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( ^ω^)ヴィップワースのようです 幕間

690名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 11:46:34 ID:PiH4YMwA0

いつの世も、持たぬ者は持つ者を妬み、羨む。
本人の真意など知らないままに、自己中心的で、身勝手に囃し立てる。
その本心ではおこぼれに与ろうと、あるいは蹴落としてやろうとしながらも。

人が人の中で生きていこうとすれば仕方のない事だ。
力を持たない者は、力を持った誰かに与する事でしか自分を守る事が出来ないから。

ましてや、それは力を示し続ける事だけが周囲からの信頼を募る唯一の手段である、
この城壁都市バルグミュラーにおいては尚更の事だった。


――― 【宵の明星亭】 ―――


「よぉ、傷の具合はもういいのかい」

/ ゚、。 /「………」

返事が帰ってこないのは、いつもの事だった。

691名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 11:47:53 ID:PiH4YMwA0

彼に気さくに声を掛けるのは、奇特な同業者の一部を除いてはこの宿の店主だけ。

普段からまともに言葉を交わすこともほとんどないのだが、”そういう男”だとして
認識している宿の店主は、ダイオード=バランサックに対して信頼を置いていた。

「そういえば、スティーヴォの奴を見ねぇな。いつもだったらこの時間に
 のっそり起きてきては”メシだメシだ”って騒ぐんだけどな」

/ ゚、。 /「………昨日、一緒だった」

マスターの何気ない問いに、ダイオードはグラスの中の氷を一度揺らしてから答えた。
その様子に、マスターははっと顔を上げると、すぐに合点がいったようである。

都市周辺のゴブリンやオークなどの低級妖魔の排除は、もう目処もついてきた。
しかしその代わり、各所に点在するオーガ洞窟の存在が明るみになり、ここ最近になって
届く依頼は、その探索や討伐を中心とした危険なものばかりが連日続いている。

勿論、全部が全部何事も無く終えられるような依頼ばかりではない。

692名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 11:49:53 ID:PiH4YMwA0

「そうか……死んだか、あいつ」

/ ゚、。 /「………」

昨日の顔見知りが、今日になってはいずれ忘れられる存在になっていく。
それも茶飯事であるこの街にあって、店を利用する客がこの世を去っていく事は、
マスターにとってはいつもひどく目覚めの悪い、物憂げな表情にさせる報せだった。

「へへ……あいつ、お前さんの事を”兄貴”とか呼んで付きまとってたっけな」

/ ゚、。 /「………」

ダイオードは、どれほど多くの人間が命を落とす依頼であっても、必ず帰って来る。
鉄仮面で古傷を隠す彼からは、誰にもその表情や人格を窺い知る事が出来ない男。
それだけに、近寄りがたい不吉な存在として奇異の眼差しで見られてばかりであるが。

しかし店主の考えからすれば、こういった寡黙な男こそが戦場では頼りになる存在だった。

693名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 11:50:47 ID:PiH4YMwA0

嫉妬や功名心などに駆られる事なく、周囲の冒険者達はこういった男を担ぎあげて、
少しでも互いに死者を減らせてくれれば商売にも身が入るのだろうが。

その架け橋となってくれそうな奇特な男の一人も、またこの世を去った。

「こいつは、スティーヴォの分だ」

新たに取り出したグラスに琥珀色の液体を注ぐと、それをダイオードの隣に置いた。
そこは空席だったが、まだ若かった冒険者の一人を偲んでの一献。

死体を持ち帰ってくる事は出来なかったのだろう。
当然、敵地のエサ箱に飛び込んで行くような彼らには、それは困難を極める。
せいぜい持ち帰ってこられるのは形見の品や、その剣ぐらいなものだ。

それすら無いという事は、恐らくスティーヴォという冒険者は
肉も骨も残らないような凄絶な死に方をしたのだろうと、店主は一人思った。

元々が身寄りの無い人間も多い。
誰か一人が帰らぬものになったとしても、悲しむ人間も少ないのだが。

/ ゚、。 /「………中央の冒険者は、まだ着かないのか」

694名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 11:53:18 ID:PiH4YMwA0

「予定よりも随分と遅れているが、恐らく今日辺りだろう」

ヴィップからの冒険者が、このバルグミュラーに来るという。

ここでは質の大小はあれども、人脈や何かで依頼に食いっぱぐれるような事はまずない。
誰しもが平等に、そして均等に”命を切り売りする仕事”にありつくことが出来る。

あそこには古参の腕利きも集うというが、過去にここへと流れてきた冒険者達の中には、
想像以上の過酷さに音を上げて、すぐに古巣へと逃げ帰っていく軟弱者も多かった。
妖魔達と闘争に明け暮れるのが常であるこの街に、馴染むことが出来なかった者達だ。

話に聞く所では、これから顔を合わせる男は随分と大言を吐いているようだったが、
それがこれまでの軟弱者達と同じ結果にならない事を、願うばかりだった。

/ ゚、。 /「死んではいまいな」

「どうだかなぁ。生きるの死ぬのなんざ……この街じゃ思うようにいかねぇからよ」

695名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 11:55:14 ID:PiH4YMwA0

ため息混じりに呟くと、少しずつ賑やかになっていく店内に合わせて、
店主はいつもの様に朝の注文ラッシュへと忙殺され始めると、その場を離れた。

いつもの時間、いつもの場所。
ダイオードは誰と関わる事も無く、一人いつもと同じ酒を流し込む。
その彼の背を、少し遠く離れたテーブルから眺める冒険者の姿があった。

眼差しに込められているのは、決して好意的な感情では無かった。

(メ =..=)「……へへ」

風貌だけを見れば山賊の類と何ら変わらないが、顔に刻まれた古傷はいかにもな
古参の冒険者といった面構えだ。傍目にもそれがリーダー格である事は一目で頷ける。

そこへ、気弱そうな男の一人がおずおずと引け腰で切り出した。

「ほ、本当にやるんですかよぅ……?」

696名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 11:58:53 ID:PiH4YMwA0

卓を囲む4人の冒険者のパーティーは、ダイオードがこの街へと流れ着いて来るまでは、
この界隈で随分と幅を効かせてきた、強面で通ってきた一団だ。

荒っぽい彼らを周囲は忌避して来たが、ミステリアスで恐ろしく腕っ節の強い
ダイオードという男を前にしては、彼らとて周囲と同じように振る舞う他なかった。

しかしその日々は、彼らのような人種にとって耐え難い遺恨を残すものだった。
自分たちの事など気にも留めない、言い知れぬ雰囲気を纏う男の威を借るようにして、
周囲もまた彼らの圧力を気にかけないようになっていったからだ。

(メ =..=)「当たりめぇだ。あの若造にナメられたままじゃ、界隈でいい笑いモンだぜ」

「だけど、兄貴―――そんな事したら俺たちが……」

(メ =..=)「……直接殺る訳じゃねぇんだ。なぁに、何とでもなるさ」

697名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:00:05 ID:PiH4YMwA0

「そうだよ、ビビってんならお前は俺達から離れて一人でやっていきゃあいい」

「でも……よぅ」

(メ =..=)「いいか、おめぇがあいつにこう伝えて来い。
      ”討伐依頼の残党狩りの面子があと一人足りねぇから付き合え”ってな」

「だけど、あ、あそこは――――」

(メ =..=)「へッ……知ったこっちゃねぇさ。おら、とっとと行けッ!」

「へ、へぇっ」

自分たちの領分、それを侵される事に対して、連中は良しとしなかった。
功を奪い合い、富を勝ち取る事こそがこの街での冒険者達の存在意義。

698名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:02:04 ID:PiH4YMwA0

自らの食い扶持を維持する為には、大きな仕事を次々と任されていく信頼を持ち得る
存在は邪魔なのだ。上を行く者が居るならばそれに取り入るか、あるいは潰すしかない。

やがて、リーダー格の男に促されるまま席を立った気弱な男は、ダイオードの元へ歩いて行った。

「これで、あいつも最後ですかねぇ」

近々、ヴィップの冒険者を交えた大規模なオーガ洞窟の掃討作戦が予定されている。
一体どれほどの数が潜んでいるか分からないその場所に招かれるのは、精鋭ばかりだという。

/ ゚、。 /

これまでに無い程大きく広がったオーガの根城、そこを潰しさせすれば、
この街全体の士気の向上や、今後の討伐依頼の難易度もぐっと下がる事などを見込める。

だが、そんな場所にたった一人で足を踏み入れてしまえばどうなるか―――――

(メ =..=)「良い夢見ろやぁ、鉄面皮ぃ」

699名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:03:23 ID:PiH4YMwA0



   ( ^ω^)ヴィップワースのようです


             幕間

       「臨むもの、望まざるもの」



.

700名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:11:25 ID:PiH4YMwA0

――― 城壁都市 バルグミュラー ―――

  _
(;゚∀゚)「ったく……てめぇのせいでとんだ時間食っちまった」

およそ6日間の道程を経て、ようやく目的地へと辿り着く事が出来た。
ギコに憎まれ口を叩きながらも、安堵したジョルジュは少しだけその歩調を緩める。

その間、旅を共にしているギコには心労が絶えなかった事だろう。
いや、そもそもの問題として、まず彼が叱責の数々を重く受け止めていたか分からないが。

( ,;-Д-)「ようやくかぁ、長かったぜ……」

地図を持たせれば見方を知らず、道を間違える事は言うに及ばず、
食える野草やそうでないものとの区別もつかず、毒草を鍋に入れようとしたり。

野営の見張り番に居眠りをしている所を発見してしまうかと思えば、
食糧調達の間の火起こしを任せた所、ジョルジュが帰ってきても尚悪戦苦闘していたり。

などなど、きっと心労が絶えなかったのはジョルジュの方かも知れない。

701名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:13:47 ID:PiH4YMwA0

  _
( ゚∀゚)「宿に行く前に言っておくがよ」

( ,,゚Д゚)「んあ?」
  _
( ゚∀゚)「ヴィップじゃお前みてぇな半端モンでもなんとかやれたかも知らねぇが、
     ここいらの野郎どもはてめぇの腕だけで生きてる奴らが殆どだ」

( ,,゚Д゚)「あぁ、ナメられんなよって話だろ?聞かされたよ、何度も」
  _
( ゚∀゚)「そうだ。一緒に居る俺がこっ恥ずかしいからな……」

( ,;-Д-)「へいへい」

ジョルジュもギコも、互いに身の丈に合わない程の大きな剣を背に負う
冒険者であるが、そのお互いの力量には大きく隔たりがある。

702名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:15:15 ID:PiH4YMwA0

功名心だけで地元を飛び出して来たようなギコは、まだこの街の血生臭さを知らない。
見かけだけでもそれなりで、ヴィップではそれなりに仕事を回してもらえていたギコだが、
そんなハッタリだけで食っていける程、この街の依頼は甘くはないのだ。

そして何より、ジョルジュの話からすれば”ナメられてはいけない”理由があるのだという。
  _
( ゚∀゚)「ここの治安維持隊をまとめるお偉いさんと、俺との間でナシをつけてある」

( ,,゚Д゚)「おうよ、俺たちが”掃討作戦”に加わるって話だろ?今から腕が鳴るぜ!」
  _
( ゚∀゚)「………」

ジョルジュの表情が、純真な子供のような反応を示すギコの態度の前に曇る。
そして、これまである意味で恐れていた質問をぶつけてみようと思った。
  _
( ゚∀゚)「お前、オーガと戦った事あんのか?」

703名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:17:16 ID:PiH4YMwA0

( ,,゚Д^)「へへ、当たり前だろ?あの……ブタっ鼻みてぇな連中、
      たまに鎧着てる奴は手強いみてぇだけど、話に聞く限り楽勝よ!」
  _
(;-∀-)「ブタッ鼻……そりゃオークだ、オーク。それに、戦った事もねぇのかよ」

( ,,゚Д゚)「これから行くのは、違うのか?」
  _
(;゚∀゚)「あのなぁ、間違ってもこれからお偉いさんと会う時にはそんな事口走んなよ?
     下手すりゃ討伐隊から外されかねないからな」
  _
( ゚∀゚)「オーガは、通常一匹に対して三人がかりで戦うのが好ましい―――人鬼だ」

( ,,゚Д゚)「……へぇ」
  _
( ゚∀゚)「奴らは、人間を何よりの好物としやがる。俺らの2倍近くもでけぇ図体で、
     生意気に戦利品をコレクションするなんて習性もあってな―――」

704名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:18:38 ID:PiH4YMwA0

人鬼。一体一体でも人間からすれば十分な脅威たりえるが、素手で人間を殴り殺せるだけの
力を持つ彼らが群れをなした時、それこそ本当の恐ろしさを感じる事になるだろう。

戦い方は原始的であろうと、巨大な体躯が併せ持つ耐久力と膂力はただそれだけで脅威になる。
  _
( ゚∀゚)「だがこいつは前哨戦だ。ケチな戦いでおっ死んでちゃあ、てめぇの親父さんに申し訳ないと思え」

( ,,-Д-)「実戦は少ねぇが、俺だって簡単に死ぬつもりはねぇ」
  _
( ゚∀゚)「はん……ならいいがよ」

( ,,゚Д゚)「当たり前だ―――そう簡単に、くたばってたまるか」

ジョルジュからしてみれば至極脳天気な男に見えるギコだが、
それでも彼はただ楽観的に構えているつもりでもない。

705名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:19:49 ID:PiH4YMwA0

ジョルジュという男に惹かれ、半ば流されるようにしながらも。
だが今では自分自身で父親の仇を討つという目的を背負っていたつもりだ。

そのための前哨戦で命を落とす―――そんなつもりが毛頭ないのは、
このジョルジュに預けている信頼感のせいもあったかからだろうか。

”この男と一緒にいれば、あるいは”
そう思わせる何かを、やはりジョルジュという男は持っているように思えた。

( ,,゚Д゚)「お……”宵の明星亭”、待ち合わせ場所ってあそこか?」
  _
( ゚∀゚)「あぁ。やっと酒入れられるぜ」

決して口には出さないが、この男を目標として強くなっていこう。
そう考えながら、ギコはジョルジュとの仇討ちの旅にそういった期待感も持っていた。

706名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:21:04 ID:PiH4YMwA0

――― 夕刻 【宵の明星亭】――――


扉を開け放った先には、物騒な強面や手練の冒険者と思える者の姿が数多い。
そこには、交易都市での酒場のように初々しい面々など数える程もいなかった。

泥臭いような、いがらっぽさが沈殿したような空気の悪さ。
それらに一瞬表情をしかめたギコを気にも留めず、ジョルジュはカウンターへと歩を進める。
  _
( ゚∀゚)「遅くなって悪かったな、ヴィップのジョルジュが来た……そう、お取次ぎ願えるかい」

「………あぁ、あんたらが」

( ,,゚Д゚)「同じく、ギコだ」

促されるまま席へと着いたジョルジュの隣に、ギコは腰掛けた。
大筋の話の流れは聞かされているものの、この後の細かい打ち合わせについてはこれからだ。

707名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:23:19 ID:PiH4YMwA0

バルグミュラーの精鋭達と共同で戦線にあたり、依頼達成後には彼らの兵を借りる。
実質無政府状態と化しているこの街を取り仕切っているのは、傭兵団や冒険者たちを束ねる
治安維持ための一団を私兵として持つ、一人の貴族だ。

しかしその彼らでも、存在する妖魔の種が豊富で、その数も無数であるこの地の治安を
治めていくのは困難だという。そこで、近年ヴィップの冒険者や円卓騎士団と連携して
拠点の警護に当たるようになっていった。

「―――責めてる訳じゃねぇが、来るのがちょっと遅かったぜ」
  _
( ゚∀゚)「……?」

「今、こっちでは問題が起きてる。ウチで一番腕の立つ奴が、どっかに行っちまった」

( ,,゚Д゚)「別口の依頼にでも行ったんじゃねぇか?」

708名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:24:40 ID:PiH4YMwA0

「見知った顔が依頼に出向くんなら、その委託をしてる俺が知ってるはずだ。
 これまであいつが依頼をこなさず油を売ってる日なんて、俺は見たことがねぇ」

( ,,゚Д゚)「冒険者一人だろ?別に、気にする程の事もねぇじゃねぇか」
  _
( ゚∀゚)「………」

「違いねぇ―――だがあいつが居ないと、次の討伐はきっときついモンになる」

”たかが冒険者一人”
ギコの言葉に無言の肯定を示しながらも、集団を率いる力有る”個”の重要性を、
ジョルジュもまた知っていた。窮地に陥り、皆が判断を委ねる対象は必要なのだ。
皆に道を示しながらも状況を押し返す力と、萎縮した精神力を蘇らせるだけの魅力。

音頭を取るのは、肉体的にも精神的にもより頑強な男であるべきだという考えには賛同できる。

709名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:26:19 ID:PiH4YMwA0

しかし一方で、ジョルジュは自身にもそういう役目を負うだけの能力があると反発した。
経験や力を過大にも過小にも評価せず、それを自分で冷静に分析できているからこそだ。
  _
( ゚∀゚)「安く見られたもんだぜ、俺達も」

( ,,゚Д゚)「………」

”俺達”という言葉に少しだけ反応したギコだったが、それに気づかれないよう振る舞う。

今はジョルジュが伝えてある通り、きっとこのマスターにとってギコは精鋭の一人という扱い。
乗っかるようにして下手な小芝居の一つもしておこうかと思ったが、そう出来る雰囲気でもなかった。

「そうじゃねぇ、決してあんたらの腕を疑う訳じゃあないんだが……
 あいつが居ると居ないとじゃ、必ずやこっちの被害も変わってくる」
  _
( ゚∀゚)「ほぉ」

店主の言葉を聞いたジョルジュは、彼を見るべき所のある男だと思えた。

710名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:28:08 ID:PiH4YMwA0

治安維持隊から仕事を冒険者達へと卸しているのは他ならぬこの宿の店主だが、
仕事を任せる人物たちを、単なる端な道具や使い捨ての効く人材だとは思っている訳では
ないのが感じられたからだ。

前線で命を張る人間たちを人とも思わぬ扱いをするお役所仕事と比べては、
そういう考えを抱いてくれる側の方が、よほど命の張り甲斐もある。

( ,,゚Д゚)「どこに行ったんだ?そいつ」

「連れ戻してくれりゃあ面倒はねぇんだが……あいにくとな」

( ,,゚Д゚)「じゃあ、俺達ゃまだ動けねぇって事か」
  _
( ゚∀゚)「………」

肩をすくめたマスターの前に、ジョルジュは無言のまま盃を傾げる。
彼の”計画”にとって、この前哨戦での失敗は許されないのだ。

711名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:29:40 ID:PiH4YMwA0

確実にバルグミュラーの傭兵団や冒険者たちの心を掴み、助力を借り受ける。
それには入念に準備を進め、淀みなく”行程”を済ませていかなければいけないのだが、
他者に先を越されてしまえば、下手をすれば目的自体が水の泡となってしまう。

ギコの言葉に焦燥を感じていたジョルジュの表情には、少なからず苛立たしさが見え隠れした。
そんな時、店に入ってくるなり、一人の冒険者が酒場全体に響くような大声を張り上げる。

(メ =..=)「おい、酒だ酒ッ!」
  _
( -∀-)「……ふぅ」

他の街でもよく見かける、粗野なゴロツキ。そんな印象を受ける手合いだった。
色々と考えを巡らせてしまっていたジョルジュの思考が、そこで一時遮断される。

今は考えても仕方の無い事かも知れない――――
今は杯を乾かし、今後の事はそれから考えようと。

712名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:31:01 ID:PiH4YMwA0

(メ =..=)「聞こえねぇのか!早くしろッ」

( ,;゚Д゚)(……態度でけぇな)

(まぁな、俺みたいなのは慣れっこだがよ)

ギコの隣から二席を空けた所に、その冒険者はどっかりと座った。

作り終えた酒を運びながら、店主は男の周囲を見渡した。
いつもならば魚の糞のように付きまとう仲間が必ず一人は居た事を覚えている。

「お待ちどうさん。今日は、お仲間はいねぇみたいで?」

(メ =..=)「うるせぇな……お前に関係ねぇよ」

「すいませんね……はいはい」

届けられたグラスを掴むや否や、彼は一人満足そうに「乾杯」と呟いては、それを傾ける。

713名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:34:29 ID:PiH4YMwA0

普段ならば話かけたりはしない人種だが、彼のどこか上機嫌な様子を探ろうと、
マスターが軽い世間話を切り出していた。

「お祝いって、何か良い事でもあったんですかい?」

(メ =..=)「へへ……辛気臭ぇ奴の面を見る事が無くなったってとこだな」

「………へぇ?」

それを聞いた店主には、何かが引っかかった。

普段ならば必ず依頼を任せる際に、顔合わせをしているはずの男の姿が見えない。
それに対して、いつもならばテーブルで仲間たちと良からぬ話ばかりしているこの男は、
今日という日に限ってはカウンター席に腰掛けて上機嫌な様子を見せている事。

多くの人々を見てきた店主なりの、勘が働いたのかも知れない。
しかしその符号を裏付ける、ある一つの事実もあった。

714名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:35:28 ID:PiH4YMwA0

男の元から離れても、店主は少し深みのある表情を見せながら作業をこなす。
時折首を傾げる彼の様子に、ギコは離れた席に座る強面の様子を一度確認してから声を掛けた。

( ,,゚Д゚)「……あの男が、何かあったのか?」

「……いえ、ね」

店主はジョルジュ達の傍で洗い物をしながらも、
強面の方には聞こえないくらいの声量で耳打つように呟く。

「大きな声じゃ言えねぇが、あいつら厄介がってるんですよ。ダイオードの事を」

( ,,゚Д゚)「ダイオードって……さっきの話にあった奴の事か?」

「ええ。元々大した地力も無いのに、ダイオードが来るまではあの強面で周囲から
 依頼をカスってたような奴らなんですけど。あいつらもダイオードにはそうそう
 手出したりは出来ないみたいでね……」
  _
( ゚∀゚)「そこの野郎が、そいつが居なくなった事に関係してるってか?」

715名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:37:12 ID:PiH4YMwA0

「そうは言えねぇ……けど、朝に奴の子分の一人がさ、
 そのダイオードに何か話を持ちかけていくのを見てたんだ」
  _
( ゚∀゚)「………」

「ちょっと、知ってる素振りみたいでね。何か一つ引っかかる」
  _
( ゚∀゚)「……なら、直接訊いてみるのが早ぇな」

( ,,゚Д゚)「お、おいッ」

店主の言葉に、ジョルジュはすぐに席を立った。

この後の行程に必要とされる人物が消えたとあっては、即座に連れ戻さねばならない。
無駄足を踏んでなど居られない。お預けを食らうのはまっぴらだった。

そのままつかつかと歩いて行くと、ジョルジュは強面の男の傍に立つ。

716名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:38:00 ID:PiH4YMwA0

(メ =..=)「……あぁ?なんだぁ、若造?」
  _
( ゚∀゚)「単刀直入に訊くがよ、お前、ダイオードって奴の事知ってるか?」

(メ =..=)「……はんッ、知らねぇな。死んでんじゃねぇのか、そんな奴」
  _
( -∀-)「なるほど」

「ふぅ」と大きくため息をつくと、次の瞬間その場の椅子を転がす勢いで腕を伸ばし、
ジョルジュは強面の男の胸ぐらを一気に掴みあげた。

(メ;=..=)「……んだッ……てめぇ!この野郎ォ!」
  _
( ゚∀゚)「もう一度訊くぞ―――知ってるのか、知らねぇのか」

(メ;=..=)「なッ………んむ……」

「ちょっ、ちょいとお客さん!」

717名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:39:12 ID:PiH4YMwA0

一瞬にして静まり返った酒場中の視線が一身に注がれる中、ジョルジュは片腕で男を吊り上げながら
同じ質問を繰り返す。男はばたばたともがきながらそれを振り解こうとするものの、真っ直ぐに射抜く
ジョルジュの瞳と、大の男を持ち上げながら微動だにしない二の腕の強靭さに、やがて抵抗を諦めた。

(メ;=..=)「へ……ッ!言ったろう、ダイオードの馬鹿はとっくにおっ死んだだろうぜ」
  _
( ゚∀゚)「あぁ……?」

(メ;=..=)「俺達は止めたんだ、だけどあいつは一人で行っちまったのさ」

(メ;=..=)「ヘヘ―――あの”鬼の穴”になぁ!!」
  _
( ゚∀゚)「………」

苦し紛れに憎まれ口を叩いた男の言葉に、ジョルジュはマスターの方へと振り向く。
深くため息をついて俯く彼の表情には、とても険しいものが張り付いていた。

「………駄目だ、もし本当に足を踏み入れてたとすれば、助かりようがねぇ」

718名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:42:35 ID:PiH4YMwA0

( ,,゚Д゚)「そこは、危ねぇ場所なのか?」

額に手を当てながら再度ため息をついたマスターの顔には、諦めが浮かんでいた。

命知らずな男と言えど、生存の可能性が皆無の場所にたった一人で赴くような事はしない。
誰かに唆され、あるいは騙されればその地へ足を運んでしまう事もあり得るとは言え。

「危ねぇどころじゃねぇ―――今度の大規模掃討作戦の、予定地だった探索場所だ」
  _
( ゚∀゚)「……エサ箱に飛び込んだって訳か」

「斥候で飛び込んだ騎士の話によると……ざっと傭兵20人―――」

( ,,゚Д゚)「!」

「それに冒険者15人、加えて正規兵15人の、占めて50名を集めると言っていた。
 それだけの人数を集めて、ようやく対等かどうかってぇ場所なんだとよ……」

719名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:43:44 ID:PiH4YMwA0

( ,;゚Д゚)「おいおい……それじゃあ……」

「死んだも同然だ」と、マスターは続けた。
知ってさえ居れば、まかり間違っても足を踏み入れるような場所ではない。
しかしその危険を知りもせずに足を踏み入れたのだとしたら、人間などは単なる餌食。

(メ;=..=)「へ、へへ……あの死にたがり野郎は、そこに一人で勝手に行ったのよ!」
  _
( ゚∀゚)「そうか―――まぁ、事情は分かった」

手に加えていた力を緩めると、強面の男は尻からその場に落ちる。
尚も下卑た笑いを繰り返す男の襟首を掴むと、今度は強引に引っ張り立たせた。
  _
( ゚∀゚)「じゃあ、道中の道案内は任せるぜ」

(メ;=..=)「――――あん?」
  _
( ゚∀゚)「おらっ、ボサッとしてんじゃねぇ。行くぞ」

( ,;゚Д゚)「お、おいおい!?行くって言ったって……」

720名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:44:50 ID:PiH4YMwA0

「まさかとは思うが、あんた……”鬼の穴”に行くつもりじゃねぇだろうな?」
  _
( ゚∀゚)「行くに決まってんだろうが。なぁに、連れ戻してすぐ逃げ帰りゃあいい」

(メ;=..=)「バッ、馬鹿かてめぇ~ッ!?」

( ,;゚Д゚)「………」

「……おいおい」

ジョルジュの破天荒っぷりに、ギコは店主と同様に絶句しながら呆気に取られていた。

じわりと滲んだ手の平の汗を袖口で拭っては、脳裏には早くも嫌な予感がよぎる。
旅先で目的地に到着して早々、早くも命を落とす覚悟をしておかなければならないようだ。

721名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:45:58 ID:PiH4YMwA0

「無茶だぜ……死んじまうぞ」

冷静に言い放ったマスターの言葉はもっともで、なるべくならギコも頷きたかった。
だがそう出来ない理由は、このジョルジュという男と共に肩を並べておきたいが為だ。

足腰の力が途端に抜けてしまいそうになるほどの、悲しいほどの虚勢だった。

( ,;゚Д゚)「マスター、ツケといてくれねぇかな……なぁに、すぐ帰ってくるからよ」

「………あんたも」

(メ;=..=)「やめろぉっ!お、俺を巻き込むんじゃねぇ!」

暴れる強面をよそに、口から胃を丸ごと吐き出してしまいそうな程に緊張に呑まれた
様子のギコの表情に苦笑しながらも、ジョルジュはにやりと曲者の笑みを浮かべた。
  _
( ゚∀゚)「ちったぁ言うじゃねぇか」

( ,;゚Д゚)(あぁ、帰りてぇ)

喉が熱くなるような酒を一気に飲み干して杯を叩きつけると、その場を立った。

722名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:47:40 ID:PiH4YMwA0

――― 【城壁都市 外周】 ―――


「ぜんたーい、止まれッ!」

「いっち、にっ!」

彼女の一声で見事に足並みが揃うと、暮れなずむ茜色を照り返す
銀色の鎧をまとった男たちは、その場に綺麗に整列した。

ノパ⊿゚)「今日の調練はここまでにしておこう!」

鋭い眼光を見せていた騎士達の隙の無い姿勢も、その一声を聞くや否や
途端に緩やかなものとなり、度重なる疲労にその場で尻餅を突く男もいるぐらいだ。

フィレンクトが課しているノルマを終えても、まだ余力を感じさせるのは
この遠征中を指揮しているヒート=ローゼンタールを含め、僅か数人だ。

723名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:48:31 ID:PiH4YMwA0

「くっそー、何だって俺たちがこんな場所に送られるんだよ……」

「なんでも、隊長さんのヘマが一因らしいぜ。団長の怒りを買ったとか」

「俺はヒートさんと居られるなら、どこなりと!」

「マゾかお前。気持ちは解からんでもないが、しかしこの運動量……ちょっと尋常じゃねぇ」

「何にしても、ふかふかのベッドが恋しいぜ――――」

酒場へ消えて行くもの、仮設兵舎へと戻って行くもの。
思い思いの行動を取る部下たちの背中を見送り終えると、ヒートは一人
街の外周を一望できる物見櫓へと続く梯子を登った。

724名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:49:39 ID:PiH4YMwA0

ノパ⊿゚)「ふぅ……良い眺めだな」

”城壁都市”の名の通り、この街は外周を高々とそびえる壁によって囲われている。
かつて、まだヴィップが大陸の歴史上で交易都市と呼ばれるよりも以前から、この地は
人と人の戦争や、あるいは当時今より強力な力を有していた妖魔達との戦いの拠点として、
重要な役割を担っていたのだという。

その名残か、今でも戦士たちの血が染みこむと言われるこの場所の赤土には、
こうして暮れていく夕日こそがよく似合っているように思えた。

訓練に火照った肌には、きな臭さを運ぶ戦地の風が生温い体温のように感じられる。

「あぁ、団長さんじゃないですかい」

ノパ⊿゚)「団長ではないけどな―――レイオブロウ殿は、今日も帰らないのか?」

「あぁ、あのお方は懇親会だか会食だかわかんねぇけど……
 俺ら下っ端に前線を任せっきりで、どうせ遊び呆けてるんでさぁ」

725名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:51:26 ID:PiH4YMwA0

ノパ⊿゚)「ふぅむ………」

荒れ果てたこの地には、作物を育たせるのが非常に難しい。
北には未開の森や山々があり、そこからは未だ多数の妖魔が勢力を伸ばし続けている。

その境に位置するこの街には外敵からの危険も多い為、移り住んでくるのはよその街に
いられなくなってしまった、訳ありの冒険者や傭兵ばかりだ。

そんなこの地を預かる領主、レイオブロウは大陸諸侯からの援助を受けながら、
半ば治安維持隊や冒険者を野放しで、彼らの好きにさせながらこの街を任せている。

覇気が無く、人付き合いの下手なレイオブロウに辛うじて諸侯と横の繋がりがあるのも、
いずれバルグミュラーからさらに北へと人の領域が拡大した時、新たに得られるものが
あるかも知れないという諸侯による打算があるからこそだ。

未知というものに、人は心を惹き寄せられる何かを感じざるを得ないのだろうか。

726名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:52:28 ID:PiH4YMwA0

「円卓騎士団から補強人員が来るって聞いたから、最初はどんなおっかねぇのが
 来るかと思ったけどよぉ……まさかお嬢さんみてぇなのとは意外だったぜ」

ノパ⊿゚)「期待はずれだったか?」

「いいや、びっくりこいたさ。十何人もの面構えのいい騎士さん達が、
 あんたの訓練にゃ肩で息をしながら、キツそうにぜぇはぁしてるんだからな」

ノパ⊿゚)「うーむ、鍛え方が足りないんだろうな……明日からもう少し……」

「はっは!妖魔どもと戦う前に、ぶっ倒れねぇで下せぇよ」

ノパ⊿゚)「勿論、掃討作戦の決行日も近いしな!」

今回は、ヒートにとって単なる強化遠征というものではない。
この城壁都市を拠点として、各地に広がりを見せるオーガ洞穴各所の制圧。
人の天敵たる鬼を退治し、少しでも住みよい場所にするために重要な任務だ。

727名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:53:45 ID:PiH4YMwA0

フィレンクトから直接言い渡された任務ではあるが、以前にツン警護の任に就きながら、
彼女の動向を見失ってしまったという失態を演じたヒート自身への喝でもあるのだが。

「うん……何だ?」

ノパ⊿゚)「何かあったのか?」

ふと、城壁の上から北を見渡していた守衛の一人が、数人の人影に気づいた。
もう夕刻ともなると、依頼を終えた冒険者達は心身をすり減らしながら帰投して来る頃だ。

「いえね、あそこの三人―――今から、どこに行くつもりなんだか」

ノパ⊿゚)「……むッ」

728名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:54:42 ID:PiH4YMwA0

守衛が指さした方向には、一人の身柄を押さえつけるようにして連れ歩く、二人の男の姿。
妖魔の活動が活発化してしまう夜分に、わざわざ危険地帯へと出歩くのは自殺行為である。

「ちょ、ちょっと!隊長さん―――!」

そして、わざわざ人目をはばかるようにするのは、何か後ろめたい事があっての事か。
何にしても、今はこの地の治安を預かる立場である”円卓”に名を連ねる一人として、
どうにも見過ごしてはおけなかったヒートは、すぐに考えを行動へと移していた。

ノパ⊿゚)「事件の匂いがするな……!」








730名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:58:07 ID:PiH4YMwA0

――― 【城壁都市北部 某所】 ―――


/ ゚、。 /「………」

外では、既に陽が傾いている頃合いだ。
普通なら引き返す状況だが、先導する男の後について歩き続けた。

細い口を開けた小さな入り口と反して、その最奥は未だ先にあるようだ。
長々と歩き続けたにも関わらず風景が切り替わる事のない一本道は続く。
やがて、周囲の空気が霧雨のような湿り気を帯びてきたところで、先導する男の足は止まった。

(;=゚ω゚)「こ……この先に、仲間がいるんだよぅ」

/ ゚、。 /「………」

強張った笑顔を貼りつけた彼は、ダイオードへと向き直るとおずおずとその顔を見上げる。
その肩は小刻みに震えているようでもあったが、彼はあえてそれを指摘しなかった。

731名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 13:00:38 ID:PiH4YMwA0

(;=゚ω゚)ノ「それじゃ、おいらはこの辺で―――」

だが、伏し目がちに背を丸めながらダイオードの脇を通り抜けようとしたその時、
男の肩は大きな手の平に掴まれると、抗えないぐらいの強い力で引き止められた。

そぉっと振り向いた先には、鉄仮面の奥から深い翆の色をした双眸が男を捉えて、見下ろす。

/ ゚、。 /「―――歩け」

(;=゚ω゚)「……ひッ」

”もしかすると、この男はオーガよりも怖いかも知れない”
有無を言わせぬ圧力に逆らえぬまま、男はまたすごすごとダイオードの
脇と通ると、奥へと続く道の先に立った。

既に泣きそうな表情になっているのだが、もはやそれをひた隠す余裕もなかった。
何故ならば自分は今、地獄へと続く片道の案内人をさせられているのだから。

732名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 13:02:47 ID:PiH4YMwA0

/ ゚、。 /「本当に、居るのか」

(;=゚ω゚)「あ、あぁ……4、5人ぐらいの仲間が―――この先に」

でまかせで取り繕う口調は、自然と早口になっていく。

疑う素振りも見せず黙って着いてきた背後の男は、全てを知っていながら
こちらに従う振りをしていただけなのではないか。

裏切りに気づかれ、離脱するタイミングを僅かでも逃せば、その手斧は
自分の首を叩き落とす為に振るわれるのではないか。

そんな恐怖に苛まれながらも、男はどうにかダイオードの問いかけに答える。

/ ゚、。 /「……6人、と聞いていた」

(;=゚ω゚)「そ、そうだったかよぅ!?……か、勘違いしてたみたいだよぅ」

733名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 13:04:14 ID:PiH4YMwA0

前門の人鬼、しかし後門にも人鬼。
考えれば考える程に思考は緊張感に呑まれ、気弱な男の心を苛んだ。

リーダーの言いつけ通りにこの男を人鬼の住処まで誘導しなければ、
帰ってからの自分の立場が危うい―――それどころか、半殺しの目に遭うだろう。

もう全てを打ち明けてダイオードに対して土下座でも何でもしてしまおうかと
思った矢先、目の前にはようやくぽっかりと開けた大きな空間が飛び込んできた。

(;=゚ω゚)「……い、いないみたい……だよぅ……?」

冷たい脂汗、震える足で一歩を踏み出して暗いその場所の様子を伺う。
――――どうやら、人の気配はなかった。

当然そんなものがある訳はないのだが、”人以外の何者か”の気配も感じない。

/ ゚、。 /「………」

734名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 13:05:56 ID:PiH4YMwA0

(;=゚ω゚)「あ、あれ?おかしいよぅ……待ち合わせ場所、ここだったと思ったけどよぅ……」

もしかすると、本当は先行した冒険者達によってこの場所の
オーガ達は全て狩られてしまったのかも知れない。

少し安心した男は、強気で広間の中央辺りへまで歩を進める。
その後に続くダイオードは、辺りへと頭を振りながら何かを伺う様子を示していた。

(;=゚ω゚)(言いつけ通りここまで連れてきたんだし……兄貴には勘弁してもらうんだよぅ)

湿っぽい空気の中に入り混じった気色の悪い生温さに肌を泡立たせながらも、
やがて向き合ったダイオードに大げさな仕草を見せて、男は困った表情を演出する。

その頭の中では、もう帰った後の事を考えていた。

/ ゚、。 /「―――”味方”は?」

735名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 13:07:03 ID:PiH4YMwA0

(;=゚ω゚)「い……いやぁ、ははは。入れ違いだったみたいだよぅ……引き上げたみたいだよぅ!」

リーダーの言いつけ通りに役目を果たした。

一発ぐらいは殴られるかも知れないが、それも命に比べれば安いもの。
さっさとこの場を引き上げて、いつものように宿へとしけ込んでしまおう。

/ ゚、。 /「なら……生き残れるかは、お前次第だ」

そう――――いつもの、ように。


(;=゚ω゚)「――――え?」

その時、少し目の慣れてきた暗がりの中で、ダイオードが瞳を向ける先に何かが見えた。
間も無くして、甘い考えに浸っていた男の中では何かが壊れる音がした。

736名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 13:08:42 ID:PiH4YMwA0

戻れるとばかり思っていた、日常との繋がり。
それには今、目の前の現実という亀裂が走っていた。


 ゚ ゚    ゚ ゚    ゚ ゚   

   ゚ ゚     ゚ ゚

一つや二つではない。
無数に浮かぶそれは、酷く濁った赤色だった。

(;=゚ω゚)

”瞳”だった。
それに視られていると気づいてからは、胸元を遡って自分の
喉首までを締め付けられるような感覚が、急速に男の身体を駆け巡る。

737名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 13:09:46 ID:PiH4YMwA0

(゚ω゚=;)「……ッ!」


 ゚ ゚    ゚ ゚    ゚ ゚   

   ゚ ゚     ゚ ゚

反対側を見ても、どこを見ても。
男の瞳には同じ光景ばかりが映った。

(;=゚ω゚)「あ――――」

”鬼の穴”を訪れてしまった自らに、後悔をする余裕すらない。
あるのはただ、圧倒的な数の捕食者の前に怯え震える、恐怖だけ。

/ ゚、。 /「声を、上げるな」

738名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 13:11:13 ID:PiH4YMwA0

ほんの些細なきっかけで、この数が一度に群がって来る。

動じる事もないダイオードは、周囲に警戒を張り巡らせながら、
叫びだしそうな表情を浮かべていた男にそう言って聞かせた。

/ ゚、。 /「………走れ」

(;=゚ω゚)「ぅ、あ……」

彼が指さした先には、今来た道へと繋がる出口。
この悪夢が描き出したような場所から逃れられる、唯一の光だ。

「あんたも、逃げないと」

そう口にする程の時間も残されてはいない。
動き出せば―――すぐにでも、この数十はあろうかという瞳が襲い掛かってくる。

(;=゚ω゚)「う―――うわぁぁぁぁぁッ!!」

739名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 13:13:10 ID:PiH4YMwA0

そんな恐怖に呑まれた男は、次の瞬間ダイオードに促されるままに走った。
男としての意地も矜持も、何もかもをかなぐり捨ててでもいい。

ただ命を繋ぐために、それだけ出来ればいい。

彼がそれを懇願しながら逃げ込もうとした先で、次の瞬間大きな影が動いた。

それは男が心に抱いていた希望への期待感を、暗く遮る。
止めざるを得なかった足元からは、凍りついていくような恐怖が頭の先まで浸透してゆく。

(;= ω )「はァ―――そんッ……!」

ノシ`i゚ 益゚i以「……グッグッグッ……!」

腰みのだけを巻いた筋骨隆々の巨人の姿が、心臓をぎゅうっと強く握りしめる。
人の言葉など聞き入れるはずもない食人鬼を前にして、何歩かを後ずさった所で腰が抜けた。

740名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 13:14:34 ID:PiH4YMwA0

(;= ω )「い……いやだッ」

たとえ彼らに哀願してさえ、生き延びたかった。
振り絞るような叫びは、もはや消え入りそうな程にか細く震えるだけ。

(=;ω;)「死にたく―――死にたくないよぅッ……!!」

次々と暗がりに灯りが灯されて、それが大小様々なオーガ達の姿を浮かび上がらせた。

悲鳴を聞きつけ、起き出してきたのだ。
自分たちの根城に”餌”が迷い込んできたのだと。

ノシ`i゚  ゚i以「………フシィ」

ノシ`i゚  ゚i以「ゲッゲェッ」

言語を理解できぬまでも、恐怖に染まる人の声も、表情もきっと理解るのだ。
そしてそれらはオーガにとって、この上なく心地の良い愉悦の音に他ならない。

741名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 13:16:05 ID:PiH4YMwA0

やがて何匹かが、人の脚一本ほどもありそうな棍棒を手にしながら、広間の中央へと歩き出す。

(=;ω;)「助けて……助けてくれよぅ」

/ ゚、。 /「………」

”生きたい”と願う男の傍で、その真逆をこそ望んでいる一人の男は、
睨めつける数多の視線に動じる事もなく、血塗られた手斧を肩へと担いだ。

そして、いつものように――――自分の命を矢面に晒し続けるように。
決して己の命を省みることのないその男は、悠然と人鬼たちの行進を出迎える。

/ ゚、。 /「”此処”では―――無い」







742名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 13:19:17 ID:PiH4YMwA0

(;メ =..=)「クソ野郎がッ、離せってんだよ!」
  _
( ゚∀゚)「うるせぇな……とっとと歩きゃいいんだよ」

暴れる男の首根っこを締め上げながら、ジョルジュは北門を抜けて街中を離れていた。

もうすぐ完全に日没だ。

妖魔の動きが活発となってからでは、きっと店主の言っていたように
その男も、そして自分たちもが、宿へ帰れる事は二度と無くなってしまうだろう。

”もしかすると、もう死んでしまっているかも知れない”と思いつつも、
やがて先導しながら罵詈雑言の限りを二人に浴びせていた強面の様子が、急に大人しくなった。

(;メ =..=)「……こん中だ」
  _
( ゚∀゚)「………」

743名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 13:20:12 ID:PiH4YMwA0

足元にあるのは、地面に埋もれるようにして少しだけ口を覗かせる縦穴。
目測で横幅を見たところ、3~4人が通るのでやっとという風にも見える。

入り口の小ささから言っても、多人数を送り込んだ所で行軍には苦心を強いられるだろう。

( ,;゚Д゚)「……なぁ、入るのか?やっぱり」

もしこの場所に多数のオーガが生息しているのであれば、内部には
その空間を確保出来るだけの拓けた場所が、どこかにあるはずだ。

もしその居住域にまでたどり着いてしまっていれば、男の安否は想像だに易い。
  _
( ゚∀゚)「おい、中は分岐してるのか?」

(;メ =..=)「俺が知るかよ……一本道らしいって話だけは聞いたがな」
  _
( -∀-)「チッ、だとすりゃあ―――」

744名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 13:24:33 ID:PiH4YMwA0

(;メ =..=)「言ったろう、俺の子分共々帰って来やがらねぇんだ……とっくに死んでるさ」
  _
( ゚∀゚)「はっ。そいつは見事にてめぇみてぇなド腐れの命令を果たした訳か」

(;メ =..=)「―――あでぇッ!」
  _
( ゚∀゚)「だが……仮にてめぇの言う通りにしても、一応はこの目でそれを確認しておかねぇとな」

(;メ =..=)「チッ……イカれてるぜ、てめぇら」

引き掴んでいた男の襟首ごと、ジョルジュはその身を地面へ投げ捨てる。
背負う剣の柄を掴んで具合を確かめると、こきこきと首を鳴らした。
  _
( ゚∀゚)「おい、寝言しか聞けねぇようなクソの詰まった耳ほじくってよく聞け。
     日が落ちても俺らが帰らねぇような事があったら、騎士団なりに事実を伝えろ」

(;メ =..=)「てめぇも死ぬさ」

745名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 13:26:10 ID:PiH4YMwA0

  _
( -∀-)「ま、そうだな……そん時ゃ、遺留品しか残っちゃいねぇだろうよ」

( ,;゚Д゚)「お、おらぁ死ぬつもりはねぇぞ!」

自分を奮い立たせるように言い放ったギコの言葉だったが、その彼に
冷淡な瞳で一瞥をくれながら、ジョルジュは冷たく言葉を返す。
  _
( ゚∀゚)「いつでも死ぬ覚悟はしとけ」

( ,;゚Д゚)「………」

愛想笑いの一つでも返ってくるかと思ったギコの考えに反して、
自身が一目を置く男の反応は冷たく、あっさりとしたものだ。

それによって、危機感に対して実感のなかった自分の目も覚めた思いがした。
  _
( ゚∀゚)「確かに伝えたぜ」

(;メ =..=)「………あぁ、分かった」

746名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 13:27:34 ID:PiH4YMwA0

侮蔑の視線を最後に一度冷たく投げかけたジョルジュは、
そのまま男に振り返る事なく洞穴の入り口を一歩一歩降りていく。

( ,,-Д-)(……おしッ)

両手で自分の頬を張ってから勢いをつけたギコも、すぐにその後に続く。

二人の男と、更に二人の男がが姿を消していった鬼の棲まう洞穴の前。
気配が遠のいていったのを確認した後で、強面の男はようやく立ち上がった。

全く、気分よく祝杯を上げていた所で馬鹿な連中に気分を害されたものだと。

(メ =..=)「―――ケッ、馬鹿共が。仲良く死にやがれ」

747名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 13:28:24 ID:PiH4YMwA0

「誰が報せてやるかよ……」

そう呟きながら振り返った後に、次の瞬間男の視線は数人の人影を捉えていた。

全身鎧を纏う屈強な体格の男たちを両側に従えて、その中央で腕組み構えるのは一人の女。
この強面からすれば娘程も歳の離れていそうな程であり、少女と言っても差し支えない容貌だ。

しかしその顔には、剣呑とした雰囲気がありありと浮かんでいた。

ノパ⊿゚)「……事情を話してもらうぞ」

(;メ =..=)「―――!」







748名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 13:29:33 ID:PiH4YMwA0

ノシ`i゚ 益゚i以「グフ……グフフッ」

(=;ω;)「あ……あぅぅ」

退路は絶たれ、周囲からじわじわと包囲するようにして、人鬼の波が群がる。
血色の無い黄土色の食人鬼の表情はどれも一様に、狩りに興じる事への悦楽を感じているのか。

そこには捕食する対象への慈悲も無ければ、少しの躊躇も無い。
自分たち人間が豚や牛を口へと運ぶように、食事を前に舌なめずりをしているのだ。

腰砕けで後ずさる内、やがて男はダイオードの足元にすがるようにして背中を預けていた。

/ ゚、。 /「………」

749名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 13:30:42 ID:PiH4YMwA0

やがてさらに包囲を狭まる、人鬼たちが形作る円環。
その中から踏み出した一匹が、無造作に掴み取るようにして二人へ手を伸ばした。

ノシ`i゚ 益゚i以「――グハハァッ!」


”ズ ダ ンッ”


(=;ω;)(ひぃッ……ひぃぃぃッ!)

何かがへしゃげて断ち割れるような音が、耳に震えて響いた。
ぴちゃりと頭にかかったのは、生暖かく、少し粘り気のある液体。

見なくても解る、不快なこの感触は―――鮮血だろう。
さらに身を縮こまらせては、耳を塞ぎながらまぶたを痛い程に閉じ込む。

750名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 13:31:49 ID:PiH4YMwA0

一人が死んだのなら、次は自分の番だ。
どうせならば先に殺してくれれば良かったのにと、今は楽に死ねる事を考えていた。

「……グゥッ……」

(=;ω;)(嫌だ……嫌だよぅ……!)

耳を塞いでも隠し切れない、人鬼達の獣のような息遣い。
それに入り交じって驚く程早く脈打つのは、自分の心臓の音だ。

生きたいと願う自分の身体が打つ音をかき消そうとするように、時折うめき声が聞こえた。
「殺すなら早くしてくれ」と、狂いながら叫びだしてしまいそうになった時だった。

突然顔を覆うようにして降りかかった生暖かい血の感触に声を上げては、目元を拭う。

751名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 13:33:40 ID:PiH4YMwA0

溢れる涙とが入り混じり、赤色に霞む滲んだ視界の中で
やがて彼の瞳が映したものは――――一人の男の背中だった。

一足先に死んだとばかり思っていたダイオードが、オーガの一匹に手斧を叩き込んでいる光景。

/ ゚、。 /「―――ふぅッ!!」

ノシ`i゚ 益゚i以「アギャッバッ……」

”ド シュッ”

片腕を失い、その痛みからかダイオードの前に頭を垂れた一匹のオーガの首が、舞う。

(=;ω;)「――――え?」

ノシ`i 益 i以「アガ……パ……グ―――」

752名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 13:36:37 ID:PiH4YMwA0

地面へと転がる”それ”を思わず目で追ってしまった先で、視線が合った。
何かを言いたげに二、三度だけ口をぱくぱくと動かしていたが、それきり言葉を失う。

言葉を発せなくなったのはそのオーガだけではなく、自分自身もだった。
それが現実味の薄い光景である事は、彼もまた冒険者であったからこそだろう。

そこらの大男より一回り以上も大きな身の丈のダイオードをして、オーガというのは
さらにその頭二つ分程も大きさの離れた、”巨人”と評するのが妥当な化け物だ。

戦うならば3人から5人、いつだったか誰かにそう教えられた様な気もするが、
今の自分ならばきっと迷わず”出くわしたら逃げろ”と、そう後続へ伝えるだろう。

/ 、 /「……フゥゥ……」

だが見上げた先ではそんな化け物が首を失って、まるで許しを乞うかのように
たった一人の男の前に両膝を突いては、地面に崩れ落ちていくのだ。

”常人”である彼にとっては、そんな光景に現実味などある訳がなかった。

753名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 13:37:52 ID:PiH4YMwA0

ノシ`i゚ 益゚i以「――――パガオッ!」

/ ゚、。 /「………」

背で叫んだ一匹が、勢い良くダイオードへと跳びかかる。

人間ではないのだ。
感情の無い人鬼達は、たかが同族の一匹や二匹殺された程度で怯まない。

”バシンッ”

ノシ`i゚ 益゚i以「ズングバッ!?」

だが、それにはオーガ自身とて驚いた事だろう。

自分たちに比べれば遥かにひ弱な草食動物のような人間一人が、
片方の腕一本だけで、自分の拳を受け止めているのだから。

/ ゚、。 /「………」

(;=゚ω゚)「ば………」

754名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 13:39:44 ID:PiH4YMwA0

ノシ`i;゚ 益゚i以「アッ、アガゥッ!バドゥッ」

ギリギリと、耳に聞こえる程の音を立てながら、ダイオードの指は大きな拳へめり込む。
更にはそれを引き寄せながら、右手に掴む手斧の柄を握り締める力をより強めた。

痛みを訴えるその叫び声は、振り下ろされた手斧によって頭蓋ごと断ち切られる。

”ごしゃッ”

「パオ、ナップッ」

(;=゚ω゚)「―――うッぷッ」

ビクビクと痙攣するオーガの身体を、その頭部から流れだした中身の一部分や
多量の血液が噴き出しては伝い落ちていく。無論それはダイオード自身にも跳ね返り、
彼の鉄の仮面や全身を赤く血で染めていき―――思わず、それに吐き気を催した。

755名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 13:42:17 ID:PiH4YMwA0

ノシ`i゚ 益゚i以「シィゴァッ!」

そこへ、一匹を仕留めたばかりのダイオードの意を衝いて、側方から棍棒が薙振るわれる。

”ドゴッ”

/ ゚、。 /「―――ヴッフ……!」

(;=゚ω゚)「あ、あぁッ……!」

見ている側が悲痛な声を上げてしまう程に、痛ましい光景だった。

脇腹を殴りつけられた衝撃は凄まじく、直後にダイオードは仮面の内側で血を吹いた。
並の人間であれば一撃で骨がへし折られ、柳のように吹き飛ばされているだろう。

しかし続け様に棍棒が頭に振り下ろされる間際、彼はくの字に折れた身体を起き上がらせると、
愉悦に歪んでいた醜悪なその顔に向けて、左の拳を閃光の如く叩き込む。

/ ゚、。 /「フゥッ――――!」

756名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 13:43:31 ID:PiH4YMwA0

”パンッ”

ノシ`i# 益゚i以「……プッ、ガァッ!」

二回りも小さな存在に、まさか素手だけで仰け反らされるとは人鬼とて夢にも思わないだろう。
自身の鼻っ柱を貫かれた衝撃に驚き、一瞬目をぱちくりとさせた所に、もう一発叩き込まれた。

”どすッ”

今度は、振り上げられた右脚のつま先だった。
それが人鬼の左脇腹へ突き刺さるようにして、深々と食い込む。

ノシ`i; 益 i以「ギョボェッ!」

胃液だか体液だか解らぬようなものを吐き散らかしながら、片膝を突くオーガ。
その首を狙いすまして、さして切れ味の良くないなまくらの手斧が、横側から叩き込まれた。

/ ゚、。 /「――――ぬぅぅッ!」

757名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 13:45:26 ID:PiH4YMwA0

”ぞぶり”と、筋繊維や骨を断裂させながら押し入った刃は、そのまま腕力だけで
強引に振るわれると、皮膚の薄皮や肉の一部を残したまま反対側へと振り切られる。

千切れ落ちた自らの頭部を抱きかかえるようにしながら、そうして三匹目も地面へと倒れ伏した。

(;=゚ω゚)(な……なん、なんだよぅ……!?)

/ ゚、。 /「…………フゥ…………フゥ………」

”この男は人間じゃない。人の姿をした、鬼そのもの――――”
自分の中での常識の埒外にあるその血塗れの男の戦い振りに、その息遣いに戦慄していた。

そして、彼が字される――――その異名を思い出す。

(;=゚ω゚)(鉄面の――――”死神”)

またたく間に三匹ものオーガを屠った男に対しての、純粋なる畏敬が生まれた。

758名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 13:46:20 ID:PiH4YMwA0

自分は恐怖に怯えるだけしか出来ず、訪れる死の足音を待つだけだった。
しかしこの男はその只中に身を置きながらも、微塵も怯まず死に立ち向かうのだ。
彼もまた、このオーガ達同様に人としての感情が無いのかも知れないとさえ思える程に。

耐える肉体、萎えぬ闘志、そして抗う様は―――――男の目には”狂戦士”として映った。

ノシ`i゚ 益゚i以「……アグリッパ」

もしかすると、上手くいけば。
どこかで包囲に穴が開いて、まだ生き延びられるチャンスがあるかも知れない。

(;=゚ω゚)「……何だよぅ?」

だがそこで、二人を取り巻くオーガ達の雰囲気が変わった。
何事かを小声でささやきあいながら、互いに目配せを送っているようだった。

ノシ`i゚ 益゚i以「テケレッパッ!デベロッパッ!」

759名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 13:48:42 ID:PiH4YMwA0

/ ゚、。 /「………!」

どうやら―――この男が普通とは少し違うのだと、人鬼達は学習したようだ。
普段は群れとしての習性など持たないオーガだが、目の前で同族が立て続けに殺される
光景を見せられては、警戒して当たらなければならない存在だとして認識したのだろう。

雰囲気からそれを察知したダイオードは背後へ、それから側方へと視線を巡らせる。

神経を張り巡らせながら、オーガ達の接近を迎え撃つ構えを見せていたが、、
にじり寄るようにして少しずつ包囲の輪を狭められて行く中では、彼が出来る事は
飛び出して来る一体ずつを叩く、その瞬間にのみ備えて待つ事だけだった。

しかしそこには、同時に多方向から飛びかかられて、一瞬で挽肉にされる未来が待ち受けている。

(;=゚ω゚)「あ、あァッ……駄目だ、やっぱり駄目だよぅッ……!」

ノシ`i゚ 益゚i以「グシシッ!……ヘルパッ!」

760名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 13:50:13 ID:PiH4YMwA0

(;=゚ω゚)「ひっ!?」

赤子の様な声を上げながら、もはや男はダイオードの足元にしがみついていた。

ノシ`i゚ 益゚i以「テグシッ、ガルパァッ!グハハハッ!」

/ ゚、。 /「ッ………!」

少しずつ迫り来るオーガの群れは、それぞれに様々な表情を覗かせた。
時折こちらへ踏み出す様な素振りを見せては、その都度そちらへ振り向くダイオードや
うめき声を漏らす男の様子に、次々と下卑た笑い声を上げて悦んでいる。

人間さながらに、人鬼達は狩りを楽しんでいるのだ。
獲物を甚振りながら追い込む事、それを愉悦と感じるのは人間特有の感情だ。

その醜い部分を現したような化け物達の輪の中心で、男は生涯最後の一瞬を待ちわびる。

761名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 13:51:30 ID:PiH4YMwA0

(;= ω )「せめて―――せめて、一瞬で楽にしてくれよぅ……!」

血にぬめった手元を拭っては、再びしっかりと手斧の柄を握り締める。
押し寄せる絶望の影達を映しながらも、それでもダイオードの瞳は違うものを視ていた。

/ ゚、。 /「………まだだ」

この先にあるのだ――――自分が迎えるべき”死”は。

どれほどの死地に落とし込まれても、それに耐えてこれたのはこの感覚ゆえ。
死に場所を望みながらも、皮肉にもそれが縁遠くなっていく程に鍛え上げられた。
抜け殻のような人格を捨ておいて、肉体だけが彷徨い、一人歩く。

”ザンッ”

762名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 13:52:36 ID:PiH4YMwA0

/ ゚、。 /「そう――――」

ある時から、こう考えるようになっていた。
神か、あるいは悪魔が奪い去って行った、最愛なる二つの命。

それらが失われた事には、果たして意味があったのだろうかと。

”ズシュッ”

それを追った自分が死のうとも、そこに意味があるのだろうか。
最愛の女性から願い託された生を裏切ってまで、苦しみから逃れた先に。

自分一人だけの命ならば、とうに捨て去ってしまっていただろう。

だが、そうして楽な方へと逃げてしまえば――――
自分を置いて行ってしまった二人の生命が永遠に失われた、その意味までが
無くなってしまうのではないかと、それをこそ恐れるようになったのだ。

763名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 13:54:03 ID:PiH4YMwA0

だからこそ、こんな場所では未だ死なない。
自らが死ぬ事に、許しを与えてはならない。

”ドスッ”

/ ゚、。 /「やはり―――此処ではない」

(;=゚ω゚)「!?」

ダイオードの声に、男は思わず頭を上げた。
未だ訪れない痛みに耐えかねた所で、この場に起きた異変を察知したのだ。

呆気に取られるような眼前の光景に、二人を取り囲んでいたオーガ達全員の
視線がそちらの方向へと向けられ、明らかにそれらの様子は浮き足立っていた。

”ぞぶッ”

ノシ`i;゚ 益゚i以「……イグ、ギア……!」

764名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 13:55:00 ID:PiH4YMwA0

ダイオードの目の前に立っていた一匹の喉元から突き出された、鋭利な鉄塊。
それが引き抜かれると同時にオーガは倒れ、やがて剣の主は姿を現した。

その瞳には、まるで生命の原動力を感じさせるような、燃え盛る紅蓮の色を宿して。
  _
( ゚∀゚)「お前、ダイオードか?」

/ ゚、。 /「………お前は」
  _
( ゚∀゚)「話には聞いてんだろ―――ヴィップから来た、ジョルジュってんだ」

/ ゚、。 /「そう、か」
  _
( ゚∀゚)「まぁ縁あって馳せ参じたってなとこだ。どうやら……宴も酣みてぇだな?」

765名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 13:56:58 ID:PiH4YMwA0

大仰な剣を担いだジョルジュが階層状の広間を見上げた先には、未だ多くの瞳が爛々と輝く。
オーガの群々の視線が一斉に彼へと注がれ、新たな獲物を認めた人鬼は再び警戒を強めた。

その鬼達の棲まう領域の空気が、ギコには一際重く沈んだものに感じられた。

( ,;゚Д゚)「おい!自己紹介なんてしてる場合かよ!さっさとずらかろうぜ!」
  _
( ゚∀゚)「……そういう訳だ、とっとと来い」

既に二匹のオーガを斬り倒し、ダイオード達を囲む包囲の一部分は破られていた。
出口までの道が切り開かれた今ならば、駆け出して脱出する事が出来る。

/ ゚、。 /「………!」

ジョルジュらに促されるままに一歩を踏み出したダイオードだったが、
足元で衣服を引っ張られるような感覚を覚えて、視線を地面へと向けた。

そこには、必死な形相を浮かべてダイオードの足首を掴む、無様な態勢の男の姿があった。

(=;ω;)「ま、待って………腰が抜けて、立てないんだよぅ……!」

766名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 13:58:30 ID:PiH4YMwA0

/ ゚、。 /「………」

一瞬の戸惑いを見せたダイオードに向けて、ジョルジュは叫ぶ。
  _
( ゚∀゚)「放っとけ!そいつは、おめぇをここでオーガ共の餌にしようとしたんだろうが」

( ,;゚Д゚)「ジョルジュ、そりゃあ……!」

(=;ω;)「!?……お願いだ、お願いだよぅ!し、死にたくねぇよぅッ」

/ ゚、。 /「………」

振り払われまいと必死で脚にしがみつく、自分をこの場におびき寄せた男。
腕を解かせてこの場に捨て去るのはダイオードには容易だったが、その処遇を決めかねていた。
  _
( ゚∀゚)「早く―――」

767名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 13:59:20 ID:PiH4YMwA0

ノシ`i゚ 益゚i以「……グアラッパォッ、グアラッパォ!」

促すジョルジュをよそに、一匹の合図を機に、再び彼らを阻む包囲が動き出した。

後方から背を狙って飛び出したオーガの攻撃に、足元に荷物を抱えたままの
ダイオードは辛くも手斧を振るう事で、その棍棒の一振りを弾き返して難を逃れる。

/ ゚、。 /「………」

(=;ω;)「あ、あぅぅぅ……っ」

ノシ`i゚ 益゚i以「グ、ルゥウ」

しかしその幸運も、絡みつく男の腕を振りほどかない事にはそう長く続かない。

そればかりか、ダイオードが前のめりに態勢を崩したその隙を逃さず、オーガは彼らを押し包む。

768名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 14:06:08 ID:PiH4YMwA0

再びダイオード達の退路が閉ざされていこうとした、その時だった。

( ,;-Д-)「………畜生」
  _
( ゚∀゚)「―――おい」

「お前、まさか」
覚悟を決めて恐怖を押し殺そうとするかのようなギコの表情に、ジョルジュは何かを悟る。
それに掛けようとした言葉は間に合わず、次の瞬間にはギコの背を見送る事になった。

( ,;゚Д゚)「う―――おらぁぁッ!」

「馬鹿野郎!!」と叫ぶジョルジュの声が、真っ白な頭の中に響く。

775名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 04:07:02 ID:e/DmWKX20

圧倒的に体格差のある化け物の群れの中を、剣を出鱈目に振り回しながら突っ切って行く。
闇雲な攻撃など一時凌ぎにしかならないが、僅かでも道を切り拓ければそれで十分だった。


ノシ`i゚ 益゚i以「ダンガパ!?」

( ,;゚Д゚)「―――ッハ」


この馬鹿でかい図体に捕まれば、あっさりと捻り殺されるだろう。
考えたくもない光景を脳裏から置き去り、駆けながら夢中で剣を横へ薙いだ。

自分の背中に受ける多数のオーガ達の視線に怖気の来る思いをしながらも、
それら一切を無視してかき分けるように、ただ一直線に彼らの元を目指す。

後先の事を考えてしまっては、勢いだけのこの度胸を絞り出すのは不可能だったろう。

低く身を屈めながらの姿勢で1匹、2匹とかわしたが、そこで
ダイオードら二人の前に立つ一匹がギコの迫る様子に気づいたか、振り返る。

構うものか―――そう考えていたギコの全身を突如、浮遊感が包んだ。

776名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 04:10:04 ID:e/DmWKX20

( ,;゚Д゚)(――――うお……!?)


足場の悪さが完全に意識から抜けてしまっていたのだ。
運悪く拳ほどの岩につま先を引っ掛けてつんのめり、勢いを失う。

膝を突いてすぐに視線を上げた先には、頭を覆う程の巨大な手の平が迫る。


ノシ`i゚ 益゚i以「ディゴアァッ!!」

( ,;゚Д゚)「……ッ!」

ノシ`i゚ 益゚i以「ガルパッ!」


ダイオード達に向いていた注意の半数は、その場へと急ぐギコに注がれる。
更に1匹、2匹と近づいてくる影を視認すると、次に取るべき行動がすっぽりと頭から抜け落ちた。
忘我―――ギコの頭の中は白く塗りたくられ、数秒の間をまるで、彫像のように固まっていた。

すぐに剣を構えて、自分の身を守る事すら忘れるほど。

”どうする―――ここから?”

777名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 04:12:01 ID:e/DmWKX20

確実に冷静さを欠いた思考を引き戻したのは、聴き馴染みのある声だった。


「頭ぁ下げてろ」

ノシ`i;゚ 益゚i以「グ、ゴブルッ」

”ズドッ”


無数のオーガ達の視線が注がれる中で、ギコの意識はその声に手繰り寄せられた。
見れば、頭上ではジョルジュが片腕で放った刺突が、立ち塞がるオーガの喉を抉っている。

  _
(;゚∀゚)「勝手に飛び出してこのザマ……ったく、尻拭いする身にもなりやがれ」

( ,;゚Д゚)「―――ジョルッ」
  _
(#゚∀゚)「一度に相手出来る数じゃねぇ、続けぇッ!」

( ,;゚Д゚)「お、おぉよッ!」

ノシ`i゚ 益゚i以「……グォパァッ!」


問答を交わす暇もなく、二の句も告げさせないジョルジュの気迫に
圧されながらも、ギコは敵地へと切り込んでいく彼の背だけを追った。

778名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 04:13:12 ID:e/DmWKX20

獲物に群がるオーガ達のかいなを剣で振り払いながら、臆する事なく前へと踏み出す。
包囲を突き破り、やがて拓けた視界の先では、血塗れの大男の姿が飛び込んで来た。

その彼の足元で小さく震える男は、完全に腰が抜けているようだった。
無我夢中のままに腕を差し伸べると、肩を担ぐようにして立ち上がらせる。


( ,;゚Д゚)「早くッ、立ちやがれッ!」

(;=゚ω゚)「あ、脚が」

( ,#゚Д゚)「やる気あんのかオイッ!死んじまうぞッ!」


震える足腰と、唇までも真っ青に染まる男の表情。
ギコ自身もまた、その脅威と間近に対面してみて無理からぬ事だと思えた。


ノシ`i゚ 益゚i以「……グッグッグッ……」


”捕食者”に取り囲まれてしまっている窮地に、背筋をすぅ、と悪寒が走り抜けていく。

醜く、悪意に満ちた表情をした人鬼達の巨体は、ギコ達の前を大きな影で覆った。
それらに相対する意思と反して、膝は微かな震えにつかれていた。

獲物を前に舌なめずりする一匹と、目が合う。

779名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 04:14:03 ID:e/DmWKX20

ノシ`i゚ 益゚i以

( ,;゚Д゚)(……でけぇ)

/ ゚、。 /「………」

(;=゚ω゚)「た、助けてくれよぅッ」


オーガ達の返り血に塗れたダイオードの対角上。背中合わせになるようにして、
ジョルジュは反対側の一団へと注意を払い、にじり寄るオーガの動きを観察していた。

  _
( ゚∀゚)「野郎を一人を抱えて、ここを抜け出るつもりか?」

( ,;゚Д゚)「放っとく訳にはいかねぇだろ」
  _
( -∀-)「そいつを餌にすりゃあ、より安全に助かるかもな」

(;=゚ω゚)「そそ、そんなッ!」

( ,;゚Д゚)「何言ってんだよ、バカッ!」
  _
( ゚∀゚)「へっ、冗談よ……茶目っ気たっぷりのな」


半分は本気なのかも知れない、と思えた。

780名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 04:14:46 ID:e/DmWKX20

男の身体を重く引きずるようにして、この場からの離脱を目論んでいた。
だが目の前には、黒い山脈の様にそびえ立ち並ぶ、牙を生やした巨人の群れ。

無傷での脱出は、不可能かも知れない。


ノシ`i゚ 益゚i以「グフ、グフッ」

( ,;゚Д゚)(隙間が、ねぇ――)
  _
( ゚∀゚)「……ちっ」


軽口を叩くジョルジュの横顔から覗く瞳が、何より彼の口ほどに物を言っていた。

刺し貫くような視線でオーガ達の隙を伺う表情は、戦地に置かれた傭兵のよう。
それほどに困難な状況であるのだと、伝わってくる。

外界へと続く縦穴とは、さして距離も無い。
だがそれを途方もなく隔てるのは、人鬼達の壁だ。

先ほどのような突破を敢行して再び成功させるのは、薄氷の上を踏み渡るように困難。

必死でこの場の全員が生き延びる方法を模索しようにも、
少なくとも全員が無事に逃げ切れるような方法などは見当たらない。

表情にまで現れたギコの焦りを見抜いたかのように、オーガの群れはやがて動き出した。

781名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 04:15:58 ID:e/DmWKX20


(;=゚ω゚)「うッ、後ろだよぅッ!」

( ,;゚Д゚)「!?」

ノシ`i゚ 益゚i以「―――グァック……クアラルンッ!」


男を担いで無防備な状態のギコの背後へ接近した一匹が、輪の中から襲いかかる。


/ ゚、。 /「ぬぅぅッ!!」

”ドバッ”


だが、それにはダイオードが即座に対処した。
腰の捻りを効かせた打撃が真横に振るわれると、
叩き潰すようにしてこめかみから上を吹き飛ばす。


ノシ`i; 益 ;i以「ンバッ―――」


更に息つく間も無く背後に立った一匹が、ダイオードへ棍棒を振り上げた直後、
振り向きざまに強烈な前蹴りを腹に浴びせてやると、そのまま輪の外側へまで押しやった。

782名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 04:16:57 ID:e/DmWKX20

後ろの男は、自分などに比べて遥かに馬鹿強い。背中を任せる事が出来そうだった。
しかしそれだけでは、男を担いだ状態で包囲の輪を内側から突破するのには際どい。


( ,;゚Д゚)「畜生!退けッ、退きやがれッ!」

ノシ`i゚ 益゚i以「グルゥ―――」

( ,;゚Д゚)「くッ……降りろ!」


当たり散らすように怒鳴りつけた所で、人鬼にはたじろぐ様子など微塵もある訳がない。
ならば、と―――ギコは肩を貸す男を地面へと下ろして、背から自らの刀剣を抜き出す。


(;=゚ω゚)「や、やる気かよぅ……無理だよぅ!?」

( ,;゚Д゚)「うるせぇ! 四の五の抜かしてねぇで、そろそろ自分で立ちやがれッ!」

(;=゚ω゚)「う……で、でも、脚が震えて……!」

( ,;゚Д゚)「何とか、出口まで切り開くからよ―――おいアンタ! 後ろは任せたぜッ」


殺意が、四方八方から降り注がれる。

783名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 04:17:48 ID:e/DmWKX20

片時の隙も見せられない状況の中、背中にはまだダイオードの呼吸や、
彼が振るった斧がオーガの肉体を断ち割る音が響く事から、彼の安否が伝わっていた。

ギコが言葉を投げかけた相手は、仮面の奥で低くくぐもった声で呟く。


/ ゚、。 /「……出来るか、それが」

( ,;゚Д゚)「わかんねぇよッ、やるだけだッ!」
  _
( ゚∀゚)「チッ、面倒な数だぜ」


背を守る男の呟きに、息を切らせながら叫んだ。
そのダイオードが戦闘不能に陥った時は、前後から同時に襲い掛かられて仲良く死ぬだけだ。

身の丈ほどの剣を手に、静かに様子を伺うジョルジュの傍らで、
ギコは自身の呼吸を整えるのに必死だった。


( ,;゚Д゚)「フゥッ……フゥッ……」


亡き父がこしらえてくれた一振りの刀剣に、自分や誰かの命が委ねられる。
暗殺者の一団に追われた時でさえ、相手を斬る事への覚悟は出来ていなかった。

だが、力のみが生死を分かつ状況にこうして置かれてみて、初めて感じた。
命を託した時の、剣の重みというものを。

784名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 04:18:33 ID:e/DmWKX20

化け物なら、人間と違って斬り殺すのにも躊躇はない。
しかし、それができた所で切り抜けられる状況とは、思い難かった。

少しずつ暗い思考に呑まれそうになっていた時―――やがて、人鬼達が静寂を破る。


ノシ`i゚ 益゚i以「……クォパオォォォォッ!!」
  _
( ゚∀゚)「……ッ!」


突如、一匹のオーガが奇妙な吠え声を上げた。
広々と吹き抜ける洞穴の天井を仰ぐようにして、両手を広げながら。
その叫びに同調した何匹かが、それと同じように耳障りな声色で、続く。


(……クォパオォォォーーーッ……)


不気味に洞窟内を木霊するオーガ達の奇声。
だがある時を境に、再び静寂が広間を満たしていった。


ノシ`i゚ 益゚i以「ググッ……グフッ」

( ,;゚Д゚)(何だ……急に、奴らが退いていく……?)

785名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 04:19:52 ID:e/DmWKX20


ギコらを取り囲むオーガらの足が、波が引くようにして少しだけ離れていく。

”まさか、諦めた?”
一瞬浮かんだ馬鹿な考えをすぐさま振り払いつつ、すぐに次の瞬間へと備えた。

つかの間の静けさこそが、ただ恐ろしかった。
その反動に訪れるであろう、嵐が予感できたからだ。


(……グォッラル、ハランバッ!)
  _
(;゚∀゚)(野郎、まさか……)

(=;゚ω゚)「あ、あそこだよぅッ!」


どこで聞こえた声かはすぐに解った。
どのオーガ達も見上げているのだ、上を。

暗がりに目も慣れて来ていた今は、はっきりと見える。
上部へと吹き抜けているこの広間の作りは、螺旋状に上層へと上がれる道が出来ているのだ。
恐らくその最も高所と思しき場所に、馬鹿でかい大岩が姿を覗かせていた。


(……アリンバッ!)

( ,;゚Д゚)「こっちに、落とす気かッ!」

786名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 04:20:38 ID:e/DmWKX20

ぱらぱらと降り注ぐ小石や土埃。
オーガの一匹がその岩を動かしている。

大岩の位置と現状を比較して、その意図をいち早く正確に
察することが出来たのは、ジョルジュとダイオードだった。

  _
(;゚∀゚)「いや……」

/ ゚、。 /「もっと、悪い」


”ズドンッッ”


間もなくして、けたたましい轟音を響かせながら、丸型の大岩は転げ落とされた。


(=;゚ω゚)「…あッ、あぁぁぁッ……」


間を置いて、巻き上がった土煙に閉ざされた視界が晴れた後、無情な現実が姿を現す。
やがて、身を刻まれたかのように切なく声を振り絞った男の膝が、再び地面へ崩れる。

大岩の落下点は、自分たちの頭上などではなかった。

788名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 04:22:50 ID:e/DmWKX20

遥か上層から落とされた岩は、ギコ達が侵入してきた経路である縦穴に、
すっぽりとはまりこむようにして、完全に道先を塞いでしまっていたのだ。
現時点で唯一だった外界へ繋がる通路との分岐点である、よもやその場所へと。

たとえオーガの群れを掻き分けてそこへたどり着いたとしても、
生身の人間の力だけで退かせるような大きさではない。

それをしている内に、袋叩きにあって殺されるのは想像に易かった。


ノシ`i゚ 益゚i以「グォハオッ、グァパゥル!」

( ,; Д )


言葉一つも捻り出せない、絶句であった。
心の中に染みだした絶望が、ひたひたと近づいてくる死の恐怖を痛感させる。

虚勢を張るような気力も、もはやない。
勝鬨を上げるかのように咆哮する人鬼の群れの前に、闘志は急速にしぼんでいく。
ギコの表情ももはや、細く生を哀願するだけの男のものとほとんど変わりはなかった。


ノシ`i゚ 益゚i以「グハハハハァッ!」


ただでかいだけの化け物ではなく、獲物を逃さないための狩りの方法も心得ていたのか。
決して過小評価していた訳でもない、とはいえ、完全に不意を突かれる出来事だった。

そうして、じっくりと閉じ込めた獲物を追い込み、狩りを楽しむのだろう。

789名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 04:26:48 ID:e/DmWKX20


(=; ω )「ひゃあぁッ! おしまいだ、もうおしまいだよぅッ!」

( ,;゚Д゚)「……く、っそッ……」


引いた人鬼達の波は、一様に不気味な笑みを貼り付けて、再び四人のもとへと押し寄せる。
こちらの逃げ道を絶った事で完全な優位に立った事から、獲物が絶望していく様への愉悦か。

自分の命が彼方の川へと流されていくような、抗いがたい無力感が上からのしかかる。

その緊張感に耐えかねたギコもまた、諦めを口にした男と同様に
この場で己の身を大の字に投げ出してしまいたいとさえ思っていた。

そこで―――不意に、ジョルジュが沈黙を破る。

  _
( ゚∀゚)「おい大将―――つかぬ事を聞くがよ……お前さん、何匹いける?」

/ ゚、。 /「………」


正面から決して視線を逸らさぬまま、ダイオードに問いかける。
少しだけ興奮を押し殺しているようではあったが、いつも通りの声色で。

ジョルジュはこの時、諦念を抱くギコ達とは程遠い場所を視ていたのかも知れない。
まだ何も終わってなどいない、そう告げるように、朱の瞳の奥では炎を揺らめかせて。

790名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 04:28:01 ID:e/DmWKX20

  _
( ゚∀゚)「この数……上にいる奴らも合わせればざっと50は下らねぇ」

/ ゚、。 /「……それが」
  _
( ゚∀゚)「俺は、20までなら確実に殺れる―――だがそれ以上は駄目だ。
     刀身がクソどもの油でヌメっちまって、なまくら以下よ」

( ,;゚Д゚)「ジョ――」

/ ゚、。 /「……ハッ」


この状況で、彼は諦めてなどいなかった。
いや、ジョルジュだけではない。

背を向けたままのダイオードが、地面へ”ぶん”、と手斧を薙振るって応えた。


/ ゚、。 /「”30”か―――それしか残らないのは、残念だが」
  _
( -∀-)「へッ、言うねぇ」

/ ゚、。 /「40でも、50でも、構わん」

791名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 04:29:27 ID:e/DmWKX20

ダイオードもまた、恐らくは彼と同様にやり合うつもりなのだ。
この、退路を絶たれた孤立無援の状況で。

個としての性能差に加え、圧倒的な数的劣勢に立たされながら、
まだそこから生を拾おうと、それだけを考えているのだろう。

  _
( ゚∀゚)「あまりに頼もし過ぎて、涙が出てくらぁ……」

( ,;゚Д゚)(こいつら……)


挫けかけていた心や、この場を満たした絶望を叩き折る。
そう主張せんばかりに力強い彼らの言葉は、さながら小さな松明だった。
それでも、ギコのちっぽけな勇気を再び奮い立たせるのには、十分な明るさの。

  _
(#゚∀゚)「―――なぁッ!」

以`i゚ 益゚i以「!?」

”ザンッ”


その一言が、開戦の狼煙。

もはや獲物は萎縮しているものだと、高をくくっていたことだろう。
優越に浸る捕食者は、そのジョルジュの踏み込みへの対応に遥か遅れを取った。
咄嗟に腕を前に出して防ごうとしたが、左腕が瞬時に寸断される。

792名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 04:31:34 ID:e/DmWKX20

ノシ`i;゚ 益゚i以「オ、グァッ」


切断面から血を吹き出した腕を抱え込むようにして、一匹が膝をつく。
すかさず、おおよそ刃物とは思えない程の鈍い音が響いた。

  _
(#゚∀゚)「ふッ!」

”どごっ”


肩に駆け上がり、下段から円弧を描いた振り上げは、顎から脳天にかけてを易々断ち割る。
飛び散った脳漿や返り血を浴びながら、すぐさま円陣の中央へまで飛び退いた。

一連の鮮やかな瞬殺劇に見入っていたギコは、一瞬我を忘れていた。

( ,;゚Д゚)(すげぇ―――!)


”底が知れない”
ギコにそう評価されていたジョルジュは、更に奥底に隠された自身の力の片鱗を見せつける。

冒険の中で鍛えぬかれたであろう技も力も―――凡百のそれではない。
窮地においても曲がらずして折れぬ精神力は、まるで彼が手にする肉厚の大剣と同じようだった。

793名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 04:33:01 ID:e/DmWKX20


/ ゚、。 /「ふッ!」

ノシ`i;゚ 益;,以「ブッ……!」


ジョルジュの対角上、輪を抜けだして来たオーガの顎をダイオードの手斧がぶち抜く。
だが昂った鬼の闘争本能は、致命傷を外せば簡単には動きを止めなかった。

顎の一部であった肉を顔の下にぶら下げたまま、ろくに視点も見定めないままに
異音とも雄叫びともつかぬ吠え声をあげ、かいなを振り上げた。

ノシ`i;゚ 益;,以「ブ……ギ、グシュルュァッ!」

”ゴッ”

人間からすれば丸太のような棍棒で見舞った反撃が、ダイオードの脇腹を捉える。

鍛えぬかれた冒険者であろうと、枯葉のように吹き飛ばされるであろう一撃。
骨ぐらいは折れているかも知れない、そんな大振りをまともに喰らったのだ。

だが、倒れるどころか――――その場から一歩も動いてはいない。


/ ゚、。 /「………ぶふッ」


ただ、衝撃に全身を揺るがされたダイオードは、仮面の奥で短く呻く。
ささくれだった雑な仕上げの棍棒は、胸当て以外はほぼ剥き身の彼の地肌を裂き、
ぱた、ぱたと地面に血の雫をいくつか滴らせた。


( ,;゚Д゚)「だ……ッ!」

794名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 04:34:20 ID:e/DmWKX20


叫びながら助力へ走ろうとしたギコの前に、続けて目を疑うような光景が映し出される。
相手と同じように手斧を振り上げたダイオードは、負けず劣らずの咆哮を上げた。


/ ゚、。 /「ゴォ―――オオォォォォーーーッ!!」

”グシュッ”

ノシ`i; 益;,以「……ニッ、グ」


身に受けた棍棒を脇で挟み込み引き寄せると、手にした斧でオーガの首筋を深く穿つ。
傷口は胸元までに達し、いかな屈強の妖魔といえども今度は反撃の余力も与えなかった。

肩越しにその光景を見ていたジョルジュが、にやりと笑う。

  _
(;゚∀゚)「……おいおい。どっちがオーガなんだか……」

”ガンッ”


言いながら、振るわれた棍棒の一撃を、広刃の側面を盾に受けていた。
打撃の勢いに逆らわず、そのまま後方へと飛びながら威力を逃す。
続けて左右から伸ばされた腕を掻い潜りながら、ジョルジュもまた気迫を口にした。

  _
(#゚∀゚)「……負けてらんねぇなぁッ!」

795名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 04:36:21 ID:e/DmWKX20

”ズドッ”

ノシ`i;゚ 益゚i以「グヴォェッ」


返す刀で、腕ごと伸ばした大剣と共に懐へ飛び込むと、胸板を貫いた。

倍は近い体躯の数体を、素早い身のこなしで翻弄しながら、
時折伸ばしてきた腕を狙いすますようにして、それらを斬り落とす。


( ,;゚Д゚)「どうする、ジョルジュッ!」


オーガ達の足並みが乱れ、崩れた輪の中から数匹もが群がってくる。

完全なる戦闘状態。無数の敵の檻の中では、勝利となる条件は見当たらない。
だが、自分たちの生存がそれであるとするならば、これからやるべきことは
考えたくもない事だと、ギコ自身も気づいてはいた。

  _
(#゚∀゚)「やるしかねぇだろうが! 50だろうが100だろうがッ」

( ,;゚Д゚)「やっぱ、それしかねぇのかよぉ!」
  _
(#゚∀゚)「死にてぇならそこで突っ立ってていいんだぜ!」

796名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 04:37:29 ID:e/DmWKX20

( ,;゚Д゚)「な、ワケ―――」

言いかけて、ギコは目の前に落ちた影に気づいた。
そこで複数のオーガが背後に接近しているのを感じ取り、すぐさま前方へと飛び退く。


( ,; Д )「……ッ!!」

”ぶんッ”


少し遅れて、豪音と共に風が髪を揺らした。
転がり込んだ先で視線を向けると、人の顔ほどもある拳を突き出していたオーガの姿。


ノシ`i゚ 益゚i以「グヌゥ、バドゥ」

( ,;゚Д゚)「うっ……おぁぁぁッ!」


無我夢中ででたらめに剣を振るうも、さして脅威を与えるに至らず、
数歩下がった三匹の内の一匹に、それは苦も無く避けられた。

ギコの背中に、遠巻きからジョルジュの怒号が響く。

  _
(#゚∀゚)「そのお飾りみてぇな剣を有意義に使いやがれッ!
     最後の最期まで命張る度胸がねぇ野郎なんざ、あの世に行っても笑い草だぜ!」

797名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 04:38:24 ID:e/DmWKX20

( ,;゚Д゚)「くっ………」


さらに横から、衣服の端を掴もうと腕が伸びる。
辛くも身を捩って逃れながら、また夢中で剣を振るった。

”ぐっ”

が、それを振り切った後にギコは凍りつく。
実際に、突如として得物に大きな負荷が加えられ、動かす事が出来なかった。
見れば、速力を失った刀身の先端部分を、上下から挟み込むようにしてオーガに捕らえられていた。


( ,;゚Д゚)「な……は、離しやがれぇッ!!」

ノシ`i゚ 益゚i以「カッランバッ!」

( ,;゚Д゚)「う、おおぉッ」


強烈な力で引き寄せられ、引っ張り返す事もままならない。
剣先に込められた力が更に強まると、視界が揺らぐほどの勢いで、
ギコの身は剣ごと地面へと引き転がされた。

投げ出される一瞬、思わず柄を握る力が緩んだ。
腹ばいの態勢から、すぐ近くの地面に転がった剣が視界の端に映る。

やがて背後に、再び大きな影が迫っていた。

798名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 04:39:05 ID:e/DmWKX20

( ,; Д )(何……つぅ馬鹿力だよ―――!)


十分に恵まれた体格である自分の身体を、手にした剣ごと容易く放り投げてみせた。
その手で無造作に握らられただけで、骨は悲鳴を上げる事だろう。

鬼の膂力に戦慄しながらも、すぐに身を翻すと、尻を地に着けながら必死に後ずさる。
だが、抵抗を強める獲物達に対して、オーガ達の目の色は変わっていた。

猪のように駆け出してきたオーガは、既にギコの目の前。
自身の首へと伸ばしされるその手を振り払う武器も、今は手の中にない。


ノシ`i゚ 益゚i以「グッグッ」

( ,;゚Д゚)(殺ら、れ――――)


”ドッ”

息遣いまでがはっきりと聞き取れる近距離にまで迫った時、ぴた、とオーガは動きを止めた。
その音と、自分の胸元を抜けだした物体の感触に、思わず視線を落としたのだった。

( ,,゚Д゚)「!?」

ノシ`i;゚ 益゚i以「……ガ、イヂッ……」

799名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 04:40:07 ID:e/DmWKX20

  _
(;゚∀゚)「おめぇを子守する余裕はねぇんだ、こちとら」

少し息を荒げたジョルジュの剣が、オーガの背中から胸へと抜け出ていた。
がく、と膝を突いた背中に足を掛けて踏みつけると、剣を勢い良く引きぬく。

背へと振り向いたオーガは、顔面を斜めに断ち割られ、そのまま倒れた。


( ,;゚Д゚)「あ―――ありがてぇッ」

ジョルジュの機転で救われた事を知ると、すぐに
後ろに転がってた剣の柄を手に取り立ち上がる。

  _
(;゚∀゚)「おめぇの剣はでけぇ。無闇やたらに振り回すんじゃねぇ、止まった所を狙われる」

ノシ`i゚ 益゚i以「グァッ!?」


息つく間も与えられず、また剣を振るう。
見れば、ジョルジュから少し離れた場所には4匹程のオーガが倒れていた。

間もなく、今しがた斬られたオーガで5匹目となったようだ。

800名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 04:41:16 ID:e/DmWKX20

  _
(;゚∀゚)「はた迷惑な話だがよ、こいつらの注意は大半が俺とアイツに向いてる」


(オオォォォ――――)

言って、顔の横で指差した方向では、ダイオードが狂ったように暴れていた。


( ,;゚Д゚)「あいつ……人間か?」
  _
(;゚∀゚)「違ぇかもな」


/ ゚、。;/


鈍色の仮面も、胸板も何もかも、身体の前面は血化粧で紅に染められていた。

鬼気そのものを纏う大男は、周囲を塞ぐ人鬼の群れに対し、ひたすらに手斧を振るい続ける。
ジョルジュ程の身の軽さは無いものの、並外れた筋肉の鎧は、常人ならば命を脅かすほどの
打撃を幾度もその身に受けながらも、真っ向から無骨な鉄の凶器でそれへと叩き返す。

血溜まりの中に立つ鉄仮面の周囲には、胴体の一部を欠損した死体が5~6匹転がっていた。

801名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 04:43:44 ID:e/DmWKX20

  _
(;゚∀゚)「あいつの事は心配いらねぇが、てめぇは自分の事をなんとかしろ。
     こっちも手一杯なん―――――………」

( ,;゚Д゚)「オイッ、後ろだッ!」
  _
(#゚∀゚)「―――でなぁッ!!」

ノシ`i;゚ 益゚i以「アバッ」


振り返りざまに浴びせかけた横斬りが、オーガの腹を切り裂いた。

臓物をはみ出させながら、なおも伸ばそうとした腕を掻い潜り、
地面すれすれの場所で再度反対側から横になぎ払う。

地を踏みしめたままのオーガの足首が一つその場に残り、飛んでいった片足を
追いかけるようにしてうつ伏せに倒れこんだところで、そいつの頭頂部に剣を突き立てた。

そうして瞬く間に6匹目を屠り終えたジョルジュの戦いぶりは、
単純な強さで言えば、恐らくはダイオードに引けを取らなかった。

あまりに場慣れした男の一挙手に目を瞠(みは)りながらも、
ギコは思わず感嘆の息を漏らす。

息を整えるジョルジュの周囲ではまだ4~5匹が様子を伺っているが、
予想を超えて猛烈な反撃を仕掛けてくる男の前に、棍棒を振りかざしたままの
オーガらは、これまでよりも明らかに強い警戒を示していた。

802名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 04:44:35 ID:e/DmWKX20

  _
(;゚∀゚)「相手の腕力はこっちよかバカ強ぇんだ、掴まれりゃ終わる。
     だが、剣がある以上……得物のリーチ差でどうにかならぁ」

( ,;゚Д゚)「けど、まだ全然ウヨウヨいやがる!これ全部なんざ……ッ」
  _
(;゚∀゚)「殺れなきゃ、そんときゃ死ぬだけよ」


今広間にいる分で、ざっと20匹ほどか。
言って見上げた先、螺旋状の合間に見える”巣穴”からは、
更に大小無数の眼光が上層からこちらへと向けられている。

合わせれば、きっと50どころでは済まない数だ。
その中にはまだ未成熟とも言える子鬼のような姿もあったが、
人間にとってはそれでも十分な脅威である事に変わりない。

  _
(;゚∀゚)「死にたくねぇなら小さく、細かく動き回れ。あのデカブツの言うことが
     単なる大言の類じゃねぇなら、生き残るのもあながち無茶じゃねぇ」

( ,;゚Д゚)「………」

  _
(;゚∀゚)「ちったぁ頭使え。多少悪くったってな、生きるためには無い知恵振り絞んだよ」

804名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 04:46:25 ID:e/DmWKX20

嵐の直中にある――――目のような男。
誰もが死を覚悟するような状況の中で、強い風を起こし、周囲の全てを吹き飛ばす。
死と隣合わせの中でこそ、その男が口にする言葉はどれもギコの胸へと響いた。

空を照らす光も、木々の間をすり抜ける風も届かない。
鬱屈とした地中の洞窟にありながらも、だが強く、風を感じていた。


ノシ`i゚ 益゚i以「グラパァオッ、アォバォッ!」

( ,;゚Д゚)「ジョルジュッ!」
  _
(#゚∀゚)「ッたく……忙しいことだぜ」


咄嗟に、ジョルジュの背を守ろうとした。
だが、左右から現れた二匹のオーガがそれを許さない。

面と向かって斬られるならば、多方向から同時に襲えばというつもりなのだろう。
ジョルジュを対象として小さな円がまばらに形作られ、じりじり包囲を狭めていく。

分断されゆく一方で、ギコはうかつに近づくことが出来ずにいた。
続々と群がるオーガの巨体に、ジョルジュの姿は覆い隠されていく光景を見届けながらも。

だが、剣を薙ぐ風切り音や呻くオーガの声に紛れて、まだそこから声だけは届いた。


(間合いを保てッ、殺ろうと思うなッ、伸ばしてくる手足を目掛けて斬りつけろッ)

805名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 04:48:07 ID:e/DmWKX20

( ,;゚Д゚)「くっ」

(棍棒で頭潰されねぇように、精々身を低くしてなッ)


取り囲まれながらも、幾度かジョルジュが言葉を発した直後に、
彼が立っているであろう辺りからは血の飛沫が舞った。

恐らく、それはジョルジュのものではないと解る。
だがつかの間の安堵に胸をなでおろしている暇は与えてもくれない。
死中に活をもたらす彼の教えを、即座に実践せねばならない時だった。


ノシ`i゚ 益゚i以「グゥ……? アッバオッ!」

( ,;゚Д゚)「化けもんと戦うのにも、学が要る時代かよ」


ジョルジュの方へと引き寄せられていた一匹が、ギコの存在に気づく。
自分の生命線となる唯一の武器を先ほどのように無効化されれば、
実戦経験に疎いギコでは即、死に繋がる。

まして、一対一であっても安々とオーガを斬り伏せられるような位置に、自分の力量は達していない。

それを自覚した上で、ジョルジュの言葉を反芻するように、つとめて冷静な自分を意識する。
威嚇の為に剣を振り、少しでも脅威を与えて怯ませたい気持ちを抑えつけた。

806名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 04:52:16 ID:e/DmWKX20

( ,;゚Д゚)(無駄撃ちはすんな、って事か。そうだ、引きつけて……!)


後ろ飛びで距離を保ちつつ、ちらりと背後を確認した時、
視界の端でいまだ孤軍奮闘するダイオードの姿が視認出来た。


”どばっ ごしゃっ”

/ ゚、。 /「―――フゥッ、フゥゥッ……!」

( ,;゚Д゚)(……かといって、あんな分かりやすい戦い方も勘弁だ)


さきほどよりも数の増えたオーガの死体は、10に達しているかも知れなかった。
毛色は違うが、ジョルジュと同類の化け物じみた手練の威容は、恐ろしくも頼もしい。
一度だけ笑みを浮かべてから、やはり、自分が心配するような男ではないと悟る。

それよりも、今の自分に出来る事をと―――――知恵を振り絞る事こそが最善。


( ,;゚Д゚)(な……あいつッ!?)

(=; ω )「ひぃぃっ、ひぃぃぃっ……!」


そこで、ダイオードの足に絡まるようにして縮こまっていた、あの男の姿が飛び込む。
頭を抱えて地面へとうつ伏せる男の周りには、3匹程のオーガが群がっている。

807名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 04:53:47 ID:e/DmWKX20

同じ場所からずっと動けず震えていただけの男は、まだ死んでいなかった。
それはダイオードやジョルジュの奮戦に、オーガ達が気を取られていたからだろう。


ノシ`i゚ 益゚i以「フゥゥ……」

(=; ω )「ひぃぃっ、ひぃぃぃぃぃーッ」

( ,;゚Д゚)「何してるッ! 立て、逃げろッ!」


男は一振り、小振りの剣を腰元に携えている。
だが、それを振るうどころか、立ち上がってオーガ達に背を向けて
脱兎の如く駆け出す勇気すら、振り絞る事も出来ないようだった。

それへと意識を逸らしていたギコが、視線を正面へ戻した瞬間、
すでに巨大な拳が目の前にあった。


”ぼっ”

( ,; Д )「~~~ッ!」

ノシ`i゚ 益゚i以「……ガアァァッ!」


狙い済ました反応ではなく、ほぼ無意識での偶然の回避行動。
横方向に倒れ込みながら身を伏せると、首筋を掠めた拳は後方にすっ飛んでいった。
当たっていたら鼻や顔の骨はへしゃげ、再び立ち上がるまでには挽肉にされていただろう。

808名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 04:57:52 ID:e/DmWKX20

( ,;゚Д゚)(ちきしょうッ!)


だが、今相手をするべきは正面の敵ではない。
地面を激しく両手で叩くと、すっ飛ぶような勢いでかわした方向へとそのまま駆け出す。


(=; ω )「ひッ!?」

ノシ`i゚ 益゚i以「ムシルムサドゥ……ハンガ、アグン!」


男は後ろから首筋をオーガに掴まれると、その手に締め上げられながら、宙に吊られる。
舌をなめずる一匹の左右からも、二匹がそれぞれ肩に手を掛け、力任せに腕を引っ張った。

罪人が磔にされるようにして宙空で足をばたつかせる男は、激痛に耐えかねて悲鳴を奏でた。
それはオーガ達にとって、この上なく愉快な音色であろう。


(=;゚ω゚)「うっぐ!? あぁッ、あがぁぁッ」

( ,#゚Д゚)「……クソ野郎がぁ!」


五体を引き裂いて、そのまま食い物にでもするつもりか。
その惨劇を阻止する事が出来るのは、今はギコたった一人だけだ。

それを知ってか知らずか、流れる景色の合間で姿を見せるオーガ達を気にも留めず、
真っ直ぐに疾駆したギコは走りながらの勢いそのままに振りかざした剣を、
そのまま隙だらけの背中を見せるオーガに向けて、背後から斜めに叩き込んだ。


( ,#゚Д゚)「うッ―――おおぉぉぉッ!」

809名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 04:59:18 ID:e/DmWKX20

”ザグンッ”

ノシ`i;゚ 益゚i以「!? アグワッ」


どれほどの手傷を負わせる事が出来るかは、ギコ自身にもわからなかった。
だがその一刀はオーガの肩甲骨を叩き割ると、恐らくは背骨に損傷を負わせ、
手の平の中に寄せた獲物を手放させる程度には、威を伴ってくれたようだった。

よろめき、すぐには反撃もままならかった一匹を捨て置く。
次に、素早く右手の一匹へと目標を変える。

体勢を崩すと、途端に男の首を手放した仲間の様子に動揺をみせた二匹の片割れ。
男の腕を引き抜こうとしてか、完全に伸びきっていたその肘は、狙い目だった。

まだギコの姿は捉えられていない。
背中に撃ち込んだオーガの身体が死角を作り、飛び込んだギコの有利へと働いたのだ。


( ,#゚Д゚)「離せ……ってんだよッ!」

”ぴしゅっ”

ノシ`i゚ 益゚i以「ヌ、グッ」


引け腰で振るわれた剣では両断までに至らなかったが、たまたま腱に近い部分を裂いた。
斬られたオーガは、自分の腕から急激に力が損なわれた事に驚きの表情を浮かべる。
ぶらん、と垂れ下がった己の腕に目を落としては、短く呻いた。

810名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 05:01:28 ID:e/DmWKX20


(=;゚ω゚)「あ、あんた!」


どくどくと血が溢れ出てくる傷口を押さえ、こちらもすぐには反撃してこない。
反対側でその光景を見ていた一匹が、傍らに転がっていた棍棒を拾っていた。
地面で身を丸くする男の身体を軽々と跨ぐと、そいつは悠然とギコへと近づいて来た。


ノシ`i゚ 益゚i以「サンダッ、アグニッ!」

( ,;゚Д゚)「うッ……あぁぁぁッ!」

”どすっ”

ノシ`i; 益メi以「……ニグ、ガ……」


鈍い音を伴って横へと払った剣は、最初に背中を斬ったオーガの顔面を抉った。
偶然ではあるが不意をついた初撃が功を奏したのだ。

ここにきて、初めて一匹を仕留める事に成功した。

だが、正面から近づく1匹と、更にすぐ隣にも1匹。
がむしゃらな恐怖心に心を掻き乱され、対処すべき優先順位を誤った。


( ,;゚Д゚)(い、いけねぇッ―――抜ッ)

”ぐんっ”

ノシ`i; 益メi以

811名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 05:02:31 ID:e/DmWKX20

既にこと切れているであろうオーガの顔面に食い込んだ刀身が、すぐには引き抜けない。
深々と顔面から頭部の中枢にまで押し入った刃が、分厚い面の骨や痙攣する筋肉に阻まれ、
動かそうにも、オーガの上半身ごと揺られながらついてくるだけ。


ノシ`i#゚ 益゚i以「ニガラグアァッ!」


赤色の攻撃色に染まった瞳。怒るオーガが、目の前で高々と棍棒を振り上げていた。
どこかでそれを見ていた冷静な自分が、”動け”と囁く。

行動して死ぬも、ぼさっと突っ立って死を受け入れるのも同じ。
それならば、たとえみっともなくともがむしゃらにあがくべきだと。


( ,#゚Д゚)「……おッらぁッ!」

”みしっ”


刃を食い込ませるオーガの頭部を、叩き込んだ蹴り足で強引に突き放す。
そこでようやく手元に掛かる負荷が消え失せ、剣が自由となった。

蹴りだした勢いそのままに、すぐさまそれを回避行動へと反転させる。
間もなく、棍棒は破片を散らせながらすぐ傍の地面に叩きつけられていた。


( ,;゚Д゚)「―――ふぅぅぅっ!」

812名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 05:05:12 ID:e/DmWKX20

ノシ`i#゚ 益゚i以「アコンカグアァァッ」

”ぶんっ”


だが、回避した先では腕の腱を裂いたオーガが、頭上で拳を固めていた。
大きな拳を頭の後ろにまで振りかぶり、真下にあるギコの顔面を撃ち貫こうとしている。

瞬きする程の猶予も無いのは、足元側で再び棍棒を振り上げるオーガの動きが
視界に入った事からも、もはや明確だった。

膝や顔面を一度に潰される最悪の光景が走馬灯の様によぎる中、ギコは一瞬の閃きに賭けた。


―――要るのは、攻防を兼ね備えた動作。それも、今すぐに。

”だんっ”

( ,; Д )「お―――あぁぁぁぁぁッ!!」


腹のあたりにあった剣を、力の限り天高く突き上げる。
同時に、両足の踵を地面に叩きつけた反動で、腰を浮かせながら膝を丸めた。

”ドッ ゴシャッ”

命が代償となる博打の連続に、それでも引き分け続ける。
夢中で突き出した剣は、ギコの顔面に拳を打ち下ろそうとしていたオーガの喉を貫いた。
ほぼ同時、もう一匹の棍棒がギコの全身に衝撃を伝搬させるほどに激しく、地面を揺らす。

813名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 05:08:47 ID:e/DmWKX20

”ぱたっ ぱたた”

ノシ`i;゚ 益゚i以

( ,;゚Д゚)「ハァッ………ハァッ……!」


全身に痛みは無い。
あるのはただ、剣の先端を伝って頬へと滴り落ちる、鮮血のおぞましい生温さだけ。
大きく開かれた瞳は、眼下のギコを真っ直ぐに見下ろしていた。


( ,# Д )「――――ッがぁッ!」


”覆いかぶさるように倒れこんでくる”
それを剣の重さから察したギコは、即座に剣を引き抜き、真横に転がってそれから脱した。

全てが、神の齎した奇跡のような状況にも感じられる。
未知の強力な妖魔にこうも囲まれながら、自分の心臓はまだ動いているという幸運に。
その運すらも―――今は生き残るための貴重な要素だ。


( ,;゚Д゚)(生きてる……生きてるなら―――)

”通じている、自分の不器用な剣が”

どんなに危うげであろうとも、二匹のオーガを屠った。
純然たるその事実が、紛れも無くギコに自信を与えてくれた。

勇気もまた、恐れず踏み出すための大きな武器となる。

814名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 05:12:00 ID:e/DmWKX20

ノシ`i゚ 益゚i以「………グヌゥッ」


そしてゆっくりと立ち上がったギコの前には、今、三匹目が立ちふさがる。

すぐには襲いかからず、少しだけ遠巻きに目を細めるオーガの様子からは、
どうやらギコを獲物ではなく”敵”だと見定めたようにも感じられた。

化け物風情に見初められた所で、嬉しくなどない。ただのありがた迷惑だが。

( ,; Д )「ペッ」


広げた自分の手の平に唾を吐きかけるのは、ちょっとしたまじないだ。
今だけは何にでも縋る―――剣とともに戦うという己の意思を、こいつで固く結びつける。

僅かばかりの自信は、生き残る道への希望を確実に見出しつつあった。


ノシ`i#゚ 益゚i以「ガオパッ!!」

( ,#゚Д゚)(まだ―――やれるッ)


乱戦に引き寄せられてか、ギコの周囲にも1匹、2匹と、影の中からオーガが姿を現す。

先手を打たせて、大振りな棍棒を辛くも避けた。
速度は並ではない、一挙手一投足に注視していなければ、頭蓋は粉々だ。


”びっ”

815名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 05:16:44 ID:e/DmWKX20

側頭部を掠めたその感触に、一度心臓を握りしめられた気がした。
だがそこで臆さず退かず、踏み込むと同時に剣ごと身体を前へと押し出した。

振りかかる鮮血の温かみが、また一秒だけ、生を実感させてくれる。


(~~~~ッ)

( ,#゚Д゚)「……!」

”ドンッ”


そこで、誰かの叫びが聞こえた気がした。
聞き取れなかったのは、周囲の音も遮断する程集中していたが故。
だが既に、肩から横腹にかけての激しい衝撃が全身が揺るがしていた。


( ,; Д )「!?―――ぐっ……が、はぁっ!」


脳を揺らされ、腹を抉りこまれるような鈍痛が襲った。
全身が宙に投げ出されたと気付いた時、次の瞬間には地を滑っていた。

”横から蹴飛ばされた”と気付くよりも先に、剣を支えに立ち上がっていた。
鋭く睨めつけた先では、影の中に潜む鬼たちの巨体が、まだ無数に蠢く。

816名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 05:19:15 ID:e/DmWKX20

( ,; Д )「こりゃキツいぜ……せめて、”10”のノルマで、勘弁しやがれ」


”それ以上は勘弁だ”

誰にも聞こえないような声で呟いて、ギコは再び踏み出す。

自ら縛りを口にする事で、自らを追い込み死力を振り絞るための、決意と固めた。
気付けば、背にはギコによって難を逃れたあの冒険者風が縋るように寄り添う。

再び集中し、一撃必死の膂力が込められたオーガ達の攻撃を回避する事に傾注しつつ、
それら動作を阻害するための動きを導き出すべく、頭を全力で回転させていた。


(=;゚ω゚)「うっ、後ろ! やばいよぅ!」

( ,#゚Д゚)「……離れんじゃねぇぞッ!状況つぶさに教えろ!」


群がるオーガ達に囲まれぬよう、弾き出されたようにその場を飛び出した。

一匹ずつしか相手には出来ない、ジョルジュやダイオードのように大立ち回りは出来ないのだ。
だから前後左右、縦横無尽に細かく動きまわっては、その都度伸ばされるオーガ達の腕から逃れる。


( ,#゚Д゚)(デカブツどもの体を盾に……死角を作りながら、細かく……!)

817名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 05:20:32 ID:e/DmWKX20

逃げまわる中で、立ちふさがるオーガの巨体を盾に他の数匹の目を眩ましては、離脱する。
時折剣を振るって牽制し、息を切らせながらも逃げ惑う。

暗い地の底に幽閉されたたった4人の人間たちは、凶暴な鬼の餌となるだけの運命だった。
今ギコの背に守られている男の言葉を借りれば、”絶望”以外にあり得ない状況。

だが今、生きている。
更に生きるために、必死に剣を振るって。

絶望を、希望へと覆すために足掻いていた。


(=;゚ω゚)(―――なんで)

( ,#゚Д゚)「ハァアッ!」

”ぴしゅんっ”


弱者は、剣を振るう男の横顔から覗く瞳の輝きに、そしてその背中に見入っていた。

冒険者として大成する事が出来そうもないまま、いい年齢を迎えた。
それなりの暮らしが出来るという理由で、虫の好かない兄貴分の元でこきつかわれて。
そいつの理不尽な命令の末に、こんな湿気た場所で自分は死ぬのだと、諦めていた男が。

振り返れば、荒々しく気勢を上げる屈強な男たちは、競い合うようにして叫んでいた。


(=;゚ω゚)(どうして――――ッ)

818名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 05:22:41 ID:e/DmWKX20

”ズバッ ドシュッ”
  _
(#;゚∀゚)「こいつで……ざっと”15”ぉッ!!」


”バゴォッ”

/ ;゚、。;/「――――”18”」


何故、戦えるのか。
どうして、そんなに強いのか。

脆弱な騎士団なら、壊滅の憂き目にも遭いかねない。
そんな悪鬼どもの巣窟の只中で、心折られず剣を振るう彼ら。

何より、他人を陥れて殺そうとするような悪事の片棒を担いだ人間を、庇いながら戦うその男。
ひたむきに剣を振るう彼は、生きようと、そして自分をも生かしてくれようとしていた。

その姿に胸を掴まれたように、こんな今際の際で―――熱いものを感じざるにはいられなかった。


( ,;゚Д゚)「ぜりゃあぁぁッ!」

(=;゚ω゚)「うっ……! 右後方から二匹だよぅッ!」

819名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 05:25:55 ID:e/DmWKX20

奮戦するギコは、男の目からは決して他の二人ほども強くはない。
だが生死の境で抗いながら、血溜まりの中で幾度も転びそうになりながら、まだ命を繋ぐ。

1匹のオーガを辛くも斬り伏せたそのギコが、振り向きざまに男の方へと視線を送った。


( ,;゚Д゚)「……お前! 剣持ってんだろッ!?」

(=;゚ω゚)「も、持ってるけどよぅ!」

( ,;゚Д゚)「ならそいつを振るうんだよ! 俺が注意を引いてる間に、そいつの脇腹や
      足でもどこでもいい、突き刺せ! 二人なら……もっとやれる!」


腰元に結び付けられた細身の剣は、まるで彼自身を投影したように頼りない存在。
ギコの言葉で男はその柄を掴みとりはしたが、それをを抜き出そうとする手はかちかちと震えた。

対峙する事への恐怖が、男の足元にも如実に表れているのが解った。
だがそんな男を鼓舞するようにして、ギコは叫ぶのだ。


( ,;゚Д゚)「俺たちはまだ生きてる!」

(=;゚ω゚)「!」

( ,;゚Д^)「どうせ死ぬならよ……やれる事やってから諦めようぜ……」

820名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 05:27:58 ID:e/DmWKX20

ギコの言葉は、諦めや恐れといった感情の中に囲繞された、男の心の門戸を強く打ち鳴らす。

今同様に日の目を見ることのなかった己の人生の中で、それでも生きるために。
何かを燃やさなければならない時があるのだと――――訴えかける言葉が射し込んだ。

剣にかけた手の震えが、若干収まった気がした。


(=; ω )「”イーヨウ=ストラナグア”」

( ,;゚Д゚)「……”ギコ=ブレーメン”ってんだ」


一瞬の間を置いて、それが男の名なのだと気づいたギコは、すぐに小さく名乗り返した。
もしお互いやどちらかが死んでも、名無しのまま逝ってしまうのは悔いが残るからか。

イーヨウと名乗った男の言葉は、ギコに向けて示したそんな彼なりの覚悟だろう。
それをしっかりと受け取ったギコは、オーガ達が住まう上層を見上げながら、
その中で蠢く影が少しだけまばらな数となってきた事に、確かな手応えを感じていた。


( ,;゚Д^)「やってやろうぜ。連中、思いもしねぇだろ……自分らが”エサに殺される”なんてよ」

(=;゚ω゚)「ここまで来たら―――もう死んでやるよぅ! 来やがれよぅッ!」

821名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 05:30:01 ID:e/DmWKX20

対峙する事を恐れて震えていたのは、生きる事を諦めたのでは、決してなかった。
恐怖する感情というのはその実、痛いほどに生を願い、それにしがみつこうとする執着の表れ。

だが怯えているだけでは、どうにもならない時がある。
自ら戦う覚悟を持たなければ、生きてはいかれない時が。

それが今なのだと気づいたイーヨウの表情。
まるで少し前の自分を見ているようだと、横目で盗み見たギコは、にやりと笑った。


( ,;゚Д゚)「へっ……少しは見なおしたぜ」


剣を手にしたイーヨウが、ギコよりやや背後で並び立つ。
さらに勝算が増した事で、それに大しての油断はなかった。

気配に、音だけに集中する。
やがては、自分の鼓動の音や、イーヨウとの距離を測る息遣いしか聞こえなくなった。

目標まではあと、5匹だったか6匹だったか。
いずれにせよ自身の成せた偉業を讃えて、今夜の宿では特上の料理を食い散らかしてやろうと思った。







822名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 05:31:24 ID:e/DmWKX20








――オーガ洞穴 ”鬼の穴” 入り口付近―――


ノパ⊿゚)「とっとと歩け!」

(メ; =..=)「で、でけぇ声出すんじゃねぇ……ここは奴らの巣穴だぞ」

ノパ⊿゚)「ほぉ? 随分と弱気じゃないか。同業者を騙くらかし、あまつさえ
    こんな自殺同然の行いをさせるように仕向けた、豪胆な男の割に」


じめじめと冷たい湿気が覆い包む洞穴を、手縄を施した傷面の冒険者に先導させる。
ジョルジュ達が洞穴内に潜っていってからすぐの事だった。

会話の一部始終を茂みから盗み聞いていたヒート=ローゼンタールが、男に詰め寄ったのは。


「しかし……ヒート隊長、ここは……」

823名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 05:32:41 ID:e/DmWKX20

ノパ⊿゚)「間違いない、この遠征の最終日。本来冒険者達と共同で討伐にあたるはずだった、
     大規模掃討作戦の予定地だ。ここいらじゃあ一級品のオーガ洞窟だな……」

「団員15名、共に任務に殉じる覚悟は出来ておりますが、今のこちらの戦力では……」

「斥候の調べによると、居住形態からすれば30以上のオーガが潜む可能性があると」

ノパ⊿゚)「2倍から3倍の戦力差か……だったら対等だな、恐れる事はないさ。
    それに今の目的は、迷い込んだ民間人の身柄を保護する事だ、掃討する事ではない」

(メ; =..=)「ば、馬鹿じゃねぇかあんたら……相手はあのオーガだぜ?
       竜の口に飛び込むようなもんだ、さっきの奴らだって、もう死んでるってのに……」

ノパ⊿゚)「我ら円卓騎士団の練度を見くびってもらっては困るな。
     私達が一丸となれば、きっと竜だって倒す事が出来るさ」

(メ; =..=)「………はぁ」


日に何度も、無謀な事を口にする人間を見せられた男は、半ば呆れたようにため息を吐いた。

”ツイてない”
肩を落としながらとぼとぼと歩いてきた先で、ぴた、と足が止まった。
部下に聞いていた話と、食い違う光景がそこにあったからだ。


「これは……どういう事でしょう」

824名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 05:33:50 ID:e/DmWKX20

(メ; =..=)「こんな岩……なかったはずだ……」

部下の一人が怪訝な表情を浮かべ、一方でヒートはきっ、と男を睨みつけた。
この道はオーガ達の居住区域へと続いている洞穴のはずなのだ。

なのに、なぜそこで大きな岩が道を阻んでいるのか。
男を連れて行軍する騎士団は、完全な行き止まりに突き当たったのだった。


ノパ⊿゚)「いや……まてよ」


その岩肌は、周りの景色とは明らかに色合いが違う。
そして気づいたのは、その岩の”奥”から何らかの物音がする事だった。


(メ; =..=)「い、言っとくがおりゃあ知らねぇからな! 話には聞いてねぇ……!」

ノパ⊿゚)「……まぁいい、お前への処遇は後にするとして、この岩を退ける手立てが必要だな」

(メ; =..=)「ちょ、ちょっと待ってくれ、あんたらこの中にいくつもりか!
      どうでもいいが俺は入らねぇからな!」

「攻城槌など、当然準備は……それに、この大きさが人力で動くとはとても……」

ノパ⊿゚)「外に打ち捨てられた丸太があったろう、あれを使おう」

825名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 05:35:01 ID:e/DmWKX20








「1、2の、3!」

”ドオォン………”

結局、騒ぎ立てる傷面の男は洞穴出口付近の木へと縛り付け、一人を見張りに付けた。
外から持ち込んだ一本の丸太を全員で両側から抱え、2度、3度と破城用兵器の要領で大岩へ撃ちこむ。

揺らぎを与えてやる事でそれとの歯車が噛み合った一瞬、10人やそこらでは恐らく
びくともしないであろう大きな丸岩が、大きな音を立てて転がり落ちるようにして道が拓けた。

大岩に隠された道の先では、やはり広大に吹き抜ける広間が飛び込んで来る。
薄暗く、中の様子は暗闇に目が慣れなければ視認しづらい。


「おっしゃあぁっ!」

ノパ⊿゚)「総員、剣を取……」


すぐにでも戦闘に雪崩れ込むだろう、そう覚悟を決めていたヒートが、
団員たちに突入前の準備を促そうとしたその時だった。

違和感が、即座に鼻をついた。


「な、これは……!」

827名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 05:36:18 ID:e/DmWKX20

ノパ⊿゚)「!?」


まず気付いたのは、これまでの洞穴内部を歩いた時のような冷気ではない。
そこから伝わってくるのは熱気と、それに入り混じったむせ返るような血の匂いだった。

それも、思い切り吸い込んでしまえば、嘔吐感が押し寄せかねない程に濃密なもの。


(ぜぇ……はぁ……ぜぇ……はぁ……)

紛れて、何者かの息遣いが騎士たちの耳元にも届いていた。


ノパ⊿゚)「……進むぞ」


部下たちに警戒を促しながら、ゆっくりと進んでゆく。
”ぴちゃり”と足裏で音を立てる程の液溜まりは、確認するまでもなく血液だろう。


「これは……こんなまさか。全て、件の冒険者が?」

ノハ;゚⊿゚)(間に合わなかったか……)


にわかに信じがたい光景が、彼ら円卓騎士団の前に広がっていた。

828名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 05:37:49 ID:e/DmWKX20

血溜まりを形作るのは、そのどれもが見渡す限り、オーガ達の骸だった。
頭部や腕部を損傷して絶命したもの、あるいは斬り落とされたオーガどもの四肢や、
腹からぶちまけたであろう生臭い臓物などが、そこら中に転がっている。

傷面の男の話の中にあった二人の冒険者がこれをやったのだとしたら、一体どれほど
無数のオーガを相手取り、これほどの大立ち回りをしてのけたというのか。


「恐らくは、この死体の中のどれかが……」

「団長! あれを……」


視界が暗闇に慣れた頃、広間を満たす血の湖の上、大きな巨体が霧に浮かんでいた。

動きはない―――だが、その人ならざる体躯が紛れも無くオーガであることを、
遠目からでも全員が一目に確信できた。


ノハ ⊿ )「総員、戦闘準備だ。残党を撃滅する」

「――了解」

829名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 05:43:41 ID:e/DmWKX20

歩を進めるにつれ、荒げた息遣いがより一同の耳にはっきりと聞こえてきた。
未だ動きを見せないオーガの手前で、ヒートの左右を二人の騎士が固めた。

剣を抜いたヒートがじりじりとすり足で接近を試みる。
やがて、その影が肩で息をしている様子までもが、はっきりと映し出された。

目の前にまで躍り出て、今まさに白刃を撫で付けんとしたその時、ヒートの動きは止まった。

/;゚、。;/「フゥッ……フゥッ……」

ノハ;゚⊿゚)「ッ!?」


巨影は、オーガではなかった。
同時に人であるかも疑わしい、全身を夥しい量の血に塗れた、鉄仮面の男。

驚きに目を丸くしていたヒートの背後で、団員の一人が声を荒らげた。


「何者かッ!」

/;゚、。;/「…………フゥゥッ」


それに言葉を返すともなく。
鉄仮面はただ無言で、手の中にあった何かをヒートの足元へよこすように転がした。


”ゴロッ”

ノシ`i; 益 i以

830名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 05:45:20 ID:e/DmWKX20

ノハ;゚⊿゚)「………」


見ればそれは、目玉が飛び出すような断末魔の表情を浮かべる、オーガの頭部。

だがそれにもまして驚いていたのは、男の容貌の異様さと、彼が纏う言い知れぬ闘気。
いくつも太い血管が這う巨腕や、全身に見える多数の生傷を覆う返り血から導き出されるのは、
その男がこのオーガ達の巣窟に放り込まれながらも、そこで戦い生き永らえたという事実だけだった。


/;゚、。;/「……終わり、か」

「おい! ま、待ちなさい!」


視線を合わせる事もなく、鉄仮面はヒートの脇をすり抜け、悠然と出口へ歩き始める。
彼を制止しようと飛び出していこうとした団員の一人の前に、団長自らが腕を出してせき止めた。


ノハ;゚⊿゚)「いや、いい……”生存者”……だろう」

「まさか……こんな、巨大なオーガ洞穴の中で!?」

ノハ;゚⊿゚)(………)

/;゚、。;/


血の風呂に全身を浸かれば、こうはなるだろう。
それほどの赤をべっとりと塗りつけた大男が、騎士たちの視線を受けながら歩を歩く。

831名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 05:47:25 ID:e/DmWKX20

その背中を見送る内。やがてヒートは彼が居た場所を中心として、
両手では余る程のオーガの死体が、円環を模るようにその場に残されていた事に気付いた。


「……今の見たかよ。まるっきり化けもんじゃねぇか」

ノハ;゚⊿゚)(事実、かも知れん……一瞬、見紛うた)


騎士達が去っていく男の背中を指刺しながら、口々に驚きを共有している中で、、
突如洞窟内を木霊するように、どこかから大声でそう叫ばれた。


「おいおい、待ちなよ!」

ノパ⊿゚)「……ッ」

/;゚、。;/「………」


巨躯の鉄仮面が立ち止まるのと同時に、円卓騎士団全員の視線がその方向へと注がれた。
暗闇の中からごとごとと大仰な剣を引きずるようにして歩いてきた男もまた、全身を紅に染めて。

832名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 05:50:37 ID:e/DmWKX20

  _
( ;゚∀゚)「こっちは公約通りだぜ。”25”だ。先に途中から休ませてもらってたがよ、
     ……ありゃあ30はいってねぇな、28か、精々29ってとこかね」

/;゚、。;/「……周りに、もう動く奴が居なかった。それだけだ」
  _
( ;-∀-)「へっ……どっちにしてもこの勝負、引き分けってとこだな」

/;゚、。;/「勝負をしたつもりなど、ないがな」

ノハ;゚⊿゚)(25匹……オーガを、たった一人で?)

/;゚、。;/「……フン」

鼻を鳴らしながら、鉄仮面はその場から立ち去っていった。

言って、再び出口を目指した鉄仮面の横顔から一瞬だけ覗かせた口元は、
ヒートの目には、不敵に吊り上がっていたようにも映った。

だが、これほど大量のオーガが生息する洞窟に閉じ込められながらも、
その中で戦い生き抜いた男が、一人ならず二人も存在していた事もまた驚きだった。


ノハ;゚⊿゚)「尋ねる。生存者か?」
  _
( ;゚∀゚)「おっと……騎士団様か。真打ちの出番を奪っちまった」

833名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 05:53:02 ID:e/DmWKX20

ノハ;゚⊿゚)「―――この洞窟に、二人の冒険者が立ち入ったと聞いて踏み込んだ。
      あの仮面の男は、あんたの仲間か?」
  _
( ;-∀-)「いやさ、俺の連れはどうかねぇ……生きてんだか死んでんだか。
     もしかすると、あと二人ぐらいいたはずだがねぇ」

ノハ;゚⊿゚)「おいおい……」


今度は、耳を疑った。
鉄仮面の男との会話からしても、この広間を50匹以上のオーガ達が覆い尽くしていた。
それをたった4人の人間が、返り討ちで皆殺しにするなどと。

並外れた剣の腕だけでは不可能な芸当に、ヒートの驚きは声にまで出ていた。
同じことが出来るだけの力量を持った人間を頭の中で探してはみたが、
思い当たる所では直属の上司たった一人ぐらいしか、思い浮かべる事が出来なかった。


(おいおい。オーガ30匹斬りなんて、洒落にならん逸話になるぜ)

(あぁ、フィレンクト団長でも出来るかどうか……)

(馬鹿。あの人ならそれぐらいいけるさ)


部下たちがまた騒がしくなった所で、洞窟内を捜索にあたっていた数名が大声を上げる。


「生存者を発見しましたぁ!」

834名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 05:55:23 ID:e/DmWKX20

  _
( ;゚∀゚)「お」

ノハ;゚⊿゚)「何人生還者が出てくるんだ、あんた達は一体……」
  _
( ;゚∀゚)「どうでもいいさ、どうせあんたらとは後々―――」

ノパ⊿゚)「?」


そう言い淀んだ彼の視線の先で、オーガの死体にのしかかられて動けずにいた一人と、
傍らで剣を投げ出し、大の字に寝そべって呼吸を荒げる男の姿とがあった。


(もう動けねぇ―――ちょっとこのまま、寝かしといてくれ!)
  _
( ;-∀-)「ま……いい。俺も今はただ、とっとと帰って眠りてぇや」

ノパ⊿゚)「ふむ」

何かを含んだ男の様子に一度だけ怪訝な表情を浮かべたヒートだったが、
それよりも身柄の確保や、その後は聞き取り調査、報告書の作成と仕事は山積みだ。

その満身創痍の男の様子は、声だけでもヒート達のもとに伝わってきた。


( ,; Д )「ぜぇ………ぜぇ………」

(=;゚ω゚)「ギ、ギコさん! オイラ達助かった、助かったんだよぅッ!」

835名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 05:57:22 ID:e/DmWKX20

( ,;゚Д^)「へ……へへ。ざっとこんなもんよ、連携プレーが良かったな。
      あとお前のあの名案がなけりゃあ、や、やばかったかも」

(=;゚ω゚)「でも、お、重くて動けな……うぅ」

( ,;゚Д^)「考えたもんだぜ。混戦に乗じてオーガの死体の下に隠れて、やり過ごそうなんてよ」


騎士団の姿を見て、どうやら二人は安心しきった様子だった。
生還の喜びを分かち合い、瞳を輝かせる彼らの様子は、ヒートの隣に立つ男と、
また先ほどの異質な鉄仮面で表情の伺えなかった男とも違い、よほど常人としての反応だ。


ノパ⊿゚)「……大したものだ」
  _
( ;゚∀゚)「まぁ、こんぐらいはやってもらわねぇとな」


彼らに対してヒートは、自然と称賛の言葉が口をついて出た。
じっとその光景を見つめる一方の冒険者の反応は、いささか淡白なものではあったが。

836名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 06:00:19 ID:e/DmWKX20

ノパ⊿゚)「……何にしても、こうして全員が生きていたのは神のご加護か」
  _
( ;゚∀゚)「違ぇと思うぜ」

ノパ⊿゚)「ふむ……?」


”その心は?”
ヒートが心の中でだけ問いかけたその言葉に、男もまた内心に答えを返していた。
彼にとっては最も身近であり、神が与えたもうた奇跡などよりも、ずっと信頼出来るもの。

それは、途方も無い積み重ねがあればこそ、確実に結果を返す。

  _
( ;゚∀゚)(人の強ささ……)


何より、本当に”神”が天にましますのならば、
今の彼自身の行動原理が、丸ごと存在し得ないだろうから。

神があの時、助けてくれたのだとしたら―――







837名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 06:02:14 ID:e/DmWKX20


夕刻―――彼らの背で、茜色の日はもう沈みかけようとしていた。
騎士団含む21名が、誰一人として欠ける事なく城壁都市の北門をくぐり、帰投する。

これは、依頼における命の危険が他の地方よりも群を抜くバルグミュラーでは、極めて珍しい。

ましてやそれが、総勢50名を投入する予定だった大規模掃討作戦の現場からともなれば、
戻ってきた男達の姿を一目見ようと城壁にまで登る冒険者がいるのは、十分に頷ける出来事だ。

普段ならば到底そんな多数の眼差しに晒される事はないイーヨウも、
今日という日にはいささか胸を張り、小鼻を膨らしながら宿への帰路を歩む。


(=゚ω゚)「ふふ、あの兄貴の顔……多分一生忘れないんだよぅ」

( ,,^Д^)「痛快だったな、あの驚いた顔ったら……ほっぺた押さえて尻もちついてやがった」


あの後―――洞穴の出口での事。ダイオードを陥れるようイーヨウに指示した傷面の男は、
視線があった瞬間に”い、いよぅ……”などと声をかけるも無視され、無言のまま彼に殴りつけられた。

自分自身を捨て駒にして、あのような危険な場所へと案内させた兄貴分に対しては、
イーヨウなりにこれまで溜まっていた鬱憤が爆発したのだろう。

それには諦めず戦うギコの姿を見て、これまでの弱い自分と向き合えた部分が大きい。
普段からは想像もつかない行動をする事が出来たのは、良い意味で開き直る事が出来たからか。

困難というものは、乗り越えればかくも人を成長させるものなのだ。

838名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 06:04:04 ID:e/DmWKX20

(メ; =..=)「―――だ、だからあの野郎も俺の子分でよぉッ! どうして俺だけっ!?」

「黙れ。お前の罪状は守秘義務の漏洩に加えて、殺しの幇助。当分は絞られるだろうな」

(=*゚ω゚)(へへ……いい気味だよぅ)


当事者であるはずのイーヨウが罪に問われる事がない理由はまずひとつ。
その事実があったにも関わらず、当のダイオード自身が全く興味を示さない事。


/ ゚、。 /「………」


ふたつ目は、大規模掃討作戦で上げるはずだった戦果を彼ら4人が
根こそぎかっさらってしまった事から、他の3人と同様に討伐に関しての恩賞を
与えない事と引き換えに、ダイオードを陥れた罪を不問とする事で話がついているからだった。


ノパ⊿゚)「我らが出ずして、掃討が完了してしまうとはな……団長殿にはなんて怒られるか」
  _
( ゚∀゚)「へっ、そいつは悪い事をしちまったかな」

839名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 06:06:43 ID:e/DmWKX20

ノパ⊿゚)「だが、作戦を前に危険に巻き込んだ責任もあるが……勇気を持って戦ったあんた達に
     対する誠意の方が先だな。今夜は我々の方で寝床を用意させてもらおうと思う」

( ,,゚Д゚)「う、美味い料理はあるのか! 肉や豆のスープじゃ、俺の舌はごまかされねぇぞ!」

ノハ;゚⊿゚)「履き違えてもらっては困るが……本来、我々が主導で行うはずだった作戦。
     救助の為とはいえ、勝手にあんな場所に立ち入った責任は感じてもらわなきゃな」

( ,;゚Д゚)「………はいはい、すいませんね」
  _
( -∀-)「バカ」

ノハ-⊿-)「コホン―――まぁ、騎士団からの見解として言わせてもらえばそうなるがな……」

( ,,゚Д゚)「?」

ノパ⊿゚)「その、なんだ……あんた達の事は、私自身とっても高く評価してるつもりだ」
  _
( ゚∀゚)「………」


この遠征中を指揮するヒートの率直な感想は、傭兵などからすれば戦屋冥利に尽きる言葉だ。

840名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 06:08:02 ID:e/DmWKX20

”大陸の守護者”などと、一部信奉者の間からもその実力において多大な信頼を集める彼ら、
大陸諸侯にまで武勇を轟かせる”フィレンクト=エルメネジルド”を筆頭とした円卓騎士団に
腕を信頼されるというのは、一人前の腕利きであると認められるのと同義である。

この時ヒートは、各地を放浪して名声を集めてきたジョルジュと、
バルグミュラーに来てから他の地方を訪れる事のなかったダイオードの名こそ知らなかったが。


( ,,゚Д^)「へへ……褒めても何も出ねぇぞ? もらえるもんはもらうけどよ」

ノパ⊿゚)「銀貨にして2000spは下らないと思う。あとは、褒章の一つも渡されるかもな」

( ,;゚Д゚)「な、はぁッ!? に、にせん、今……にせんっつったか!?」
  _
( ゚∀゚)「そうさな……まぁ、妥当っちゃ妥当な額か」

( ,;゚Д^)「マジかよ、当分は美味いものをたらふく食えるぜ!」
  _
( ゚∀゚)「火晶石が二つばかり買えるな。ありがてぇ事だぜ」

ノパ⊿゚)「火晶石って……そんな物騒な物が入り用なのか?」
  _
( ゚∀゚)「まぁな」


炎の精霊を晶石内に封じ込めた、高度な魔術道具。
天然の物は大変貴重で、一部で行える生成は極めて困難であるため、
1000sp前後の大変な高値で取引される事が殆どだ。

その為、そんな物を持ち歩ける冒険者も稀であり、岩盤の発破などが主な用途。
外敵にそれを使う時があるとすれば、オーガどころではない余程の相手の時だろう。
故にヒートは、ジョルジュの言葉に眉をしかめていた。

841名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 06:08:44 ID:e/DmWKX20

  _
( ゚∀゚)「よぉ、大将」

/ ゚、。 /「………」
  _
( ゚∀゚)「今晩は、またあの辛気臭ぇ宿に泊まるんだろ?」

/ ゚、。 /「あぁ……だが」
  _
( ゚∀゚)「分かってるさ。ダイオード―――こりゃあ、お前さんを見込んでの仕事の話だ。
     今夜は俺もあすこにしけ込む。じっくりとこの後の話をしたい」

/ ゚、。 /「……そのつもりだ」


普段から人を寄せ付けないダイオードだが、この時ジョルジュの言葉に立ち止まり、
”興味を示している”とばかりに、仮面の奥から静かな瞳を彼へと向けていた。

脳天気なギコとは裏腹に、二者の間では既に、ある程度までの話がついている風でもあった。

  _
( -∀-)「………」

842名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 06:09:32 ID:e/DmWKX20

( ,,゚Д゚)「おいおい、美味い料理が俺たちを待ってるってのに……」

ノパ⊿゚)(私達の配膳が肉や豆のスープと一切れのパンだとは……黙っておくか)
  _
( ゚∀゚)「―――そんで、嬢ちゃ……いやさ、隊長殿にも頼みがあってな」

ノハ;゚⊿゚)「うむ、まぁ……聞ける範囲でなら」
  _
( ゚∀゚)「ここいらを束ねる、レイオブロウってぇのにお取次ぎ願えるかい」

ノパ⊿゚)「領主のか? まぁ、不可能ではないだろうが……どういう要件だ?」
  _
( ゚∀゚)「……難しいようなら最悪、言伝だけでも構わねぇ。
     恩賞代わりに、そいつと会って話が出来るだけでもいいさ」

/ ゚、。 /「………」

( ,,゚Д゚)「!」


ダイオードには、まだジョルジュがこれから行おうとしている事の全貌がまだ掴めていない。
しかし、ギコは浮かれ気分から冷水を浴びせかけられて現実へと引きずり戻されるように、
その意図を察してはっとジョルジュの表情へと視線を向けた。


ノパ⊿゚)「恩賞もいらないとは……どういう風の吹き回しだ?」

843名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 06:10:51 ID:e/DmWKX20

  _
( ゚∀゚)「そうさな―――”悪竜退治に興味は無ぇか”と、そう伝えてくれればいい」

ノパ⊿゚)「!?」


そう口にしたジョルジュに驚き、ヒートは二度ほど彼の表情を覗きこんだ。
真顔でそう言ってのけた男の言葉は、どうやら冗談ではないのだと知って再び驚く。

悪竜といえば、当時は近隣諸侯の頭を悩ませたあの名がすぐに思い当たる。
ここ数十年ばかりは目立った動きがなく、どこに生息しているのか所在も突き止めていない。

だが、人を貪り喰らい好き勝手に振舞っていた邪龍”ファフニール”の名は、もはや
生ける伝承として各地方へと広く伝わっている。知らぬ者など無いはずの、恐怖の名だ。

黒く輝く鋼玉の皮膚は剣や矢も通さず、無敵の堅牢を誇る。
極々々高温の炎のブレスは全てを焼き払い、口を開けば牛馬すら一飲みにするという。

その名を知っていれば、決して挑む者なき―――”天災”にも等しい存在。

844名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 06:12:16 ID:e/DmWKX20

ノハ;゚⊿゚)「まさか……”邪龍”の事じゃないだろうな? 今は眠っているのかも知れん。
     だが―――ひとたび突付いて起こせば、数万単位の犠牲が出る事になるぞ?」
  _
( ゚∀゚)「生憎と……野郎の寝覚めが悪ぃのは、もう経験済みでね」

ノハ;゚⊿゚)「攻撃が通じない相手にも程がある。若竜ならいざ知らず、正直な所では
      円卓騎士団総出ですら壊滅するだろう……あれは、”古龍”なんだぞ」
  _
( ゚∀゚)「博打になるがな、そこんところの手立てはある」

ノハ;゚⊿゚)「知ってる口ぶりだが、あんたは……まさか遭遇した事があるのか!?」
  _
( -∀-)「随分と前にな。明け方頃には、馴染みの村はもう、地図から消え失せてた」

( ,,゚Д゚)「………」

ノハ;゚⊿゚)「こいつは、驚いたぞ……」


ジョルジュの決意は現実味を帯びたものとして、もうすぐギコの前にも姿を表そうとしていた。
それと相対してしまえば、きっと今日のような危機など霞んでしまうだろうと、確信できる。

自分からは遠い過去のように思えていた父の死。
その雄志を伝えに来た男との出会いが、今も少しずつギコを成長させている。

845名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 06:13:50 ID:e/DmWKX20

ジョルジュに打ち明けた覚悟や決意というものは、やはり方便なのであるかも知れない。
まるっきりではないが、彼に面と向かって吐き捨てた言葉には、少しだけ嘘の部分があるのだ。

ジョルジュの命を救った自身の父親との、微かにして数奇な運命の繋がり。
そこで全てが失われる光景を目の当たりにした彼は、ギコよりも深い悲しみに暮れたはずだ。
胸中には、もしかすると深く根を張った憎悪ばかりが渦巻いているのかも知れない。

だがそれでも、悲しみを糧にこうして強い男へと成長してきたのだろう。

照れくさいのが苦手なギコは、決して口には出さない。
だが彼に対しての憧れは、想い出の中に生きる誇らしい父と、同じぐらいに強かった。

”ジョルジュという男と、また明日も共に肩を並べて歩きたい”と。
そう―――思える程度には。

旅の終着点では、果たしてどうなっているだろう。
どちらか死んでいるか、あるいは2人とも死んでいるのか。

出来ればそこでも、二人で旅していられる事を願っていた。


( ,,-Д-)「さてと……俺もあのしけた宿で、一杯やるとするかねぇ」







846名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 06:15:09 ID:e/DmWKX20

―― 夜分 冒険者宿【宵の明星亭】――


大きな戦果を上げ、陽気に自身の武勇を語らう者。
至る所に包帯を巻き、痛みに顔をしかめながら火酒で火照りを冷ます者。
あるいは身内の人間を失って、嗚咽しながらそれとの思い出を口にする者。

毎夜、様々な人が訪れ、それらの感情が交錯するこの宿で、
今日は特に周囲の同業者たちの目を惹く、ある一卓があった。


/ ゚、。 /ムシャッムシャッ

( ,,゚Д゚)「それ……食うときも外さねぇのか?」

/ ゚、。 /「……外さなくても、食える」

( ,;゚Д゚)「そ、そうか」


あれほどの大怪我を負っていたにも関わらず、まるで応急処置程度の手当で済ませ、
ダイオードはギコ達よりも先に騎士団兵舎を後にし、今こうして食事をしていた。

遠征の指揮隊長であるあの”ヒート=ローゼンタール”には、
無理を言って調書の為の聞き取りを後日への先延ばしにしてもらったのだ。

傷の痛みや、疲労が何よりの理由である。

847名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 06:16:03 ID:e/DmWKX20

(おいおい……聞いたかよあいつら、ダイオードと、あの新顔さ)

(鬼の穴を、たった4人で全滅させちまったんだとさ……)

(ほえぇ!あんな抜けた面してっけど、バカ強ぇんだろうなあの兄ちゃんも)

(やっぱあいつはバケモンだぜ……一人で50匹だぜ?あの、オーガをよぉ)


( ,*゚Д゚)「なんか随分注目されてっけど……あんまし悪い気はしねぇな」
  _
( ゚∀゚)「50匹も倒すたぁ、恐れいったぜ」


ギコたちがオーガ洞穴で戦った事実は、既にこの城壁都市中を駆け巡っているようであった。
若干会話の端々から現実との齟齬が聞き取れるが、中心人物の二人はさして気にも留めない。

ジョルジュの主張によれば、ダイオードは28匹か29匹、という事なのだ。

848名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 06:17:17 ID:e/DmWKX20

  _
( ゚∀゚)「訂正しとくけどよおっさん。こいつは10匹倒すとかいいながら、結局の所8匹止まりだ」

( ,;゚Д゚)「ちょ、事実だけど……水差すんじゃねーよ!」
  _
( ゚∀゚)「へっ。まぁそいつも、こいつとの連携があったればこそ、だろうがな」

(=゚ω゚)ノ「その通りですよぅ」


流れで居合わせたイーヨウが肯定するように挙手した。

兄貴分が騎士団仮設兵舎へと連行されていった後、イーヨウと”仲間”であった
他の冒険者達は、酒場の隅で存在感を消し去りながら、静かに酒を飲んでいた。

生来の気弱で周りからはあまり相手にもされていなかった彼だが、この後は恐らく
パーティーが自然消滅的に解散したとしても、受け入れてくれる場所はあるだろう。

一度の山場を乗り越えた事でクソ度胸がついた今は、冒険者としては一皮剥けたといえる。


(おぉ~、でもなぁ……大したもんだ)

849名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 06:18:50 ID:e/DmWKX20

( ,* Д )「……ったく」


それでも、ギコ自身誇らしいとさえ思える戦果は、周囲の同業を唸らすものだった。
ジョルジュが椅子を乗り出して先で声をかけた卓が、自分の話に沸いたのを見て、
少し気恥ずかしくなったギコは、照れ隠し紛れに目の前の酒を一気に飲み干す。

それでも、ジョルジュ達からすれば、自分は子供同然のような扱いだろうなと自嘲しつつ。

  _
( -∀-)(剣のド素人が8匹ブチ殺すだけでも……素直に驚きだがよ)

(=;゚ω゚)「と、ところで……ダイオード……さん?」

/ ゚、。 /ムシャッガツッ


仮面をはめたまま器用に骨付き肉を食らう対面のダイオードに、イーヨウは
途端に一回り小さくなって、小動物のようにおずおずと声をかける。

生還の喜びの方が大きくて、改まってダイオードに謝罪してはいなかったのだ。
いざその時となると、やはり緊張して度胸が要った。


(=;゚ω゚)「あの、やっぱり……お、怒ってらっしゃいますかよぅ?」

/ ゚、。 /ガツッムシャァッ

850名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 06:19:36 ID:e/DmWKX20

( ,,゚Д゚)(あ~、これ怒ってる……絶対怒ってるよ)

(=;゚ω゚)「こ、この度は誠に……我が不徳の致すところでございましてですよぅ……」

/ ゚、。 /バリッ!ガリガリッ


やはり人間、そうすぐには変われないようだ。
今回の件で今までも恐ろしかった大男の正体が、”オーガ達の30匹分は恐ろしい大男”
というのが証明されてしまった今となっては、以前よりも更に繊細な受け答えが要求される。

万が一気分を損ねて、オーガ達同様に脳漿をまき散らす羽目になるのは遠慮願いたいからだ。


(=;゚ω゚)「あ、あのぉ……」


骨付き肉の骨を奥歯で噛み砕きながら、やがて顔を上げたダイオードと目が合う。
その鉄仮面からでは表情が窺い知れず、やはりその寡黙さはどこか不気味だ。

しかし、彼から返ってきた意外な言葉に、イーヨウはほっと胸を撫で下ろす。


/ ゚、。 /「……どうでも、いい」

(=;゚ω゚)「で、でしたら……思いがけず幸いですよぅ」

851名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 06:21:03 ID:e/DmWKX20

( ,,゚Д゚)「良かったじゃねぇか。強ぇ男はやっぱり懐も深くなくちゃなぁ。
     そう頭ごなしに怒ったりしない所がいいぜ」
  _
( ゚∀゚)「薬草採らせて毒草採ってくるような馬鹿は、引っ叩いても構やしねぇがな」


ジョルジュの突っ込みが鋭角にギコの心を抉った所で、全員の食事が終わった。
女を抱きに外へ出た者、身体を休めに酒場の二階へ上がっていく者。

そうして店内の人影の姿がまばらになって来た頃、ようやく話合いの場が整ったようだった。

  _
( ゚∀゚)「さて、部外者が約一名いるが……ダイオード」

/ ゚、。 /「……知っている」
  _
( ゚∀゚)「もう伝わってんなら話は早ぇ―――とどのつまりが、竜退治よ」

( ,,゚Д゚)「おぉよ」

(=;゚ω゚)ブフォッ


唯一常人としての反応を見せたのは、何気なく居合わせたイーヨウだけだ。
ギコとダイオードは、それに眉一つ動かさず、ジョルジュの話を聞く体勢に入った。


(=;゚ω゚)(りゅっ……竜!?)

852名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 06:22:31 ID:e/DmWKX20

  _
( ゚∀゚)「単刀直入に言う、お前さんの力を借りたい」

/ ゚、。 /「……望むところだ」
  _
( ゚∀゚)「そう言ってくれるとは―――まぁ、思ってたんだがな」

( ,;゚Д゚)(即答かよ、こいつ)
  _
( ゚∀゚)「……さっきのであんたを見させてもらった限りじゃ、現状望むべくもねぇ。
     素直に頼りにさせてもらいてぇと思ってる、ダイオード」

( ,;゚Д゚)(なんか、ジョルジュが他人を褒めてるとか……気持ち悪ぃな)


二人の会話を目で追うギコが、ぎょっと目を見開いてジョルジュの方を見た。
出会ってからというもの罵られてばかりのギコにとっては、彼が他の冒険者達に
率直な賛辞を送るなど、驚くべき事だった。

もっとも、ダイオードはこちら側というよりも、傭兵稼業に適応した人間なのだろうが。
そういった性質の違いもあるのだろう、冒険者としての資質ならどうだ――と、ギコは
無意味に頭の中で両者の力量を比較してみたりもした。

だが、生存術として多くの知識を身につけたジョルジュと、あの場に50のオーガがいれば
命と引き換えてでも倒してのけたかも知れないとさえ感じさせられる、屈強の闘士ダイオード。
やはりそんなにも毛色の違う二人では、答えは出なかった。

853名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 06:23:32 ID:e/DmWKX20

ギコが舌を巻いたのと同様に、さしものジョルジュも認めざるを得ない男なのだろう。
何発もオーガの攻撃をその身に浴びながら、それをも上回る力でそいつらの脳天を
ぶっ飛ばし続けられる人間など、そいつの方がよほどオーガらしい。


/ ゚、。 /ゴキュッ ゴキュッ

( ,,゚Д゚)(こいつ……寝る時仮面どうしてるんだ?)


出会って間もない男だが、共に鉄火場をくぐり抜けた事が影響しているのか、
ギコ自身、早くも彼が信頼に足る人物であるかのような親近感を抱いていた。

”ダイオードはジョルジュの誘いを受け入れるだろう”
それを半ば確信していたのは、自分の身を顧みないあの戦い振りを見た時からだった。

口が避けても本人には言えないが、いわゆる”戦闘狂”の類の男だとは、一目で解った。
もっと輝ける立ち位置があるはずの彼は、粗末な宿に止まり、命を切り売りして質素な飯を食う。

人並みの欲を持っているならば、決してそんな生き方はしないはずだ。
戦う事への欲求、あるいは何か怨念じみたものに後押しされるような―――
鬼気迫るダイオードの戦いに、ギコはそんな印象を受けていた。

無表情の鉄仮面は一拍の間を置いて、あえて両者の距離を遠ざけるかのように言った。


/ ゚、。 /「だが………それが本当の話かどうか、だ」

854名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 06:24:54 ID:e/DmWKX20

  _
( ゚∀゚)「……本番はレイオブロウの野郎を丸め込んでからだ……兵はいくらいても足りねぇ」

( ,,゚Д゚)「私兵か? つっても、いいとこお抱えは100人ぐらいが精々じゃねぇか?」
  _
( ゚∀゚)「領主様お抱えの坊っちゃん騎士なんざ、ハナから当てにしてねぇさ。
     ろくに実戦も経験しねぇでお高く留まる事が仕事みてぇな連中は、クソの役にも立たねぇ」

/ ゚、。 /「……知らん世界の、話だ」
  _
( ゚∀゚)「竜退治の名声ともなれば、諸侯の連中にとっちゃこの上なく甘い響きだ。
     ちょっとオツムの弱い連中に、より現実的な作戦を提案してやる事で食いつかせる」

( ,,-Д-)「まぁ、言う通りになるかも知れねぇな……」
  _
( ゚∀゚)「その上で集めさせる兵隊は、言ってみりゃあ俺たちみたいな、ここらの連中よ」


前半のジョルジュの言葉は、少しだけ含みを持たせたものに感じられた。毒という、含みだ。
彼の記憶が投影されているのだろう。それは以前話にあったディクセン騎士団の事だと解った。
名声に駆られた騎士達が無闇に龍の喉元をつついた結果、ジョルジュの故郷は滅びたのだから。

そうでなければ、ギコが今こうしてジョルジュと居る事も、なかったかも知れない。

855名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 06:26:33 ID:e/DmWKX20

  _
( ゚∀゚)「結局の所、頼りになるのはここいらを寝床にして戦う事で飯食ってるような野郎だ。
     そん中でも、一握り……腕が立って、なおかつ特に腹の座った野郎ばかりを集めたい」

( ,,゚Д゚)「寄せ集めかよ……そんなんで、いざという時戦えんのか?」
  _
( ゚∀゚)「”依頼に成功すれば、一生遊んで暮らせます”そう言われりゃ、当然集まる。
     それに、討伐祭りの音頭を取るのは俺と、もう一つの”頭”を用意する」

( ,,-Д-)「まぁ、世捨て人みてぇな奴ら、ごまんといるからなぁ……」

/ ゚、。 /「もう一つの、頭とは何だ―――?」


”よくぞ聞いてくれた”
そう言いたげに大きく片目を広げたジョルジュが、にやりと口角を吊り上げる。

  _
( ゚∀゚)「こいつは驚くとこだぜ。”円卓騎士団”だ」

( ,;゚Д゚)「―――はぁっ!? ちょっと待てよ……流石にそいつは笑い話だぜ。
      確かにさっきの件で恩も売れた、けどあのヒートって女も言ってたろ?」

856名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 06:28:34 ID:e/DmWKX20

思わず酒場中に響き渡る程の大声を上げたギコの方に、周囲の視線が注がれた。
遠征を指揮する小隊長ともなれば、騎士団内でも一角の人間なのだろう。

邪龍に挑むと聞いた彼女は、このような意味合いの言葉が汲み取れた。
”起こしてはならない存在”なのだと。

それが意味するところは、いつまた現れる脅威を排除しようという意識よりも、
やはり龍族に対する畏怖の念の方が遥かに勝っているに他ならない。

それが円卓騎士団長、ひいては総員の意思であるとは言い切れないが、それでも実現不可能だ。
少なくとも数十の犠牲を伴う危険性のある妖魔との戦いによって売り込んだ実績と、一方で
幾万の犠牲を伴うリスクを、円卓自らに冒させる為の天秤など、到底釣り合うはずもないのだから。

それでもジョルジュは、我が目を疑うようにして自分の表情を覗きこむギコを、鼻で笑った。

  _
( ゚∀゚)「何が何でも”円卓”を引っ張り出す。当然、その為の材料も俺には揃ってんだよ。
     そして―――そいつがファフニールと喧嘩をおっ始める為の、最後のピースだ」

( ,;゚Д゚)「どうやってだよ? 冒険者ごときの俺たちに、そんな事が出来るのかよ……?」
  _
( ゚∀゚)「ったく……忘れっぽい脳みそしてやがんな。その”材料”とやらは、
     前にも一度、おめぇに話しといたはずだぜ」

857名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 06:31:12 ID:e/DmWKX20

( ,;゚Д゚)「そうだっけ?……まぁ、こぎつけるまではいいさ。けどどうやってやっつけんだよ。
      言っちゃなんだが、あんたは一番近くでそいつを見たはずだ」

/ ゚、。 /「………」

(=;゚ω゚)(……この人達の言ってる事が、理解できねぇよぅ……)

( ,;゚Д゚)「こうしてでけぇ事を話してる間は一見、何とかなりそうな気もするがよ。
      ………親父の仇竜は、強ぇどころじゃ、ねぇんだろ?」


理解の範疇を超えた言葉が次々と飛び出す卓で、一人蚊帳の外のイーヨウは怪訝な表情を浮かべた。
そして、ここより先は更に実戦を見据えた、より現実的な話になってくる。

ダイオードが新たに加わる事で、ヴィップに居た頃では考えられないような戦力を持ったパーティー。
恐らくはジョルジュですら比べ物にならない頑強な肉体は、そこらの妖魔など一捻りにねじ切れる。

だがたとえ強い”個”をいくつも用意したとして、そこから可能なのは所詮、強い力で武器を振るう事だけだ。

858名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 06:32:12 ID:e/DmWKX20

対して相手は砲弾すらも弾くという、鉄壁の龍鱗を持ち合わせる古龍(エンシェントドラゴン)。
大陸はおろか、紛れもなく歴史上で最強の生物に君臨するという齢500超えのファフニールを
斃す事など、たとえダイオードの怪力や、ジョルジュの剣技をもってしても不可能だと確信出来る。


( ,,゚Д゚)「効かねぇ攻撃を何万ぶち込もうが、やっこさんは痛くも痒くもねぇだろ」
  _
( ゚∀゚)「ご名答だ」


ジョルジュが何より知っている、兵を集めただけでやり合えるような相手でない事を。
その上で勝算があるというのだから、ジョルジュにはよほどの策があるのだろう。

ダイオード同様、ギコ自身をも納得させ得る具体的な作戦とは、いかなるものなのか。

  _
( ゚∀゚)「確かに、まともにやって到底勝てる相手じゃねぇ。けど、取っ掛かりも手札にある」

/ ゚、。 /「………聞かせてみろ」


腰元に結びつけた小さめの麻袋に視線を落とすと、ごそ、とジョルジュは何かを取り出した。
鋭角に切り出された、申し訳程度に丸みを帯びたそれは、美しい宝石の様にも見える。

良く目を凝らしてみれば、その中心にはぽう、と小さく朱色が灯されている事に気付いた。


( ,,゚Д゚)「それ……って」

859名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 06:33:21 ID:e/DmWKX20

  _
( ゚∀゚)「火晶石だ」


かなり高価な代物だけに、普段は慎重に持ち歩いているのだろう。
また、叩きつけただけで大きな爆発を引き起こすというその危険性が故か、
再び麻袋に仕舞う前に、ジョルジュは繊細な手つきで幾重にも布を巻いていた。


( ,;゚Д゚)「おいおい、そんな良いもんがあるなら、さっきみてぇな時に使ってくれよ」
  _
( ゚∀゚)「甘ったれめ。おいそれと使える代物じゃねぇ……
     固まってる敵が相手じゃなきゃ、それほど効果的でもねぇしな」


ギコとは違い、ダイオードはそれに冷淡な反応を見せた。
ともすれば、”ふざけているのか”とでも言い出しそうな程に。


/ ゚、。 /「……そんなもので、”古龍”とやらを倒せると?」
  _
( ゚∀゚)「へっ、こんなチャチなもんじゃ数十個……いや、
     たとえ数百個ぶち当てた所で、野郎の命にゃ届きゃしねぇだろう」

( ,,゚Д゚)「なら、数千個も用意するってのはどうだ?」
  _
( ゚∀゚)「俺が仮に城を持つ程の大富豪ならそうしてるかもな……だが、それでも解りゃしねぇ」

/ ゚、。 /「……どういう事だ」

”どんっ”

(=;゚ω゚)(ひっ)

861名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 06:34:15 ID:e/DmWKX20

  _
( ゚∀゚)「そう急くなよ……お楽しみはここからだ」


はぐらかすようなジョルジュの様子に焦れたダイオードが、卓へと拳を落とした。
身じろぎしたイーヨウの眼前でエールグラスは浮き上がり、いくつかが倒れる。

ジョルジュは、構わずただ饒舌に言葉を紡いだ。

  _
( ゚∀゚)「この火晶石っつぅやつの内部には、炎の精霊……
     サラマンダーだかの幼精が封じられてるんだと」

( ,,゚Д゚)「叩きつけたり、火ぃつけたりすりゃ爆発すんだろ?」
  _
( ゚∀゚)「まぁ俺は魔法なんて2~3度しか食らった事ねぇし、精霊とか、
     どうにも胡散臭ぇその辺ばっかりは信じてねぇんだけどよ」

( ,;゚Д゚)(2~3回喰らってよく生きてたな)
  _
( ゚∀゚)「で、だ……ここからが俺の策なんだが」


一つ咳払いをしてから、掌の中にすっぽりと収まる麻袋を眺める。
やがて、両腕を肩幅より少し大きめぐらいにまで広げて、首を傾げつつ何事かを呟いた。

862名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 06:35:25 ID:e/DmWKX20

  _
( ゚∀゚)「ふん……まぁ、これくらいか。こんなもんかね」

( ,,゚Д゚)「何がだよ?」
  _
( ゚∀゚)「あぁ―――あんだよこんぐらいの大きさのやつが、よ」

( ,;゚Д゚)「はぁ?こんぐらい……って」
  _
( ゚∀゚)「名づけて”爆弾火晶石”―――こいつを使う。
     5年前に俺が実際に探し当てて、今は別んとこに置いてあるがな」

/ ゚、。 /「………ほう」


真実だとすれば、晶石単体としてすら自然界に存在するのか疑わしい程の大きさ。

当然そんなものを人の力で生成する事は、魔術界隈からかけ離れた自分たちからしても、
どれほどの困難を窮めるとなるかは想像に易い。恐らくは、不可能なのではないかとも。

だが実際にその威力を決めるのは、その内部に灯る火の精霊とやらの力だ。
口ぶりからすれば、どうやらその点においても抜かりはないと見える。

  _
( ゚∀゚)「本当に珍しいもんでな……一度だけ魔術師ギルドの知り合いに呼びかけて
     鑑定してもらったが、馬鹿げた大きさに見合った大層いいもんをお持ちらしい」

863名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 06:39:12 ID:e/DmWKX20

( ,;゚Д゚)「下手すりゃ数万spに届くんじゃねぇのか……それ」


実物を見ても解らないだろうが、火晶石の力の源が無数に内包されているか、あるいは
それよりもっとすごい奴が、今か今かと解放の時を待ちわびているのかも知れないなと想像した。

事実、ギコが口にした通り天然で採れる大きな火晶石は、更に異常なまでの高値で取引される。
一介の冒険者風情が生涯を通してもお目にかかる事などまず無いと言っていい、極めて希少な鉱物。

そんな、道楽貴族がコレクションケースの片隅に鎮座させ眺めるようなものを、
ジョルジュは500年を生きる”龍”を殺すための、最大の武器にしようというのだ。

  _
( ゚∀゚)「火晶石の破壊力の源は、破裂時に放射される炎と、その周囲を固める晶石の破片が
     飛散する事にある。数十個程度じゃ野郎には火傷にもなりゃあしねぇがよ……」

/ ゚、。 /「その大きさなら、威力は数十倍―――いや、それよりも上か」
  _
( ゚∀゚)「”だとしたら?”そんなもんをでっけぇ口にでも放り込まれりゃあ……どうなると思うよ?」

( ,;゚Д゚)「いくら龍でも……死ぬんじゃねぇか」
  _
( -∀-)「答えは”龍のみぞ知る”、だ―――たとえ至らずとも、鎧の鱗ぐらいはふっ飛ばすさ。
     それが出来ただけでも剣をぶち込める、最大の突破口になる」

/ ゚、。 /「………面白い」

864名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 06:41:51 ID:e/DmWKX20

( ,;゚Д゚)「そっからが……気合の入れどこってやつか」


ジョルジュの発想は、言ってみれば幼稚なものだ。
この拳で倒れないのならば、もっと強い力でぶん殴ればいいといった。
―――単純にして、明快ではあるが。

しかしそれを実行に移せるだけの準備が整いつつあるという現状を作り出したのは、
並々ならぬ打倒への執念を燃やし続けてきたであろう、ジョルジュのこれまでがあったからこそ。

ダイオードの感想と同じ心境を、ギコもまた抱いていた。


( ,;゚Д゚)「なぁ。本当にそいつを倒しちまったら、俺ら、英雄か?」
  _
( ゚∀゚)「……400年前の終末の運び手、”悪龍ツガティグエ”をぶっ倒したっつぅ
     あの”ヒロユキ=トゥーランド”以来の大英雄になるだろうぜ」

( ,;-Д-)「はは……冗談にも程があるぜ」


”ちょっと前まで燻っていた冒険者風情が、救国の英雄になる”
そんな自分の未来を想像したギコは、居ても立ってもいられない感覚にとらわれた。

  _
( ゚∀゚)「その冗談が現実になる時が、必ず来る」

( ,;゚Д^)「案外……あんたも俺みたいな馬鹿かもな。ジョルジュ」

865名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 06:44:30 ID:e/DmWKX20

ギコの腕に、武者震いがきた。父親はおろか、孫の代まで語り継げる話になる。
天から見下ろす父に向けて胸を張って誇る事が出来る、その歴史の担い手の一人に、自分がなる。

冒険者、だからか。もしかしたら”男”に生まれた自分だからというだけかも知れない。
それでも、漠然とした理想すら持っていなかったギコの心は、少しずつ形になろうとする
ジョルジュの野望の前に打ち震え、その場所で共に輝ける未来を予感させた。

少し酒も入っているせいもあったかも知れない。
興奮したギコは突然席を立ち上がり、瞳を躍らせながら指を鳴らす。


( ,,゚Д゚)「マスター! エールおかわり!」

「下はもう店じまいだが……珍しく景気の良い話を聞かせてくれた礼だ。サービスにしとくよ」
  _
( ゚∀゚)「ったく……本当調子の狂う野郎だがな。
     まぁ、よろしくやってくれや―――”大将”」

/ ゚、。 /「……フッ」
  _
( -∀-)(けどまぁ、またえらく個性的な面子が集っちまったもんだぜ)


自身の理想のため、復讐のため。
その為に自分を叩き上げて来たジョルジュの本心は、今では当時のものと少し違えていた。

肉親である姉と、己の故郷を滅ぼした邪龍に対する感情。
それは長年に渡って旅歩く中、これまでの憎むべき怨敵というものからは姿を変えつつある。

言ってみれば―――”好敵手”、それに近いものとして。

867名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 06:47:28 ID:e/DmWKX20

悲しみばかりにとらわれず、そこから這い上がり、己が成すべき事を見出したもの。
悲しみに囚われたばかりに、それから抜け出せず、己の行き場を探しているもの。

グラスの奥底で琥珀色に輝くランプの灯火を、同じように眺める二人。
彼らは志を同じくすれども、思惑は少しだけ違っていた。

  _
( -∀-)(もうすぐ―――)


何かを失った事で、今の彼らは支えられてきた。

全く違うはずの二人が居るその場所は、まるで彼らを繋ぐ一本の線のようだった。
互いに背中を向け合いながらも、目指したものは共に、失ったものを取り戻すための約束の地。

そこからの彼らを分け隔てるのはたった一つ、道行きの違いというだけ――――


/ 、  /(―――逢えるよ)


やがては訪れる。
コインの裏表のような、それぞれの旅の終わりが。

臨むものと、望まざるものの。

868名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 06:48:32 ID:e/DmWKX20


   ( ^ω^)ヴィップワースのようです


             幕間

       「臨むもの、望まざるもの」


             -了-

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