#)「………」

きっとクーは憔悴しきっている事だろうと気を揉んでいたブーン達だった。
しかし頭上に朝日の立ち上ろうとする中、一際大きな笑い声を上げた彼女の様子に、目を丸くする。

次の瞬間見せた彼女の表情には、ブーン達が危惧したような物憂げな色は浮かんでいなかった。

666名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:46:56 ID:MFi8FkIY0

川 ゚ー゚)「―――全く、お前たちは馬鹿だな」

(;#^ω^#)「きょ、恐縮する他ないお」

(´・ω・`)(まぁ、間違ってないんだよね……)

ξ;゚⊿゚)ξ「ちょっと!聞き捨てならないわね……」

その言葉にツンが食って掛かろうとしたが、なおもクーが言葉を続けてそれを遮る。
疲れた様子はあるものの、意外な程に明るい藍色を瞳に宿したまま。

川 ゚ー゚)「本当に大馬鹿者だ……お前たちは。マスターに言われるままこんな場所まで来て、
     自分の我侭なんかの為に、わざわざあんな恐ろしい相手と戦って―――」

667名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:48:02 ID:MFi8FkIY0

ξ゚⊿゚)ξ「………」

川 ゚ー゚)「それでも……そんな後でもこうして、笑っていられるなんてな」

爪'ー`)y‐「どこの言葉だったか忘れたが、”えんじょい&えきさいてんぐ”が、
      人生を楽しむ為のモットーってなとこよ」

川 ー )「フッ」

嵐を伴って現れた男が、クーにとって新たな道を示してくれた。

その男のようにはなれない。その男を救うには、自分という人間は弱かったから。
だが弱い自分を受け入れる事から、きっと新たな道は切り開かれるのだろう。

川 ゚ー゚)「なぁ。その……一つ頼みがあるんだが」

ξ゚⊿゚)ξ「………?」

668名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:51:43 ID:MFi8FkIY0

一人で生きている、冒険者というものをやれているのだと勘違いしていた。

きっとそれをしてこれたのは、ミルナとの再会という目標があったから。
それを拒む今の彼を助けるには、自分の力だけでは足りない。

それには”仲間”が要るのだ。

川 ゚ー゚)「―――私も、その”大馬鹿者”の一人に加えてもらえないだろうか―――」

失ってみて、初めて気づいた事があった。
失って弱くなる事、崩折れてしまいそうになる事だけではない。
”失いたくないからこそ、人は強くなる事も出来る”のだと。

これまで仕事で顔を合わせるだけの、縁遠い関係だと思っていたもの。
しかしその大切さに気づく事が出来たのは、様々な人物達との出会いがあったからこそだ。


ξ゚ー゚)ξ「……っ!」

669名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:54:16 ID:MFi8FkIY0

爪'ー`)y‐「へっ……口説いちまうぜ?」

(´・ω・`)「一応だけど、リーダーの意向を聞いておこうか?」

人と人との結びつきは、時に互いに足りない物を補いあいながらも、きっと自分自身を成長させる。

誰かの真似をして孤高を気取るのは、どうやら自分には向いていない。
そんな事を考える為のきっかけを与えてくれた人物を、助けるため。

しかし今はただ、彼らの眩しさに惹き寄せられて―――

(#^ω^#)「そんなもん――――大歓迎だお……!」

670名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:56:17 ID:MFi8FkIY0

ツンやクーの、互いに抱える複雑な感情、わだかまりはきっとすぐには消えないだろう。

だが、これから苦楽を分かち合うであろう、新たな仲間を迎えるその瞬間。
唯一この場で何も考えていないパーティーリーダーは、即座にその申し出に応じた。

ξ ー )ξ(宿に帰ったら、何を話したらいいかな……)

しかしそれには時間をかければいい、少しずつ、解いていけばいいのだ。
その為の時間を共にする事が可能になった事に、ツンの口元には笑みがこぼれた。

(#^ω^#)「いやはや、マスターに良い土産話を持っていけるおね」

(´・ω・`)「色々あって疲れているだろう――まずは村に戻って、宿を取ろうか」

ξ゚ー゚)ξ「仲間になる以上、嫌な事も全部話してくれていいんだから」

川 ゚ -゚)「あぁ、長くなるかも知れないが……改めて、よろしく頼む」

671名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:57:10 ID:MFi8FkIY0

一同が手をかざしあい、結束を深める為の簡易的な儀式を行なっていた時だった。
ぽん、と手を叩いたフォックスが、何かを思い出したようにブーンの方を振り向く。

爪'ー`)「あ……そういや、お前さ―――」

ξ゚⊿゚)ξ「?」

(#^ω^#)「何だお?」

(´・ω・`)「あぁ、忘れちゃいけない伝言だったよ」

爪'ー`)「お前、近い内にまた”あいつ”と闘る事になるから鍛えとけよ?」

(;#^ω^#)「はお!?あ、あいつって……」

(´・ω・`)「勿論、さっきの彼の事さ―――君をご指名で”再戦”を熱望のご様子だった」

川;゚ -゚)「………」

672名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:58:23 ID:MFi8FkIY0

(;#゚ ω゚#)「ちょ……ッちょっと待つお!?何勝手に決めてんだお!」

爪'ー`)「いやさ、あの場はあぁでも言わねぇとやばかったんだよ……それに、喰いついてきたしな」

(;#゚ ω゚#)「か、勘弁してくれお!あんなのとガチでやり合うつもりはないんだってばお!」

ロード・ヴァンパイアとの決闘を10年後に控えながらも、本人は知らぬ間に
ライカンスロープとの再戦もスケジュールに詰め込まれてしまったブーンは、一人嘆く。

今の内から猛烈に経験を積んで、すぐにでも達人級の剣士になっておかねば
先々では命が幾つあっても足りやしない。

(´・ω・`)「どうにも、君は怪物に好かれる傾向があるようだ」

川;゚ -゚)「ま、まぁその時は一緒に剣を並べてやるさ」

673名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 06:00:43 ID:MFi8FkIY0

(;#゚ ω゚#)「ブーンは意識がなかったお!だからそんな約束は無効だおぉッ!」

(´・ω・`)(しかし……ね)

騒がしいブーンをなだめながら、やがて一時の滞在先としてロア村への帰路につく楽園亭の一行。

あの場でそれほど固くもない口約束を交わした当事者の一人であるショボンは、
一人木々から漏れる日差しを見上げながら、その時の事を思い返していた。

(´・ω・`)(楽園亭と一口に言っても、大陸には腐る程あるし、拠点の街名も聞かなかった……)

(;#゚ ω゚#)「勝手に約束取り付けやがって!ショボンとフォックスめ、見損なったお!」

(´・ω・`)「あぁ……ごめんごめん……」

爪'ー`)y‐「うるせーよ馬鹿」

674名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 06:02:37 ID:MFi8FkIY0

”でも、向こうにそんなつもりは、本当はなさそうだけれど―――?”

言ってしまえばやれ無責任だ何だと罵られるのが想像ついたので、その言葉は留めた。
ミルナが”エルンスト=ハインリッヒ”のような本当の戦闘狂ならば、あの場で引き下がったりは
しないであろうなと思えたからだ。

ξ゚⊿゚)ξ

川 ゚ -゚)

人狼を想い人に持つ少女の傍には、今、奇跡を起こす少女が寄り添い歩く。

クーが旅の目的をかの人狼とするならば、それにはきっとツンの力が肝要で、
クーの物語を理想的な方向へと導く可能性を担う、重要な人物足りえるだろう。

(´・ω・`)(もし次に出会った時には、そんな形にはならないかも知れないさ)

そうして皆が皆の理想を手助けし合えれば最良だと、そんな事を考えながら歩いていた。

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675名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 06:04:58 ID:MFi8FkIY0





  (  ω )ξ ⊿ )ξ(´ ω `)爪 ー )y-
      ヴィップワースのようです
    
         第10話

      「孤狼は月厘に哭く(2)」


          川 - )

676名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 06:06:29 ID:MFi8FkIY0

同じ時、森の深くの大木の一つに背を持たれて、彼は僅かに差し込む日の光を見上げていた。

(;゚дメ )「……人型に戻っても……傷の程度は同じ位か」

左目は失い、胸には深く十文字の刀傷が刻まれている。
あの連中から離れた後に、ややあって自然と人の姿に戻る事が出来た。

”ムーンロア”による精神支配から己を引き戻す事が出来たのは、内なる奥底にて
あの金色に彩られた”螺旋の蛇”と向き合う事が出来たからだった。

もしかすると、もうこの先あの獣(けだもの)による支配を受けずに済むかも知れない。
しかしそんな甘さが、即身近な人物の死に繋がる事もあるかも知れないのだ。

知らぬ間に人を喰らった後の口の中に残った髪の毛の食感は、思い出すだけで怖気が走る。

677名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 06:07:26 ID:MFi8FkIY0

(;゚дメ )「中々の……剣士だった」

甘さを捨てて、クーとの繋がりを断ち切るべく放った、必殺の一撃。
それは確かに剣士を死の淵にまで追いやったが、彼の反撃の刃はあまりに強力だった。

ここに来るまで点々と残してきた血痕が、その威力を何より物語る。
しかしその傷が既に塞がりかけている事こそ、自分が人間を逸脱してしまったのだと思い至らしめる。

(;゚дメ )「………この姿で、やり合いたい相手だったな」

既に多量に流してしまった血液で、胸を押さえる手は紅に染まっていた。
呼吸を荒げながら、見事に我を突き通した剣士の闘いは印象深いものがあった。

しかし、やはり一番に思い出すものは―――

678名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 06:08:41 ID:MFi8FkIY0

(;゚дメ )「クーめ……俺に似て、強情になりやがった……」

彼女は自分に憧れを寄せつつも、自分に無い物を既に持っていた。

弱い男と、強い女――――傍目から見ればそうは見えないかも知れないが、
ミルナからしてみれば逆だ。外見がいくら強かろうと、中身が伴わないのでは話にならない。

過去から目を背けるように逃げ続け、未だにそれを繰り返している自分自身。
心が脆いからこそ、腕っ節の強さぐらいにしか自信を持つ事が出来ない。

しかしクーはそんな自分とは真逆だ。

幼い頃から、向き合い続けている。
どんなに辛い出来事であろうとも、折れかけながら少しずつ強くなって。

679名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 06:12:27 ID:MFi8FkIY0

(;゚дメ )「それに、良い女になっていた―――ふッ……俺があと……5年も若ければ……」

クーに依存していたのは、もしかしたら自分の方かも知れない。
こうして今のような人間らしい感情を与えてくれた彼女を、傷つけたくないからこそ。

耳に聞こえる朝鳥達の鳴き声が、次第に遠くなっていく。
いくら化け物の身体といえども、少しばかり血を流しすぎたようだった。

(;-дメ )「はは――――なんて、な……」

去り際に彼女に残した自分の言葉を、今の情けない姿の自分に当てはめては苦笑した。

次第に、意思とは無関係に切り取られていくような感覚の、意識。
白くぼやけていく視界の端に、幼い頃のクーの笑顔と、さっき出会ったばかりのクーの泣き顔が掠めた。

「少し―――疲れた………な」

何羽かの小鳥が身体のどこかに留まったようだったが、こそばゆくも心地良い感触に目を瞑る。
それらの鳴き声が、まどろみに落ちてゆくミルナの耳には、次第に遠く聞こえていった――――――

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680名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 06:14:36 ID:MFi8FkIY0




  ( ^ω^)ξ゚⊿゚)ξ(´・ω・`)爪'ー`)y‐
      ヴィップワースのようです
    
          第10話

      「孤狼は月厘に哭く(2)」


          川 ゚ -゚)


           -了-


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