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( ^ω^)ヴィップワースのようです 幕間

74名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 22:06:51 ID:QBm8LrjU0


    ( ^ω^)ヴィップワースのようです


              幕間

            「栄光の丘」


.

75名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 22:07:59 ID:QBm8LrjU0

「お頭、なんでもグライフの野郎に、ガキが生まれたんですってよ。
 リュメに置いてきたコレから、手紙が届いたんだとか」

(´・_ゝ・`)「ほう」

「野郎、四六時中にやけ顔で惚気けやがるもんで……なんとか言ってやって下さいよ」

(´・_ゝ・`)「そうだな……次の出番の時は、お前だけ矢面に立てと言っとけ」

(´・_ゝ・`)「後は、次の仕事が終わったらガキの顔を見に帰ってやれともな」

「へへっ……
 団長命令だって、しっかりと伝えときまさぁ」

76名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 22:08:53 ID:QBm8LrjU0

ヴァイセン傭兵団。

常勝不敗を誇り、数々の戦場で輝かしい戦果を挙げて来た、猛者の一団。
荒くれ者たちばかりからなるこの傭兵団の統率がしっかりと取れているのは、
団長であるデミタス=エンポリオの魅力に、みなが惹きつけられているためだ。

上に立つ人間に求められるものは、人柄などよりも強さが重要とされる。
頭が強ければ、その威光は同業との差をつけるための示威にもなり、やがて太い客の目にも留まる。
戦いに勝ち続ける事で、稼ぎはそれだけ自然と増えて腹もふくれる。

ようは自分たちの暮らしを安定させるだけの器があるかどうかだ。
傭兵を束ねる長とは、それらを部下たちに見極められ続ける立場にある。
だがその点においては素養に問題があるどころか、デミタスは天賦の才に恵まれていた。

最初はたった一人で始めた傭兵稼業のはずだった。
それがいつの間にやら、彼を訪ねて多くの男たちが集まってくるほどに。

77名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 22:11:38 ID:QBm8LrjU0

聖教都市において”剣乱天舞会”と題打たれた御前試合が開催されていた事がある。

それに出場したのが、聖教が誇る円卓騎士団の次期団長と目されたフィレンクト=エルメネジルドなのだが、
彼はその全ての試合において他の出場者を圧倒し、完勝にて上り詰めたという実績がある。

武の高みを志すものの憧れでもあるかの聖騎士を引き合いに出してなお、団員達はこう口を揃えるのだ。

「きっと、やってみりゃあフィレンクトにだって勝っちまうさ。
 あの人は化けもんだからな」

長大な体躯から放たれる重剣の一撃は、堅装の板金鎧であろうと、タワーシールドすらもめくり上がらせる。
剣を重ねればたちまちにへし折られるという人並外れた膂力に、戦場に立つ者は敵ですら畏敬を覚えるほどだった。

傭兵家業に身を置く猛者達からも一目を置かれる強さを兼ね備えているだけでなく、
彼が部下たちから慕われる理由は、団員一人ひとりの事を気遣う人格者であるからというのも大きい。

78名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 22:13:24 ID:QBm8LrjU0

今はわずか9名の傭兵団ながら、無敗を掲げるのは一人ひとりの精強さを際立たせる彼の指揮力の高さにもある。
少数精鋭の小回りを生かして、戦場ではたくみに陣形を操り、最少の動作で最大の結果をもたらしてきた。

部下たちから寄せられる信頼は、それ自体が力となる。
元はごろつきや小悪党の彼らが世間からの鼻つまみ者としてではなく、
武勲を掲げる戦士としていられるのは、何よりも団長の存在があってこそだと、誰もが思っていた。



数年前、極東シベリア教会の信徒ら数十名が、この地で虐殺されたという丘陵があった。

以来、その霊を鎮めるためとして、この丘には無数に突き刺したような碑が立てられたという。
その場所で荷を下ろした傭兵たちは、デミタスを中心として円陣を組み、彼へと注目を集めた。


―― 大陸北西部 グラシーク地方 【慰霊の丘】――


(´・_ゝ・`)「どうやら、ある領主の旦那がえらく俺たちの強さをお気に召したそうだ」

79名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 22:15:18 ID:QBm8LrjU0

けっ。
そりゃあそうだ。
ざわつく傭兵たちの間では、口々にそんな言葉が飛び交う。

(´・_ゝ・`)「で、そいつによれば、俺たち全員を正規に私兵として迎えたいと来たもんだ。
      飯も、酒も、寝るとこにも不自由しないだけの生活を保証するってな」

「お、女もですかい?」

「そりゃあいいや。
 たまんねぇな!」

(´・_ゝ・`)「その代わり、今まで自分の腕だけで生き抜いて来た誇りは、綺麗さっぱり洗い流すことになる。
      ランクリフ殿に忠実な、子飼いの猟犬としてへつらって生きていくんだからな」

80名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 22:16:30 ID:QBm8LrjU0

(´・_ゝ・`)「そこでだ。
      お前らは―――どっちがいい?」

「………」

今までと同じに生きるか、誰かに忠誠を誓って生きるか。
あえて、デミタスはそのような言い方をした。

自分が決める事ではない、団員一人ひとりが考えて、選ぶべき事。
無論、誰かの子飼いに成り下がるというのは、これまでそんなものを毛嫌いしてきた
彼らのような荒くれにとっては、反感を持つ事でもあるというのを踏まえた上で。

疎まれ、蔑まれてきた世のはみ出し者達が寄り合って―――
やがて、彼らは戦地で羨み、恐れられるようにもなっていった。

そうして力や名声を得て、そこへ来てちらつかされたのは、昔に求めたはずの真っ当な暮らし。

81名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 22:17:52 ID:QBm8LrjU0

食うにも寝るにも困らず、温かい場所に家族を招いて、不自由のない暮らしをする事が出来る。
そこへ辿り着くまでに積み上げて来た矜持を、すり減らしてきた命を、引き換えに差し出して。

団員たちは、しばらくデミタスの問いに答える事はなかった。
それぞれが今と昔とを天秤にかけ、そして考える。

いつまで自分たちは傭兵として食っていけるのか。
常に戦と正面から向き合い続ける日常も、いつかは立ち行かなくなるのではないか。
冷静にそう考えていたものもいれば、難色を示したものもいた。


「いや……俺は反対ですぜ。
 金持ちどもに丸めこまれて牙を失っちまったら、もう二度と人前で胸を張れないような気がしてね」

82名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 22:19:23 ID:QBm8LrjU0

「おいおい、俺はいいと思うけどな。
 おふくろがまだ生きてる奴らなんかは、安心させてやりたいと思うもんだろ?」

「そうだな、こんな良い話はねぇよ。
 逆に、お頭はどう思ってるんです?」

(´・_ゝ・`)「俺か」


まだ年の上では若い傭兵団の長は、こほんと軽く咳払いをした。
物怖じしたところの微塵もない立ち居振る舞いから、倍は年の違う一部の傭兵たちすらもが、
瞳を皿のようにして彼の弟であるかのように、告げる言葉を待ちわびる。

だが彼らという雑草に輝ける場所を与えてきたその男は、まるで関係ない事を口にした。

83名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 22:21:05 ID:QBm8LrjU0

(´・_ゝ・`)「……あぁ、そういえばな。
      グライフにガキが生まれたそうだ」

「……へぇ、いつの間に」

「よくぞ言ってくれた団長!
 目元が俺に良く似た、利発そうな子らしいんだ……これがな」


グライフは入団して2年間というもの、デミタス以外にはまるで心を開かなかった男だ。
母親を早くに亡くし、父親の暴力ばかりが繰り返される毎日に嫌気が差し、南の集落から飛び出してきた。
ある時、滞在先の街で道行く娘と恋仲に落ち、多くの稼ぎを持ち帰ったら一緒に暮らすことを約束しあったそうだ。
その後は周囲の冷やかし混じりの祝福を受け、彼の態度も団に馴染み、すっかり軟化しつつある。

84名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 22:23:07 ID:QBm8LrjU0

(´・_ゝ・`)「確か、先月にはピルロに嫁さん候補の女が出来たんだったよな。
      通算で何回目だったか忘れたが」

「いや、今度こそしとやかで良い女なんです。
 もうひと月もあいつと続いてるし、一緒になろうかなってね!
 できりゃあ、親父にも見せてやりたかったよ」

「はっ、お前のどこに惚れたんだかなぁ。
 まぁ最後のチャンスだと思うけどな」


まだあどけなさの残る少年という頃から、デミタスの元を尋ねてきた男がピルロだ。
最初は荒くれたち数人に怯えて、手伝いと言えるような事しか出来なかった彼だが、
初めての出陣で一人を打ち破った時から自信をつけ、その後はめきめきと中核の一員に成長してきた。
優男という印象だった体格も、今では周囲の男たちに引けを取らない逞しさになっている。

85名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 22:24:16 ID:QBm8LrjU0

(´・_ゝ・`)「博打好きなお前の親父なら、きっとあの世でも
      お前が二晩で別れる方に賭けてたんだろうよ。
      さぞ、残念だろうに」


どっ、と笑いが起こる。
先ほどまでの少し緊張した空気が、それを機に若干ほぐれつつあった。


(´・_ゝ・`)「親父の鼻を明かしてやりな」

「へっへ! もちろんですよ!」

(´・_ゝ・`)「………で、だ」


いっとき巻き起こった笑いもすぐに鎮まり、再びデミタスは問いかける。

86名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 22:25:38 ID:QBm8LrjU0

いつ死ぬとも知れない戦場の中で、戦勝の酒に酔いしれながら、ずっとこの先戦い続けるのか。
首輪を付けられ、領主の私兵として安定した生活を求めて、これまでの生き方を捨て去るのか。


(´・_ゝ・`)「どっちにするかは、お前たちに任せるよ」


たとえ依頼主が飼い主に代わろうと、自分たちの培ってきた信頼関係だけは変わらない。
何より、共に剣を並べる相手として申し分のない仲間たちがそこにいるならば、何も変わりはしない。

団員たちもまた、デミタスと共に戦列に加わる事が出来るのならば、その場所でも―――と。
だからこそデミタスはこの時、彼らの選択ならば、どちらでもいいと思っていた。







87名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 22:27:36 ID:QBm8LrjU0

翌月、大陸西北を治める領主ランクリフ=アズクバルの元には、新たに9名の私兵が面通しされた。

団長は変わらず、人数は比べ物にならぬほど増え、さらには彼らの通り名もそのままに。
身分の上では対等とも言えないが、戦場においては元傭兵たちが主導を握る混成の一隊。
およそ100人からなる”ヴァイセン剣兵団”として、主を得たのだ。

これまでの使い古した装備に愛着は湧きながらも、仕える身である以上、装備を一新せよとの命令に尽くすしかなかった。
だが、ぱりっとした衣服に袖を通して、新たに支給された胸当てや鎧に身を包んでみると、やがて彼らは実感する。

「俺たち、本当に領主に雇われたんだな……」

「見てみろよ、この猫目石の廊下……ったく、金のある奴はおごってやがんなぁ」

(´・_ゝ・`)「分かってるとは思うが、滅多な事は口にするなよ。
      思っているのは、まぁ構わんが」

88名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 22:30:01 ID:QBm8LrjU0

居住する場所として与えられた詰め所のきらびやかさと清潔さに、目を丸くする団員たち。
まるで天地がひっくり返ったかのようなこれまでの生活との違いに驚くものもいれば、喜ぶ者もいた。

もちろん最初はあまり馴染むことが出来なかった彼らだったが、退屈だけはしなかった。
彼らの本懐である”戦い”というものには、事欠かなかったからだ。








(´・_ゝ・`)「バストン、スラッシュ、何人か連れて左に回れ。
      俺は右側から攻め入ってでかぶつどもを叩く」

グラシーク地方の北寄りに位置するランクリフの領地は、南側の領主ギレオル=クライセンの治める場所との境。
自分たちの今を選択したあの慰霊の丘から、さらに半日ばかり南下した場所が、彼らの戦場だった。

89名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 22:31:36 ID:QBm8LrjU0

デミタス率いるヴァイセン剣兵は、今まさに領主同士の争いの渦中にある。

この頃、異端かそうでないものを巡った信仰の違いによって過熱の一途を辿る宗教間の
争いが影響して、それは直に彼らヴァイセンに対して戦う場というものを与えていた。

その理由に、極東シベリア教会の狂信的とも言える信奉者であるギレオルの血縁のものが、
慰霊の丘にて虐殺された敬虔なシベリア信者の一人であったという背景がある。

そして、そのシベリア信徒たちを葬ったというのも、内部からは異分子と見なされていた過激派の聖ラウンジ信徒。
穏健派で知られる彼らがそんな暴挙に至ったのは、当時新たな司教の座を巡ったごたごたに感化されて、
迷いの生じた一部のものが、自らが信仰を逸れている事に気づかず、それを教えと履き違えていた事による。

そうしてぽつぽつと各地に生まれ落ちていったのが、他宗教を毛嫌いする、闘争の種火となる存在たち。
その中で一際大きな炎となったのが、聖ラウンジに対し強い憎しみを抱く、このギレオルだった。

90名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 22:35:40 ID:QBm8LrjU0

同じ頃、東部ロアリアの方で、それらに油を注ぐ出来事があった。

他宗教への弾圧を目的に、自らの信こそが聖ラウンジの道であると妄執を抱いた異端審問官がいた。
その”イスト=シェラザール”を中心として、自らの異常性を集団意識のもとに覆い隠しては、無実の人々に
目を覆いたくなるような拷問を繰り返すという、権威を縦にした過激派の暴挙。

”種火”の半数近くは、その虐殺のようなやり口にも同調しながら、聖ラウンジの弾圧に抵抗する者たちだった。

実質的に大陸で最大の権威を持ち、政にも大きな影響力を持った聖ラウンジを掲げる聖教都市。
やがてロアリアでイスト達が何者かによって殺害された出来事は、彼らシベリアの信徒にとっては好機となる。
当時イストらが変死した出来事は、極東シベリア教会の手によるものと見なされ、自らに非難が集中していたからだ。

当然、自分たちはそんなものに関わっていない、知る所ではない、事実無根だと断固突っぱねる。
ラウンジの暴徒化を腹に据えかねていたシベリアは、そして今度は、それを反撃の材料と捉えた。

91名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 22:37:10 ID:QBm8LrjU0

間違えた信仰は正さなければならないというのは、方便だ。
反旗を翻して、我々は真実のもとに徹底抗戦の構えをみせる―――それも、紛れも無い欺瞞だった。

”聖ラウンジの一教化を許してはならない”、根底にはそんな妬みのような感情を持ちながら、彼らはそそのかす。
多くの私兵を抱え、聖ラウンジを憎みさえしている領主の一人に耳打ちして、最も大きな炎を燃え上がらせる。
そのために、ギレオルに宗教戦争の幕開けを声高に宣言させて、表立って戦争を仕掛けさせる事とした。

正しさという大義名分を持つことによる、優越。
それを逆手にとって、これまで正しくあったはずのものから生まれた歪や綻びを、そこから崩す為に。
喉元にて抑えこんできた敵愾心をもはや剥き出して、聖ラウンジの息がかかったものを叩かせていった。

領主自らも聖ラウンジを信ずるランクリフなどは、真っ先にその眼に向けられた。
彼の元には、ギレオルの手によって矢継ぎ早に兵が送り込みつづけられたのだ。

一晩おき、はたまた夜襲。
日に3隊に分けて、3つの時間帯に行軍が押し寄せた事もあった。

92名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 22:39:27 ID:QBm8LrjU0

だがその全てを完膚なきまで完璧に敗走させ続けたのは、北部領主ランクリフが手に入れた最強の手駒、ヴァイセン。
その活躍によって守られていたランクリフは、この時自身に危険が及ぶことはないと、確信していたそうだ。

たかだか傭兵団と侮っていたと、雇い主は一度だけ彼らの前に口にした事もあった。
そしてならず者の一団ながら、鮮やかで苛烈な戦いぶりを見た時、実際に自身が感嘆を漏らした事も。
彼らを迎え入れるに至った経緯は、団長であるデミタスの戦い振りを風の噂に聞いた事が始まりだったという。


「団長! 敵隊後列、弓兵が動いてまっさ!」

(´・_ゝ・`)「あぁ、ネピア、スコッティ。
      集中砲火が降り注ぐと思うが、後は頼む」

「あいよぅ! 野郎ども、小さくまとまって、盾構えろぃ! 正面で弓隊の注意を引き付けんぞ!」

93名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 22:42:12 ID:QBm8LrjU0

ランクリフの兵も、そこそこの精強さは兼ね備えている。
しかし、100人から居るその兵たちの中心にいるのが、やはりデミタス率いる長く傭兵稼業に身を置いた者達。
およそ2倍もの兵数を相手取りながらも、上手くかく乱し、個々の戦力の高さを持って敵に恐怖を植え付ける。

いつか、どこかの異郷の地で、とある名将が口にした言葉がある。
恐怖の伝染した味方は、敵にも勝る脅威になり得るのだと。


(-+ | +-)「えぇい! 隊を分けおったか、すばしっこい奴らめ!」

(-+ | +-)「重装歩兵、叩き潰せ!」
  __
/=| |=\「ムー!」

94名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 22:43:31 ID:QBm8LrjU0

プレートアーマーをまとい、肉厚のバレルヘルムを装備した巨漢の列が前に出る。
細みの剣ではまず弾かれる強度をもつ、ほとんどの弱点部位が鎧に覆い隠された鉄壁の一団だ。

右翼から素早く間合いを詰めてそれへと接敵した第一陣であるデミタスは、構うことなくただ剣を薙ぐ。

(´・_ゝ・`)「やってみろよ」

そう言って、一振り。

どぐんッ。

素早く踏み込み、さらに一振り。

ぞぶんッ。

鉄の大樽のような兵士たちの、その腹や頭を目掛けた。
ぶぅん、と剣を振るうたび、火花を散らせながら轟音が稲妻のように抜ける。

鎧を切り裂き骨まで達するほどの致命傷を、一刀ごとに、確実にその場に残して。

95名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 22:44:47 ID:QBm8LrjU0

三人。

ごしゃッ。

そして四人。

ばごんッ。

 __
/=| |=\「えっ、おぁ……」

五人目が斬られた所で、上げなければいけないはずの戦列を乱して、一人が一歩あとずさった。

ずどんッ。

六人目が絶命間際の呻きを漏らす段になってそれに気付くのは、遅すぎた。

めぎょッ。

96名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 22:47:44 ID:QBm8LrjU0

(´・_ゝ・`)「打ち込めば確実に死ぬお前らに、避けられるのか?」
  __
/=| |=\「なんッ……!」

(´・_ゝ・`)「俺の剣を、その鈍さで」
  __
/=| |=\「―――ひっ、ひえぇぇ!」

6つの腸がぶち撒けられた光景を目の当たりにそう告げられた時、ようやく敵たちは認識の甘さを痛感する。

板金鎧が用をなさないまでの位階に達する剣戟など、誰しもの想像を凌駕していた。
そんな常識の埒外にある破壊力にかかれば、堅牢を誇る巨漢などはただただ鈍重な的でしかないのだ。

さらに三つの鉄樽から血飛沫が虚空に舞った時、死の想念が兵たちを襲った。

97名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 22:49:19 ID:QBm8LrjU0

「やめ、やめて」

デミタスの剣から逃げきれず、そんなか細い声が聞こえるようになった辺りから、
恐怖に意思を明け渡した兵士たちの多くが、彼から逃れようと間合いを取り始める。

その先々にも、脅威はあった。
今やランクリフの兵力の中翼を担うデミタスの部下たちによって、次々と討ち取られていったのだ。

(-+ | +-)「うっ、おぇッ……ば、馬鹿! 敵に道を開けてどうす―――ま、守れ! 私をッ!」

(´・_ゝ・`)「この5倍もいれば、案外良い勝負だったろうに」

微かにちらついただけの敗北の情景が、やがてはっきりと多くの者にも浮かんだ時、そこで勝負は付いていた。
恐怖に駆られ逃げ出す兵たちをかき分け、指揮官の頭蓋を縦真っ二つに断ち割った直後が、勝鬨の合図だ。

ばしゅッ。


「「……ウオオオォォォォォォーッ!」」

98名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 22:51:53 ID:QBm8LrjU0







秋になっても、冬を越しても兵は差し向けられた。

慰霊の丘に防衛戦を展開するヴァイセン剣兵団にも、少しずつ戦死者がでるようになる。
だが、これまでランクリフの元であまり戦を経験するものがなかった者の中にも、デミタスの指揮によって
頭角を表すものが少なくはなかったのが、彼らにとっては思いがけず幸いだった。

そして、間もなく糧食の問題が出始める。

99名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 22:53:30 ID:QBm8LrjU0

ランクリフが治める土地は広大ではあるものの、その多くを占めるのが岩山や荒れ地。
一方で、行軍に長い時間を要するものの、天然の要塞に囲まれて脅威の少ないギレオルの土地は、多くの作物が採れる。
躍起になって聖ラウンジに対抗しようという彼には、もはやそれの為に領民が飢饉に陥ろうとも、省みることはなかった。
何を憎んでいたのか、何の為に憎むのかも忘れてしまったような彼を、周囲は狂人と忌避したという。

20に届くかという戦いをくぐり抜けたデミタスは、一度ランクリフとの会食に立ち会った際、進言した。


(´・_ゝ・`)「信仰を捨てるという選択は、出来ないものでしょうか」


先に仕掛けてきたのはギレオルであると踏まえた上で、そう口にした。

講和の道を模索するという事は、可能と言えば可能なのではないか。
ただ一言、ギレオルに対して聖ラウンジの名を讃える事はやめる、と口にすれば。

100名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 22:55:29 ID:QBm8LrjU0

しかし、妄執と狂信に駆りたてられたギレオルも、すでに莫大な損失を被っている。
プライドの高いランクリフにしても、この宗教間のいがみ合いは恐ろしい病気を持った野良犬に噛み付かれたようなものだ。
すでに互いの領主が言葉一つで溜飲を下げる事などあり得なかったのだが、そうと知りつつもデミタスは言った。

自分たちはいい、だが、新たに借り受けた兵たちにとっては、そう耐え切れる連戦ではなかった。
決して態度に表す事はしないまでも、弱っていく部下たちが討ち取られる様を目の当たりにしながら、
長たる人間がただ黙って上からの命令をこなしているべきなのかと、迷いと、使命感が生じたためだ。

その時には我を忘れて烈火の如くデミタスを叱責し、喉元に剣を突きつけるほど激昂したランクリフだが、
1年にも渡って続けられる戦いの中で、税収のほとんどがそれへと消えている事実を使用人から聞いた時には、
既に邸内の美術品などを売り払わねばやっていかれないほど、懐事情が逼迫していた。
その後はランクリフも、デミタスの言葉を思い返しては頭を悩ませる日々が続いたという。

前線に立たぬ男がそうであるのだから、当然、戦の日々が続くヴァイセン剣兵団は相当に疲弊していた。
20名以上が既に命を落とし、そこには傭兵の頃からデミタスに付き従っていた男たちも含まれている。

101名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 22:56:52 ID:QBm8LrjU0







(;´・_ゝ・`)「カンザス! スティーグ! 俺に続け!」

「了解!」

「ようがす!」

連戦の疲れを引きずりながら、雨の日も、風の日も、いつ来るか知れないギレオルの私兵団を相手に戦った。
安寧を求めて選択したはずの道の先では、やっている事は傭兵の頃と何一つも変わりがなかった。
いつ終わるとも知れない死が隣り合わせる夜から、逃げ出すものもぽつぽつと現れた。

もちろん団長直属の部下達にそんな事はなかったものの、それでも、疲れ果てていた。

102名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 22:58:30 ID:QBm8LrjU0

敵の攻撃がより苛烈になっていると感じるのは、気のせいではなかった。
これだけ打ち破られて敗走を続けているというのに、一向に向こうの攻め手が休まる事はない。
領主一人の力だけなら、ろくな補充も行ってくれないランクリフ同様、とうに向こうも力尽きているはずだ。

あるいは何者かが、手を貸しているのか。
だが、そんな”上”での事は、自分には関係がない。

自分たちがやるべきは、ただ、剣を手に戦い続けることと、生き延び続けること。
それ以外に、どうでもいい奴らの事など考える意味もないのだと言い聞かせた。

「ぎゃぁッ!」

(;´・_ゝ・`)「……ギャレンッ!?」

敵を3人殺しては、仲間が1人死んだ。

103名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 23:01:30 ID:QBm8LrjU0

(;´・_ゝ・`)「ネピア! スコッティィッ!」

敵を1人殺し損ねては、仲間は3人死んだ。

「だっ、だんちょ―――」

(;´・_ゝ・`)(……力が……クソったれ)

手が震えにつかれるのは、ここ2、3日は森で捕まえた蛇や鳥が、わずかずつしか行き渡らなかったからだ。
頭の奥に痺れが走るのも、度重なる夜襲によって、団員のほとんどがまともな睡眠を取る事ができていないからだ。

―――やがてヴァイセン剣兵団は、戦力のおよそ半数、三十余名の命を一度に落とす惨敗を喫した。
慰霊の丘に敷いていた防衛戦を、ランクリフの屋敷からやや南下した森にまで引き下げるしかなかった。

この頃には、もうデミタス自身もそれを痛感していた。
限界に来ている、と。








104名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 23:05:14 ID:QBm8LrjU0

疲れ果てたヴァイセンにも、つかの間の休息が訪れていた。
ここ3日ばかり、夜襲どころか、敵の斥候の姿も見えなかったからだ。

それでも心だけは休まる事のなかった彼らに、やがて嬉しい報せが届く。

「デミタス団長……これを」

(´・_ゝ・`)「………」

「では……これで」

早朝にデミタスの宿営地を訪れたのは、ランクリフの使者だった。
彼が寄越した、革紐一枚にくくられた羊皮紙には、こう書いてあった。

<ギレオル陣営との和睦が間もなく成立する。
 明朝、慰霊の丘にてギレオルの兵30名に面会し、互いの休戦意思を明らかにせよ>

105名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 23:06:55 ID:QBm8LrjU0

紛うことなく、ランクリフ本人による署名が刻まれた書面。
読み終えたデミタスは、それを手の平の中で潰してから、使者を呼び止めた。

(´・_ゝ・`)「待て」

「はい……?」

(´・_ゝ・`)「ランクリフに会ったらこう伝えておいてくれ。
      命令は命令として実行する。
      しかし遅すぎる決断でしたと、な」

「……確かに、承りました」

主の屋敷へ向けて、早駆けで去っていく使者の馬を目で見送った後に、
安堵か、喪失感かもわからぬ重い溜息をひとつ、デミタスは深く静かに吐いた。

106名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 23:08:31 ID:QBm8LrjU0

自分に問い詰めるようにして群がる部下たちにとっては、喜ばしい事なのだろうか。
だが今では、このまま果てるまで戦っていた方が良かったような気さえした。

和睦を持ちかけたのは、ランクリフの方だろう。
本人自身もこの所はろくな生活を送っていなかったであろうとは、質の悪い羊皮紙の手触りから邪推したことだ。
こうなる結果に終わるならば、死んでいった部下たちは、一体何のために命を賭けて戦っていたのか。

それを考えると、伝えるのが心苦しい命令でもあった。

(´・_ゝ・`)「……慰霊の丘に、発つ」

「どういう事です?」

(´・_ゝ・`)「終わったんだとよ。
     居もしない神様だとかの事でいがみ合う、口喧嘩は」

「………」

107名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 23:10:15 ID:QBm8LrjU0

団員たちもまた、デミタス同様に様々な表情を浮かべていた。
去来する感情は、多くの仲間を失った事実や、また安穏と暮らせる事への喜びが入り混じった、複雑なものだ。

もう戦わなくて済むんだ、いまさら何だってんだくそったれ。
彼らの間で飛び交う言葉のどれもが、今のデミタスの心情をも表していた。

誰かが言った言葉も、そうだった。

「俺たちゃ……その日暮らしで生きてたあの頃の方が、良かったんじゃねぇかな」

それは何よりも、団長である彼の胸に、張り裂かんばかりの痛みを与える刃だった。

(´-_ゝ-`)「………」


「誰かに仕えるなんてさ、きっと、間違ってたんじゃねぇかな……なぁ、みんな」

109名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 23:11:41 ID:QBm8LrjU0







――南部 【慰霊の丘】――


「馬鹿にしてやがんのか!? 連中は、俺達をよ!」

辿り着いた時、開口一番鬱憤の溜まっていたグレガシンがそう怒鳴った。
だがその声は、晴れ晴れと光の差し込む丘陵に、微かに木霊するだけだ。

向こうも手ひどくやられ続けた。
自分たちとの休戦を、ギレオルの私兵達もまた望んでいるはずだと考えていた。
しかし、待ち合わせのはずの時間帯に、連中の姿は影も形も見えない。

(´・_ゝ・`)「………」

110名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 23:13:34 ID:QBm8LrjU0

自分たちを残して人っ子一人いない場所に立った時、デミタスは、様々な方面に考えを巡らせていた。

あの従者自体が、偽りの書簡を届けたギレオルの手の者ではなかったのかと。
いや、しかし確かにあれは一度屋敷で見た男の顔だった。

だが、ギレオルとは物狂いのような男だ。
そちらの側が、一方的に休戦を反故として、だまし討ちを仕掛けてくる可能性もある。

(´・_ゝ・`)「警戒しろ!」

すぐにそこへと行き着いていたデミタスが警戒を促した時、既に全員にも緊張が張り詰めていた。

「……へいッ!」

「そうか、あいつら……もしかして俺たちを騙そうと!」

111名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 23:14:57 ID:QBm8LrjU0

団長の表情から、部下たちもすぐに事態を察していたようだ。
耳を澄ませば、木々に紛れて聞こえてくる微かな物音から、やがて確信に至る。

ぴしゅんっ。

「ぐあッ!?」

どこかから飛んできた矢が、一人の眼窩を穿った。
既に向こうは布陣を敷いて、こちらを待ち構えていたのだ。
団員たちと共に、デミタスは叫ぶ。

「―――くそ! 罠だぜッ、こりゃあ!」

(´・_ゝ・`)「ちぃッ……密集陣形をとれ!」

やはり、ギレオルによるだまし討ちだ。
ここに来て、戦力にものを言わせた一辺倒の戦い方から、卑劣さに磨きをかけたようだ。

112名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 23:17:08 ID:QBm8LrjU0

ただ、デミタスの頭の中からはある一つの可能性だけが抜け落ちていた。
それをあり得ない事だと捨て去っていたのは、なまじ、今は自分が誰かに仕える身であるからか。

「やりあうんですかい!?」

(´・_ゝ・`)「いいや、森まで後退だ! どれだけの敵が潜んでるかわからん!」

「くっ、邪魔くせぇ!」

彼らヴァイセンには、迅速な撤退が求められていた。
だが周囲を森に囲まれ、その中央で丘の上に立つ今の彼らは、弓兵の的。
そして、丘に突き立てられた幾つもの碑が、なおさらのこと彼らの回避行動を阻害していた。

ぴしゅんっ。

「あぎゃっ!」

114名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 23:19:03 ID:QBm8LrjU0

ぴしゅんっ。ぴしゅんっ。

「うわッ」「あ、足が……!」

(´・_ゝ・`)「くっ、盾で防ぎながら下がれ! 下が――――」

叫びながら、デミタスは周囲からのそのそと姿を現した敵兵が、既に退路を塞ぎつつある光景を目撃した。
焦燥が彼の心に火を放ち、次に命ずるべき言葉を選ぶための、その判断力を失わせる。

突破するしかない。
だが、この場に押し込めようと退路を塞ぐその数だけでも、こちらの3倍と目測した。
普段ならば十分に対等な戦いが出来る数だが、しかし敵はそれだけではないのだ。


(|-+-|)「今だ! 狩り尽くせぃッ!」

115名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 23:21:36 ID:QBm8LrjU0

「――――うおおおおぉぉぉぉッ……――――」

茂みに隠れて放たれる矢が、次々と部下たちに手傷を及ぼし、わらわらと丘を駆け上ってくる兵たちは、
全て合わせれば、手負いのヴァイセン剣兵団の10倍の数は用意されていた。

無傷どころか、多くの数が生き残ることすら困難な状況と認識したのち、戦慄した。

(;´・_ゝ・`)「………クソッ!」

迫る敵から逃れつつ、背後の布陣を打ち崩して、その先に逃れるしかない。
しかし、すでに全員が丘の中心に繋ぎ止められ、周囲全てを蟻の大群のように敵の群れが覆い尽くす。

(;´・_ゝ・`)「―――おおおぉぉぉッ!」

116名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 23:22:59 ID:QBm8LrjU0

一振りで二人を倒して、次に四人を葬っては、吠えた。
しかし猪突猛進に斬り倒し突き進むデミタスの勢いでさえ、その包囲の前には押しとどめられた。
背には二人の優秀な部下たちが着いて来てくれているが、彼らの視線の先でも次々と仲間が討ち取られている。

もはや隊列は完全に分断されており、自分の元について来れなかった仲間たちは、
もみくちゃにされるようにして、攻撃の嵐の前に倒れていくだろうと、考えたくもない考えがよぎた。


( |-+-| )「はっはっは! これが噂に名高いヴァイセンの傭兵どもだと?
      随分と小粒なものだが……うはは、さらに粗挽きに噛み砕いてやれ!」

117名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 23:24:49 ID:QBm8LrjU0

だが、まだ死力を振り絞って声を荒らげては、戦っているものもいた。
誰より負けん気が強くて、デミタスにも剣の勝負を挑んできた若武者のグレガシン。

「うるああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

「団長ォッ! 逃げて下さい!」

そして、生来の気の弱さを口にしながらも、土壇場で仲間の為に命を張る根性を見せると、
傭兵時代からのデミタスの部下にも褒められ頭をくしゃくしゃに触られていた、お坊ちゃんのビーンストロイト。

(;´・_ゝ・`)「ついてこい! ついてくるんだ!」

助けてはやれない、だけど弱音は吐いてくれるな。
目の前の剣を叩き折っては、ただ一歩、二歩ずつぐらいに丘を降りて行くのが精一杯だ。
だが、必ず突破してみせるから、着いて来てくれ。

言葉少なでは、彼らにそう伝えようと叫んだ言葉も、励ましにはならなかっただろう。
間もなく、ギレオル兵達の声や剣戟の波に飲まれて、二人の声は聞こえなくなった。

118名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 23:26:28 ID:QBm8LrjU0

そして、これまで背を守ってくれていたはずの気配も、離れていく。

「……言うとおりだ! 逃げてくれよ団長! あんたならっ―――」

「ここで、俺たちがこの雑魚どもを引きつけます!」

(;´・_ゝ・`)「馬鹿野郎がッ! ふざけんなッ!」

その場で足を止めてしんがりを引き受けたピルロとグライフも、すでに覚悟を決めていたようだった。
自分たちではこの包囲を抜ける事は出来ない、だが、デミタスだけならば―――と。


「がきんちょと女には、あんたから伝えといて下さい!」

「来やがれ! どうしたホラ、抜けるもんなら抜いてみやがれ!」

119名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 23:28:20 ID:QBm8LrjU0

肩越しに見た彼らは、背中しか見せてくれはしなかった。

激しく剣を打ち合うあの二人は、信頼の置ける優秀な戦士だ。
もしかしなくても、20人や30人は倒してのけるだろう。
きっと、死の間際まで戦い抜いて。

「―――達者で! 団長ッ!」

(;´・_ゝ・`)「……う」

彼らの想いに報いて、そこに何が残るというのか。
自分一人が生き残った所で、どんな顔をして生きていけばいいのだ。

それならば、自分もいっそここで―――

そう考えかけたデミタスには、自分の為に命を張ってくれる部下たちの背中があまりに眩しかった。
そして、彼らの想いを無駄にする事こそが、最もしてはならない事ではないかと理解していた。
それを考えたくもなかった彼は、一度叫ぶと、これまでにも増して剣の圧力を強め、敵陣を押し破っていく。


「うおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉっ………!」

120名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 23:29:53 ID:QBm8LrjU0







しとしとと、雨が降る帰り道。

返り血にぬらぬらと輝くデミタスの剣から放たれる業の禍々しさや、
今の獣のような彼の眼光にあてられた兵たちは、立ちふさがっても、すぐに道を明け渡すことだろう。

追いかけてきた連中をまくために森に姿を隠したり、汚泥の中に顔を突っ込んでは息を殺して、
その後もしばらく走り続けたが、今は追っ手はない。

自分があの場をどうやって切り抜け、生き残ったのかさえ曖昧だった。
仲間たちはやはり、振り返っても誰一人として着いて来ているものはいない。

121名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 23:32:38 ID:QBm8LrjU0

どうして、こうなってしまった。
一人つぶやく彼の声はあまりにもか細く、静かな雨の音にすら、たやすくかき消される。
間違えてしまったからなのだと気付いた時には、大切なものを全て失ってしまっていた。

自分たちは食う所と寝る所さえあれば、あとは剣を振るってたまに酒盛りをしていればよかった。
誰かのために剣を振るうなどと―――それが、いけなかった。

こうなってしまったのは、自分たちの罪なのか。
主に面会した時なんと言葉をひねり出そうか、考えもまとまらないまま雨に降られ歩き続ける。
ランクリフの屋敷に辿り着いた時には、もう、身体を染めた紅も雨でいくぶん洗い落とされていた。

門の前で茫然自失のデミタスを出迎えたのは、数人の従者たちだ。
暗がりの中でランタンを掲げた一人がデミタスの姿を認めると、驚いたように声を発する。

「な、あ、あんた何故……生きて!?」

122名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 23:34:09 ID:QBm8LrjU0

(メ´・_ゝ・`;)「………」

使用人の一人が言ったその言葉の意味が、デミタスには理解出来なかった。

顔を上げてその表情を覗きこむと、目は驚愕や、恐怖といった感情に泳いでいる。
確かこいつは、慰霊の丘へ行く前に、自分のもとにランクリフの手紙を届けた従者だと気付く。

なぜ、とはこちらの台詞だった。

なぜ、命令どおりに慰霊の丘に行って、10倍もの敵兵に囲まれねばならないのか。
なぜ、手紙を届けたこの従者が、俺以外がそこで死んでいった事実を知っているのか。

「クソッ……まぁいいさ、屋敷に残ってる奴らを集めろ、こいつ以外にはいないだろう。
 化けもんみてぇに強い奴だが、見ろ―――この傷なら俺達でも……」

123名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 23:35:24 ID:QBm8LrjU0

(メ´・_ゝ・`;)「………何を……言っているんだ……?」

本当に、何を言っているのかわからない。

忠実な番犬として、ただただ命令をこなして、命を賭けて戦ってきた。
自分一人が帰ってくる事ができた代わりに、これまで付き添った仲間たちは、みな死んだ。

その自分が、自分たちが。
なぜ今になって、仕える主の側から剣を向けられなければならないのか。

(メ´・_ゝ・`;)「教えてくれ……一体、どうして……?」

ただただ、それがわからない。
戦って剣で斬り伏せようなどという気力も、全く湧き上がらない。
ふらふらと彼らの元に歩み寄っては、懇願するように問いかけた。

「――――哀れだよ、あんたは」

124名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 23:37:06 ID:QBm8LrjU0

やがて、一人が剣を下ろして力なく口にした。

「屈したそうだ……ランクリフの旦那は」

(メ´・_ゝ・`;)「………」

「ギレオルの言うとおりにするしかなかった―――」

言葉を聞いても、聞いた端から抜け殻のようになった頭から、すり抜けていく。
そんな事実を聞かされたのに、なぜだか、怒りも憎しみも湧き上がらない。
魂を抜き取られるような喪失感が、全身を脱力させていくだけだった。

(メ´・_ゝ・`;)「………売られた、のか」

あぁ、あいつらはランクリフの命令のもと、敵に命を差し出したのだな、と理解する。

125名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 23:38:53 ID:QBm8LrjU0

そうだ、部下たちは、命令通り忠実に死んでいった。
飼い主に捨てられたという事実など、知らぬまま。

一人あいつらの命に生かされて、後になって事実を聞かされる自分よりは、だがよほどましだと思えた。

雇い主に裏切られ、切り捨てられることなど、傭兵をやっていた時にはよくある事ではなかったか。
そんな嗅覚すらも忘れてしまうような、部屋で飼われる駄犬に成り下がっていたのだ、自分は。
首輪付きとなった時から、俺たち全員は気まぐれな飼い主に捨てられて、野に屍を晒す運命を歩んでいた。

そしてそれを選んだのは、そんな道を彼らに選ばせたのは、紛れも無く―――この、愚かな自分。

「あんたらに大勢打ち破られて……きっと腹の虫が収まらなかったんだ。
 それで……一族郎党……皆殺しにするっ……て……」

これも、よくある話だ。

126名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 23:40:57 ID:QBm8LrjU0

後願の憂いを残さぬために、災いの種を摘み取る。
連中のような臆病者たちならば、当たり前のようにやっていることだと知っていた。
たった一人生き延びた赤子が、憎悪を糧に成長し、いつか殺しにくる日を恐れての事だ。

きっと、ランクリフはギレオルに命ぜられるまま、この地に居る部下たちの妻や子供を殺すだろう。
傭兵時代からの奴らは幸いか―――ほとんどが身寄りもなく、女や子供がいる奴はよそへと置いてきた。
このまま屋敷へと踏み込んでランクリフを殺したところで、それは止められないだろうが。

(メ´・_ゝ・`;)「は……はは、は」

もっとも、そうしようという考えもすぐに霧消しては、気の触れたように、デミタスはただ笑う。
いまさら飼い主を殺した所で、もはや自分には何も残されてはいないのだから。

仮にそうしてみたところで、何が、どう変わるというのか。
また傭兵として生きて、一つ一つ積み重ね、やり直せというのか。
栄光を誓ったあの日々全てを、なかったことのように忘れて生きろというのか。

それならば、いっそここで彼らに殺されてみるのもいい。

127名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 23:42:22 ID:QBm8LrjU0

「おい! こいつを殺さないと―――」

一人がそう言って、剣を手に少しずつ間合いを詰める。

だがまだ幼さの残る顔立ちをした使用人の一人は、気色ばむ他の連中を手で制す。
その瞳にありありと浮かぶのは憐憫、哀れな捨て犬へと向けられるその眼差しだ。

「……見なかったことに。
 俺たちは、ここで誰とも会っていない」

少年のような男は、そう言った。

心底、哀れな男だと感じられたのだろう、ふとそう思った。
隣の男の言葉に慌てふためいているのは、昨晩自分のもとに書簡を届けに来た従者。

「それじゃ俺達がッ……お、おい待て!」

128名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 23:43:28 ID:QBm8LrjU0

ランクリフの耳にそんな事が入れば、彼らも部下たちと同じ目に遭うのだろうとは分かっていた。

だが、憐れみをかけられるぐらいならば、自ら死を選ぶ。
そう思って背を向け歩き出したデミタスだったが、それに迫ってくる気配は、いつまで経っても感じられなかった。

(メ´-_ゝ-`;)「……」

足は自然と、丘の方へと引き返していた。








129名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 23:44:51 ID:QBm8LrjU0

―― 夜分【慰霊の丘】――


不思議と、もう疲れも何も感じない身体だった。
いつの間にか死んでしまったのだろうかと思うほど、限界を超えたはずの身は、自由に動く。

無数の碑が立つ丘の上に辿り着いて、周囲全てを見渡してみる。
装備を剥ぎ取られて裸にさせられていたり、あちこちに多方向から剣傷を受けた部下たちの姿があった。
流された多くの血は、もうずいぶんと雨が降っているというのに、濃い赤色がまだ洗い落とされていない。

自分のために踏みとどまって戦ってくれた二人がいた場所には、折り重なるほどの死体。
仲間の死体は連れ帰らぬくせに、敵全員の首から上を、ギレオルの兵たちは持ち去ったようだ。

部下たちの頭部を眺めるのか、はたしてそれを甚振るのか。
狂信者ならば、それくらいしてもおかしくはないだろう。

130名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 23:46:23 ID:QBm8LrjU0

(メ´・_ゝ・`;)「……聞いていたか? お前たち……」

聞こえていなかったのならば幸いだが、きっとあの世では、それを知る事も出来るのだろう。

自分たちの命は、保身の為に使い捨てられたこと。
交渉の道具として、いつの間にやら戦っているはずの相手に譲渡されていたこと。
知ればきっと、あいつらは罵詈雑言の限りを吐き捨てるだろう―――だが、そうされるべきは自分か。

ざく。

(メ´・_ゝ・`;)「……馬鹿だったな。
       きっと、甘い餌に浮ついて……変化を求めていたのは……」

ざく。

(メ´・_ゝ・`;)「……一番に、俺自身なんだろう……」

そこらにある剣を拾っては、仲間たちの亡骸の近くに突き刺していく。

131名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 23:47:43 ID:QBm8LrjU0

闇に雨降る慰霊の丘に、デミタスは一本一本、新たな碑を加えていった。
黙々と、一心不乱に、まるで取り憑かれたかのように。

やがて、36本の剣をそこに新たな碑として加えた。
この場所で犬死にさせてしまった仲間の分と、あとの一本は、自分のものだ。

輝かしい日々を誓った栄光の丘は、今では思い出の残骸だけが眠る場所。
自分の最期にも、やはりここが相応しい。

許してくれよ。
一度呟いて、デミタスは足元に落ちていた短剣を拾った。

(メ´・_ゝ・`;)「……待ってろ」


ぎゅう。

132名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 23:48:51 ID:QBm8LrjU0

握りしめた短剣の刃先を、腹部の鎧の隙間へと差し入れた。
ぷつ、と肌が破れると、筋を切り裂きながら、ずぶずぶと刃が押し入る。

自らの血の生ぬるさが、今では手の甲を覆っている。
前かがみになりながらその場で両膝を地べたに突くと、けだもののように、唸った。

「ぐっ……ううぅッ!!」

あと少し―――一気に両腕に力を込めれば、自分も死ねる。
あいつらの元に、逝く事ができる。

さぁ、あとちょっとだ。

(メ#´゚_ゝ゚`;)「ぐうッ、ぅ―――うおおおおぉォォォーーーッ!!」








133名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 23:50:40 ID:QBm8LrjU0

黒の僧衣をまとう男の視線は、自ら命を捨てようとするデミタスへと注がれていた。


「………」


雨の音に紛れ、彼はいつの間にかその場所に立っていたのだ。
デミタス自身はその男の存在に気づきながらも、どうでもよかった。

決死の形相で自分の腹を切り裂こうとするデミタスの表情。
僧衣の男の目には、彼が強い悔恨を抱いていると、所作からだけでもそう感じられた事だろう。

痛みによるものではない苦悶と、目から伝い落ちるのは大きな雨粒。
だが、そこで踏みとどまらせているものがあるのだなと、汲み取ったようだ。

134名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 23:52:37 ID:QBm8LrjU0

(メ´;_ゝ;`)「―――ぐっ、うぅッ……はァッ―――」


―――死ねなかった。

仲間の命に救われて、敵に情けをかけられて。
自ら果てようと刃を握っても、それでもこうして―――生きてしまっている。

これまで自分の元に集って、命を張ってくれた仲間たちの顔がよぎってしまった。

彼らの誇りを、矜持を、栄光を、希望を、命を、全てを失わせた。
その最も愚かな選択をさせてしまったというのが、自分なのに。

それでも死の間際になって、どうしても彼らの背中が浮かんでしまうのだ。

(メ´;_ゝ;`)「………」

デミタスの手から、短刀を握る力が失われた時、背に声がかけられた。

135名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 23:54:13 ID:QBm8LrjU0

「君も、被害者だ」


見たことの無い男―――僧服、こいつも、神とやらを有り難がる連中か。
元々の引き金こそ宗教観の軋轢が一因であるというのに、今は心底どうでもよく思えた。

(メ´;_ゝ;`)「失せろ」

枯れた喉奥から、辛うじて声を絞り出す。
それでも、男はこの場から立ち去ろうとする様子を見せなかった。
むしろ、何かを言い含むような表情で、ただ静かにデミタスを見下ろしている。

デミタスにとっては、それがどうしようもなく邪魔なだけだ。
死ぬことも出来ず、戦う力も失って、その理由さえもはや見いだせない。

ずっとこの場所で、鎮魂の雨に打たれながら、ひざまづいていたい気分だった。


「忌まわしき、かな」

136名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 23:55:35 ID:QBm8LrjU0

(メ´;_ゝ;`)「二度は……言わんぞ」

「……仲間を失った、部下を失った。
 ほとんど、すべてのものが失われた」


その黒衣の男の言葉に、自分が馬鹿にされていると感じるよりも、
部下が辱められる事への屈辱を感じて、立ち上がったデミタスは向き直った。

僧衣の胸ぐらを掴んで引き寄せると、その男はまるで枯れ木のように軽く、
片腕でどこまでも投げ飛ばせそうなほどの小柄だった。


「多くの人が尊い、愛する人を、失った。
 違わんだろう……?
 それは一体―――誰のせいだと思うかね」

(メ#´ _ゝ `)「……貴様ッ!」

137名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 23:56:41 ID:QBm8LrjU0

このまま宙吊りに釣り上げて、この男を殴ってやろう。
そう思いつつも、腕からはすぐに力が抜けていってしまった。

無駄なことなのだ、どうしようと―――今となっては。


「君たちの命を差し出すよう持ちかけたのは、ランクリフ=アズクバル」

(メ´ _ゝ `)「………」

いまさら、それほど驚きはしない。
多分そうなのだろうと思う自分も、どこかにいたからだ。
だがそれを知っているこの男は、何を言いたいのか――。

「そんな彼が信じた聖ラウンジは、より多くの人に救済を―――だったか。
 はてさて、信じるものは救われる……だったか?」

138名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 23:58:19 ID:QBm8LrjU0

「神という偶像を崇拝し、祈りという行いを強いては、人の心を手繰り弄ぶ。
 彼らこそが虚飾で満ちた存在であり……そしてそれが、強い力をもっているからこそ、たちが悪い」


そこだけ同意見だったが、決して口にはしなかった。

神などという不確かな存在のために頭がおかしくなり、無為に命を散らせるやつら。
そんな馬鹿どものために命を張って戦った挙句、仲間たちは死んでいった――――死なせてしまった。


「ランクリフの屋敷には今、私の同志たちが向かっている。
 君たちという盾を失ったのだ―――半刻も持ちこたえられはしないだろう」


領主殺しは死に値する重罪だ。
畏れることなくやってのけることもそうだが、そんな戦力を持つこの男は、何者か。
考えるよりも早く、その情報を自分に打ち明けた事に対して、またも怒りを感じた。

139名も無きAAのようです:2013/11/02(土) 00:01:05 ID:IlHjHw3s0

(メ´ _ゝ `)「何のつもりで……貴様も、俺に情けを……!」

「それは違う」

若いような、年老いたような、不思議な男だった。

だがその瞳に、強い力だけは宿っているようにも感じる。
無表情ながら、どこか不敵に微笑んでいるようにも。
身に纏う雰囲気は、およそ僧衣に似つかわしくない、胡散臭さを感じた。


「グラシークの北に、本当の神が眠っている。
 エルシャダイ―――そこが、私達の聖地だ」

(メ´ _ゝ `)「貴様の妄言に付き合うつもりなど、ない」

140名も無きAAのようです:2013/11/02(土) 00:02:33 ID:IlHjHw3s0

「いいや、妄言などではないよ。
 実存する神だ……聖ラウンジのように、人々の偽りが創り上げたものではない。
 いたずらに人を惑わせる禍々しき教典を広めた聖ラウンジも、彼らが各地に巻いた闘争の種火も。
 何もかもが―――それによって終わるのだ」

妄言ではないのならば、本気で言っているということか。
思わず釣り上がった口元を見て、黒衣の男もそう言いたげな様子に気付いたろう。

こいつもまた、狂っていやがる。

しかし、でまかせばかりを並べ立てているようにも見えない。
まるで事実として見てきたかのように、言い知れない強さが語調には篭められていた。


「もうじき、君の仲間たちを亡き者とした神を笠に着た争いも、永劫に消え去る」

(メ´ _ゝ `)「………」

141名も無きAAのようです:2013/11/02(土) 00:03:54 ID:IlHjHw3s0

この男の話している言葉の意味を理解しようという気持ちなど、さらさらなかった。
だがなんとなく、話の流れから自分にかけようとしている言葉は、ある程度予期できた。

煽っているのだ、自分を。

「私と共に、来る気はないかね」


( ´∀`)

一瞬、雨空を駆けた稲光の下に照らされるこの男の表情が、どうしようもなく醜悪なものに見えた。
きっとそれは気のせいではないだろう、だがそいつが、この自分に向かって手を差し伸べている。

お前に戦う意味を与えてやる、そうとでも言いたげに。

142名も無きAAのようです:2013/11/02(土) 00:05:33 ID:IlHjHw3s0

( ´∀`)「虚飾の神を祀り、力や富を貪っては……争いの火種を生み出す。
     かような汚らわしきあの黒の羊どもを、私たちが焼き払う。
     その盾として、矛として、今一度剣を取ってほしい」


再び剣を振るう為の力を。
戦う為の舞台を、整えてくれるというなら。

輝かしく、今では思い出と残るだけの日々。
取り戻すことは出来ないと知りながら――――だからこそ戦おうと思った。

当たり散らすようにして、その狂者どもの戦列に加わる。

何を信じて、何を得るため、何をして生きていけばいいのか。
それすらをも見失った自分には、力を与えてくれる狂人の元で、混沌の渦に身を堕とすのも一興に思えたからだ。

143名も無きAAのようです:2013/11/02(土) 00:07:04 ID:IlHjHw3s0

復讐の、再起。
そんな上品な理想は持たない、なぜなら空っぽの抜け殻なのだ。

戦うことに、理由を求めていたのだろう。

胸に開けられた巨大な風穴を塞ぐのではなく。
開いている事に気づかぬように、疎ましき己を忘れ去るためにと。


( ´∀`)「その志を、共にするならばこの手を取りなさい」

(メ´ _ゝ `)「………」


デミタスがその手を取ったのは、決して志からではなかった。
あるいは利用されるのを知りつつも、彼はそうするだろうと考えていたのかも知れない。

だがデミタスにとっては彼、旧ラウンジ聖教の主教、”モナー=アークテリクス”が、
これから何をしようとも、いかなる黒い思想を抱こうとも―――その時は、どうでも良かった。

( ´∀`)「そうか……我らが神の名を、君にも――――」

144名も無きAAのようです:2013/11/02(土) 00:08:34 ID:IlHjHw3s0



その後、大陸北西部を治めるギレオル=クライセン。
そしてランクリフ=アズクバルの両名が、遺書を残して服毒自殺を図ったという。

御堂聖騎士団が結成されると、急速に軍備を拡大させていく旧ラウンジ聖教の勢いを危惧して、
時の聖ラウンジ司教アルト=デ=レインは、北西一帯に居を構えるモナー=アークテリクスの元に
双方の不可侵条約を提案する書面を送った事がある。

しかし結局は、締結の合致には至らなかったそうだ。
それからしばらくの後、義理の娘一人を残して、アルト司教は病に倒れた。




145名も無きAAのようです:2013/11/02(土) 00:10:23 ID:IlHjHw3s0

― エルシャダイ 【本殿】―


巨大なカーテンの前に立ったその場所で、何気なしに言葉をかけた。
向こう側に眠っているのは、多くの者達が目覚めの刻を待ち望むもの。

確かに、この場所は神々しいようにも感じられた。
だが決して、”これ”が救いをもたらすような存在ではないとも、知っている。

お前なら、どう思う。

死に場所を探している訳でも、戦うことに理由を持つ訳でもない。
意味もなく、忘我して、ただ喪失感という隙間を片時埋めたいがために。

信頼してくれる部下たちに接する時にも、へどが吐きそうな任務の時にも。
冷えきった自分の心だけが、勝手に否定してくれた。
あの時と今のお前は違うのだと、陰惨な仕事に手を染める自分に、仮面を被せてくれる。

どこかで俺を見ている奴らに対して、顔向けも出来ないこちらとしては大助かりだ。

(´・_ゝ・`)「どうしようもなく、下らない」

147名も無きAAのようです:2013/11/02(土) 00:11:39 ID:IlHjHw3s0

周囲に立ち込める空気が膨らんでは、まるで押しつぶされるような。
異形の強圧、その威圧感に飲み込まれる事なく、心の中で投げかけた。

お前は、何の為に生きる。

きっと俺たち人間のように、全てにおいて理由など求めることはないのだろう。
瑣末な事でくよくよと頭を悩ませる、ちっぽけな生き物だとせせら笑うのだろう。


(´・_ゝ・`)「ファフニール。
      お前なら、きっとそう言うんだろうな」


出来る事なら、一度会話を交わしてみたいものだと思った。

148名も無きAAのようです:2013/11/02(土) 00:12:29 ID:IlHjHw3s0


    ( ^ω^)ヴィップワースのようです


              幕間

            「栄光の丘」


              -了-
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