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( ^ω^)ヴィップワースのようです 幕間

165名も無きAAのようです:2013/12/29(日) 02:54:18 ID:On.hHc8M0


    ( ^ω^)ヴィップワースのようです


              幕間

             「夜(1)」


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166名も無きAAのようです:2013/12/29(日) 02:57:04 ID:On.hHc8M0

自身でも気づかぬ内に、時折その場に足を止めては、考えに耽(ふけ)った。
こうして、昔のように思念に囚われる機会が増えたのはつい最近になってからの話だ。

今でも思い出す。
何を成すために生まれてきたのか。
そうやって、自らの存在意義に疑問を投げかけ続けていたあの頃を。

不死者は、夜を往く。


(きらびやかな街も……少し離れた場所では、こんなもんかねぇ)


視線を脇目に振ると、朽ちかけた亡骸が視界の端に引っかかった。

167名も無きAAのようです:2013/12/29(日) 02:58:47 ID:On.hHc8M0

首を矢で射られた老馬の死骸に倒れこむ亡骸は、腹を貫かれて最期を迎えたようだ。
死が訪れる間際の恐怖か、あるいは痛みか。
眼は大きく開け広げられ、口元は苦悶に歪み固められていた。

だが、気に留めることはなく、歩みを止めることもない。
捕食者にとっては、人間の命への価値観などその程度。

路傍の石ころも同じ光景だ。

多くの眷属たちによる祝福の中で、夜の闇に生まれ落ちた。
その瞬間からすでに超越者としての定めにあった、この自分にとっては。

人間など及ぶべくもない、それほどに、個として圧倒的過ぎた。

168名も無きAAのようです:2013/12/29(日) 03:00:05 ID:On.hHc8M0

だからこそ、かつての自分は嘆いたのだろう。
自身を脅かすものなど無く、まして、力を育む必要すらない。
玉座にありつづけるだけの怠惰な日々の、なんと退屈なことか、と。

その時から、無味乾燥した日常を離れる決意は膨れ上がった。
すぐに行動へ移すと、気まぐれに人の世へと紛れて、身を隠した。

そこには―――発見があった。

自らが飽き果てるほども食らってきた、人間という生き物。
下等な存在と見下し続けてきたはずのそいつらが、実に面白い種であるということを。


(ホントに弱い……弱い、生き物)


通り過ぎる間際で、路傍の石に一瞥した。

169名も無きAAのようです:2013/12/29(日) 03:01:30 ID:On.hHc8M0

くだらない。
虫や、鳥獣などと変わりない。

並以上の力を持った妖魔であれば、人間に対してはおしなべてその程度の認識か。
ならば自分はかつて、尚更のことそう思っていたのだろう。


(……だが)


そんな認識も、今や捨て去らねばならない過去のものだった。
か弱い分際にありながら、時として、人とは種の限界をも越えた力を揮(ふる)う。

170名も無きAAのようです:2013/12/29(日) 03:03:09 ID:On.hHc8M0

未知なる力を、人は秘めている。
その扉から、連中の力を引き出す鍵。
形状はどのようなものであり、どこにあるのか。

多くの期待をはらんだ疑問は、尽きることがない。
そう、あの男との戦いを経てから、人間にはますます興味が湧いていた。

容易く吹き消える命であるからこそ、人は、人ならではの強さを持っているのではないか。
侮りがたく、ともすれば好敵手にも相応しい存在ではないのか―――と。

そうと気づいてからは、いつしか、浮かぶ疑問はすり替わっていた。
自分が生きている事への意味から、人間たちが持つ強さの理由のほうに。
なぜだか、長年のもやもやの答えも、そこから生まれそうな気がした。

171名も無きAAのようです:2013/12/29(日) 03:07:22 ID:On.hHc8M0

人の世に、仇なし続けること。

(それが……いいんじゃねぇか―――)


人を食い散らかすばかりが、自らが在るべき理由ではないはずだ。
そこで、彼らと戦い続けることではないのか。
それにこそ、自分の求めてきた答えは埋もれているのかも知れない。

―――不意に、きぃきぃと蝙蝠たちの鳴き声が聞こえた。

それらは、一羽たりとて夜空に羽ばたいていく事はない。
枝にぶら下がる彼らが煌々とした瞳を向ける先には、王の姿があるからだ。
遍く夜の支配者に拝謁賜った彼らは、微動だにせずその闊歩を送り出してくれた。


从 ゚∀从「そう思うだろ、お前たちも」

172名も無きAAのようです:2013/12/29(日) 03:09:12 ID:On.hHc8M0

ヴィップを発った後、気まぐれに訪れた農村をぶらりとうろついてみた。
何一つも刺激がなく、得るものもなかった事から、すぐに村は後にした。

そして今は、ひたすらに西を目指している。

気まぐれに当て所のない旅をする事は、これまでにもままあったことだ。
ただ今回は直感に身を任せて、それに従うようにして歩き続けた。
この先で何やらきな臭く面白い事が起こりそうだと、勘が囁いたからだ。

少しだけ、胸は期待に膨らんでいた。

あの男、あの連中のように、自分を楽しませてくれる人間が現れるのではないかと。
猛々しく名乗りを上げながら、最後にはたった一人、実力で自分を倒してのけた。
今にして思えば、かつて自分を破った男ほどには、練達した剣の使い手ではなかったはずだ。

それでも決着の直前、あの時にも似た興奮が確かに去来したのだ。

173名も無きAAのようです:2013/12/29(日) 03:10:23 ID:On.hHc8M0

ある日の、どこかの戦場での出来事だったか。
幾多の人間を血で染め上げて、また自らも無数の剣に貫かれながら、感じていた。
胸の奥から突如噴き出した高揚が、朱と紅に染まる頬の上から、熱い風を撫で付ける感覚を。

死を覚悟して撃ちこんでくる者たちの戦列を打ち崩しながら、湧き上がったのは征服感。
目の前で幾つもの命を散らしながらも、だが同時に訪れたのは、知った事のない感情だった。

もしかすると、死ぬのではないか。
次の瞬間には、二度と目覚めが訪れることのない一撃が来るのではないか。

だが臆しているわけではなく―――むしろ、それに満たされていた。
さほど執着もなかったはずの生と死が入り乱れさなかでは、初めての恐怖と喜びとがせめぎ合って。
互いの全存在を賭けて戦う事への喜びに目覚めた時、確かに自分は吠えていた。
それこそ自身にとって、この世に生まれ落ちて二度目に上げた産声なのだ。

174名も無きAAのようです:2013/12/29(日) 03:11:57 ID:On.hHc8M0

破滅する事への願望があるわけではない。
ただ、散りゆくその瞬間にこそ、命は一際の光彩を放つ。
その時人間は、自身の想像を遥かに凌駕した力を見せてくれる。

そんな戦いの中でこそ、自分は生きていると思える。
生と死の狭間で無為に永らえ続けるだけの命に、価値を見出す事が出来る。

人が死を免れようと抗うさまに、愉悦を感じているのだろうかと考えた事もあった。
だがあの連中との戦いを経て、やはりそうではないのだと結論付けることにした。

極限の緊張感の中、生涯最後となろう一撃を放つ瞬間、人は全てを賭けてくる。
そこから生を拾うため、どうでもいいほどに短い余生を繋ぎ止めるため。
もしかすると、もっと下らないもののためかも知れないが。

それらの強い命を吹き消す度に、充足を得る。
自分もまた、高みへと昇っていけるような気がした。

175名も無きAAのようです:2013/12/29(日) 03:13:00 ID:On.hHc8M0

互いの生死を分かつ刹那を迎える瞬間。
その時の自分の表情には、きっと自然に笑みがこぼれているのだろう。

恐怖や、絶望。
あるいは―――死。

そんな、自分にはないものを与えてくれるのではないかと、期待を寄せてしまう。


从 ゚∀从(そういや……あいつは、まだ生きてやがんのかな)


初めて人間に倒された時は驚愕のあまり、ただ忘我したものだった。

176名も無きAAのようです:2013/12/29(日) 03:14:04 ID:On.hHc8M0

衝動に駆られて夜道で襲った、たった一人の人間に返り討ちにあうなどと。
面と出くわした吸血鬼始祖を、仕事帰りついでで斬れるような男など、一体何人いることか。

だが二度目の敗北では、屈辱や、怒りなどといった感情をも超えていた。
人という種に、その戦いに、賛辞すら送りたいと。

何が、お前たちを強くさせるのか。

戦いのさなか、思惑の中ではとうにあの男は這いつくばっていたはずだ。
そうして、他の弱い人間同様に命乞いをするだろうとばかり思っていた。
だが、一度は死に瀕する程の痛みと恐怖を与えても、なお立ち向かってきた。
たじろぐこともなく、ひるむこともなく。

やはり、昏き生涯に唯一熱を与えてくれる存在。
だからこそ、その人間達を間近で観察する事が趣味となってしまったのか。

気づけば、頭上の月は満ちていた。

177名も無きAAのようです:2013/12/29(日) 03:16:03 ID:On.hHc8M0

从 ゚∀从「仲間……ねぇ」


弱く、もろい肉体。
儚く、あっけない命。

それでも、自分と互角に渡り合えるものは、確かに居た。

その力の源流が、どこから湧き出ていたのか。
そしてそれは、あのブーンたちと同じものなのだろうか。
知るすべは、やはり自らを戦いに投じ続ける道しかないのだろう。

そうして、薄っすらと月明かりが差すあぜ道のでこぼこを、ゆっくりと踏みしめた。

ただ生き続けるだけの日々、安々と吹き消えはしない命としての軽さ。
そんな自分のような種に、生の実感を与えてくれる人間と、出会いに行くために。

彼らの曖昧な力は、自らを昂ぶらせて止まないのだ。

178名も無きAAのようです:2013/12/29(日) 03:16:51 ID:On.hHc8M0

从 ゚∀从「………」


ふと、鋭敏な感覚が一人の男の気配を捉える。

双眸に宿す昏く沈んだ光が、まっすぐにその方向へと向けられた。
一人の男が、歩いてくるのが解った。


(   )


不意に、欲求が湧き上がる。
定宿を持たない自分には、久方ぶりの旅はある種の開放感をもたらしめたようだった。

血への渇望だ。

179名も無きAAのようです:2013/12/29(日) 03:19:13 ID:On.hHc8M0

从 ゚∀从(そういえば……マドマギアじゃあ人間の食い物を口にしてばかりだったっけな)


人の社会に溶け込む術は身につけている。
空腹感を満たすのには、彼らの食事でもって補うこともできた。

だがそれだけでは、渇く。
疼きを止めるには、至らないのだ。

ざっ、と一歩を踏み出すと、視線の先に立つ男を正面から睨めつける。


(   )(………)

180名も無きAAのようです:2013/12/29(日) 03:20:32 ID:On.hHc8M0

男の姿は、半分だけ月明かりに照らされている。
遠目からでは目を凝らしても、その表情までは浮かび上がらなかった。


从 ゚∀从(どれ……久しぶりに)


”食事”を思い立った自分がその場で足を止めたのを、向こうから来る男も気付いたようだった。

咄嗟に、良からぬ気配だと感じ取れたか。
そして、その勘は正しい。

数ある人にとっての天敵の中で、最も悪い部類に属するものと鉢合わせたのだ。
それこそが、男の不運。

181名も無きAAのようです:2013/12/29(日) 03:21:38 ID:On.hHc8M0

踵を返して逃げようとも、あるいは素知らぬ振りをして通りすぎようとも。
瞳に真紅を宿したヴァンパイア・ロードからは、死を免れる術などない。

从 ゚∀从「………?」


だが、様子がおかしい。


(   )

男の元へと押し寄せる、殺気の奔流。
たとえ種は違えど、それに気づかぬはずはない。

182名も無きAAのようです:2013/12/29(日) 03:22:20 ID:On.hHc8M0

今も、男はその場に立ち尽くしていた。
こちらの様子を伺うかのように、動きを見せる気配もなく。
あるいは呆れるほどに感覚の鈍い男か。

だが、そうでないとしたらどうだ。

閃きにも似た考えが浮かんだ時、男はそっと歩み出る。
やがて月明かりのもとで、その疵面が露わになった。


( ゚д メ )

183名も無きAAのようです:2013/12/29(日) 03:23:48 ID:On.hHc8M0

黒ずんだ麻袋を背負い、袖の破れた武道着に身を包むのは、傷が片目を覆う男。
一目に頑強そうなその男は、恐らく剛胆であり、限りなく自信に満ちあふれていた。
夜に閉ざされた街道を一人歩く黒衣の女の姿を、訝しむでもなく。

自然体と言ってもいいだろう。
表情が強張るでもなく、警戒に身構えるでもなく。
ましてや心にさざ波一つ立てるでもなく、ただこちらを見下ろしていた。

落ち着き払った立ち居振る舞い。
まるで、うつろう大気のようにも空虚な男だ。
だが瞳の光には、猛禽以上の鋭さを宿している。

敗北の代償に、己の命を差し出すような鉄火場にも慣れている男だと解った。

184名も無きAAのようです:2013/12/29(日) 03:25:26 ID:On.hHc8M0

この疼きが、物語る。

目の前の男の強さは、きっとこの200年を見渡しても存在しなかったと。
人の身でありながら―――人ならざる力を感じるほどにも。

その面構えをしっかりと確認すると、顎を引きながら口元に笑みを浮かばせた。

从 ゚∀从「………よう!」

鋼のような密度に固められた、上腕。
野生動物のそれに劣らぬであろう、健脚。

生命力と強さに満ち溢れたその男の肉体を目の当たりにした時、溢れだした。
吸血鬼の本能を抑えつけるほどの、際限なき闘争への欲求が。

もはやそれを留める事は出来そうにない。

185名も無きAAのようです:2013/12/29(日) 03:27:16 ID:On.hHc8M0

( ゚дメ )「……人、ではないな」

从 ゚∀从「あ・た・り♪」

( ゚дメ )「道を譲るつもりもないんだろう?」

从 ゚∀从「それも当たりさぁ。
     あっ、そうそう、俺はハインリッヒってんだ」

( -дメ )「知らん名だな」


その場にどさりと麻袋を放り捨て、男は深くに腰を落とした。
こちらの殺気を掻き消すほどの闘気が途端に流れ込むと、蝙蝠たちはざわめき始める。

186名も無きAAのようです:2013/12/29(日) 03:28:21 ID:On.hHc8M0

男の手の中には武器などなかった。
ただ空を手に、徒手で吸血鬼始祖と渡りあうつもりなのだ。

だが、それがいい。
それでもきっと、渡り合うだろうと思えた。


从 ゚∀从「かっかっか。
     さて―――」


片足を踏み込むと、10歩の距離を一度に詰めるほどの勢いで飛び出す。
背を包む外套の端が、瞬時に急激な風を受けてはためく。

何一つ脇目をふる事なく、地に沿うようにただその男の元へと疾駆した。

187名も無きAAのようです:2013/12/29(日) 03:30:32 ID:On.hHc8M0

( ゚дメ )「ミルナだ。
    ――――来い」


出会いは、いつも唐突に訪れる。
今日という日は、きっと最高のものになりそうだ。
さぁ、お前の戦いを見せてくれ。


从*゚∀从「ちょっぴり……味見させてもらおっかなぁぁぁッ!!」


夜空に舞い踊る黒い翼は、自身の歓喜で翻っていた。

188名も無きAAのようです:2013/12/29(日) 03:31:56 ID:On.hHc8M0


    ( ^ω^)ヴィップワースのようです


              幕間

             「夜(1)」


              -続-
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