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( ^ω^)ヴィップワースのようです 第0話(3) 「力無きゆえに」

67以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/20(月) 03:40:48 ID:aK3TyYNI0


   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

           第0話(3)

          「力無きゆえに」

68以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/20(月) 03:41:53 ID:aK3TyYNI0

ヴィップの街から2日ほど東へ歩いた距離にあるのが、ここリュメの町だ。

大きな影響力と多くの信者を持つ聖ラウンジ教会だが、その信仰心はこの場所では
根付く事は無かった。今ではがらんどうの教会は、月に1度か2度よその町から来たラウンジ教の
人間が滞在する程度で、ほとんどは子供の遊び場。もしくは、浮浪者の寝床と化している。

それというのも、この地では岩や砂ばかりが多く荒れ果てた農地の為、作物が殆ど育たない。
生活必需品は行商人から買い上げ、自分達で生産的な行動をしているのはごく一部の人々だ。

だが自分だけの農地や店を持つ人々は裕福な暮らしを築いている一方で、
自分の身で路銀を稼ぐのが難しい老人達は日ごろから貧しい生活を強いられ、
それを見て育ってきた子供達は物心つく前より人から盗みを働いたり、そうでなければ
話術で人を騙して小銭をちょろまかし、生きている子供ばかりが目立つ。

その為、この街では盗賊ギルドが最大勢力として幅を利かせ、治安はよそから見れば悪いとされる。
だが、その分人間同士の横のつながりは多い為、弱者同士、困った時は助け合って生活している現状だ。
また、日々貧しいながらを慎ましく生きている人々にとって、一つの希望もあった。

この街には、”義賊”として有名な、一人の男が住み暮らしているのだ。

爪'ー`)y-「……今日も皆、辛気臭い顔してんなぁ」

グレイ=フォックス。ここリュメを根城とし、盗賊ギルドの次期頭目として目される男だ。

69以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/20(月) 03:42:32 ID:aK3TyYNI0

普段から気の抜けたような顔をして、自由気ままに気の向くまま行動している彼だが、
人心を話術で掌握する術や、卓越したナイフ捌きに、開錠など。様々な技術に長けた彼は
盗賊としてこの街以外でも右に出るものは居ない、というのが身内が口々に囁く言葉だ。

そんな彼だが、一見して親しみ易い雰囲気をまとう為、街をねり歩く道すがら、
娼婦から老人、子供に至るまで、誰もが彼に気軽に声をかける。

”金はある所からしか盗まない”
”殺しはやらない”
”困ってる奴は助ける”

というスタイルを頑なに貫く彼が、生活に困っている人々の元に金や戦利品を仲間に渡させ、
助けを行う”義賊”という一面がある事を、庶民の一部は知っているからだ。

今日もふらふらと街の様子を見渡し、酒場へと行こうとしていた彼の後を追って来ていたのは、
彼の右腕としてこの街で長い付き合いをしている、デルタという男だ。

( "ゞ)「お頭、飲みに行くんで?」

爪'ー`)y-「ん…デルタか。丁度いいや、お前も付き合う?」

( "ゞ)「勿論、お供しますぜ」

爪'ー`)y-「所で、皆さー、いつになく元気無くないか?花売りの
     ティコんとこの婆さんも、寝込んでるんだってさ」

70以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/20(月) 03:43:19 ID:aK3TyYNI0

( "ゞ)「へぇ…何でも、ゴードンとこの酒や食料品がまた値上がりしたって話ですぜ」

爪'ー`)y-「またか…あいつんとこの薄めた葡萄酒に、他所の何倍の値があるってんだ?」

( "ゞ)「ま、また今夜あたり仲間の奴らがあいつの倉庫を狙うって話ですけどね」

爪'ー`)y-「ふぅん。あの業つく狸は溜め込んでるからなぁ…いくらかっぱいでも問題ないだろ」

( "ゞ)「ただ、一つ気になる事がありましてね」

爪'ー`)y-「んー?」

( "ゞ)「よそ者が一人、今この街にいるんです」

爪'ー`)y-「へぇ…?」

そこまで話した所で、行く手の先の酒場から一人で出てきた男の姿に、デルタは一瞬顔色を変えた。
その様子を気にかけ、フォックスも同調してそれに歩調を合わせる。

('A`)

大きな山の一仕事をこなす為に、入念に準備を整えたかのような盗賊の服装に、よく似ている。
深い濃紺に身を包む細身の男。しなやかな身振りから、その外套の下では鍛錬を積んだ肉体を想像させた。

葉巻きを地面に捨てて、足にじり消すフォックス達の横を通る男。
すれ違い間際に、その男の外套の内側にちらりと視線だけ向けた。
そのまま、お互いに何事も無く通り過ぎる。

71以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/20(月) 03:43:56 ID:aK3TyYNI0

爪'ー`)(………ふぅん)

('A`)「………」

すれ違い、互いの背中が遠のいていく中で振り返る事はなかった。
が、何らかの様子を察知したフォックスの横顔に、デルタが小声で囁く。

( "ゞ)「あいつです………お頭」

爪'ー`)y-「ん、あぁ。解るさ、それくらい」

( "ゞ)「同業者、ってとこですかね?」

爪'ー`)y-「さぁな……」

フォックスの眼には、先ほどあの男とすれ違う一瞬で確かに見えていた。
男が外套の内側に、鋭利な刃物らしきものを忍ばせていたのを。

だが、そんな事実を知れば血の気が多い連中も多い盗賊ギルドの面々の中には、
そんなよそ者が自分達の領域に入り込んでいるのを良しとしない者が多いだろう。
ひと悶着になるのを避ける為にも、デルタの疑問を適当にあしらう。

爪'ー`)y-「だけど……ありゃ、人殺しの目つきだな」

( "ゞ)「………関わらないのが一番、ですか」

爪'ー`)y-「さ、物騒な話はさておき……まずは一杯やろうぜ」

爪'ー`)y-「飲み比べだ、デルタ。負けた方が今日の酒代持ちってのはどうだ?」

( "ゞ)「いいでしょう…負けませんぜ、お頭!」

フォックスとデルタは、勇み足で馴染みの酒場である”烏合の酒徒亭”へと入っていた。

72以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/20(月) 03:44:31 ID:aK3TyYNI0

”烏合の酒徒亭”、庶民の歓楽などほとんど無いこの街では、この安いエールを出す酒場が
多くの人間から親しまれる場所であり、またフォックス達の行き付けの店でもあった。
カウンターから、相も変わらない馴染みのマスターの顔が彼らを出迎える。

(# `ハ´)「いらっしゃ……アイヤァー!お前さん方、よくもまぁ店に顔出せたもんアル!」

爪'ー`)y-「いきなり怒鳴るなよ、シナー」

( "ゞ)「(…シナーの親父がこの調子だと、またうちの奴らがツケてやがるみたいですね)」

爪'ー`)y-「(あぁ、それもこの勢いだと5~6人で飲み明かしでもしたかね……ツケで)」

(# `ハ´)「怒鳴って何が悪いネ!?お前んとこの馬鹿共、
      ウチのお得意さんに出す緋桜を3本も開けやがったアルよ!?」

( "ゞ)「そのお得意さんが…俺らだろ?」

(#`ハ´)「どうせツケだと思って、毎回毎回毎回毎回……
      底無しに飲むお前らなんか、お客な訳ナイよッ!」

せっせと皿洗いやグラス磨きを終えた端から、今度は手練の動作で炒め物をまとめて人数分仕上げる。
異国で20年にも渡る修行をして来たという”烏合の酒徒亭”のマスターの料理は絶品だった。
その為酒以外にも多くの客が押し寄せ、さほど広くない店の中はいつも活気に満ち溢れている。

血眼で鍋を振るいながら怒気を荒げるシナーとは対照的に、フォックス達は淡々としたものだ。
店内に入るとシナーの怒声を右から左へ受け流しつつ、ゆっくりと空いてる席に着く。

爪'ー`)y-「そういうなって。勿論溜まってるツケは面倒見てる俺らが払うさ。
     ……だが、生憎と今日は持ち合わせがない。また今度、だな」

73以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/20(月) 03:45:04 ID:aK3TyYNI0

(#`ハ´)「あぁ……!こっちはこの押し問答してる時間も惜しいアルヨ!」

( "ゞ)「お頭の言う通りだ。今日のところはよろしく頼むぜ、シナーの旦那

───「マスター、注文まだかい?」───

───「おせーぞシナー。さっさと酒だ!」───

(# `ハ´)「もう……こちとら仕事が溜まってるアル!その内毒入りの
      エール飲ませてやるから覚悟しとけアルヨッ!!」

そう言って、カウンターからつかつかと歩み出てくると、フォックス達の卓上に
でん、と大きな音を立ててエールの酒樽を叩きつけ、肩をいからせながらカウンターへと戻っていった。

爪'ー`)y-(扱いやすい親父………)

( "ゞ)(いや、全く)

必死に注文をこなしていく宿のマスター、シナーを傍目に、
そうしてまだ日も高い内から、二人は飲み比べを始める。

─────────

──────

────


会話の合間に一献、またニ献と杯を飲み干していく。
決して調子を乱す事なく、樽から注がれる端からすぐに底を尽く。

74以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/20(月) 03:45:29 ID:aK3TyYNI0

そうして夜の帳が下りる頃には、既に18杯目のエールを同時に飲み干していた。
グラスを置き、赤ら顔になっていたお互いの顔をしばし見つめあった後、またエールを注ぐ。

爪'ー`)y-「プハァッ……そういやさぁ、何年になるかな」

( "ゞ)「ゲフッ……あの貧民窟から、俺らが街に出てきてからですか?」

爪'ー`)y-「あぁ。もう、10年以上にはなるか?」

( "ゞ)「俺もお頭も、あん時はまだ十を過ぎたガキだったから……それぐらいになりますかねぇ」

さすがに酒が回ってきたのか、樽から注がれたエールがすぐに底を尽く事はなかった。
二人ともペースを落とし、昔の事を思い出しながら語らい始める。

爪'ー`)y-「やっぱり、今でも思うんだよ。俺は───」

( "ゞ)「あいつらを置いてけぼりにした事、ですかい?」

爪'ー`)y-「………」


────話は遡る。


─────────

──────

────

75以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/20(月) 03:46:20 ID:aK3TyYNI0

フォックスとデルタは、険しい山間の中腹地点に位置する洞窟、”貧民窟”で生まれ育った。

だが、貧しい家庭が口減らしの為に赤子や老人を捨てて行く事の多いこの場所においては、
フォックス達が本当にここで生まれたかどうか、定かではない。

住む家も無い人間たちが身を寄せ合って暖めあい、野草を摘んでそれを生活の糧として生きる。
当然の事ながら衛生など行き届く訳は無く、住み暮らす洞窟内では絶えず病死や餓死した者達の
悪臭が染み付き、それを嫌って、決して近隣の住民達も近づこうとはしない。

そして、フォックスとデルタもそれらを見て育ってきた。
その彼らが貧民窟を飛び出したのは、12歳を過ぎた時の事だ。

ある日を境に貧民窟内で疫病が発生し、洞窟内の人間はたちどころに病魔に侵された。
多くの者が高熱で動くことも出来ず、寒さにがちがちと歯を鳴らし、互いの顔も薄っすらと
しか見えない暗い洞窟内では、糞尿の悪臭と、苦しむ”育ての親達”の呻き声が木霊していた。

『助けてくれ……デルタや……』

『みず………水を、汲んできてくれ………フォックス』

しかし、助けを求める大人達に、まだ幼い少年二人はどうしてやる事も出来なかった。

生き地獄の様な光景に怯え、気弱な少年デルタは、目に涙を溜めて震えていた。
悔しさに握りこぶしを震わす、聡明な少年フォックスは、親達の死期を悟っていた。

76以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/20(月) 03:47:15 ID:aK3TyYNI0
やがて、フォックスがデルタに呟いた。

『もう……いやだ」

それに、相槌を打つデルタ。

『……うん』

ろくに食料も持たず、ましてや薄布一枚ほどの軽装で、人里まで
辿り着ける根拠など何一つなかった。だが、フォックスはこの時決意していた。

『デルタ……逃げよう、ここから』

涙を拭ってフォックスの横顔を覗き込み、自分達に出来る事は何一つないという事を確信したデルタ、
彼もフォックスの提案に賛同すると、無我夢中の逃避行に同行する事となった。

『………うん』


─────────

──────

────

それから、フォックスとデルタはほの暗い山間部の森を三日三晩駆け抜けて、人里を目指した。
そして辿り着いたこのリュメで力尽き、衰弱していた所を盗賊ギルドの人間に拾われたのだ。

盗みやナイフの技術をギルドの人間から教わると、幼少から聡明な子であったフォックスは
めきめきとその才能を開花させ、その人を惹き付ける”天性”で、多数の人間からも好かれていった。

一方で、心優しいだけでなく、努力家という一面を発揮するようになったデルタもまた、
山間部で培った身体能力をフォックス同様に如何なく発揮し、少しずつ技術を身につけていった。
貧民窟にいた頃から目を患っていた彼だが、暗闇では常人以上に夜目が利き、それが助けとなった。

77以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/20(月) 03:47:56 ID:aK3TyYNI0

自分達を可愛がってくれたギルドの人間は今でこそ次々と現役を退いていったが、
現在は次代の盗賊ギルドの二大巨頭として、フォックスとデルタの二人の存在は、抜きん出ている。

次期頭目最有力であるフォックスが、”グレイ=フォックス”を名乗ったのは、初仕事の後。
この街で圧制を強いている豪族気取り、ゴードンの家屋から200sp相当の金品を盗みだした時からだ。

爪'ー`)y-「あの時……まだ何かしてやれる事はあったんじゃないか、ってな」

( "ゞ)「お頭。酔っ払ってまであいつらを偲ぶのは、無しにしましょうや」

爪'ー`)y-「後悔してる、って訳でもないのさ。ただな…」

( "ゞ)「”俺とお頭はあん時はまだガキで、どうする事もできなかった”」

( "ゞ)「それでいいじゃあ、ないですか」

( "ゞ)「俺だって、あん時お頭について行ってなきゃあ……
    今こうしてられるのは、お頭のおかげなんですから」

爪'ー`)y-「………そう、なのかねぇ」

( "ゞ)「………」

卓上に置いたグラスを握ったまま、じっとフォックスは押し黙る。
酒に酔ってこの昔話になると、時たまフォックスはこうしてナーバスになるのだ。
だから場の雰囲気を変えようと、デルタが話の種を頭の中で模索するのはいつもの事だった。

( "ゞ)「…そうそう!そういやお頭、面白い噂があるんですよ」

78以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/20(月) 03:48:59 ID:aK3TyYNI0

爪'ー`)y-「ん…?」

( "ゞ)「大陸のどこかは知りやせんが、昔々に魔法を使って
    国を治めてたっていうお偉い王様の墓があるって話でね…」

爪'ー`)y-「知ってるさ。確か、”オサム王”とかって奴だろ」

( "ゞ)「そうそう!確かその時に治めてた領地の名前も、そのジジイから
    付けられたそうで、そいつの墓がある”オッサム”っていう村は、今でもあるそうです」

爪'ー`)y-「ふーん………」

( "ゞ)「で、そこにはどうやら…お宝の方もたんまり眠ってるみたいですぜ?
    金銀財宝のたぐいか、はたまた、抜けば玉散る鋭い魔剣か…はたまた」

爪'ー`)y-「………デルタなぁ、俺を焚き付けるのはいいけど、
     どうせ、そいつぁどっかの冒険者が先に見つけるだろうさ」

爪'ー`)y-「俺らは、ほら。この街離れらんないしな」

( "ゞ)「………まぁ、そうなんですけど」

フォックスの言う通り、彼らはこのリュメの街を離れる事など出来ないのだ。

それというのも、3年程前からこの街の商店の大半を金で牛耳り、強欲な市場操作によって
人々に圧制を強いるという、豪族にも近い”ゴードン=ニダーラン”から、貧しき人々を助ける為である。

79以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/20(月) 03:49:35 ID:aK3TyYNI0

彼ら自身は、決して安っぽい正義感に浸ったり、自惚れてなどいない。
今まで、幾度となくゴードンの備蓄倉庫や邸宅に侵入し、一切の足跡を残さず
金品や食物を盗んできては、一部を自分達の酒代に換えると、残りの殆どを貧しさに喘ぐ
人々に分け与え、羨望の眼差しを向ける人々に対して当の本人達はどこ吹く風と飄々としている。

それらの行為がたとえ偽善と言われようとも、彼らはやめるつもりはないだろう。
かつて、貧民窟で寒さに震える夜を周りの人間達と肩を寄せ合い乗り切ってきた、彼らだからこそ───

力無き”弱者”を放っておく事など出来ないのかも知れない。

爪'ー`)y-「冒険者、ねぇ……憧れた事もあったな」

( "ゞ)「あっしもです」

爪'ー`)y-「未開の大陸各地を転々と旅してさー、その内最高の女と恋に落ちちゃったりして。
     一晩の邂逅の後、冒険への情熱が再燃する俺は、再び旅に出ようとしてな……」

( "ゞ)「”どうしても行くというのなら…あたしも連れてって!!”」

爪'ー`)y-「そうそう……で、そこで俺は涙を呑んでこういうのさ」

爪'ー`)y-「”俺の恋人は冒険だけさ。女子供は、邪魔なだけだ”」

( "ゞ)「”そんな……あたしのお腹の中には……あなたの、あなたの子供が──!”」

(# `ハ´)「───うるせぇアル、この馬鹿供ッ!!!」

その力の限りの大声に後ろを振り返った二人の目線の先には、鉄鍋で肩をとんとんと叩いて
厳しい顔でこちらを睨みつける、店主の姿があった。

ゆっくりと周りを見渡すと、烏合の酒徒亭の店内に、すでに二人以外の客は誰もいない。

80以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/20(月) 03:50:29 ID:aK3TyYNI0

爪'ー`)y-「………ありゃ」

( "ゞ)「もう、随分と夜も更けてやしたか」

(# `ハ´)「とっくに看板アルヨ……お前達が帰らないと、店が閉めれないアルッ!!」

( "ゞ)「………わざわざ待っててくれたのかい、シナーの旦那?」

爪'ー`)y-「案外やさしいんだな」

(# `ハ´)「さっきから厨房で何度も怒鳴ってたアルヨ!お代はツケといてやるから、
      今日はさっさと帰りやがれヨロシなッ!!」

( "ゞ)「わーったわーった。んじゃ退散しますか、お頭」

爪'ー`)y-「そうだな……ごっそさん。ツケは近々払いに来るからなー」

(# `ハ´)「こっちとしては二度と来なくてもいいアルがナ……!」

緩慢な動作で席を立つと、シナーに後ろ手を振りながら二人を店を出た。
無駄酒飲み達が去った後、閉められた木扉に対してシナーは一掴みの塩を全力で投げつけていた

自分達の去った後に、シナーが清めの塩を投げつけていた事など露知らず、
デルタから切り出した冒険話に花が咲き、フォックスもまた上機嫌を取り戻していた。

酒場を出てから、あとは夜の街をふらふらと帰路につくだけ。

いつもならそうだ。

だが、普段ならば人っ子一人出歩かないはずの時刻に、
建物の屋根から屋根へと飛び移っている人影に二人は気づいた。

爪'ー`)y-「……ウチの若い衆、だな」

81以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/20(月) 03:51:45 ID:aK3TyYNI0

鋭い観察眼が重要視される盗賊という職業柄、夜目の利く二人はすぐに気づいた。
自分達の部下である3人が、今夜”仕事をする”という話を、昼間に聞いたばかりだ。

( "ゞ)「えぇ、ゴードンとこに行くつもりなんでしょうな」

街の離れ、小高い丘へとそびえるゴードン邸の方角へと向かう人影が3人。
こちらの様子には気づかず、そのまま行ってしまった

爪'ー`)y-「どれ、たまには俺らも見に行くとするかね」

( "ゞ)「へ……?今日の俺らは、酒入ってますぜ?」

爪'ー`)y-「ま、親心ってやつさ。邸宅の外から様子だけでも、な」

( "ゞ)「そりゃまぁ、構いやせんが…」

遠ざかっていった3人の影の後を尾けて、二人は小走りに走り出す。
盗賊ギルドの部下達であろう人影との差が、再び目視で追える距離にまで縮まった。
その辿り着いた先には、予想通りゴードン=ニダーランの邸宅があった。

邸宅の隣に佇むのは、食物や酒などを保存している備蓄倉庫。
敷地内に進入するや、そのまま影たちは倉庫の煙突から、内部へと侵入していったようだった。

その一部始終を、フォックスとデルタの二人は外壁の縁に登り、遠巻きから眺める。
3人が入っていった煙突を注視して、10分が経った頃にデルタが口を開く。

( "ゞ)「遅いな……」

爪'ー`)y-「あぁ」

82以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/20(月) 03:52:29 ID:aK3TyYNI0

盗賊において必要な頭の良さとは、機転の利かせ方だと部下達には教えてある。

ただ、部下と言っても少しだけ歳の離れた”弟分”達は、威厳など微塵も無い自分に対して
必要最低限以外の礼儀など払おうとしない。ましてやこちらも要求したりはしていないのだが、
常々、フォックスはそれでいいと思っていた。

だが、仕事に関しては話は別だ。

自分達は人様の食い扶持を奪い、自らの私腹を肥やす事で暮らしていける。
決して声を大にして触れ回る事の出来ない職業だからこそ、適度に仕事をやるべきなのだ。

”丁度いい”というのは重要で、標的とする人間が身の破滅に至るほどの打撃を与えてはならない。
自分達が足跡さえ残さなければ、上手く行けば標的さえ気づかぬままに、世は事も無しに済む。

だが、一度やり過ぎてしまえば、それは復讐の種をバラ撒く事にしかならない。
様々な人間達を敵に回し、やがては日の当たる場所にいられなくなるだろう。

欲を出して抱えきれない程の戦利品を持ち去ろうとして足が着く、などという
愚鈍な盗賊など、自分の在籍するギルドには一人も存在していない自負がある。
仮に、多少のヘマをしてもとっさの悪知恵で乗り切れるようには、育てていたつもりなのだ。

だからこそ、一軒の家屋に三人がかりで仕事に掛かり、10分以上も離脱してこない事に動揺があった。

爪'ー`)y-「なぁ、デルタ」

( "ゞ)「何ですかい?」

爪'ー`)y-「ゴードンとこ、前回はまだ年が明ける前だったか」

( "ゞ)「えぇ。確かナッシュの奴が一人で息巻いて、たんまり掻っ攫って来た時ですね」

83以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/20(月) 03:53:22 ID:aK3TyYNI0

爪'ー`)y-「ゴードンの親父も、伊達に街で一番でかい家に住んでない。
     心底呆れるほどの馬鹿じゃないだろうさ」

( "ゞ)「………と、言いやすと?」

爪'ー`)y-「あん時、ナッシュは去り際に後姿を見られたって話だよな」

( "ゞ)「ま……言いつけを守れないお子様には、自分からきつくお灸を据えときやしたが」

爪'ー`)y-「奴が何らかの侵入者の存在に気づく。そうなれば、以前からちょくちょく
     品定めさせて頂いてた事ぐらい、帳簿なんかを遡ればさすがに解るだろうぜ」

( "ゞ)「あー、奴が生活用品の値上げをする度に倉庫の商品がかっぱらわれてるのに
    気づく節も無く”ウチの葡萄酒は今日から6spニダ!”とかほざくもんだから、
    てっきり本当の馬鹿だとばかり思ってましたよ」

爪'ー`)y-「まぁ、俺も今までそう思ってたんだけどな、そろそろ様子を見にいくか」

( "ゞ)「お供します」

フォックスのその言葉に頷くデルタの表情も、やや真剣味を帯びつつあった。
これまでこの街の盗賊ギルド全体としては、盗みに入った事実が発覚した事はない。
ヘマを踏んで治安隊に突き出された半端者達もいたが、それでも決して口を割る事はなかった。

しかし、盗賊ギルドの次期頭目として自分達のこの顔は多数の人間に知れ渡っている。
仮に自分がゴードンの家に忍び込んでいた過去の事実が明るみになれば、今まで通り
この街に住み暮らす事は難しくなるだろう。

だが、自分のちっぽけな善意を汲んで、その元に動いてくれている部下達が、
みすみす治安隊に突き出されるのを指を咥えて見送るのもご免なのだ。

84以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/20(月) 03:54:09 ID:aK3TyYNI0

二人は外壁を伝って、手練の動作で素早く倉庫の屋根へと登り切る。

爪'ー`)y-「合図するまで、お前は外で待っててくれ」

万が一の事を考えて、デルタは外に残しておいた。
自分や部下達に何かがあった場合、デルタに助けを呼ばせる為だ。

三人の部下達が消えて行った暗闇が覗く煙突。その縁に手をかけると、
フォックスはそのまま垂直に飛び降りて内部へと侵入した。

───

──────

────────

降りた先の場所は暖炉はもう使われておらず、拓けたただの空間だった。
ごろごろと荷物が置かれた室内には明かりの類が無く、暗闇に等しかった。
封のなされた食料品などには先の部下達がやったのだろうか、物色した痕跡。

爪'ー`)y-(そっちの部屋か)

耳をそばだてると、隣の部屋から時折物音がするのに気づく。
音も無く速やかに物陰へと身を寄せると、中の様子を伺うために僅かに身を乗り出す。

「…くっ、ちく…しょう…」

85以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/20(月) 03:54:44 ID:aK3TyYNI0

携帯用の松明の小さな明かりが、地面に落ちて燃え尽きようとしている。
その明かりに照らされるのは、数人の人影だ。

部下である3人は、地べたへと倒れ伏せていたようだった。

その中心で、周囲の闇に溶け込むようにして佇んでいたその男。

爪'ー`)y-(!!)

程なくしてフォックスの気配に気づき、こちらへ振り返った。

('A`) 「………」

爪'ー`)y-(こいつ……昼間の)

その表情からは、何も感じ取る事が出来ない。
笑っている訳でも驚く様子でもなく、虚ろな瞳でフォックスを見ているばかり。

ただ、無機質な殺気だけを身に纏って。

爪'ー`)y-「あんた……昼間酒場で見た顔だな」

見れば、大怪我さえしてないものの、二人の部下達は床に転がされてのびている。
もう一人は意識があるが、殴り倒されたのか大量の鼻血で上着を濡らしていた。

力自慢の冒険者ほどではないが、それなりに腕っ節を鍛えている3人の男たちを、
たった一人で倒してしまったというのだ。その相手に呑まれる事のないよう、
決して顔に動揺は出さないが、内心では焦っていた。

86以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/20(月) 03:55:22 ID:aK3TyYNI0

爪'ー`)y-「まぁ、こいつは話半分に聞いてくれりゃいいんだが……
      そこの三人、今回は見逃してやっちゃくれないか?」

('A`)「………」

爪'ー`)y-「代わりといってはなんだが、一人につき150spの礼は約束する」

交渉を持ちかける。出来うる限り、後腐れなく、波風を立てない事が一番だ。
いかに自分達が正義を語ろうが、盗みに押し入っているという事実が揺るがない以上、
大儀は向こうにある。今は目の前の男をどうにかしなければ、全員治安隊に突き出される羽目になる。

男がようやく口を開くと、覇気の無い声がフォックスの耳に届いた。

('A`) 「こちらは……”侵入者の排除依頼”さ」

('A`) 「確かに、一人頭150spの謝礼は魅力的だな」

爪'ー`)y-「……手付けとして、まずはここに200spある。なぁに、残りは後日必ず──」

('A`)「……だけどな」

フォックスの言葉を半ば遮るようにして、男が会話を被せた。
今まで無表情だった男の口角が、一瞬釣りあがる。

('A`)「こちらさんの依頼も、侵入者一人につき150spの報酬でね」

('A`)「あんたも入れれば、銀貨600の稼ぎって訳だ……交渉は、決裂だな」

爪'ー`)y-「……ちッ!」

87以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/20(月) 03:55:56 ID:aK3TyYNI0

すぐに腰元からナイフを取り出し、それを片手で前方へと振りかざす。
腰を落とし、体勢を低く保つ。相手の攻撃がどこから来ても対応できる構えだ。

男もまた緩慢な動作で胸元から大きなナイフを取りだすと、逆手に掴んで
刃先をこちらへと突きつけた。鈍色に輝く刃が、大きく湾曲した刃物。
見る者を威圧するようなそれは、凶暴な威容を放つククリナイフだった。

地に落ちて燃え尽きようとしていた松明の明かりの残滓が、
もうすぐのところまで完全な闇が迫っていた室内を、ほのかに照らす。
互いの持つナイフの刃先はその光量を受けてか、輝きを放っていた。

だが、それは互いが殺気を放っている事による錯覚であるのかも知れない。

フォックスら盗賊が得手とする、投擲などの為の投げナイフとは大きく形状が異なる。
太く、重厚で、骨すらも断ち切る事が可能なほどに叩き斬る事、切り裂く事に特化した凶器。

だが、その異質な存在感とは対照的。まるでそこにいるのは幽霊なのではないかというほどに、
濃紺の外套を纏う男は、ただ静かな瞳で逆手でそれを構えている。

('A`)「随分とちんけなナイフだな」

表情を変える事も無く、幽霊がフォックスに言葉を投げかける。
手元にすっぽりと収まるほどの、心もとないナイフを見ての言葉だ。
それに、フォックスが内心に抱いている焦燥が悟られている様子はなかった。

フォックスもまた、完全なるポーカーフェイスを崩さぬままに
落ち着き払った声と、どこか間の抜けた表情で男の問いかけに答える。

爪'ー`)y-「大きければいい…ってもんでも、ないさ」

88以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/20(月) 03:56:27 ID:aK3TyYNI0

一目に、禍々しいとさえ思ったフォックスだが、ぐっと虚勢を張った。
事も無げな顔をしながら、しかし眼ではしっかりと相手の出方を伺う。

所持していたナイフは、2分の1フィートにも満たぬ、投擲用の小さなナイフ。
刃渡りの差は歴然であるが、ことナイフさばきに関しては手足を動かす事と同じぐらいの自信がある。

倒れ付している部下達を介抱し、いち早くここから離脱しなくてはいけない。
倉庫に侵入している事が、家主であるゴードンにまで伝わっているのかまでは解らない。
今すべき事は、ゴードンに雇われたであろうこの男を、どうにかして撃退する事だけだった。

爪'ー`)y-(どうでるか、ね)

('A`)「”大は小を兼ねる”……俺の出身の名言さ」

初撃を繰り出したのは、ククリナイフの方であった。
黒に近い外套に身を包んでいる為か、素人目であれば闇に溶け込んだその刃が
どんな軌道を描いて襲い掛かってくるのか、首元を抉られるまで解らないだろう。

爪'ー`)y-「!……よっと」

だが、暗所で生まれ育ち、また盗賊という職で培ってきたフォックスの夜目には
その急激な軌道の変化も見抜いていた。大きく首を切り裂こうとしたかに見えた一刀は、
ナイフを握る手首を、返しの小さな振りで 敵の目を欺きながら狙う為の攻撃だ。

ナイフが握れなくなってしまえば、その時点で勝負は決まってしまう。
狡賢いやり方ではあるが、確かに効果的だ。しかし、刃物を用いた喧嘩を経験した事が
あるからこそ、前方で浮かせた手を即座に上方へと反応させる事は容易な事だった。

('A`)「へぇ?」

89以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/20(月) 03:57:04 ID:aK3TyYNI0

だが、再びフォックスが構えるよりも早く、男が大きく一歩を踏み込んできていた。
続けざま。防御を意識させない様にわざと視線を全く別の場所へ逸らしながらの攻撃。

初撃とは比べ物にならぬ速度で襲ってきた下方からの激しい一撃が、フォックスの
顔あたりを突き上げる様にして振るわれた。

爪'ー`)y-「……ッ!」

顎ごと身体を目一杯仰け反らせ、辛くも意識外から来た攻撃を避ける。
通過した刃が、顎の先端に僅かな裂傷を走らせた。

爪#'ー`)y-「……らぁッ!!」

('A`)「……あらら」

体勢を崩しかけた所を突きが狙っていたが、即座にナイフを横に薙ぐ。
多少無茶な反撃だったが、怯ませるぐらいの効果は発揮したようだ。

('A`)「たいしたもんだ。この暗い中で、よく俺のナイフをかわせるな」

爪'ー`)y-(これ程の的確なナイフ術……暗殺ギルドの人間か?)

すぐに飛びのいて距離を取り、一度だけ大きく呼吸を整えた後に
再びしっかりと相手を正面に捉えて、視線をぶつけ合う。

だが、このわずか2合の立会いの中ですでにフォックスの顔からは
既にじっとりと冷たい汗が頬を伝っている。

('A`)「どうした、こないのかい?」

爪'ー`)y-「………その気になれば、いつでも殺れるんじゃないのかい」

駆け引きからでの言葉ではなく、こればかりは本心だった。
一方の男はふふん、と鼻を鳴らしてククリナイフを手元で弄んでいるが。

90以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/20(月) 03:57:43 ID:aK3TyYNI0

('A`)「どうだかな……だが、生憎この依頼人は口うるさいんだよ。
   生死如何によっては、報酬半額っていう事情もあってね…」

爪'ー`)y-「はぁ。そいつぁまた、面倒なこったなぁ」

('A`)「だからさ……とっとと大人しくしてくれると、こっちは有難いんだよ」

爪'ー`)y-「そういう訳にもいかないんだよなぁ、これが」

他愛の無い話をしながらも、この状況を看破するために自分ができる行動を、
必死に頭の中で張り巡らしていた。このままいくと、勝機は限りなく薄いだろう。

この男のナイフは、恐らく”仕事”として相当に使いこまれている。
より効率的に、より不可視に、まさしく暗殺などを生業としている者のそれだ。

命を奪う事という一点に絞って磨きぬかれてきた技に、この状況からでは
出し抜きようがなく、こちらが技量だけで上回る事は難しい。

あるとすれば、命を一度捨てる事。
結局、最後の選択肢であるそれにしか至らなかった。

('A`)「じゃあ、続きといこうか?」

爪'ー`)y-「と言いたいところなんだけど……やっぱり、さっきの交渉の続きをしないか?」

('A`)「ほう」

こちらの声に耳を傾ける素振りは見せているものの、身体では決して
隙を見せる事など許してはいない。それどころか、こちらがどうやって
仕掛けるのかを虎視眈々と伺っているようにすら感じる。

91以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/20(月) 03:58:12 ID:aK3TyYNI0

確かに、これはタイミングを見計らう為の時間稼ぎに過ぎない。
だが、どれほど微細であろうとも、僅かでも気を散らせる事が出来れば上等だ。

爪'ー`)y-「人の命よりも金の方が大事…って感じなのか?アンタ」

('A`)「ま、どう受け取ってもらっても構わないが、そんなとこかな」

爪'ー`)y-「守銭奴なんだな。なら俺達4人の首、一人頭200spで売ってやるよ」

一瞬口元を手で覆い隠し、こちらから視線を外してあざける様にほくそ笑んだ。
フォックスが予想していた通り、持ちかけに応じるような返事など返っては来なかったが。

('A`)「はぁ……勘違いするな。さっきは気まぐれで話を聞いてやっただけだ」

爪'ー`)y-「………」

('A`)「実際俺は、仕事に関しては自分の事しか信じないんでね……気を持たせたなら謝ろう」

爪'ー`)y-「いやぁ、気にするなよ」

きっかけを作るとするならば、ここしかない。
少しばかりわざとらしいが、ナイフを手にした方の手で頭を掻く仕草に見せかける。
頭の後ろでナイフの刃先を指で摘んで持ち替えておいた。後は脇を伸ばして、出来る限り溜めを作る。

爪#'ー`)y-「わかっちゃあ……いたけどねぇッ!!」

('A`)「俺もさ」

92以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/20(月) 03:58:44 ID:aK3TyYNI0

男が最後に言った言葉が耳に入るよりも前に、身体全体を弓の弦のようにしならせると、
全力を以ってナイフを前方へと投げ放った。狙いはつける余裕もなかったが、外しはしない。

次の瞬間には、カキン、と固い金属同士がぶつかる破裂音。

('A`)「この程度で……」

そうして投擲したナイフは呆気なく叩き落されていたようだ。
だが、すでに両の足は一直線に男の元へと駆け出している。

('A`)「!」

思ったよりも低い位置から、目の前を横一文字に斬撃の軌道が半月を描いた。
ほぼ同時に、後頭部すれすれをナイフがよぎった感覚。

長い銀髪を後ろで結わえていた紐が、数本の毛髪らとともに背後の空中へと舞った。

勢いのついて止まれない状態で、振りを見てから避けられるかどうかは博打だった。
だが、決して速度を落とさず走りぬけながらも、辛うじて身体を伏してかわす事が出来た。

爪'ー`)y-「へッ!」

勝利を確信した奴ほど、崩れてしまえばもろいものだ。
自分の敗北を、最後の最後まで疑えなければ、そいつはきっと勝利者にはなれない。
たとえ一瞬だろうと、確実にこちらを上回れる技量を持ちながら、侮ったのが運のツキだ。

('A`)「この……ッ!」

爪#'ー`)y-「このフォックス様を、なめんじゃねぇぞッ!」

ククリを手にした右手首をがっしりと掴み、追撃のナイフが振るわれる事はなかった。
そして、それを引き寄せるようにして胸倉を掴むと、走りこんだ勢いそのままに、
肩からぶちかましてそのまま地面へと引きずり倒した。

(;'A`)「ゲッ、フゥッ!」

93以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/20(月) 03:59:15 ID:aK3TyYNI0

転がされた衝撃を受けてもナイフを手放す事は無かったが、手首を左膝で押さえ込んだ。
男の上体へと腰掛けた体勢。反撃する為に必要な、もう片方の手へも腕を伸ばして封じた。
もはや身じろぎする程度しか出来ない程に、完璧に有利な体勢を作る事に成功したのだ。

爪'ー`)y-「知ってるか?殴り合いの喧嘩になったらさぁ、こうやって
     上半身に乗っかかられた時点で、大体勝負は着いてるんだぜ?」

(;'A`)「チッ……」

言って、苦い顔を浮かべた。足を浮かして脱出しようとはするが、どうにもならない。
だが、こちらは男の四肢を封じた上で、自由に使える左腕で顔面を殴りつける事が出来るのだ。

爪'ー`)y-「そういやさ…アンタ。さっき、金が命よりも大事とかなんとか…」

(;'A`)「だったらどうだってん…」

( #)'A)「…ブゴォッ!」

言い終えるより先に、左の頬を拳で殴りつけていた。
顔を庇う事も出来ず、地面を介した衝撃は相当に大きいはずだ。

爪'ー`)y-「俺さー、そういう事言う奴……なーんかいけ好かねーんだわ」

爪'ー`)y-「だから本当は20発も殴ってやりたいところだけど……優しい俺はさ、
     まぁ、なんとか7~8発ぐらいで気を失わせられりゃあいいや……ってね」

(#'A`)「調子に乗るなよ……」

ここに来て初めて怒りを露わにした男が、口の端から小さく
血を伝わせながらも、フォックスをするどい目つきで睨みつけた。

意に介する事もなく、フォックスは後ろを振り向いて声を投げかける。
つい先ほどこの男にノされてしまった、部下達三人に向けて。

爪'ー`)y-「おーい。お前ら、そろそろ起き上がれよ」

94以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/20(月) 04:00:09 ID:aK3TyYNI0

その声に、やがて一人が反応し、ゆっくりと上体を起こした。
目が合うと、すぐに大きく見開かれる。仰天していたようだった。
続く二人も身を起こすと、同様の反応を示す。

「あ、あれ………」

「な、なんで!」

「……フォ、フォックスのあに──」

爪'ー`)y-「しー、そんなとこで寝てたら風邪引くぞー。とっとと帰るこったな」

男には見えない位置から、指で口をふさぐ真似をした。
”何も言うな”と促すようにして、立ち上がった三人を手で追っ払う。

「………!」

爪'ー`)y-「この通り、この場は俺が何とかしとくからさ。邪魔だよ、帰った帰った……」

目の前で起きている状況が即座には理解出来なかった様子で、全員が動揺している。
何か言いたげな様子をしながらも、侵入してきた煙突のある部屋へと、全員すごすごと退散していった。

そうして部屋には、二人だけが残された。
地面で微かに燻っていた松明も、今はもう完全に燃え尽きた。
暗闇が覆うのみの部屋、互いの呼吸が聞き取れる程の静寂の中で、男がまた口を開く。

('A`)「部下か…何かか。またずいぶんとお優しい事だな」

爪'ー`)y-「だろ?まぁ……今みたいに気苦労が多いのだけが悩みの種だけどな」

('A`)「あぁ、全く麗しい師弟愛だ。吐き気がするよ……」

95以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/20(月) 04:01:23 ID:aK3TyYNI0

( #)'A)「うッぐぅッ!」

再び拳を振り下ろす。今度は、鼻っ柱を叩いた。
久しく人を殴った事などなかった拳には、鈍い痛みが走っている。
だが、殴られたこの男は、それ以上に痛みと屈辱を抱いているはずだ。

爪'ー`)y-「あんたみたいに、殺しが特技みたいな人間に理解してもらおうとも思わないけどな」

(#)'A`)「甘っちょろいんだよ。人の生き死にが尊いもんだとでも思ってるのか?」

爪'ー`)y-「あぁ…尊いね。一生懸命に生きてる人間の命を奪う権利なんてもんは、誰にも無い。
     この街の皆だってそうさ、貧しくても生きていこうと、毎日が死に物狂いだ」

(#)'A`)「…人を殺すのがいけないなんて、聖人気取りの台詞か?欺瞞だな」

もう一発お見舞いしようとしたフォックスだったが、これまでで初めて
真剣な口調で話し始めた男の様子に、思わずその言葉に耳を傾けてしまっていた。
やがて、堰を切ったように、男は饒舌に話し始めた。

ひとまずは握り拳を下ろして、少しだけ熱を帯びたその瞳を、ただ見下ろす。

(#)'A`)「”人を殺せ、出来なければ殺す”、年端もいかない子供がそれを命じられて殺すのは、悪か?」

爪'ー`)y-「………」

(#)'A`)「親しいと言えるだけの相手の家族の命を一度でも奪って、その罪が消える事などあるのか?」

(#)'A`)「そんな虫の良い話………ある訳がない」

爪'ー`)y-「まぁな」

96以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/20(月) 04:02:12 ID:aK3TyYNI0

(#)'A`)「────一度殺してしまえば、二度と日の当たる場所には戻れない。
    例え悔いても、そんなものは罪から逃れたい意識というだけの事だからな」

憎悪に満ちたその瞳を、冷淡な表情でただ見下ろしていた。
別に哀れみという訳ではない、フォックス自身でも共感できる部分がある話なのだから。

凶暴なククリナイフを持った暗殺者の身体に、貧民出の盗賊が上に覆いかぶさり、
過去の身の上話を少しばかり真剣な面持ちで聞いているこの状況───。
傍から見るにはかなり奇妙な光景だが、当の本人達は至って真剣そのものだ。

だがフォックスはくだけた口調で、しばしの沈黙をおいてその男の話に所感を述べた。

爪'ー`)y-「だから、悔いようとも思わない…ってとこか」

(#)'A`)「下らないな」

爪'ー`)y-「なんだかなぁ。”ツイてなかった”……そう思うしかないと思うぜ?多分さ」

(#)'A`)「知ったようなッ───!」

爪'ー`)y-「けど、あんたみたいに腕の立ちそうな男なら、きっと途中で足を洗えてたはずだ」

(#)A )「………」

爪'ー`)y-「それでも省みる事をしなかった、ってーのは、アンタの落ち度じゃない?
     も一度日向に戻ろうとしなかったのは、アンタがどっかで諦めてたからさ」

(#)A )「黙れ……」

爪'ー`)y-「無理やり人殺しさせられる状況だったなら、きっと誰もアンタを攻めないぜ?」
     だから……結局、悔いようとも思わなかったんじゃない。悔いるのが、怖かったのさ」

(#)A ) ブヂィッ

97以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/20(月) 04:04:00 ID:aK3TyYNI0

琴線に触れたか、憎悪に一瞬男の顔が歪んだ。かと思えば、次の瞬間には
跨るフォックスの顔を目掛けて、何かが吹きかけられた。血の飛沫だ。

自ら歯で口の中を切り、貯めた血を目潰しに使ったのだ。

爪;ー)「ぐぁッ!?」

(#'A`)「フゥゥゥッ!!」

左手で顔を庇った一瞬、フォックスによる男への四肢の拘束が緩んだ隙を突き、
上体を起こしながらすぐさま左の拳で顎を上方へと打ち抜かれた。

衝撃に後方へと倒れこんだフォックスを、男は流れるような動作で地面へとそのまま組み伏せる。
脚を使い、足裏と膝で両腕の自由を封じられたフォックス。先ほどまでとはまるで逆───

気づいた時には、頬に冷たい金属が押し当てられていた。

爪;ー)y-(あ……やっべぇなぁ……これ)

( A )「──俺に取って、金は命よりも尊いもんさ」

( A )「本当に、お前を殺すつもりはなかった」

(#'A`)「だがなぁ……相手の命と自分の命、そして、金とプライド」

(#'A`)「天秤にかけてみて、臨機応変に対応させて頂く場合もあるんだぜ」

無機質で冷たいククリナイフの刃先が、つん、と首元の皮膚に触れた。
このままあと少し刃を押し込み、少し横に動かされただけで自分の心臓は止まるだろう。
こうなってしまっては、さすがに諦める事しか出来ない状況だった。

98以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/20(月) 04:06:43 ID:aK3TyYNI0

(#'A`)「報酬なんかどうだっていい───ここで、死ね」

爪;ー)y-「ハッ……フゥッ、フゥッ」

呼吸が上ずり、身体中が縮こまる。
いよいよ、覚悟を決めざるを得ない時が来たようだ。
血糊で塞がれた瞼を、ぎゅっと強く閉じこんだ。

最後の瞬間が訪れるのは、次の瞬間か、はたまた、数十秒後か。
どちらにしても長時間苦しみたくはない、一瞬で終わらせてくれよ、と強く願った。

やがて、胸元をナイフが貫く衝撃が、響いた──────

「死んだな」

確かに、そう思った────

だが、実際にはそうではなかったのだ。

身を強張らせながら、極限まで高まった死への恐怖が、自分の身を刃が刺し貫く感覚を
錯覚させたに過ぎなかった。確かに、精神的には一度死んでしまったのかも知れないが。

それでも”本当の死”は────いつまで経っても、その瞬間が訪れる事はなかった。

99以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/20(月) 04:07:32 ID:aK3TyYNI0

「水臭いですぜ、お頭ぁ」

爪;ー )y-「あれ、もしかして俺……生きてる?」

顔を見る事が出来なくても、その声だけですぐに理解する事が出来た。
旧友の慣れ親しんだ顔がぱっと頭に浮かび、それが死の淵に居た自分の意識を一気に引き戻す。

( "ゞ)「危なかったら一声掛けてくれりゃあいいのに……
    けど、あいつらが話してた状況とはまるっきり間逆じゃないですか?」

そう、デルタだ。結局長時間姿を見せない自分の危機を察してか、
助けに来てくれたのだ。絶対絶命の状況で、この男の存在はこの上無く頼もしかった。

爪;ー )y-「いやぁ~……死んだと思った」

目を覆っていた血糊を袖で擦り落としながら、ゆっくりと立ち上がる。
ごほごほと咳払いをする音の方へ向き直ると、微かに確保できた視界に
飛び込んで来たのは、男が片腹を押さえてうずくまっていた場面だった。

そして、喉をさすって身体の具合を確かめるフォックスの前に立つのは、ナイフを構えるデルタ。

( "ゞ)「やっぱり昼間の奴か……うさんくせーと思ってたんだよ、お前さん」

爪'ー`)y-「助かったぜ、デルタ」

( "ゞ)「いいって事です」

(#'A`)「……まだ、新手が居たとはな」

100以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/20(月) 04:08:11 ID:aK3TyYNI0

再度ククリナイフを構え、男はゆらりと立ちあがる。
フォックスも先ほど弾き落とされたナイフを拾うと、デルタと共に並び立った。
的を絞らせないようにする事が出来る二対一という状況ならば、十分に渡り合える。

だが、先ほどまでの怒りの色が一瞬で失せると、既に冷静さを取り戻している
男の表情や佇まいには、それでも焦燥は浮かんでいない。こちらとやりあう構えだ。

( "ゞ)「おっかねぇナイフだな……けど、俺達に勝てるつもりか?」

('A`)「素人に舐められて、引き下がれるか」

爪'ー`)y-「そういうお前さんは、きっと暗殺ギルドか何かの人間なんだろうな」

( "ゞ)「確かにそんな感じだな。でも、喧嘩だったら負けねぇぜ?」

('A`)「ハッ…」

互いに、長い膠着状態に入ろうかという所だった。

さすがに容易には踏み込めず、一定の距離を保つのに傾注している様子が伺えた。

だが、それは正しい判断だ。フォックス以上に夜目の利くデルタがいる以上、
暗闇の中でナイフの軌道を見切れるだけのアドバンテージは、もはや向こうだけのものではない。

片方が仕掛けて生まれた隙を、もう片方が突く事だって出来るのだ。
だからこそ、ここで出来る限り相手の戦意を削いでおきたかった。
相打ち覚悟の無謀な博打に出られると、悪くすればどちらかがやられる恐れもあるからだ。

101以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/20(月) 04:08:42 ID:aK3TyYNI0

実質、仕事の依頼などの運営を中心に立って切り盛りしているのはデルタなのだが、
それでもデルタとフォックス、二人のどちらかでも欠けるような事が出てしまえば、
今後のリュメの街での盗賊ギルド全体に、大きな影響が出てしまうだろう。

爪'ー`)y-「俺達のどっちかを殺しても、最終的にあんたは死ぬぜ?」

('A`)「知ったことか………仮にそうなっても、必ず一人は道連れにしてやる」

( "ゞ)「勇ましいこって……」

睨みあいの最中、先に痺れを切らしたか、男は床に口の中の血を吐き捨てると、
ナイフを片手に携えたまま、ゆっくりと二人の下へと近づいてくる。

ろくに構えもしていないが、その不用意さが逆に恐ろしい程だ。
小さいが、手傷を負っているフォックスを庇い立て、デルタが前に出る。

爪'ー`)y-(油断すんなよ、デルタ)

( "ゞ)(解ってやす)

('A`)「2対1でのアドバンテージなんて、俺にとっちゃ無いも同然だ」

強気な発言は動揺を誘っているのか、不気味な無表情を崩さず、なおも男は無造作に距離を詰める。

( "ゞ)「………シィッ!」

102以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/20(月) 04:09:46 ID:aK3TyYNI0

これ以上間合いを詰められては刃渡りで劣るこちらが不利と判断したデルタ。
男の動きを牽制するために、その首元すれすれを目掛けて、先にナイフを振るった。
腕を狙われないよう、あくまで小さく返しの早い振りで、だ。

だが、殺意の篭もらないその一撃は、男に見透かされていたようだった。
牽制に動じる事も無く、首皮を裂く程の近距離で振るわれたナイフの軌道を見切っている。

( "ゞ)(ちゃちな脅しは通用しねぇ、か)

('A`)「見本を見せてやるよ」

やがてデルタの前にまで立つと、そう言って男は突然不可解な行動を始めた。
右から左、左から右へとナイフを投げて持ち手を入れ替えながら、弄んでいる。

('A`)「”本気の殺意”、ってのをな」

( "ゞ)「………?」

男が右手に再びククリナイフを手にした時、その手は上段に構えられていた。

このまま無造作に斬りつけようとしているのか、だが、そんな大振りならば容易に避けられる。
そう考えてしまったデルタは、既に上体を軽く仰け反らして、避ける構えを見せていた。

だが次の瞬間、咄嗟に声を荒げたフォックスの一声に、急転換を余儀なくされる。

爪#'ー`)y-「違う!左からだ、デルタ!」

103以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/20(月) 04:11:04 ID:aK3TyYNI0

(;"ゞ)「……んなッ」

('A`)「………ご名答」

見れば、右手に握られていたはずのククリナイフは、忽然と消えている。
その代わりにデルタの胸元に向けて、逆手に握られた左の一撃が突き立てられようとしていた。

左から右、そしてその逆へと、まるで手品のように持ち手を入れ替えながら攻撃しているのだ。

フォックスの言葉で、それに辛うじて気づくことが出来たデルタだが、左方に仰け反らせた
身体を反転させる間など与えてくれない、あまりに絶妙なタイミング。

もはや運任せとばかりに、ただがむしゃらに自らの小さなナイフで致命打を防ぐ他なかった。

(;"ゞ)(~~~~~~ッ!!)

目の前がぼんやりと真っ白になる程の衝撃と、遅れてやって来た恐怖。
しかし、自らのナイフから伝わってきた確かな感触に、デルタは生を実感する事が出来た。

デルタのナイフの持ち手の合間を縫って穿たれたククリナイフの刃は、
デルタの持つナイフの”柄”により、辛うじて受け止められていた。

('A`)「どうだ……”暗殺の一撃”は?」

───「一瞬でゼロから加速する殺意に、死を連想出来たか?」───

(;"ゞ)「─────野郎ッ!!」

104以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/20(月) 04:11:33 ID:aK3TyYNI0

ナイフの刃と柄を交わした状態で、なおも言葉を紡ごうとしていた男から、
強引にナイフを弾いて大きく飛びのくと、デルタは再び距離を取った。

思わず身に着けているベストから露出した腕をさすり、肌が粟立ちはじめていたのを抑え込む。

爪'ー`)y-(今ので分かったろ、デルタ……こいつ)

(;"ゞ)(えぇ………かなり使いやがる)

気を抜いたらすぐにでも肩で息をしてしまいそうな程の疲労感、それが、
たった1合の立会いで、今デルタの身に一瞬で押し寄せていた。

('A`)「これが殺しの本職の力量……って奴さ」

(;"ゞ)「………褒められたもんじゃあ、ねぇさな」

('A`)「どうでもいい……さてお二人さん。俺の前に、無残な死骸を晒すとするか?」

爪'ー`)y-「………」

やはり、どうあっても引き下がるつもりは無いらしい。
たかだか数ヶ月分の生活費の銀貨の為か、それとも、暗殺者としての矜持か。
そんなものの為に、自分が死ぬのも相手が死ぬのも馬鹿らしい、フォックスはそう感じていた。

( "ゞ)(どうします…?)

だから、最大限にリスクを軽減し、誰もが損をしないようにこの場を収めようと、
再び口を開く。目配せを送ってきたデルタを手で制し、ナイフを持つその手を下ろさせて。

105以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/20(月) 04:12:01 ID:aK3TyYNI0

今度は駆け引きからではない、本日三度目となる交渉を、男に持ちかけた。

爪'ー`)y-「なら……最後に、もう一度だけ交渉をしたい」

('A`)「聞き入れると、思うのか?」

爪'ー`)y-「あんまりな……だけど、今のあんたにとって悪い話じゃないはずさ」

爪'ー`)y-「そして、交渉の前にもう一度だけ言っておくぜ?」

爪'ー`)y-「この最後の交渉が決裂して殺し合いになっても、そりゃ確かに俺達は素人だ、
     あんたの言ってたとおり、どっちかは道連れにされて死ぬかも知れねぇ」

('A`)「………」

爪#'ー`)y-「だがな……例えどちらかがあんたに刺されても、そいつはあんたの動きを止めて、
      もう一人が確実にあんたの喉首を掻っ切る。断言するぜ───これだけは」

('A`)「………ふぅん」

強い意志が込められたフォックスの瞳と、言葉。

しばしその言葉にじっと耳を傾けていた様子の男だったが、
最後にはおどけたように、肩をすくめて見せた。

( "ゞ)「お頭、何を……?」

爪'ー`)y-「いい、デルタ。お前今いくら持ってる?」

106以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/20(月) 04:12:43 ID:aK3TyYNI0

唐突に交渉を打ち出したフォックスの様子に戸惑うデルタをよそに、
その腰元に付けられた銀貨入りの麻袋をひったくると、その中身を確認していた。

爪'ー`)y-「ひぃ、ふぅ…ま、ざっと250spってとこか」

(;"ゞ)「ちょ、お頭?」

('A`)「………?」

さらに、自分の腰元に結び付けられていた銀貨入り袋を取り出すと、
それら二つを束ねて男の方へと投げ渡した。空いた方の手でそれをはし、と掴む。

('A`)「何のつもりだ?」

男の様子を気に掛ける事もせず、フォックスは続けた。

爪'ー`)y-「しめて、450spって所か……そいつを受け取って、ゴードンの所に帰ってくれ」

爪'ー`)y-「そんで、今日ここで見た事は全て忘れるこった」

(;"ゞ)「ちょ、それじゃあ俺の今月の生活が……!」

('A`)「ハッ……臆したか」

爪'ー`)y-「いーや、違うな。仮に俺らと刺し違えたところで、どう上手く事が
     運んでも、安いプライドだけを抱えたまま、あんたはあの世行きだ」

爪'ー`)y-「それなら、何事も無くその450spと追加報酬を持って立ち去った方が利口ってもんだろ?」

('A`)「追加報酬だと?」

107以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/20(月) 04:13:28 ID:aK3TyYNI0

爪'ー`)y-「あぁ、ゴードン=ニダーランの奴にはこう報告すればいい」

爪'ー`)y-「”アンタの家に忍び込んでいたのは、盗賊ギルドのグレイ=フォックスだ。
      ギルドの金だけでは飽き足らず、夜な夜な街の人間の家に忍び込んで、
      金品をせしめていた”────とかかな」

(;"ゞ)「お頭!?何言ってんです、そんな事したらお頭だけじゃなくウチの
    ギルドの奴らも治安隊の奴らにしょっぴかれるんじゃないですかい!」

爪'ー`)y-「なぁに、そこでアンタが一芝居打ってくれりゃあ全て丸く収まるさ。
     俺個人が盗みを働いていたのを目撃して、とり逃がした事にすりゃあいい」

('A`)「……面白い事考えるな、お前」

爪'ー`)y-「んで、翌日には俺がこの街から消えりゃあ、万事オッケーだろ?
     上手くすりゃ、あんたはゴードンの奴からも報酬がもらえるって訳だ」

(;"ゞ)「消えるって……なーに言ってやがんですかいッ!」

つらっとして、淡々と自らが即席で考えた筋書きを語るフォックス。
自分が置き去りにされたまま話は進んでいき、デルタは狼狽するしかない。
そんな中で、手元の銀貨入りの袋をじっと眺めながら、男は考えこんでいる様子だった。

部下三人の身を案じながら、自分一人でこの男と渡り合っていた先ほどならば
要求を呑む事は有り得なかった。だが、部下達を逃がした今となっては、
自分とデルタの二人を倒した所で、300spの報酬しか手に入らないのだ。

──デルタと一緒の今ならば、決して勝てない状況ではない。
たとえどちらかが死んでも、負けはしないという確信めいたものがあるからだ。

108以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/20(月) 04:13:56 ID:aK3TyYNI0

数の上では有利なこちらだが、それでも、臆することなくククリナイフを携えるこの男は、
やはり明らかな凄腕。依然こちらへ牙を向いてくるのも、プロの暗殺者としてのプライドだ。

だからこそ、自分やデルタの命が脅かされるたった僅かなリスクも、見過ごす事は出来ない。
現在の盗賊ギルドの支柱として欠いてはならない存在は、自分よりもデルタの方なのだ。

フォックスやデルタにとって、もはや故郷と言ってもいいこの街の人々。
今は貧しさに身を寄せ合うこの街の皆が、いつか笑って暮らせるようにしたかった。
だからこれから、リュメの盗賊ギルドはより成長し、発展に貢献しなければならない。

豪族気取りのゴードン=ニダーランなんかに今ここで自分達の尻尾が捕まえられて
しまえば、その日々が訪れるのも遠い先の事になってしまうだろう。

いつしか自分達の中に生まれていた、故郷を想うという気持ち。

それは、貧民窟で置き去りにしてしまった親達の姿を、
圧制に苦しむ街の人々に投影していたからなのかも知れない。

男が、やがて長らくつぐんでいた口を開いた。

('A`)「まぁ、悪くない」

内心、聞きたかったその言葉。

しばしの長考の後、男はそう言ってククリナイフをふところへしまった。
リスクとプライド、そして金を天秤に掛けて、納得がいくだけの交渉内容だったようだ。

爪'ー`)y-「ご納得、頂けたかな?」

109以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/20(月) 04:14:21 ID:aK3TyYNI0

('A`)「ま、いいだろう……交渉成立だ」

爪'ー`)y-「そうか。なら確認だ………”俺達はここから無事に逃がしてもらう”」

爪'ー`)y-「そして、”ここで起きた本当の出来事の他言は一切無用”」

(;"ゞ)「………!」

デルタがフォックスの肩をぐっと手で掴み、強い視線を投げかけていた。
だが、フォックスはそれを意図して無視し続ける。

('A`)「ま……いいだろう。こっちもさっきの獲物を取り逃がした損失を埋められるしな」

('A`)「だが、こちらにも条件がある」

('A`)「俺はあと二日間、このリュメで滞在するつもりだ。その間に一度でも
   この街でお前の姿を見かけたなら、確実に殺す……いいか?」

爪'ー`)y-「解ってる、さっきも言っただろ?今夜の内に行方を眩ますさ」

('A`)「それでいい。依頼人に俺が話す言葉と矛盾が生じては、信用も失墜するからな」

('A`)「それと、お前さんに対しての個人的な感情だが」

今まで殺意を向けてきた相手が、一時的に敵では無くなる事への安堵か、
自分の中で張り詰めていた部分を逃がすかのように、フォックスは大きくため息を漏らした。

爪'ー`)y-「これで話は終いだな……さて、どこかへ行ってもらえるか?」

「やれやれ……」と、男もまたため息をつくと、部屋の入り口の脇へと逸れて、
そのまま腕を組みながら壁に背をもたれた。顎を引いて合図を指し示し、通行しろと促す。

110以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/20(月) 04:14:51 ID:aK3TyYNI0

('A`)「背中にナイフを突き立てられたらかなわんからな……先に行け」

爪'ー`)y-「なるほど…でもまぁ、さすがにそんな卑劣なマネはしないけどな」

('A`)「盗人がよく言うぜ…」

何事もなかったように、フォックスは前だけを見て出口へと歩く。
かたやデルタは警戒を完全に取り払う事なく、半身になりながら男の目を睨みつける。

男とすれ違う瞬間、ぼそりと一言だけ呟いた。

('A`)「ドクオ」

爪'ー`)y-「?」

('A`)「俺の名前だ。いつかどこかで会う事があれば、殴られた礼はする」

爪'ー`)y-「───あんた、根に持つタイプだろ」

互いに一言だけ交わすと、視線を合わせる事も無く
正面のドアを押し開け、堂々と外へ出た。

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111以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/20(月) 04:15:49 ID:aK3TyYNI0

地面を踏みしめて久々の外気に触れると、火照った生傷の部分に痛みを感じる。
この小さな倉庫の中で繰り広げられた戦闘が嘘のように、外の世界はただ日常だ。

そして、デルタがフォックスへと詰め寄る。

(;"ゞ)「お頭……本気ですかい!?どうするつもりなんです、これから」

爪'ー`)y-「どーするもこーするも、あいつ絶対どっかの暗殺ギルドの奴だぜ?」

爪'ー`)y-「約束守らなきゃ、俺が暗殺されちゃうよ」

(;"ゞ)「って、無茶苦茶言い出したのはお頭じゃないですか!」

( "ゞ)「またなんだって、こんなこと……」

ぶつぶつと文句を垂れるデルタの様子から、やはり相当な不満が見て取れる。

”お前を失えないからさ”そう思ってはいても、おどけて適当にはぐらかす。
言葉を掛けても、かえってデルタ自身に重圧を掛けてしまう事になるだろう。

爪'ー`)y-「まぁ、マイナス450spの思わぬ赤字になっちまったけど…」

(# "ゞ)「お頭……?大半はあっしの金ですからね」

爪'ー`)y-「いやぁ、まぁ、お互いに転機じゃない」

爪'ー`)y-「とりあえず俺は、しばらく旅に出るさ……道すがらで、
     昼間の酒呑み話みたいな事があったら面白ぇなぁとか思いつつ」

112以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/20(月) 04:16:25 ID:aK3TyYNI0

( "ゞ)「ふぅむ、まだ腑に落ちやせんが、当て所ない旅はいいですねぇ。あっしも───」

( "ゞ)「………と、言いたいのはやまやまなんすが、今回みたいな事が無いように、
    ウチの奴らをまだまだしっかり面倒見ないといけやせん」

爪'ー`)y-「解ってんじゃんか、デルタ。自分がギルドにとって必要な人材だって事をさ」

( "ゞ)「………留守の間、街の皆の事はあっしに任せて下さい」

爪'ー`)y-「おう、頼もしいな。ま、ほとぼりの冷めた頃に帰って来るよ」

爪'ー`)y-「ゴードンの親父の土地を店ごと買い上げられるぐらいの金を持って、さ」

爪'ー`)y-「じゃあ、ここでお別れだ」

街の西口で、交易都市ヴィップへと続く道と、ギルドのアジトへと続く道。
枝分かれした岐路で、二人はやがて立ち止まった。

( "ゞ)「ひとまずは、どちらへ?」

爪'ー`)y-「まずはヴィップでも目指すさ」

( "ゞ)「二日の道のりですぜ……文無しでですかい?」

デルタの心配も尤もだ。街へ着いても、野垂れ死んでは元も子も無い。

だが、その心配をよそに、フォックスは胸元からそっと何かを取り出した。
月光を受けて光輝く宝石、それは大粒の翡翠だ。

持っていく所へ持って行けば、200spは下らぬであろう。

113以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/20(月) 04:16:52 ID:aK3TyYNI0

爪'ー`)y-「道中で行商人とでも出くわしたら、こいつを安値で捌くさ」

( "ゞ)「ヘヘッ、抜け目ねぇなあ…」

翡翠を懐へしまい、くるりと背を向けたフォックスは、
ニ、三度後ろ手に手を振ると、深い暗闇が包む森の奥へと消えていく。
その背中が見えなくなるまで、デルタはその場所で見送っていた。

( "ゞ)「……お元気で……!」

最後にその背中に声をかけると、自らもすぐに踵を返し帰路へと着く。
あまりに唐突に、呆気なく訪れた別れ。だが、またいつか会える。
その確信があるから、変に湿っぽい別れ方だけは避けた。

いずれフォックスがリュメに帰ってくる時の為、部下達をまとめ、鍛え上げる。
この時すでに、ギルドと街の繁栄の為に注力しようという意志が固まっていた。

たとえフォックスが居なくても、やっていく。
その決意が、彼の足取りにも現れていた。

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114以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/20(月) 04:17:25 ID:aK3TyYNI0

暗い森を往く。
持っている物といえば、一振りのナイフと、大粒の翡翠。

爪'ー`)y-「”冒険者”って響き……悪い気はしないね」

だが、自然とその足取りは軽い。
妙な開放感に期待ばかりが膨らみ、不思議と旅への不安は無かった。

爪'ー`)y-「大陸全土を股にかけて冒険たぁ、ロマンがあって結構結構」

爪'ー`)y-「さぁて。風の向くまま、気の向くまま……ってね」

20と数年の歳月を生きてきて、初めて臨む自分一人だけの冒険の旅路。
フォックスは、今その生まれて初めての経験が生む期待に、心を躍らせていた。

デルタや街の皆としばらく会えない寂しさがあるといえば嘘になる。
だが、それ以上に生まれてからこれまで、貧民窟、そしてリュメの街しか知らない
閉塞的な生活を送ってきた彼にとって────

───街からの一歩を踏み出した風景は、目の前の何もかもが新鮮に彩られていた。

115以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/20(月) 04:19:01 ID:aK3TyYNI0
   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

            第0話(3)

          「力無きゆえに」


             ─了─


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