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( ^ω^)ヴィップワースのようです 第11話

883名も無きAAのようです:2013/08/24(土) 18:56:18 ID:P4uzmb2s0

――【オッサム村】地下――



”こつん こつん”

辿り着いた時、その場で二度ほど硬い音を響かせたところで、靴音は止まった。
地上でも既に陽は没しているが、ここではそれ以上に、異質な空気を纏う闇黒が視界を閉ざす。


「やはり、松明は必要となりますか」

”ぽっ”


( <●><●>)


彼は闇に溶け込む濃紺の外套を、ばさりと翻した。

884名も無きAAのようです:2013/08/24(土) 18:57:11 ID:P4uzmb2s0

道の先を照らす光を求めて、掲げた掌の上に魔力の小さな灯を宿す。
何しろ、地上から決して深くはないまでも、今では誰一人として訪れる事の無い霊柩。
予想通りといえばそうだが、灯を前方へ掲げてすら、暗さが上からのしかかってくるような閉塞感。

肌を刺す妙な感覚は、それだけではない。この地がある特別な場所を意味していた。

魔法の松明によって視界に浮かび上がってくる景色は、一面が苔むした石に取り囲まれる。
何かがどこかで、確実に腐れているような。そんな饐えた匂いばかりが鼻腔を刺激するのだ。

広く長く伸びた一本の道は、まるで異界へと続くかのようにその先を黒く塗りつぶしていた。
この場所全体は広大な霊柩であるが、同時に、侵入者を拒む地下迷宮でもある。

”一度踏み込めば、二度と出られない”

常識的に考えれば、今のように発達した魔道や、建築技術が用いられていた訳ではない。
そんなものは迷信で、ただこの地を訪れる者達を追い返すための方便に過ぎぬ。
現に石畳を形成する岩々はなんとも雑に切り出され、いびつに積み重ねただけ、という印象だ。


所詮は―――迷信。

885名も無きAAのようです:2013/08/24(土) 18:58:15 ID:P4uzmb2s0

だが、そんな中途半端な気持ちでこの場所を訪れた遺跡荒しの類は、確かにこの墓所で、
石畳の上に倒れこんでは、冷たい風に当てられながら死んでいった事だろう。

そんな哀れなものたちの亡骸と思しき痕跡は、道を歩く上でいくつも見られた。

彼らは単に、この地の事を知らなかったのだろう。
魔道を往く者でなければ、決して立つべきではない場所だと。

生きた肉体を求める死霊達が彷徨い、それでも奥へと進んだ先。
そこには、墓荒らし達が求める金銀財宝などは存在しない。

ただ老いさらばえた人間の亡骸がひとつ、葬られているというだけなのだ。


( <●><●>)「泣き喚く女の姿でもあれば面白いのですが……
       些か興ざめですよ、何の出迎えもないのではね」


”オッサム”

地図上にはまだ、辛うじて小さなその名前だけが残っている。

886名も無きAAのようです:2013/08/24(土) 19:01:36 ID:P4uzmb2s0

その名は、これよりただ廃村への一途を辿るだけの、今でこそ寂れた村としてだが。
しかし、魔術を究めんとするものならば、殆ど全ての者は知っている。

この場所が、一度は繁栄の頂点に立つ程の、強大な古代魔法国家であった事を。
今でこそ語り失われつつもあるが、誰よりも深くその名を印象に残していたのはこの地域の人々。

地下迷宮の全ては、たった一人を葬るために作られた王墓である。
魔術を用いて他国を圧倒し、国家を最強たらしめ続けた”オサム王”が眠る場所なのだ。


( <●><●>)「ふふ。左右へと続く、無数の道ですか」


一度、二度と、頭を振る。

”下らない”

心底、そう思っていた。

どこまでも奥深く伸びる道も、立ち入った先では何故か無限に続くような回廊も。
ただ広さを確保するだけの建築技術に併用した、魔術によるまやかしに過ぎない。

887名も無きAAのようです:2013/08/24(土) 19:02:20 ID:P4uzmb2s0

そうした罠がいくつも張り巡らされているのは、事前準備の段で知っていた。

その全てが虚飾であるという点においては、それはきっと仮初めの繁栄を謳歌した彼、
オサム王そのものの姿を映しだした、皮肉だけは良く出来た墓所であると言える。


( <●><●>)「死霊の類はこの私に挨拶一つも無く……そればかりか、
       この子供だましのトラップなどは、バレバレもいいところですねぇ」

男は立ち止まり、そこで中空を撫ぜるように右腕を凪いだ。

”カシンッ カシンッ”

途端に上下左右、予め小さく丸穴が開けられていた場所からは、こうして
スピアがその場所に立つ存在を串刺しにしようと勢い良く飛び出すのだ。


全て、理解っている。

888名も無きAAのようです:2013/08/24(土) 19:03:26 ID:P4uzmb2s0

わざわざつぶさに観察などせずとも、予め魔力探知の領域を周囲へ張り巡らせておけば、
迷宮を守るつもりで置かれた、有象無象の小細工など全く通用しない。

こんな場所で死んだ人間がいるのだとしたら、あまりにも浮かばれない最期ではないか。
今となっては錆付きのあまり、槍術の練習用武具であるかのように摩耗した丸い刃。
よしんばそれにわざと引っかかってみたにしても、痛みを感じる事すらないだろう。

視線を落として気付いた――――可哀相にもほどがある。
今では無害でしかないスピアの射出口に付近に横たわる、小さな骨片の哀れな亡骸の姿。

思わず、苦笑の込み上がってくる光景だ。

そんな悲しき亡者たちが行く先に現れるかとも思われたが、どうやら、安らかに眠っている。
彼らたちにとっての”王”の御前であるからか、あるいは生ある人間であるにも関わらず、
そこから嗅ぎ取れるのは同じ死人としての臭いだけだからか。

死者たちは、ただこの背中を見送っているのだろう。

889名も無きAAのようです:2013/08/24(土) 19:04:17 ID:P4uzmb2s0

( <●><●>)「……この分では、率直な所大変残念な予感がしますよ。
       古代魔法国家の繁栄はおろか、”貴方”の力までもが虚飾なのではないかとね」


賢王か、あるいは愚王か。

恐らくは後者でなければ、一見、嘆き悲しむ民たちによって”丁重に葬られたように見せかけ”、
その実”二度と解放するものが現れないように”と、わざわざ奥底に封じる事に意味は無い。

だが、愚王であるとすれば――――オサム王の力は”本物”である。
別段それに目覚めたのが、生前、あるいは死後に関わらずどちらでもいいのだが。

怨嗟渦巻く力場において生みだされる存在の一つに、
強烈な残留思念や、そこへと引き寄せられる死霊の複合体である”レイス”がある。

例えばあれらは、精神の薄弱な人間ならば、たった一度触れただけで対象を死に至らしめる。
生ある者たちを冥府へと誘うその姿は、死神とも同一視される高位の不死者として恐れられているが、
それよりもさらに高位の霊体があるとするならば、それこそ”死神”の理想像といっていい。

  リ ッ チ
”魔導死霊”

890名も無きAAのようです:2013/08/24(土) 19:07:05 ID:P4uzmb2s0

負の思念を呼び込む力場にて、溜め込んだ怨嗟を糧として自然発生的に生まれる存在。
ある意味では人から姿を変えたものとして、具現化した大小様々な死霊の類と、根源的には変わらない。

大陸歴800年にも及ぶ歴史の遥か昔より、生命の転換はあり得るものと語り継がれてきた。
死霊術を学ぶ上ではよく愛読した、”死をくぐる門”の中にも、そんな記述があった。

”確かに実在する”のだとは、信憑に足る地位の魔術師達から幾度も示唆されており、
今の大陸歴の中でもどこかの頁には必ずその名を刻み込みながら、そうして今日へと至る。

死霊の一種である以上、朝や昼、陽の差す場所には具現化し得ない不安定さは変わりない。

実在が囁かれながらも、一度も詳細な情報が文献に載ることがなかったのは、
遭遇した人間が例外なく、速やかに取り殺されているからだとすれば、まぁ妥当なところか。


( <●><●>)「同じような一本道ばかり……正直、飽きてきましたよ」

891名も無きAAのようです:2013/08/24(土) 19:07:58 ID:P4uzmb2s0

代わり映えの無い道程に肩をすくませながらひとりごち、募らせていた好奇心が削がれる。
間を置いて、再び思考を何一つ阻むものの無い水底の深くへと巡らせた。

魔導死霊を発生させえる”力場”についても考えてみた。
これには自分の中でほとんどの答えは出ているのだが、何の事はない。
平坦な一本道を最奥へと向けて歩き続けるだけの、暇を潰すためだ。

戦争に巻き込まれ、例えば女、子供、老人分け隔てなく、同じ場所で仲良く命を落とす。
あるいは殺人にこのうえなき快楽を憶える暴君が、領民を次々攫っては、虐殺し、蹂躙する。

結果、どちらの力場においても同じく、レイスに匹敵する死霊は生み出されておかしくない。

まさか強い力場が発生する条件とは、悲劇の”質”などではないとは思うが、
単純な数の犠牲だけでも法則が成り立つのだとしたら、それはそれで笑い話だ。
魔術師界隈では特に受けのいい、話の種にはなる。

数万もの民を一箇所に集めて、出来るだけ苦しませぬいた挙句にその生命を踏みしだく。
そんな事で、大陸全土の人々を死に至らしめるような、強力な悪霊が誕生するのではないかと。
思わずそんな妄想を浮かべては、笑いが吹き出しそうになった。

だが、より強力な死霊が誕生するためには、恐らく”質”と”数”、そのどちらもが無視出来ないのだろう。

892名も無きAAのようです:2013/08/24(土) 19:08:50 ID:P4uzmb2s0

( <●><●>)「ふふん? あれに見えるは……そうですか。封印は、多重に……」


死霊を生み出す力場を形成する要素に、負の感情をその場へと引き寄せる、怨嗟は必需。
そしてそこからは嘆きの数が多いほど、恨みの根が深い程に、強いものが生まれる。

――――――果たして、そうであろうか?

これを、”逆”に考えてみればどうなるか。
発想の転換というものは、いつの時代も新鮮な発見をもたらすものなのだ。

多くの人間が一人へ向けて負の感情を注ぎ込む場合の、その真逆の場合を想定した。

一人の人間がより多くの人間に対して、
妬み、嫉み、僻み、羨み、憎み、怨み―――忌み嫌う。

それら負の感情をぶつけてやりたい相手は、波打ち際の砂粒の数ほども存在しているというのに、
ただ一つの恨みをも晴らす事すら出来ないのは、当人にとってはどれほどの無念であるのか。

893名も無きAAのようです:2013/08/24(土) 19:09:44 ID:P4uzmb2s0

特に、優秀であったり愚鈍であるが故、爪弾きものと扱われ凋落を辿る道中では尚更だ。
”集”の力が強ければ強い程に、”個”の主張は受け入れられず、かき消される。

多数の弱者に葬られる強者も、多数の強者に嬲られる弱者も、きっと同じだけの怨恨を持つだろう。
無論、その逆も然り―――だ。力場を取り巻く環境という”誤差”こそ生じれど。

相対的に、互いの存在は肯定も否定もされ得る。

誰に復讐していいか解らなくなってしまうというのは、特に注視すべき重要な事項であろう。
裏を返せば全てを憎み、誰にでも復讐をしたがる―――そのようにもなり得る。

何よりも大きく複雑に絡み合った負の感情の複合体を支えるのは、生前にてそれら成すべき事を
為せなかった事によって、たとえ自らの死後であろうとも忘れられざる、深くに刻まれた”悔恨”か。


( <●><●>)「これは―――入り口にあったものと同じ……いや、更に複雑に絡んだ術式ですか」

894名も無きAAのようです:2013/08/24(土) 19:10:41 ID:P4uzmb2s0

自らの側近による謀略に貶められてか、あるいは分をわきまえぬ行いの末の誅殺。
感謝されるべき立場の者が、裏切りの末に殺されるなどはさぞや”寝苦しい”ことだろう。
ましてやそれが、自らの庇護のもとで共に繁栄を謳歌してきた民々による行いであるとすれば。

そう、この王墓にはより強い思念が引き寄せられる力場として、この上ない条件が揃っているのだ。

これまでの古書物の中でも存在が信じられてきたように、魔導死霊は確かに生まれる。
だが、きっとこれまで現れたとされるものは、精々がレイス程度の力を持った亜種であり、
相対するものとしての力量が足りないばかりに、正確な情報を持ち帰る事が出来なかっただけだと推測する。

そして、その名が冠す通りに魔導死霊というものが他と一線を画する部分は、魔力を宿す事。

取り込まれた肉体の残骸を、ただ引きずっているような低級の不死者などとは明確に違う。
術式を展開するだけの高度な知能が、肉を持たぬ身体となった霊体にも継承されるのが所以だ。
当然、通常の不死者同様にも他の肉体へと入り込み、意思を支配する事も可能であろう。

近隣諸国を強大な魔法を持って攻め滅ぼし、国家に栄光をもたらし続けたオサム王。

だが、彼は隆盛の丘を駆け上がった先、その場所の頂上に辿り着いた時に亡き者とされた。
それは皮肉にも、自らが守ってきた民の手によって、背中から討たれての最期だという。

895名も無きAAのようです:2013/08/24(土) 19:11:38 ID:P4uzmb2s0

滅ぼされた他国の者達から、知らず知らずの内に向けられる憎悪。
その地に住まうというだけで、周辺からは力に溺れて戦に明け暮れる狂王と、同列視される。
いつしか、積み重ねられた隆盛が瓦解(がかい)した時の事を、民もまた恐れたのだ。

最強の魔法国家とて、周囲全てが敵となればその地位を堅持し続けるのはたやすいことではない。
民はいずれ自分たちにも向けられる事となるであろう、復讐の刃から逃れるために自らで終わらせた。

富や力を、”持ちすぎる事を恐れる”人間というのもいるということだ。
自らが築いた一時代、自らの国家に存在を否定され生涯を終えた―――哀れなる亡国の王。


”オサム=ザルク=アオスシュターベン”
賢しき愚者―――その彼は、未だこの地に留まっているのか。


( <●><●>)「―――おかしい。何なのです、解呪が……ままならない?」

896名も無きAAのようです:2013/08/24(土) 19:12:22 ID:P4uzmb2s0

通路の途中に現れたその石碑には、細かな文字がびっしりと刻まれている。
だがそれは単なる碑ではなく、解呪のための魔力を感知してか、その上に魔法陣が浮かび上がった。
この王墓へと降りてくるための地上にあった封印とは、また術式の違ったものだ。

魔術体系からして、大陸のものとは大きくかけ離れている。
それは確か、東洋に浮かぶ小さな島国のシャーマンが用いる術だった。
もっとも、文献に目を通した所ではそこから学ぶべき物はさほどなかったように思う。

更に”解呪の法”を試みようとして押し当てられた指先で、光が奔った。


”バチッ”


( <●><●>)「……違いますね。これは、”妨害”されているのでしょう」


そう、紛れも無く何者かの意思が感じ取れる仕掛けのようだった。
この迷宮に幾つも張り巡らされた罠を作用させるべく残された、遠隔発動式の魔法。
それらはこの解呪の法一つで、どれも容易に脅威を削ぐ事が出来たはずだ。

897名も無きAAのようです:2013/08/24(土) 19:13:08 ID:P4uzmb2s0

しかしその中でも、これは特段に固く封印の施されたもの。
解呪しようとしたそばから魔力を寄せ付けず弾く、抗体魔術が掛けられている。

現地式の解呪法を身につけておくべきだったかと、些か後悔の念が浮かんだ。

だが、魔力を受け入れるための水槽から許容することの出来る量を溢れさせてやるか、
あるいはその効力を失うまで反応させてやる事で、抵抗を無力化する事は可能だろう。
本来は、決められた手順を踏むという工程が極めて重要視されるのが魔術であるため、
型破りなそういった手法は好ましくない以前に、あまり見栄えせず褒められたものではない。

だが恐らくは、魔力をこの石碑に感知させてやる事で、何らかの反応を示すはずだ。


( <●><●>)「やれやれ―――王の墓所に辿り着くまでには、あまり無駄な力を使いたくなかったのですが」

898名も無きAAのようです:2013/08/24(土) 19:14:08 ID:P4uzmb2s0

言って、再び手を伸ばそうとした時、ある異変に気付いた。
周囲の大気に溶けこむように、ちらちらと輝く何かが集まってきている。

最初は霧状だったそれは次第に粒状へと寄せ集まり、何らかの形を模そうとしていた。
霊体とも、魔力による物質ともつかぬいささか不安定な存在だ。


( <●><●>)「………ッ!」


やがてそれらは、石碑の上で一人の男の顔のようなものを、ぼんやりと映し出す。


(   )(……立、ち……さ……れ……)


ひどくくぐもった声で、大きな揺らぎを繰り返す不明瞭な声が響き渡った。

どうやら、単なる死霊の類では無いらしい。
この石碑の封印自体が、何者かの霊魂を内包したもののようだ。

輪郭もおぼろげに揺らめくその男の表情は窺い知れないが、オサム王をこの地に葬った一人か。

899名も無きAAのようです:2013/08/24(土) 19:14:53 ID:P4uzmb2s0

( <●><●>)「先ほどから魔力を阻害していたのは、貴方ですか」

(   )(……オ…ム……を眠り……覚ま…ては……い……)

( <●><●>)「貴方は何者です?」

(   )(………)


名を尋ねてみた所で、会話が成立するものでもないだろう。
王か誰かの手によって封じられた、という訳でもなさそうだった。

あるいは、”警鐘を打ち鳴らそうとしている”風にも見える。


(   )(……いち……どは……倒し……は、ず……)

(   )(……やつ、は………よみが…り…)

( <●><●>)「ふ、ふはははっ、貴方……もしや王と面識が?」


(   )(……人間……に負え……もの……で……は……)

(   )(……人の、世…に………わざ、わ……いを……)

900名も無きAAのようです:2013/08/24(土) 19:15:40 ID:P4uzmb2s0

( <●><●>)「是非お聞かせ願えませんでしょうかね、王は今、どちらに……!」

(   )(……已むを…ず……私、は……命と……かえ……封、じ……)


やはり、問いかけに応じる様子はない。
彼がこの場に縛られているのは、王の眠りを妨げる者が現れる事のなきよう、
墓守としての役目を仰せつかっているのだろう。

だが、これでオサム王の”存命”も確認する事が出来た。


( <●><●>)「……ふぅ」


数年、あるいは数十年の時を経て、地の上に立つかつての民々へ向けた怨念が王を蘇らせた。
魔法国家を率いたかつての王の魂は、今度は遍く不死者の王として姿を変えたというわけだ。

901名も無きAAのようです:2013/08/24(土) 19:16:29 ID:P4uzmb2s0

男の霊魂の言葉は殆どがかすれて聞き取れないが、言葉の端々から事の経緯は読み当てられる。

当時、まず”王の帰還”による異変を察したのは、心当たりがあったかつての国民達だろう。
多くの者が呪力の干渉を受け、頭を悩ませた彼らは、やがて王の呪いから解き放たれる道を模索する。
その成れの果てがこの霊魂であり、おおかた復活した王の討伐を託された―――そんなところか。

数百年にも渡って己の思念を後世へ遺す事が出来るあたり、当時としてはかなり力のある魔術師だろう。
自らの命をも投げ打って、一度はオサム王の死霊をこの地に封じ込めたのだ。


(   )(……た、ち…………れ……)

( <―><―>)「やれやれ――お話にもなりませんか」


( <●><●>)「ですが、貴方のような方には敬意を払いますよ」


見上げた亡霊の顔を、二本の指で刺す。
小さく呟いて、そこから閃光が迸ると、亡霊の眉間は光の矢に穿たれた。

”ぴしゅんッ”

902名も無きAAのようです:2013/08/24(土) 19:17:11 ID:P4uzmb2s0

(   ;,.(……う、……お……)

そこからはまるで雲がかき消えるようにして、形を失った男の霊は霧消していった。
最後に、はっきりと耳元で囁くような明瞭な言葉を残して。


(……愚かな、選択だ……)

( <●><●>)「せめてもの餞です。それでは、どうぞごゆっくり……」


この男もまた、永きに渡ってこの地に縛られてきた王の犠牲者。
その死は使命に後押しされたものであるかも知れないが、哀れみを禁じ得ない事に変わりはない。

一度は封じ込められた王の御霊、果たしてそれで彼の憎悪の鎖は解き放たれたのか。
そうではなかろうと―――確信しているからこそ、今この場に立っている。

石碑の元を離れ、再び奥を目指そうとした時だった。


”ごとっ”

903名も無きAAのようです:2013/08/24(土) 19:18:20 ID:P4uzmb2s0

完全に男の霊の気配が失せた直後に一度、重い音と共に足元を揺らす。
音の方へと視線を向けると、そこでは、石碑の裏に敷かれた石畳の床が、次々と抜け落ちていた。


( <●><●>)「………!」

”がっ ごごっ”


近寄ってみると、そこだけ周囲の石と比べてはやや真新しいものだけが階下に降り注ぎ、
やがて長年隠されていたと思しき、地下への隠し階段がその姿を現した。


( <●><●>)「フ―――フフッ、フハハッ……どうやら、窮余に残された、最後の力でしたか……!」


闇のしじまの中にぽっかりと口を開けた漆黒は、更なる深淵へと続く道。
この先には間違いなく、冥府へと誘う不死者の王が眠っているのだと確信した。

怒涛に流れこんでくる冷気、肌をびりびりと刺す魔の残り香―――立ち込める死の匂い。
その場所は、死を潜り抜けた存在が手招きをしているようであり、息を呑む重苦しさを感じた。

904名も無きAAのようです:2013/08/24(土) 19:19:10 ID:P4uzmb2s0

( <●><●>)「さすがに迫力、ですね……」


やがて、階下へと続く道を覆い隠していた全ての石畳の崩落が収まったのを見計らって、
闇の奥に今も眠るであろう王の霊柩を目指し、その勇み足を踏み出した。

静まり返った更なる地の深くで、靴音だけが等間隔で踏み鳴らされる。
これほど手厚く王を葬る理由は、当初数多く存在したであろう、墓荒らし達の目を欺くためか。

そんなはずがない。

降りていくにつれて、肉体ではなく、鋭敏に研ぎ澄まされた第六感の訴えを感じていた。
肌には緩やかに吹き抜ける風とも感じられるが、しかしそこに滲んでいるのは、凶兆。

膨大な魔力の片鱗が溶け込んだ、颶風(ぐふう)が吹きすさぶ。


”ぼっ”

905名も無きAAのようです:2013/08/24(土) 19:19:51 ID:P4uzmb2s0

人一人が辛うじて通れる程度の細い道。
ある程度進んだ所で、その両脇に等間隔で並んでいた燭台に突然火が灯された。

青緑色のその炎には、予てよりそうした仕掛けが施されていたとは感じられない。
まるで、あるものの凱旋を祝しているかのように。

”ぼっ”

歩を進める度に、その先では燭台が青緑を宿す。
復活の魔力に当てられたか、いや―――招いているのだ。


( <●><●>)「………」


やがて、どれほど地下深くまで降りて来たのか。
とうの昔に命ある者としてたどり着ける場所との境界は過ぎ去り、
今自分は、死後の世界に立っているのではないかとの錯覚を憶えた。

そこは荘厳な雰囲気を醸す、大広間の一室だ。
小部屋というにはあまりにも広く、しかし味気の無い作り。

ここから先へと続く道は、もはや見当たらない。
そして、求めていたものはその場所で、静かに佇んでいた。

906名も無きAAのようです:2013/08/24(土) 19:20:31 ID:P4uzmb2s0

”ぼっ ぼっ ぼっ”


部屋中に置かれた燭台が次々と青緑の炎を宿していく。
やがてその全景が照らし出されると、魔力の松明ももはや必要なくなった。

広間の中央にはぽつんと、ただ一つの石棺だけが置かれている。


( <●><●>)「クク……クハハ……! ご拝謁、賜りたく……」


返事はない。広間には、その声だけが木霊した。

自然と笑いが込み上げ、心は躍り―――右胸を掴んだ手にも、ついぞ力が込められて。
心持ちゆったりとした歩調となるよう意識して、王の棺の近くへと歩みを進めてゆく。

静かに横たえられる石棺を見下ろせば、その上蓋には幾つもの烙印が刻まれていた。
それらは罪人への咎を意味したものであろうか、もしくは、魔を嫌う封印か。

だが、先ほどの墓守の力が石碑から失われた時点で、既に兆しは告げられているのだ。
やがて灯された燭台の灯火たちが、一斉に揺らめいた。

”王の帰還”―――もはや、復活の時は訪れたのだと。

907名も無きAAのようです:2013/08/24(土) 19:22:39 ID:P4uzmb2s0

( <●><●>)「【……災いなるかな、無知なる民よ 幸いなるかな、不死なる魂】」


”コォンッ……”


( <●><●>)「【忘れ得ざる恨みの地 汝を縛る大怨を 決して忘るる事勿れ】」

( <●><●>)「【汝、再び彼の地より 永きに渡る眠りから蘇らん事を賜わん】」


”コォンッ……”


背に負っていた鋼杖、それで一定の間隔を保ちつつ地面を叩く。
石棺の傍らで、未だその中に眠る王を呼び覚ますべく。

本来ならば対人における洗脳などを司る”精神支配の法”がある。
これは、それに強力な触媒となる魔具をもって、術の配列に改竄を施したものだ。
言うなれば”死霊従属の法”といったところか。

死霊や屍鬼の根底に沈む負の思念を呼び覚まさせ、それらの意識を支配する事によって
対象には”術者への服従”という責を与え、自らの言いなりとなるよう、支配下に置く。

910名も無きAAのようです:2013/08/24(土) 20:54:43 ID:P4uzmb2s0

( <●><●>)「【掲げよ、汝が築いた栄光を 偲べよ、亡れ打ち砕かれし武勲を】」

( <●><●>)「【伝えよ、忘れられざり其の力を以ってして】」


不死者の王のような超越者と比肩しては、あまりに力なきはずの人間。
だが、限りなく死に触れ得る間近に居ながらして、寄る辺無きものの支えとなるのがその鋼杖。

死霊術を扱う上では本来、それほど強力な触媒を介さずとも、亡者を操る事は出来る。
熟達をみればさらにより多くの数、より強力な不死者であろうと、その限りではないだろう。
だがその対象も、旧暦に史上最強の魔を冠した死霊ともなれば、術を媒介する手助けは欠かせない。

そしてその”支配の杖”には、文字通りにかなりの念が込められていた。

精神を術者の意のままに染める魔具であるそれには、後からはめこまれた紫光を宿す玉石。
これは多くの人間の魂、高純度の負の思念ばかりが封じられた黒魂石を、精製したものだ。


”コォンッ……”

”かたっ”

911名も無きAAのようです:2013/08/24(土) 21:03:49 ID:P4uzmb2s0

( <●><●>)「【率いよ、永劫の盛栄を約束されし 汝が黄金の時を取り戻さんがため】」


”かたたっ”


( <●><●>)「【不浄なる血脈を継ぐ者どもに 其の芳名をともに知らしめよ】」

( <●><●>)「【我が、”ベルベット=ミラーズ”の名の元に―――】」


”がっ がたたっ!”


棺が内側から叩かれような音、微かな反応を見せていたそれが、ここに来て一層強まった。
それに伴って、地面へと鋼杖が振り下ろされる間隔も、それに込められた力も増していった。

やがて”名”を口にする時、それはもっとも強く。


”コオォ……ォンッ!”

( <●><●>)「【応えよ―――”オサム=ザルク=アオスシュターベン”】」

( <●><●>)「【今ひとたび 不死なる者の王として】」

912名も無きAAのようです:2013/08/24(土) 21:07:47 ID:P4uzmb2s0

先端に薄紫の玉石がはめ込まれた鋼杖から、その瞬間、幾重もの紫光の束が迸った。

石棺の元へと伸びていくそれらは、まるで籠をでも編みこむかのように折り重なり、
間もなく棺を破ろうとしている王の周囲を取り囲んで、目覚めの光を与える。

同時にその光で、”我が名に屈服せよ”と告げながら。


( <●><●>)「……さぁ、王よ。ともに不死者の楽園を、築こうではありませんかッ……!」


”バヅンッ”

やがて術の終わり際―――それまで棺を多い包んでいた薄紫の光は、突如音を立てて四散した。

直後、広間全体にしゃがれた老人のものであるかのような声が響く。
それは厳かで、重苦しく。まるで、頭の中に直接語りかけるようにして。

極めて不安定な波長の声色で発された言葉は、一拍間を置かなければ到底聞き取れないような声だった。

913名も無きAAのようです:2013/08/24(土) 21:11:04 ID:P4uzmb2s0

( <●><●>)「―――ッ!」


「ナ                に             
    ん         ク          シ   タ
         と       ち           か」


音もなく、少しずつ、確実に。
オサム王が収められた石棺は地面から離れ、ゆっくりと浮遊していった。

固唾を呑んで見守る光景の中では、考えうる中で最悪の事態が予期出来る。


( <●><●>)「―――”抵抗”、された……?」


完全な目覚めを迎えるよりも早く、王の亡骸は支配の杖から放たれた魔力に当てられた。
だが彼は、必中をもって放たれたその術の支配に抗ってみせたのだ。

この為に、どれだけ多くの死を供物としてきたというのか―――苦い表情が浮かぶ。

914名も無きAAのようです:2013/08/24(土) 21:13:55 ID:P4uzmb2s0

棺ごと腰元辺りにまで浮き上がると、横たわる人間が起き上がるかのように頭を起こす。
やがてはその場へと立ちすくみながら、対面するような格好となっていた。


「イ  い
   ま   ド  問
      ち     ゥ  
           お ぞ」


棺と上蓋との間、そこからはずり、ずり、と石の擦れ合う音。
触れずにいるにも関わらず、自然とその隙間は押し広げられていく。

やがて、内側から唐突に伸ばされた指が棺の縁をはし、と掴んだ。
血の気が一切通わない土気色。老いさらばえ、朽ち果てた枯骸のような、細長い指が。

間も無くして、霊柩の中で影に潜む、王の眼窩におさまった瑠璃が一つ。
闇よりも昏く―――深く、青い光彩を宿したその瞳が、ただ、こちらを覗いていた。



【+  】゚)

915名も無きAAのようです:2013/08/24(土) 21:16:07 ID:P4uzmb2s0

( <●><●>)「驚かされはします……旧き魔術の使い手と言えども、ここまでとは……」

(#<●><●>)「ですが、この私を前にして……涼しい顔をしていられるのは夢見が悪い……ッ!」

”コォンッ”


更なる魔力を杖へと込めて仕切り直し、再び詠唱。
何度か力強く地面へと突き立てられた支配の杖が、妖しい輝きを帯びていく。


(#<●><●>)「―――従属せよ、主たる我が魔力の下にッ!」


魂の捕縛を司る黒魂石の玉石からは魔力が迸り、またオサム王へと向けられる。
だが、それでも棺の中の彼にまでその魔力が届く事はなかった。

”バリッ バチチッ”

不可視の壁が、その到達を寸前で阻んでいるのだ。
せめぎ合うお互いの魔力は火花のように、やがて目にも眩しい輝きを散らせた。

916名も無きAAのようです:2013/08/24(土) 21:17:19 ID:P4uzmb2s0

【+  】゚)「……ふ、……ム」


弾け飛ぶ魔力の残滓を観察するまでの王の余裕を、脅かすに至らないのは明らかだった。


(#<●><●>)「な、違うゥッ! 抗うのではない……ひれ伏すのですッ!!」

”ぴしっ”


首に青筋を立ててそうして声を荒げた胸下では、微かな異音。
視線だけをそちらに向けたが、気付くのは―――あまりにも遅かった。


”みし、ぱきぱき、びし”

(#<●><●>)「………ッ!?」


手にした鋼杖全体には細かな亀裂が走り、その合間から僅かな光が漏れていた。

917名も無きAAのようです:2013/08/24(土) 21:19:08 ID:P4uzmb2s0

強烈な魔術抵抗の余波を受け、杖に秘められた魔力が内部で暴走している状態。

亀裂から剥がれ落ちた欠片は次々と地面へ落ちていき、砂塵と消えゆく。
呆気に取られた表情で光景を見送る内、そして最後に、心臓部の玉石が真っ二つにひび割れた。

鮮やかでさえあった紫の色。そこからは完全に彩りが失われ、瞬時にして黒ずんだ。

もはや効力を失った杖だが、その黒魂石から漏れ出たのは、霞のような死者たちの魂の残骸。
それだけが、まるで主の元へ還って行くかのように、オサム王の元へ吸い込まれていった。


【+  】゚)「……コレ、は……心地、がナかナか、ヨい……」


枯骸でしかなかったオサム王の身は、杖の力を吸収した事で先ほどよりも幾分か肌艶を増し、
恐らくは生前の自らの姿であろう、威厳ある髭を蓄えた老王の姿へと変貌していく。

918名も無きAAのようです:2013/08/24(土) 21:22:33 ID:P4uzmb2s0

しかし完全な姿を取り戻すまでにはまだ力が足りないのか、
棺の中にある半身だけは、生気の抜けた枯骸としての姿を薄っすら影の中に潜めていた。


【+  】ゞ゚)「ソ――そ、其ノ方、何者、ぞ」

( ;<●><●>)「……くっ、くくく。死後も他者に屈する事無きその魔力、本物でしたか……」

【+  】ゞ゚)「コ、答ヱよ。其の方、余ニ何と申シたか」


一介の魔術師如きの干渉など問題にせぬ。
ましてや、他者にこの玉座を脅かさせる事などまかりならん。

静かな瑠璃の色が告げる。そこには、獰猛な殺気をも孕んでいた。


【+  】ゞ゚)「軽々しク王たる我ガ御名を口にしタ罪。ば、万死ヲ以っても贖えヌぞ」

919名も無きAAのようです:2013/08/24(土) 21:23:27 ID:P4uzmb2s0

( ;<●><●>)「―――これは、大変な失礼を。私、ベルベット=ミラーズと申す者」

( ;<●><●>)「貴方を縛る封印の軛。私の力によって、それから解放させて頂いたのは他でもありません」

( ;<●><●>)「オサム王よ……是非この私と共に、不死の者達で溢れる楽園の王国を―――」


”ぎゅん”

”ぼきゃっ”


( ;<●><●>)「………なん………」

【+  】ゞ゚)「―――万死ヲ以っても贖ヱぬと、申シた」

920名も無きAAのようです:2013/08/24(土) 21:24:12 ID:P4uzmb2s0

力で従わせられないのならば、せめて助力をも仰ぐ。
破れかぶれ、苦し紛れ、いちかばちか。

そこまでの理想だったのだろう―――死人が生者の声に耳を貸す事などないのに。
あるいは手に負えぬ対象は始末するべきと、対峙していればまだマシだった。

しかし一度平伏させられた力関係は、もはや覆す事かなわない。

右腕はぴんと糸に引かれるようにして上へと巻き上げられ、
肘から先の関節が極めて不自然な方向へと折り曲げられていた。

無手にて死神の前に立ち、弁を振るう。それは命を捨てた者のする事だ。



( ;< >< >)「―――がっ、ぎゃああぁぁぁッ、ぐ、あぁぁぁッ!」

921名も無きAAのようです:2013/08/24(土) 21:25:56 ID:P4uzmb2s0

【+  】ゞ゚)「ツまらぬ」

”べしゃんっ”

( ;< >< >)「が……はうぅッグ―――!」


掲げられた掌が下へ向けられると、不可視の圧力に逆らえず、顎から床へと叩きつけられる。

”自分の魔力を持ってすれば、不死者の王をも従えられる”
分を弁えず、そんな根拠のない自信に支えられていた理想は、脆くも崩れ去った。

力なき者達が、うつろう蜃気楼の中に手を伸ばし夢見た、砂上の楼閣。

その場所に辿り着いた時、多くの者は現実の痛みを知り、夢破れて呆気無く死んでいく。
だが己の理想に殉じられると考えれば、彼らにとってはそれも本望か。

進行の妨げになるのであれば始末するつもりだったが、もうそれには及ばない。
なかなかに見事な手並みであった道先案内人には、一足先にご退場願うとしよう。

そしてここより先は、”こちら”の領分だ―――

922名も無きAAのようです:2013/08/24(土) 21:28:42 ID:P4uzmb2s0

【+  】ゞ゚)「―――しテ、其の方、何者カ」


ついそこで返事をしてしまいそうになったが、まずは一切の物音を外部に漏らさぬようにと、
自己の周囲を対象に張り巡らせておいた封音の術を解いてから、その問いかけに応えた。


    「気付いておいででしたか」


見据えた先の虚空に響いたその声に、王は目を細めて小首をかしげる。
へし折られた腕の痛みに喘ぐ男を、間に挟んだお互いの立ち位置。

他者の目を欺く自らへの隠蔽魔法を解き放った時、そこで視線は既に交わされていた。


”ブンッ”

( ・∀・)

【+  】ゞ゚)「………」

923名も無きAAのようです:2013/08/24(土) 21:29:57 ID:P4uzmb2s0

( ;< >< >)「……ッ!?」

唐突に、脈絡もなく姿を現したこちらを見て、さぞや驚いた事だろう。
王の御前で頭を垂れて控える男が、苦悶の表情を浮かべながらも目を丸くしていた。

その彼を見習って、仰々しいまでの仕草で速やかにその場へと膝をついては、
生前にも死ぬほど聞かされたであろう社交辞令を、白々しくもぶつけてみる。


( ・∀・)「かの勇名高きオッサム王におかれましては、御機嫌麗しく」

( ・∀・)「ご拝謁叶えて、身に余る光栄でございます」


【+  】ゞ゚)「……フ、む……?」


どうやら、その興味を引いたのは自らも持ち合わせない、未知の魔術の方か。
”興味深い”とでも言いたげに、王は顎を撫でながらこちらを見下ろしていた。

924名も無きAAのようです:2013/08/24(土) 21:33:16 ID:P4uzmb2s0

気配につながる全てを消して、生命力の残滓はおろか探知すらも反射していたはずが、
それでもこちらの存在に気付くあたりは、やはり王たるもののスゴ味といったところか。

人とは異なる存在に身をやつした存在であるからこそ、より魔の香りにも敏感なのだろう。


【+  】ゞ゚)「……何、者ぞ」

( ・∀・)「―――前置きはさておいて、先に謝っておかなければなりません」

( ・∀・)「起き抜けに不躾な手合いばかりと引き合わされ、心中はお察ししますがね」

【+  】ゞ゚)「答ヱよ、何者であルかヲ」


礼を欠いた無作法者達の来訪に怒りが心頭―――血の通わぬ不死者に、そんな不要な感情はない。

ただ、こちらの力量を見極めようとして放たれたものだ。
手の甲を逆向けて、持ち上げるような仕草でその”力”を向けたのは。

925名も無きAAのようです:2013/08/24(土) 21:35:20 ID:P4uzmb2s0

”バヂンッ―――”


あるいは王は、先ほどの男と同じ結果がそこに生まれると思い浮かべただろうか。

その通り。確かにそうなった―――自身の放った魔力が、障壁による抵抗を受けて通らない。
そして、その光景をまるで、他人事のようにこうしてこちら側が眺めていられるというのは、
先ほどのオサム王自身をなぞるような、映し鏡としての光景だった。


”ギュグッ…バチッ”

( ・∀・)「すごいな。すぐにでも破られてしまいそうだ」


目の前に展開したのは、上位精霊魔法をも弾く硬度にまで練り上げた魔防障壁。
不可視だった王の力は、その障壁に介入しようとしている今、影響下に晒され頭上で顕在化していた。

人一人を握りしめられるような、浮遊する巨大な手首が。

926名も無きAAのようです:2013/08/24(土) 21:38:37 ID:P4uzmb2s0

【+  】ゞ゚)「……答ヱぬか」

( ・∀・)「ははっ、これはこれは―――つい、見惚れてしまいましたよ」

【+  】ゞ゚)「………」


手首を返して、今度は広げた掌を突き出した。

にわかに大気中をちらちらと結晶が舞い始めると、それらは王の掌へと収束していき、
一度引いた腕を再びこちらに向けた時、その周囲では無数の氷結した刃が光彩を放った。
十の剣の手数にも勝るであろうそれらが王の手を離れた途端、驟雨(しゅうう)の如く一気呵成に打ち寄せる。


”ギギンッ パキャンッ”

( ・∀・)「すごい速度です」


次々とへし折れては、粉々の氷塊となって散り際にそれらが輝く光景を、頭を振って見送った。
その上では、未だ障壁をこじ開けようとする大きな王の掌が、五本の指全てをそれに突き立てている。

927名も無きAAのようです:2013/08/24(土) 21:41:21 ID:P4uzmb2s0

”手”は魔法との同時発動も可能なのだろうか。切り離したものと考えるべきか。
どちらにせよ、見込み以上のものを次々と見せてくれるその力は、感嘆するほかない。

見れば、二指をこちらへと向ける王の姿があった。
再び言葉を投げかけると、一度だけ魔攻の雨あられは止んだようだ。


( ・∀・)「……無詠唱、無反動。強力無比なそれらは、恐らく多元素にも渡るのでしょうね」

【+  】ゞ゚)「何故、余の前ニ立つ」

( ・∀・)「そう言えば申し遅れました。私、”モララー=マクベイン”と申します」

( ・∀・)「端的に言って、貴方の力を欲しているのですよ。”貴方自身”と言ってもいい」

【+  】ゞ゚)「……わかラぬ」


( ・∀・)「”お前ほどの魔術師がなぜ”……とでも、お思いでしたか?」

928名も無きAAのようです:2013/08/24(土) 21:42:29 ID:P4uzmb2s0

【+  】ゞ゚)「ヨい……啼イておレ」


そう呟いた王の手元には、紅く、赤く炎が宿された。
虚空を切り裂くような手つきでなぞると、その指先では爆発的な魔力が一点に集中。

広間に光が満ちた次の瞬間、唐突に生み出された炎の球がこちらを狙いすまし、飛んできていた。


( ・∀・)「……一つ、言っておきますが……」


言いながら、己の胸元に寄せて掲げた手の平の内で、自身も炎の元素の力を掴みとった。
まるで襲い来る炎の球が穏やかなまでの速度に感じられるほど、淀みのない緩慢な動作で迎え撃つ。
赤熱した手甲を払いのけ、それに叩き返すように腕を薙ぎ振るうことで、こちらも”同じ業”を送り出した。


”……ごぅッ”

目の前で、大きな一つの火球が四方へと爆散する。
眼前にまで迫った炎の球を、あえてこちらも即時発動させた炎の球にてかき消したのだ。

929名も無きAAのようです:2013/08/24(土) 21:56:15 ID:P4uzmb2s0

( ・∀・)「たった今挙げた、今の貴方を支える要素―――この私には、必ずしも必要ではない」

【+  】ゞ゚)「―――ぬ……ゥ……?」

( ・∀・)「ですが、我が大望の踏み台として―――貴方には、大いに”利用価値”がある」

【+  】ゞ゚)「驕リ……欲すルか、それ以上の”力”ヲ」

( ・∀・)「……ふふっ、はははっ」


思わず、隠す事の出来ない程の笑いが込み上げた理由は、二つほどある。

力に酔いしれて増長した、自らの傲慢が招いた国家の滅亡。
民による裏切りで命を落とすという非業の死を遂げ、それから蘇ってなおも、
かつての自分の愚かさを棚上げして、もはや失われた威光を振りかざし続ける。

今も、王さま気取りなのだ。
民の逆心一つ見抜けなかった。そんな愚鈍さが急所となったにも関わらず。

そして、口元に貼り付いた笑みがなかなか消せない、もう一つの理由は―――

930名も無きAAのようです:2013/08/24(土) 22:02:48 ID:P4uzmb2s0

【+  】ゞ゚)「……可笑シいか……こレから、死すルトいうノに」

( ・∀・)「……アラマキの爺もそうだが、オサム王よ、貴方は既に”老害”だ」


この大陸の歴史に、やがて神話の領域にまで語り継がれるものを刻み込む。
いずれ肩を並べる、神々が住まう楽園までの切符は、既に手にしたようなものだった。

千の魔法をも使いこなすと言われる”賢者の塔”最強のアークメイジですら。
そして今対峙する、それにも比肩し得る魔を宿す不死の王、魔導死霊ですら。


―――もはや何であろうと、障害になどなり得ない。

931名も無きAAのようです:2013/08/24(土) 22:27:34 ID:P4uzmb2s0

( ・∀・)「貴方は過去、大陸最強の力を誇った魔術師かも知れないが―――」


今は、今だけは―――
この力だけが、何より確かな真実をもたらしてくれた。

自分の理想は、限りなく近い所にまで手が届いているのだと。
それを掴んだ先に、その存在を脅かす者が現れる事は、決してない。


「―――その貴方に、”大陸史上最強”の魔術師が相手では、どうかな?」


夢の半ばで消えてゆく者達は、きっと目指したはずの道のりから逸れ、
そこでは片時、互いに身を寄せあう仲間を見つけていくのだろう。

傷を舐め合う、叶うはず無い己の理想に。
環境がと、才能がと、報われぬ我が身、不遇を嘆いて。

願えば結果が出るのではない、彼らには足りないのだ。
理想の為には、それ以外の”全て”を捧げなければならないというのに。

この王のように、過去に縋って足を止める時間は―――今はなかった。

932名も無きAAのようです:2013/08/24(土) 22:29:45 ID:P4uzmb2s0


    ( ^ω^)ヴィップワースのようです


             第11話

         「暴食する邪の獣」



.

938名も無きAAのようです:2013/08/27(火) 17:38:44 ID:DwUslYDY0

( ;<○><○>)(何です……何なのです、この状況はッ)

少しでも身体を動かす度、雷に撃たれたかのような痛みが突き刺す。
熱を持った右腕は、あわやねじ切られるという角度にまで折り曲げられ、
多少首を動かしたぐらいでは、視界にも入ってくれない。

秒刻みで押し寄せる激痛の波に、ベルベットの脳が痛覚からの逃避を始めようとしたころ、
ようやくこの異様とも言える状況を把握するための思考力が、少しずつ取り戻されてきた。

まず恐るべきは、やはりオサム王の力。


【+  】ゞ゚)「………」

( ;<○><○>)(魔法の”溜め”が、一切無い)


無尽蔵にも感じられるその魔力は、どこから取り出しているのか。

力の顕現する光景を、その術の在り様を、心の中に判然と想い描く。
詠唱を必要としないのには、それが現実と遜色無いレベルで可能であるからだ。

上級の魔法であれば、なおさらその元素を司る精霊の御名を要する。
魔力の形状を心の中で創り、その力をより強いものへと増幅するために。
それは、より強い力を求めればこそ複雑で、瞬時に行うのは困難極まりない。

939名も無きAAのようです:2013/08/27(火) 17:40:50 ID:DwUslYDY0

もう一度、オサムは手の内に炎帝の力を引き寄せた。

無詠唱を可能とさせる手段としては、一部に例外もある。
だがオサムは、それを究極的なまでの高みへと昇華させていた。

その姿はまるで、魔術を使うものの王。いや、まさしくそれだった。

たとえ死しても、死霊術などに意思を明け渡すような器でないのだ。
あるいはこの姿となってから、より以上に力を高める事となったのか。

様々な元素における高等魔法を、まるで湯水のように乱発する姿。
古代に一時代を築いた魔導国家の長としての、恐るべき風格を感じた。
氷、炎、そして物理的外傷をも伴うあの巨大な”手”も、意のままに操る。

およそ2年もの歳月を投じて作られた、対・不死者用の支配の杖は、用をなさず。
あまつさえそれに意識を取られたベルベットの身は、瞬き一つの間に戦闘不能にさせられた。

こんな芸当が出来る相手と知っていれば、彼を支配下に置こうと考える事はなかったとさえ思う。


( ;<○><○>)(ですが……、それをッこの男は……!)

( ・∀・)「ただ受けるだけでは芸が無い」

940名も無きAAのようです:2013/08/27(火) 17:41:57 ID:DwUslYDY0

その王をして、対等。
直撃すれば死に至る魔法を、風にそよぐ草木のように受け流し続けるこの男は、何者なのか。

オサムの放つ魔法を意に介さない程の防壁を張りながら、更にその上で魔法を重ねがける。
人間にしか見えない姿をしているが、その中身は、同じ種としてあり得ない怪物じみたものだ。

この場に突然現れる事が出来た理由にも、全く説明がつけられなかった。

非常に巧妙に尾けられていたのだとしても、時折生命探知の法を張り巡らせていた。
その気配に気づかない訳がない。だからといって、如何に入念な準備を施したとして、
この場所までに極めて正確な座標を浮かべた、転移方陣なども張れる訳がないのだ。

そもそも、それすらほとんどの魔術師には実行不可能な魔法ではあるが。

王の魔手、突き立てる爪によって徐々にではあるが外側から食い破られようとしていた障壁。
それを好機と見たか、オサムが、間髪入れずに棺の中から手を振るった。

無から生み出された燃え盛る火球が再びモララーへと投げつけられると、直後。
明らかに自然風では無い強烈な旋風が巻き起こり、彼の両足付近で小さな竜巻を作り出した。

僅かに重心を崩して身を傾けた途端、瞬間的に過大な揚力を得たモララーの全身が、浮いた。

足に纏った風の具足は、広間の壁に激突するのではないかという程の勢いで彼を飛翔させ、
踏まれたステップに軽く音が響いたすぐあと、彼がいた場所に極大の炎球が撃ち込まれる。


”ごばぁッ”

941名も無きAAのようです:2013/08/27(火) 17:43:19 ID:DwUslYDY0

【+  】ゞ゚)「風、カ」

( ;<○><○>)(間に巻き込まれれば、死ぬ)


ベルベットは、身を伏せて必死でその場から退散する。
中断無しで降り注ぐ高等魔法の雨、もはやオサムの興味はモララーにしかないようだ。
そこにいる自分には、見届ける事しか出来ないレベルのやりとりだった。

すぐにでも来た道を引き返すべきか。
そうも思ったが、モララーの目的というものにも興味が湧いた。
この決着の行方を見届けた、その後はどうなるのだろうと。

いつの間にか、腕や肩が無意識に震えていた。口内でかち合う奥歯も。
咽るほどに色濃く死を臭わせる、不死者の王。
それをも手玉に取る謎の魔術師の姿は、ベルベットに武者震いを与えるのだ。


( ・∀・)「特等席だ。君も魔術師ならば、楽しむといい」

( ・∀・)「この、”魔の狂宴”をね」

( ;<●><●>)「………」


壁の間際まで這いずり、ベルベットは壁に背をもたれた。
それを横目にしていたモララーが、嬉々とした様子で一瞥くれた。
王を前にした物怖じなど微塵も感じられず、どころか、状況を楽しんでいるようにも見える。

942名も無きAAのようです:2013/08/27(火) 17:44:43 ID:DwUslYDY0

風のシルフィードの力を、自己を対象に回避として用いる即座の応用力だけではない。
一つ間違えれば障壁を破られ、炎の球の直撃を受けていたかも知れぬさなかで、その胆力。

王と対面する有資格者は、これほどの術者でなければならなかったのだ。

この男ならば、あるいは勝てるのかも知れない―――そう、思った。


【+  】ゞ゚)「其の方モ、余を、従エられルと思ウてカ」

( ・∀・)「そう、感じますか」


王は感じ取っていた、この男もまた死霊術士だと。
それはベルベットも同様に。

理屈ではない―――同族ならば、それは匂いで感じ取る事が出来る。
実際の臭気ではなく、一見して軟らかい物腰や、他者に不安を与えぬ佇まい。
だがその実、昏き瞳の奥に秘めた冷たさ。

見えるのだ。彼らが生まれつき持った黒い翼が。

943名も無きAAのようです:2013/08/27(火) 17:45:55 ID:DwUslYDY0

【+  】ゞ゚)「死へと誘ワん余の魔性、人ノ子ニは過ギたる力ぞ」

( ・∀・)「決して軽んじるのでもなく、そうだ、ととらえております」


【+  】ゞ゚)「………」


”ぱきっ びしぃっ ぱきぱき”

大気すら凍りつかせるほどの冷たい魔力が、王の周囲で再び形をなした。
両手握りの大剣、蛮族が用いる曲刀、敵に投げつける戦輪、頼りない細身の小剣。
精巧に氷という素材で模されたそれらの作りは、名匠が叩き上げたものと露ほどの見劣りもない。

だが同時に、それらは明快なまでの殺意を伴って、モララーの前に切っ先を突きつけ浮かんでいた。


( ・∀・)「それらの刃は、かつて貴方を殺したものたちですか?」


たじろぐこともなく、口元に笑みさえ浮かべて崩されぬ、モララーの余裕。
今度は百の軍勢が一斉に突撃するような、さっき以上の氷刃が一息に彼の元へ押し寄せた。

944名も無きAAのようです:2013/08/27(火) 17:46:48 ID:DwUslYDY0

”ぎんっ ぱきゃっ びしっ”


再度展開していた、新たな魔力の防壁でそれらの勢いを殺す。
阻まれる中で次々に砕けては、氷の粒となっていくものが多かったが、
刃先だけをモララーの側へと届かせるものもあれば、ぶち当たってそれに亀裂を生じさせるものもあった。


【+  】ゞ゚)「………」


そこで、いくつか残った氷の刃を引き戻す。
残る数は放った分のおおよそ半分。

十数本といったところだが、それは部屋中に散らばり、
個々に意思を持ったかのように様々な動きを見せた。

同時に多方向から襲いかかるつもりだ。
前面から身体の側面よりやや斜め後ろまでの、広範囲を覆う魔防障壁の隙を突いてくる。
壁を背にすればそれほど脅威もないが、それをこそ狙いとしている可能性もあった。


( ・∀・)「なるほど」

945名も無きAAのようです:2013/08/27(火) 17:48:27 ID:DwUslYDY0

防壁を張り巡らせたまま、魔力感知を広間中に張り巡らせる。
また不可視な存在へと姿を変えていた、先ほどの巨大な”手”。
それが広間の天井近くまでの高さに振りかざされ、拳を握りしめたような形状をとっていた。

下手をすれば割を喰うかも知れない。
広間に浮遊する氷の刃に怯えるベルベットの一方では、
モララーはそれらを、そうか、目眩ましなのだな、と見上げていた。

やがて不規則な順序で、散った氷刃が多方向から数本ずつに別れて襲いかかる。


( ・∀・)「これは、図星を突いてしまったかな――」


これまで直立の構えを崩さなかったモララーが、初めてその場に腰を落とす。
左手では前面を守護する障壁の再形成、維持を保ちつつ、交差させた右手で準備した。
後方、側面、足元。如何なる方向から狙いすましたものも弾き落とすだけの、もう一つの盾を。

二重結界だ。
恐らくあの手は、次には魔防を突き破ってくる。
それに備えたより堅固な守りが必要だった。

946名も無きAAのようです:2013/08/27(火) 17:49:55 ID:DwUslYDY0

氷剣の舞に傷んだ障壁を砕こうと、間違いなく狙いすましてくるだろう。
モララーは鋭い瞳で、守りを突き破られるその瞬間を待ちわびた。

残り十本ほどになった刃は、やがて一斉に襲い来る。
同時に、頭上で働く強い魔力の動きを感じ取っていた。

ここだ。


”くんっ”

【+  】ゞ゚)「―――喚ケ」

( ・∀・)「………ッ!」


だが、その瞬間のモララーは、完全に意表を衝かれた。
最初に張られた一つ目の障壁で、全ての氷の刃は叩き落とした。
そして天井から叩き落とされる巨大な拳に備え、対空へと展開した二つの目の障壁。

それが役目を果たす事はなかったのだ。
王の御手は、モララーの頭上にではなく、その目の前で落とされた。


”ずどぉんッ”

947名も無きAAのようです:2013/08/27(火) 17:51:52 ID:DwUslYDY0

剛烈な破砕音を伴って石畳が易々と叩き割られると、視界を覆う程の砂埃が巻き上げられる。
それに紛れて飛散した礫弾は、たとえ視認出来ていたとしても回避出来なかっただろう。


”……ゴッ!”

(  ∀ )「――――ッ」


モララーの身を守護する魔力の全てが、その一瞬消失した。

こぶし大ほどの質量を持った飛礫が、展開した魔防をすり抜けて直撃したのだ。
額から側頭部にかけて叩きこまれたその激しい音と衝撃に揺られるまま、
膝が直角になるほども大きく、モララーは上体を大きく仰け反らせる。


”……バヂンッ!”


しかし、倒れはしなかった。

949名も無きAAのようです:2013/08/27(火) 17:54:52 ID:DwUslYDY0

腕だけを強く前に突き出しては、強く踏みとどまった。
その無防備を狙いすまし、抜け目なく繰り出されていた巨大な拳を防ぐために。

物理的にも干渉出来る”魔手”を使って、そこからまた別の質量を飛ばして来たのは、誤算だった。
だがそれを受けて、意識が手離されかけた事による無我夢中で行われた防御ではない。


( ∀ )「……はは、あはは。勿体無い。流してしまった」

( ;<●><●>)(堪えた)


そこで勝負が決まったかと息を呑んだベルベットには、そうと見えていなかったであろう。
片腕で地面を跳ね除けると、膝を地に着ける事無く、がくんと項垂れるように、重心を前に傾けた。
モララーの割られた額から流れる赤黒い血は、閉じこまれた右目の上を覆っていた。

その笑みは、屈辱に彩られた狂笑か。


( l;i∀・)「貴方を見つめているものは、もうこの世のどこにもいない」

950名も無きAAのようです:2013/08/27(火) 17:57:29 ID:DwUslYDY0

類稀な魔術士とはいえ、不死者の前ではどだい、ちっぽけな人間一人に過ぎない。
だがなぜか、モララーの落とす影は、息を呑むまでの存在感を放っていたように思えた。
先ほどからオサムに先手を撃たせては、相殺するか防ぐ事しか出来ていないにも関わらず。

恐らくは反撃に転じる事も可能な魔力を、何故生かさないのか。
読めないモララーの思惑に、ベルベットだけでなくオサムとて、若干の躊躇いがあった。


( l;i∀・)「永劫の時の狭間に残してきた残骸は、そんなにも愛しいのかな」

【+  】ゞ゚)「………」


( l;i∀・)「死してなおも、耐え難い。色褪せぬ、ただ一つの情念」

( l;i∀・)「それが―――常夜にあるはずの貴方自身を、この顕世へと強く結びつけているもの」


―――オサムにとっては、確かに力ある魔術師だった。
だが、千年ほどの昔にも、これほどの男は数える程に居たはずだ。

951名も無きAAのようです:2013/08/27(火) 18:00:26 ID:DwUslYDY0

【+  】ゞ゚)「………」

己の寝首を掻くために、敵国から差し向けられたもの。
この名を恐れ、畏怖の念から固く忠誠を誓ったもの。
王たる自分に蛮勇を振りかざし、封印せんとして、立ち向かってきたものもいた。

様々な思惑で付き従ったか、あるいは立ち塞がったものたち。
だが、目の前の男を突き動かしているのは、目に見えるようなものではないな、と思えた。


【+  】ゞ゚)「ならバ―――贖うカ。貴様ガ」


万の軍勢を率いて、千の国々をも滅ぼしたその威光も、今や失われた。
自らが築いた王国は滅び去り、もはや悼む臣下の声も、畏れを口にする民たちの声も。
何もかもが失われ、もはや忘れ去られようとする存在であるのに。

だが、だからこそ。
身を焼くこの業火が、”贖わせよ”と燃え盛り、逃れられぬ。
そうだ、忘れ去ろうとしている全てのものたちに、畏れの時を、我が声を。

今ひとたび、裏切りの民の末裔に。
地の上に立つ者ども―――全てを、憎む。

952名も無きAAのようです:2013/08/27(火) 18:01:08 ID:DwUslYDY0

【+  】ゞ゚)「………其の方、余ノ封滅ヲ望む者カ」

( l;i∀・)「言ったはずです、貴方には利用価値があるのだと」


( l;i∀・)「そんな事より―――そろそろ、本気で参られたらいかがです?」


今、痛手を被っているのは王では無く、モララーの方。


( ;<●><●>)(何を……言っている? この男……)


あるいは、それは策のつもりか。
すでに人とはかけ離れた力を見せつけるオサムに対して、意味の無い行為。
挑発することで怒りを引き出し、有利に持ち込もうというのか。

ベルベットにはそれが、悲しいまでの虚勢にも見えた。


【+  】ゞ゚)「……何ヲ、言うかと思ヱば……」

953名も無きAAのようです:2013/08/27(火) 18:03:15 ID:DwUslYDY0

( l;i∀・)「旧き魔導国家の王ともあろうお方が、砂利を飛ばしてお戯れあそばすとはね」


だが、心ない土塊を必死で説得するかのようなその言葉が、何を変えるでもない。
憤慨するでもなく、呆れるでもなく、オサムはただそのモララーの瞳を覗きこんでいた。
知性は残されていながらも、感情というものを失った不死者の耳には、決して届かぬ言葉。

やがて、なおも言葉を紡ぐモララーのある一言に、オサムはぴくりと眉をひそめる。


( l;i∀・)「……そろそろ、その後ろ手に隠した”奥の手”を見せてもらいたいものだ」

【+  】ゞ゚)「………」


その言葉にも、王の心がさざめき立つ事は少しもなかった。
だが王は、このモララーの言葉によって、単なる虚勢を張っているのではないな、と思えた。

たかが魔術師の一人二人を相手に、全力を出す必要も無い。
だからこそ、封印から解き放たれたばかりの今この時に、わざわざ使う必要もなかったのだ。
顕界にこの身が馴染むまで、しばらくはこの男と魔法の撃ち合いに興じるのもいい。

だからこそ、初手で殺してしまう事もないだろうと。
そうして、力を抑えて魔法を放っていたのを、この男は見抜いていた。

954名も無きAAのようです:2013/08/27(火) 18:04:15 ID:DwUslYDY0


【+  】ゞ゚)「……なレば、爆ゼよ。屍に集(たか)ル、死の術士……」


よかろう。
よかろう、見せてやる。

だが、次に放つ攻撃は、間違いなく貴様の命を奪い去る。
波状攻撃に耐え切れず、お前には確実な死が待ち受けている。

ならば、望んだ結果に打ちひしがれよ。


―――突如として膨れ上がった殺気が、広間全体に伸し掛るように覆い包んだ。


魔力によって生み出された無数の氷の彫刻は、そのどれもが更に凶々しい形状をしていた。
瞬く間に広間を埋め尽くしたその数は、今度は100では足らない程だった。

間髪入れずに氷刃は乱舞し、やがて剣風の暴風として吹き荒れた。

955名も無きAAのようです:2013/08/27(火) 18:05:54 ID:DwUslYDY0

”ギンッ ガッ ゴッ バギッ パギャッ”

ジャンビーヤが、クリスが、カタールが、レイピアが、フランベルジェが。
モララーの張り巡らせていた魔防障壁に、一瞬にして亀裂を生じさせる。

微塵の間断すらなく、一部の隙も与えないようにと、降り注ぐ。

”ドギュッ ズドッ ガンッ メシャッ ガギョッ”

次いでエストックが、バゼラードが、ショテルが、ツヴァイヘンダーが、サムライソードが。
一箇所に集約したそれらの威力はより大きな突破力をもたらし、呆気無くその堅固な防壁を貫いた。


( l;i∀ )


嵐の如く吹き荒れる氷刃に、身を護る術は粉々に打ち砕かれた。
再び魔力障壁を陣するための、瞬き一つの時間も与えられることなく、王の右手が襲い来る。

迸る強烈な魔力に顕在化した、圧倒的な質量を目の前にしたモララーは、
その光景に、まるで遠近感のおかしな光景だな、と、ただ嗤いながら。

956名も無きAAのようです:2013/08/27(火) 18:07:08 ID:DwUslYDY0


                         . ⌒ヽ
                       { ィ==、.'.
                            '.{圭ニハ'.
          . - ミ           V圭ニ{ '.
             {  ィz.\          V圭ニ .}
           '. {圭tz ヽ         {圭圭.|
           \`寸圭t.\       {圭圭'.
                ヽ`孑圭z \     '圭圭.}
              ` 、寸圭z、ヽ    }圭圭'.
                  ` 、孑イz\    !圭圭゙.
                     ヽ`寸圭\_ ,ハ圭圭ハ
  r━―‐- . _            \寸圭ニ彡夭圭.八
   、 (圭圭≧ニ=- ̄二ニ=- ._ノ)、圭圭圭圭圭: Y
    ゙ <二三圭圭圭圭圭≧ニ=‐゙圭圭圭斗圭圭y∧
           ̄¨ ==ニニ、圭圭圭,.ィ聿圭圭圭豹.ヽ、
                 },圭圭圭圭圭圭圭圭圭弋\
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       _ ..≦z=圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭!圭{圭≧=≧- ._【+  】ゞ゚)
    ,.ィ≦=圭圭圭沙ニ=‐''´゙ー―、寸圭尨>≦圭圭沙个ー-<圭圭圭圭) ヽ
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          【+  】ゞ゚)    , イ' . : ::ヽ、{    .::;:l::::::ヽ、
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                           {::r‐-、:/´          \::\__)
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                            `ー‐'

957名も無きAAのようです:2013/08/27(火) 18:08:44 ID:DwUslYDY0

同時に、これまでヴェールに包まれていた悪魔の右手が、初めてモララーへ向けられた。

極々々低音の冷気を放つ、血の通わぬその手。
触れただけで、それが命を持っていくであろう事は容易に想像がついた。


( l;i∀・)「貴方を弔う者は去った」


その左手が”死の接触”をもたらす瞬間が訪れるか。
あるいは伸ばされた右手の中に身を引き寄せられ、握りつぶされるか。

どちらの手の中にも、等しく生命の終焉が待ち受けている。


”ばきっ ばきばきばきばきばきっ”

( ;<○><○>)(………くッ…………ッ!)


( l;i∀・)「何より、死を恐れた貴方に、今の私の相手は値わない」

958名も無きAAのようです:2013/08/27(火) 18:10:12 ID:DwUslYDY0

その一部始終を見ていた壁際のベルベットは、言葉を失っては目を白黒とさせた。
動物的本能に訴えかけるようなその光景は、彼にどれほどの恐怖を植え付けていたであろうか。

その―――モララーという男の姿、まるで。

”ぐしゃっ みしっ ぱきぼりばりぱりっ”


( l;゚i.∀・)「これからは私が、何より美しい夢を見せてあげよう」


【+  】ゞ゚)「――――なン、ぞ」

短く、驚嘆に呻いたのはオサムだった。

ぐしゃぐしゃと、何かが砕かれていくような音。
右手の中に納まったモララーの全身の骨が、粉々にへし折れていく音かと思っていた。

だがそれは、何者をも力で屈服させ得るはずの、神の如き左手から発されていたものだ。
手の中で潰し、握り殺したはずのモララーの姿は、依然として健在。

それに引き換え、それを握りしめていたこの手は、半分程が消失していた。
まるで内側から何かに侵食され、食い破れてしまったかのように。

オサムの膨大な魔力が生み出した魔手が、モララーが背に纏う闇黒の中へと、吸い込まれていく。

959名も無きAAのようです:2013/08/27(火) 18:11:39 ID:DwUslYDY0

【+  】ゞ゚)「ヌ……ウぅッ」


―――未知の魔法、いや、これは旧き言霊か。

ならば、と右の魔手を振るう。
触れるか、あるいは掠めただけでも死に誘われるは、必至。

こちらは霊体であるがゆえに、物理的に干渉する事はかなわない。
だが魔法防御の手段を失っている今ならば、確実に対象の魂に触れられる。


そうだ、覚悟しろ。

3秒先には、お前も同じだ。
二度と夜明けの来る事ない、常夜の暗闇へと堕ちている。

この名を畏れ、血肉を持たぬ哀れな魂となりて、常闇の深きにと没せよ。
この名を讃え、忍び寄る闇の前で汝が過ごした、生涯の夜をこそ恐れよ。


”オサム=ザルク=アオスシュターベン”の名を、永遠なる王の御名と心得よ!



―――間もなく、ひんやりとしたその手が、男の魂に触れられた。

960名も無きAAのようです:2013/08/27(火) 18:12:27 ID:DwUslYDY0

【+  】ゞ゚)「……ッ」


そのはず、だった。
だが確かに手の内へ引き寄せた”それ”は、目の前に立つ男の魂ではなかった。

手の中にあったのは、漆黒よりも昏い真紅。
真円の紅玉が、そこに握りこまれていた。

目にも見えるほどの、輪廻の渦に沈められた、亡者たちの叫びを覗かせて。


( l;゚i.∀・)「詰みです、王さま」


まずい。


”ヂヂッ……ヂリッ”


モララーの声が届くよりも先に、それを手にした瞬間から身に及ぶ危機を察した。

961名も無きAAのようです:2013/08/27(火) 18:13:43 ID:DwUslYDY0

【+  】ゞ゚)「ナ……ゼ……だッ!」


手放す事も、投げ放る事も出来なかった。
抗えない力によって、引き込まれようとしているのが解った。

もはや、魔力の手も維持できない。
それどころか、棺の中の肉体から乖離させられた霊体ごと、紅玉の中へと吸い寄せられていく。


( l;゚i.∀ )「【流転の渦中にて 契りの時を賜いし那由多の声々】」

【+  】;ゞ゚)「……グッ、おぅ――止、セ―――余ヲッ、何とスルか!」


完全にオサムの魂が引き剥がされた時、そこから魔力が失われた事で、
浮遊していたはずの石棺はその場に落下して砕けた。

962名も無きAAのようです:2013/08/27(火) 18:15:12 ID:DwUslYDY0

紅玉の中に渦巻く、嘆く魂たちに溶け合わさる間際で、オサムはその光景を目にした。

年相応の瑞々しさを保っていた自らの肉体から、不朽の魂までもが損なわれゆく。
倒れこんだ際に放り出されたオサム自身の肉体は、土くれと変わらぬ色を宿して、
年輪にも似た皺をそこかしこに深々と刻む、醜い身体だった。

窪んだ眼窩にはめ込まれていた瑠璃の色は、もう、二度と宿される事はない。
誰の目にも明らかな、遠い昔に老いて朽ち果てた、枯れた骸がそこにあるだけだった。


( l;゚i.∀ )「【遍く汝らの望み 解放の時は今ここに約束されたし】」

,; m;ゞ゚)m「なッ、んッ―――オ、アアッァァァッ………ッ!―――」


オサムの魂を引き込もうと足を掴んだ亡者たちには、王たる名も、その威光も通じない。
生命が形造る円環の理から外れてしまった者達は、ただ仲間を欲してそこへと招くだけだ。

いつかまた、揺りかごの中で産声を上げるその時に、一なるものとして融け合うために。


( l;゚i.∀ )「【然ればこそ しばしの片時鎮まれよ 】」

963名も無きAAのようです:2013/08/27(火) 18:16:05 ID:DwUslYDY0

( l;゚i.∀ )「【全なる魂に伝え授ける 胎界に無風の安寧を齎す 言の葉を】」


冷涼なる声だけが、撓(たわ)む意識の外で響いた。
燻し続ける憎悪の炎に身を灼かれながら、堕ちていく―――どこまでも。


,; m;ゞ゚m「……おのレ……オのれ、ヲノれえぇェぇェエッ!」


いくら憎んでも、贖いきれない。
どれほど呪っても、晴らしきれない。

王の凱旋を、恐怖でもって知らしめてやらなければならないのに。

最期の時、オサム王は怨みを口にした。
そこで、自らをその紅玉に封じ込める程の、魔術師の力の源に気付いたようだった。


,; m;ゞ゚m「――――そ、ウか……キ、さまはぁぁッ!」

964名も無きAAのようです:2013/08/27(火) 18:17:06 ID:DwUslYDY0

( l;゚i.∀・)「実によい勝負でしたね、”王さま”?」


それに被せて紡がれた、モララーによる詠唱の最後の下り。


”【封魔の法】”


―――直後に眩いまでの光が放たれ、全てを白の闇に閉ざしていった。


(……忌む、べき……ちから、ヲ……)









965名も無きAAのようです:2013/08/27(火) 18:18:26 ID:DwUslYDY0

霧が晴れたかのように、大広間には沈むような暗闇が取り戻された。
腕の痛みすら忘れる程だ。頭の奥は、突き刺されたように痺れている。

光が過ぎ去るとともに、部屋中を埋め尽くしていた燭台の火は消えていた。
だが、今はまた明かりを灯す必要はなかった。

( ;<●><●>)


”じじ、ぱち ぱち”

(   ∀)「………」

,;#ゞ%*;


何かを求めるように手を伸ばした、オッサム王の骸が、部屋の中央で燃えていたから。

「もう、これは必要ないでしょう」
そう言って亡骸に火を放った、黒の外套の男の動きを眼だけで見送っていた。

966名も無きAAのようです:2013/08/27(火) 18:20:12 ID:DwUslYDY0

復活したオサム王は、恐らくは自分ほどの術者が束となってもかなわぬ相手だったろう。

人間というものを実験のための素材や器具としてしか認識していなかったベルベットだが、
この時ばかりはまず、自らの命がまだ失われていない事に、幸運を感じていた。

そして、その王をも上回り、事も無げに封じ込めた魔術師と、引き合わされた事にも。

無残にも、ぼろの紙くず同然に切り刻まれた、不死者の溢れる理想卿という野望。
脆くも崩れったその玉座に、本来御座すべきは―――自分などではなかったのだ。

気がつけばふらふらと、ベルベットは惹き込まれるように男の元へと歩いた。
やがて彼の背にてひざまづいたその仕草は、この場に新たな”王”を迎えるかのように―――


( <●><●>)「同じ道を志す、我が同胞(はらから)とお見受けしました」

( ・∀ )「………」

967名も無きAAのようです:2013/08/27(火) 18:21:39 ID:DwUslYDY0

静かに燃えるオサム王の亡骸を、しげしげと眺めていたその男が振り返った時、
再び胸を引き掴まれるような、大きな驚きを禁じ得なかった。


( ;<●><●>)「ッ!? ……顔の、傷は……」

( ・∀・)「あぁ……これかな? これは、”こういうもの”なのさ」


にわかには、理解出来ない言葉だった。
頭部に叩きつけられた礫弾が残した傷は、確実に額の一部を割り、
流れ落ちるほども勢いのある血が、どくどくと溢れていたように思う。

なのに今は、そこに血痕の一つも残されてはいなかった。
加えて、一目に異形だと感じたあの姿も―――


( ・∀・)「―――それに、死霊術師としての私は、今日で終わりを迎えた」

( <●><●>)「……?」

968名も無きAAのようです:2013/08/27(火) 18:23:01 ID:DwUslYDY0

( ・∀・)「ネクロマンシーなど、踏み台に過ぎなかったという事さ」

( ;<●><●>)「それは……」

馬鹿にされている、というような感覚はなかった。
それというより、まるで何か大きな出来事の一つをやり遂げたかのような口ぶり。

目の前で今、そんな晴れやかな笑みを浮かべる彼からは、やはりというべきか。
鼻腔を突き刺すような死臭でもって、鼻をねじ曲げられるようであった。

これは、極めて鼻の効く”同志”の間でしか、共有できぬ感覚ではあるが。


( ・∀・)「お解りかな?―――腐れ、耄碌した貴方の頭では、まず理解の及ばぬ事でしょうがね」


彼がそう言ったのは、目の前に掲げる真円の水晶に向けてだ。
様々な血が混ざり合ったような、むらのある深紅の中心に、ほのかな紫の光を宿している。

それは時折、何かを求めて揺らめいているような、儚くもある暗い輝き。


( <●><●>)「その中にある光……オサム王の、ものですか……」

969名も無きAAのようです:2013/08/27(火) 18:25:04 ID:DwUslYDY0

( ・∀・)「……神々はかつて、こうした力持つ物を指して”遺物”と呼んだのだったかな」

( <●><●>)「”アーティファクト”……これは、それほどのものだと?」


まじまじと見れば、確かにベルベットが息を呑むほどの美しさがそこにあった。

肩から下を視界に入れる事が出来ないほどくしゃくしゃに折りたたまれた腕の痛みなど、
もはや忘れてしまうほどに、その水晶が放つ生命そのものを閉じ込めたような美に魅せられ、
それが存在している意味に対して興味を惹かれ、心を鷲掴まれて。

ただ彼の表情を見上げて、次の言葉を待った。


( <●><●>)(……この男とならば。いや、この”遺物”を持ってすれば……)


ベルベット=ミラーズの心中は、もう決まっていた。


( ・∀・)「そうだね、”紫紅の宝玉”とでも名付けようか」

970名も無きAAのようです:2013/08/27(火) 18:26:34 ID:DwUslYDY0

( ・∀・)「―――だがこれは、私にとっては”レガリア”」


あるべき時に、そうあるはずのもの。
生命を持つ者である限り、決して立ち入れない領域がある。

そして、決して踏み入ってはいけないはずの領域がある。

自らに許された領分を侵した時、神とはそれに罰を与えるべき存在だ。
だが、その神にも弓引く魔術師は、たった一人でその領域を踏み越えて。

あるべき全ての概念を覆し、破綻させようとしていた。



「正当な”この世の王”としての象徴。輪廻を司る宝珠さ―――」

971名も無きAAのようです:2013/08/27(火) 18:28:36 ID:DwUslYDY0


    ( ^ω^)ヴィップワースのようです


             第11話

          「暴食する邪の獣」


              -了-

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